説明

防汚革及びその製造方法

【課題】皮革に汚れが付着するのを防止する、又は付着した汚れを除去しようとするために、皮革表面に親水性界面活性を有する物質の皮膜を付着固定した新規な皮革の製造方法の提供。
【解決手段】皮革表面に合成樹脂バインダーによる塗膜形成が行われ、その塗膜の表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による皮膜が形成されている皮革であって、前記合成樹脂バインダーによる塗膜形成が行われる皮革は、皮のなめし工程を経て得られる革を再なめし、染色及び加脂工程を経たのち、仕上げ工程に導かれた皮革である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚革及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車シート用の皮革は、皮のなめし工程を経て得られる革を再なめし、染色及び加脂工程を経たのち、仕上げ工程において表面に合成樹脂バインダーによる塗膜形成が行われた後に、自動車用シートとして完成され、自動車シートの組み立てが行われ、自動車の製造ラインにより自動車として完成される。
塗膜形成までの工程は、通常の工程としてはほぼ完成されていと見てよく、さらに時流にあった改良された商品を得るための開発努力が自動車用シートの製造部門において行われている。
使用者のニーズを満たすうえから、仕上げ工程は重要な工程となっている。
仕上げ工程の合成樹脂バインダーによる塗膜の形成は、色調や色イメージ、艶出し、平滑性や感触の改善、耐久性の付与、水や光などからの保護、はっ水性や防汚性などの機能を付与することを目的とするものであり、自動車シートの商品として重要な機能が付与される。
【0003】
自動車を便利に使いこなすうえからは、使用に伴って生ずる不都合をどのように解決していくかということは難しい問題であり、根本的に解決することは難しい。
乗降の際に通常より強い摩擦が生じるため衣類の染料(特に代表的なものとしてジーンズ染料)や、街中でドアを開閉することで空気中に浮遊する塵や埃、排気ガスの煤(カーボンブラック)などの汚れが付着することの解決は意外と難しい。これらは自動車シートを製造時に其の対策を講ずることにすると、本来、商品には汚れが付きやすいものであるという前提に立てば、本来の性質に反する、又は逆行する処理を商品に予め施すことになり、自動車シートであれば天然皮革に対して天然皮革の良さを打ち消す処理になりかねないことである。天然皮革に対して天然皮革の良さを損なわない汚れに対する対策が求められている。
自動車シートに限らず汚れに対する対策は皮革製品全般に必要としていることがらであって、自動車シートを含む塗膜を形成している皮革として汚れに対する対策を考察する。
【0004】
既に汚れが付着した皮革の汚れを除去するためには、靴クリーナなどに見られれる汚れ除去剤を使用して汚れをふき取ることが一般的である。クリーナーには、ソルビタン脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル、パラフィン系炭化水素及びやし油などの油成分を混合した組成物が知られている。
汚れ除去剤は付着した汚れを汚れ除去剤と共に皮革の表面から取り除くことにより、その目的を達成する。これを用いると、皮革特有のよさが失われ、艶が失われ,完全にふき取ることが必要であり、本来の皮革に戻すためには、さらに別の処理が必要となる。
汚れが付着する前に塗っておくと、塗ったこと自体が汚れに結びつく結果となる。人の衣服に汚れ除去剤が付着して衣服を汚す結果となる。
【0005】
汚れが付着することを防止するために、たとえ汚れが皮革に付着したとしても、汚れが皮革に結合する状態が弱い状態にするのであれば有効な手段であるということができる。ふき取りなどを行うことにより、何も対策を施さない場合と比較的して、よりらくな操作でふき取りをおこなうことができるし、皮革に対する影響も少なくて済む。付着する汚れを水などによりふき取るようにするということは汚れを親水性の状態にすることであり、汚れを親水性の状態にすれば有効であることが解る。
以上のことから、汚れが皮革に付着する前に、汚れを親水性とすることができる汚れ付着防止剤を予め皮革に塗布しておいて、汚れが付着することを防止する又は付着しても親水性にした汚れを水によりふき取りやすい状態にすれば汚れを防止し、又ふき取りやすいものとすることができるので、有効な手段となり得ると考えられる。この場合には親水性である汚れ防止剤をいかにして皮革の表面にとどめおくことができるかという点が解決できず、根本的な解決策となっていない。
【0006】
自動車シート以外の技術分野でも、対象となる物質の表面の清浄化処理は積極的に進められてきた。例えば、セラミックなどの建築材料の表面に雨水汚れが塗料表面に付着することを防止するために、撥水性の特性を有しているアクリル系やポリウレタン系なの機能性塗料を塗布することが行なわれる。はっ水性塗膜の表面は、汚れを含んだ雨水が表面を流れ落ちる際に雨水だけをはじいて汚れを残して流れ落ちる結果、汚れである油成分は塗膜表面に残ってしまい、結局、防汚は不十分な結果となる。これに対して撥水性の塗膜を親水性の機能性塗料による塗膜に変更すると、雨水は塗膜になじんで流れ落ちていくために、雨水は汚れである油分を一緒に押し流すので、はっ水性の表面に見られた油成分による汚れが残ることはない。このことから水ふきをする場合には、表面を親水性塗膜とすることが有効であるとされている(非特許文献1桐生春雄ら著水性コーティング1998年12月31日株式会社シーエムシー発行13頁)。
【0007】
繊維表面に付着したほこりや泥の除去では、大気中のほこりや泥のような固体粒子汚れは、繊維表面に凝集し付着している。微粒子の集団は其の表面積が非常に大きい状態で凝集した状態となって塊状化されている。汚れを落とす場合には、初めに、塊状の微粒子を各々の微粒子に分散させることが必要となる。このためには、塊状になっている状態に働く力を解除するために、微粒子間に十分な反発力(斥力)を引き起こすことが必要となる。界面活性剤を繊維表面に存在させておくと、微粒子をばらばらにすることができ、繊維表面からほこりや泥を付着できない状態とすることができる。又、界面活性剤を利用することにより、汚れが再付着することを防止することができる(非特許文献2牛田智ら著、衣生活の科学、2006年3月20日財団法人放送大学教育振興会発行149〜151頁)。
【0008】
本発明者らが追い求める、皮革表面に汚れが付着することを防止する技術にあっては表面に親水性の状態の皮膜を形成することが可能となると、例え汚れが皮膜表面に付着した場合であっても、汚れが除去しやすい状態になっていることがわかる。
【0009】
従来の皮革表面の汚れ防止の膜を設ける際に撥水性の膜を設けることはよく知られている。フッ素を含む化合物やケイ素化合物を含む被膜を設けて、これをはっ水性の被膜を形成しようとするものであり、多数の発明がある。
表面がフッ素を含む被膜、フッ素を含むアルコキシシラン化合物、少なくともシロキサン結合を介して製品の表面に結合形成された化学吸着膜を有する撥水防汚性毛皮・皮革製品(特許文献1 2004−203946号公報)、含フッ素樹脂およびシリコーンオイルからなる皮革用塗料組成物(特許文献2 特許第3778168号明細書)、
硬化性反応基を有する含フッ素 樹脂と硬化剤とを含む硬化性含フッ素 樹脂塗料の硬化物である含フッ素 樹脂塗膜 を最外層に有する含フッ素 樹脂塗装皮革(特許文献3 特許第3948126号明細書)、下記(A)、(B)からなる皮革 、合成ゴム、天然ゴム、繊維製品のシリコーンコーティング皮膜形成用組成物。
(A) 一般式R1aSiO(4-a)/2で表わされる25℃における粘度が10〜 2,000万cPであるポリオルガノシロキサン 100重量部(R1は炭素原子数1〜20の1価の有機基、1.95<a<2.20)、
(B) シリコーンゴム球状微粒子にポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を被覆した複合シリコーン粉体 0.1〜 100重量部(特許文献4 特許第3854670号明細書)。
形状保持剤が柔軟剤として、シリコン 系高分子、カチオン系界面活性剤、スコアラン等の天然加脂剤、および天然潤滑剤からなる化合物群の内の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1に記載の形状保持方法(特許文献5 特開2008-095250号公報)。フッ素 樹脂配合組成物をアクリル酸メタクリル酸共重合体によって水中に乳化分散してなることを特徴とする皮革 用撥水撥油剤(特許文献6 特許第3028128号明細書)。スクアラン、高級脂肪酸エステル及びアミノシリコンの混合物により処理された天然皮革 製品(特許文献7特許第2645972号明細書)など。
フッ素含有化合物、シリコン含有化合物の皮膜は、はっ水性である。これらの塗膜は、フッ素化合物を用いたものは硬いとか、疎水性であるので帯電してしまい逆に汚れを引き付けてしまうとか、表面が滑ってしまうので、使用感が悪い、付着する汚れが残ることなどの問題点がしばしば指摘され、この点が問題点となっている。
【0010】
以上は自動車シートについて述べてきた。汚れに対してどのような対策を講ずるかは皮革全般に必要とされることがらである。皮革は最終的に塗膜を形成することにより最終商品となる。塗膜と塗膜の表面に付着する汚れとの関係としてとらえ、皮革に付着する汚れを防止する、汚れにくくする又は付着した汚れを容易に除去可能にするために、皮革表面に水溶性の界面活性性物質を付着させ、これを皮革の表面に固定化することが求められている。
しかしながら、水溶性の界面活性性物質を付着させることを技術的に解決されておらず、適切な水溶性の界面活性物質及び水溶性の界面活性性物質を皮革表面に付着固定化する技術が強く求められている。
【特許文献1】2004−203946号公報
【特許文献2】特許第3778168号明細書
【特許文献3】特許第3948126号明細書
【特許文献4】特許第3854670号明細書
【特許文献5】特開2008-095250号公報
【特許文献6】特許第3028128号明細書
【特許文献7】特許第2645972号明細書
【非特許文献1】桐生春雄ら著水性コーティング1998年12月31日株式会社シーエムシー発行13頁
【非特許文献2】牛田智ら著、衣生活の科学、2006年3月20日財団法人放送大学教育振興会発行149〜151頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、皮革に付着する汚れを防止する、汚れにくくする、又は付着した汚れを除去しようとするために皮革表面に親水性界面活性を有する物質の膜を付着固定した新規な皮革、皮革の表面に皮膜を形成する新規な処理剤及びこの処理剤を用いる、皮革表面に親水性界面活性を有する物質の膜を付着固定した新規な皮革の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を進めた。
(1) 前記のとおり、一般に親水性界面活性性物質の膜を、塗膜を形成している皮革の表面に付着固定することは困難である。親水性界面活性性物質を塗膜に付着させたとしても表面より流れ落ちてしまうことが予想される。
(2) 近年、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCともいう)(特公昭60−21599号)、及び2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体(特開平3−39309号公報、特開平9−3132号公報、特許第2890316号明細書、特許2870727号明細書)が知られている。この物質は特異な作用を有していることで注目される。
(3) MPCは、2−メタクリロイルオキシエチル基とホスホリルコリン基が結合している物質であり、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基は超親水性を示す。全体として、これら二つの部位を組み合わせて形成されている。これらは生体内由来のリン脂質分子と強く相互作用し、材料表面に生体膜類似の配向したリン脂質吸着層を安定に形成する。そして優れた生体適合性を示す。タンパク質や血球などの生体成分の吸着が少なく、血栓形成を誘引する血小板の活性化を抑制することができる。この性質により生体適合性の物質として知られている。仮に、タンパク質や血球を汚れであるとすると、皮革表面に配向される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基の作用により、汚れは吸着されず、汚れはゆるい状態で皮革の表面にとどめ置かれることとなる。
(4) 本発明者らは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を、増粘剤、レベリング剤及び水からなる皮膜形成用処理剤として調合し、この皮膜形成用処理剤を皮革表面に塗膜として噴霧するなどして吹き付けてから、乾燥させると2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を、皮革表面を保護している塗膜上に固定することに成功した。
(5) 皮革表面に固定された2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体は自動車の利用に伴って付着する汚れの防止、汚れを付着しにくくするのみならず、一度付着した汚れを拭き去ることにより除去することができることを新たに見出して、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を、合成樹脂バインダーの表面に塗膜として形成した皮革を得ることができる。
この塗膜は汚れが皮革表面に付着しないようにすることができ、付着したとしても、除去しやすくすることできる。自動車シート用して用いる皮革の汚れ対策として新しい分野を切り開くものである。
本発明によれば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体、増粘剤、レベリング剤及び水を含む新規な皮革処理剤を得ることができ、これを皮革の表面に塗布して、乾かすと、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の皮膜を形成することができる。
前記皮革処理剤は噴霧スプレーなど形態で用いることができるので、使用に際しては手軽に使用できる。
自動車シート用皮革の製造に関し、なめし工程、再なめし、染色、加脂工程及び乾燥工程終了後、仕上げ工程で合成樹脂バインダーによる塗膜を形成した後に、皮革表面に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の塗膜を形成することにより、汚れが皮革表面に付着しないようにすることができ、付着したとしても、除去しやすくすることできる。カーシート用皮革やインパネ用皮革の最終的な仕上げに新しい方向性を示している。使用する年月が経過して、その性能が落ちた場合には、改めて塗膜を形成すればよく、自動車シート用皮革として再生することができる。
以上、使用状況の点から特に汚れ対策を必要とされる自動車シート用として本発明について述べたが、本発明の皮革・被膜形成用処理剤・皮革の製造方法は、自動車シート用に限らず、インストルメントパネル・ドアトリム・ノブスカートなどの自動車内装品用、家具用としても好適に使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、皮革表面に合成樹脂バインダーによる塗膜形成が行われ、その塗膜の表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による皮膜が形成されている皮革である。
この発明では、皮革表面の皮革は、自動車シート用に限らず、インストルメントパネル・ドアトリム・ノブスカートなどの自動車内装品用、又は家具用として用いられる皮革も含む。広範囲の皮革を対象としている。これらの皮革は、その表面に汚れを防ぐ又は汚れが除去しやすいように合成樹脂バインダーによる塗膜が形成されており、この表面であれば2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による皮膜を形成できる。
合成樹脂バインダーには、公知の合成樹脂バインダーが用いられる。具体的にはカゼイン、ニトロセルロース、ポリウレタン、ポリアクリル酸エステルが用いられる。また、アクリルバインダーで下塗りをして上塗りにウレタンバインダー行ってもよい。
合成樹脂にはポリ酢酸ビニル(Tg30℃)、ポリアクリル酸メチル(Tg3℃)、ポリアクリル酸エチル(Tg−22℃)、ポリメタクリル酸メチル(105℃)、ポリスチレン(Tg105℃)、ポリアクリルニトリル(Tg105℃)、ポリ塩化ビニル(Tg82℃)が用いられる。いずれも汎用の公知物質であり、任意に選択して用いることができる。ポリウレタンを自動車シートに用いる場合について後述する。他の場合についても同様に行うことができる。
その塗膜の表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による皮膜が形成することについても自動車シートに用いる場合について後述する。他の皮革の場合についても同様に行うことができる。
樹脂の塗膜の形成は、刷毛塗り、スプレー塗装など任意の方法が採用される。
【0015】
前記皮革表面の皮革は、準備工程、皮のなめし工程を経て得られる革を再なめし、染色及び加脂工程を経たのち、仕上げ工程において皮革表面に合成樹脂バインダーによる塗膜形成が行った皮革に対して、皮膜の形成を行う。
前記一連の工程は通常の皮革の製造工程であり、皮革製造として一般的に用いられている工程である。
【0016】
準備工程は、皮なめしを行うに行う準備の工程である。準備工程は、原皮水洗・水漬け工程からトリミング工程となっている。
【0017】
なめし工程は、準備工程により処理された皮を化学的、物理的操作により、種々の実用性能を有する革に可逆的に変換する。皮に耐熱性、化学試薬や微生物に対する抵抗性、柔軟性を与える。
なめし工程は、酸性条件下に皮をなめし剤を水の存在下に処理するものである。なめし剤は皮のコラーゲン物質に架橋を起こさせて、皮に耐熱性、微生物や化学物質に対する抵抗性を与え、柔軟性を付与する操作である。
なめし剤には、3価のクロム錯体、例えばCr(SOとして表現されるヘキサアコ結晶硫酸を用いるクロム化合物、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物などのほか多くのなめし剤が知られている。これらはいずれも従来から知られているものであり、市販のものを購入して使用すればよい。
【0018】
再なめし・染色・加脂及び乾燥工程は以下の通りである。
再なめし工程では、再なめし剤として、既に知られている合成なめし剤、植物なめし剤などの中のから選択して用いられる。場合によっては、前記なめし剤であるクロムやグルタルアルデヒドなども添加して使用することもある。
再なめしに際しては処理対象となる革が中和されているかどうかを予め確認して行う。
【0019】
染色工程については以下の通りである。
前記染色工程は、再なめし工程を経て得られる革を対象にして前記染料を用いて染色を行うものである。酸性水性染料を用いて染色される。
染料を含む組成物は、比較的強酸側(pHは3から4)であり、革重量基準で、水250%、前記染料2.5から4%、アニオン界面活性剤からなる均染剤0.5%からなる水溶性組成物として供給される。
処理温度は50℃程度である。1時間程度ドラム内処理する。
染色工程終了後、ギ酸1%(革に対する重量%)により染料の定着処理を行う。
【0020】
加脂工程は以下の通りである。
加脂工程では加脂剤による処理が行なわれる。
加脂工程は再なめし後の染色工程の次に行われる処理である。なめしなどの製革湿潤作業を終えた湿潤革の内部構造中のフィブリル間には多くの水が介在し、これが革に柔軟性を与えている。革が乾燥されて、この水が除去されるとフィブリル同士がこう着して組織の硬化が起きる。湿潤革中に介在する水の一部を他の物質で置換してから乾燥させると、フィブリルのこう着を防止できる。油剤を革フィブリル間に充填して表面に付着させることが加脂工程の中心である。
油剤の作用によりフィブリル間又はその表面を疎水性油剤の皮膜で覆うことによりフィブリルに防水性を与えることができ、はっ水効果がある油剤を用いることにより耐水性を改善することができる。また、革のしなやかさやふくらみ感なども加脂剤による影響を受ける。
加脂剤には、(1)アニオン性加脂剤、(イ)硫酸化油、(ロ)スルホン化油、
(ハ)亜硫酸化油、(ニ)脂肪酸石鹸、(ホ)リン酸化油、(へ)多極性加脂剤、(ト)そのほかのアニオン性加脂剤、(2)カチオン性加脂剤、(3)両性加脂剤、(4)ノニオン性加脂剤、(5)中性油、具体的には、(イ)動物油、(ロ)海産動物油、(ハ)植物(ニ)合成油などを挙げることができる。
加脂剤を含む組成物は以下の通りである。
水は革重量に対して110%から130%、合成加脂剤は革重量に対して2から5%、液のpHは3.5、水温は50℃程度とされる。
以上の組成物をドラム中の革に供給処理し、処理後に十分に水洗して操作を終了する。
【0021】
加脂工程を得た皮革は、なめして柔らかくした皮革の状態となる。
セッター工程に移し、セッティングマシンにより、平板上に伸ばしを行って染色後の革の水分を絞り、水分を50〜60%程度とする。
がら干し乾燥は革の一片を固定し、他の辺を自由端とする懸垂状態で35〜50℃の乾燥用空気を当てて、水分を10から5%程度とする。革を乾燥させ革内に薬品・染料の吸着を完全する。革を1回乾燥させることにより風合いをだす。
味取り工程では、がら干し乾燥により銀面が過度に乾燥し、割れやすく、強く伸ばして過ぎたまま乾燥しているので、不自然な状態となっている。味入れにより水分量を革に与え、味取りシャワー機に移し、乾燥状態にある革に少量の水を塗布することにより味付けを行う。これは、最終的に革の均等な伸び・膨らみ感に関係する。
バイブレーション工程では、革をバイブレーションマシンに移し、足先・縁周り等の硬さを取り、面積を大きくする。
空打ち工程では、革を空打ちドラムに移し、乾燥後の革の繊維をほぐす。
ネット張り乾燥工程では、革を軽く引っ張りながら、トグルクリップによりネットに固定し、熱風乾燥する方法である。通常、比較的水分が少ない水分状態から乾燥による組織硬化を避けて皮革の平面化をおこなう。
バフはバフィングマシーンを用いて研磨剤を塗布してあるバフィングペーパーを革に強く押し付けて革を美しく仕上げる。その際に発生する革の屑が革の表面や内面に付着しているので、これらを除去することも行なわれる。
バイブレーション工程では、革をバイブレーションマシンに移して繊維をほぐし、足先縁周り等の硬さを取る。
【0022】
以下の工程を経た皮革に対して仕上げ工程で、天然皮革基材表面に、顔料を含有した水性塗装剤をコートしてなるベースコート層と、そのベースコート層上に水性塗装剤をコートしてなるカラート層と、さらに、そのコート層上に、トップコート層とを形成する。
(1) ベースコート塗装
ベースコート塗装は、顔料を含有した水性塗装剤を用い、ロール塗装あるいはスプレー塗装により行われる。このベースコートの膜厚は、通常3〜10μmである。塗装後、乾燥処理に付されるが、通常は80℃熱風乾燥機による10分程度の処理で充分である。
【0023】
(2) カラーコート塗装
前記のベースコート塗装に次いでカラーコート塗装を行うが、最終製品の色調あるいは諸物性を充分なものとするため、このカラーコート塗装は、2度塗り作業により行うことが好ましい。のバインダーとしては、通常、2〜3種類のバインダーが混合使用される。また、ポリウレタン系の合成樹脂バインダーが溶液タイプのバインダーとして使用される。
の乾燥処理も、通常は80℃熱風乾燥機による10分程度の処理で充分である。ベースコートの膜厚は、通常、トータル膜厚として7〜30μmである。カラーコート塗装終了後、前記と同じく乾燥処理に付する。
【0024】
(3) トップコート塗装
前記のカラーコート塗装に次いで、トップコート塗装を行う。二液性ウレタン樹脂塗料を吹き付け塗装する。トップコートの膜厚は、通常10μm程度の厚さである。塗装後、乾燥処理に付されるが、この乾燥処理も前述の各塗装工程における乾燥処理と同様である。
【0025】
ポリウレタン樹脂は公知であり、樹脂が使用される。水性樹脂組成物を用いた皮革の開発が進められ、水性樹脂組成物が使用される。
【0026】
水性ポリウレタン樹脂組成物の一例を挙げると以下の通りである。
A) 25〜15,000mPa・sの23℃での粘度を有する特定の水性ポリオール成分と、
B) 50〜10,000mPa・sの23℃での粘度を有しそして一種以上の有機ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート成分3〜35重量%を含み、そして成分A)及びB)が、成分B)のイソシアネート基及び成分A)のポリオール成分のヒドロキシル基を基にしたNCO/OH当量比0.3:1〜2:1とする二液型水性バインダー組成物である(特許第3860623号)。
【0027】
上記Aについて必要に応じて慣用のエステル化触媒を用いて、既知の重縮合反応によって行われる。得られるポリエステルAを、必要に応じて成分B、並びにCを60〜160℃で反応させる。この反応は、ウレタン化触媒を用いて溶媒の非存在下でも又は不活性有機溶媒の存在下で実施することができる。
【0028】
前記ポリウレタン分散液は、25,000よりも大きな重量平均分子量(Mw )を有し;中和剤としてアンモニア、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン及び/又はジメチルイソプロパノールアミンを含み;3〜20mgKOH/g分散液の酸価を有し;そして、10℃以下の最低フィルム生成温度を有する。
ポリイソシアネート成分は、23℃で50〜10,000、好ましくは50〜3,000mPa.sの粘度を有し、そして室温で液体でありかつ脂肪族的に、脂環式的に、芳香脂肪族的に及び/又は芳香族的に結合されたイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートを基にしている。
【0029】
コーティング組成物の製造のためには、ポリイソシアネート成分B)を水性分散液A)と混合させるが、ここで溶解された又は分散された成分A)はポリイソシアネートのための乳化剤として作用させることができる。
この混合は、室温において簡単な撹拌によって行われる。ポリイソシアネート成分の量は、0.3:1〜2:1、好ましくは0.6:1〜1.5:1の、成分B)のイソシアネート基及び成分A)のアルコール性ヒドロキシル基を基にした、NCO/OH当量比を与えるように選ばれる。ポリイソシアネート成分B)の添加に先立って、ラッカー技術の既知の添加剤をポリオールの分散液又は溶液中に組み入れることができる。これらの添加剤は、脱泡剤、流れ調製剤、顔料及び顔料分布のための分散助剤を含む。
この他、二液性水性ポリウレタン樹脂組成物は市販のものを購入して使用することができる。
【0030】
二液性水性ポリウレタン樹脂組成物は適宜購入して使用すればよく製品名を挙げれば以下の通りである。
Finish PF BASF
Finish PFM BASF
Finish PUM BASF
Finish PUMN BASF
Matting HS BASF
Matting MA BASF
Promul 95A Clariant
Top D―2017 Clariant
51UD LANXESS
61UD LANXESS
85UD LANXESS
Hydrholac HW LANXESS
Hydrholac UD―2 LANXESS
RU―13045 Stahl
RU―22063 Stahl
RU―6125 Stahl
WT―13―486 Stahl
WT―13―492 Stahl
WT―2524 Stahl
【0031】
前記の少なくとも一種のヒドロキシル基含有ポリエステル分散液、実質的にヒドロキシル基またはアミノ基を含まない水性ウレタン、およびポリイソシアネートを含有する水性コーティング組成物は、耐摩耗性が充分ではないことが指摘され、以下の水性樹脂組成物も知られている。水性ポリウレタン樹脂に対して大過剰のポリイソシアネート系架橋剤およびシリコーン系化合物を配合し、さらには、有機または無機フィラーを配合することで、有機溶剤を実質的に使用せずに、塗工適性に優れ、高い耐摩耗性を皮革に付与することできる水性樹脂組成物からなる皮革用表面仕上げ剤知られている(特開2007−314919号公報)。このような新しい樹脂を加工したものに対して良好に使用することが有効である。
【0032】
皮革表面の合成樹脂バインダーによる塗膜の表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による皮膜の形成は以下のとおりである。
【0033】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体は、以下の一般式により示される。
【化1】


〔式中、aは0.03〜0.70、bは0.30〜0.97、nは2以上の整数、RはH、OR’(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す〕
で示される繰り返し単位により構成されている。
平均重量分子量は5000以上である。この共重合体は以下の単量体を共重合させることにより得ることができる。
この重合体は公知の重合体である(特許第2870727号明細書)。
また、日油株式会社製、商品名ポテンシャルSG(皮革保護剤、粘度6000cPs(25℃)、MPCとメタクリル酸エステル共重合体の含有量10重量%)を購入して用いることができる。
【0034】
上記共重合体において、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)は以下の化学構成式を有する単量体である。
この化合物は、以下の構造式で表される。
【化2】

【0035】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)は、例えば、2−ブロモエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルメタクリレートを反応させ、2−メタクリロイルオキシエチル2’−ブロモエチルリン酸(MBP)を得、このMBPをトリメチルアミンのメタノール溶液中で反応させて得ることができる。
【0036】
共重合成分であるメタクリル酸エステルは、以下の構造式で表される。
【化3】


〔ただし、n:2以上の整数、RはH又はOR’(R’:脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す〕であり、脂肪族炭化水素基はアルキル基、アルケニル基等、芳香族基はフェニル基等である。
nが2未満の場合は、MPCとの共重合体とした際に疎水性及びガラス転移温度が低いためにMPCの効果を発現させるためにMPCの組成を高くすると、水に溶解するか、著しく膨潤し、強度が低下する。
メタクリル酸エステルの具体例としてはメタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシプロピル、メタクリル酸2−フエノキシエチル、メタクリル酸2−ブトキシエチル等である。
【0037】
皮革表面の合成樹脂バインダーのポリウレタン樹脂の表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の皮膜を形成する際には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体、増粘剤、レベリング剤及び水からなる皮革の皮膜形成用処理剤を用いる。
これを噴霧により塗布して加熱して乾かすことにより皮膜を形成することができる。その結果、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による皮膜が形成される。
【0038】
皮膜形成用処理剤及びその組成は以下の通りである。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の配合量は処理剤全体の1.6から6.4重量%、
増粘剤の配合量は処理剤全体の1.8から3.2重量%、
レベリング剤は処理剤全体の6から10重量%、
水は処理剤全体の82から88.2重量%(以上合計100重量%)である。
【0039】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体については前記のとおりである。
【0040】
増粘剤は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による流し込みを防止するために処理剤に添加する。
なお、流し込みとは、皮革に設けられたシボの溝部分に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体が流れ込んでしまい、その結果、皮革の触感を悪くする現象を言う。
増粘剤の配合量が前記範囲より不足している場合には、流し込み防止の作用を十分に果たすことがない。又、前記の範囲を超えると、臭いの発生が見られ、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体が粒状になって析出する結果、皮革の皮膜表面に凹凸が出来るなどの不具合が発生する。スプレーガンを用いて塗布を行う際には、安定に操作を行う場合に流速及び塗布量を安定して供給するうえで重要なファクターとなる。増粘剤には非イオン型ポリエーテル型界面活性剤が用いられる。非イオン型ポリエーテル型界面活性剤であれば適宜利用できるが、具体的な一例挙げれば以下の構造式により、示される。商品名として、アデカノールUH420(株式会社ADEKA製、非イオン型界面活性剤含有量30重量%)が挙げられる。
【化4】

【0041】
レベリング剤には、イソプロピルアルコールやブチルセルソルブを用いることができる。レベリング剤が前記範囲より不足している場合には、塗膜の密着性が弱まるため樹脂コーティング層にうまく付着しない結果となり、前記範囲より多い場合には刺激臭の発生などの問題が生じる。
【0042】
水については不純物を含んでいない水を用いる。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体が、高い粘度を有するものである。これを粘度が低く、均一性の溶液状態のものとしないと均一な塗布を行うことはできない。溶媒としての水は重要な役割を果たす。
【0043】
増粘剤の配合量を定めた根拠は以下の実験的な根拠による。
増粘剤の配合量と流し込み・霧化不良の不具合発生状況の関係について調べてみると以下の通りである。
【0044】
【表1】

(増粘剤配合量は、非イオン型界面活性剤の重量%で示した)
【0045】
表1の結果が示すように、増粘剤配合量による流し込みが良好な範囲は1.8重量%以上。
霧化不良を起こさない良好な範囲は2.7重量%以下。
以上により、良好な増粘剤配合量は1.8重量%以上2.7重量%以下となる。
【0046】
レベリング剤は処理剤全体の6から10重量%とした根拠は以下の実験結果による。はじきの発生が見られないのは6重量%以上、また、においの発生を伴わないのは10.0重量%以下である。両者がかさなりあう含有量は6から10重量%である。
レベリング剤配合量によるはじき・臭いの不具合発生についてまとめると以下の表2の通りである。
【0047】
【表2】

【0048】
MPCとメタクリル酸エステル共重合体の配合量に応じて防汚性の効果を認めることができるのは、以下の表3が示すように1.6重量%以上、べたつかない範囲は6.4重量%以下である。
両者を合わせると、1.6重量%以上6.4重量%以下である。
【0049】
【表3】

以上の結果を考慮して最適な割合は以下の通りである。
【0050】
【表4】

【0051】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体は皮革の表面に形成する皮膜の主成分である。前記の範囲を超えると、膜状となったときに厚い結果となり、うまく薄い膜状にならないために皮革全体に拡がらず、本来の膜としての作用に弊害をもたらす結果となる。逆に前記範囲未満の場合には膜が薄くなりすぎて、その作用を果たさなくなる。
【0052】
皮膜形成用処理剤として、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を購入して用いる場合には、1,2,3−プロパントリオール及び1,3−ブチレングリコールなどのアルコール類が含まれた状態で購入する。本発明の皮膜形成用処理剤を製造するにあたっては、これに含まれる2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の含有量が明示されており、その重量を算出して使用する。その場合にあえて前記アルコール類を除去して使用することは行わない。したがって、皮膜形成用処理剤中にはアルコール類を含有している。
【0053】
皮膜の形成には前記皮膜形成用処理剤を皮革表面にポリウレタン塗膜を形成した表面に吹き付けることにより行う。
表面に吹き付ける量は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体に換算して80mg〜600mg/mである。
吹き付ける際には種々の手段を採用できるが、たとえば、手塗りやスプレーガンなどにより塗布することができる。ただし、手塗りの場合には手作業で拭き伸ばしを行ない、塗膜が均一に広く塗布されるように心がけることが必要となることがある。
この後、皮革表面が100℃から140℃に至るまでの間加熱された状態に維持して水分を蒸発させるなどして皮膜を形成する。処理時間は30秒から2分程度である。
皮膜の厚さは1μmから2μmの範囲となる。
【0054】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体は、表面には親水性である2−メタクリロイルオキシエチル基があり、メタクリル酸エステル共重合体の部分を介して合成樹脂コーティング層の表面に皮膜形成用処理剤全体として付着固定されていると考えられる。
したがって、単に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を含んだ水溶液として塗布すると表面に均一に拡がらずにはじかれてしまい、固定することはできない。
はじきを防止するためには、樹脂コーティング層と2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を含む塗膜層との間の密着性を高めるための手段を講ずることが有効となる。
本発明者らは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を含む塗膜に密着性を高める手段としてレベリング剤を導入し、介在させることにより、塗膜間の密着性が高まり、表面の親水・疎水を問わず強制的に塗膜同士が密着させることができる。
【0055】
本発明の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体皮膜を形成した皮革はどの程度の防汚性を有しているかは、(1)汚れが付着しやすいかどうかの測定、及び(2)汚れが付着した状態でふき取りをした結果の測定を行うことにより可能となる。
ふき取りには、やわらかい布による摩擦力によるふき取り、やわらかい布に水を含ませ、水に汚れを移行させることがある。摩擦力による場合には汚れは落ちず効果がないことがわかる。
ふき取りは水拭きが手軽で最も効果的であることがわかった。
汚れの種類には、ジーンズ染料を汚れとする汚染布の汚れを、皮革に付着させた場合、たんぱく質や脂肪、炭水化物により汚れとする汚染布の汚れを皮革に付着させた場合について試験を行った。
検出方法は各汚れ度合いを色差により行った。
結果の一例を示すと以下の通りである。
【0056】
【表5】

なお、色差は汚れを付着させた部分と汚れを付着させていない部分の差を測定したものである。
【0057】
前記の結果より汚れ後の色差を見てみると、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を塗布した場合ジーンズ及び汚染布のいずれの場合も汚れの付着は少ないことがわかる。特に汚染布の場合には汚れの付着量は少ないことがわかる。
また、水によりふき取ると、汚れをふきとることができることがわかる。特にジーンズの場合は水でふくことにより、汚れを顕著に減少させることができる。
なお、汚れを付着する期間は一般には6カ月から9カ月の程度であり、その後、にふき取りを行ったことに相当する。その程度の期間にわたり効果が持続されることがわかる。
【0058】
汚れ試験の方法及び使用する装置について以下に説明する。
図1に試験装置の概要(学振式摩擦堅牢度試験機を使用)を示した。
試験手順は以下の通りである。
1 試験片の準備
(1)皮革の試験片を切り出す(試験片の大きさは30mm×250mm)
(2)試験片を試験装置に取り付ける。
2 汚れ付着布(ジーンズ布・汚染布)の準備
汚れ付着布(ジーンズ布・汚染布)を切り出す(布の大きさは30mm
×50mm)
3 試験装置の操作方法
(1)切り出した汚れ付着布を負荷子に取り付ける(留め金により固定)。
(2)汚れ付着布に水滴が滴らない程度に水をつける。(接着面全体に広がるようにする。)
(3)台座往復速度30cycle/分、移動速度100mm、摩擦子と重なりの合計重量が1kgの条件になるようにして50cycle行う。
4 評価方法
・ 試験片を台座から取り外し、汚れ付着部分と汚れがついていない部分の色差を測
定する。
・ 汚れ付着部分を半分ぬれた布で拭きとり、その色差を測定する。
・ 色差計は*L、*a、*bを測定できるものを用いる。
D65光源が好ましい。
【0059】
以下に実施例により本発明の内容を、より具体的に説明する。本発明はそれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
皮を前処理したのち、Crなめし工程、合成なめし材による再なめし工程、染色及び加脂工程を得た皮革を仕上げ工程で水性ポリウレタン樹脂により、皮革の表面にボトムコート、ベースコート及びトップコートの3層からなる塗膜を形成した。
【実施例2】
【0061】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体、増粘剤、レベリング剤及び水からなる皮膜形成用処理剤を製造する。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の多価アルコール溶液(日油株式会社製、商品名ポテンシャルSG、6000cPs(25℃)、MPCとメタクリル酸エステル共重合体の含有量10重量%)43重量%、増粘剤にはアデカノールUH420 7重量%、レベリング剤はイソプロピルアルコール7重量%、水43重量%の皮膜形成用処理剤を製造した。
【実施例3】
【0062】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体、増粘剤、レベリング剤及び水からなる皮膜形成用処理剤を噴霧して皮革の表面に吹きつけ)5g/m、120℃で乾燥させた。
【実施例4】
【0063】
汚れに対する影響については本発明の皮膜を形成しているものについて、ジーンズ及び汚染布の汚れ後及び水拭き後の結果を調査した。
前記実施例1から4は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の皮膜を皮革の塗膜の上に形成することができることを示した(実施例1から3)。次に、その効果を確認するために行った試験結果が実施例4である。
試験結果は以下の表6に示す通りである。
【0064】
【表6】

上記実施例4では汚れが付着しやすいとされるジーンズに対しても、水拭きによって十分に汚れを落とすことができることが判明した。又、汚染布にあってはジーンズに比較すると、付着しにくい汚れであっても、とにかく水拭きによって汚れを落とすことができることを示している。
なお、色差は汚れを付着させた部分と汚れを付着させていない部分の差を測定したものである。
比較例1
【0065】
前記実施例で示した2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体の皮膜を皮革の塗膜の上に形成することは、その特性は従来から存在した汚れ防止剤の改良というものではなく、新しい形の汚れ防止剤である。したがって、前記実施例と対比されるべき比較例1は従来から存在していた皮革、具体的には、なめし工程から始まって仕上げ工程で樹脂塗膜を形成したものである。この比較例1の調査項目の結果を同じく前記表6に示した。
ジーンズ汚れに対しては実施例より汚れが付着しやすいことを示している。
又、水拭きにより落とすことができると言うことができるものの、実施例の結果と比べて落としにくいことを示している。又、汚染布に対して、汚れが付着しやすいことがわかる。又、水拭きの効果もあまりないことがわかる。
以上の結果から見ても、本発明の皮膜は新しい性能を有する汚れ防止剤であり、新しい方向性を有しているものであることがわかる。
【0066】
評価については以下の通りである。
汚れの付着について
ジーンズ及び汚染布いずれも本発明の場合には汚れが少ない結果となっている。特に汚染布の方が顕著な相違がある。すなわち、汚れがつかない、又はつきにくいということができる。
汚れの落ち具合について
本発明ではジーンズでは水拭きによって汚れが十分に除かれることがわかる。
本発明では汚染布では汚れがもともと少ないので、除かれる汚れも少ない。
しかしながら、水拭き後に付着する汚れも本発明の場合は十分に除かれているということができる。本発明の効果は十分に確認できる。
【0067】
本発明では、増粘剤の配合量を定めた根拠については、実験的な根拠により始めて定めることができること、具体的には、流し込み・霧化不良の不具合発生状況によって定めることができることを表1に示した。同じく、レベリング剤は、はじきの発生が見らないこと及びにおいの発生を伴わないことについて実験に初めて定めることができること(表2)、同じく、MPCの配合量は、防汚性及びべたつかない範囲により定まること(表3)がわかった。これらはいずれも、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体について初めて試みられたものであることがわかる。
本発明の皮膜形成用処理剤とは相違して、単に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体を水に溶解させた水溶液を用いた場合には、皮革の表面に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体は付着固定されない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、使用状況の点から特に汚れ対策を必要とされる自動車シート用として有効であることを述べた。自動車シートについて合成樹脂バインダーによる塗膜形成とは相違するカゼインなどのたんぱく質系のバインダーを用いるアニリン仕上げ、セミアニリン仕上げ、顔料仕上げなどの塗膜形成を行った場合の汚れ対策としても有効に使用できる。本発明の皮革・被膜形成用処理剤・皮革の製造方法は、自動車シート用に限らず、インストルメントパネル・ドアトリム・ノブスカートなどの自動車内装品用、生活関連用の家具、衣料及び靴などの場合であっても有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】試験装置の概要(学振式摩擦堅牢度試験機を使用)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革表面に合成樹脂バインダーによる塗膜形成が行われ、その塗膜の表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体による皮膜が形成されていることを特徴とする皮革。
【請求項2】
前記皮革表面の皮革は、皮のなめし工程を経て得られる革を再なめし、染色及び加脂工程を経たのち、仕上げ工程に導かれた皮革であることを特徴とする請求項1記載の皮革。
【請求項3】
前記合成樹脂バインダーが水性ポリウレタンであることを特徴とする請求項1又は2記載の皮革。
【請求項4】
前記2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体は、以下の一般式により示される重合体であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の皮革。
【化1】


〔式中、aは0.03〜0.70、bは0.30〜0.97、nは2以上の整数、RはH、OR’(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す〕で示される繰り返し単位により構成されている。重量平均分子量は5000以上である。
【請求項5】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体、増粘剤、レベリング剤及び水からなることを特徴とする塗膜の表面の皮膜形成用処理剤。
【請求項6】
前記2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体は、以下の一般式により示される重合体であることを特徴とする請求項5記載の塗膜の表面の皮膜形成用処理剤。
【化2】


〔式中、aは0.03〜0.70、bは0.30〜0.97、nは2以上の整数、RはH、OR’(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す〕で示される繰り返し単位により構成されている。重量平均分子量は5000以上である。
【請求項7】
皮革表面に合成樹脂バインダーによる塗膜形成を行い、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体、増粘剤、レベリング剤及び水からなる皮膜形成用処理剤を塗布して加熱することにより皮膜を形成することを特徴とする皮革の製造方法。
【請求項8】
前記皮革表面の皮革は、皮のなめし工程を経て得られる革を再なめし、染色及び加脂工程を経たのち、仕上げ工程に導かれた皮革であることを特徴とする請求項7記載の皮革の製造方法。
【請求項9】
前記合成樹脂バインダーが水性ポリウレタンであることを特徴とする請求項7又は8記載の皮革の製造方法。
【請求項10】
前記2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステル共重合体が以下の一般式により示される重合体であることを特徴とする請求項7〜9いずれか記載の皮革の製造方法。
【化3】


〔式中、aは0.03〜0.70、bは0.30〜0.97、nは2以上の整数、RはH、OR’(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す〕で示される繰り返し単位により構成されている。重量平均分子量は5000以上である。

【図1】
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【公開番号】特開2010−116488(P2010−116488A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290854(P2008−290854)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】