説明

防火複層ガラス

【課題】本発明は、耐久性及び耐火難燃性に優れ、かつ製造が容易な防火複層ガラスを提供する。
【解決手段】本発明の防火複層ガラス10は、一次シール材18A、18Bを透湿抵抗が高いブチル系シーリング材とし、このブチル系シーリング材に難燃剤を配合して防火複層ガラスの耐火難燃性能を高めた。また、難燃剤を配合したブチル系シーリング材の塗布量を、スペーサの長さ1m当たり2g以上7g未満と規定した。前記2g以上に規定することによって、ガラス板の変位に起因する防火複層ガラスの耐久性が向上する。また、前記7g未満と規定することによって、防火複層ガラスの耐火難燃性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラスのうち、防火複層ガラスと称されるものは、防火複層ガラスを構成するガラス板の少なくとも一枚に網入りガラス、耐熱強化ガラス、低膨張強化ガラス、透明結晶化ガラス等の耐熱防火性ガラス板が使用されたものをいう。
【0003】
また、一般的な複層ガラスは、対向する少なくとも二枚のガラス板を、スペーサを介して隔置し、これらの二枚のガラス板と対向するスペーサの各側面を一次シール材によって二枚のガラス板にそれぞれ接着し、一次シール材の外側を二次シール材によって封止することにより構成される。
【0004】
前記一次シール材は、複層ガラスの中空層の乾燥状態を保つ上で不可欠な構成部材であり、ガラス板との接着性が良好で、かつ透湿抵抗が高い有機系のブチル系シーリング材(ブチルゴム)が一般的に使用される。また、上述した防火複層ガラスにおいても、同様のブチル系シーリング材が一次シール材として使用されている。
【0005】
ところで、複層ガラスは、気温変化や圧力変化に起因する中空層の膨張収縮によるガラス板の変位、及び風圧等によって生じるガラス板の変位を受ける。
【0006】
スペーサの両側面の一次シール材が、スペーサの長さ1m当たり1g以下になると、複層ガラスを組み立てた後の一次シール材の厚さ、及び一次シール材の深さが十分に確保できず、前述のようなガラス板の変位を受けた場合に、一次シール材が厚さ方向、又は深さ方向に欠損するため、中空層部の密閉性が損なわれ、複層ガラスとしての耐久性が低下するリスクが非常に大きくなるという問題があった。
【0007】
特許文献1には、寿命の長い複層ガラスを提供するために、スペーサの両側面に塗布される一次シール材の量を、スペーサの長さ1m当たり、4g、及び7〜12gに規定した複層ガラスが開示されている。また、一次シール材の一般的な塗布量が、スペーサの長さ1m当たり2.5gであることも特許文献1に記載されている。
【0008】
一方で火災時に、防火複層ガラスを構成するガラス板のうち、火災発生側(以下、加熱面側とする)ではない側(以下、非加熱面側とする)のガラス板が高熱によって割れると、高温になった一次シール材から可燃性ガスが発生して一次シール材自身が燃焼する場合があり、非加熱面側に火炎が生じるというおそれがあった。
【0009】
そこで、一次シール材の塗布量をスペーサの長さ1m当たり1g以下にすれば、一次シール材から発生する可燃性ガスの量が減少するため、前述の火災時において非加熱面に火炎が生じるおそれを抑えることができる。
【0010】
したがって、複層ガラスの防耐火性能を上げるためには、一次シール材の塗布量をスペーサの長さ1m当たり1g以下にすることが望まれるが、この塗布量では前述の如く複層ガラスとしての耐久性が低下するリスクが非常に大きくなるという問題があった。
【0011】
一方、特許文献2の防火複層ガラスは、一次シール材の内側に内面シール材層を形成し、内面シール材層によって耐火難燃性能を高めている。
【0012】
また、特許文献3の防火複層ガラスは、難燃性テープの層からなる一次シール材と難燃性の二次シール材との間に、防湿性シール材を介在させることによって耐火難燃性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−185267号公報
【特許文献2】特開平7−237941号公報
【特許文献3】特開2001−12157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献2の防火複層ガラスは、一次シール材、二次シール材の他に内面シール材層を備えなければならず部品点数が増えるとともに、製造が困難であるという問題があった。
【0015】
また、特許文献3の防火複層ガラスは、一次シール材、二次シール材の他に防湿性シール材を備えなければならず、特許文献2の防火複層ガラスと同様に製造が困難であるという問題があった。
【0016】
つまり、特許文献2、3の防火複層ガラスは、一次シール材、二次シール材の他に他のシール材層を有するシール三層構造を有している。したがって、特許文献2、3の防火複層ガラスは、一次シール材と二次シール材とからなるシール二層構造の通常の複層ガラスを製造する設備では製造することができず、専用の設備が必要であった。
【0017】
また、これらの封着部分では、一般の複層ガラスと比較して封着部分が広くなることがあり、意匠性に問題を起こすこともあった。
【0018】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐久性及び耐火難燃性に優れ、かつ製造が容易な防火複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記目的を達成するために、対向する少なくとも二枚のガラス板がスペーサを介して隔置されるとともに、二枚のガラス板と対向するスペーサの各側面が一次シール材によって二枚のガラス板にそれぞれ接着されて二枚のガラス板間に中空層が形成され、一次シール材の外側が二次シール材によって封止された複層ガラスであって、少なくとも一枚のガラス板が耐熱防火性ガラス板によって構成された防火複層ガラスにおいて、前記一次シール材は難燃剤が配合されたブチル系シーリング材であり、前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上7g未満の前記ブチル系シーリング材が備えられていることを特徴とする防火複層ガラスを提供する。
【0020】
本発明によれば、防火複層ガラスの構成要件である一次シール材を透湿抵抗が高いブチル系シーリング材とし、このブチル系シーリング材に難燃剤を配合して防火複層ガラスの耐火難燃性能を高めた。すなわち、本発明によれば、難燃剤を配合したブチル系シーリング材をスペーサの各側面に塗布することによって、防火複層ガラスを製造できる。つまり、一次シール材と二次シール材とからなるシール二層構造の通常の複層ガラスを製造する設備で、耐火難燃性に優れた防火複層ガラスを製造できる。したがって、本発明の防火複層ガラスによれば、特許文献2、3に開示されたシール三層構造の防火複層ガラスと比較して、容易に製造できる。
【0021】
また、本発明では、難燃剤を配合したブチル系シーリング材の塗布量を、スペーサの長さ1m当たり2g以上7g未満と規定した。前記2g以上に規定することによって、ガラス板の変位に対する防火複層ガラスの耐久性が向上する。また、前記7g未満と規定することによって、防火複層ガラスの耐火難燃性能が向上する。つまり、難燃剤が配合されたブチル系シーリング材であっても、ブチル系シーリング材の塗布量が、スペーサの長さ1m当たり7g以上となると、塗布量過多に起因して耐火難燃性能が低下するからである。特許文献1には、一次シール材の塗布量をスペーサの長さ1m当たり2.5g、4g、及び7〜12gに規定した内容が開示されているが、一次シール材がブチル系シーリング材であって、難燃剤が配合されている点については開示されていない。よって、特許文献1の複層ガラスは、耐火難燃性能を考慮した防火複層ガラスではない。
【0022】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上5.5g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられていることが好ましい。
【0023】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上4g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられていることが好ましい。
【0024】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上3.5g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられていることが好ましい。
【0025】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上2.7g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられていることが好ましい。
【0026】
上記の如くブチル系シーリング材の塗布量を規定することにより、本発明の防火複層ガラスによれば、耐久性を維持しつつ、耐火難燃性能がより一層向上する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の防火複層ガラスによれば、耐久性及び耐火難燃性に優れ、かつ製造が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態の防火複層ガラスの要部拡大断面図
【図2】簡易試験装置の全体斜視図
【図3】簡易試験装置においてバーナーを使用して試料を加熱している説明図
【図4】簡易試験結果を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面に従って本発明に係る防火複層ガラスの好ましい実施の形態を詳説する。
【0030】
図1の断面図に示す実施の形態の防火複層ガラス10は、対向する二枚のガラス板12、14がスペーサ16を介して隔置されるとともに、二枚のガラス板12、14と対向するスペーサ16の各側面16A、16Bが一次シール材18A、18Bによって二枚のガラス板12、14にそれぞれ接着されている。これにより、二枚のガラス板12、14間に中空層20が形成される。また、一次シール材18A、18Bの外側が二次シール材22によって封止されている。
【0031】
スペーサ16としては、アルミニウムを主材質とする金属製のスペーサが用いられる場合が多いが、ステンレス材や硬質樹脂からなるものも使用される場合がある。スペーサ16はその内部に中空部24を有し、中空部24には粒状ゼオライト等の乾燥剤26が充填されている。スペーサ16には、中空部24を中空層20に連通させる貫通孔28が開口されており、この貫通孔28を介して中空層20の空気が乾燥される。
【0032】
このように構成された防火複層ガラス10は、一方のガラス板12が耐熱防火性ガラス板である網入りガラス板であり、他方のガラス板14が一般的なソーダライムガラスに代表される非耐熱防火性ガラス板である。なお、ガラス板12として耐熱強化ガラス、低膨張強化ガラス、透明結晶化ガラス等の別の耐熱防火性ガラス板を使用してもよい。
【0033】
また、本発明の防火複層ガラス10は、ブチル系シーリング材である一次シール材18A、18Bに難燃剤が配合され、また、スペーサ16に対するブチル系シーリング材の塗布量も規定されている。これについては後述する。
【0034】
一次シール材18A、18Bは、ブチル系シーリング材の主成分であるポリイソブチレン、又はブチルゴムと難燃剤とが配合されたブチル系(ポリイソブチレン系、又はブチルゴム系)組成物で形成されている。この一次シール材18A、18Bには、前記のゴム成分の他に、一般にゴム成形に用いられる加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤等の架橋剤、加硫遅延剤が配合され得る。更に、その効果を阻害しない範囲で、その他の添加剤等も配合され得る。前記添加剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤(フィラー)、ワックス、シランカップリング剤、活性剤、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、酸化防止剤、滑剤、顔料、紫外線吸収剤、分散剤、脱水剤、粘着付与剤、帯電防止剤、加工助剤等が挙げられる。これらの添加剤は、ゴム組成物用の一般的なものを挙げることができる。それらの配合量も特に制限されず、任意に選択される。
【0035】
一次シール材18A、18Bに配合される難燃剤の種類は特に限定されず、公知のものが使用でき、例えば、無機系難燃剤、有機系難燃剤等が挙げられる。前記無機系難燃剤としては、例えば、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)、アンチモン系化合物(三酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等)、その他無機系化合物(ホウ素化合物、モリブデン系化合物、赤リン系化合物等)が挙げられる。中でも毒性が比較的低いという点で、金属水酸化物が好ましい。前記有機系難燃剤としては、例えば、ハロゲン系化合物(塩素化パラフィン、臭素化芳香族トリアジン化合物、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA誘導体等)、リン系化合物(ポリリン酸アンモニウム類、リン酸メラミン等)、窒素系化合物(メラミンシアヌレート等)等が挙げられる。
【0036】
また、一次シール材18A、18Bに対する難燃剤の配合量は、ベースになるブチル系成分100質量部に対して添加した難燃剤の量であらわす。(単位を質量部(phr)と表す)すなわち、前記ブチル系組成物における難燃剤の含有量は、ベースのブチル系成分100質量部に対して5〜200質量部であり、好ましくは10〜150質量部、更に好ましくは20〜60質量部である。難燃剤が5質量部以上配合されていることにより、防火試験の基準を安定して満たすことができる。また、200質量部以下に配合量を抑えることにより、加工性や粘着性等が適度なものになるという利点がある。
【0037】
〔簡易試験装置、簡易試験方法、及び試験結果〕
まず、ブチル系シーリング材の一次シール材の塗布量と防火複層ガラスの耐火難燃性能へ影響と、ブチル系シーリング材の一次シール材へ配合される難燃剤と防火複層ガラスの耐火難燃性能へ影響をブチル系シーリング材単体で簡易評価を行った。
【0038】
図2に示す簡易試験装置30は、550℃まで昇温可能な市販のセラミックホットプレート(アズワン社製:CHP−250DN)32を備えている。このセラミックホットプレート32の加熱面34の略中央部に、試料36であるブチル系シーリング材を載せた鉄板(100×150mm:厚さ3mm)38が載置される。
【0039】
鉄板38の上面には、試料36の周囲を囲む4本の耐火ボード(高さ20mm)40、40…が載置されるとともに、試料36の上面を覆うように図3の複数本の耐火ボード42、42…が耐火ボード40、40…に載置される。また、中央の2本の耐火ボード42、42の間には、幅10mm、長さ50mmのスリット44が備えられている。
【0040】
上記の如く簡易試験装置30が構成されるが、この簡易試験装置30には、試料36を加熱する市販のバーナー46も備えられている。
【0041】
以下、簡易試験方法について説明する。
【0042】
まず、セラミックホットプレート32のスイッチ48を入れて加熱面34の昇温を開始する。
【0043】
次に、セラミックホットプレート32の表示部50に表示された温度が300℃を超えた時点で、図3の如くバーナー46を点火して、その炎52を、試料36に直接当たらないように、スリット44を介して試料36の上部にかざし、その状態で試料36の昇温を継続する。なお、バーナー46の炎52中心から試料36までの距離は約65mmである。
【0044】
試料36が昇温すると、試料36から発生した分解ガスが着火し、継続的な「発炎」が発生し始めたときに表示部50に表示された温度を読み取り、その値を試料36が発炎した温度として記録する。この継続的な「発炎」が後述する「ISO834による加熱曲線で20分加熱し、非加熱面側で10秒を超えて継続する発炎がないこと」の簡易評価となる。
【0045】
図4に示すグラフは、縦軸が「発炎時HP(ホットプレート)の温度」を示し、横軸は「簡易試験評価シール量(試料:ブチル系シーリング材)」を示している。また、難燃剤が配合されていない試料、難燃剤が配合された試料、及び難燃剤の配合量を比較するために、難燃剤が配合されていない「SM488〔ブチル系シーリング材(横浜ゴム社製SM488)〕」の試料(◆で示す)と、難燃剤が20phr配合された「SM488+SR−425(20)〔ブチル系シーリング材(横浜ゴム社製SM488)〕+ピロガードSR−245(第一工業製薬社製)〕」試料(▲で示す)と、難燃剤が30phr配合された「SM488+SR−425(30)〔ブチル系シーリング材(横浜ゴム社製SM488)〕+ピロガードSR−245(第一工業製薬社製)〕」試料(+で示す)を用意した。
【0046】
図4のグラフに示すように、3種の試料(◆、▲、+)とも、その量が少ない程、発炎温度は高くなる。
【0047】
また、難燃剤が配合された試料は、難燃剤が配合されていない試料と比較して耐火性があることが分かる。また、試料(▲、+)の結果から分かるように、難燃剤の配合量が20phrと30phrでは、試料の耐火性に及ぼす効果はほぼ同程度である。
【0048】
簡易評価の結果、簡易試験評価シール量が少ないほど、継続的な「発炎」が発生する温度が高くなり、また、難燃剤が配合されると継続的な「発炎」が発生する温度が高くなることが分かった。「発炎」が発生する温度が高くなることは、後述する「ISO834による加熱曲線で20分加熱し、非加熱面側で10秒を超えて継続する発炎がないこと」の評価の際の、「発炎」するまでの加熱時間が延びることであり、「ISO834による加熱曲線で20分加熱し、非加熱面側で10秒を超えて継続する発炎がないこと」の簡易評価として使用ができると考えられる。
【0049】
〔実大防火試験の規格、及び試験方法〕
ユニットフレームに防火複層ガラスを組み付けた試験体を、鉄及び耐火材からなる枠体で保持し、国土交通大臣に認可を受けた性能評価機関が定める「防耐火性能試験・評価業務方法書」に規定される「遮炎・準遮炎性能試験・評価方法」に準拠した20分の防火試験(加熱試験)を実施した。加熱面は、網入りガラス、又は耐熱強化ガラス側とした。
【0050】
下記の表1に試験体である実施例品1、2と比較例品3、4、5の複層ガラスの仕様を示す。
【0051】
試験体の縦辺左右のどちらか中央に位置する炉内側ガラス端部に熱電対を事前に貼り付け、複層ガラス封着部のシール材付近から最初に発炎が生じたときの温度を記録した。
【0052】
また、合格の判断は、ISO834による加熱曲線で20分加熱し、非加熱面への10秒を超えて継続する火炎の噴出がないこと、非加熱面側で10秒を超えて継続する発炎がないこと、火炎が通る亀裂等の損傷、及び隙間を生じないことである。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示した実大試験の結果によれば、実施例品1は、一次シール材であるブチル系シーリング材の塗布量が、スペーサの長さ1m当たり2.7g(2.7g/m)であり、ブチル系シーリング材には難燃剤が配合されているため試験結果は合格であった。また、前記塗布量は、複層ガラスの耐久性を損なうものではない。
【0055】
実施例品2によれば、ブチル系シーリング材の塗布量は複層ガラスの耐久性を損なわない4.0g/mであり、また、ブチル系シーリング材は難燃剤を配合しているため試験結果は合格であった。
【0056】
比較例品1によれば、ブチル系シーリング材の塗布量が7.0g/mを超えているため、難燃剤が配合されたブチル系シーリング材であっても試験結果は不合格であった。
【0057】
比較例品2、3によれば、ブチル系シーリング材の塗布量は複層ガラスの耐久性を損なわない塗布量4.0(比較例2)、2〜2.5(比較例3)g/mであるが、難燃剤が配合されていないため試験結果は不合格であった。
【0058】
したがって、難燃剤を配合したブチル系シーリング材であれば、その塗布量の下限値を、複層ガラスの耐久性を損なわない2g/m以上に設定することにより、発炎に至るまでの温度が高められ,試験に合格することが確認された。また、難燃剤を配合したブチル系シーリング材であっても、その塗布量が7g/m以上となると、ブチル系シーリング材の塗布量過多に起因して、比較的短時間で発炎することが確認された。
【0059】
実施例品1、2の防火複層ガラスは、ブチル系シーリング材に難燃剤を配合させるとともに、ブチル系シーリング材の塗布量を2.7g/m、4.0g/mとすることにより、上記防火試験に合格した。すなわち、難燃剤を配合したブチル系シーリング材を、塗布量を規定してスペーサの側面に塗布するだけで、規格合格品の防火複層ガラスを製造できる。つまり、ブチル系シーリング材(一次シール材)と二次シール材とからなるシール二層構造の通常の複層ガラスを製造する設備で、前記防火複層ガラスを製造できる。
【0060】
これにより、実施の形態の防火複層ガラスによれば、特許文献2、3に開示されたシール三層構造の防火複層ガラスと比較して、容易に製造できる。また、難燃剤を配合したブチル系シーリング材は、従来の複層ガラスの構造と同様の位置に配置されるため、意匠性に変化はない。
【0061】
また、ブチル系シーリング材の塗布量は、スペーサの長さ1m当たり2g以上5.5g以下であることが好ましく、また、2g以上4g以下であることが好ましく、更に、2g以上3.5g以下であることが好ましく、更にまた、2g以上2.7g以下であることが好ましい。
【0062】
上記の如くブチル系シーリング材の塗布量を規定することにより、本発明の防火複層ガラスによれば、耐久性が向上し、耐火難燃性能がより一層向上する。
【0063】
なお、前述の如く防火複層ガラスは、防火複層ガラスを構成する少なくとも二枚のガラス板のうち、一枚のガラス板を耐熱防火性ガラス板とすることによって構成されている。すなわち、防火複層ガラスを構成する全てのガラス板を耐熱防火性ガラス板としてもよいが、本発明の趣旨は、スペーサの側面に塗布される一次シール材として、難燃剤が配合されたブチル系シーリング材を使用し、スペーサに対するブチル系シーリング材の塗布量をスペーサの長さ1m当たり2〜7gに規定したことにある。よって、本発明は、防火複層ガラスのガラス板構成に限定を加えるものではない。つまり、本発明は、火炎による加熱によって破損する非耐熱防火性ガラスと、耐熱防火性ガラス板とを組み合わせた防火複層ガラスに特に有効であるが、防火複層ガラスを構成する全てのガラス板を耐熱防火性ガラス板とした防火複層ガラスでも有効である。
【0064】
以上、本発明の実施の形態ないし実施例を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態ないし実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更等が可能である。例えば、防火複層ガラス10を構成するガラス板14として、通常のフロートガラス板を用いる他、強化ガラス、合わせガラス、熱線吸収ガラス、更には、熱線反射ガラス、低反射率ガラスなどのように、表面に金属や他の無機物を薄くコーティングしたガラス板などであり、特に限定されない。また、防火複層ガラス10は中空層20をアルゴンやクリプトン等の断熱ガスで置換したものや、3枚以上のガラス板14から構成されるものでもよい。その他の構成についても、同様である。
【符号の説明】
【0065】
10…防火複層ガラス、12…ガラス板(網入りガラス板)、14…ガラス板(ソーダライムガラス)、16…スペーサ、16A、16B…スペーサの側面、18A、18B…一次シール材、20…中空層、22…二次シール材、24…中空部、26…乾燥剤、28…貫通孔、30…簡易試験装置、32…セラミックホットプレート、34…加熱面、36…試料、38…鉄板、40…耐火ボード、42…耐火ボード、44…スリット、46…バーナー、48…スイッチ、50…表示部、52…炎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する少なくとも二枚のガラス板がスペーサを介して隔置されるとともに、二枚のガラス板と対向するスペーサの各側面が一次シール材によって二枚のガラス板にそれぞれ接着されて二枚のガラス板間に中空層が形成され、一次シール材の外側が二次シール材によって封止された複層ガラスであって、少なくとも一枚のガラス板が耐熱防火性ガラス板によって構成された防火複層ガラスにおいて、
前記一次シール材は難燃剤が配合されたブチル系シーリング材であり、前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上7g未満の前記ブチル系シーリング材が備えられていることを特徴とする防火複層ガラス。
【請求項2】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上5.5g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられている請求項1に記載の防火複層ガラス。
【請求項3】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上4g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられている請求項1に記載の防火複層ガラス。
【請求項4】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上3.5g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられている請求項1に記載の防火複層ガラス。
【請求項5】
前記スペーサの各側面には該スペーサの長さ1m当たり2g以上2.7g以下の前記ブチル系シーリング材が備えられている請求項1に記載の防火複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23987(P2013−23987A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162439(P2011−162439)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】