説明

防曇剤及び農業用フィルム

【課題】 本発明は、優れた防曇性及び透明性を長期間に亘って持続すると共に、基材に対する密着性及び耐傷付き性に優れた塗膜を形成することができ、塗布装置やハウスの鉄骨部分などへの錆びの発生を促進させることのない防曇剤を提供する。
【解決手段】 本発明の防曇剤は、水性媒体100重量部中に、粒径が5〜40nmのシリカコロイド粒子が40〜300nmの長さに鎖状に結合してなる鎖状シリカコロイド粒子0.1〜20重量部と、ガラス転移点が0〜30℃であるアクリル系樹脂0.1〜20重量部とを分散させてなると共に、pHが7〜12であることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤及びこの防曇剤が塗布された農業用フィルム、詳しくは、農業用ハウスの外張り用として好適に使用される農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パイプハウスやトンネルなどの農業用途に使用される農業用フィルムは、屋外環境下で使用されるため、その表面に水分が付着し易く、例えば、農業用フィルムをハウスなどに展張すると、ハウス内外の温度差や湿度によって、農業用フィルムにおけるハウス内側の表面に曇りや水滴を生じ、太陽光線の透過が悪くなって作物の育成を妨げたり、或いは、農業用フィルムの表面に生じた水滴が作物上に落下して病気が発生するなどの問題を生じていた。
【0003】
上記問題に対して、農業用フィルムの表面に生じた結露水を流滴させ、防曇性を発現させるために様々な手法がこれまでに考案されている。例えば、農業用フィルム中に防曇剤を練り込み、この防曇剤をブリードアウトさせることにより、農業用フィルムにおけるハウス内側の表面に付着した結露水を流滴させる方法がある。ところが、この手法では、短期間の防曇効果は得られるが、防曇剤が完全にブリードアウトしてしまうと全く防曇効果が無くなってしまう、つまり長期間の防曇持続性が不足するという問題があった。
【0004】
又、その他の方法として、農業用フィルム表面に防曇剤をコーティングして防曇層を形成し、この防曇層によって農業用フィルム表面の結露水を流滴させて長期間に亘って防曇効果を持続させる防曇積層体が種々提案されている。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4には、コロイダルシリカとコロイダルアルミナを併用した防曇被膜を形成する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は上記問題点を十分に解決するものではなく、農業用フィルムを長期間に亘って使用すると、農業用フィルムの表面に付着した水滴が水膜にならず、流滴不良を生じて水滴が作物上に落下することがあるという問題点があった。又、一般的なコロイダルシリカを用いた防曇剤は酸性であるため、長期間に亘って保存すると、防曇剤の貯蔵安定性が低下することがしばしばあった。更に、このような酸性の防曇剤を使用した場合、防曇剤を塗布するのに必要な塗布装置を長時間運転させると、塗布装置が錆びるだけでなく、防曇剤を塗布した農業用フィルムをハウスの外張り用に用いると、ハウス内の環境が高温多湿であるため、ハウスの鉄骨部分に錆びが発生するのを促進してしまうといった問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平7−53747号公報
【特許文献2】特開平7−82398号公報
【特許文献3】特開平8−319476号公報
【特許文献4】特開平11−240112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表面に生じた水滴を水膜とし、円滑に流下させて優れた防曇性を長期間に亘って発揮し且つ優れた透明性を長期間に亘って持続する、基材に対する密着性及び耐傷付き性に優れた塗膜を形成することができ、塗布装置やハウスの鉄骨部分などへの錆びの発生を促進させることのない防曇剤、及び、この防曇剤を用いて得られた農業用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の防曇剤は、水性媒体100重量部中に、粒径が5〜40nmのシリカコロイド粒子が40〜300nmの長さに鎖状に結合してなる鎖状シリカコロイド粒子0.1〜20重量部と、ガラス転移点が0〜30℃であるアクリル系樹脂0.1〜20重量部とを分散させてなると共に、pHが7〜12であることを特徴とする。
【0009】
本発明の防曇剤に用いられる水性媒体は、鎖状シリカコロイド粒子及びアクリル樹脂を分散させることができるものであれば、特に限定されず、例えば、水と水溶性溶媒との混合媒体、水などが挙げられる。
【0010】
上記水溶性媒体としては、例えば、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコールなどのアルコールなどが挙げられる。そして、混合媒体中における水溶性媒体の量は、多くなると、防曇剤を熱可塑性樹脂フィルムに塗布した後の乾燥工程において引火の虞れがあるので、混合媒体中、50重量%以下が好ましい。
【0011】
本発明で用いられる鎖状シリカコロイド粒子とは、シリカのコロイド粒子が複数個、鎖状に結合したものであり、両端のコロイド粒子同士が結合していないものをいい、直鎖状であっても途中で分岐していてもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0012】
そして、シリカのコロイド粒子の粒径は、小さいと、鎖状シリカコロイド粒子の製造が困難となり、或いは、防曇剤の防曇性が低下する一方、大きいと、防曇剤から得られる塗膜と熱可塑性樹脂フィルムとの密着性が低下するので、5〜40nmに限定され、10〜30nmが好ましく、18〜25nmがより好ましい。なお、シリカのコロイド粒子の粒径は、動的光拡散法によって測定されたものをいい、この動的光拡散法とは、溶液中のコロイド粒子のブラウン運動を光拡散法により検出してコロイド粒子の粒径を算出する方法である。
【0013】
そして、鎖状シリカコロイド粒子の長さは、短いと、防曇剤の防曇性が低下する一方、長いと、鎖状シリカコロイド粒子の製造が困難となるので、40〜300nmに限定され、100〜200nmが好ましい。
【0014】
鎖状シリカコロイド粒子の結合状態は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて確認することができ、鎖状シリカコロイド粒子の長さは、走査電子顕微鏡で観察された鎖状シリカコロイド粒子の長さを倍率で除すことによって測定されたものをいう。なお、鎖状シリカコロイド粒子が分岐構造を有している場合、鎖状シリカコロイド粒子の長さとは、最長の鎖部分の長さをいう。
【0015】
そして、鎖状シリカコロイド粒子の防曇剤中における含有量は、少ないと、防曇剤の防曇性が低下する一方、多いと、防曇剤の貯蔵安定性が低下するので、水性媒体100重量部に対して0.1〜20重量部に限定され、2〜10重量部が好ましい。
【0016】
又、上記アクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、複数の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸エステルと、この(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などが挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルと、この(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体が好ましい。なお、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味する。
【0017】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどが挙げられる。
【0018】
又、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有ビニルモノマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水酸基含有ビニルモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニルなどを挙げることができる。
【0019】
更に、アクリル系樹脂のガラス転移点(以下「Tg」という)は、低いと、防曇剤を用いて得られた農業用フィルムの表面にタッグが発生し、べたつきやすくなる一方、高いと、防曇剤から得られる塗膜の耐傷付き性が低下するので、0〜30℃に限定され、10〜20℃が好ましい。なお、アクリル系樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121に記載の「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠して測定されたものをいう。
【0020】
そして、アクリル系樹脂の防曇剤中における含有量は、少ないと、熱可塑性樹脂フィルムと鎖状シリカコロイド粒子との密着性が低下する一方、多いと、防曇剤の防曇性が低下するので、水性媒体100重量部に対して0.1〜20重量部に限定され、2〜9重量部が好ましい。
【0021】
又、防曇剤中における、鎖状シリカコロイド粒子の量と、アクリル系樹脂の量との重量比(鎖状シリカコロイド粒子/アクリル系樹脂)は、小さいと、防曇剤の防曇性が低下する一方、大きいと、熱可塑性樹脂フィルムと鎖状シリカコロイド粒子との密着性が低下し、或いは、防曇剤から得られる塗膜の耐傷付き性が低下するので、0.5〜20が好ましい。
【0022】
更に、本発明の防曇剤のpHは、小さいと、防曇剤の貯蔵安定性が低下する一方、高いと、鎖状シリカコロイド粒子が水性溶媒中に溶解して防曇剤の防曇性が低下するので、7〜12に限定され、8〜11が好ましい。
【0023】
なお、本発明の防曇剤には、その物性を損なわない範囲内において、粘度調整剤、界面活性剤、消泡剤、架橋剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0024】
次に、上記防曇剤の製造方法について説明する。上記防曇剤の製造方法としては、特に限定されず、鎖状シリカコロイド粒子を水性媒体中に分散させてなるコロイド溶液及びアクリル系樹脂を水性媒体中に添加し、更に、必要に応じて種々の添加剤を水性媒体中に添加した上で、水性媒体をホモジナイザーなどの汎用の攪拌装置を用いて攪拌する方法が挙げられる。なお、鎖状シリカコロイド粒子を水性媒体中に分散させてなるコロイド溶液は、日産化学工業社から例えば、商品名「ST−PSM」「ST−PSS」などで市販されている。
【0025】
そして、本発明の防曇剤は、熱可塑性樹脂フィルムやガラス板などの基材表面に塗布して用いられ、この塗布した防曇剤を乾燥させて得られる塗膜は優れた防曇性を発揮する。特に、本発明の防曇剤を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一面に塗布して乾燥させ、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一面に防曇性の塗膜を形成させることによって、防曇性に優れた農業用フィルムを得ることができる。
【0026】
上記農業用フィルムを製造するのに用いられる熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、従来から農業用フィルムに用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体などのポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好ましい。なお、熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0027】
なお、エチレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられ、又、プロピレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0028】
又、上記熱可塑性樹脂フィルムは、単層であってもよいが、熱可塑性樹脂フィルムを複数枚、積層一体化させてなるものであってもよい。なお、上記熱可塑性樹脂フィルムには、その物性を損なわない範囲内において、無機保温剤、有機保温剤、ヒンダードアミン系光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防霧剤、滑剤、顔料などが添加されてもよい。
【0029】
上記無機保温剤は、得られる農業用フィルムの保温性の向上と、フィルム成型時の押出し変動の改善の二つの目的のために添加され、このような無機保温剤としては、例えば、酸化珪素、ハイドロタルサイトなどの珪酸塩類、燐酸塩類、ガラス微粉末などが挙げられ、これらは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記無機保温剤の熱可塑性樹脂フィルム中における含有量は、少ないと、無機保温剤を熱可塑性樹脂フィルム中に添加した効果が発現しないことがある一方、多いと、得られる農業用フィルムの透明性や機械的強度が低下することがあるので、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜30重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。
【0031】
又、上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]}などが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0032】
そして、上記酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、カルボン酸の金属塩、フェノール系抗酸化剤、有機亜燐酸エステルなどのキレーターが挙げられる。
【0033】
又、上記紫外線吸収剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤などが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0034】
更に、上記防霧剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。又、上記滑剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、ステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸アマイド、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどのビスアマイドなどが挙げられる。
【0035】
そして、農業用フィルムの製造方法としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一面に防曇剤を塗布して乾燥させ、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一面に防曇性を有する塗膜を形成することによって農業用フィルムを製造することができる。なお、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、例えば、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法などが挙げられる。
【0036】
更に、熱可塑性樹脂フィルムの一面に防曇剤を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーターなどのロールコート法、バーコード法、ディップコート法、スプレー法、はけ塗りなどが挙げられる。
【0037】
又、熱可塑性樹脂フィルムにおける防曇剤の塗布面には、防曇剤の塗布性を向上させるために表面処理が施されていてもよい。このような表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、火炎処理、化成処理、プライマー処理などが挙げられる。
【0038】
上記防曇剤を乾燥させる方法としては、自然乾燥或いは強制乾燥の何れであってもよいが、製造効率がよいので強制乾燥が好ましい。このような強制乾燥の方法としては、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥、遠赤外線乾燥などの加熱乾燥が好ましい。
【0039】
そして、農業用フィルムの厚さは、薄いと、農業用フィルムの機械的強度が低下することがある一方、厚いと、農業用フィルムの裁断作業、接合作業、展張作業などが困難となって農業用フィルムの取り扱い性が低下することがあるので、20〜300μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明の防曇剤は、水性媒体100重量部中に、粒径が5〜40nmのシリカコロイド粒子が40〜300nmの長さに鎖状に結合してなる鎖状シリカコロイド粒子0.1〜20重量部と、ガラス転移点が0〜30℃であるアクリル系樹脂0.1〜20重量部とを分散させてなると共に、pHが7〜12であることを特徴とするので、基材表面に生じた水滴を水膜とし、円滑に流下させて優れた防曇性を長期間に亘って発揮し且つ優れた透明性を長期間に亘って持続する塗膜を形成することができる。
【0041】
更に、本発明の防曇剤は、基材に対する密着性及び耐傷付き性に優れた塗膜を形成することができると共に、塗布装置やハウスの鉄骨部分などへの錆びの発生を促進させることがない。
【実施例1】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(熱可塑性樹脂フィルムの製造)
直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.92g/cm3 、メルトインデックス:1.0g/10分)80重量部及び低密ポリエチレン(密度:0.92g/cm3 、メルトインデックス:0.5g/10分)20重量部からなる樹脂組成物(イ)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(密度:0.93g/cm3 、メルトインデックス:1.0g/10分、酢酸ビニル含有量:15重量%)100重量部及びハイドロタルサイト(協和化学工業社製 商品名「DHT−4A」)5重量部からなる樹脂組成物(ロ)、並びに、エチレン−酢酸ビニル共重合体(密度:0.94g/cm3 、メルトインデックス:0.8g/10分、酢酸ビニル含有量:5重量%)からなる樹脂組成物(ハ)をそれぞれ、別々の押出機に供給して溶融混練した後、樹脂組成物(イ)からなる樹脂層(イ)、樹脂組成物(ロ)からなる樹脂層(ロ)及び樹脂組成物(ハ)からなる樹脂層(ハ)が厚さ比1:7:2となるようにインフレーション法で三層共押出成形し、樹脂層(イ)、樹脂層(ロ)、樹脂層(ハ)がこの順で積層一体化されてなる全体の厚さが150μmである熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、表中に示したMIはメルトインデックスを示し、JIS K7210に準拠して温度190℃、荷重21.18Nの条件下にて測定された値である。
【0044】
(実施例1〜9、比較例1〜6)
水中に、表2,3に示した種類のコロイダルシリカ、表2,3に示した種類のアクリル系樹脂及びシリコーン系界面活性剤(GE東芝シリコーン社製 ポリエーテル変性シリコーンオイル)を所定量づつ添加し均一に混合して、表2,3に示したpHを有する防曇剤を得た。
【0045】
なお、表2,3に示したコロイダルシリカ、アクリル系樹脂及び界面活性剤の重量部はそれぞれ、防曇剤中における、水100重量部に対する鎖状シリカコロイド粒子、球状シリカコロイド粒子、アクリル系樹脂及び界面活性剤の含有量である。
【0046】
ここで、コロイダルシリカ(日産化学工業社製 商品名「ST−PSS」、pH9〜10.5)は、粒径が10〜15nmのシリカコロイド粒子が100〜200nmの長さに直鎖状に結合してなる直鎖状シリカコロイド粒子を水中に分散させてなる。
【0047】
コロイダルシリカ(日産化学工業社製 商品名「ST−PSM」、pH9〜10.5)は、粒径が18〜25nmのシリカコロイド粒子が100〜200nmの長さに直鎖状に結合してなる直鎖状シリカコロイド粒子を水中に分散させてなる。
【0048】
コロイダルシリカ(日産化学工業社製 商品名「ST−UP」、pH9〜10.5)は、粒径が10〜20nmのシリカコロイド粒子が40〜100nmの長さに直鎖状に結合してなる直鎖状シリカコロイド粒子を水中に分散させてなる。
【0049】
コロイダルシリカ(日産化学工業社製 商品名「ST−PSMO」、pH2〜4)は、粒径が18〜25nmのシリカコロイド粒子が100〜200nmの長さに直鎖状に結合してなる直鎖状シリカコロイド粒子を水中に分散させてなる。
【0050】
コロイダルシリカ(日産化学工業社製 商品名「ST−20」、pH9.5〜10)は、粒径が10〜20nmの球状シリカコロイド粒子を水中に分散させてなる。
【0051】
次に、上記熱可塑性樹脂フィルムの樹脂層(ハ)表面に、各実施例及び比較例で得られた防曇剤を乾燥後の塗布量が10g/mとなるようにグラビアコーターを用いて塗布して熱風で乾燥させて、熱可塑性樹脂フィルムの樹脂層(ハ)上に防曇性を有する塗膜(防曇層)を形成して農業用フィルムを得た。
【0052】
得られた防曇剤の貯蔵安定性、農業用フィルムのブロッキング性、初期防曇性、防曇持続性、耐傷付き性、テープ剥離性及び透明性を下記の要領で測定し、その結果を表2及び表3に示した。
【0053】
(防曇剤の貯蔵安定性)
防曇剤100gを十分に攪拌した上で無色のガラス製のサンプル瓶に入れ、室内にて10日間に亘って放置した。サンプル瓶内の防曇剤を目視観察し、下記基準に基づいて評価した。
○:防曇剤はゲル状になっておらず且つ層分離も生じていなかった。
×:防曇剤が凝集し、ゲル状になっていた。
【0054】
(農業用フィルムのブロッキング性)
得られた農業用フィルムから一辺が20cmの平面正方形状の試験片を2枚、切り出し、この試験片同士をそれぞれの防曇層同士を対向させた状態に重ね合わせ、この重ね合わせた状態の試験片をオーブン中に配設した。
【0055】
次に、試験片上に10kgの重りを載せた上でオーブン内を40℃に維持し、試験片を30分間に亘って放置した。そして、試験片をオーブンから取り出して下記基準に基づいてブロッキング性を評価した。
○:2枚の試験片はブロッキングすることなく、2枚の試験片を互いに容易に分離する
ことができた。
△:2枚の試験片は若干ながらブロッキングしていたものの、2枚の試験片を容易に分
離することができた。
×:2枚の試験片のブロッキングが強く、2枚の試験片は容易に分離できなかった。
【0056】
(農業用フィルムの初期防曇性及び防曇持続性)
縦0.5m×横0.7m×深さ0.3mの水槽中に、水温40℃の水を入れた後、この水槽の上端開口部に農業用フィルムをその防曇層が内側になるように張設し、水槽の上端開口部を全面的に閉止した。
【0057】
次に、外気温を20℃、水槽内の水温を40℃に保持した状態で120分間に亘って放置した後、農業用フィルムを水槽の上端開口部から取り外して自然乾燥させた。続いて、再度、同一の農業用フィルムを上述と同様の要領で水槽の上端開口部に張設して120分間に亘って放置した。この操作を5回繰り返した後の農業用フィルムの防曇層表面を目視観察して初期防曇性を下記基準により評価した。
【0058】
更に、上記操作を45回繰り返した後の農業用フィルムの防曇層表面を目視観察して防曇持続性を同様の基準により評価した。
【0059】
○:フィルム表面に付着した水分は直ちに水膜になり、水滴は形成されていない状態で
あった。
△:フィルム表面に付着した水分の大部分は水膜を形成しているが、水分の一部が水滴
状態となっていた。
×:フィルム表面に付着した水分の大部分が水滴となっており、水分の一部分しか水膜
を形成していなかった。
【0060】
(農業用フィルムの傷付き性)
得られた農業用フィルムの防曇層上に、不織布(クレシア社製 商品名「キムワイプ・ワイパーS−200」)で完全に被覆された状態の重り(1kg)を載置した。しかる後、防曇層上を引張り速度500mm/minで重りを滑らせた。この滑らせる操作を3回繰り返した後、防曇層の傷付き具合を以下基準で評価した。
○:傷付きなし。
△:傷は付くものの、水分の流動に影響なし。
×:多数の傷が付き、その傷の部分で水滴が停滞する。
【0061】
(農業用フィルムのテープ剥離性)
作製直後の農業用フィルム及び防曇持続性を評価した後の農業用フィルムのそれぞれの防曇層上に粘着テープを貼着させ、この粘着テープを剥離させた後の農業用フィルムの防曇層の剥離状態を目視観察し下記基準に基づいて評価した。
○:剥がれなし。
△:一部剥がれ。
×:全面剥がれ。
【0062】
(農業用フィルムの透明性)
作製直後の農業用フィルム及び屋外のハウスに1ヶ月間展張りした後(屋外展張後)の農業用フィルムのヘーズを、ヘーズメーター(日本電色工業社製 商品名「NDH2000」)を用いて測定した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体100重量部中に、粒径が5〜40nmのシリカコロイド粒子が40〜300nmの長さに鎖状に結合してなる鎖状シリカコロイド粒子0.1〜20重量部と、ガラス転移点が0〜30℃であるアクリル系樹脂0.1〜20重量部とを分散させてなると共に、pHが7〜12であることを特徴とする防曇剤。
【請求項2】
鎖状シリカコロイド粒子の量と、アクリル系樹脂の量との重量比(鎖状シリカコロイド粒子/アクリル系樹脂)が0.5〜20であることを特徴とする請求項1に記載の防曇剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の防曇剤を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一面に塗布して乾燥させてなることを特徴とする農業用フィルム。

【公開番号】特開2006−335994(P2006−335994A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165871(P2005−165871)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】