説明

開閉弁付カップラー

【課題】互いに突き合わされて嵌合させるコネクターにおける当接・嵌合する部分の寸法を設定することにより開弁および閉弁を確実に行わせることのできるカップラーを提供する。
【解決手段】一方のコネクター2は、先端が開口した円筒部20の後方に設けられたシリンダー23の中心軸線に沿って後退移動することにより開弁する弁体26と、その弁体26を押圧する弾性部材30とを備え、他方のコネクター1は、前記円筒部20に挿入されて弁体26を軸線方向に押圧するようにハウジング4の内部に設けられた固定軸5と、その固定軸5と同一軸線上に設けられ前記円筒部20の先端部に当接して押圧されることによりハウジング4の内部に後退移動させられて固定軸5に形成された流路8,9をハウジング4の内外を連通させるように開口させるピストン10と、そのピストン10を押圧する他の弾性部材11とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、供給側と受容側とのコネクターを連結することにより、少なくとも一方のコネクターに設けられた弁体が開いてそれぞれのコネクターの流路を連通させるように構成されたカップラーに関し、特にメタノール燃料電池のカートリッジ容器と燃料電池本体との間に設けられるカップラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体燃料をエネルギー源とする機器においては、従来、機器の運転や使用に伴って減少する燃料などの液体を補充する必要がある場合も多く、機器本体側に設けた容器にカートリッジ容器を連結して燃料などの液体を移して供給したり、容器本体側の容器と別の容器を付け替えて供給することが行われている。
【0003】
このような容器同士の連結や容器の付け替えを簡単にするため着脱可能な種々のカップラーが用いられている。例えば、特許文献1に記載された装置は、ソケットとプラグとのそれぞれに弁体が設けられており、それらの弁体は、その背後(軸線方向での後側)に配置されたスプリングによってハウジングの内壁をガイドにして弁座に対して押圧されるように構成され、かつその弁座に接触する部分より先端側に突出した操作部などの突出部を備えている。したがって、ソケットとプラグとを嵌合させると、それぞれの弁体における突出部が当接した後、スプリングの弾性力に抗してハウジングの内壁をガイドにして弁体が後退して弁座から離れ、開弁する。これとは反対に、プラグをソケットから抜き取る場合、両者の嵌合深さが次第に浅くなるのに従って、それぞれの弁体がスプリングに押されてハウジングの内壁をガイドにしてそれぞれの弁座に向けて移動し、弁座に接触して閉弁するのと同時に各弁体における突出部同士の接触が解除され、かつプラグとソケットとの嵌合が外れる。
【0004】
また、特許文献2には、プラグとソケットとのそれぞれに、互いに当接させられる円筒状の部材と、その円筒状部材の中心部に配置されかつ互いに当接される軸状の部材とを設け、それぞれの円筒状部材と軸状部材との先端部に弁座およびその弁座に密着させられる弁体とを形成し、一方の円筒状部材は他方の円筒状部材に押されて弾性部材を圧縮しつつ後退し、その後退移動可能な円筒状部材と共に弁機構を構成している一方の軸状部材は後退移動しないように固定した構成とされ、これとは反対に前記後退移動可能な円筒状部材を押圧する他方の円筒状部材は固定された構成とされ、かつこの固定された円筒状部材と共に弁機構を構成する他方の軸状部材は、前記固定された一方の軸状部材に押圧されて弾性部材を圧縮しつつ後退移動するように構成された連結装置が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、中心軸線に沿って貫通孔が形成されたピン部材の後端部に、Oリングが嵌合されることにより前記貫通孔を流路に対して封止された蓋状部材が取り付けられ、そのピン部材およびこれと一体の蓋状部材を圧縮スプリングによって先端側に押圧した一対のバルブを有するカップラー構造が記載されている。この特許文献3に記載された構成では、それぞれのピン部材の先端部同士を当接させるように連結することにより、ピン部材およびこれと一体の蓋状部材が圧縮コイルスプリングを圧縮しつつ後退移動し、その結果、蓋状部材の外周面に形成されたスリットがOリングを越えて移動し、そのスリットによってOリングを境にした上下両側の流路もしくは空間部を連通させ、開弁する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−057007号公報
【特許文献2】特開2003−172487号公報
【特許文献3】特開2009−222125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1に記載された装置では、各弁体がそれぞれのハウジングの内壁をガイドにして開閉方向に移動するため、弁体の外径とハウジングの内径の嵌め合いの調節が必要で、嵌め合いが弱いとスプリング側にメタノールが侵入する。このようにして侵入したメタノールが金属と接触すると、溶出した金属イオンが、アノード側で発生した水素イオン(プロトン)が移動するはずの場所を先に占有してしまって水素イオンの移動量を減少させ、アノード側反応速度を低下させ、その結果、燃料電池としての機能を低下させてしまう。
【0008】
また、逆に嵌め合いが強すぎると、弁体の開方向の移動は、嵌合連結の人力で移動は可能だが、嵌合を解除したとき、スプリングの弾性力では弁体が初期位置に復帰しなく、流路が開いた状態でカ一トリッジ容器が取り外されてしまうという課題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載されている装置では、ソケットにおける弁体を押圧するスプリングの弾性力とプラグにおける弁体を押圧するスプリングの弾性力との強弱の関係に応じて、開弁する順序を設定している。具体的には、容器本体側の弁体を押圧しているスプリングの弾性力を相対的に弱くしてその弁体を先に開弁させ、かつ遅れてメタノール容器側が開弁するように構成している。そのため、ソケット側のスプリングとプラグ側のスプリングとのいずれか一方の弾性力を調整する場合、弾性力の強弱関係が反転しないように、またその弾性力の差、もしくは比が変化しないように他方のスプリングの弾性力をも調整する必要があり、弾性力の調整が面倒であるばかりか、スプリングもしくはその弾性力の選択の自由度が制限されるなどの課題がある。
【0010】
これに対して特許文献2に記載された連結装置は、プラグおよびソケットとの一方における固定された部材によって他方の可動部材を押圧することにより開弁するように構成されているので、プラグおよびソケットのそれぞれにおけるスプリングの弾性力を調整する必要は特にはない。しかしながら、特許文献2に記載された構成では、弁体を弁座に押し付けて閉弁するように構成されているので、確実に閉止するためにはスプリングの弾性力をある程度強くする必要があり、そのため連結操作に大きい力を必要としたり、弁座の摩耗が進行しやすいなど耐久性が不十分になる可能性がある。また、プラグおよびソケットのそれぞれにおける可動部材と固定部材とを互いに当接させて更に押圧すると、プラグおよびソケットのそれぞれが同時に開弁してしまい、燃料容器側と機器本体側との弁の開閉に順序を与えることが困難である。
【0011】
さらにまた、特許文献3に記載されたカップラー構造では、弁体を弁座に押し付けて閉弁する構成ではないので、閉弁のための弾性力を強くする必要が特にはなく、したがって弁座の摩耗などの課題は特には生じないが、ピン部材同士を当接させて、それぞれのピン部材を押圧している弾性力に応じていずれか一方のピン部材が後退した後に他方のピン部材が後退して開弁するように構成されているから、それぞれのピン部材を押圧している弾性力を調整する必要があるなど、上記の特許文献1に記載された装置における課題と同様の課題がある。
【0012】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、耐久性に優れ、金属と接触させずに液体などを供給したり、取り出したり、あるいは容器ごと交換することができる開閉弁付カップラーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、供給側コネクターと受容側コネクターとを相互に嵌合させることにより開弁して供給側コネクターに形成されている供給側流路と受容側コネクターに形成されている受容側流路とを連通させる開閉弁付カップラーにおいて、前記供給側コネクターと受容側コネクターとのいずれか一方のコネクターは、先端が開口した接続用円筒部と、その接続用円筒部の後方に設けられたシリンダーと、そのシリンダーの中心軸線に沿って往復動可能に設けられるとともに後退移動することにより開弁する軸状の弁体と、その弁体の先端部と該先端部より後端側の部分の外周面とに開口するように前記弁体を貫通して形成された流路と、前記弁体の外周面に液密状態に密着し前記弁体が弾性力によって押圧されて前進端に位置する状態では前記流路における前記後端側の外周面に開口する開口部を前記シリンダーの内部に対して遮蔽しかつ前記弁体が後退移動した場合に前記開口部をシリンダーの内部に開口させるシールリングと、前記弁体を前記接続用円筒部の開口端側に押圧する前記弾性力を発生する弾性部材とを備え、前記供給側コネクターと受容側コネクターとの他方のコネクターは、前記一方のコネクターを接続するように開口したハウジングと、前記接続用円筒部に挿入されて前記弁体を軸線方向に押圧するようにハウジングの内部に設けられた固定軸と、その固定軸の後端部側で前記ハウジングの内部に開口するとともに前記固定軸の先端部側で前記固定軸の外周面に開口するように前記固定軸を貫通して形成された他の流路と、前記固定軸と同一軸線上に設けられ前記接続用円筒部の先端部に当接して押圧されることにより前記ハウジングの内部に後退移動させられて前記固定軸に形成された流路を前記ハウジングの内外を連通させるように開口させるピストンと、前記固定軸の外周面に密着するように前記ピストンの内周面に取り付けられかつ前記ピストンが前進端に位置する状態では前記他の流路における前記固定軸の外周面に開口する他の開口部を前記ハウジングの外部に対して遮蔽するとともに前記ピストンと共に後退移動することにより前記他の開口部を前記ハウジングの外部に対して開口させる他のシールリングと、前記ピストンを前記ハウジングの開口端側に押圧する他の弾性部材とを備えていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記接続用円筒部の先端部と該先端部に当接する前記ピストンの端部との間に、これら先端部と端部との間を液密状態に維持するシール材が設けられていることを特徴とする開閉弁付カップラーである。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記ハウジングの先端部の内周面に軸線方向に沿う縦溝が形成され、かつそのハウジングの先端部に挿入される前記接続用円筒部の先端部の外周面に、回転方向での位置が前記縦溝に一致することにより前記縦溝に噛み合う凸部が形成され、前記接続用円筒部の先端部を前記ハウジングの先端部に挿入して前記凸部が前記縦溝を通過した状態で、前記接続用円筒部と前記ハウジングとを相対的に回転させて前記凸部を前記ハウジングに係合させて抜け止めするように構成されていることを特徴とする開閉弁付カップラーである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、供給側コネクターと受容側コネクターとを相互に嵌合させると、そのいずれか一方に設けられている接続用円筒部の外側に、他方に設けられているコネクターリングが入り込み、同時にその接続用円筒部の内部に固定軸が入り込む。その状態で、より深く入り込むと固定軸の端面が弁体の端面に当接し、これを軸線方向に押圧して開弁する。このように、開弁のために弁体に外力を及ぼす箇所は、弁体の端面であるから、液密状態を維持する部分の損傷を回避し、耐久性を向上させることができる。また、開弁は、各コネクターを嵌合させる深さに応じて生じ、各コネクターにおける弾性力によらないので、設計・製造もしくは調整が容易である。また、弁体やピストンの位置に応じて開閉状態を切り替えるように構成されているから、閉弁状態を維持するために大きい弾性力を必要とすることはなく、したがって連結操作が容易で液漏れのおそれのないものとすることができ、さらには開閉の順序を容易に設定することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、各コネクターを接続して開弁させた状態では、接続用円筒部とピストンとの当接部分が液密状態に維持され、その結果、互いに連通している各コネクターの内部が外部に対して遮蔽されるので、液漏れを確実に防止することができる。
【0018】
さらに、請求項3の発明によれば、前記凸部が相手方のハウジングに係合するので、各コネクターを接続した状態を容易に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係る開閉弁付カップラーの一例を示す断面図である。
【図2】そのプラグとソケットとの連結初期の状態を示す断面図である。
【図3】そのプラグとソケットとを更に深く嵌合させた状態の断面図である。
【図4】プラグとソケットとの連結が完了した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1はこの発明に係るカップラーの一例を示す断面図であり、ここに示すカップラーは、一対のコネクター1,2を備えている。一方のコネクター1はこの発明における供給側コネクターに相当し、図示しない液体容器に取り付けられ、プラグと称することもできる。他方のコネクター2はこの発明における受容側コネクターに相当し、燃料電池などの図示しない機器本体に取り付けられ、ソケットと称することもできる。
【0021】
一方のコネクター(以下、仮にプラグと称す)1の構成について説明すると、ノズル3の先端部に取り付られたハウジング4を備えており、このハウジング4は円筒状の部材であって以下に述べる外装体としても機能している。このハウジング4の中心部には固定軸(以下、仮にバルブシャフトと記す)5が取り付けられている。すなわち、前記ハウジング4における開口端とは反対側の端部における内径が小さくなっており、その内径の小さい部分にバルブシャフト5における一方の端部が嵌合して固定されている。このバルブシャフト5の中心軸線上には、ハウジング4の内径の小さい部分に嵌合している端部の端面(図における下部6)からハウジング4の開口端側の端部(図の上部7)に向かって、貫通しない流路8が形成されている。この流路8の図における上部7側の端部は、当該上部7から所定寸法後退した位置(図では下がった位置)にとどまっており、その所定寸法後退した位置に、前記流路8に直交する流路9が形成され、その流路9はバルブシャフト5の外周面に開口している。したがって、これらの流路8,9によって、バルブシャフト5の後方側端部(すなわちノズル3の内部)とバルブシャフト5の先端部側(図での上端部側)の外周面とが連通されている。
【0022】
前記ハウジング4のうち前記バルブシャフト5を嵌合させてある内径の小さい部分より上端側(先端部側)の内径は、バルブシャフト5の外径より十分大きくなっており、この内径の大きい部分に、ピストン10が収容されている。このピストン10は、ハウジング4の内周面に沿ってその軸線方向に前後動できる程度の外径で、かつバルブシャフト5の外径より十分大きい内径の円筒状の部材であり、その長さは、前記ハウジング4における内径の大きい部分の長さより十分短く、したがってピストン10は、ハウジング4の内部を軸線方向に所定の寸法の間、前後動できるようになっている。このピストン10をハウジング4の開口端側に押圧する付勢手段が設けられている。図に示す例では、この付勢手段は弾性体によって構成され、その弾性体の一例としてコイルスプリング11が採用されている。前述したように、ハウジング4の内径は、図の下部6側で小さくなっており、その内径が変化する箇所に端面が形成され、その端面とピストン10の端部との間にコイルスプリング11が圧縮状態で挿入され、その結果、ピストン10はコイルスプリング11によって図の上部7側に押圧されている。
【0023】
前記ピストン10の前記コイルスプリング11が接触している端部とは反対側の端部(図での上端部)からわずか下がった内周面に、内径が前記バルブシャフト5の外径より大きいフランジ部(もしくは突条)12が形成されている。したがってそのフランジ部12とピストン10の先端部との間に、ピストン10の内周面に沿った凹部が形成されており、その凹部に、平板状でかつ全体としてリング状をなすシール材(もしくはガスケット)13が嵌め込まれている。なお、このシール材の内径は、前述したフランジ部12の内径程度であって、厚さ方向に圧縮された場合であっても、その内周面が前記バルブシャフト5に接触せずに、バルブシャフト5の外周面との間に流路となる隙間が生じる内径に設定されている。
【0024】
さらに、ハウジング4の先端部(図での上端部)の内周側には、コネクターリング15が取り付けられている。このコネクターリング15は、最小内径が上記のシール材13の内径より僅かに小さい環状(リング状)の部材であって、ハウジング4に固定されている。その固定のための手段は、それぞれにネジを形成してコネクターリング15をねじ込む構成やしまり嵌めする構造など一般に知られている手段であってよく、図に示す例では、ハウジング4の内周面に凹部を形成し、コネクターリング15の外周面に形成した突部をその凹部に嵌め込んでコネクターリング15をハウジング4に取り付けている。したがって、上述したピストン10およびその先端部に取り付けた前記シール材13がコネクターリング15に当接してハウジング4に対して抜け止めされている。なお、コネクターリング15は、前述した他方のコネクター(ソケット)2を図1の下側に示す一方のコネクター(プラグ)1に連結するためのものであり、その連結のためにコネクターリング15の内周面には、軸線方向に沿った縦溝14が形成されている。
【0025】
上記のピストン10の内周部のうち前述したフランジ部12を挟んで前記シール材13とは反対側に、カラー16を挟んで二本のシールリング(より具体的にはOリング)17,17Aが配置されている。さらに、ピストン10の後端側には、ブッシュ18が挿入されている。各Oリング17,17Aは、バルブシャフト5の外周面とピストン10の内周面との間を液密状態に封止するためのものであり、したがってこれらのOリング17,17Aは、バルブシャフト5の外周面とピストン10の内周面とに液密状態を維持するように密着している。また、カラー16は、バルブシャフト5の外径より大きい内径の環状の部材であり、したがってバルブシャフト5の外周側に隙間が空いていてここが流路となっている。さらに、ブッシュ18は、バルブシャフト5の外径より大きい内径の円筒状の部材であって、ピストン10の内側に密着した状態に嵌合していてピストン10に固定されている。したがって、各Oリング17,17Aは、前記フランジ部12およびカラー16ならびにブッシュ18の間に挟み込まれた状態でピストン10の内部に保持されている。
【0026】
そして、バルブシャフト5に半径方向に向けて形成されている前記流路9は、ピストン10が前記コネクターリング15に当接する位置まで前進している状態で、各Oリング17,17Aの間に開口するように構成されている。言い換えれば、流路8,9はOリング17によって、ハウジング4の外部に対して閉じられている。
【0027】
つぎに、受容側コネクター(以下、仮にソケットと記す。)2の構成について説明する。ソケット2は、上述したピストン10をその軸線方向に押して後退させるように構成されており、したがってソケット2は、上述したハウジング4の内部に挿入される接続用円筒部20を備えている。この接続用円筒部20の先端部(図での下端部)は、前述したハウジング4の内部に挿入される接続用先端部22となっており、その最小外径は前述したコネクターリング15の最大内径とほぼ等しく、この外周面にはコネクターリング15に形成されている縦溝14に噛み合う軸線方向に沿った凸部21が形成されている。
【0028】
ソケット2における上記の接続用先端部22より後方側(図での上側)の部分は、接続用先端部22より外径および内径が大きいシリンダー23となっており、そのシリンダー23の側面には、機器本体あるいはカートリッジ(それぞれ図示せず)と接続するためのノズル部24が突出した状態に形成され、そのノズル部24の内部には、ノズル部24の先端から前記シリンダー23の内面に至る流路25が形成されている。
【0029】
上記の接続用円筒部20の内部には、その接続用円筒部20の軸線方向に沿って前後動する弁体26が収容されている。この弁体26は、前述した接続用先端部22の内径より小さい外径の軸状の部材であって、その後端部には、シリンダー23の内径よりわずかに小さい外径の大径部(もしくはフランジ部)28が形成されている。また、弁体26の外周面とシリンダー23の内周面との間を液密状態に封止する二本のシールリングすなわちOリング27,27Aが設けられている。前述したシリンダー23の内周面のうち前記流路25が開口している箇所には、カラー36が配置されており、そのカラー36を挟んだ軸線方向での両側にOリング27,27Aが配置されている。これらのOリング27,27Aは、弁体26の外周面とシリンダー23の内周面とに密着していて、これらの間を液密状態に維持している。なお、カラー36の内径は、弁体26の外径より大きく、またカラー36の外周面から内周面に貫通する貫通孔がカラー36に形成されており、したがって前記流路25はその貫通孔を介してカラー36の内周面、言い換えれば弁体26の外周面に連通している。
【0030】
また一方、シリンダー23の内部には、上記のカラー36との間に他方のOリング27を挟み込んだ状態でブッシュ37が嵌め込まれかつ固定されている。このブッシュ37は、上記の各Oリング27,27Aおよびカラー36をシリンダー23の内部に固定するとともに、弁体26の前進端位置(図では下端位置)を規定するためのものであって、前記弁体26の外径より大きくかつ前記大径部28の外径より小さい内径の環状の部材であり、シリンダー23の内部に挿入された状態でシリンダー23に対して固定されている。
【0031】
そして、接続用円筒部20の後端部(図での上端部)にカバーキャップ31が取り付けられており、そのカバーキャップ31と弁体26の後端面すなわち前記大径部28の端面29との間に、弁体26を前記接続用先端部22側に押圧する付勢手段が設けられている。図に示す例では、この付勢手段は弾性体によって構成され、その弾性体の一例としてコイルスプリング30が採用されている。
【0032】
さらに、弁体26のうち前記接続用先端部22の内部に延びている部分はいわゆる先端軸部32であって、その先端軸部32には先端面から先端軸部32の長さと同程度の長さの流路34が軸線方向に沿って形成されている。またこの流路34の端部で流路34に直交する流路35が先端軸部32に形成されており、この流路35は先端軸部32の外周面に開口している。この流路35の開口端の位置は、弁体26が図1に示す下端にまで押し下げられている状態で、カラー36に対して接続用先端部22側に配置されている前記Oリング27Aよりも先端軸部32の先端面側となるように構成されている。すなわち、弁体26が図1に示す下端にまで押し下げられている状態では、先端軸部32における流路34,35と前記ノズル部24における流路25とを、Oリング27Aによって遮断するように構成されている。また、先端軸部32の先端面は、弁体26が図1に示す下端にまで押し下げられている状態では、接続用先端部22の内部に後退して位置するように構成されている。
【0033】
さらに、先端軸部32の先端面には、流路34の開口端を通って当該先端面の周縁部に至る凹溝33が形成されている。この凹溝33は、先端軸部32の先端面が前述したバルブシャフト5の端面に当接している状態においても、流路34を弁体26の外周側に連通させるためのものであり、したがって、先端軸部32を半径方向に貫通する貫通孔に置き換えることができる。
【0034】
つぎに上述した図1に示す構成のカップラーの作用について説明する。なお、前述した各構成部材の軸線方向の長さは、以下に説明する作用が生じる長さにそれぞれ設定されている。図1は、プラグ1とソケット2とが離れていて両者が連結されていない状態であり、この状態では、プラグ1におけるバルブシャフト5の先端部はハウジング4の先端開口部側に露出した状態になっている。しかしながら、可動部材であるピストン10の先端面はバルブシャフト5とコネクターリング15とでリング状に開放しているが、バルブシャフト5の外周面とコネクターリング15の内周面とで形成されるリング状の隙間のリング幅が小さいため、プラグ1あるいはこれが取り付けられている容器を不用意に取り扱ったり、小児の悪戯などによって細いピンや軸状の部材が差し込まれても、ピストン10が直ちに押されることがない。すなわち、不用意に液が漏れ出すことが防止もしくは抑制される。
【0035】
カップラーを連結するためには、プラグ1とソケット2とを相互に軸線方向に接近させて嵌合させる。図2にその初期状態を示してあり、ソケット2の接続用先端部22の凸部21がプラグ1におけるコネクターリング15の縦溝14を案内にしてハウジング4内に挿入される。そして、バルブシャフト5の上部7に弁体26の先端部32が当接する。この図2に示す初期状態では、接続用先端部22と平板リング状のシール材13とは当接していない。
【0036】
図2の状態からプラグ1およびソケット2を更に深く嵌合させると、プラグ1に設けられているバルブシャフト5が、ソケット2側の弁体26に当接していて、その弁体26の後方にあるコイルスプリング30を圧縮しつつ弁体26を押圧して軸線方向に後退移動させる。この状態では、接続用先端部22と平板リング状のシール材13とが密接して液体流路内を液密状態に閉じる。すなわち、前述したバルブシャフト5や弁体26の外周側に形成されている流路としての隙間をハウジング4や接続用円筒部20の外部に対して遮断する。
【0037】
この状態から更に押圧すると、プラグ1におけるバルブシャフト5はハウジング4に連結されているのに対して、このバルブシャフト5に当接している前記弁体26はコイルスプリング30によって保持されているので、弁体26がコイルスプリング30を圧縮しつつ後退移動する(図の上側に移動する)。また、プラグ1におけるピストン10はコイルスプリング11によって保持されているのに対して、このピストン10にシール材13を介して当接している接続用先端部22はソケット2のハウジングを形成しているから、ピストン10は接続用先端部22に押されて後退移動する(図の下側に移動する)。
【0038】
その結果、先ず、弁体26の中心軸線に直交する流路35の開口端が、接続用先端部22側(図の下側)に配置されているOリング27Aを乗越えてカラー36の内周側に移動し、その流路35がカラー36に半径方向に向けて形成されている貫通孔を介して、ノズル部24における流路25に連通する。すなわち、ソケット2側の弁機構が開弁状態となる。その状態を図3に示してある。弁体26をこのように開弁させるための荷重は、弁体26の先端軸部32にバルブシャフト5の先端部が当接することにより作用し、弁体26のOリング27,27Aには荷重が作用しないのでOリング27,27Aの損傷や早期劣化などの不都合を回避することができる。そして、弁体26を開弁させる荷重は、プラグ1におけるいわゆる構造部分であるバルブシャフト5から作用するので、プラグ1におけるコイルスプリング11の弾性力には依存しない。
【0039】
他方、プラグ1においては、ピストン10がソケット2のいわゆる構造部分である接続用先端部22に押されて後退する。言い換えれば、流路8,9が形成されているバルブシャフト5が相対的に、ピストン10に対してその先端側に伸び出してくる。そのため、フランジ部12側に配置されて流路8,9を外部に対して遮蔽しているOリング17が、バルブシャフト5の半径方向に向けて形成されている流路9の開口端を越えて後退する。その状態を図4に示してある。すなわち、プラグ1とソケット2とを更に深く嵌合させて、接続用先端部22の凸部21がコネクターリング15の縦溝14を通過して外れた後、プラグ2を90度回転すると、縦溝14と凸部21とが噛み合わなくなって凸部21がコネクターリング15の図における下側の端部に引っ掛かって抜け止めされ、プラグ1とソケット2とが完全に連結され、その連結状態に保持される。この状態では、接続用先端部22が平板リング状のシール材13に当接してピストン10を押圧してピストン10を軸線方向に後退移動させているから、バルブシャフト5の中心軸線に直交した流路9がOリング17を乗越えてプラグ1側の弁機構が開弁している。したがって、この場合も、バルブシャフト5を開弁する荷重は、Oリング17,17Aに掛からずにピストン10に掛かるので、Oリング17,17Aの損傷や早期劣化などの不都合を回避することができる。そして、バルブシャフト5を開弁させる荷重は、ソケット2におけるいわゆる構造部分である接続用円筒部20から作用するので、ソケット2におけるコイルスプリング30の弾性力には依存しない。
【0040】
こうして、容器が機器本体に接続された状態では、プラグ1における流路8,9が、上記のOリング17をプラグ1の先端部側に越えた位置でバルブシャフト5の外周側に開口しており、またそのバルブシャフト5の外周側の隙間は、ソケット2における弁体26に形成されている流路34,35に凹溝33を介して連通し、さらにその流路34,35がカラー36における貫通孔を介してノズル部24における流路25に連通しているから、結局、容器と機器本体とのそれぞれの内部が連通する。したがって、容器からメタノールなどの液体が流路8,9を流れてバブルシャフト5とピストン10および接続用円筒部20の隙間ならびに弁体26の流路33,34,35を流れ、ノズル部24における流路25から機器本体に供給される。なお、その液体の供給は、容器側で液体を加圧して行ってもよく、あるいは、機器本体側で吸引して行ってもよい。なお、プラグ1とソケット2との連結を解く場合には、上述した操作と反対の順序で操作すればよい。
【0041】
この発明に係る上記カップラーでは、ソケット2側の弁体26が開弁した後にプラグ1におけるバルブシャフト5が開弁するように構成することができるので、プラグ1が取り付けられている容器から送り出された液体は、途中で滞ることなくソケット2に供給され、したがって液漏れや液だれを確実に防止することができる。しかも上述した構成では、開弁の順序をコイルスプリング11,30の弾性力の強弱によって決めずに、プラグ1およびソケット2の構造もしくは寸法によって決めるようになっているので、開弁の順序やタイミングに異常を来たすことを容易かつ確実に防止することができる。
【0042】
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、前述した各部分の構成の一部を変更してもよい。例えば、対象とする液体はメタノール以外の液体であってもよく、また機器本体は燃料電池に限られず、さらに、弾性体をコイルスプリング以外のものに変更し、シール材やOリングの数等を変更するなど、設計上の変更を行ってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…コネクター(プラグ)、 2…コネクター(ソケット)、 4…ハウジング、 5…バルブシャフト、 8,9…流路、 10…ピストン、 11…コイルスプリング、 13…シール材(もしくはガスケット)、 14…縦溝、 15…コネクターリング、 17,17A…シール材(より具体的にはOリング)、 20…接続用円筒部、 22…接続用先端部、 21…凸部、 23…シリンダー、 26…弁体、 27,27A…Oリング、 28…大径部(もしくはフランジ部)、 30…コイルスプリング、 32…先端軸部、 34,35…流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給側コネクターと受容側コネクターとを相互に嵌合させることにより開弁して供給側コネクターに形成されている供給側流路と受容側コネクターに形成されている受容側流路とを連通させる開閉弁付カップラーにおいて、
前記供給側コネクターと受容側コネクターとのいずれか一方のコネクターは、先端が開口した接続用円筒部と、その接続用円筒部の後方に設けられたシリンダーと、そのシリンダーの中心軸線に沿って往復動可能に設けられるとともに後退移動することにより開弁する軸状の弁体と、その弁体の先端部と該先端部より後端側の部分の外周面とに開口するように前記弁体を貫通して形成された流路と、前記弁体の外周面に液密状態に密着し前記弁体が弾性力によって押圧されて前進端に位置する状態では前記流路における前記後端側の外周面に開口する開口部を前記シリンダーの内部に対して遮蔽しかつ前記弁体が後退移動した場合に前記開口部をシリンダーの内部に開口させるシールリングと、前記弁体を前記接続用円筒部の開口端側に押圧する前記弾性力を発生する弾性部材とを備え、
前記供給側コネクターと受容側コネクターとの他方のコネクターは、前記一方のコネクターを接続するように開口したハウジングと、前記接続用円筒部に挿入されて前記弁体を軸線方向に押圧するようにハウジングの内部に設けられた固定軸と、その固定軸の後端部側で前記ハウジングの内部に開口するとともに前記固定軸の先端部側で前記固定軸の外周面に開口するように前記固定軸を貫通して形成された他の流路と、前記固定軸と同一軸線上に設けられ前記接続用円筒部の先端部に当接して押圧されることにより前記ハウジングの内部に後退移動させられて前記固定軸に形成された流路を前記ハウジングの内外を連通させるように開口させるピストンと、前記固定軸の外周面に密着するように前記ピストンの内周面に取り付けられかつ前記ピストンが前進端に位置する状態では前記他の流路における前記固定軸の外周面に開口する他の開口部を前記ハウジングの外部に対して遮蔽するとともに前記ピストンと共に後退移動することにより前記他の開口部を前記ハウジングの外部に対して開口させる他のシールリングと、前記ピストンを前記ハウジングの開口端側に押圧する他の弾性部材とを備えている
ことを特徴とする開閉弁付カップラー。
【請求項2】
前記接続用円筒部の先端部と該先端部に当接する前記ピストンの端部との間に、これら先端部と端部との間を液密状態に維持するシール材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の開閉弁付カップラー。
【請求項3】
前記ハウジングの先端部の内周面に軸線方向に沿う縦溝が形成され、かつそのハウジングの先端部に挿入される前記接続用円筒部の先端部の外周面に、回転方向での位置が前記縦溝に一致することにより前記縦溝に噛み合う凸部が形成され、
前記接続用円筒部の先端部を前記ハウジングの先端部に挿入して前記凸部が前記縦溝を通過した状態で、前記接続用円筒部と前記ハウジングとを相対的に回転させて前記凸部を前記ハウジングに係合させて抜け止めするように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の開閉弁付カップラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77801(P2012−77801A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221845(P2010−221845)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】