説明

開口容易缶蓋のタブおよびタブの成形方法

【課題】指掛かり部の指滑りを防止し得る開口容易缶蓋のタブを提供する。
【解決手段】蓋体10のスコア11によって囲まれる開口予定部12外にリベット部13によって固定される固定部2と、固定部2に対してスコア11を越えて開口予定部12に被さるように延びるタブ先端部3と、固定部2に対してタブ先端部3と反対方向に蓋体上面に沿って延びる把持部4とを備え、把持部4の後端部が開口操作時の指掛かり部5となる構成の開口容易缶蓋のタブにおいて、指掛かり部5裏面に滑り止め用スコア6を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール等の飲用缶の開口容易缶蓋に用いられるタブに関し、特にステイオンタイプのタブおよびその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のステイオンタイプのタブは、蓋体に刻設されたスコアによって縁取られた開口予定部外にリベット部によって固定される固定部と、固定部に対してスコアを越えて開口予定部内に延びるタブ先端部と、固定部に対して開口予定部と反対方向に延びる把持部とを備え、把持部の後端部が開口操作時の指掛かり部となっている。この指掛かり部に指を掛けて把持部を上方に持ち上げ、てこ作用によってタブ先端部によって開口予定部を押圧することにより、スコアを初期破断部から終端に向けて連続的に破断し、破断した開口片をヒンジ部にて屈曲させて缶内に折り込む構造となっていた。
【0003】
しかし、タブは蓋体上面に沿って延びる平らな形状で、タブ後端の指掛かり部と蓋体上面の隙間も小さいために、持ち上げ初期には指が指掛かり部に僅かに引っ掛かる程度で、指が滑って持ち上げにくく、缶を開けづらい。特に、ビール等の冷えた飲料缶の場合、指掛かり部表面が結露して水滴が付着しているために、指が滑りやすく、指掛かり性が一層悪くなるという問題があった。
【0004】
このような指掛かり性を改善する方法としては、たとえば、特許文献1に記載のように、開口補助部材を取り付けたものが提案されている。
この開口補助部材は、タブの把持部である指掛けリング上面に係止部を介して板状部を固定し、板状部の後端をタブの後端より高い位置で後方に突出させ、この突出部に指を掛けるようにして、タブを持ち上げやすい構造としたものである。また、突出部の突出方向先端面には、滑り止めのための凹凸が設けられている。
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、基本的に、開口補助部材の分だけ部品点数が増大すると共に、開口補助部材を取り付ける工程も増大し、生産性が悪いという問題がある。
また、滑り止めのための凹凸が設けられているといっても、この凹凸が滑り止めとして有効なのは、突出部の先端面に指を押し当てて指先を突出部裏面に引っ掛けるまでの段階と思量され、指先が突出部の裏面に引っ掛かって持ち上げ始めると、力は突出部裏面との接触部に集中し、指先突出部先端面側は浮き気味となって滑り止めとして機能しない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−276733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、補助部材を用いることなく、指掛かり部の指滑りを効果的に防止し得る開口容易缶蓋のタブおよびその成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、蓋体に刻設されるスコアによって縁取られた開口予定部外にリベット部によって固定される固定部と、固定部に対してスコアを越えて開口予定部内に延びるタブ先端部と、固定部に対してタブ先端部と反対方向に蓋体上面に沿って延びる把持部とを備え、把持部の端部が開口操作時の指掛かり部となる構成の開口容易缶蓋のタブにおいて、指掛かり部裏面に滑り止め用凹凸部を設けたことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、滑り止め用凹凸部をスコアによって構成したことを特徴とする。
請求項3に係る発明は、把持部は指掛かり部を部分的に高くしたチップアップ構造となっていることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明は、蓋体に刻設されたスコアによって縁取られた開口予定部外にリベット部によって固定される固定部と、固定部に対してスコアを越えて開口予定部内に延びるタブ先端部と、固定部に対して開口予定部と反対方向に延びる把持部とを備え、把持部の後端が開口操作時の指掛かり部となる構成で、指掛かり部裏面に滑り止め用スコアを設けた開口容易缶蓋のタブであって、
前記把持部は指掛かり部を部分的に高くしたチップアップ構造で、前記指掛かり部をチップアップ構造に成形する金型にスコア形成用の刃部を設け、指掛かり部の型成形と同時に指掛かり部裏面に滑り止め用スコアを刻設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、指掛かり部裏面に滑り止め用凹凸を設けたので、開口時にタブを持ち上げる際に、結露によって水滴が付着しているような場合でも、指先が指掛かり部裏面の凹凸部に引っ掛かり、指滑りを抑制することができ、容易に開口することができる。
請求項2に係る発明によれば、滑り止め用凹凸部をスコアによって構成したので、凹凸の加工が容易となる。
請求項3に係る発明によれば、指掛かり部を部分的に高くしたチップアップ構造となっているので、滑り止め用凹凸部の構成と相俟って指掛かり性がより一層向上する。
【0010】
請求項4に係る発明の開口容易缶蓋のタブの成形方法によれば、指掛かり部をチップアップ構造に成形する金型にスコア形成用の刃部を設け、指掛かり部の型成形と同時に指掛かり部裏面に滑り止め用スコアを刻設するようにしたので、特別な滑り止めの用スコアを成形する工程が不要で、簡単に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1(A)は、本発明の実施の形態に掛かるタブを備えた開口容易缶蓋を示している。
すなわち、この開口容易缶蓋100は、スコア11によって縁取られた開口予定部12を備えた蓋体10と、この蓋体10の上面にリベット部13によって固定されたスコア破断用のステイオンタイプのタブ1とを備えている。
蓋体10は、円板状のパネル部14と、このパネル部14の周縁に環状溝15を介して上方に立ち上がるチャックウォール部16と、このチャックウォール部16から外側に向かって延びて缶本体の巻締めフランジ(不図示)と共に巻き締められる巻締めカール部17と、を備えている。開口予定部12はパネル部14の中央に突設されたリベット部13付近から周縁に向けて舌状に延びる形状で、その周縁を縁取るスコア11によって構成されている。パネル部14には、スコア11とタブ1を取り囲むように段差18が設けられている。
【0012】
タブ1は、蓋体10の開口予定部12外にリベット部13によって固定される固定部2と、この固定部2に対してスコア11を越えて開口予定部12内に延びるタブ先端部3と、固定部2に対して開口予定部12と反対方向に延びる把持部4とを備え、把持部4の後端部が開口操作時の指掛かり部5となっている。
タブ1は略小判形状で、平板状のタブ板部101の外周縁に、図1(B)に部分的に示すように、裏面側に折り返されたカール部102を全周的に設けて高剛性化が図られている。タブ1の外周は、互いにほぼ平行に直線的に延びる左右側辺部1a,1bと、左右側辺部1a,1bの前端部を連結する円弧状の前端辺部1cと、左右側辺部1a,1bの後端部を円弧状部1e,1eを介して連結する直線状の後端辺部1dとを有している。タブ1の形状は小判形状に限定されるものではなく、たとえば左右側辺部が曲線状となる楕円形状等、他の形状でもよい。
固定部2はリベット部13よって蓋体10に固着される部分で、タブ1の前端辺部1cと後端辺部1dを二等分する中心線N上で前端辺部1c側に片寄った部分に設けられる。固定部2には不図示のリベット孔が設けられ、蓋体10から突設されるリベット部13が差し込まれてリベット結合される。固定部2は蓋体10上面に固着される部分がタブ板部101上面から一段くぼんだくぼみ面21となっている。また、リベット部13に対して後端辺部1d側にはリベット部13の後方と左右側方を囲むようにU字状あるいは円弧状に湾曲する形状の透孔22が設けられている。
【0013】
タブ先端部3は、固定部2より前方に位置する円弧状の前端辺部1cに沿った部分であり、カール部102によって高剛性化が図られ、スコア破断時に蓋体10の開口予定部12を下方に押圧する。
把持部4は、タブ板部101の透孔22よりも後方に延びる部分であり、指掛け孔41が設けられている。この指掛け孔41は、タブ中心線Nに対して直交する前孔辺部41cと後孔辺部41dが直線状で、タブ1の後端辺部1dと平行に延び、この前後孔辺部41c,41dの左右両端部を連結する左右孔辺部41a,41bが円弧状に成形され、把持部4全体として指掛け孔41を取り囲むリング状を呈してる。この指掛け孔41の周縁にも、裏面側に折り返されたカール部42が全周的に設けられ、高剛性化が図られている。
【0014】
把持部4の後端部は後端辺部1dから左右の円弧状部1e,1eも含まれるが、この実施の形態では、直線状の後端辺部1dと指掛け孔41の後孔辺部1dの間の幅狭部分が指掛かり部5となっている。この指掛かり部5の裏面側には、タブ1の後端辺部1dに沿って設けられたカール部102と、指掛け孔41の後孔辺部41dに沿って設けられたカール部42が存在し、これらカール部102,42の下面が指掛かり部裏面5Aを構成する。カール部102とカール部42の間は隙間51があってもよいし、密接していてもよい。
【0015】
指掛かり部5については、タブ板部101上面に対して平行に所定寸法だけ高くなったチップアップ構造となっている。図示例では、指掛かり部5の左右両端の屈曲部52,52を介して指掛かり部5が上方に突出する構成となっている。チップアップ加工の際に、指掛かり部裏面5Aのカール部102およびカール部42下面は圧縮されて平坦面となっている。チップアップ構造は、タブ板部101上面に対して、前端より後端を高くした前後方向に傾斜する構造としてもよい。
一方、蓋体10のパネル部14側には、指掛かり部5の後端直下から周縁の環状溝15の間に所定深さのくぼみ部19が設けられ、指掛かり部5を高くした構成と相まってより指が掛かりやすい構造となっている。
【0016】
指掛かり部裏面5Aを構成するカール部102,42の下面には、滑り止め用凹凸部としての滑り止め用スコア6が形成されている。
滑り止め用スコア6のパターンは、カール部102およびカール部42に跨ってタブ中心線Nに対して互いに反対側に傾斜する直線状の第1スコア61、第2スコア62を複数本刻設した構成で、図示例ではカール部102,42の隙間51位置にて第1スコア61と第2スコア62が交差し、カール部102とカール部42裏面にV字形状のスコアパターンが構成されている。スコアの深さはタブに用いられる板材の厚みに依存し、例えば板材としてアルミニウム板を用いた場合、板厚に対し10〜70%程度、好適には20〜50%程度、より好適には25〜35%程度の深さで刻設される。
【0017】
スコアパターンとしては、第1,第2スコア61,62の一方のみでもよいし、直線状ではなく曲線状としてもよく、滑り止め機能を果たす種々の形状パターンを採用可能である。また、滑り止め用スコア6を、前後のカール部42,102の両方に設けずに、後側のカール部102のみに設けてもよい。さらに、滑り止め用凹凸部としてはスコア構造に限定されるものではなく、滑り止めとなる凹凸形状であれば、その形状,構造は限定されない。
【0018】
図2には、このスコア加工する金型構造を模式的に示している。
すなわち、指掛かり部5をチップアップ構造に成形する金型として、スコア形成用の刃部211が形成されたダイ210と、ダイ210上のタブの指掛かり部5を圧縮するパンチ220とを有し、指掛かり部5をチップアップ成形すると同時に、ダイ210に設けられた刃部211によって指掛かり部5の裏面5Aに滑り止め用スコア6を刻設するようになっている。
滑り止め用スコア6の加工は、チップアップ成形後に加工してもよいし、チップアップ成形前に加工してもよい。また、タブ1のカール部成形前の素材の段階で加工しておいてもよい。
【0019】
上記構成の開口容易缶蓋のタブにあっては、指掛かり部裏面5Aに滑り止め用スコア6を設けたので、開口時にタブ1を持ち上げる際に、結露によって水滴が付着しているような場合でも、指が指掛かり部裏面5Aの滑り止め用スコア6に引っ掛かり、指滑りを抑制することができ、容易にタブ1を持ち上げて開口することができる。
特に、指掛かり部5は部分的に高くしたチップアップ構造となっているので、滑り止め用スコア6の構成と相俟って指掛かり性がより一層向上する。
なお、この実施例では指掛かり部を部分的に高くしたチップアップ構造のタブを例にとって説明したが、指掛かり部を高くしていないタイプのタブについても同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係るタブが固定された開口容易缶蓋を示すもので、同図(A)は開口前の状態の平面図、同図(B)は同図(A)のタブの部分拡大裏面図、同図(C)は指掛かり部の概略拡大断面図である。
【図2】図2は図1のタブの指掛かり部に滑り止め用スコアを加工する金型構造例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 タブ
101 タブ板部
102 カール部
1a,1b 左右側辺部
1c 前端辺部
1d 後端辺部
2 固定部
21 くぼみ面
22 透孔
3 タブ先端部
4 把持部
41 指掛け孔
41a,41b 左右孔辺部
41c 前孔辺部
41d 後孔辺部
42 カール部
5 指掛かり部
5A 指掛かり部裏面
51 隙間
52 屈曲部
6 滑り止め用スコア (滑り止め用凹凸部)
61 第1スコア、62 第2スコア
10 蓋体
11 スコア
12 開口予定部
13 リベット部
14 パネル部
15 環状溝
16 チャックウォール部
17 巻締めカール部
18 段差
19 くぼみ部
100 開口容易缶蓋
210 ダイ
211 刃部
220 パンチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋体に刻設されたスコアによって縁取られた開口予定部外にリベット部によって固定される固定部と、該固定部に対してスコアを越えて開口予定部内に延びるタブ先端部と、前記固定部に対して開口予定部と反対方向に延びる把持部とを備え、該把持部の後端が開口操作時の指掛かり部となる構成の開口容易缶蓋のタブにおいて、
前記指掛かり部裏面に滑り止め用凹凸部を設けたことを特徴とする開口容易缶蓋のタブ。
【請求項2】
滑り止め用凹凸部はスコアによって構成される請求項1に記載の開口容易缶蓋のタブ。
【請求項3】
把持部は指掛かり部を部分的に高くしたチップアップ構造となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の開口容易缶蓋のタブ。
【請求項4】
蓋体に刻設されたスコアによって縁取られた開口予定部外にリベット部によって固定される固定部と、該固定部に対してスコアを越えて開口予定部内に延びるタブ先端部と、前記固定部に対して開口予定部と反対方向に延びる把持部とを備え、該把持部の後端が開口操作時の指掛かり部となる構成で、該指掛かり部裏面に滑り止め用スコアを設けた開口容易缶蓋のタブであって、
前記把持部は指掛かり部を部分的に高くしたチップアップ構造で、前記指掛かり部をチップアップ構造に成形する金型にスコア形成用の刃部を設け、指掛かり部の型成形と同時に指掛かり部裏面に滑り止め用スコアを刻設することを特徴とする開口容易缶蓋のタブの成形方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−126157(P2007−126157A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318008(P2005−318008)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】