説明

間質相互作用分子ノックアウトマウス及びその使用

本発明は、Ca2+センサー膜タンパク質であるSTIM−1、STIM−2、及びこれら両方を対象としたノックアウトマウス、並びにこれらのノックアウトマウスから得られる細胞株に関する。本明細書に記載されるのは、ノックアウトSTIM−1及び/又はSTIM−2で単離したものの様々な使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、合衆国法典第35巻§119(e)の元、米国仮出願第60/959,023号(出願日2007年7月10日)の利益を主張するものであり、その内容全体を本出願に引用して援用する。
【0002】
本出願は、国立衛生研究所によって付与された認可番号GM075256(NIH/NIGMS)、AI40127(NIH/NIAID)及びR01AI066128(NIH/NIAID)の元、政府支援を受けている。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
炎症は、液体、血漿タンパク質、及び白血球の局所的蓄積に対する一般的な用語であり、細胞群又は有機体がDNA損傷、感染、又は局所免疫反応等の物理的損傷による圧迫を受けた時に生じる。これは、炎症反応としても知られている。炎症反応が生じている組織に広がる免疫細胞は、多くの場合、炎症細胞又は炎症性浸潤と称され、細胞又は有機体が圧迫に応じてそれら状態を改善するのに役立つ。炎症は、器官又は患部組織内の細胞死を招くことができる。炎症は、生体内における正常免疫反応又は防御システムの一環である。
【0004】
免疫細胞の活性化、増殖、及び分化、並びに結果として生じる炎症反応は、生体内で高度に制御されている。炎症反応は、病原体及び病原体由来化合物等の異物へと暴露された時に誘発されるものであり、サイトカインによって、開始及び持続される(非特許文献1)。関与するサイトカインは、インターロイキン−1(Il−1)、Il−2、Il−3、Il−4、Il−5、Il−6、Il−10、Il−12、Il−13、IFN−γ、TNF、TGF、リンホトキシン、及びヒスタミンを含む。炎症反応は、宿主由来物質によって誘発されるべきではなく、また異常サイトカイン産生によって持続されるべきでもない。しかしながら、炎症の脱制御が起こることがあり、炎症性の病気を引き起こす。炎症は、発赤、熱、圧痛/痛み、及び腫れを含む4つの公知の症状を引き起こし、これらは非常に多くの一般的な病気及び疾患を特徴付けるものである。慢性炎症性疾患、例えば、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、及び1型糖尿病等は、5億人近い人々が罹っている。これら病気の多くは、我々の高齢化社会において、弱体化の要因であり、急速に一般的なものとなっている。
【0005】
免疫細胞の刺激は、小胞体(ER:endoplasmic reticulum)ストアからのCa2+の枯渇を引き起こす。これにより、ストア作動性Ca2+放出活性化Ca2+(CRAC:Ca2+ release-activated Ca2+)チャネルを経由した持続Ca2+流入を誘発し、これは、リンパ球活性化及び増殖のための必須信号である。最近示された証拠によると、CRAC電流の活性化は、STIMタンパク質によって開始される。STIMタンパク質は、ER内腔に配されるEFハンドを通ったERのCa2+レベルを感知し、ストア枯渇の際に原形質膜に密接に関連した点状に再度局所化する。ショウジョウバエのOrai及びヒトのOrai1(TMEM142Aとも称される)は、STIMのストア作動性Ca2+流入の下流における必須成分である。ショウジョウバエの細胞においてOrai及びStimが合わせて過剰に発現する、又は哺乳類の細胞においてOrai1とStim1が合わせて過剰に発現する場合、CRAC電流において著しい増加がもたらされる。
【0006】
ヒト及びマウスのSTIM1は、初めは、腫瘍及び骨髄基質における成長調節因子の候補として発見された。そして、その構造的に関連した脊椎動物ファミリーメンバー、STIM2、及びショウジョウバエ相同体D−Stimが、続いて同定された。STIMタンパク質は、普遍的発現1型1回膜貫通タンパク質であり、それらポリペプチド配列内に構造モチーフの固有の組み合わせを有する。細胞外領域は、非定型グリコシル化SAMドメイン近傍のN末端不対EF−ハンドCa(2+)結合モチーフを有する。その一方、細胞質領域は、膜貫通型領域近傍のERMドメインと相同性を有する領域内にαヘリカルコイルドコイルドメインを含み、C末端の近くにリン酸化プロリンリッチドメインを含む。STIM1、STIM2、及びD−Stimは、コイルドコイル/ERMドメインへのそれら構造のC末端においてのみ、有意に相違する。STIMの構造ドメインは、Ca(2+)結合と同様に、STIMタンパク質とその他のタンパク質との間の相互作用を媒介する機能も有するとして予測されていた。そして、同型STIM1−STIM1と異型STIM1−STIM2の相互作用は、生化学的に示されていた。しかしながら、STIM1とそのドメイン構造の細胞局在の機能的意義は、STIM1が細胞内へのストア作動性カルシウム(SOC:store-operated calcium)流入の重要な調節因子(キーレギュレーター)として同定された最近の飛躍的な研究後に明らかになったばかりである。現在では、STIM1は、小胞体(ER)内腔におけるCa(2+)枯渇のセンサーであるとともに、細胞膜におけるOrai1含有SOCチャネルの活性化因子であることが明らかになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Frontiers in BioSciences, 2: 12-26, Carol, A., et. al., 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
サイトカイン産生は、慢性炎症における炎症反応を維持するために極めて重要であり、また、SOCチャネルを介したCa2+の流入は、活性化免疫細胞におけるサイトカイン産生を持続するのに必要である。このため、生体内の免疫細胞及びその他の細胞へのCa2+の流入を制御及び調節する新規の方法を発見及び開発することにより、炎症、自己免疫、及びCa2+ホメオスタシス関連疾患と疾病の治療法を提供することが可能となる。現在のところ、このような発見や開発に役立つツールの必要性が未だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態では、STIM遺伝子のホモ接合体破壊を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスが示される。ホモ接合体マウスは、非機能的STEMタンパク質を示す。
【0010】
本発明の実施形態では、STIM遺伝子のヘテロ接合体破壊を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスが示される。このマウスは、その他のトランスジェニックマウスと交配することにより、STIM遺伝子のホモ接合体破壊を含むゲノムを有するマウスを作製することができる。ホモ接合体マウスは、非機能的STIMタンパク質を示す。
【0011】
破壊されたSTIM遺伝子は、STIM1、STIM2、又はSTIM1とSTIM2の両方であることができる。STIM遺伝子破壊は、構成的(コンスティチューティブ)又は条件的(コンディショナル)であることができる。ここで、破壊は、正常成熟後、及びダブルポジティブ(CD4CD8)段階中の胸腺細胞においてのみ発生するものである。したがって、本発明は、CD4CD8胸腺細胞及び成熟Tリンパ球におけるSTIM遺伝子のホモ接合体破壊を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスを提供する。
【0012】
本発明には、STIM遺伝子(即ち、STIM1、STIM2、又はSTIM1とSTIM2の両方)のホモ接合体破壊を含むゲノムを有するトランスジェニックマウス由来の組織、単離細胞、及び細胞株が含まれる。あるいは、STIM遺伝子(即ち、STIM1、STIM2、又はSTIM1とSTIM2の両方)のホモ接合体破壊を含む胸腺細胞ゲノムを有するトランスジェニックマウス由来の組織、単離細胞、及び細胞株が含まれる。
【0013】
一実施形態において、本発明は、STIM遺伝子(即ち、STIM1、STIM2、又はSTIM1とSTIM2の両方)のヘテロ接合体破壊を含むゲノムを有するトランスジェニックマウス由来の組織、単離細胞、及び細胞株を提供する。
【0014】
一実施形態では、単離細胞は、Tリンパ球及びマウス胎児線維芽細胞である。不死化Tリンパ球及びマウス胎児線維芽細胞の細胞株、即ちSTIM1−/−、STIM2−/−、又はSTIM1−/−とSTIM2−/−の両方、が提供される。
【0015】
一実施形態において、本発明は、Stim1及び/又はStim2の細胞型特異的なコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物を提供する。非ヒトトランスジェニック動物は、マウスである。Stim1及び/又はStim2のコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子を有する細胞型は、T細胞、制御性T細胞、神経細胞、又は胎児線維芽細胞である。Stim1及び/又はStim2のコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子は、コンディショナルに欠失している。
【0016】
一実施形態において、本発明は、Stim1及び/又はStim2の細胞型特異的なコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物由来の単離細胞を提供する。ここで、細胞はT細胞、制御性T細胞、神経細胞、又は胎児線維芽細胞であることができる。Stim1及び/又はStim2のコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子は、コンディショナルに欠失している。
【0017】
一実施形態において、本発明は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない方法を提供する。この方法は、細胞を、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量の選択的Stim2インヒビターに接触させる工程を備える。細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる、選択的Stim2インヒビターは、Stim1と比較してStim2を選択的に抑制する。サイトカインは、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択される。
【0018】
一実施形態において、本発明は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法を提供する。この方法は、細胞を、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こすのに効果的な量の選択的Stim1インヒビターに接触させる工程を備える。細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる。選択的Stim1インヒビターは、Stim2と比較してStim1を選択的に抑制する。サイトカインは、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択される。
【0019】
一実施形態において、本発明は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法を提供する。この方法は、細胞を、Stim1インヒビター及びStim2インヒビターに接触させる工程を備える。これらインヒビターの量は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量である。細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる。制御性T細胞は腫瘍を有する被験者に存在し、インヒビターの量は腫瘍に対する免疫反応の増加に有効である。Stim1インヒビターとStim2インヒビターは、同じ化学構造を有する。サイトカインは、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択される。
【0020】
一実施形態において、本発明は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない検査薬を同定する方法を提供する。この方法は、(a)少なくとも1つの検査薬を、STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備える。異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントは、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有する。本方法はさらに、(b)細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を測定する工程と、(c)細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備える。
【0021】
一実施形態において、本発明は、被験者内の腫瘍に対する免疫反応を増大させる検査薬を同定する方法を提供する。本方法は、(a)少なくとも1つの検査薬を、STIM1タンパク質又はその機能性フラグメント、及びSTIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備える。異種STIM1タンパク質又はその機能性フラグメントは、ヒトSTIM1タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントは、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有する。そして、細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備える。本方法はさらに、(b)検査薬を異種STIM1タンパク質の単離形態に接触させ、検査薬の単離異種STIM1タンパク質への結合性を測定する工程と、(c)検査薬を異種STIM2タンパク質の単離形態に接触させ、検査薬の単離異種STIM2タンパク質への結合性を測定する工程とを備える。
【0022】
一実施形態において、本発明は、細胞内カルシウム流動を調節する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、STIMタンパク質が欠損している細胞の使用を含む。この薬剤は、STIMタンパク質に関与しない機構(即ち、非STIM依存性経路又は機構)によって細胞内カルシウム流動を調節することができ、あるいは、STIMタンパク質に関与する(即ち、STIM依存性経路に関与する)機構によって細胞内カルシウム流動を調節することもできる。使用されるStim欠損細胞は、STIM1−/−、STIM2−/−、又はSTIM1−/−STIM2−/−両方であることができる。
【0023】
一実施形態において、本発明は、細胞内カルシウム流動を調節する薬剤の作用機序を評価する方法を提供する。本方法は、Stimタンパク質が欠損している細胞を使用することを含む。薬剤は、STIMタンパク質に関与しない機構(即ち、非STIM依存性経路又は機構)によって細胞内カルシウム流動を調節することができ、あるいは、STIMタンパク質に関与する(即ち、STIM依存性経路に関与する)機構によって細胞内カルシウム流動を調節することもできる。使用されるStim欠損細胞は、STIM1−/−、STIM2−/−、又はSTIM1−/−STIM2−/−両方であることができる。
【0024】
一実施形態において、本発明は、任意のその他のSTIM相同体が存在しない時にSTIMタンパク質又は変異STIMタンパク質の細胞機能を調査するための方法を提供する。本方法は、Stim1とStim2の両方が欠損した細胞を使用することを含む。
【0025】
一実施形態において、本発明は、STIMインヒビター又はSTIMモジュレーターの効果及び/又は有効性を調査する方法を提供する。本方法は、STIMタンパク質が欠損した細胞を使用することを含む。ここで使用されるStim欠損細胞は、STIM1−/−、STIM2−/−、又はSTIM1−/−STIM2−/−両方であることができる。
【0026】
一実施形態において、本発明は、STIM以外の標的に対するインヒビターの作用に起因する副作用又は毒性に関して、STIMインヒビターをスクリーニングする方法を提供する。本方法は、STIM遺伝子(即ち、STIM1、STIM2、又はSTIM1とSTIM2の両方)のヘテロ接合体又はホモ接合体破壊を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの使用、又は、STIMタンパク質が欠損した細胞の使用を含む。ここで使用されるStim欠損細胞は、Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方であることができる。また、STIM遺伝子(即ち、STIM1、STIM2、又はSTIM1とSTIM2の両方)のホモ接合体破壊を含む胸腺細胞のゲノムを有するトランスジェニックマウスの使用も、構想されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1a】同腹仔コントロール(Stim1+/+CD4-Cre又はStim1fl/fl)(黒)、及びStim1fl/flCD4−Cre(グレー)のナイーブCD4T細胞におけるストア作動性Ca2+流入であって、示される如く0.2又は2mMの細胞外Ca2+の存在下で、タプシガルギン(TG、1μM)に反応(左)、又はCD3架橋結合に続いてイオノマイシン(iono、1μM)に反応(右)したものである。
【図1b】細胞内サイトカイン染色によって測定されたIL−2産生を示す。ナイーブCD4+T細胞は、PMAとイオノマイシンで6時間刺激された。実線:コントロール(CTRL;Stim1+/+CD4-Cre又はStim1fl/fl)であり、点線:Stim1fl/flCD4−Creである。
【図1c】野生型(WT、黒)及びStim2―/―(グレー)マウス(どちらもStim2+/−CMV−Cre−マウスの交雑により得たもの)からのナイーブCD4+T細胞において、1μMのTGに反応(左)、又はCD3架橋結合に続いて1μMのイオノマイシンに反応(中、右)したストア作動性Ca2+流入を示す。
【図1d】細胞内サイトカイン染色によって測定されたIL−2産生を示す。これは、PMAとイオノマイシンによって6時間刺激されたナイーブ野生型(WT、実線)及びStim2−/−(点線)CD4T細胞によるものである。
【図1e】7日間インビトロで分化させたコントロール(Stim2+/+CD4-Cre又はStim2fl/fl)(黒)及びStim2−/−(グレー)のTHN細胞の典型的な[Ca2+]i反応であって、図示する如く、高濃度(1μM)もしくは低濃度(10nM)のTG、又は抗CD3続いてイオノマイシンに反応したものである。
【図1f】7日間インビトロで分化させた後に6時間PMAとイオノマイシンで再刺激を加えた野生型(WT、黒)及びStim2−/−(グレー)のTHN細胞によるIL−2及びIFN−γ産生を示す。データは、少なくとも3回の独立した実験を代表するものである。コントロールとして、Stim+/+CD4−CreマウスからのT細胞は、初期実験の野生型マウスからのT細胞と比較されることにより、Cre発現がCa2+流入及びサイトカイン発現に対する毒性又はその他の悪影響を有さないことを確認した。次に続く実験では、Stim+/+CD4-Cre及びStimfl/flマウスが代わりにコントロールとして用いられた。
【図2a】左側は、20mMのCa2+を含むリンゲル液において1μMのTGで刺激を加えた野生型(黒)、Stim−/−(ダークグレー)、及びStim2−/−(ライトグレー)MEFにおけるCa2+流入を示す。右側は、Stim−/−MEF内へのMyc標識STIM1(黒)又はSTIM2(ダークグレー)のレトロウイルス形質導入によるストア作動性Ca2+流入の再構築を示す。空ベクターはライトグレーである。IRES−GFPカセットを含む発現ベクターとGFP+細胞のみが分析された。
【図2b】(図2C-1及び2C-2)コントロール(CTRL;Stim1+/+CD4-Cre、又はStim1fl/fl)及び、空レトロウイルスベクター又はMyc標識STIM1もしくはSTIM2をコードするレトロウイルスベクターが形質導入されたStim1fl/flCD4-CreTHN細胞において、1μMのTGを用いた処置に反応したCa2+流入を示す。GFP細胞のみが分析された。
【図2c】表示のレトロウイルスベクター(右欄)が形質導入された表示の遺伝子型(ドットプロット上)の細胞におけるサイトカイン産生を示す典型的なドットプロット(左)及び平均データ(右)を示す。GFP細胞のみが分析された。エラーバーは、標準偏差を示す。データは、3回の独立した実験を代表するものである。コントロールとして、Stim+/+CD4-Creマウスが最初に用いられ、その後Stim+/+CD4-Cre及びStimfl/flマウスの両方が用いられた。
【図3a】コントロール(n=8)(CTRL;Stim2+/+CD4-Cre、又はStim2fl/fl)、又はSTIM2欠損(n=7)(STIM2−KO;Stim2fl/flCD4-Cre)CD4T細胞における平均ピーク、定常状態(刺激60分後)の[Ca2+、及び[Ca2+]Iの初速度を示す。これらは、ヘルパーT非分極条件下で5時間分化され、Fura−PE3で標識付けされ、PMAとイオノマイシンで刺激されたものである(「方法」を参照)。エラーバーは標準誤差(s.e.m.)であり、P値は、対応のないスチューデントのt検定を用いて算出した。
【図3b】刺激後の表示時間点における、核NFAT1に関するCTRL又はStim1+/+CD4-Cre細胞のパーセントを示す(平均±標準偏差)。少なくとも300細胞/ウェルが各時間点において分析された。エラーバーは、標準偏差(s.d.)である。
【図3c】刺激後の表示時間点における、核NFAT1に関するCTRL又はStim2+/+CD4-Creのパーセントを示す(平均±標準偏差)。少なくとも300細胞/ウェルが各時間点において分析された。エラーバーは、標準偏差である。
【図3d】CTRL又はStim1+/+CD4-Cre細胞におけるIL−2及びIFN−γ発現を示す。データは、3回の独立した実験を代表するものである。コントロールとして、Stim+/+CD4-Creマウスが最初に用いられ、その後Stim+/+CD4-Cre及びStimfl/flマウスの両方が用いられた。
【図3e】CTRL又はStim2+/+CD4-Cre細胞におけるIL−2及びIFN−γ発現を示す。データは、3回の独立した実験を代表するものである。コントロールとして、Stim+/+CD4-Creマウスが最初に用いられ、その後Stim+/+CD4-Cre及びStimfl/flマウスの両方が用いられた。
【図4a】細胞外20mM[Ca2+]o及びDVF溶液において記録された電流−電圧(I−V)関係を示し、これは、表示マウス由来の分化CD4T細胞によるものである。TG(1μM)によって誘発されたCa2+電流(左パネル)及び一価陽イオン電流(右パネル)を示す。
【図4b】20mMCa2+リンゲル液(黒のバー)を二価遊離(DVF:divalent free)溶液(オープンバー)に置き換えることによって誘発された脱増強Na電流の単一記録を示す。電流は、−100mVへの過分極パルスを1秒ごとに印加する間、測定された。
【図4c】表示条件下で記録されたピーク電流密度の要約を示す。エラーバーは、標準誤差を示し、nは、分析細胞数を示す。CTRL;Stim1+/+CD4-Cre、又はStim1fl/fl、又はStim2fl/fl、又はStim1fl/flStim2fl/flであり、STIM1−KO;Stim1fl/flCD4-Creであり、STIM2−KO;Stim2fl/flCD4−Creであり、DKO;Stim1fl/flStim2fl/flCD4−Creである。コントロールとして、Stim+/+CD4−Creマウスが最初に用いられ、その後Stim+/+CD4−CreとStimfl/flマウスの両方が用いられた。
【図5a】ストア作動性Ca2+流入を示す。左側において、同腹仔コントロール(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl、黒)及びDKO(Stim1fl/flStim2fl/flCD4-Cre、グレー)マウスからのナイーブCD4T細胞は、公称Ca2+遊離リンゲル液において、TGで刺激され(上部)、又は抗CD3で刺激後に続いてストレプトアビジンで架橋結合され(SA;下部)、続いて2mMのCa2+遊離リンゲル液でかん流されることにより、Ca2+流入を誘導した。中側は、2mMのCa2+リンゲル液中のピーク[Ca2+]Iの定量化である。
【図5b】コントロール(CTRL;Stim1+/+CD4-Cre、又はStim1fl/flStim2fl/fl)、又はPMAとイオノマイシンで6時間刺激されたDKOマウスからのナイーブCD4+T細胞によるIL−2とTNF産生を示す。
【図5c】コントロール(CTRL;Stim1+/+CD4-Cre、又はStim1fl/flStim2fl/fl)、又は抗CD3と抗CD28で刺激されなかった又は16時間刺激されたDKOマウスからのナイーブCD4+T細胞におけるCD25とCD69の発現を示す。
【図5d】CFSE標識によって評価されたコントロール(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl)又はDKOマウスからのナイーブCD4CD25T細胞の増殖を示す。細胞は、抗CD3と抗CD28で72時間刺激された。オープンヒストグラムは刺激細胞であり、シェードヒストグラムは非刺激細胞である。
【図5e】表示数の細胞分裂(図5d内のデータより得たもの)が生じた細胞のパーセンテージを示す。データは2回の独立した実験を代表するものである。コントロールとしては、Stim+/+CD4−Creが最初に用いられ、その後Stim+/+CD4−CreとStim1fl/flStim2fl/flマウスの両方が用いられた。
【図6a】5−6週齢(左)又は3ヶ月齢(右)のコントロール(CTRL;Stim1+/+CD4−Cre、又はStim1fl/flStim2fl/fl)及びDKOマウスからの胸腺細胞と脾細胞が、CD4、CD25、及びFoxp3染色された。ゲート上の数字は、ゲート内の細胞のパーセンテージを示す。
【図6b】5−6週齢(左)のコントロール(CTRL;Stim1+/+CD4−Cre、又はStim1fl/flStim2fl/fl)又はDKOマウスの胸腺と脾臓における全細胞数(左)とCD4CD25reg細胞数(右)を示す(n=3;平均±標準偏差)。
【図6c】コントロール(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl)又はDKOマウスから単離されたCD4CD25細胞において、CD3架橋結合(左)又は1μMのTGを用いた処置(右)によって誘導されたストア作動性Ca2+流入を示す。測定は、リンゲル液において2mMのCa2+で実施された。データは、3回(抗CD3)及び2回(TG)の独立した実験を代表するものであり、これら実験において、夫々、110−170の細胞が分析された。Stim+/+CD4−Creマウスがコントロールとして最初に用いられることにより、Cre発現が毒性又はその他の副作用を引き起こさないことが確かめられた。続いて、Stim1fl/flStim2fl/flマウスが用いられることにより、その他の因子、例えば性別、年齢、及び繁殖環境が制御された。
【図7a】STIM1及びSTIM2欠損によるTreg細胞発生の障害を示す。亜致死的に放射線を浴びたRag1−/−マウスは、Thy−1.2コントロール同腹仔(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl)単独から、Thy1.2DKOマウス(3×10細胞)単独から、又はThy1.2DKOマウス(3×10細胞)とコンジェニックB6Thy1.1野生型マウス(1.5×10細胞)両方からのT細胞枯渇骨髄細胞を用いて再構築された。再構築の10−12週後、胸腺からの細胞は、抗CD4、抗Thy1.1、及び抗Thy1.2で、抗CD25と抗Foxp3とともに染色された。象限にある数は、その象限内の細胞のパーセンテージを示す。データは、2回の独立した実験からの3匹の混合キメラマウスから得られた結果を代表するものである。事前の実験においてCre毒性が観察されなかったため、Stim1fl/flStim2fl/flマウスがコントロールとして用いられることにより、その他の因子、例えば性別、年齢、及び繁殖環境が制御された。
【図7b】STIM1及びSTIM2欠損によるTreg細胞発生の障害を示す。亜致死的に放射線を浴びたRag1−/−マウスは、Thy−1.2コントロール同腹仔(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl)単独から、Thy1.2DKOマウス(3×10細胞)単独から、又はThy1.2DKOマウス(3×10細胞)とコンジェニックB6Thy1.1野生型マウス(1.5×10細胞)両方からのT細胞枯渇骨髄細胞を用いて再構築された。再構築の10−12週後、リンパ節からの細胞は、抗CD4、抗Thy1.1、及び抗Thy1.2で、抗CD25と抗Foxp3とともに染色された。象限にある数は、その象限内の細胞のパーセンテージを示す。データは、2回の独立した実験からの3匹の混合キメラマウスから得られた結果を代表するものである。事前の実験においてCre毒性が観察されなかったため、Stim1fl/flStim2fl/flマウスがコントロールとして用いられることにより、その他の因子、例えば性別、年齢、及び繁殖環境が制御された。
【図8a】受容マウスにおける脾臓及びリンパ節細胞の数を示す。野生型Treg細胞の養子移植は、DKOマウスのリンパ球増殖表現型を抑制する。野生型マウスからの3×10のCD4CD25又はCD4CD25Thy1.1T細胞は、2週齢のThy1.2DKOマウスに移入され、その後8週間で分析された。エラーバーは、標準偏差を示し、P値は対応スチューデントのt検定を用いて算出した。データは、2回の独立した実験からの3匹のマウスから得られた結果を代表するものである。
【図8b】脾臓及びリンパ節からの細胞は、表示抗体で染色された。ゲート上の数字は、ゲート内の細胞のパーセンテージを示す。データは、2回の独立した実験からの3匹のマウスから得られた結果を代表するものである。
【図8c】ドナー細胞移植を示す。細胞は、Thy1.1、Thy1.2、CD4、CD25、及びFoxp3に対する抗体で染色された。CD25又はCD25T細胞を受容するマウスにおける内因性(Thy1.2、ダークグレー)及び移入(Thy1.1、ライトグレー)Treg細胞の数がプロットされた。エラーバーは、標準偏差を示す。
【図8d】DKOのTreg細胞の抑制機能を示す。CD4CD25T細胞は、コントロール(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl)又はDKOマウスから精製され、CFSE標識されたレスポンダーCD4CD25T細胞と1:1の割合で、マイトマイシンC処理されたT細胞枯渇脾細胞と0.3μg/mlの抗CD3の存在下、72時間共培養された。データは、少なくとも3回の独立した実験を代表するものである。Cre毒性が事前の実験において観察されなかったため、Stim1fl/flStim2fl/flマウスがコントロールとして用いられることにより、その他の因子、例えば性別、年齢、繁殖環境が調整された。
【図9a】Stim1遺伝子のコンディショナルな欠失に対するターゲティング戦略を示す概略図である。Stim1遺伝子のEFハンドモチーフをコードするエクソン2の両側を、loxP組換え部位(三角)が挟んでいる。ネオマイシン耐性(neoR)遺伝子の両側を、Frt組換え部位(六角形)が挟んでいる。これらエクソンの欠失によって、各事例では、次のエクソンで未成熟終止コドンを生じさせるフレームシフトがもたらされることが予測される。
【図9b】Stim2遺伝子のコンディショナルな欠失に対するターゲティング戦略を示す概略図である。Stim2遺伝子のEFハンドへの配列C末端をコードするエクソン3の両側を、loxP組換え部位(三角)が挟んでいる。ネオマイシン耐性(neoR)遺伝子の両側を、Frt組換え部位(六角形)が挟んでいる。これらエクソンの欠失によって、各事例では、次のエクソンで未成熟終止コドンを生じさせるフレームシフトがもたらされることが予測される。
【図9c】PCRによる遺伝子型決定の典型的な結果を示す。プライマーは矢印で示されている。
【図9d】表示された細胞型におけるSTIM1とSTIM2発現を示す。STIM1検出のために、25μgのタンパク質がSDSポリアクリルアミドゲルの各レーンにロードされた。STIM2検出のために、500万細胞由来のタンパク質(約80μg)が各レーンにロードされた。STIM2に対応するバンドは、矢じりで示されている。BMMCは骨髄由来マスト細胞であり、MEFはマウス胎児線維芽細胞である。
【図10a】Stim1fl/flCD4−Creとコントロール(CTRL;Stim1+/+CD4−Cre又はStim1fl/fl)のナイーブCD4T細胞におけるCD4とTCRβの発現を示す。データは、2回の独立した実験を代表するものである。
【図10b】抗CD3と抗CD28で刺激後16時間経過した後のStim1fl/flCD4−CreとコントロールCD4T細胞におけるCD25とCD69活性マーカーの発現を示す。
【図10c】STIM1欠損T細胞は、正常ストア枯渇を示す。左側において、コントロール(CTRL)(黒)とStim1fl/flCD4−Cre(STIM1−KO、グレー)同腹仔からのナイーブCD4T細胞は、ビオチン化抗CD3、ストレプトアビジン(SA)、及びタプシガルギン(TG)を用いて、公称Ca2+流離リンゲル液、続いて2mMのCa2+を含むリンゲル液内で、連続してかん流されることにより、示される如く、Ca2+流入を誘導した。中側では、左側パネルのy軸が拡大されることにより、ストア枯渇が視覚化されている。右側において、ピーク[Ca2+]Iの定量化は、0と2mMのCa2+を含むリンゲル液中で、夫々ストア枯渇(左)及び流入(右)が示された。データは、2回(CTRL;Stim1fl/fl)と3回(Stim1fl/flCD4−Cre)の独立した実験を代表するものである。
【図10d】インビトロで7日間分化され、抗CD3で6時間再刺激を与えた表示マウスからのCD4ヘルパーT細胞によるサイトカイン産生を示す。データは、3回の独立した実験を代表するものである。コントロールとして、Stim+/+CD4−CreマウスからのT細胞が初期実験の野生型マウスからのT細胞と比較され、これによりCre発現がCa2+流入及びサイトカイン発現に対して毒性又はその他の悪影響を有さないことを確認した。次に続く実験では、Stim+/+CD4−CreとStimfl/flマウスが、コントロールと置き換えて使用された。データは、3つの独立した実験を代表するものである。
【図10e】インビトロで7日間分化され、抗CD28で6時間再刺激を与えた表示マウスからのCD4ヘルパーT細胞によるサイトカイン産生を示す。データは、3回の独立した実験を代表するものである。コントロールとして、Stim+/+CD4−CreマウスからのT細胞が初期実験の野生型マウスからのT細胞と比較され、これによりCre発現がCa2+流入及びサイトカイン発現に対して毒性又はその他の悪影響を有さないことを確認した。次に続く実験では、Stim+/+CD4−CreとStimfl/flマウスが、コントロールと置き換えて使用された。データは、3つの独立した実験を代表するものである。
【図11a】活性化T細胞におけるSTIM2タンパク質レベルの上方調節を示す。表示マウスからのナイーブCD4T細胞は、抗CD3と抗CD28を用いて、1、2、又は3日間刺激された、あるいは、TN、T1、又はT2条件下で7日間分化した。25μgの全細胞溶解液が各レーンにロードされた。矢じりは、特定のバンドを示す。
【図11b】表示マウスからの精製CD4T細胞は、IRES−GFPカセットを含むレトロウイルスベクター(右欄に記載される如く、空である、又はMyc標識STIM1又はSTIM2をコードする)で形質導入された。形質導入の効率性は、GFP発現で判断したところ(データ図示せず)、全てのレトロウイルス(〜40%)で類似していた。細胞は、溶解され、免疫ブロッティングされた。ここで、CTRL;Stim+/+CD4−Cre、又はStim1fl/flであった。データは、3回の独立した実験を代表するものである。コントロールとして、Stim+/+CD4−Creマウスが最初に用いられ、その後Stim+/+CD4−CreとStimfl/flマウスの両方が用いられた。
【図12a】細胞外20mM[Ca2+]oと、その後に25μMLa3+を追加した時の野生型マウスT細胞内の電気生理学未加工電流を示す。La3+存在下の電流は、漏れに起因したものである。
【図12b】20μMのCa2+を用いて〜50%でブロックされた野生型マウスT細胞内のNaCRAC電流を示す。この20μMCa2+は、ジャーカットT細胞におけるCa2+阻害のIC50に類似する。
【図12c】野生型マウスT細胞におけるICRACであって、高速不活性化、続いて−100mVまでの過分極工程を示した。
【図12d】表示されたマウス由来のT細胞における2−アミノエトキシジフェニルホウ酸(2−APB)によるICRACの増強と阻害を示す。タプシガルギンで前処理された細胞は、2−APB(40μM、グレーバー)に暴露された。左側は、−100mVへの100ms工程終点における電流を示す。右側は、次に続く2−APB(矢印)への暴露の前及びその直後のI−V曲線の例を示す。2−APBを適用した後に続く電流振幅の増加は、コントロールでは26±6%(n=4)であり、STIM2欠損T細胞では30±7%(n=5)であった。CTRL;Stim1+/+CD4−Cre、又はStim1fl/flである。コントロールとして、Stim+/+CD4−Creマウスが最初に使用され、その後Stim+/+CD4−CreとStimfl/flマウスの両方が使用された。
【図13a】DKOのT細胞における20mMのCa2+リンゲル液(黒バー)、又は二価遊離DVF溶液(オープンバー)におけるICRACを示す。電流は、−100mVへの過分極パルス(1秒ごとに印加)中に測定された。
【図13b】DKOマウス由来の分化CD4T細胞からの細胞外20mM[Ca2+]o及びDVF溶液において記録された電流−電圧(I−V)関係を示す。ストア枯渇はタプシガルギン(1μM)によって誘導された。左側は、Ca2+電流であり、右側は、一価陽イオン電流である。
【図14a】Stim1fl/flStim2fl/flCD4−Creマウス由来の末梢リンパ細胞の表現型の特徴を示す。4ヶ月齢マウスの代表的な脾臓(上)とリンパ節(下)である。
【図14b】表示されたマウスからの脾細胞が、CD4とCD8発現に関してフローサイトメトリーで分析された。CD4細胞は、ゲート付けられ、さらにCD44とCD62L発現に関して分析された。
【図14c】ゲート付けされたB220B細胞のうち、胚中心B細胞(CD95CD38low)と分化したCD19IgEB細胞を示す。
【図14d】右側では、脾細胞が、CD11b及びCD125(IL−5R)染色された。CD11bIL−5R+ポジティブ細胞は、好酸球及び好塩基球に対応する。左側では、大型の活性化又は粒状化した細胞が、FCS/SSCプロットにゲート付けされた。CTRL;Stim1+/+CD4−Cre、又はStim1fl/flStim2fl/flであり、STIM1−KO;Stim1fl/flCD4−Creであり、STIM2−KO;Stim2fl/flCD4−Creであり、DKO;Stim1fl/flStim2fl/flCD4−Creである。データは、少なくとも3回の独立した実験を代表するものである。Stim+/+CD4−Creマウスは、最初にコントロールとして用いられることにより、Cre発現が毒性又はその他の副作用を引き起こさないことが確認された。続いて、Stim1fl/flStim2fl/flマウスが用いられることにより、その他の因子、例えば性別、年齢、及び繁殖環境が制御された。
【図15a】コントロール(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl)とDKOマウス由来の末梢T細胞の遺伝子型を示す。左側は、PCRによって得られた遺伝子型の典型的な結果を示す。右側は、PCRに用いられるCD4T細胞の純度(〜95%)を示す。25は、CD4CD25の従来T細胞であり、25は、CD4CD25の制御性T細胞である。データは、2回の独立した実験を代表するものである。
【図15b】DKOマウスからのCD4CD25reg細胞における低下したストア作動性Ca2+流入を示す。コントロール(CTRL;黒)とDKO(グレー)マウスからのTreg細胞は、抗CD3(ストレプトアビジン(SA)で架橋結合される)(上)、又はタプシガルギン(TG、下)のいずれかを用いて刺激される。この刺激は、公称Ca2+遊離リンゲル液中、続いて2mMのCa2+リンゲル液でかん流することによってなされ、これによりCa2+流入を誘導する。データは、3回(抗CD3)と2回(TG)の独立した実験を代表するものであり、各実験で110乃至170の細胞が分析された。Cre毒性が事前の実験で観察されなかったため、Stim1fl/flStim2fl/flマウスがコントロールとして用いられることによって、その他の因子、例えば性別、年齢、及び繁殖環境が制御された。
【図16a】野生型Treg細胞によるリンパ球増殖表現型の抑制を示す。亜致死的に放射線を受けたRag1−/−受容マウスからの脾臓(上)とリンパ節(下)から得られた脾臓(上)とリンパ節(下)の代表的な写真であって、このマウスは、Thy1.2DKOマウス単独(左)から、又はThy1.2DKOとコンジェニックB6Thy1.1野生型マウスの両方(右)からのT細胞枯渇骨髄細胞で再構築されたものである。データは、2回の独立した実験からの3匹の混合キメラマウスから得られた結果を代表するものである。
【図16b】野生型Treg細胞をDKOマウスに養子移植した後8週間後、PBS、CD4CD25、及びCD4CD25T細胞が注入されたコントロールマウスとDKOマウスからの脾臓とリンパ節の典型的な写真を示す。Cre毒性は事前の実験で観察されなかったため、我々は、Stim1fl/flStim2fl/flマウスをコントロールとして用いることにより、その他の因子、例えば性別、年齢、及び繁殖環境を調節した。
【図17】Stim1fl/flStim2fl/flCD4−Crereg細胞の低下した抑制活性を示す。コントロール(CTRL;Stim1fl/flStim2fl/fl;左側)又はDKO(右側)マウスから精製されたCD4CD25T細胞は、CFSE標識レスポンダーCD4CD25T細胞と表示割合で72時間、マイトマイシンC処理T細胞枯渇脾細胞と0.3μg/mlの抗CD3の存在下で共培養された。エラーバーは、標準偏差を示す。データは、少なくとも3回の独立した実験の平均である。Cre毒性が事前の実験において観察されなかったため、Stim1fl/flStim2fl/flマウスがコントロールとして用いられることにより、その他の因子、例えば性別、年齢、繁殖環境が調整された。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<定義>
本明細書で使用される際、用語「STIMタンパク質」は、STIM1タンパク質、STIM2タンパク質、又はSTIM1とSTIM2タンパク質の両方を意味する。STIMタンパク質の例は、全て哺乳類のSTIMタンパク質を含み、例えば、ヒトSTIM1タンパク質(Genbankタンパク質受入番号Q13586、NP-003147、AAC51627)、ヒトSTIM2(Genbankタンパク質受入番号Q9P246、NP-065911、AAK82337)、マウスSTIM1(Genbankタンパク質受入番号NP-033313)、及びマウスSTIM2タンパク質(Genbankタンパク質受入番号P83093、NP-001074572、AAK82339、CAN36430)が挙げられる。
【0029】
本明細書で使用される際、用語「STIM遺伝子」は、STIM1タンパク質又はSTIM2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を意味する。STIM遺伝子の例は、全ての哺乳類のSTIMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、ヒトSTIM1遺伝子(Genbank受入番号NM_003156、gi2264345、gi2264346)、ヒトSTIM2遺伝子(Genbank受入番号NM_020860、AF328905)、マウスSTIM1遺伝子(Genbank受入番号NM_009287)、及びマウスSTIM2遺伝子(Genbank受入番号NM_001081103、AM712359、AF328907)が挙げられる。
【0030】
ノックアウトにおいて、ターゲット遺伝子発現は、検出不可能である又は有意ではないことが好ましい。STIM遺伝子のノックアウトとは、各STIMタンパク質機能の大幅な減少のために、発現が検出不可能である又は有意でないレベルにおいてのみ存在することを示す。このことは、多様な機構によって実現可能であり、例えば1以上の停止コドンの挿入やDNAフラグメントの挿入等によるコード配列の破壊の導入、コード配列の欠失、コード配列に関する停止コドンの置換等を含む。ある事例では、外因性トランスジーン配列が最終的にゲノムから欠失され、天然配列の純変化のみを残すこともある。異なるアプローチ法が用いられることによって、「ノックアウト」が実現される。これは、ゲノム遺伝子の全て又は一部の染色体欠失を含むこともでき、非コード領域(特にプロモーター領域、3’調節配列、エンハンサー)の欠失又はSTIM遺伝子の発現を活性化する遺伝子の欠失を含む。また機能的なノックアウトは、天然遺伝子の発現を阻害するアンチセンスコンストラクトの導入によって実現可能である(例えば、Li and Cohen (1996) Cell 85:319-329を参照)。「ノックアウト」はまた、コンディショナルなノックアウトを含み、例えば、ターゲット遺伝子変化の促進物質に動物を暴露させた時のターゲット遺伝子の変化、ターゲット遺伝子部位における組換え促進酵素の導入(例えばCre−loxシステムにおけるCre)、又は生後のターゲット遺伝子変化を指示するその他の方法を含む。
【0031】
本明細書で使用される際、用語「STIM1遺伝子の欠損」又は「STIM1欠損」とは、STIM1遺伝子の破壊のために機能的STIM1タンパク質が産生されないことを意味する。本明細書で使用される際、用語「STIM2遺伝子の欠損」とは、STIM2遺伝子の破壊のために機能的STIM2タンパク質が産生されないことを意味する。本明細書で使用される際、用語「STIM1とSTIM2遺伝子の欠損」又は「STIMタンパク質の欠損」とは、STIM1とSTIM2遺伝子両方の破壊のために機能的STIM1とSTIM2タンパク質が産生されないことを意味する。
【0032】
用語「遺伝子」とは、核酸配列を意味し、適切な調節配列に操作可能にリンクされた時にインビトロ又はインビボでRNAに転写される(DNA)。遺伝子は、コード領域の前後領域(例えば、5’非翻訳(5’UTR)もしくは「リーダー」配列、及び3’UTRもしくは「トレーラー」配列)と同様に、個別のコード領域(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含んでもよく含まなくてもよい。
【0033】
本明細書で使用される際、用語「機能的STIMタンパク質」とは、小胞体中のCa2+ストアの枯渇を感知可能なSTIMタンパク質を意味し、これは、原形質膜におけるCa2+活性化放出カルシウムチャネルを開く引き金であり、外部から細胞内へとCa2+の流入を可能にする。
【0034】
本発明のマウスについて、用語「組織」は任意の組織を含み、例えば、脾臓、骨髄、リンパ節、膵島等の内分泌組織、脳下垂体、膵外分泌部等の外分泌組織、胃腺、小腸腺、ブルンネル腺、唾液腺、乳腺等、及びそれらの腺房が挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
細胞又は動物が2つの同一又は実質的に類似した遺伝子対立遺伝子を有する時、「ホモ接合体」であると言われる。対照的に、細胞又は動物が2つの実質的に異なる対立遺伝子を有する時、その遺伝子は「ヘテロ接合体」であると言われる。
【0036】
本明細書で使用される際、用語「トランスジーン」は、核酸配列を意味し、その核酸配列が導入されるトランスジェニック動物又は細胞に対して、部分的又は全体的に異種である(即ち、外来性である)核酸配列、あるいは、その核酸配列が導入されるトランスジェニック動物又は細胞の内在性遺伝子に対して相同であるが、その核酸配列が挿入された細胞のゲノムを変更するような方法で動物のゲノム内に挿入されるよう設計されている又は挿入されている(例えば、トランスジーンが天然遺伝子とは異なる位置において導入される、又はその挿入がノックアウトを引き起こすものである)核酸配列である。トランスジーンは、1以上の転写調節配列及び任意の他の核酸(例えばイントロン等)に操作可能にリンク可能であるが、これは選択核酸の最適発現に必要となる可能性がある。本発明の例示トランスジーンは、例えば、STIMエクソン2とCreリコンビナーゼ酵素とを融合したネオマイシン耐性遺伝子をコードする。その他の例示トランスジーンは、STIM遺伝子のゲノム配列を用いた相同的組換えによってSTIM遺伝子を破壊することを対象にする(図9参照)。
【0037】
本明細書で使用される際、STIMタンパク質機能に関連する「調節」は、Ca2+結合、Ca2+感知、及び/又は、Orai1活性化における任意の変化又は調整を意味する。Orai1とは、細胞内への/細胞内からの/細胞内でのカルシウムの動き又は流動の変化を最終的に引き起こすものである。調節は、例えば、増加、上方制御、誘発、刺激、阻害緩和、減少、阻害、下方制御、及び抑制を含む。
【0038】
本明細書で使用される際、細胞内カルシウムに関連する「調節」は、細胞内カルシウムにおける任意の変化を意味し、細胞質内及び/又は細胞内カルシウム貯蓄オルガネラ(例えば小胞体)におけるカルシウム濃度の変化、及び細胞内への/細胞内からの/細胞内でのカルシウムの動き又は流動の振幅又は速度の変動を含むが、これらに限定されない。調節は、例えば、増加、上方制御、誘発、刺激、増強、阻害緩和、減少、阻害、下方制御、及び抑制を含む。
【0039】
本明細書で使用される際、「薬剤」は、細胞内カルシウムを調節可能な任意物質を意味する。薬剤の例は、有機小分子、有機大分子、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、ヌクレオチド、核酸(DNA、cDNA、RNA、アンチセンスRNA、及び任意の二重鎖又は一本鎖型の核酸)、ポリヌクレオチド、炭水化物、脂質、糖タンパク質、無機イオン(例えば、Gd3+、鉛、及びランタン)を含むがこれらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用される際、「を備える、を含む(comprising)」は、定義された成分が存在することに加えて、その他の成分も存在可能であることを意味する。「を備える、を含む(comprising)」の使用は、制限を意味するよりむしろ、含有を示すものである。
【0041】
本明細書で使用される際、用語「異種核酸」は、細胞内で自然に生じない核酸配列を意味する。例えば、Stim遺伝子がバクテリア又はウイルスのゲノムに挿入されたときに、バクテリアとウイルスのゲノムは本来Stim遺伝子を有さないため、Stim遺伝子は受容バクテリア又はウイルスに対して異種である。
【0042】
本明細書で使用される際、用語「異種タンパク質」は、細胞内で自然に発現しないタンパク質を意味する。このような「異種タンパク質」は、細胞内に「トランスジーン」として組み込まれた「異種核酸」から発現する。
【0043】
本明細書で使用される際、用語「機能的フラグメント」は、本明細書に記載されているポリペプチドのアミノ酸残基配列よりも短いアミノ酸残基配列を有する任意の対象ポリペプチドを意味する。STIM1又はSTIM2タンパク質の「機能的フラグメント」は、短くなっている又は切断されているが、それにも関わらずCa2+流動、相乗作用変化、及び/又はCRAC電流の活性を検知する能力を有している。「機能的フラグメント」のポリペプチドは、N末端もしくはC末端切断、及び/又は内部欠失をも有することが可能である。
【0044】
本明細書で使用される際、用語「被験者」は、哺乳動物を意味し、好ましくはヒトである。
【0045】
本明細書で使用される際、「同一性」は、配列のアラインメントによって配列のマッチングを最大限にした(即ち、ギャップと挿入を考慮)時に、2以上の配列の対応位置における同一のヌクレオチド又はアミノ酸残基のパーセンテージを意味する。同一性は、既知の方法によって容易に算出可能であり、(Computational Molecular Biology, Lesk, A. M., ea., Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and - 14 Genome Projects, Smith, D. W., ea., Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A. M., and Griffin, H. G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G., Academic Press, 1987; 及び Sequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York, 1991; 及び Carillo, H., and Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988))に記載される方法を含むが、これらに限定されない。同一性を決定する方法は、検査される配列間で最も広くマッチングするように設計されている。さらに、同一性を決定する方法は、BLASTP等の公的に利用可能なコンピュータプログラムにおいて体系化されている。
【0046】
2以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈において、用語「同一な」又はパーセント「同一性」とは、以下に記載する初期設定パラメータで、BLAST又はBLAST2.0配列比較アルゴリズムを用いて測定される、又は、手動アラインメント及び目視検査によって測定された時に、同一である、又は同一なアミノ酸残基又はヌクレオチドを特定の割合有する(即ち、比較ウィンドウ又は指定領域において最大の一致が得られるように比較及びアラインメントされたときに、特定領域(例えば、本明細書に記載される抗体をコードするヌクレオチド配列又は本明細書に記載される抗体のアミノ酸配列等)において、約60%同一性、好ましくは、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はより高い同一性である)2以上の配列又は部分配列を意味する。そして、このような配列は、「実質的に同一である」といわれる。この用語は、試験配列の相補体(compliment)を意味する又は適用可能である。この用語はまた、欠失及び/又は付加、同様に置換を有する配列を含む。以下に記載されるように、好ましいアルゴリズムは、ギャップ等を考慮することができる。好ましくは、同一性は、少なくとも長さが約25アミノ酸又はヌクレオチドである領域にわたって、より好ましくは長さが50−100アミノ酸又はヌクレオチドである領域にわたって、存在する。
【0047】
配列の比較において、典型的には、1つの配列は参照配列として作用し、これと試験配列とが比較される。配列比較アルゴリズムを用いる時、試験及び参照配列がコンピュータ内に入力され、必要に応じて部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムのパラメータが指定される。好ましくは、初期設定プログラムパラメータが使用可能であり、別のパラメータもまた指定可能である。配列比較アルゴリズムはその後、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。
【0048】
本明細書で使用される際、「比較ウィンドウ」は、20−600、通常は約50−約200、より一般的には約50−約200、より一般的には約100−約150からなる群から選択される連続位置数の任意の領域を意味し、その配列は、2つの配列が最適にアラインメントされた後に、同じ連続位置数の参照配列と比較されることが可能である。比較のための配列アラインメントの方法は、技術的に公知である。比較のための配列の最適アラインメントは、例えば、Smith & Waterman,Adv. Appl. Math. 2: 482, 1981の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch,J. Mol. Biol. 48: 443, 1970 の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman,Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85: 2444, 1988 の類似法の調査によって、これらアルゴリズムのコンピューター化実装 (GAP, BESTFIT, FASTA, and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)によって、又は、手動アラインメントと目視検査 (例えば Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al., eds. 1995 supplement)を参照)によって実施可能である。
【0049】
アラインメントを検索するプログラムは、技術的に公知であり、例えば、BLAST等である。例えば、標的種がヒトである場合、このようなアミノ酸配列又は遺伝子配列(生殖細胞系列、又は再配置された抗体配列)のソースは、任意の好適な参照データベースで発見可能である。データベースとしては、例えば、Genbank、NCBIタンパク質データバンク(http://ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、VBASE、ヒト抗体遺伝子のデータベース(http://www.mrc-cpe.cam.ac.uk/imt-doc)、及び免疫グロブリンのKabatデータベース (http://www.immuno.bme.nwu.edu)又はこれらの翻訳産物が挙げられる。アラインメントがヌクレオチド配列に基づいてなされた場合、その後、選択された遺伝子は分析される必要がある。これにより、サブセットのどの遺伝子が、由来する種の抗体に対して最も近いアミノ酸相同性を有しているかが決定される。データベース内のその他の配列と比較してより高い相同性に達するアミノ酸配列又は遺伝子配列が、本明細書に記載の手順に基づいて使用及び操作可能であることが予測される。さらに、より低い相同性を有するアミノ酸配列又は遺伝子は、これらアミノ酸配列又は遺伝子が、本明細書に記載の手順に基づいて操作及び選択された時に既定の標的抗原に対する特異性を発揮する産物をコードする場合には、使用可能である。特定の実施形態では、相同性の許容範囲は、約50%を超える。標的種は、ヒト以外でも可能であることは理解されるべきである。
【0050】
パーセント配列同一性と配列類似性を決定するのに好適なアルゴリズムの一例は、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズムであり、これらは、Altschul et al., Nuc. Acids Res. 25: 3389-3402, 1977、及び Altschul et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410, 1990に、それぞれ記載されている。BLAST及びBLAST2.0は、本明細書に記載のパラメータとともに用いられることによって、本発明の核酸とタンパク質のパーセント配列同一性が決定される。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センターを通じて好適に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.pov/)。このアルゴリズムは、まず、データベース配列内の同じ長さのワード(word)とアラインメントした時に、ある正の値の閾値スコアTに一致する又は満たすW長の短いワードをクエリー配列内に同定することによって、ハイスコアリング配列ペア(HSPs;high scoring sequence pairs)を同定することに関与する。Tは、隣接ワードスコア閾値(neighbourhood word score threshold)を意味する。これらの最初の隣接ワードヒット(wordhit)は、これらを含むより長いHSPsを検索するための検査を開始する際に種となるものである。ワードヒットは、累計的なアラインメントスコアが増加する限り、各配列に沿って両側に伸ばされる。累計スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(一致残基ペアへのリワードスコア;常に>0)およびN(不一致残基のペナルティースコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列については、スコア化マトリックスを用いて、累計スコアを計算する。ワードヒットの両側への伸長は、累計アラインメントスコアが得られている最大値からX分だけ低下した時;累計スコアが、一つ以上の負のスコア化残基アライメントの蓄積によってゼロ以下になった時;又は、どちらかの配列端部に到達した時、に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、及びXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列対象)は、初期設定値として、ワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=−4、及び両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、初期設定値としてワード長3、及び期待値(E)10を使用し、BLOSUM62スコア化マトリックス(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915, 1989 参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。
【0051】
本発明は、本明細書に記載された特定の方法論、プロトコル、及び試薬等に限定されず、変動可能であることは理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を記述することのみを目的としたものであり、本発明の範囲を制限することを意図したものではなく、本発明の範囲は、請求項によってのみ定義される。
【0052】
実施例の操作以外、又は記載以外にも、本明細書に記載される成分又は反応条件の量を表現する全ての数値は、全例において用語「約」に変更可能であると理解されるべきである。パーセンテージに関連して用語「約」が使用される場合には、平均±1%であることができる。
【0053】
単数の用語である「a」「an」及び「the」は、複数の指示対象を含む(文脈が、明らかにそうではないと示している場合を除く)。類似して、単語「or(又は)」は、「and(及び)」を含むことを意図したものである(文脈が、明らかにそうではないと示している場合を除く)。さらに理解されるべきことは、核酸又はポリペプチドに与えられる、全ての塩基サイズ又はアミノ酸サイズ、及び全ての分子量(molecular weight 又はmolecular mass)値は、概算であり、説明を目的としたものである。本明細書に記載されたものと類似する又は同一である方法及び材料は、本開示の実施又は検査に用いられることができ、好適な方法及び材料は、以下に記載される。用語「comprises(を備える、を含む)」は、「include(含む)」を意味する。省略形「e.g.(例えば)」はラテン語のexempli gratia由来であり、本明細書では、非制限的な例を示すのに用いられる。したがって、省略形「e.g.(例えば)」は、「for example(例えば)」と同義である。
【0054】
特定された全ての特許及びその他の刊行物は、説明及び開示を目的とし、引用することにより本願に明確に援用する。例えば、そのような刊行物に記載された手法が本発明に関連して使用されることが可能である。これら刊行物は、本出願の出願日前の開示を目的として単に提供されている。この観点のいずれにおいても、発明者らが、先願発明の価値又はその他の理由によって、このような開示に先行する権利がないことを承認したものとして解釈されてはならない。これら書類の日付に関する全提示、又は内容に関する説明は、出願人が利用可能な情報に基づくものであって、これら書類の日付又は内容の正確さに関する何らかの承認からなるものではない。
【0055】
説明が他になされない限り、本明細書で用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じである。免疫学、トランスジェニックマウス、及び分子生物学における一般用語の定義は、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy 18版, Merck Research Laboratories出版, 2006 (ISBN 0-911910-18-2)」;Robert S. Porter et al. (eds.)The Encyclopedia of Molecular Biology, Blackwell Science Ltd.出版, 1994 (ISBN 0-632-02182-9); 及び Robert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, VCH Publishers, Inc.出版, 1995 (ISBN 1-56081-569-8); The ELISA guidebook (Methods in molecular biology 149), Crowther J. R.著 (2000); Fundamentals of RIA and Other Ligand Assays,Jeffrey Travis著, 1979, Scientific Newsletters; Immunology,Werner Luttmann著, Elsevier出版, 2006,において、見ることができる。分子生物学における一般用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes IX, Jones & Bartlett Publishing出版, 2007 (ISBN-13: 9780763740634); Kendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, Blackwell Science Ltd.出版, 1994 (ISBN 0-632-02182-9); 及び Robert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, VCH Publishers, Inc.出版, 1995 (ISBN 1-56081-569-8)において、見ることができる。
【0056】
他に記載されない限り、本発明は、例えば、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (1982); Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2 ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (1989); Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier Science Publishing, Inc., New York, USA (1986); 又は Methods in Enzymology: Guide to Molecular Cloning Techniques Vol.152, S. L. Berger and A. R. Kimmerl Eds., Academic Press Inc., San Diego, USA (1987), Current Protocols in Molecular Biology (CPMB) (Fred M. Ausubel, et al. ed., John Wiley and Sons, Inc.), Current Protocols in Protein Science (CPPS) (John E. Coligan, et. al., ed., John Wiley and Sons, Inc.) 及び Current Protocols in Immunology (CPI) (John E. Coligan, et. al., ed. John Wiley and Sons, Inc.), Current Protocols in Cell Biology (CPCB) (Juan S. Bonifacino et. al. ed., John Wiley and Sons, Inc.), Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique by R. Ian Freshney,出版社: Wiley-Liss; 第5版 (2005), Animal Cell Culture Methods (Methods in Cell Biology, Vol. 57, Jennie P. Mather and David Barnes編集, Academic Press, 第1版, 1998)に記載されたように標準手順を用いて実施され、これらを引用することによりその全内容を本願に援用することとする。
【0057】
本発明は、機能的STIM1、STIM2、又はSTIM1及びSTIM2タンパク質が欠如したノックアウトトランスジェニックマウスを提供する。本明細書に記載されるSTIM欠損ノックアウト哺乳動物は、組織、細胞、及び細胞株の源を提供し、これらは、(1)Tリンパ球等の細胞内におけるCa2+流動及びCa2+シグナル伝達に影響を与える能力に関する薬剤の同定及び/又は評価をする方法(ここで、Ca2+は、T細胞増殖、活性化、及び持続免疫反応において重要な機能を果たす);(2)細胞内カルシウム流動を調節する薬剤の作用機序を評価する方法;(3)任意のその他のSTIM相同体がない場合に、STIMタンパク質又は変異STIMタンパク質の細胞機能を検査する方法;(4)STIMインヒビター又はSTIMモジュレーターの効果及び/又は有効性を検査する方法;(5)STIM以外の標的におけるインヒビターの作用に起因する副作用又は毒性に関してSTIMインヒビターをスクリーニングする方法;(6)STIMタンパク質活性を阻害する薬剤(例えば、治療薬)を同定する方法;(7)STIMタンパク質活性を模倣する薬剤を同定する方法;及び(8)Ca2+流動に関連する又はCa2+流動によって制御される病気又は疾患を治療する方法を実施するのに有用である。
【0058】
本発明に含まれるSTIM欠損ノックアウトトランスジェニックマウス(Stim1−/−;Stim2−/−;Stim1−/−,Stim2−/−)は、カルシウムホメオスタシスにおけるSTIM1及びSTIM2タンパク質の生理的役割を直接的に同定するためのツールとしての役割を果たすことができる。また、コンディショナルなSTIM欠損ノックアウトマウスは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、多発性嚢胞腎、常染色体優性低カルシウム血症、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症、新生児重症副甲状腺機能亢進症等のカルシウムホメオスタシス関連疾患の病因の研究に有用なモデル動物を提供する。
【0059】
したがって、本発明に含まれるのは、STIM1遺伝子がホモ接合体欠損であることにより機能的STIM1が産生されないトランスジェニックマウス;STIM2遺伝子がホモ接合体欠損であることにより機能的STIM2が産生されないトランスジェニックマウス;及び、STIM1とSTIM2遺伝子両方がホモ接合体欠損であることにより機能的STIM1及びSTIM2タンパク質が産生されないトランスジェニックマウスである。STIMタンパク質の発現は、典型的にはウエスタンブロット分析によって分析され、機能的STIMタンパク質は、ER(小胞体)Ca2+枯渇の刺激の際に、Fura−2/AM又はFura−2アセトキシメチルエステルを用いた蛍光Ca2+測定によって決定される。これらの方法は、技術的に公知である。本発明は、さらにSTIM1遺伝子、STIM2遺伝子、又はSTIM1及びSTIM2遺伝子の両方が、ヘテロ接合体欠損であるマウスを提供する。このマウスは、STIM遺伝子欠損に関してホモ接合体であるマウスの繁殖手段として用いられることができ、これは、それらの異種交配及び夫々のSTIM遺伝子産物の存在/非存在を調べることを通じて実現される。
【0060】
一実施形態では、トランスジェニックマウスは、CD4、CD8、又はCD4/CD8T細胞においてのみ、STIM遺伝子のコンディショナルな欠失を有する。STIM欠損マウスは高確率で周産期致死性を示し、STIM2遺伝子欠損マウスは誕生直後に高い死亡率を示したために、コンディショナルノックアウト戦略が使用された。器官及び組織に特異的なノックアウトは、関心組織又は器官(例えば、胸腺又は骨髄、又は筋細胞等)においてのみCREレコンビナーゼ遺伝子を発現するプロモーターを使用して作り出された。これは、ノックアウト遺伝子が要求される組織又は器官においてのみ活性であるプロモーターを用いて実現される。Cd4エンハンス/プロモーター/サイレンサー(CD4−Cre)の制御下におけるCreトランスジーンを用いたSTIM遺伝子のコンディショナルな破壊によって、胸腺細胞のダブルポジティブ(CD4/CD8)選択段階においてのみ破壊が発生することが可能となる。したがって、正常T細胞の成熟が生じることが可能となる。このコンディショナルなノックアウトマウスは、非機能的STIMタンパク質を含む正常成熟T細胞を提供する。
【0061】
本発明は、また、STIM遺伝子の欠損に関するホモ又はヘテロ接合体である、あるいは、STIM遺伝子の欠損に関するコンディショナルなホモ又はヘテロ接合体であるマウス組織を提供する。このような組織は、例えば、脾臓、リンパ節であり、STIM欠損胎児の胚組織を含み、インビトロ細胞培養研究及び細胞株作成のためにSTIM欠損細胞を採取するのに用いられることが可能である。不死化細胞株は、単離細胞にSV40ラージT抗原をトランスフェクトすることによって作製されることが可能である。組織から単離された細胞から細胞株を作製するその他の方法は、米国特許第4,950,598号、第6,103,523号、第6,458,593号、及び国際公開公報第WO2002/072768号に記載されており、その全体を本出願に引用して援用する。
【0062】
STIMタンパク質の機能は、細胞内のCa2+流動の変化を測定することによって決定可能である。細胞内Ca2+流動はカルシウム結合色素を用いて検出され、幾つか例を挙げると、Fluo3、Indo−1、及びFura等である。これらの色素は、Ca2+と結合すると蛍光を発する。これにより、周囲のCa2+量のセンサーとしての機能を果たす。蛍光変化は時間の経過とともに監視される、又は、細胞は技術的に公知であるフローサイトメトリーで分析されることが可能である。カルシウム測定のその他の方法は、A Cushing, et. al, 1999, J Neurosci Methods 90: 33-6; S Vernino, et. al., 1994, Journal of Neuroscience, 14:5514-5524; 及び Lajos Gergely, et. al., 1997, Clin. Diag. Lab. Immunol. 4: 70-74, 及び米国特許第2007/0031814号に記載されており、これらを本出願に引用して援用する。細胞内カルシウムを調節する薬剤及び分子をスクリーニング又は同定する方法の特定の実施形態において、本方法は、ストア作動性カルシウム流入が生じることが可能な条件下で実施される。このような条件は、本明細書に記載され、また技術的に公知である。検査薬は、STIM欠損の細胞と接触し、該細胞内の細胞内カルシウムの任意の調節についてアッセイが実施可能である。
【0063】
例えば、原形質膜を通過するカルシウムのストア作動性輸送を検出する又は監視するための一方法において、細胞は、細胞内カルシウムストアのカルシウムレベルを減少させるように処理された後、それに応答したイオン(特に陽イオン、例えばカルシウム)流入の痕跡が分析されることが可能である。細胞内ストアのカルシウムレベルを減少させる技術とイオン(特に陽イオン、例えばカルシウム)流入の痕跡に関して細胞を分析する技術は、技術的に公知である。
【0064】
その他の方法において、拡散性信号が、ストア作動性カルシウム流入を検出及び監視する方法においてストア作動性カルシウム流入を活性化させるのに用いられることができる。このような信号の1つは、カルシウム流入因子(CIF;calcium influx factor)と称されており(例えば、Randriamam-pita and Tsien (1993) Nature 364:809-814; Parekh et al. (1993) Nature 364:814-818; Csutora et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:121-126)を参照)、小さい(〜<500D)リン酸塩含有陰イオンであることができる。タプシガルギン処理されたジャーカット(Jurkat)細胞からのCIF活性は、カルシウムポンプ欠損酵母からの類似活性と同様に、アフリカツメガエル卵母細胞(Xenopus oocyte)及びジャーカット細胞におけるカルシウム流入を活性化可能である。抽出物は、ジャーカット細胞の全細胞パッチクランプ中におけるパッチピペットに含まれる時、ICRACに類似する内向き電流を活性化する。
【0065】
他の方法では、細胞分離された原形質膜パッチ、又は外膜のみを用いた(outside-out membrane)小胞を通過する電流の電気生理学的分析は、ストア作動性チャネル電流(例えば、ICRAC等)を検出又は監視するのに用いられることができる。
【0066】
特定された全ての特許及びその他の刊行物は、説明及び開示を目的とし、引用することにより本出願に明確に援用する。例えば、そのような刊行物に記載された手法は、本発明に関連して使用されることが可能である。これら刊行物は、本出願の出願日前の開示を目的として単に提供されたものである。この観点のいずれにおいても、発明者らが、先願発明の価値又はその他の理由によって、このような開示に先行する権利がないことを承認したものとして解釈されてはならない。これら書類の日付に関する全提示、又は内容に関する説明は、出願人が利用可能な情報に基づくものであって、これら書類の日付又は内容の正確さに関する何らかの承認からなるものではない。
【0067】
<間質相互作用分子(STIM;Stromal Interacting Molecule)タンパク質>
STIMタンパク質は、細胞質ドメインから細胞外部分を分離する単一膜貫通領域を備えるI型膜貫通型リンタンパク質である。脊椎動物は2種のSTIMタンパク質であるSTIM1及びSTIM2を有する一方で、無脊椎動物は、1つの遺伝型のみ、例えばキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)ではD−STIMを有する。脊椎動物と無脊椎動物のSTIMタンパク質を比較すると、保存されたゲノム構築が示され、脊椎動物で発見される2つのSTIM遺伝子は、1つの先祖遺伝子から発生したと推定されることが示されている(Williams et al. (2001) Biochem. J. 357: 673-685)。
【0068】
各STIMタンパク質は、いずれか片側がタンパク質のN末端及びC末端部に隣接するタンパク質の開始1/3から1/2の領域に位置する膜貫通領域を含む。STIMのN末端部は細胞質に存在する細胞外領域を形成し、その一方、Ca2+結合EFハンドを含むC末端部はER(小胞体)内腔に存在する。ERのCa2+ストアの枯渇は、Ca2+結合EFハンドによって感知され、その後細胞質領域に導入される。このことは、最終的にはCRACチャネルのOrai1の活性化、チャネルの開口、及び外側からのCa2+の流入を引き起こす。
【0069】
STIMタンパク質は、翻訳後修飾を受ける。STIM1及びSTIM2は、N結合型グリコシル化、及び大部分がセリン残基に生じるリン酸化反応によって修飾される。STIM2のリン酸化の異なるレベルは、タンパク質の2つの分子量のアイソフォーム(約105と115kDa)を説明することができる。対照的に、STIM1の分子量は、約90kDaであり、N結合グリコシル化がツニカマイシンによって阻害されると、約84kDaまで減少する。D−STIM(約65kDaタンパク質)は、STIM1及びSTIM2と同様に、移動度シフト実験からも明らかな如く、N結合グリコシル化によって修飾される(Williams et al. (2001) Biochem. J. 357: 673-685)。
【0070】
<ノックアウトマウスの作製>
ノックアウトマウスの作製、並びに、ES細胞の調製と遺伝子ターゲティング、エレクトロコーポレーション、及びクローン選択等の手順の作成についての詳細な説明は、以下の書籍: Hogan, B., Beddington, R., Costantini, F. and Lacy, E. (1994) Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory; Porter et al., Eur. J. Biochem., vol. 218, pp. 273-281 (1993); Bradley, A. (1991) "Modifying the mammalian genome by gene targeting" Current Opinion in Biotechnology 2: 823-829; Capecchi, M., "The New Mouse Genetics: Altering the Genome by Gene Targeting," Trends in Genetics, vol. 5, No. 3, 70-76 (1989); 米国特許番号:第6100445号, 第6060642号, 第6365796号, 第6747187号, 及び第7166764号、において入手でき、これらを引用することにより本出願に明確に援用する。
【0071】
<本発明の使用>
本発明の実施形態は、STIM1タンパク質が欠損した細胞、STIM2タンパク質が欠損した細胞、又はSTIM1及びSTIM2タンパク質両方が欠損した細胞である。Cd4エンハンス/プロモーター/サイレンサー(CD4−Cre)の制御下でCreトランスジーンを使用することにより、胸腺細胞のダブルポジティブ(CD4CD8)選択段階においてのみSTIM遺伝子の破壊が発生可能となる。したがって、正常T細胞の成熟が生じることが可能となる。これは、Stim1及び/Stim2の細胞型特異的なコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子の一例である。Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方のTリンパ球を有する生存マウスは、このコンディショナルノックアウト戦略を用いて得ることができる。Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方のTリンパ球は、脾臓又はリンパ節から、本明細書に記載の方法によって分離され、分化及び/又は活性化された後、インビトロ研究に使用するために培養されることが可能である。
【0072】
その他の実施形態では、Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方の非コンディショナルなノックアウトマウスの胚が使用されることにより、Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方の細胞が提供され、インビトロ細胞培養研究に用いられる。ノックアウトマウス胚の発生段階の中期から後期(E13−E19)は、多様な組織タイプ(例えば、筋肉、心臓、脾臓、肝臓等)に関する詳細分析が可能であり、組織は浸軟され、酵素は消化(例えばトリプシン又はコラゲナーゼ)され、粉砕され、そして単一細胞が微細メッシュを通って濾過されることにより単離される。これらの単離初代細胞は、その後、技術的に公知である細胞型特異的表面マーカーに基づく特異的細胞型に関して選択される。初代細胞を単離する一般的な方法は、www.tissuedissociation.com/techniques.htmlに見つけることが可能である。例えば、マウス胎児線維芽細胞の単離は、Hertzog PJ. 2001, Methods Mol Biol. 158:205-15; Linda C. Samuelson and Joseph M. Metzger in CSH Protocols; 2006; doi:10.1101/pdb.prot4482に記載されており、これらを本出願に引用することにより援用する。単離細胞は、少なくとも95%純粋であるはずであり、即ち細胞の95%が、選択された細胞型であるはずである。例えば、脾臓又はリンパ節から精製されたCD4細胞の単離サンプルは、少なくとも95%のCD4細胞を有するはずである。
【0073】
一実施形態では、単離細胞は、例えば、Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方であるマウス胎児線維芽細胞又はCD4細胞であり、不死化されることによって、Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方である細胞株を作り出すことができ、インビボ細胞研究において使用される。細胞を不死化する方法は、本明細書に記載される。
【0074】
Stim2−/−である細胞株及びCD4細胞は、Stim1インヒビター又はStim1モジュレーターの効果及び/又は有効性を研究するために使用されることができる。同様に、Stim1−/−である細胞株及びCD4細胞は、Stim2インヒビター又はStim2モジュレーターの効果及び/又は有効性を研究するために使用されることができる。Stim1とStim2の両方が、異なるレベルにおいてではあるがSOC CRACチャネルを介したCa2+流入の一因となるため、一方のSTIMタンパク質の欠失により、その他のSTIMタンパク質を阻害又は調節する薬剤の実験及び評価が可能となる。例えば、化合物Xが細胞におけるCa2+流入を阻害するとして公知である場合には、Stim2−/−又はStim1−/−細胞を用いて化合物Xを試験することにより、この化合物XがSTIM1又はSTIM2タンパク質の阻害を介してCa2+流入を阻害するかどうかが評価できる。あるいは、化合物YがSTIM1を阻害するとして公知である場合には、Stim1−/−の細胞は、化合物YもまたSTIM2タンパク質を阻害するかどうかを評価するのに用いられることが可能である。本明細書で使用されている如く、「阻害する(inhibit)」は、STIMタンパク質のCa2+検出、Ca2+結合、Orai1活性化能、Ca2+流入促進活性、及び/又は細胞内のCa2+媒介性サイトカイン発現を、妨害し、停止させ、減少させ、減らし、遅らせることを意味する。このような細胞は、リンパ球、T細胞、制御性T細胞、又は胎児線維芽細胞であることができる。インヒビター非存在下のCa2+流入と比較して、インヒビター存在下のCa2+流入量は少なくとも5%減少するはずである。本方法は、STIMインヒビターをSTIM欠損細胞に接触させる工程と、その細胞のCa2+流入を評価する工程と、処理細胞内にCa2+流入減少が観察された場合にSTIMインヒビターが有用であると決定する工程とを含む。
【0075】
Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方である細胞株とC4細胞は、細胞内Ca2+含有量を調節する薬剤を研究するのに用いることができる。薬剤は、STIMタンパク質を介して、故にSTIM依存経路、又は特定のその他の機構又は経路を介して、細胞内Ca2+含有量を調節することができる。Stim1−/−Stim2−/−両方である細胞株とC4細胞は、薬剤が、STIM依存経路又は特定の他の経路に作用することによってCa2+を調節するか否かを決定するのに用いられる。本方法は、薬剤を、Stim1−/−Stim2−/−細胞に接触させる工程と、その細胞のCa2+流入を評価する工程と、処理及び非処理Stim1−/−Stim2−/−細胞で観察されるCa2+流入において有意な変動がない時に、薬剤が、STIMタンパク質に対する影響を介して細胞内Ca2+を調節していることを決定する工程とを備える。
【0076】
Stim1−/−Stim2−/−両方である細胞株とC4細胞は、個別STIMタンパク質又は変異STIMタンパク質の細胞機能を研究するのに用いられることができ、例えば、変異STIMは、Ca2+結合、Ca2+検出、又はCRACチャネルの活性化に欠損を有する場合がある。STIM遺伝子の発現ベクターと変異体の構築は、技術的に公知である。標識又は標識変異STIMタンパク質である組換え野生型STIMタンパク質をコードする遺伝子は、検査されるSTIMタンパク質に応じて、Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方である細胞内に導入されることができる。STIMタンパク質の個別領域の機能は、STIMヌルバックグラウンド(即ち、両方のStim1−/−Stim2−/−細胞)において検査され、Ca2+流動及び/又はOrai1との相互作用が分析された。STIMタンパク質の標識化は、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はmyc又はHAによって実施され、これは、STIMタンパク質の位置付けと検出に有用であり、実験中のタンパク質機能分析に役立つものである。
【0077】
細胞内のCa2+媒介性サイトカイン発現は、持続Ca2+流入に依存する。持続Ca2+流入は、ストア作動性Ca2+放出活性化Ca2+(CRAC)チャネルを通過し、これはリンパ球活性化と増殖に関する必須信号である。CRAC電流の活性化は、STIMタンパク質によって開始される。したがって、Stim2特異的であってStim1特異的ではない阻害は、細胞内へのストア作動性Ca2+流入を大幅に変動させない。この一方で、Stim1特異的であってStim2特異的ではない阻害は、細胞内へのストア作動性Ca2+流入を大幅に変動させる。
【0078】
本明細書に提示される一実施形態は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない方法であって、細胞を、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量の選択的Stim2インヒビターに接触させる工程を備える方法である。一実施形態において、細胞はリンパ球である。その他の実施形態において、細胞はT細胞である。その他の実施形態において、T細胞は制御性T細胞である。その他の実施形態において、選択的Stim2インヒビターは、細胞内においてStim1と比較してStim2を選択的に抑制し、この細胞とは、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる。一実施形態では、細胞サイトカインに発現するCa2+媒介性サイトカインは、細胞内においてストア作動性Ca2+流入に大幅な減少がない場合、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択される。この際、細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞である。一実施形態では、ストア作動性Ca2+流入における大幅な減少がないということは、コントロール(インヒビター非存在下)と比較して、インヒビター存在下では、ストア作動性Ca2+流入の減少が2%以下であることを意味する。
【0079】
本明細書に提示される一実施形態は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法であって、細胞を、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こすのに効果的な量の選択的Stim1インヒビターに接触させる工程を備える。この細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる。一実施形態において、選択的Stim1インヒビターは、細胞内においてStim2と比較してStim1を選択的に抑制し、この細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができ、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こすことを目的とする。一実施形態では、細胞に発現するCa2+媒介性サイトカインは、細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少がある場合、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択される。この際、細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞である。
【0080】
本明細書で提示される一実施形態は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法であって、細胞を、Stim1インヒビター及びStim2インヒビターに接触させる工程を備える。これらインヒビターの量は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量である。この細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる。一実施形態では、Stim1インヒビターとStim2インヒビターは、同じ化学構造を有する。一実施形態では、細胞に発現するCa2+媒介性サイトカインは、細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少がある場合、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択される。この際、細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞である。
【0081】
本明細書で提示される一実施形態は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法であって、細胞を、Stim1インヒビター及びStim2インヒビターに接触させる工程を備える。これらインヒビターの量は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量である。この細胞は、腫瘍を有する被験者に存在する制御性T細胞であり、インヒビターの量は、腫瘍に対する免疫反応の増加に有効である。
【0082】
ストア作動性Ca2+流入は、本明細書に記載されるCa2+流入を測定及び監視する方法、及び技術的に公知であるその他の方法によって決定されることが可能である。その他の方法とは、例えば、米国特許公報第2007/0031814号に記載されており、その全体を本出願に引用して援用する。
【0083】
IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマ等のCa2+媒介性サイトカイン発現を決定する方法は、本明細書に記載される特定の抗体を用いた免疫染色法及びFAC選別法、そしてELISA法、及び定量的リアルタイムPCR法を含むがこれに限定されない。
【0084】
本明細書に提示される一実施形態は、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現
を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない検査薬を同定する方法であって、(a)少なくとも1つの検査薬を、STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備え、異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントは、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有する。本方法はさらに、(b)細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を測定する工程と、(c)細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備える。本明細書に記載される検査薬を同定する方法で使用されるこの細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる。一実施形態では、細胞内において発現するCa2+媒介性サイトカインは、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択される。この際、細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞である。
【0085】
細胞膜を介するイオン流動電流又は膜電位を測定する方法は、当業者にとって公知であり、そして本明細書にも記載されている。
【0086】
本明細書で記載されるその他の実施形態は、被験者内の腫瘍に対する免疫反応を増大させる検査薬を同定する方法であって、(a)少なくとも1つの検査薬を、STIM1タンパク質又はその機能性フラグメント、及びSTIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備える。異種STIM1タンパク質又はその機能性フラグメントは、ヒトSTIM1タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントは、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有する。そして、細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備える。この方法は、さらに、(b)検査薬を異種STIM1タンパク質の単離形態に接触させ、検査薬の単離異種STIM1タンパク質への結合性を測定する工程と、(c)検査薬を異種STIM2タンパク質の単離形態に接触させ、検査薬の単離異種STIM2タンパク質への結合性を測定する工程とを備える。本明細書に記載される腫瘍に対する免疫反応を増大させる検査薬を同定する方法に用いられる細胞は、リンパ球、T細胞、又は制御性T細胞であることができる。
【0087】
本明細書に使用される際、用語「組換え細胞」は、自然に発生するゲノムにトランスジーンが組み込まれている細胞を意味する。また、「組換え細胞」は、本明細書に記載されるStim1及び/又はStim2の細胞型特異的なコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物由来の単離細胞も意味する。このような「組換え細胞」は、リンパ球、T細胞、制御性T細胞、胎児線維芽細胞、又はその不死化細胞株であることができる。
【0088】
ヒトSTIMタンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有する異種STIMタンパク質又はその機能性フラグメントを発現する組換え細胞と、細胞ベースのアッセイに好適な細胞型(即ち、細胞内ストア及び/又は発現Ca2+媒介性サイトカインからのカルシウムイオンがあると、放出に影響を及ぼすことができるシグナル伝達及びメッセンジャーシステムの要素を含む細胞)と、そして、細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備える方法とは、米国特許公報第2007/0031814号に記載される及び/又はこれに基づき実施可能であり、その全体を本出願に引用して援用する。
【0089】
一実施形態において、本発明は、STIMタンパク質に関与しない細胞内カルシウム流動を調節する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、Stimタンパク質が欠損している細胞を使用することを含む。本方法は、Stim欠損細胞を薬剤と接触させる工程と、Stim欠損細胞内におけるCa2+流入に対する薬剤の影響を評価する工程と、薬剤が、細胞内Ca2+に影響を及ぼす場合に細胞内Ca2+を調節する薬剤として同定する工程とを備える。細胞内Ca2+への影響は、細胞内Ca2+含有量又は流動における任意の変動であることができる。使用されるStim欠損細胞は、Stim1−/−、Stim2−/−、又はStim1−/−Stim2−/−両方であることができる。このようにして同定された薬剤は、カルシウムホメオスタシス関連疾患の治療の開発に有用となりうる。
【0090】
一実施形態において、本発明は、STIM依存性経路を介して細胞内カルシウム流動を調節する薬剤の作用機序を評価する方法を提供する。本方法は、Stimタンパク質が欠損している細胞の使用を含む。使用されるStim欠損細胞は、STIM1−/−、STIM2−/−、又はSTIM1−/−STIM2−/−の両方であることができる。この方法は、Stim欠損細胞を薬剤と接触させる工程と、Stim欠損細胞内のCa2+流入における薬剤の影響を評価する工程と、非Stim欠損細胞におけるCa2+流入に対する薬剤の影響と比較する工程と、及び薬剤がStim欠損細胞における細胞内Ca2+流入に対する影響において少なくとも5%の減少を有する場合には、その薬剤を、Stim依存性経路を介して細胞内Ca2+を調節する薬剤として決定する工程を備える。例えば、Stim1欠損細胞が薬剤Zを評価するのに用いられた場合、薬剤Zは、通常のStim1レベルを発現する細胞と比較してCa2+流入の影響がStim1欠損細胞において30%減少している際、Stim1依存性経路を介してCa2+を調節する薬剤として同定される。同様に、Stim2欠損細胞が薬剤Pを評価するのに用いられた場合、薬剤Pは、通常のStim2レベルを発現する細胞と比較してCa2+流入の影響がStim2欠損細胞において30%減少している際、Stim2依存性経路を介してCa2+を調節する薬剤として同定される。
【0091】
一実施形態において、トランスジェニック動物及びトランスジェニック動物由来の細胞は、STIM自体以外の標的(例えば、その他のSTIM様タンパク質等)に対するインヒビターの作用に起因する副作用又は毒性に関して、STIMインヒビターをスクリーニングするのにも使用可能である。例えば、STIMインヒビターは、STIM1、又はSTIM2、又はSTIM1/STIM2とホモ接合体であるコンディショナルなノックアウトマウスに投与され、得られる影響が監視されることにより、インヒビターの副作用又は毒性が評価される。動物は、標的組織/細胞における各STIMインヒビターの正常標的がないために、インヒビターをSTIM1−/−、STIM2−/−、又はSTIM1−/−とSTIM2−/−マウスに投与した時に観察される影響は、その他の標的におけるSTIMインヒビターの副作用、又はその他の組織及び細胞におけるSTIMタンパク質機能を抑制する有害作用に起因する可能性がある。同様に、STIMタンパク質欠損細胞は、その他の細胞機能におけるSTIMインヒビターの副作用又は毒性を検査するのに用いられることができる。したがって、本発明のトランスジェニック動物、組織、細胞、及び細胞株は、これら副作用を、STIM活性に対するインヒビターの直接的な影響から識別するのに有用である。
【0092】
一実施形態では、本発明は、特異的なSTIMタンパク質活性を抑制する薬剤(例えば治療薬)の同定方法を提供する。本方法は、STIM1又はSTIM2タンパク質欠損細胞の使用を含む。Stim1−/−細胞は、STIM2を特異的に阻害する薬剤を、故にSTIM2依存性経路を介して細胞内Ca2+流動を調節する薬剤を、スクリーニングする及び同定するのに有用である。同様に、Stim2−/−細胞は、STIM1を特異的に阻害する薬剤を、故にSTIM1依存性経路を介して細胞内Ca2+流動を調節する薬剤を、スクリーニングする及び同定するのに有用である。本発明は、Stim欠損細胞を薬剤に接触させる工程と、Stim欠損細胞内のCa2+流入に対する薬剤の影響を評価する工程と、非Stim欠損細胞内のCa2+流入に対する薬剤の影響と比較する工程と、薬剤が、Stim欠損細胞における細胞内Ca2+に対する影響において少なくとも5%の減少を有する場合には、その薬剤を、各STIMを阻害する薬剤として決定する工程を備える。
【0093】
その他の実施形態では、本発明は、STIMタンパク質活性を模倣する薬剤を同定する方法を提供する。本方法は、STIMタンパク質欠損細胞の使用を含む。Stim1−/−細胞は、STIM1を特異的に模倣する薬剤をスクリーニング及び同定するのに有用である。Stim2−/−細胞は、STIM2を特異的に模倣する薬剤をスクリーニング及び同定するのに有用である。本方法は、Stim欠損細胞を薬剤に接触させる工程と、Stim欠損細胞内のCa2+流入に対する薬剤の影響を評価する工程と、コントロール(非処理Stim欠損細胞)におけるCa2+流入に対する薬剤の影響と比較する工程と、薬剤が、コントロールのものよりもStim欠損細胞における細胞内Ca2+に少なくとも5%の増加を引き起こす場合、その薬剤がSTIM活性を模倣するとして決定する工程を備える。
【0094】
検査薬又はインヒビターは、生体分子を含むがこれに限定されず、生体分子は、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣薬、ヌクレオチド、核酸(DNA、cDNA、RNA、アンチセンスRNA、及び任意の二重鎖又は一本鎖型の核酸及び誘導体、並びにその構造類似体を含む)、ポリヌクレオチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、炭水化物、脂質、リポタンパク質、及び糖タンパク質を含むがこれらに限定されない。このような生体分子は、実質的に精製されることができ、あるいは、細胞抽出物又は上清等の混合物中に存在することができる。検査薬は、さらに合成又は天然化合物を含み、例えば、単純又は複雑な有機分子、金属含有化合物、及び無機イオン等である。さらに含まれるのは、選択的に化学修飾(例えばアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等)を直接的又はランダムに受けることが可能である薬理化合物であり、これにより構造類似体が生成される。
【0095】
本方法に好適に使用される検査薬は、選択的に化合物ライブラリに含まれることができる。各種多様な有機化合物及び生体分子をランダム又は直接的に合成することによって化合物ライブラリを生成する方法は、技術的に公知であり、ランダム化オリゴヌクレオチド及びオリゴペプチドの発現を含む。細菌、菌、植物及び動物の抽出物形態での天然化合物の生成方法は、技術的に公知である。さらに、合成的生成又は天然化合物、及び化合物ライブラリは、従来の化学、物理学、及び生化学手段によって容易に修飾されることにより、コンビナトリアルライブラリを作成することができる。化合物ライブラリは、商業的供給源からも利用可能である。
【0096】
本明細書に提示された方法を用いて同定された検査薬は、悪性腫瘍の治療に関連して用いられることも可能である。悪性腫瘍とは、リンパ網内系由来の腫瘍、膀胱癌、乳癌、結腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、肺癌、黒色腫、卵巣癌、前立腺癌、及び直腸癌を含むがこれらに限定されない。ストア作動性カルシウム流入は、癌細胞内の細胞増殖において重要な役割を有することができる(Weiss et al. (2001) International Journal of Cancer 92 (6):877-882)。T制御性細胞は、腫瘍に対する免疫反応を制限することができる。本明細書に記載される実験は、T制御性細胞が他のT細胞よりもSTIM1及びSTIM2の同時消失(欠失)に対して感受性が高いことを示している。本明細書に記載の方法に基づき同定される検査薬は、T細胞の量の減少により癌に対する免疫反応を増大させることによって、癌治療に有用であることができる。本明細書で用いられる際、用語「腫瘍」は、組織の異常増殖に起因する組織成長の塊を意味する。
【0097】
本発明は、下記の番号付の項のいずれかによって定義されることが可能である。
[A]細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない方法であって、細胞を、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量の選択的Stim2インヒビターに接触させる工程を備える方法。
[B]細胞が、リンパ球であることを特徴とする項[A]記載の方法。
[C]細胞が、T細胞であることを特徴とする項[B]記載の方法。
[D]T細胞が、制御性T細胞であることを特徴とする項[C]記載の方法。
[E]選択的Stim2インヒビターが、Stim1と比較してStim2を選択的に抑制することを特徴とする項[A]乃至[D]いずれかに記載の方法。
[F]サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする項[A]乃至[E]いずれかに記載の方法。
[G]細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ該細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法であって、細胞を、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こすのに効果的な量の選択的Stim1インヒビターに接触させる工程を備える方法。
[H]細胞が、リンパ球であることを特徴とする項[G]記載の方法。
[I]細胞が、T細胞であることを特徴とする項[H]記載の方法。
[J]T細胞が、制御性T細胞であることを特徴とする項[I]記載の方法。
[K]選択的Stim1インヒビターが、Stim2と比較してStim1を選択的に抑制することを特徴とする項[G]乃至[I]いずれかに記載の方法。
[L]サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする項[G]乃至[K]いずれかに記載の方法。
[M]細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ該細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法であって、細胞を、Stim1インヒビター及びStim2インヒビターに接触させる工程を備え、これらインヒビターの量が、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量であることを特徴とする方法。
[N]細胞が、リンパ球であることを特徴とする項[M]記載の方法。
[O]細胞が、T細胞であることを特徴とする項[O]記載の方法。
[P]T細胞が、制御性T細胞であることを特徴とする項[P]記載の方法。
[Q]Stim1インヒビターとStim2インヒビターが、同じ化学構造を有することを特徴とする項[M]乃至[P]いずれかに記載の方法。
[R]サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする項[M]乃至[Q]いずれかに記載の方法。
[S]制御性T細胞が、腫瘍を有する被験者に存在し、インヒビターの量が、腫瘍に対する免疫反応の増加に有効であることを特徴とする項[P]に記載の方法。
[T]細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ該細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない検査薬を同定する方法であって、(a)少なくとも1つの検査薬を、STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備え、異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントが、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、方法はさらに、(b)細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を測定する工程と、(c)細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備えることを特徴とする方法。
[U]細胞が、T細胞であることを特徴とする項[T]記載の方法。
[V]サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする項[T]記載の方法。
[W]被験者内の腫瘍に対する免疫反応を増大させる検査薬を同定する方法であって、
(a)少なくとも1つの検査薬を、STIM1タンパク質又はその機能性フラグメント、及びSTIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備え、異種STIM1タンパク質又はその機能性フラグメントが、ヒトSTIM1タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントが、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、そして、細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備え、方法はさらに、
(b)検査薬を異種STIM1タンパク質の単離形態に接触させ、検査薬の単離異種STIM1タンパク質への結合性を測定する工程と、
(c)検査薬を異種STIM2タンパク質の単離形態に接触させ、検査薬の単離異種STIM2タンパク質への結合性を測定する工程とを備えることを特徴とする方法。
[X]細胞が、T細胞であることを特徴とする項[W]記載の方法。
[Y]Stim1及び/又はStim2の細胞型特異的なコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物。
[Z]動物がマウスであることを特徴とする項[Y]記載の非ヒトトランスジェニック動物。
[AA]細胞型がT細胞であることを特徴とする項[Z]に記載のトランスジェニックマウス。
[BB]細胞型が神経細胞であることを特徴とする項[Z]に記載のトランスジェニックマウス。
[CC]細胞型がマウス胎児線維芽細胞であることを特徴とする項[Z]に記載のトランスジェニックマウス。
[DD]ターゲティングされた対立遺伝子が、コンディショナルに欠失していることを特徴とする項[Y]乃至[CC]のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
[EE]項[Y]乃至[DD]のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物由来の単離細胞。
【0098】
本発明は、以下に示す実施例においてさらに示されるが、実施例は制限的なものとして解釈されるべきではない。本出願の図や表を含む全てにおいて引用された全ての参照文献の内容を本出願に引用して援用する。
【0099】
本発明は、本明細書に記載された特定の方法論、プロトコル、及び試薬等に限定されず、変動可能であることは理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を記述することのみを目的としたものであり、本発明の範囲を制限することを意図したものではなく、本発明の範囲は、請求項によってのみ定義される。
【0100】
実施例の操作以外、又は記載以外にも、本明細書に記載される成分又は反応条件の量を表現する全ての数値は、全例において用語「約」に変更可能であると理解されるべきである。パーセンテージに関連して用語「約」が使用される場合には、平均±1%であることができる。
【0101】
[実施例]
<導入>
Ca2+放出活性化カルシウム(CRAC:Ca2+ release-activated calcium)チャネルを経由したストア作動性Ca2+流入は、刺激を受けた免疫細胞内における細胞内Ca2+増加の主要な機構である(Parekh, A.B. & Putney, J.W., Physiol. Rev. 85, 757-810 (2005))。CRACチャネルは、小胞体(ER;endoplasmic reticulum)Ca2+ストアがIP3受容体に結合するイノシトール三リン酸(IP3)によって枯渇した後、開く。持続Ca2+流入は、T細胞分化及びサイトカイン発現を含む免疫細胞の多様な機能を引き起こす(Lewis, R.S., Annu. Rev. Immunol. 19, 497-521 (2001); Feske, S.,et. al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 311, 1117-1132 (2003); Gallo, E.M., et. al., Nature Immunol. 7, 25-32 (2006))。ショウジョウバエ(Drosophila)におけるゲノム全体のRNAiスクリーニングによって、CRACチャネル活性を制御する2つのキー分子が同定された。これら2つのキー分子とは、ERのCa2+センサーであるStim(Roos, J. et al., J. Cell Biol. 169, 435-445 (2005); Liou, J. et al., Curr. Biol. 15, 1235-1241 (2005))と、CRACチャネルのポアサブユニットであるOrai(Feske, S. et al., Nature 441, 179-185 (2006); Vig, M. et al., Science 312, 1220-1223 (2006); Zhang, S.L. et al.,. Proc. Natl Acad. Sci. U S A 103, 9357-9362 (2006))である。ショウジョウバエStim及びその哺乳類相同体Stim1とStim2(Roos, J. et al., J. Cell Biol. 169, 435-445 (2005); Liou, J. et al., Curr. Biol. 15, 1235-1241 (2005))は、ER内腔内に配されたCa2+結合EFハンドを通ってERのCa2+レベルを感知すると考えられている1回膜貫通タンパク質である(Taylor, C.W., Trends Biochem. Sci. 31, 597-601 (2006); Lewis, R.S., Nature 446, 284-287 (2007); Putney, J.W., Jr., Cell Calcium (2007))。Stim1は、ストア作動性Ca2+流入における確立した正の調節因子である(Zhang, S.L. et al., Nature 437, 902-905 (2005); Spassova, M.A. et al., Proc. Natl Acad. Sci. U S A 103, 4040-4045 (2006); Luik, R.M., et. al., J. Cell Biol. 174, 815-825 (2006); Wu, M.M., et. al., J. Cell Biol. 174, 803-813 (2006); Baba, Y. et al. Proc. Natl Acad. Sci. U S A 103, 16704-16709 (2006))が、Stim2の機能は議論中である(Roos, J. et al., J. Cell Biol. 169, 435-445 (2005); Liou, J. et al., Curr. Biol. 15, 1235-1241 (2005); Soboloff, J. et al., Curr. Biol. 16, 1465-1470 (2006); Soboloff, J. et al., J. Biol. Chem. 281, 20661-20665 (2006))。Stim1とStim2の生理的役割を調査するために、変異マウスが、Stim1とStim遺伝子のコンディショナルな欠失により作製された。ここで、本発明者らは、Stim1が、ナイーブT細胞及びマウス胎児線維芽細胞(MEFs;mouse embryonic fibroblasts)においてストア作動性Ca2+流入の主要エフェクターであり、その欠損は、T細胞サイトカインの発現を著しく損なうことになることを示す。対照的に、Stim2は、ナイーブT細胞におけるストア作動性Ca2+流入に対して影響が殆どないものの、MEFsにおけるストア作動性Ca2+流入、及び分化したT細胞による、もしくは部分的にNFAT核局在化の後期を持続することによるサイトカイン発現に対して大きな要因となる。このようにして、Stim1及びStim2は、いずれも、分化したT細胞においてCa2+依存性サイトカイン発現の正の調節因子である。より大量なStim1が反応開始に必須であるが、適量のStim2がStim1の機能を増強するのに重大な役割を有する。
【0102】
<方法>
(コンディショナルな遺伝子ターゲティング)
Stim1及びStim2遺伝子の遺伝子ターゲティングが、既述の如く(Muljo, S.A. et al. J. Exp. Med. 202, 261-269 (2005))、C57BL/6マウス由来のBruce−4ES細胞における相同的組換えによって実施された。ターゲティングされたStim対立遺伝子を有するキメラマウスは、ヘテロ接合体Stim1neo/+又はStim2neo/+ES細胞クローンの胚盤胞注入(blastcyst injection)によって作製された(図9参照、ネオ=ネオマイシン耐性遺伝子)。Stim1−/−又はStim2−/−マウスは、CMV−Cre(Creディレーター(deleter))トランスジェニックマウスと交配させた後、ファウンダーStim1neo/+マウスの後代を交雑させることによって作製された(Schwenk, F., et. al. Nucleic Acids Res 23, 5080-5081 (1995))。Creトランスジーンを含まずにStim1+/−又はStim2+/−マウスを構築するために、Stim+/−CMV−CreマウスをC57BL/6マウスと交配させた。コンディショナルなStim1fl/+又はStim2fl/+対立遺伝子を作成するために、ファウンダーStimneo/+キメラマウスをFlpディレータートランスジェニックマウスと交配させ(Rodriguez, C.I. et al., Nat Genet 25, 139-140 (2000))、これによりターゲティングされたStim対立遺伝子からネオマイシン耐性カセットを取り除いた。Rag1−/−及びB6.Cg(Igh,Thy1.1、Gpi1)マウスがJackson laboratoryから購入された。Stim遺伝子のT細胞特異的破壊を有するマウスを作製するために、CD4−Creトランスジェニックマウス(Lee, P.P. et al. Immunity 15, 763-774 (2001))を各ファウンダーStimfl/+マウスと交配させ、後代を交雑させた。全てのマウスは、ハーバード・メディカル・スクールにおいて特異的無菌バリア設備内に維持され、ハーバード・メディカル・スクールにおける動物資源及び比較医学センターによって承認された手続きに基づき、使用された。
【0103】
(T細胞分化、レトロウイルス導入及び刺激)
脾臓及びリンパ節からのCD4T細胞の精製、TH分化の導入、10nMのPMA及び1μMイオノマイシン、又はプレート結合抗CD3と抗CD28を用いた刺激、及び細胞内染色及びフローサイトメトリー分析によるサイトカイン産生の評価が、既述の如く実施された(Ansel, K.M. et al., Nature Immunol. 5, 1251-1259 (2004))。Foxp3発現は、抗Foxp3(eBioscience)を用いて、製造業者のプロトコルに基づき細胞内染色で評価され、フローサイトメトリーで分析された。レトロウイルス形質導入が、既述の如く(Wu, Y. et al., Cell 126, 375-387 (2006))、KMVレトロウイルス発現プラスミドを用い、空の又は含有Stim1又はStim2cDNAのいずれか、その後にGFPのcDNAで、内部リボソーム侵入部位(IRES;internal ribosome entry site)の支配下で実施された。これらのCa2+流入欠損にもかかわらず、STIM1欠損T細胞は、通常通り、CD25(IL−2R−α鎖)を上方制御した。したがって、分化培養物がIL−2で維持されていたために、略同等数の細胞が回復した(7日間、分化したSTIM欠損細胞の全細胞数は野生型の細胞数の60−70%であった)。そして、STIM欠損細胞は、野生型細胞と同じ効率性で、レトロウイルス形質導入されることが可能であった。
【0104】
(MEF細胞株の構築)
Stim1−/−及びStim2−/−マウス胎児線維芽細胞(MEFs)は、Stim1+/−又はStim2+/−マウスのいずれかを交雑させることによって得られるE14.5胚から、標準プロトコルを用いて構築された。MEFsは、ハイグロマイシン耐性遺伝子を運ぶプラスミド内にSV40ラージT抗原でレトロウイルス形質導入されることによって不死化され、続いてハイグロマイシン選択された。
【0105】
(抗体及びウエスタンブロット)
細胞をPBS内で再懸濁することによって、細胞抽出物が調製された。その後、それらを、50mMのNaCl、50mMのTris−HCl(pH6.8)、2%SDS、10%グリセロール(最終濃度)を含む緩衝液で溶解した。タンパク質濃度が、BCAタンパク質試薬キット(Pierce)を用いて決定され、その後、2−メルカプトエタノールが最終濃度100μMへと追加され、サンプルは煮沸された。ウエスタンブロットが標準プロトコルに基づき実施された。STIM1ポリクローナル抗体は、ヒトSTIM1(CDNGSIGEETDSSPGRKKFPLKIFKKPLKK-COOH, (SEQ. ID. No.1、N末端のシステインが、ペプチドを担体タンパク質と結合させることを目的として導入されている箇所)のC末端ペプチドに対して生成され(Open Biosciences)、1:2000で使用された。アフィニティー精製ポリクローナル抗体は、ヒトSTIM2(CKPSKIKSLFKKKSK, (SEQ. ID. No. 2)、N末端のシステインが、ペプチドを担体タンパク質と結合させることを目的として導入されている箇所)のC末端ペプチドに対して生成され、2μg/mlで使用された。アクチンに対するポリクローナル抗体(I-19; SC-1616; Santa Cruz)は、1:500で使用された。mycエピトープ標識に対するモノクローナル抗体は、9E10ハイブリドーマ細胞株の上澄みから精製された。FACS分析に用いられる全ての下記の蛍光共役抗体は、eBioscience又はBD Pharmingenから購入した。Pacific Blue-CD4 (RM4-5), FITC-CD8 (53-6.7), FITC-Thy1.1 (HIS51), FITC-IgE (R35-72), FITC-CD11c (M1/70), PE-IL-2 (JES6-5HA), PE-IL-4 (11B11), PE-Foxp3 (FJK-16s), PE-CD19 (1D3), PE-CD125 (T21.2), PE-CD44 (IM7), PE-CD95 (Jo2), PerCP-B220 (RA3-6B2), PsrCPCy5.5-CD4 (RM4-5), PECy7-Thy1.2 (53-2.1), APC-IFNγ (XMG1.2), APC-IL-10 (JES5-16E3), APC-TNFα (MP6-XT22), APC-CD25 (PC61.5), APC-TCRb (H57-597), APC-CD38 (90), APC-CD62L (MEL-14), bio-CD5 (53-7.3), bio-CD69 (H1.2F3) 及び PE-ストレプトアビジン。
【0106】
(単一細胞[Ca2+]iイメージング)
CD4T細胞は、既述の如く(Ansel, K.M. et al., Nature Immunol. 5, 1251-1259 (2004))、分離され、一晩ローディング培地(RPMI1640 10% FBS)で培養され、1μMのfura−2/AM(Invitrogen)を、30分間22−25℃且つ1×10細胞/ml濃度でローディングした。測定前に、T細胞を、ポリ−L−リジンがコーティングされたカバースリップに15分間付着させた。抗CD3を刺激するために、T細胞は、5μg/mlのビオチン共役抗CD3(クローン2C11、BD pharmingen)とともに、15分間22−25℃で培養された。そして、抗CD3架橋結合が、10μg/mlのストレプトアビジン(Pierce)を用いて細胞をかん流することによって実現された。長期間のCa2+イメージングのために、分化したCD4T細胞が、1μMのfura−PE3でローディングされた後、10nMのPMA及び0.5μMのイオノマイシンで、2%ウシ胎仔血清が補充された2mMCa2+を含むリンゲル液中で刺激された。画像を獲得する間、細胞は、37℃に暖められた緩衝液で絶えずかん流された。[Ca2+]iの測定は、既述された如く(Feske, S. et al., Nature 441, 179-185 (2006))、実施及び分析された。Ca2+流入速度は、0.2乃至2mM細胞外Ca2+において、細胞内Ca2+濃度(d[Ca2+]/dt)内の初期上昇の最大速度によって推論され、割合「d[Ca2+]/dt」として表現される。ここで、d[Ca2+]とは、細胞外Caの再追加とCa流入反応のピークとの間の20秒の時間間隔(dt)にわたる[Ca2+]の極大差である。各実験では、100−150の個別T細胞又は少なくとも30の個別MEFsが、Igor Pro分析ソフトウェア(Wavemetrics)を用いて、340/380の比率で分析された。
【0107】
(NFAT1核移行アッセイ)
CD4T細胞は、非分極条件下で培養され、5日後に採取された。そして、表示時間の間96ウェルプレートにおける200μl内1×10細胞/ウェルで、10nMのPMAと1μMイオノマイシンを用いて、様々な時間刺激された。そして、149×Gで3分間遠心分離することによって、384ウェルプレート(5000−8000細胞/ウェル;3ウェル/サンプル)内のポリ−L−リジン−コーティングされたウェルに付着させた。細胞は、3%(vol/vol)のパラホルムアルデヒドに固定された後、抗−NFAT1(NFAT1の67.1ペプチドに対する精製ウサギポリクローナル抗体)(Ho, A.M.,et. al., J. Biol. Chem. 269, 28181-28186 (1994))、及びインドカルボシアニン共役抗ウサギ二次抗体で染色された。そして、DNA挿入色素DAPI(4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で対比染色された。画像は、20倍対物レンズを備えるImageXpress Micro 自動イメージングシステム(Molecular Devices)を用いて取得され、MetaXpressソフトウェアバージョン6.1(Molecular Devices)の移行アプリケーションモジュールを用いて分析された。核移行への細胞質性は、抗NFAT1−Cy3染色とDAPIとの間の強度相関関係を算出することによって評価された。T細胞は、NFAT1−インドカルボシアニン染色の>90%が、DNA挿入色素DAPIからの蛍光信号と関係がある場合に、核NFAT1を有しているとして得点付けされた。各データポイントは、ウェルあたり少なくとも300の個別細胞の平均を示す。
【0108】
(HEK293細胞におけるsiRNA媒介性ノックダウン)
0.6×10のHEK293細胞は、一晩、6ウェルプレート上にプレーティングされ、次の日、製造業者のプロトコルに基づき、リポフェクタミン2000トランスフェクション試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、ヒトSTIM1及びSTIM2に対するsiRNAs(Dharmacon, Inc., Lafayette, CO)がトランスフェクトされた。トランスフェクションの手順は、48時間後に繰り返されることにより、ノックダウンの効率を増大させた。細胞は、72時間後に、免疫ブロット分析又は[Ca2+]i測定のために採取された。ノックダウンの程度を監視するために、STIM1の免疫ブロット法が、ヒトSTIM1に対するポリクローナル抗体(M. Dziadek から親切にも贈与されたもの(U Auckland, New Zealand))を1:1000の希釈において用いた第2のトランスフェクションの後、72時間後に実施された。STIM2の転写レベルは、スクランブルコントロールsiRNA (siC2)、siSTIM1、及びsiSTIM2がトランスフェクトされた細胞において、リアルタイムRT−PCRによって測定された。STIM2の閾値サイクル(C)は、GAPDHハウスキーピング遺伝子発現レベル(ΔC)に標準化され、0.5ΔCt*10(任意ユニット)としてプロットされた。ここで用いられるsiRNA配列は、STIM1: AGGUGGAGGUGCAAUAUUA (SEQ. ID. No. 3) ; STIM2#1: UAAACCUCCUGGAUCAUUA (SEQ. ID. No. 4); STIM2#2: CUUUAAGCCUCGAGAUAUA (SEQ. ID. No. 5)であった。
【0109】
(パッチクランプ測定)
CD4T細胞は、非極性条件下で培養され、5日後に採取された。パッチクランプ記録は、ITC−18入力/出力ボード(Instrutech)及びiMacのG5コンピュータに連動するAxopatch 200増幅器(Axon Instruments)を用いて実施された。電流は、1kHzで4極ベッセルフィルタを用いてフィルターされ、5kHzでサンプリングされた。記録電極は、100μlピペットから引き出され、シルガード(Sylgard)でコーティングされ、熱研磨され、最終抵抗2−5MΩであった。刺激及びデータ取得と分析は、Igor Pro platform (Wavemetrics)において開発された社内ルーティーンを用いて実施された。全データは、バス内のリンゲル液(10mV)と比較したピペット液の液間電位、及び20mM[Ca2++25μMのLa3+に集められたリーク電流について修正された。標準細胞外リンゲル液が含有したのは(mMあたり)、:130NaCl、4.5KCl、20CaCl、1MgCl2、10D−グルコース、及び5Na−Hepes(pH7.4)であった。ある実験では、2mMのCaClが標準細胞外溶液に使用され、NaCl濃度は150mMまで上がった。標準二価遊離(DVF:divalent-free)リンゲル液が含有したのは(mMあたり)、150NaCl、10mM四酢酸、1mMのEDTA、及び10mMのHepes(pH 7.4)であった。25nMのカリブドトキシン(Sigma)が全ての細胞外溶液に添加されることにより、Kv1.3チャネルからの汚染を排除した。標準内部溶液が含有したのは(mMあたり)、145mMのCsアスパラギン酸、8mMのMgCl、10BAPTA(1,2−ビス(o-アミノフェノキシ)エタン−N,N,N',N'−四酢酸) 及び10mMのCs−Hepes(pH 7.2)であった。平均結果とは、平均値±標準誤差を示す。曲線当てはめは、Igor Pro 5.0において組込関数を用いた最小二乗法を用いて実施した。Naの浸透性に対するCsの浸透性は、以下の関係[数1]を用いた生体工学の逆転電位から計算された。
【0110】
【数1】

【0111】
ここで、PCs及びPNaは、Cs(テストイオン)及びNaそれぞれの浸透性である。[Cs]iと[Na]はイオン濃度である。Erevは逆転電位である。Rは気体定数(8.314 J K−1 mol−1)である。Tは絶対温度であり、Fはファラデー定数(9648 C mol−1)である。
【0112】
(ヘマトキシリン及びエオシン染色)
組織は、3−4ヶ月齢のマウスから採取され、10%ホルマリンで固定された。ヘマトキシリン及びエオシン染色が、標準手順に基づき実施された。
【0113】
(Treg細胞の精製及び養子移植)
Thy1.1コンジェニックマウス由来のCD4CD25及びCD4CD25T細胞は、CD4T細胞がDynabeadsマウスCD4及びDETACHaBEADマウスCD4(Invitrogen)によって精製された後、FACSVantageによって選別された。野生型Thy1.1、CD4CD25、又はCD4CD25T細胞(3×10)が、2週齢のマウスの腹腔内に注入された。注入されたマウスは、養子移植後の8週間後に分析された。
【0114】
(混合骨髄移植)
Thy1.2DKOマウス(3×10細胞)からのT細胞枯渇骨髄細胞は、Thy1.1DKOコンジェニック野生型マウス(1.5×10細胞)からのT細胞枯渇骨髄細胞と混合され、後眼窩洞を介して、亜致死的放射を受けたRag1−/−マウス(450ラド)内に注入された。再構築されたマウスは、骨髄移植後10−12週間後に分析された。
【0115】
(増殖及びインビトロ抑制アッセイ)
CD4CD25及びCD4CD25T細胞は、CD4T細胞増殖後に、MACS CD25 マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いて正に選択された。精製されたCD4CD25T細胞(2×10/ml)は、CFSE(カルボキシフルオセイン二酢酸サクシニミジルジエステル)(1.25μM)を用いて10分間37℃で培養された。細胞は、72時間、抗CD3及び抗CD28で刺激され、細胞分裂数がフローサイトメトリーで評価された。インビトロ抑制アッセイは、CFSE標識CD4CD25T細胞(5×10)と、表示割合のCD4CD25T細胞とを共培養することにより実施された。このCD4CD25T細胞は、コントロール同腹子又はDKOマウスから精製されたものである。この共培養は、丸底型プレートにおいて、37℃で72時間、マイトマイシンC処理されたT細胞枯渇脾細胞(5×10)と0.3μg/mlの抗CD3(2C11)存在下で実施された。
【0116】
(実施例1.Stim1又はStim2のコンディショナルな除去)
STIM1及びSTIM2の両方がインビボで普遍的に発現する(Williams, R.T. et al., Biochem. J. 357, 673-685 (2001))ため、Stim1及びStim2のloxP-で挟まれた対立遺伝子を有するマウスが作製された(図9)。これらのマウスを、CMV−Creディレーター株と交配させる(Schwenk, F., Baron, U. & Rajewsky, K. Nucleic Acids Res 23, 5080-5081 (1995))ことにより、全組織でStim1とStim2欠損の影響を調べた。C57BL/6のバックグラウンドにおけるSTIM1欠損マウスは、E18.5において予想されるメンデル比で生存していたが、周産期致死性を示した。これは、75%が死産であり、残りの子も2日以内に死亡した。対照的に、STIM2が欠如したマウスは、産後4週間まで生存したが、僅かな発達遅延を示し、4−5週齢で死亡した(表1a及び1b)。STIM1欠損マウスの周産期致死性を「レスキュー」するために、これらのマウスを、非近交系ICRマウス株と交配させた。周産期致死性はまだ高い(38%)ものの、非近交系STIM1欠損子孫の半分は、重度の発達遅延を伴い2日生存し、次の2週間以内に原因不明で死亡した(表1c)。
【0117】
T細胞におけるSTIM欠損の影響を検査するために、loxPで挟まれたStim1又はStim2を有するマウスは、胸腺細胞成熟のダブルポジティブ(CD4CD8)期において欠失を引き起こすCd4エンハンサー−プロモーター−サイレンサーカセット(CD4−Cre)の条件下でCreトランスジーンを発現するマウスと交配された(Lee, P.P. et al., Immunity 15, 763-774 (2001))。胸腺細胞性及びT細胞成熟は、Stim1fl/fl CD4−Cre及びStim2fl/flCD4−Creマウスにおいて正常に見え(データ示さず)、末梢CD4とCD8T細胞の分析が可能であった(図1)。そうではないことが記載されなければ、本紙におけるT細胞実験は、Stim1及び/又はStim2がCD−4Creでコンディショナルに欠失しているマウスからのT細胞を用いて実施された。一方で、線維芽細胞実験は、Stim1fl/flCMV−Cre及びStim2fl/flCMV−Creマウスからのマウス胎児線維芽細胞(MEFs)を用いて実施された。
【0118】
(実施例2.STIMタンパク質がストア作動性Ca2+流入を制御する)
STIM1欠損CD4T細胞は、筋小胞体ATPアーゼ(SERCA)ポンプのインヒビターであるタプシガルギン(TG)を用いたERのCa2+ストアの受動枯渇後、又は抗CD3とのTCR架橋結合後、殆どCa2+流入を示さなかった(図1a)。静止コントロール及びSTIM1欠損T細胞は、抗CD3、又は抗CD3及び抗CD28での刺激を受けた際に、表面CD3及びTCRβの類似発現を示し、ERのCa2+ストアの類似枯渇と活性化マーカーCD25とCD69の発現を示した(図10a−c)。STIM1欠損CD4T細胞は、PMAとイオマイシン(図1b)又は抗CD3及び抗CD28(図10d)による刺激後、IL2の産生に失敗した。全体として、これらの結果は、STIM1が初代マウスT細胞においてストア作動性Ca2+流入及びCa2+依存性サイトカイン産生を制御するという最初の遺伝学的証拠を提供する。
【0119】
対照的に、Stim2fl/flCMV−Creマウスから得られたSTIM2欠損初代CD4T細胞は、タプシガルギン、イオマイシン、又は抗CD3を用いた処置に応答し、コントロールCD4T細胞と比較してCa2+流入又はIL2産生を殆ど又は全く示さなかった(図1c、d)。STIM1及びSTIM2間の矛盾において考えうる原因は、STIM2がナイーブCD4T細胞においてSTIM1よりもかなり低い量だけ発現することである(図11a)。T細胞の活性化は、STIM2発現において実質的な増加をもたらし、これはTヘルパー1型(TH1)又はTH2分化後3−7日間維持されていたにもかかわらず、STIM2の量は、このような増加によっても、全体的なSTIMタンパク質のごく一部(3−10%)でしかない(補足的に図3a、b、オンライン)。分化したT細胞においてさえ、STIM2は全体的なSTIMタンパク質のうちほんの一部分を構成するという事実と一致して、非分極(THN)条件下で1週間分化したSTIM2欠損T細胞は、急性の低用量タプシガルギン又は抗CD3の刺激に応答して、Ca2+流入の穏やかな増加を見せた(図1e)。しかしながら、これら細胞は、PMA及びイオノマイシン(図1f)、又は抗CD3及び抗CD28(図11e)を用いた持続的刺激を受けた際にIL−2及びIFN−γを産生する能力において大幅な減少をみせた。同様に、STIM2欠損Th1及びTh2細胞は、IL−2、IL−4、及びIFNγの産生において減少を示した(データ示さず)。
【0120】
さらに、ストア作動性Ca2+流入は、Stim1fl/flCMV−Cre、及びStim2fl/flCMV−CreマウスからのMEFsにおいて、検査された。タプシガルギン処置された野生型MEFsにおけるCa2+流入は、タプシガルギン処置されない場合にCa2+流入が観察されなかった(データ示さず)ために、ERのCa2+ストア枯渇に起因するものであることが確認された。T細胞において、STIM欠損はCa2+流入を抑止した。さらに、MEFsでは、STIM2欠損もまた、明らかにCa2+流入を減少させた(図2a)。これら実験を合わせると、STIM1欠損は、T細胞及び線維芽細胞におけるストア作動性Ca2+流入の全損を結果として示した。この一方で、STIM2欠損は、影響がより少なかった、
【0121】
STIM2が機能的なERのCa2+センサであることを確かめるために、STIM1欠損T細胞及びMEFsがMyc標識STIM1又はSTIM2で再構築され、その後Ca2+流入及びサイトカイン産生が検査された(図2a、b)。安定した低いタンパク質発現が可能なレトロウイルスベクターを用いることにより、過剰発現に起因する人為的影響を避けた。導入されたSTIM1及びSTIM2は、抗Mycを用いた免疫ブロット分析で示される如く(図11b及びデータ示さず)、両方の細胞型で類似量、発現した。STIM1は、STIM1欠損MEFsにおいて確実にストア作動性Ca2+流入を再構築し(図2a)、STIM1欠損ヘルパーT細胞は、非分極条件下において1週間分化し、タプシガルギンで処理された(図2b)。対照的に、より弱いCa2+流入が、STIM2で再構築された細胞内で観察された(図2a、b)。それにもかかわらず、STIM2は、PMA及びイオノマイシンを用いて刺激されたSTIM1欠損T細胞に対して、サイトカイン発現を回復することに驚くほど効果的であった(図2c)。これら結果を合わせると、内因性STIM2は、その他の研究(Soboloff, J. et al., Curr. Biol. 16, 1465-1470 (2006))で提示されていたようなSTIM1機能のインヒビターよりむしろ、これら2つの細胞型におけるCa2+信号の正の調節因子であるということが示されている。
【0122】
(実施例3.中断されたCa2+流入及びNFAT核移行)
STIM2欠損T細胞で観察された相対的にかなり低いサイトカイン発現によるストア作動性Ca2+流入の少量の減少を調整するために、Ca2+流入が、細胞質内によく保持されたカルシウム指示薬であるFuraPE−3を備える細胞をローディングすることによって、より長い時間スケールにおいて検査された(Vorndran, C., et. al., Biophys J 69, 2112-2124 (1995))。STIM2欠損T細胞は、野生型T細胞と比較して減少したストア作動性Ca2+流入を示し、20分後、維持細胞内遊離Ca2+濃度([Ca2+]i)のより低い横ばい状態を維持した(図3a)。Ca2+シグナル伝達がSTIM2欠損細胞において減少していることを確認するために、Ca2+依存性転写因子NFAT18の核移行が監視された。核移行は、MetaXpressプログラム(データ示さず)を用いて定量化され、野生型、STIM1欠損及びSTIM2欠損マウスからのヘルパーT細胞を、非分極条件下、その後PMA及びイオノマイシンを用いた刺激した条件下で(サイトカインアッセイに用いられるものと同じ条件)、1週間分化させた。これにより、NFAT1核移行(3b、c)及びサイトカイン発現(図3d、e)が直接的に比較可能となった。
【0123】
この結果は、生理的条件下で、STIM1及びSTIM2の両方が、サイトカイン遺伝子の高発現に必要である持続Ca2+流入及びNFAT核移行(Hogan, P.G.,et. al., Genes Dev. 17, 2205-2232 (2003))の一因となることを明らかに示した。非分極条件下で1週間分化したSTIM1欠損ヘルパーT細胞において、NFATは、ERのCa2+ストア欠損を伴うCa2+([Ca2+]i)における一時的上昇から推定されるように、一時的に核内に運び込まれる。しかしながら、NFATは、細胞の分画内においてのみ核内に運び込まれ、急速に再度運び出された(図3b)。対照的に、コントロール細胞と略同じ位に多くのSTIM2欠損(70−75%対85−95%)が、10分の時点で、核NFAT1を示した。しかしながら、この反応は、コントロールで持続されたが、STIM2欠損細胞では持続されなかった(図3c)。これらの結果は、T細胞信号伝達におけるSTIM2の主要な役割を指し示し、STIM2欠損T細胞におけるサイトカイン発現の実質的な減少を説明するものである(図1f、3e)。
【0124】
(実施例4.CRAC電流はSTIM1欠損細胞において低下する)
全細胞パッチクランプ記録法は、STIM1及びSTIM2の欠失がCRAC電流(ICRAC)に影響を与えるか否かを決定するために用いられた。タプシガルギン(TG)によるERのCa2+ストア枯渇に応答して、コントロールマウスCD4T細胞は、ヒトT細胞におけるICRACの特性に類似した特性を有するCa2+電流を示した(図4)。これらの特性は、20mMのCa2+(図4a)存在下における非常にポジティブな逆転電位を備える内向き整流性の電流−電圧関係、20mMCa2+における高速不活性化(図12c)、二価陽イオン遊離(DVF)溶液におけるNa電流の非増強作用(図4b)、低いCs透過性(Cs透過性/Na透過性=0.2±0.04;n=14サンプル)、細胞外Ca2+のマイクロモル濃度によるNa電流の遮断(図12b)、及び低及び高濃度の2−ホウ酸アミノエトキシジフェニルによる相乗作用と阻害(Prakriya, M. & Lewis, R.S., J. Physiol. 536, 3-19 (2001))を含んでいた(とはいっても、マウス細胞における2−ホウ酸アミノエトキシジフェニルによる相乗作用は、ジャーカット又はヒトT細胞におけるもの程は強く現れなかった;図12d、データ示さず)。さらに、10mMカルシウム特異的BAPTAをパッチピペットに含むことは、20mM[Ca2+]o内の内向き電流の発生の遅延、続いて全細胞の破壊、ストア枯渇に反応するICRACの発生の示唆を引き起こした(データ示さず)。全体として、これらの結果は、マウスT細胞が、ICRACの特性と区別がつかない特性を有するCa2+電流を有していることを示した。
【0125】
Ca2+イメージング結果と一致して、STIM1欠損T細胞は、20mMCa2+又は二価陽イオン遊離(DVF)培地のいずれにおいても検出可能なICRACを示さなかった。対照的に、STIM2欠損細胞は、ICRACの大きさにおいて僅かな減少を示したが、検査した細胞数において統計的有意性には達さなかった(図4c)。ICRACの特性は、Ca2+とCs2+の選択性、高速不活性化、非相互作用、及び低及び高濃度の2−ホウ酸アミノエトキシジフェニルへの応答性に関しては、STIM2欠損T細胞において変化しなかった(図12、及びデータ示さず)。これら結果は、内因性STIM1が、初代CD4T細胞におけるICRACに必要であることを示している。しかしながら、内因性STIM2は、同じ条件下で、記録ICRACの一因となることは殆どない又は全くなく、これは恐らく、分化T細胞においてさえも全STIMタンパク質のうち非常に低い比率を構成するためである(図11b)。
【0126】
(実施例5.ダブルノックアウトの複合表現型)
T細胞においてインビボでStim1とStim2の欠失が組み合わされた影響を分析するために、Stim1fl/flStim2fl/flCD4−Cre「ダブルノックアウト」(短縮形DKO:double knockout)マウスが作製された。これらのマウスは、胸腺細胞性、並びにCD4CD8ダブルネガティブ(DN)、CD4CD8ダブルポジティブ(DP)、及びCD4及びCD8シングルポジティブ(SP)細胞の数及び比率を評価したところ、従来の胸腺成熟においては欠損を示さなかった(データ示さず)。2つの可能性のある説明としては、STIMタンパク質が長寿命であることにより、残りのSTIM1及びSTIM2タンパク質は、遺伝子欠失がDP段階で生じた後、又は胸腺細胞が末梢T細胞によって使用されたものとは異なるSTIM独立Ca2+流入機構を用いた後に、存在可能である及び機能的に良好であることができる。T細胞成熟及び胸腺選択におけるSTIMタンパク質の役割は、Cre発現がT細胞又は造血細胞成熟の早期に開始されたマウスを用いて、別個の研究の一環として調査されている。
【0127】
STIM1欠損T細胞の重度の有害な表現型から予測すると、STIMタンパク質を両方欠如している末梢CD4T細胞は、タプシガルギン又は抗CD3を用いた刺激に応答するCa2+流入を本質的に示さない(図5a、図13)。少量の残存流入は、正常Ca2+流入(図5a)とICRAC(データ示さず)に示される少数の個別細胞に起因するCa2+流入及び少量の残存ICRACの平均曲線において見られる。検査した15のダブルノックアウト細胞のうち、2つは記録において正常なICRACを有していたが、残りの細胞はICRACを有していなかった。これらは、精製手順を通じて入ってきた非CD4T細胞を汚染すること、又はSTIM1もしくはSTIM2のCre媒介性欠失を逃れた少量のCD4T細胞を汚染することのいずれかを示す(以下参照、図15)。DKOのT細胞は、初回刺激に反応して低量の腫瘍壊死因子を産生したものの、殆どIL−2を産生しなかった(図5b)。これは、正常にDKO細胞において行われたPMA誘発NF−κB活性化(M.O.,未発表データ)に起因するものである可能性がある。DKOのT細胞は、活性化マーカーCD69及びCD25の発現を上方制御し、そして、TCR刺激の後に、(有意に減少した量ではあるが)増殖した(図5d、e)。
【0128】
意外にも、8週齢以上のDKOマウスは、脾腫、リンパ節症、皮膚炎、及び眼瞼炎の明確な表現型を発達させた(図14a、データ示さず)。組織学的分析は、肺及び肝臓を含む複数器官への白血球浸潤を示した(図6a、データ示さず)。CD4T細胞においてSTIM1のみを欠如したマウスは、軽度のリンパ球増殖表現型を示した(図14a、データ示さず)。DKOマウスは、メモリー又はエフェクター状態の表面表現型特性を発現するCD4T細胞の増加(CD62LloCD44hiCD69hiCD45RBloCD5hi)、脾臓における胚中心(GC)の数の増加、GC表現型を備えるB細胞の数の増加(CD95hiCD38lo)、及び分化したIgEB細胞の数の増加、多数のCD11bIL−5Rの好酸球又は好塩基球、及び非常に高まったIgG1の血清濃度(図14b−d、オンライン及びデータ示さず)を含んでいた。DKOマウスからのCD4T細胞は、PMA及びイオノマイシンを用いた刺激に反応して、IL−5を産生したがIL−4は産生しなかった(データ示さず)。とりわけ、DKOマウスの表現形は、T細胞膜貫通アダプターLAT内の変異(Y136F)を備えるマウスの表現型と類似しているが同一ではない。この変異は、PLCγ1のドッキング部位を取り除き、TCR架橋結合に反応するCa2+流入の低下を引き起こすものである(Sommers, C.L. et al., Science 296, 2040-2043 (2002); Aguado, E. et al., Science 296, 2036-2040 (2002)). 。
【0129】
(実施例6.Treg細胞分化及び機能におけるSTIM)
LAT(Y136F)変異マウスの自己反応性表現型は、自己反応性T細胞が末梢部に逃げることを可能とする低下した陰性選択(Sommers, C.L. et al. , J Exp Med 201, 1125-1134 (2005)、及びTreg細胞の数の減少(Koonpaew, S., Shen, S., Flowers, L. & Zhang, W. LAT-mediated signaling in CD4+CD25+ regulatory T cell development. J Exp Med 203, 119-129 (2006))に起因したものであった。胸腺細胞の陽性及び陰性選択におけるSTIMタンパク質の役割の直接的な検査は、Lck−Creを用いてT細胞成熟の初期段階においてStim1及びStim2が除去されたマウスを必要とする。そして、これらマウスをHY−TCRトランスジェニックマウスと交配させた。その一方で、5−6週齢のStim1fl/flStim2fl/flCD−Creマウスの胸腺、脾臓、及びリンパ節におけるTreg細胞数の明確な減少(図6c、d、データ示さず)が記録された。DKOマウスの脾臓及びリンパ節におけるTreg細胞の比率は、加齢に伴い増加したが、それにもかかわらず、コントロールマウスの比率の10−20%間にとどまった(図6c)。これらの増加は、末梢リンパ器官の大きさに年齢依存的に増加した結果であると推定された。STIM1又はSTIM2のいずれかが欠如したマウスは、正常な数のCD4CD25Foxp3reg細胞を含んでいた(データ示さず)。Treg細胞のその他のマーカーであるGITRを発現する細胞数は、DKOマウスでも減少した(データ示さず)。また、さらに留意されるべきは、より加齢(8週)のDKOマウスからのCD25及びCD25T細胞におけるStim1及びStim2の完全な欠失であった(図15a)。CD4CD25T細胞と同様に、DKOマウスからのCD4CD25T細胞は、タプシガルギン又は抗CD3を用いた処置に反応して、低下したCa2+流入を示した(図6e及び図15b)。
【0130】
DKOマウスにおけるTreg細胞のパーセンテージと絶対数の著しい減少は、欠損Treg細胞の成熟、末梢部における生存、又はこれら両方を反映したものであるといえる。DKOのT細胞が殆どIL−2を産生しないという事実を鑑みて、一つの可能性は、Treg細胞成熟が、「バイスタンダー」T細胞によって産生されたIL−2の欠如に起因して、部分的に欠損したと考えられた(Setoguchi, R., et. al., J Exp Med 201, 723-735 (2005); Fontenot, J.D.,et. al., Nat Immunol 6, 1142-1151 (2005); D'Cruz, L.M. & Klein, L. Nat Immunol 6, 1152-1159 (2005))。これらの可能性に取り組むために、混合骨髄キメラが作製された。亜致死的に放射され、組換え活性化遺伝子1が欠損したRag1−/−受容マウス(Rag1−/−マウス)は、Thy1.2コントロールマウス単独から、もしくはThy1.2コントロールマウスとThy1.2DKOマウスから得られるT細胞枯渇骨髄、又はThy1.2DKOマウス又はThy1.1野生型マウスから得られる骨髄が、2:1の比率で混合されたものを用いて、再構築された。予測される如く、DKO骨髄のみが与えられたマウスは、胸腺及びリンパ節の両方において、コントロール骨髄(図7)を用いて再構築されたマウスと比較して、有意に少ないTreg細胞を含んでいた。また、未操作DKOマウスと同等の重度のリンパ球増殖表現型を発現した(図16a)。対照的に、DKOと野生型骨髄の両方を用いて再構築された混合キメラは、リンパ増殖性疾患のどんな兆候も示さず、コントロールキメラマウスと同様に健康なままであった(図16a)。これらのキメラマウスにおいて、野生型骨髄は末梢Treg細胞の正常数まで上昇し、その一方で、DKO前駆体は、胸腺及び末梢部どちらにおいても、さらに少ないTreg細胞を産生した(図7)。全体として、これらの結果は、DKOマウスがTreg細胞成熟における細胞固有欠損を有しており、これは、野生型骨髄由来の「バイスタンダー」T細胞によって産生されるIL−2(Setoguchi, R., et. al., J Exp Med 201, 723-735 (2005); Fontenot, J.D.,et. al., Nat Immunol 6, 1142-1151 (2005); D'Cruz, L.M. & Klein, L. Nat Immunol 6, 1152-1159 (2005))によって修復されないものであることを示した。
【0131】
次に、DKOマウスにおけるリンパ球増殖表現型の開始は、幼若マウスに、野生型マウスからのTreg細胞を注入することによって防止された。2週齢のDKOマウスに野生型Treg細胞を注入することは、8週間後のリンパ節腫及び脾腫の成長を防ぎ、この一方で、リン酸緩衝食塩水又は非Treg細胞を用いた注入は、これを防がなかった(図8a及び図16b)。DKOマウスは内因性Treg細胞を殆ど含まないため、3×10の野生型CD4CD25T細胞のみが、各DKOマウスに導入された。注入されたマウスは、注射の8週間後、Treg細胞を殆ど含まないままであった(図8b)。導入された野生型Treg集団由来のThy1.1reg細胞は、フローサイトメトリーを用いて内因性Thy1.2reg細胞と区別された(図8b、c)。予測される如く、内因性Thy1.2reg細胞は、野生型CD4CD25が注入されたDKOマウスにおけるCD4CD25Foxp3細胞の大部分を占め、10週齢においてリンパ節症及び脾腫を示した。対照的に、野生型CD4CD25reg細胞が注入され且つリンパ球増殖表現型が治癒したマウスは、Thy1.1ドナー及びThy1.2内因性細胞と略等しく由来するTreg細胞を含んでいた(図8c)。これらのデータは、幾らかのTreg細胞がDKOマウス内で成熟していたとしても、野生型マウスからのTreg細胞と比較して、(仮にあったとしても)その機能が乏しい。さらに、内因性Treg細胞の数は、導入されたTreg細胞の存在下で減少した(図8c、左パネルと右パネルの比較)。これは、DKOマウスからのTreg細胞が、インビボで競争上不利であることを意味している。DKOマウスにおける残存Treg細胞の欠損機能の確認は、インビボ抑制アッセイを実施することによってなされた(図8d及び図17)。同時に、データは、STIM1及びSTIM2両方の損失がFoxp3制御性T細胞の成熟と機能を損なうことを、強く示唆している。
【0132】
要約すると、Stim1及びStim2の両方がCa2+シグナル伝達のポジティブ調節因子であることが証明された。2つのStimタンパク質のうちの1つが欠如しているが、その他のタンパク質が生理学的レベルで発現しているT細胞及び胎児線維芽細胞は、ストア作動性Ca2+進入及びCa2+依存性シグナル伝達において大幅な欠損を示す。これらの欠損は、Stim1又はStim2のいずれかによって、部分的に又は全体的に再構築されることができる。しかしながら、T細胞では、Stim1及びStim2の相対的な重要性は、分化状態に依存する。ナイーブT細胞において、Stim1は、ストア作動性Ca2+進入とサイトカイン発現の重要なエフェクターである。対照的に、Stim2は、低レベルにおいてのみ存在し、本発明に記載されたアッセイ条件下ではCa2+シグナル伝達の一因とはならない。分化したT細胞において、Stim1は、Ca2+依存性サイトカイン発現に重要なままであるが、Stim2は、上方制御され且つStim1を補完し、ストア作動性Ca2+進入及びサイトカイン発現を促進する。
【0133】
分化したヘルパーT細胞におけるStim2の主要機構は、Stim2又は全Stimタンパク質いずれかのレベルが増加したことによる単なる結果ではない。それよりもむしろ、Stim2は、全体的なCa2+シグナル伝達に影響を与え、この全体的なCa2+シグナル伝達とは、分化したヘルパーT細胞におけるレベルに不均衡である。分化したStim1−/−分化ヘルパーT細胞において、Stim2単独では、ストア作動性Ca2+を支持せず、上方制御の後でさえ、Stim2レベルは、全体的なStimタンパク質と比較して低いままである。NFAT経路において、Stim2の機能は、効果的なサイトカイン産生に必要である持続NFAT核局在化において明らかである。NFκB経路において、この存在は、刺激後1時間は顕著であるp65の核内輸送のCa2+依存成分の一因となる。これら結果の最も簡単な説明は、T細胞における生理学的レベルにおいて、Stim2が、Stim1の活性化によって開始されるCa2+経路における信号を強化することである。コンディショナルなStim1及びStim2欠損マウスが利用できることによって、多様な異なる細胞型のストア作動性Ca2+進入において、これら必須のタンパク質の役割の詳細評価が可能となる。
【0134】
(表1)STIM欠損マウスは、致死である。
a.胚性と生後段階両方において、C57BL/6(B6)バックグラウンドにおけるStim1fl/flCMV−Creマウスの生存能力
b.B6バックグラウンドにおけるStim2fl/flCMV−Creマウスの生存能力
c.非近交系ICRマウス株と交配した後の、混合バックグラウンドのStim1fl/flCMV−Creマウスの生存能力。新生STIM1−ヌルマウスは、生後1日を過ぎて生存したものはいなかった。丸括弧内の数字は、目視検査をして生存していたマウスの数である。
【0135】
【表1】

【0136】
【表2】

【0137】
【表3】

【0138】
ここで明細書全体を通じて引用された文献は、その全体を本出願に引用して援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ該細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない方法であって、
前記細胞を、前記細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量の選択的Stim2インヒビターに接触させる工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記細胞が、リンパ球であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、T細胞であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記T細胞が、制御性T細胞であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記選択的Stim2インヒビターが、Stim1と比較してStim2を選択的に抑制することを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の方法。
【請求項7】
細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ該細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法であって、
前記細胞を、前記細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ前記細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こすのに効果的な量の選択的Stim1インヒビターに接触させる工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
前記細胞が、リンパ球であることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が、T細胞であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記T細胞が、制御性T細胞であることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記選択的Stim1インヒビターが、Stim2と比較してStim1を選択的に抑制することを特徴とする請求項7乃至10いずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする請求項7乃至11いずれかに記載の方法。
【請求項13】
細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ該細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こす方法であって、
前記細胞を、Stim1インヒビター及びStim2インヒビターに接触させる工程を備え、
前記Stim1インヒビター及び前記Stim2インヒビターの量が、細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制するのに効果的な量であることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記細胞が、リンパ球であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、T細胞であることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記T細胞が、制御性T細胞であることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記Stim1インヒビターと前記Stim2インヒビターが、同じ化学構造を有することを特徴とする請求項13乃至16いずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする請求項13乃至17いずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記制御性T細胞が、腫瘍を有する被験者に存在し、
前記インヒビターの量が、前記腫瘍に対する免疫反応の増加に有効であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を抑制し且つ該細胞内においてストア作動性Ca2+流入の大幅な減少を引き起こさない検査薬を同定する方法であって、
a.少なくとも1つの検査薬を、STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備え、
前記異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントが、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、
前記方法はさらに、
b.前記細胞内においてCa2+媒介性サイトカイン発現を測定する工程と、
c.細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、
前記細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、
前記細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、
前記細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備えることを特徴とする方法。
【請求項21】
前記細胞が、T細胞であることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記サイトカインが、IL−2、IL−4、及びIFN−ガンマから選択されることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
被験者内の腫瘍に対する免疫反応を増大させる検査薬を同定する方法であって、
(a)少なくとも1つの検査薬を、STIM1タンパク質又はその機能性フラグメント、及びSTIM2タンパク質又はその機能性フラグメントをコードする異種核酸を含む組換え細胞に接触させる工程を備え、
前記異種STIM1タンパク質又はその機能性フラグメントが、ヒトSTIM1タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、
前記異種STIM2タンパク質又はその機能性フラグメントが、ヒトSTIM2タンパク質と少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有し、
細胞膜を介するイオン流動もしくは電流又は膜電位の変化を測定する工程か、
前記細胞からの蛍光信号の変化を検出する工程か、
前記細胞からの発光信号の変化を検出する工程か、
前記細胞の膜電位の変化を測定する工程のいずれかとを備え、
前記方法はさらに、
(b)前記検査薬を前記異種STIM1タンパク質の単離形態に接触させ、前記検査薬の前記単離異種STIM1タンパク質への結合性を測定する工程と、
(c)前記検査薬を前記異種STIM2タンパク質の単離形態に接触させ、前記検査薬の前記単離異種STIM2タンパク質への結合性を測定する工程とを備えることを特徴とする方法。
【請求項24】
前記細胞が、T細胞であることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項25】
Stim1及び/又はStim2の細胞型特異的なコンディショナルにターゲティングされた対立遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項26】
前記動物がマウスであることを特徴とする請求項25記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項27】
前記細胞型がT細胞であることを特徴とする請求項26に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項28】
前記細胞型が神経細胞であることを特徴とする請求項26に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項29】
前記細胞型がマウス胎児線維芽細胞であることを特徴とする請求項26に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項30】
前記ターゲティングされた対立遺伝子が、コンディショナルに欠失していることを特徴とする請求項25乃至29のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項31】
請求項25乃至30のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物由来の単離細胞。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c−1】
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【図2c−2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図8d】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図9d】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図10e】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図12d】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14a】
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【図14b】
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【図14c】
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【図14d】
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【図15a】
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【図15b】
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【図16a】
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【図16b】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−533200(P2010−533200A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516239(P2010−516239)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/069636
【国際公開番号】WO2009/009655
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(502444076)イミューン ディズィーズ インスティテュート インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】