説明

防火ガラス、防火ガラス接合体、防火ガラス窓構造及び防火ガラス窓の施工方法

【課題】従来よりも大開口で連続的外観の防火窓が形成できる防火ガラス、防火ガラス接合体、防火ガラス窓構造及び防火ガラス窓の施工方法を提供する。
【解決手段】本発明の防火ガラス10は、−10〜10×10-7/Kの線膨張係数を有する耐熱結晶化ガラスよりなる矩形状の透明板ガラス10aの少なくとも1辺の端面が、透光面10bに対して30°〜45°の範囲内の角度θで略全面に亘って傾斜している傾斜端面10cになっている。本発明の防火ガラス接合体、防火ガラス窓構造及び防火ガラス窓の施工方法は、第一及び第二の防火ガラス10の互いの傾斜端面10cをそぎ継ぎで接合するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の防火ガラスと、防火ガラス接合体、防火ガラス窓構造及び防火ガラス窓の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、事務所ビル、デパート等の大型建築物が増加するにつれて、火災時に火炎や煙を遮断して延焼を最小限に食い止める防火機能を有する防火ガラスは、導入の必要性が高まっている。この防火ガラスは、国土交通省から特定防火設備として認定され、市販されている。
【0003】
この特定防火設備とは、建築基準法施行令第112条第1項に規定されており、通常の火災による火炎が加えられた場合に、加熱開始後1時間、加熱面以外の面に火炎を出さない性能を有することを証明する国土交通省から指定された評価試験機関による防火試験に合格した防火設備である。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、複数枚の防火性板ガラスの片面あるいは両面に、鎖状の分子構造のみからなるフッ素樹脂フィルムが接着されてなる防火安全ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開平4−224938号公報
【特許文献2】特開平8−132560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の防火安全ガラスは、耐熱結晶化ガラスからなる板ガラスの最大寸法の製造限界が、現在のところ1200mm×3000mmであるので、この寸法よりも大きい開口部に連続的な透明窓を形成することができない。
【0006】
本発明は、従来にない大きい開口部に対して連続的な外観の窓部を形成することができる防火ガラス、防火ガラス接合体、防火ガラス窓構造及び防火ガラス窓の施工方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するためになされた本発明に係る防火ガラスは、−10〜10×10-7/Kの線膨張係数を有する耐熱結晶化ガラスよりなる矩形状の透明板ガラスの少なくとも1辺の端面が、該透明板ガラスの透光面に対して30°〜45°の範囲内の一定の角度で略全面に亘って傾斜している傾斜端面であることを特徴とする。
【0008】
本発明で傾斜端面とは、耐熱結晶化ガラスよりなる矩形状の透明板ガラスの4辺のうち、少なくとも1辺の端面が、その略全面に亘って透明板ガラスの透光面に対して30°〜45°の範囲内の一定の角度で傾斜していることを意味している。この略全面に亘ってとは、先端が鋭角になると欠けやすくなるので、面取り加工や丸め加工などで先端が加工されているものも含むことを意味する。この傾斜端面の透光面に対する傾斜角度が30°未満であると、傾斜端面の面積が大きくなり、先端が薄くなり欠け易くなる。一方、傾斜角度が45°を超えると、ガラス同士の接触する面積が相対的に小さくなることから、十分に固定することが困難になる。また、傾斜端面の表面粗さを小さくなるように仕上げておくと、互いの傾斜端面を重ね合わせた時には、傾斜端面以外の防火ガラスの透光面に近い可視光透過率になり、重ね合わせ部位が目立たなくなるので外観上好ましい。
【0009】
また、本発明の防火ガラスで、傾斜端面を形成する形態としては、図1(A)に示すように、矩形状の透明板ガラス10aの1辺に略全面に亘って透光面10bに対して30°〜45°の範囲内の一定の角度で傾斜している一つの傾斜端面10cを有する防火ガラス10、図1(B)に示すように、左右対称に二つの傾斜端面20c、20dを有する防火ガラス20、図1(C)に示すように、回転対称に二つの傾斜端面30c、30dを有する防火ガラス30がある。
【0010】
本発明で防火ガラスとは、建築基準法施行令第112条第1項で規定されている特定防火設備の基準を満たす防火性能を持つ耐熱性の板ガラス、又はISO834の標準加熱曲線に基づく加熱試験により、割れや、脱落が生じず、合格したものを意味している。例えば、網入りガラス以外の防火ガラス板を規定している国内規格では、(社)カーテンウォール・防火開口部協会、板硝子協会、ガラスブロック工業会の《耐熱板ガラス品質規格》、制定:平成7年9月1日、改定:平成19年4月1日がある。
【0011】
本発明の防火ガラスでは、透明板ガラスが、30℃〜750℃の温度範囲における平均線膨張係数が−10〜10×10-7/Kである耐熱結晶化ガラスよりなるものであることが、高い耐火性を実現する上で重要である。
【0012】
また、本発明の防火ガラスは、透明板ガラスの透光面に、反射膜及び/又は着色膜が膜付けされてなることを特徴とする。
【0013】
本発明で透明板ガラスの透光面に、反射膜及び/又は着色膜が膜付けされているとは、耐熱結晶化ガラスよりなる透明板ガラスの少なくとも一方の透光面に、均一で耐久性の優れた反射膜及び/又は着色膜が膜着けされたものであることを意味している。熱線反射膜をコーティングした場合には、室内の冷暖房負荷を大きく低減させることが可能であり、本発明の防火ガラスに新たな遮熱機能を付与することができる。
【0014】
熱線反射膜としては、膜厚が1000〜15000ÅであるITO(スズ含有酸化インジウム)からなる熱線反射膜と、この熱線反射膜上に二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム又は酸化スズの何れか一種又は二種以上からなる膜厚が100〜5000Åである酸化防止膜との2層膜構造の遮熱膜が形成されているものが好ましい。また、熱線反射膜と酸化防止膜の間に酸化チタン、酸化ジルコニウム又は酸化アルミニウムの何れか一種又は二種以上からなる膜厚が20〜200Åの中間膜とが形成されている3層膜構造の遮熱膜が形成されているものがさらに好ましい。
【0015】
また、着色膜をコーティングした場合には、本発明の防火ガラスにプライバシー保護機能を付与することや意匠性を高めることができる。着色膜としては、金属酸化物、窒化物又は酸窒化物の何れか一種又は二種以上からなり、膜厚が1000〜5000Åで、膜厚及び材料を選択することで、ブルー系、シルバー系、グレー系、オレンジ系、ゴールド系もしくはブロンズ系等の色調を呈し、可視光の平均透過率が20〜40%の着色膜が形成されているものが好ましい。具体的には、着色膜が、例えばTi、Nb、W、Moから選ばれた少なくとも一種の金属の窒化物を含むものであり、好ましくは着色膜の上、又は防火ガラスの表面と着色膜との間に、Si、Ti、Al、Nb、W、Moから選ばれた少なくとも一種の金属の窒化物又は、SiあるいはAlの酸化物を含む酸化防止膜が形成されてなるもの等が使用可能である。
【0016】
本発明に係る防火ガラス接合体は、上記本発明の第一防火ガラスの傾斜端面と、前記傾斜端面と実質的に同じ寸法形状の傾斜端面を有する上記本発明の第二防火ガラスの傾斜端面とが重ね合わせられ、そぎ継ぎの形態で接合されてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の防火ガラス接合体は、建築、木工等で用いられる接合手法の一つであって、第一防火ガラスの傾斜端面と、第二防火ガラスの傾斜端面とを重ね合わせることで、互いの傾斜端面を重ねた接合部位を他の部位と同じ厚さになるようにして連続性を維持するそぎ継ぎの形態で接合されているものである。
【0018】
本発明の防火ガラス窓構造は、枠体に、上記本発明の防火ガラス接合体が固定されてなることを特徴とする。本発明で使用する枠体としては、特定防火設備の遮炎性能の基準を満たすスチール製やステンレス製の板材を曲げ加工したものが使用可能であり、火災時の変形が小さいものが好ましい。
【0019】
本発明に係る防火ガラス窓の施工方法は、上記本発明の第一防火ガラスの傾斜端面と、前記傾斜端面と実質的に同じ寸法形状の傾斜端面を有する上記本発明の第二防火ガラスの傾斜端面とを重ね合わせてそぎ継ぎの形態で接合することにより、防火ガラス窓を施工することを特徴とする。また、本発明では、枠体に、第一及び第二防火ガラスを固定することが好ましい。
【0020】
本発明の防火ガラス窓の施工方法では、透明板ガラスよりなる第一防火ガラスの傾斜端面と第二防火ガラスの傾斜端面とを重ね合わせてそぎ継ぎの形態で接合することが、接合部と他の部位との光透過率差を少なくすることができるので境目が極端に目立つこともなく大凡連続的な外観の窓部を形成する上で重要である。また、建築用の透明接着剤を介して接合することが、屈折率差を小さくして境目を目立たせない上で好ましい。
【0021】
本発明の防火ガラス窓の施工方法で、枠体に、第一及び第二防火ガラスを固定するとは、第一防火ガラスの傾斜端面と第二防火ガラスの傾斜端面とを重ね合わせてそぎ継ぎの形態で接合した状態を、窓枠等の枠体を使用して保持することを意味している。
【発明の効果】
【0022】
本発明の防火ガラスは、−10〜10×10-7/Kの線膨張係数を有する耐熱結晶化ガラスよりなり、矩形状の透明板ガラスの少なくとも1辺の端面が、該板ガラスの透光面に対して30°〜45°の範囲内の一定の角度で略全面に亘って傾斜している傾斜端面であるので、従来では防火ガラスを施工するスチール製等の枠に最大で1200mm×3000mmの防火ガラスを1枚施工するものであったが、このような構成の防火ガラスによれば、傾斜端面を重ね合わせて施工することにより施工する枠内に複数の防火ガラスを施工することが可能となり、従来にない大きな開口部に対して連続的な外観を有して視界が良好な防火ガラス窓を提供することができる。
【0023】
また、本発明の防火ガラスは、透明板ガラスの透光面に、反射膜及び/又は着色膜が膜付けされてなるので、熱線反射膜をコーティングした場合には、室内の冷暖房負荷を大きく低減させることが可能であり、防火ガラス窓に新たな遮熱機能を付与することができる。また、着色膜をコーティングした場合には、防火ガラス窓にプライバシー保護機能を付与することや意匠性を高めることができる。
【0024】
本発明の防火ガラス接合体は、上記本発明の第一防火ガラスの傾斜端面と、前記傾斜端面と実質的に同じ寸法形状の傾斜端面を有する上記本発明の第二防火ガラスの傾斜端面とが重ね合わせられ、そぎ継ぎの形態で接合されてなるので、接合部と積層部との光透過率差が少なくなり概ね境目が目立つこともなく連続的な外観の防火ガラス窓を形成することができる。
【0025】
本発明の防火ガラス窓構造は、枠体に、上記本発明の防火ガラス接合体が固定されてなるので、従来にない大きな開口部に対して境目が目立つことがなく視界が良好であり、強度的にも優れた窓部を容易に形成することができる。
【0026】
本発明に係る防火ガラス窓の施工方法は、上記本発明の第一防火ガラスの傾斜端面と、前記傾斜端面と実質的に同じ寸法形状の傾斜端面を有する上記本発明の第二防火ガラスの傾斜端面とを重ね合わせてそぎ継ぎの形態で接合することにより、防火ガラス窓を施工するので、従来にない大きな開口部に対して連続的な外観を有して視界が良好な防火ガラス窓を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の防火ガラス、その製造方法、防火ガラス接合体及び防火ガラス窓の施工方法の実施形態について、図を参照して説明する。
【実施例1】
【0028】
図1(A)に示す本実施例1の防火ガラス10を作製するために、1200mm×2400mm×厚さ4mmの寸法を有し、30℃〜750℃の温度範囲における平均線膨張係数が−3×10-7/Kの耐熱性透明結晶化ガラス製の透明板ガラス(日本電気硝子株式会社製商品名:ファイアライト)10aを準備した。
【0029】
次に、図2に示すように、1200mm×2400mm×厚さ4mmの透明板ガラス10aの1辺の長さが2400mmの矩形状端面を回転砥石Gにより研削加工を施して、透光面に対して一定の角度θで略全面に亘って傾斜している傾斜端面10cを形成する。得られた防火ガラス10の製品寸法は、傾斜端面10cの角度θが30°で、傾斜端面10cの表面粗さがRa値で0.01μmであり、幅が1200mm、高さが2400mmである。
【0030】
次に、本実施例の防火ガラスを用いた防火ガラス接合体と防火ガラス窓について説明する。
【0031】
図3に示すように、上記寸法の第一防火ガラス10の傾斜端面10cと、第一防火ガラス10と同寸法の第二防火ガラス11の傾斜端面11cとを重ね合わせたそぎ継ぎの形態で、透明接着剤Sにより接着処理を行って接合部40aを形成することで防火ガラス接合体40を作製した。この防火ガラス接合体40をスチール枠41にセットし、防火ガラス窓50の施工を行った。スチール枠41の見付寸法は、幅2360mm、高さ2380mm(のみ込み寸法が左右10mm、上下10mm)である。なお、一体物のスチール枠41に第一防火ガラス10をセットし、次いで傾斜端面10cに第二防火ガラス11の傾斜端面11cを重ね合わせて第二防火ガラス11をスチール枠41にセットして防火ガラス接合体40を作製してもよい。
【0032】
この防火ガラス窓50を用いて特定防火設備の評価試験と同様の加熱試験を実施した。加熱試験の加熱条件は、加熱温度T(平均炉内温度)が以下に示す数1に従うものとした。本加熱試験では加熱時間t(試験の経過時間)は60分とした。
【0033】
【数1】

【0034】
加熱試験の結果、防火ガラス窓50は、第一防火ガラス10、11、接合部40aの破損、火炎の貫通、及び有害な変形等は発生せず、試験判定は合格となった。
【実施例2】
【0035】
また、本発明の防火ガラスで、図1(A)に示す防火ガラス10の矩形状の1辺に傾斜端面10cを有する透明板ガラス10aの透光面10bから、ITOからなり膜厚が5000Åである熱線反射膜、酸化チタンからなり膜厚が80Åの中間膜、二酸化ケイ素からなり膜厚が1000Åである酸化防止膜の組み合わせ等が選択可能である。
【0036】
なお、熱線反射膜等の遮熱膜は、スパッタ法、蒸着法、スプレー法又はディップ法等の成膜プロセスによりガラス板の片面または両面に形成することができる。
【実施例3】
【0037】
また、本発明の防火ガラスで、図1(A)に示す防火ガラス10の矩形状の透明板ガラス10aの透光面10bに、膜厚が700Åの窒化チタン膜と、膜厚が1000Åの窒化ケイ素膜との膜厚が1700Åの2層構造で、グレー系の色調を呈し、可視光の平均透過率が20%の着色膜が形成されている。この防火ガラスは、プライバシーの保護機能を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明では、施工する開口部に複数の板ガラスを施工することが可能となり、従来にない大きな開口部に対して連続的な外観の視界が良好なガラス窓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の防火ガラスの説明図であって、(A)は一つの傾斜端面を有する場合の側面図、(B)は左右対称に二つの傾斜端面を有する場合の側面図、(C)は回転対称に二つの傾斜端面を有する場合の側面図。
【図2】本発明の防火ガラスの製造方法の説明図。
【図3】本発明の防火ガラス接合体及び防火ガラス窓の施工方法の説明図であって、(A)は正面図、(B)は水平方向の断面図。
【符号の説明】
【0040】
10 防火ガラス(第一防火ガラス)
10a、20a、30a 透明板ガラス
10b、20b、30b 透光面
10c、11c、20c、20d、30c、30d 傾斜端面
11 第二防火ガラス
40 防火ガラス接合体
40a 接合部
41 スチール枠
50 防火ガラス窓
G 回転砥石
S 透明接着剤
θ 傾斜端面の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−10〜10×10-7/Kの線膨張係数を有する耐熱結晶化ガラスよりなる矩形状の透明板ガラスの少なくとも1辺の端面が、該透明板ガラスの透光面に対して30°〜45°の範囲内の一定の角度で略全面に亘って傾斜している傾斜端面であることを特徴とする防火ガラス。
【請求項2】
透明板ガラスの透光面に、反射膜及び/又は着色膜が膜付けされてなることを特徴とする請求項1に記載の防火ガラス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の第一防火ガラスの傾斜端面と、該傾斜端面と実質的に同じ寸法形状の傾斜端面を有する請求項1又は請求項2に記載の第二防火ガラスの傾斜端面とが、そぎ継ぎの形態で接合されてなることを特徴とする防火ガラス接合体。
【請求項4】
枠体に、請求項3に記載の防火ガラス接合体が固定されてなることを特徴とする防火ガラス窓構造。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の第一防火ガラスの傾斜端面と、該傾斜端面と実質的に同じ寸法形状の傾斜端面を有する請求項1又は請求項2に記載の第二防火ガラスの傾斜端面とを、そぎ継ぎの形態で接合することにより、防火ガラス窓を施工することを特徴とする防火ガラス窓の施工方法。
【請求項6】
枠体に、第一及び第二防火ガラスを固定することを特徴とする請求項5に記載の防火ガラス窓の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−174291(P2009−174291A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86829(P2008−86829)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】