説明

間葉系幹細胞の骨化及び/又は軟骨化促進剤と骨化及び/又は軟骨化促進方法

【課題】 骨や軟骨の再生を促進することができる方法や薬剤等を提供すること。
【解決手段】 レクチンを有効成分として含む、間葉系幹細胞の骨化及び/又は軟骨化促進用薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞(MSC)の骨化及び/又は軟骨化促進方法及び促進用薬剤、培養MSC、骨形成及び/又は軟骨形成の促進用薬剤、人工培養骨または人工培養軟骨及びその製造方法、並びにこれらを利用した治療方法に関し、更に詳細には、レクチンを利用した間葉系幹細胞(MSC)の骨化及び/又は軟骨化促進方法及び促進用薬剤、レクチン培養処理MSC、レクチン利用した骨形成及び/又は軟骨形成促進用薬剤、レクチンを利用した人工培養骨または人工培養軟骨及びその製造方法、並びにこれらを利用した治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折、骨欠損等の骨疾患の治療においては、臨床的には自家骨が最も好ましい代替骨材料ではある。しかし、骨欠損部位が大きいケースで自家骨移植を用いるとドナー部位の侵襲が極めて大きくなるため、実際には、ハイドロキシアパタイトやリン酸カルシウム複合体などの代替骨材料が移植材料として用いられることが多い。例えば、骨粗鬆症等で脊柱が圧迫骨折した場合には人工椎体再建術によって人工骨が移植される。
【0003】
軟骨欠損、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患、軟骨損傷等の軟骨疾患の治療にも、人工材料による代替(例えば、人工関節置換術)が行われることが多い。
スポーツや事故により膝十字靭帯、膝関節外側側副靭帯や踵骨腱(アキレス腱)を損傷した場合は、人工靭帯を用いることが多い。
【0004】
これらの移植材が移植後にいったん分解・吸収され、生体と調和した骨組織や軟骨組織の再生が進むにはかなりの時間がかかるか、あるいは永久的に置換されないのが実情である。そこで、骨疾患、軟骨疾患等の治療において骨形成や軟骨形成を促進することが望まれている。
【0005】
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell、以下「MSC」とも記す)は、骨や軟骨に分化する能力をもつ細胞として知られており、これを骨組織や軟骨組織の再生に利用することが検討されている。MSCを介して生体局所の骨形成や軟骨形成を促進するためには、現在、骨形成タンパク(bone morphogenetic protein、BMP)の生体への適応が検討されているが、BMPの利用にはコストが高いという問題があった。
【0006】
レクチンとは糖と相互作用するタンパク質あるいは糖タンパク質で、細胞を凝集し、あるいは糖複合体を沈降させるが免疫学的産物で無いものをいう。Tリンパ球の活性化を介して、ある種のレクチンが骨膜などでの骨や軟骨の形成を促進することが報告されている(Wlodarski, Bone Histogenesis, No. 272, November, p.8-15, 1991; Wlodarski and Galus, Folia Biologica (Praha), vol. 38, P.284-292, 1992; Izbicka et al. Calcif. Tissue Int. 60, p.204-209, 1997)。またインゲンマメレクチンE 4 (Phaseolus vulgaris agglutinin の Erythroagglutinin タイプ、以下「PHA-E」と記す)が骨髄移植部における骨形成を増加させることも観察されていた(Simmons et al. Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 148, p.986-990, 1975)。タチナタ豆レクチン(コンカナバリンA(concanavalin A)、以下「ConA」と記す)は、軟骨細胞の基質合成を促進する(Yan et al., J. Biol. Chem. Vol. 265, No. 17, p.10125-10131, 1990)、ConAは軟骨細胞の肥大化と石灰化を促進する(Yan et al., J. Biol. Chem. Vol. 272, No. 12, p.7833-7840, 1997)等の報告がある。
【0007】
しかし、レクチンが間葉系幹細胞の骨分化誘導作用や軟骨分化誘導作用に与える作用については、現在まで特に検討されておらず、この作用を利用して骨や軟骨の再形成を促進する方法についても知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、骨疾患や軟骨疾患において骨や軟骨の再形成を促進することが望まれていたが、従来の方法や薬剤では、コストが高い、効果が十分でない等の問題があった。
したがって、本発明の目的は、低コストで骨や軟骨や靭帯の形成を効果的に促進し得る方法や薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ある種のレクチンがMSCの骨分化能と軟骨分化能を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、レクチンを有効成分として含む、間葉系幹細胞の骨化及び/又は軟骨化促進用薬剤が提供される。この薬剤は、間葉系幹細胞の培地に添加されることが好ましい。レクチンがインゲンマメレクチンE4(PHA-E)またはタチナタ豆レクチン(ConA)であることが好ましい。
【0010】
本発明の別の側面によれば、間葉系幹細胞をレクチンを含む培地で培養する工程を含む、間葉系幹細胞の骨化及び/又は軟骨化促進方法が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。
【0011】
本発明の別の側面によれば、レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞が提供される。間葉系幹細胞が骨化又は軟骨化していることが好ましい。また、レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。この間葉系幹細胞が、骨疾患、軟骨疾患または靱帯損傷の治療のために使用されることが好ましい。
【0012】
本発明の別の側面によれば、(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(ii)レクチンと間葉系幹細胞;を人工骨または人工軟骨と共に培養する工程を含む、人工培養骨または人工培養軟骨の製造方法が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。この人工培養骨または人工培養軟骨が、骨疾患または軟骨疾患の治療のために使用されることが好ましい。骨疾患が、骨折、骨欠損および骨量低下疾患のいずれかであることが好ましい。軟骨疾患が、軟骨欠損、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患および軟骨損傷のいずれかであることが好ましい。
【0013】
本発明の別の側面によれば、(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(ii)レクチンと間葉系幹細胞;を含む培地で培養された、人工培養骨または人工培養軟骨が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。この人工培養骨または人工培養軟骨が、骨疾患または軟骨疾患の治療のために使用されることが好ましい。骨疾患が、骨折、骨欠損および骨量低下疾患のいずれかであることが好ましい。軟骨疾患が、軟骨欠損、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患および軟骨損傷のいずれかであることが好ましい。
【0014】
本発明の別の側面によれば、(i)レクチン;(ii)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(iii)レクチンと間葉系幹細胞;を有効成分として含む、骨形成及び/又は軟骨形成を促進する薬剤が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。この薬剤が、骨疾患または軟骨疾患の予防及び/又は治療のために使用されることが好ましい。骨疾患が、骨折、骨欠損および骨量低下疾患のいずれかであることが好ましい。軟骨疾患が、軟骨欠損、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患および軟骨損傷のいずれかであることが好ましい。
【0015】
本発明の別の側面によれば、骨形成及び/又は軟骨形成を促進する方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、(i)レクチン;(ii)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(iii)レクチンと間葉系幹細胞;の有効量を投与することを含む方法が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。
【0016】
本発明の別の側面によれば、骨疾患、軟骨疾患または靱帯損傷の予防及び/又は治療方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、(i)レクチン;(ii)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(iii)レクチンと間葉系幹細胞;の有効量を投与することを含む方法が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。骨疾患が、骨折、骨欠損および骨量低下疾患のいずれかであることが好ましい。軟骨疾患が、軟骨欠損、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患および軟骨損傷のいずれかであることが好ましい。靱帯損傷が膝十字靭帯、膝関節外側側副靭帯や踵骨腱(アキレス腱)の損傷のいずれかであることが好ましい。
【0017】
本発明の別の側面によれば、骨及び/又は軟骨の修復方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(ii)レクチンと間葉系幹細胞;を含む培地で培養された人工培養骨または人工培養軟骨を移植することを含む方法が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。
【0018】
本発明の別の側面によれば、骨疾患または軟骨疾患の治療方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(ii)レクチンと間葉系幹細胞;を含む培地で培養された人工培養骨または人工培養軟骨を移植することを含む方法が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。骨疾患が、骨折、骨欠損および骨量低下疾患のいずれかであることが好ましい。軟骨疾患が、軟骨欠損、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患および軟骨損傷のいずれかであることが好ましい。
【0019】
本発明の別の側面によれば、(i)レクチン;(ii)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または(iii)レクチンと間葉系幹細胞の、骨形成及び/又は軟骨形成を促進する薬剤の製造への使用が提供される。レクチンがPHA-EまたはConAであることが好ましい。薬剤が、骨疾患、軟骨疾患または靱帯損傷の予防及び/又は治療のために使用されることが好ましい。骨疾患が、骨折、骨欠損および骨量低下疾患のいずれかであることが好ましい。軟骨疾患が、軟骨欠損、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患および軟骨損傷のいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レクチン処理により骨化/軟骨化したMSCを骨や軟骨の欠損部や損傷部に適応することにより、骨や軟骨の再生を低コストで効率よく促進することができる。あるいは、レクチン投与により、生体局所に存在するMSCを早期に骨化/軟骨化させることで骨や軟骨の再生を低コストで効率よく促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、「間葉系幹細胞」とは、骨、軟骨、靱帯組織、脂肪、血管、神経等への多分化能(multipotent)を有する組織幹細胞のことである。例えば、患者の骨髄等から採取した間葉系幹細胞を使用してもよく、商業的に入手できる間葉系幹細胞を使用してもよい。
【0022】
「骨化した間葉系幹細胞」とは、間葉系幹細胞から分化して骨基質を産生するようになった細胞を意味する。
「軟骨化した間葉系幹細胞」とは、間葉系幹細胞から分化して軟骨基質を産生するようになった細胞を意味する。
【0023】
レクチンとしては、PHA-E、ConA、WGA(小麦胚凝集素(小麦胚レクチン))等の植物レクチンが好ましいが、中でもPHA-EおよびConAが好ましい。
レクチンの培地への添加濃度は、レクチンの種類、培地組成、培養時間、使用されるMSCの状態等によっても異なってくるが、一般に0.1μg/ml以上であることが好ましく、1μg/ml以上であることが更に好ましい。また、100μg/ml以下であることが好ましく、50μg/ml以下であることが更に好ましい。
【0024】
MSCをレクチン含有培地で培養する時間は特に限定されないが、例えば、レクチンの培地への添加濃度、レクチンの種類、培地組成、使用されるMSCの状態等によって異なってくる。感染の機会を減らしコストを低減するためには培養期間は短い方が都合がよいから、所望の骨化または軟骨化状態に達した時点で培養を終了することが好ましい。
【0025】
レクチンを添加する培地としては特に限定されないが、ダルベッコ変法イーグル培地やα-MEM等の一般的培地に、FBS等の血清を加えたものを使用することが好ましい。ステロイドを加えることが好ましく、例えば、デキサメタゾン、ハイドロコルチゾン等を10−7〜10−9M程度加えてもよい。リン酸塩を加えることが好ましく、例えば、β−グリセロホスフェート等を1〜100mM程度加えてもよい。ビタミンを加えることが好ましく、例えば、アスコルビン酸等を5〜500μg/ml程度加えてもよい。抗生物質を加えてもよい。抗真菌剤を加えてもよい。
【0026】
「人工培養骨」とは、レクチンを含む培地で培養されたMSCと共にまたはレクチンおよびMSCと共に人工骨を培養した結果得られる、MSCと人工骨との複合体を意味する。人工骨としては、リン酸カルシウム系骨補填剤(オスフェリオン(商品名)(OSferion、オリンパス(株)等)))、ハイドロキシアパタイト系骨補填剤(アパセラム(商品名)(ペンタックス(株)) 、ネオボーン(商品名)(東芝製薬(株))等)、リン酸カルシウム系およびハイドロキシアパタイト系の混合骨補填剤(セラタイト(商品名)(日本特殊陶業(株)))、金属系骨補填剤(チタンなど)を用いることができる。ブロック状、顆粒状などのものが好ましく用いられる。MSCまたはレクチンと共に培養されたMSCを、こうした人工骨と共に培養してMSCを早期に骨化させ、得られた人工培養骨を生体に移植すれば移植部の骨の再生を促進できる。また、MSCの骨化を早めることで培養期間が短くできれば、コストも低下するし感染の危険性も低くなる。
【0027】
「人工培養軟骨」とは、レクチンを含む培地で培養されたMSCと共にまたはレクチンおよびMSCと共に人工軟骨を培養した結果得られる、MSCと人工軟骨との複合体を意味する。例えば人工軟骨としては、PLGA(ポリ乳酸−グリコール酸共重合体)(GCメンブレン(商品名)、GC(株))を用いることができる。顆粒状、スポンジ状などのものが好ましく用いられる。MSCまたはレクチンと共に培養されたMSCをこうした人工軟骨と共に培養してMSCを早期に軟骨化させ、得られた人工培養軟骨(ペレット状等が好ましい)を生体に移植すれば軟骨の再生を促進できる。また、MSCの軟骨化を早めることで培養期間が短くできれば、コストも低下するし感染の危険性も低くなる。
【0028】
本発明の薬剤、間葉系幹細胞、人工培養骨、人工培養軟骨および治療方法は、骨疾患、軟骨疾患、または靱帯損傷の治療や予防に用いることができる。
骨疾患としては、骨折、骨欠損、骨量低下疾患等が挙げられる。骨折としては、例えば、複雑骨折、偽関節、単純骨折等が挙げられる。骨欠損の原因としては、例えば、外科処置(腫瘍摘出、嚢胞摘出等)、嚢胞、歯周疾患、先天性骨形成異常(唇顎口蓋裂等)等が挙げられる。外傷や骨折によっても骨欠損を生じ得る。また、顎堤の高度吸収等は、加齢によっても生じる。骨量低下疾患としては、例えば、骨粗鬆症(原発性骨粗鬆症、二次性骨粗鬆症)、先天性骨疾患(骨形成不全症等)、顎堤の高度吸収症(顎堤異常)、人工関節置換術での骨補填等が挙げられる。骨量低下疾患においては骨折も生じ易い。軟骨疾患としては、軟骨欠損(例えば外傷、外科的処置等による)、慢性関節リウマチ、変形性関節症、先天性軟骨疾患(軟骨無形成症等)、軟骨損傷(半月板損傷等)等が挙げられる。靱帯損傷としては、膝十字靭帯、膝関節外側側副靭帯や踵骨腱(アキレス腱)等が挙げられる。
【0029】
本発明による薬剤や間葉系幹細胞は、骨疾患、軟骨疾患または損傷靱帯の患部やその周囲に注射等で投与してもよいし、観血的処置の際に患部に直接適応してもよい。例えば、骨折においては骨折線に沿って投与してもよいが、骨折片が離断している場合には従来の整復法により移動骨折片を整復固定後に投与することが好ましい。複雑骨折などで骨欠損がある場合や、骨粗鬆症患者の椎体骨折再建の際には、本発明による薬剤や間葉系幹細胞の代わりに本発明の人工培養骨を移植してもよい。歯周病、ブラキシズム、咬合性外傷、矯正治療等による歯槽骨吸収においては、本発明による薬剤や間葉系幹細胞を適当な担体と共にシリンジ等に充填し、歯周ポケット内に直接注入してもよい。また、歯周外科治療の際に、歯周組織の欠損部に投与してもよく、本発明の人工培養骨を移植してもよい。加齢変化等によって平坦になった顎堤においては、本発明による薬剤や間葉系幹細胞を適当な担体と共に、シリンジ等で骨膜下に充填して顎堤の増生を図ってもよい。本発明の人工培養骨を移植してもよい。本発明による薬剤や間葉系幹細胞は、十字靭帯を損傷した患者の保存療法等にも適応できる。
【0030】
本発明の薬剤を使用する場合には、通常の製剤方法により、製剤的に許容しうる担体または希釈剤などを使用して適当な剤形に製剤化して用いてもよい。剤形としては、軟膏、クリーム、ローション等の外用剤の他、例えば水系の溶剤を主成分とした注射剤などが挙げられる。粉末状の剤形として、使用直前に精製水などの溶解液に溶解して使用することも可能である。あるいは本発明による薬剤を生体局所に適応する場合には、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸等の高粘弾性材料の担体と混和したものを用いてもよい。これにより、レクチンの徐放化が可能となり、一緒に投与されたMSCまたは生体側に存在するMSCに所定濃度のレクチンを長時間作用させることができ、結果として投与量も低減できる。本発明による間葉系幹細胞をレクチンと一緒にコラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸等の高粘弾性材料の担体と混和したものを生体局所に適応してもよい。
【0031】
本発明の薬剤、間葉系幹細胞、人工培養骨、人工培養軟骨は、その有効性を妨げない限り、他の薬剤と組合わせて使用してもよい。例えば、感染防止のための抗生物質(例、ペニシリン、ストレプトマイシン)あるいは抗真菌剤(例、アンホテリシンB)等と組み合わせて使用してもよいし、ステロイド剤(例、デキサメタゾン)等の抗炎症剤と組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明による薬剤の投与量や投与間隔は、レクチンの種類、投与経路、剤形、患部の大きさ、位置、投与対象の年齢、性別等により異なるが、局所投与においては、レクチンの場合には、通常、担体1gあたり100μgが好ましく、担体1gあたり20μgがさらに好ましい。本発明による間葉系幹細胞の投与量や投与間隔は、投与経路、剤形、患部の大きさ、位置、投与対象の年齢、性別等に加えて、MSCの培地に加えられたレクチンの種類と量、培養時間等によっても異なるが、通常、移植材料1gあたり2000万個が好ましく、移植材料1gあたり500万個であることがさらに好ましい。
【0033】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1: MSCの骨化に対するConAとPHA-Eの促進効果
(1)使用細胞
Cambrex社より購入したヒト腸骨骨髄由来の間葉系幹細胞(製品コードPT-2501、ロット番号3F0551)(以下「IMSC 1(Human Iliac mesenchymal stem cell No. 1)」と記す)と、広島大学倫理委員会の許可を得て41歳男性患者の正常腸骨より採取したヒト腸骨骨髄由来の間葉系幹細胞(Human Iliac mesenchymal stem cell、以下「IMSC 2」(Human Iliac mesenchymal stem cell No. 2)と記す)とを実験に使用した。
【0035】
濃縮Antibiotic-Antimycotic液(ペニシリンGナトリウム 10,000 U/ml、ストレプトマイシン 10,000μg/mlおよびアンホテリシンB 25μg/mlを0.85%の生理食塩液中に含有)(GIBCO)を、最終濃度1%で含む10%ウシ胎仔血清(FBS)含有ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)、SIGMA)を用いて、100 mm径のTCシャーレ(カタログ番号664160、Greiner Bio-one)で、IMSC 1とIMSC 2を37℃、5% CO2気相下にて培養した。継代数8のものを90%コンフルエントまで培養して実験に使用した。
【0036】
(2)実験方法
IMSC 1とIMSC 2を、それぞれ、(I)レクチン非添加群(Cont)、(II)ConA 1回処理群(ConA 1 time)、(III)PHA-E 1回処理群(PHA-E 1 time)、(IV)ConA継続添加群(ConA all)、(V)PHA-E継続添加群(PHA-E all)に分け、48穴TC培養プレート(カタログ番号35-3078、Falcon)に1ウエルあたり10000個/800μlにて播種し、10%FBS含有DMEM(濃縮Antibiotic-Antimycotic液を最終濃度として1%で含む)で、90%コンフルエントまで培養した。
【0037】
ConA 1回処理群およびPHA-E 1回処理群では、48穴TC培養プレートで90%コンフルエントまで培養された細胞の培地を、最終濃度1%の濃縮Antibiotic-Antimycotic液を含む1%FBS含有α-MEM(カタログ番号11900-024、GIBCO)に最終濃度20μg/mlのConAまたは最終濃度10μg/mlのPHA-Eを加えた培地と交換し(800μl/ウエル)、37℃、5% CO2気相下にて20分間培養した。その後、各ウェルから培地を除き、リン酸緩衝液(PBS)で細胞層を洗浄した。200μlの骨誘導培地(最終濃度1%の濃縮Antibiotic-Antimycotic液、10-8M デキサメタゾン(SIGMA)、10mM β−グリセロホスフェート(SIGMA)、および50 μg/ml アスコルビン酸 2−ホスフェート(SIGMA)を含む10%FBS含有α-MEM)を、各ウエルに加えて、37℃、5% CO2気相下にて7〜35日間培養した。骨誘導培地の交換は3日ごとに行った。
【0038】
ConA 継続添加群およびPHA-E 継続添加群では、48穴TC培養プレートで90%コンフルエントまで培養された細胞の培地を、200μlのレクチン含有骨誘導培地(最終濃度8μg/mlのConAまたは最終濃度10μg/mlのPHA-Eを含む)において、37℃、5% CO2気相下にて7〜35日間培養した。レクチン含有骨誘導培地の交換は3日ごとに行った。
【0039】
コントロールであるレクチン非添加群では、レクチンを含まない培地を使用したこと以外はレクチン継続添加群と同じ条件で細胞を培養した。
レクチン処理開始日(これを0日目とする)から7日目ごとに、各群の細胞についてアリザリンレッド染色とカルシウム蓄積量測定を行った。
【0040】
アリザリンレッド染色のためには、各ウェルから培地を除いた後、0.9% NaCl含有の10mM トリス塩酸緩衝液(pH 7.6)で細胞層を2回洗浄し、95% エタノールで1時間以上固定した。固定された細胞を、1% アリザリンレッドS(CHROMA-GESELLSCHAFT社)で常温、遮光下にて5分間染色し、水で洗浄した。
【0041】
カルシウム蓄積量測定のためには、レクチン処理開始日(これを0日目とする)から14日目に各ウェルから培地を除いた後に細胞層をPBSにて洗浄し、10% トリクロロ酢酸溶液(片山化学)で細胞層中のカルシウムを溶解した。カルシウム測定キット(Ca C-test Wako kit)(和光純薬)とマルチウエル分光光度計(Immuno Mini NJ-2300、Nalge Nunc International、Rochester)を用いて、カルシウム濃度を測定した(測定波長 570 nm)。
【0042】
(3)結果
図1に、IMSC 1の(I)〜(V)群の細胞をアリザリンレッド染色した各ウエルの写真を示す。図1から明らかなように、ConAまたはPHA-Eを添加した群、特にConA 継続添加群およびPHA-E 継続添加群、では14日目に明確な石灰化沈着が認められたのに対して、非添加群では14日目には非常に低度の石灰化沈着しか認められなかった。
【0043】
図2に、IMSC 2の(I)〜(V)群の細胞をアリザリンレッド染色した各ウエルの写真を示す。図2から明らかなように、ConA 継続添加群およびPHA-E 継続添加群では、非添加群と比較して早期に強い石灰化沈着が認められた。すなわち、ConA 継続添加群およびPHA-E 継続添加群では14日目で既に明確な石灰化沈着が認められるのに対して、非添加群では35日目になるまで石灰化沈着はまったく認められず、かつ35日目においてもConA 継続添加群およびPHA-E 継続添加群と比較して非常に低度の石灰化沈着しか認められなかった。
【0044】
図3に、IMSC 1の(I)〜(V)群のカルシウム蓄積量の測定結果を示す。図から明らかなように、ConAまたはPHA-Eを添加した群では、非添加群に比べて高いカルシウム蓄積量を示した。特にConA 継続添加群およびPHA-E 継続添加群では、非添加群に比べて有意に高いカルシウム蓄積量を示した(t検定により、ConA 継続添加群でp<0.01、PHA-E 継続添加群でp<0.05)。
【0045】
図4に、IMSC 2の(I)〜(V)群のカルシウム蓄積量の測定結果を示す。図から明らかなように、ConA 継続添加群およびPHA-E 継続添加群は、非添加群に比べて有意に高いカルシウム蓄積量を示した(t検定により、ConA 継続添加群とPHA-E 継続添加群共にp<0.01)。
【0046】
実施例2: MSCの骨化に対するConAとPHA-Eの濃度効果
(1)使用細胞
上述の実施例1(1)記載の継代数8のIMSC 1を用いた。
【0047】
(2)実験方法
IMSC 1を、実施例1(1)で使用した10%FBS含有DMEM(濃縮Antibiotic-Antimycotic液を最終濃度として1%で含む)を用いて、48穴TC培養プレートへ1ウエルあたり10000個/800μlで播種し、90%コンフルエントまで培養した後、培地を200μlのレクチン含有骨誘導培地(最終濃度 0、2、4、6、8、もしくは10μg/mlのConAまたは最終濃度 0、2、5、10、20、もしくは50μg/mlのPHA-Eを含有)と交換し、37℃、5% CO2気相下で12日間培養した。レクチン含有骨誘導培地の交換は3日ごとに行った。その後、実施例1(2)記載の方法で、カルシウム蓄積量を測定した。
【0048】
(3)結果
図5に、各濃度のConA 添加培地で培養されたIMSC 1のカルシウム蓄積量の測定結果を示す。図から明らかなように、ConA 濃度 8μg/ml(p<0.01)まで有意に濃度依存性にカルシウム蓄積量が増加した(t検定)。
【0049】
図6に、各濃度のPHA-E 添加培地で培養されたIMSC 1のカルシウム蓄積量の測定結果を示す。図から明らかなように、PHA-E濃度 20μg/ml(p<0.01)まで濃度依存性にカルシウム蓄積量が増加した(t検定)。
【0050】
実施例3: MSCの骨化に対するConA、PHE-E、BMP-2の効果
(1)使用細胞
上述の実施例1(1)記載の継代数8のIMSC 1を用いた。
【0051】
(2)実験方法
IMSC 1を、実施例1(1)で使用した10%FBS含有DMEM(濃縮Antibiotic-Antimycotic液を最終濃度として1%で含む)を用いて48穴TC培養プレートへ1ウエルあたり10000個/800μlで播種し、90%コンフルエントまで培養した後、最終濃度8μg/mlのConA、または最終濃度10μg/mlのPHA-E、または最終濃度 0、50、100、もしくは300ng/mlのBMP-2(Sigma)を含む骨誘導培地に交換し、37℃、5% CO2気相下にて12日間培養した。培地の交換は3日ごとに行った。その後、実施例1(2)記載の方法で、カルシウム蓄積量を測定した。
【0052】
ConA、PHA-EおよびBMP-2のいずれも含まない骨誘導培地を使用したこと以外は上述と同じ処理をしたIMSC 1を、コントロールとして用いた。
(3)結果
図7に、各濃度のBMP-2 培地で培養されたIMSC 1のカルシウム蓄積量の測定結果を示す。BMP-2 濃度50ng/ml以上では、BMP-2 濃度0と比較して有意(p<0.05, ANOVA検定)にカルシウム蓄積量は高くなっているが、それ以上BMP-2 濃度が上昇してもカルシウム蓄積量の増加は認められずプラトーに達していた。
【0053】
図8に、BMP-2添加培地、ConA添加培地およびPHA-E添加培地におけるIMSC 1のカルシウム蓄積量の測定結果を示す。いずれの場合も、コントロールと比較して有意に(p<0.05, ANOVA検定)カルシウム蓄積量が高かったが、ConA、PHA-EおよびBMP-2の間では有意差は認められなかった(ANOVA検定)。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の骨化及び/又は軟骨化の促進方法及び促進薬剤、培養MSC、骨形成及び/又は軟骨形成の促進薬剤、人工培養骨または人工培養軟骨及びその製造方法、並びにこれらを利用した治療方法は、骨疾患、軟骨疾患、靱帯損傷の治療に役立つことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】IMSC 1のレクチン非添加群(Control)、ConA 1回処理群(ConA 1 time)、PHA-E 1回処理群(PHA-E 1 time)、ConA継続添加群(ConA all)およびPHA-E継続添加群(PHA-E all)の、各時点におけるアリザリンレッド染色の結果を示す写真である。
【図2】IMSC 2のレクチン非添加群(Control)、ConA 1回処理群(ConA 1 time)、PHA-E 1回処理群(PHA-E 1 time)、ConA継続添加群(ConA all)およびPHA-E継続添加群(PHA-E all)の、各時点におけるアリザリンレッド染色の結果を示す写真である。
【図3】IMSC 1のレクチン非添加群(Control)、ConA 1回処理群(ConA 1 time)、PHA-E 1回処理群(PHA-E 1 time)、ConA継続添加群(ConA all)およびPHA-E継続添加群(PHA-E all)の、カルシウム蓄積量を示すグラフである。縦軸はカルシウム蓄積量(μg/ml)を示す。各棒グラフのバーは、平均値±標準偏差の範囲を表す。*はp<0.05、**はp<0.01の統計学的有意差を示す(t検定)。
【図4】IMSC 2のレクチン非添加群(Control)、ConA 1回処理群(ConA 1 time)、PHA-E 1回処理群(PHA-E 1 time)、ConA継続添加群(ConA all)およびPHA-E継続添加群(PHA-E all)の、カルシウム蓄積量を示すグラフである。縦軸はカルシウム蓄積量(μg/ml)を示す。各棒グラフのバーは、平均値±標準偏差の範囲を表す。**はp<0.01の統計学的有意差を示す(t検定)。
【図5】ConA 濃度とIMSC 1のカルシウム蓄積量の関係を示すグラフである。縦軸にカルシウム蓄積量(μg/ml)、横軸に培地中のConA 最終濃度(μg/ml)を示す。各棒グラフのバーは、平均値±標準偏差の範囲を表す。*はp<0.05、**はp<0.01の統計学的有意差を示す(t検定)。
【図6】PHA-E 濃度とIMSC 1のカルシウム蓄積量の関係を示すグラフである。縦軸にカルシウム蓄積量(μg/ml)、横軸に培地中のPHA-E 最終濃度(μg/ml)を示す。各棒グラフのバーは、平均値±標準偏差の範囲を表す。**はp<0.01、***はp<0.001の統計学的有意差を示す(t検定)。
【図7】BMP-2 濃度とIMSC 1のカルシウム蓄積量の関係を示すグラフである。縦軸にカルシウム蓄積量(μg/ウエル)、横軸に培地中のBMP-2 最終濃度(ng/ml)を示す。各棒グラフのバーは、平均値±標準偏差の範囲を表す。*はp<0.05の統計学的有意差を示し、nsは統計学的有意差がないことを示す(ANOVA検定)。
【図8】BMP-2(50ng/ml)、ConA(8μg/ml)およびPHA-E(10μg/ml)の培地への添加とIMSC 1のカルシウム蓄積量の関係を示すグラフである。縦軸にカルシウム蓄積量(μg/ウエル)を示す。各棒グラフのバーは、平均値±標準偏差の範囲を表す。*はp<0.05の統計学的有意差を示し、nsは統計学的有意差がないことを示す(ANOVA検定)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レクチンを有効成分として含む、間葉系幹細胞の骨化及び/又は軟骨化促進用薬剤。
【請求項2】
間葉系幹細胞の培地に添加される、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
レクチンがインゲンマメレクチンE4(PHA-E)またはタチナタ豆レクチン(ConA)である、請求項1または2記載の薬剤。
【請求項4】
間葉系幹細胞をレクチンを含む培地で培養する工程を含む、間葉系幹細胞の骨化及び/又は軟骨化促進方法。
【請求項5】
レクチンがPHA-EまたはConAである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞。
【請求項7】
骨化又は軟骨化した請求項6記載の間葉系幹細胞。
【請求項8】
レクチンがPHA-EまたはConAである、請求項6または7記載の間葉系幹細胞。
【請求項9】
(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または
(ii)レクチンと間葉系幹細胞;
を人工骨または人工軟骨と共に培養する工程を含む、人工培養骨または人工培養軟骨の製造方法。
【請求項10】
レクチンがPHA-EまたはConAである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または
(ii)レクチンと間葉系幹細胞;
を含む培地で培養された、人工培養骨または人工培養軟骨。
【請求項12】
(i)レクチン;
(ii)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または
(iii)レクチンと間葉系幹細胞;
を有効成分として含む、骨形成及び/又は軟骨形成を促進する薬剤。
【請求項13】
骨疾患または軟骨疾患の予防及び/又は治療のために使用される、請求項12記載の薬剤。
【請求項14】
レクチンがPHA-EまたはConAである、請求項12または13記載の薬剤。
【請求項15】
骨形成及び/又は軟骨形成を促進する方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、
(i)レクチン;
(ii)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または
(iii)レクチンと間葉系幹細胞;
の有効量を投与することを含む方法。
【請求項16】
骨疾患、軟骨疾患または靱帯損傷の予防及び/又は治療方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、
(i)レクチン;
(ii)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または
(iii)レクチンと間葉系幹細胞;
の有効量を投与することを含む方法。
【請求項17】
骨及び/又は軟骨の修復方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、
(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または
(ii)レクチンと間葉系幹細胞;
を含む培地で培養された人工培養骨または人工培養軟骨を移植することを含む方法。
【請求項18】
骨疾患または軟骨疾患の治療方法であって、そうした処置を必要とするヒトなどの温血動物に対して、
(i)レクチンを含む培地で培養された間葉系幹細胞;または
(ii)レクチンと間葉系幹細胞;
を含む培地で培養された人工培養骨または人工培養軟骨を移植することを含む方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−204200(P2006−204200A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21336(P2005−21336)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(503328193)株式会社ツーセル (24)
【出願人】(595025305)
【Fターム(参考)】