説明

防災総合計画支援システムとそのプログラム

【課題】降雨を誘因として斜面あるいは渓流で発生する土砂災害、あるいは地震や火山活動によって発生する災害や河川災害など自然災害、また、道路や上下水道、ダム、港湾、砂防などの施設や設備、橋梁や鉄塔、発電所、ビルなどの建造物における事故や補修を対象として効率的かつ高精度な災害・事故・補修の発生・非発生評価を行うためのルールを生成することができる防災総合計画支援システムとそのプログラムを提供する。
【解決手段】SVMによって解析した災害の発生・非発生の境界を形成させる分離面データ17と観測・点検データ8とを用い、観測・点検対象箇所の災害発生危険度を演算する危険度演算部12と、この危険度を用いて代表データ19を抽出する代表データ抽出部13と、代表データ19を用いてラフ集合を形成するラフ集合生成部22と、このラフ集合から災害・事故・補修のルールを抽出するルール生成部23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降雨を誘因として斜面あるいは渓流で発生する土砂災害、あるいは地震や火山活動によって発生する災害や河川災害など自然災害、さらには道路や上下水道、ダム、港湾、砂防などの施設や設備、橋梁や鉄塔、発電所、ビルなどの建造物における老朽化や上記の自然災害に伴う事故や補修を対象として実施される災害・事故・補修の発生・非発生に対する効率的かつ高精度な評価を支援するための防災総合計画支援システムとそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
豪雨や地震、火山活動等による自然災害は、毎年、我が国に甚大な被害を与えている。例えば、土砂災害は、我が国の国土の約7割が山地で地質的にも脆弱な地域が多く、急峻な地形が多い等の地理的条件や、都市化の進展による山麓部の土砂災害危険地域への人口増加等の社会的条件、更には台風や梅雨等の集中豪雨に見舞われ易いといった気象的条件により、我が国における宿命的な自然災害の一つとなっており、毎年、全国各地で多数発生し、尊い人命が失われ、貴重な財産が破壊されているが、かかる土砂災害の危険箇所(土石流危険渓流、急傾斜地崩壊危険箇所、地すべり危険箇所)は、全国で約52万箇所と多く、ハード面の対策による整備率は25%台と低いのが現状である。
また、道路や上下水道、ダム、港湾などの施設や設備、あるいは橋梁や鉄塔、発電所、ビルなどの建造物における老朽化や上記の自然災害に伴う事故や補修についても同様である。
かかる状況に対し、これだけ多くの危険箇所や施設・設備・建造物の全てにハード面の対策や補修・更新工事を実施するには、予算的、時間的な制約もあることから、ソフト面における対策によりハ−ド面の対策の遅れをカバーする必要性が認識されてきており、地域に広く散在する危険渓流等自然災害が発生する可能性のある地点・箇所や、老朽化や自然災害に伴う事故により被害を受ける可能性のある構造物の中から特に危険な箇所や比較的安全な箇所の分布を把握し、災害・事故・補修の発生に対する予防強化を行うことの重要性は高まっている。
そこで、従来から、例えば、防災・補修事業計画の立案支援などのために実際の災害・事故・補修の発生あるいは非発生に関するデータをコンピュータ処理することで精度の高い情報を得る研究を実施して、本発明者らは既に、がけ崩れの発生予測に用いられる発生降雨、非発生降雨の判別境界線であるがけ崩れの発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定する方法について非特許文献1に示されるように発表している。
非特許文献1では、複雑な自然現象を直線近似せず、高精度の発生限界線等を設定することを目的として、非線形判別に優れた放射状基底関数ネットワーク(以後、RBFNと略す場合がある。)を用い、地域毎の非線形がけ崩れ発生限界雨量線を設定する方法を提案している。本非特許文献1に開示される技術では、RBFNを用いて、その学習機能を利用して最適な中間層と出力層の重みを決定することによって非線形がけ崩れ発生限界雨量線を設定している。
また、特許文献1においては、「災害対策支援システム」として、災害発生時に実行すべき災害対策を自動的に選択して表示し、その進捗状況を併せて示す手段を備えたシステムが開示されている。
本特許文献1に開示される災害対策支援システムは、基本的にはif−then形式で、予め発生する事象とそれに対応する対策を関連付けて格納された対策リストを読みだして、対応するものである。災害時に精神的、時間的、人的に余裕のない状況で、的確な判断を可能とすべくなされたものである。また、標準的な作業時間と実働時に要した作業時間及び対策可能な残り時間を表示することで、対策進捗状況をリアルタイムに把握することが可能であると同時に、重要度の高い対策と低い対策を取捨選択するためにも用いることができる。
さらに、特許文献2においては、非特許文献1に開示される技術を警戒避難システムに応用した発明が開示されている。本特許文献2に開示された発明では、災害に影響を及ぼす地形要因、地質・土質要因、環境要因及び地震要因を踏まえた上で、短期降雨指標として、例えば発生時刻から3時間以内の最大時間雨量を、また、長期降雨指標として、例えばその時刻における半減期を72時間とした実効雨量を用いて、CLを演算するものである。
このようにして得られたCLを用いることで、信頼性の高い警戒避難支援システムを提供することが可能である。
さらに、非特許文献2には、地形・地質要因(以下、地形要因という。)と降雨要因を用いて、ラフ集合により土石流の発生・非発生ルールの作成を行い,災害発生の起因となった要因の追求を行う研究が開示されている。この研究は、数理的な手法を導入することにより客観的な災害発生条件を探求するものである。
【非特許文献1】倉本和正 他5名:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集のNo.672/VI−50,pp.117−132,2001.3
【非特許文献2】岡本正男 他4名:ラフ集合を用いたデータマイニングによる土砂移動現象の重要要因及びルール抽出に関する研究、砂防学会誌 Vol.54,No.6,p.4−15,2002
【特許文献1】特開2002−230235号公報
【特許文献2】特開2003−184098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献2に開示された発明では、災害の発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定することに主眼を置いており、ある特定の地域あるいは一定の条件毎にまとめられた地域グループにおいて、短期降雨指標や長期降雨指標がどの程度に至れば災害の発生の危険性があるのかを客観的に評価することに留まっていた。極端に言えば、同一地点において、蓄積された短期及び長期の降雨指標のデータを入力して、その地点で蓄積された降雨データに基づいて、どの程度の降雨で災害が生じることになるかという判断を行っていたのである。
これでは、客観的、定量的な評価であっても、地域毎あるいはグループ毎に個別具体的な評価を行なうことはできるものの、特定の地域ではなく、地域全般に共通の一般的、普遍的な評価を行なうことが困難であるという課題があった。
【0004】
また、特許文献1に開示された発明では、基本的に複雑ではあるけれども予め定められたあるいは既知の条件とその対策をリスト状のデータ構造を備えたものを用いて、対策の具体的な実施手順を示すものである。確かに対策リストは補正、更新が可能であるものの基本的には入力されたデータを基に判断がなされ、コンピュータは、事象と対策を結合させるという処理を行うに過ぎないものであり、データ自体の評価を実施したり、その精度を向上させるという点では困難であるという課題があった。
【0005】
さらに、非特許文献2においては、ラフ集合による分析結果のみでできるだけ多くの災害の発生・非発生を説明しようとしているため、非常に多様なルールが作成されてしまうという課題があった。これは、母集団データに含まれるノイズ的なデータ(局所的かつ特例的な条件により災害が発生・非発生となっているデータ)の影響が大きいことが推測される。
ルールが多様過ぎては、精度は高くなっても、効率的に評価を実施することが難しくなってしまう。すなわち、そのルールでカバーできる地点や箇所が少なくなってしまい、結局災害の発生・非発生に関する評価を行うことが難しくなるのである。すなわち、災害の発生・非発生に対する高精度かつ効率的な評価を実施することができないという課題があった。このことは、非特許文献1、特許文献1及び特許文献2においても同様であった。
なお、本願において、「ルール」とは、ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せを意味し、「ラフ集合」とは、災害・事故・補修発生要因に対し、この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け、この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、このモデルに観測・点検データを代入して得られる集合であって、カテゴリー区間の組合せによって形成される部分集合によって完全に分離されない集合を意味する。また、本願において、「カテゴリー区間」とは、災害・事故・補修発生の要因における属性値、例えば、降雨量、流域平均勾配、流域長、老朽度、損傷程度などの観測値あるいは点検値に対して、区間として区切ったその区間を言う。例えば、要因が流域平均勾配の場合には、10°〜20°、20°〜30°、30°〜40°とする3つの範囲が、カテゴリー区間の例として考えられる。また、渓流方位などのようにもともと物理的な順位を持たない東、西、南、北等もこれに該当する。
【0006】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、降雨を誘因として斜面あるいは渓流で発生する土砂災害、あるいは地震や火山活動によって発生する災害や河川災害など自然災害、また、道路や上下水道、ダム、港湾、砂防などの施設や設備、橋梁や鉄塔、発電所、ビルなどの建造物における老朽化や上記の自然災害に伴う事故や補修を対象として効率的かつ高精度な災害・事故・補修の発生・非発生評価を行うためのルール(Rule)を生成することができる防災総合計画支援システムとそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である防災総合計画支援システムは、観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて解析して災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算部と、前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出部と、前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成部と、前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成部と、を有することを特徴とするものである。
なお、本願において、分離面を解析するための学習データとしての,災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データと、分離面までの距離を演算するための要因毎のn次元の観測・点検データは同一であっても、異なるデータであってもよい。異なる場合には、同一地点・箇所で異なる時期に観測・点検された場合と、異なる地点・箇所で観測・点検された場合とがある。また、本願においては、「しきい値」と「条件」と分けて記載しているが、これは「しきい値」は特に数値による限定のみの条件を概念し、「条件」は、例えばしきい値を含めて論理式を含むような場合をも概念しているためである。
【0008】
請求項2記載の発明である防災総合計画支援システムは、観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面を解析する分離面演算部と、この分離面演算部で解析された分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算部と、前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出部と、前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成部と、前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成部と、を有することを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項3に記載の発明である防災総合計画支援プログラムは、コンピュータによって、災害・事故・補修のルールを生成するために実行されるプログラムであって、コンピュータに、観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて解析して災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算工程と、前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出工程と、前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成工程と、前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成工程と、を実行させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の防災総合計画支援プログラムでは、コンピュータによって、災害・事故・補修発生・非発生のルールを生成するために実行されるプログラムであって、 コンピュータに、観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面を解析する分離面演算工程と、この分離面演算部で解析された分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算工程と、前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出工程と、前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成工程と、前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成工程と、を実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、災害危険箇所や施設・設備・建造物において得られた観測・点検データをそのままラフ集合として用いて災害・事故・補修の発生・非発生を評価するのではなく、前段階として観測・点検データとSVM解析の分離面を用いて観測・点検データのうち、客観的にデータの一部を代表データとして抽出し、その代表データを用いてラフ集合を生成した後に、災害・事故・補修の発生・非発生の評価のためのルールを生成するため、観測・点検データに含まれるノイズデータを削除することができ、客観的かつ高精度なルールを生成することが可能である。
しかも、生成されるルールは少ない要因数で構成されるものでありながら、多くの観測・点検データを説明することが可能な汎用性の高いものであるという利点を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る防災総合計画支援システムにおいては、災害・事故・補修のルールの生成のための代表データの抽出にSVMを利用し、また、災害・事故・補修のルールの生成にはラフ集合を用いた。そこで、本実施の形態に係る防災総合計画支援システムについて説明する前に、まず、SVMとラフ集合について説明を行う。
SVMとは1995年にVapnikらによって提案された手法で、現在、最も強力なパターン分類手法として注目されているものである。SVMでは、線形分離不可能なデータ群を、非線形関数を用いることにより高次元特徴空間にマッピングし、線形分離可能な状態とすることで明確に分離する機能を持つ。この時、高次元特徴空間でデータを分離する面を分離超平面と呼ぶ。この分離超平面の概念を図1に示す。なお、本願では、この分離超平面を単に分離面という。
この機能を利用し、災害・事故・補修の発生・非発生を判別する分離超平面と各データとの距離を算出することで危険度を評価することができる。この分離超平面と各データとの距離を算出して危険度を評価する概念を図2に示す。本願ではこの危険度評価手法を応用し、災害・事故・補修のルールを求める上で元の観測・点検データの代表となり得る代表データ(災害・事故・補修発生データとしてはより危険度の高いもの、非発生データとしてはより安全度の高いもの)を抽出する作業を行った。
なお、データ点と分離超平面との距離についてはあらためて説明する必要もないと思われるが、データ点の座標から分離超平面に対して垂線を下ろし、その長さを距離するものである。但し、図2では、座標として危険側を正方向とし、分離超平面からデータ点に向かって距離(f(x))を計算しているため、すなわちベクトルとして考えているため、データ点が分離超平面から正方向へ離れるほど距離は負値として大きくなり、逆にデータ点が分離超平面から負方向へ離れるほど(座標原点に近くなるほど)正値として大きくなっている。本実施の形態においては、このような座標の採り方をしているものの、逆に座標として安全側を正方向としている場合には、距離が負値の方が安全となり、正値の方が危険となることは言うまでもない。
【0013】
次に、ラフ集合について説明する。図3に、ラフ集合の概念図を示す。全体集合を2つの要因(要因1及び要因2)を用いてそれぞれ3つのカテゴリー区間を設け、それぞれの組合せを考えると9個の領域に区分したモデルが形成される。このモデルに対して、図3に示されるとおり、災害・事故・補修の発生・非発生に関するデータがプロットされている。
図3に示されるラフ集合では、前述のとおり9個の領域に区分しても部分集合は完全に分離されていない。このように完全に分離されない集合をラフ集合と呼んでいる。これらの要因によって集合が区分された時、同じ領域内のデータがすべて同種であるデータを整合データ(図3においてハッチングされている部分内のデータ)といい、混在するデータを矛盾データという。なお要因の組合せを評価する指標としては、次式(1)に定義される整合度を用いている。
【0014】
【数1】

【0015】
この整合度は、先に説明したカテゴリー区間名(例えば、カテゴリー区間のそれぞれに充てた通し番号を示す)を属性値として置き換え、災害・事故・補修の発生・非発生の実績を決定属性値(例えば、災害・事故・補修発生の場合を1、非発生の場合を0とした値を示す)として個別のデータを分類し、決定属性値の異なる矛盾データを有する領域を矛盾領域、他を整合領域として、整合度をその領域内における要因の組合せを評価する指標として用いているのである。
また、作成したルール(Rule)の精度と汎用性を表す尺度として、式(2)、(3)にそれぞれ示す確信度とサポートを用いている。
【0016】
【数2】

【0017】
【数3】

【0018】
例えば図3において、要因1と要因2のカテゴリー区分が共に2である場合、すなわち、中央の区分の領域は発生ルールとなり、この領域内の確信度は100%(3/3)、サポートは14%(3/22)となる。従って、このルールに適合する箇所は、すべて発生したデータのみで構成されており、正確性は100%、全データに占める割合は14%に相当することを意味している。
【0019】
次に、このルールの領域の拡張について説明を加える。
土砂災害の解析にラフ集合を用いる場合、作成されたルールの1つ1つが説明できる範囲は少なく、データベースの一部しか説明できないことから、有用なルールとは言い難い場合がしばしば生じる。そのような場合、ルール領域の拡張を行うことが効果的である。
ルール領域の拡張の概念としては、例えば図4(a)に示すハッチング領域が発生ルールである場合、図4(b)に示すように、より危険と考えられる部分集合を含む領域を発生ルールとすることで(カテゴリー区分に「以上」の概念を与える)、ルールに含まれる発生箇所数が増加し、汎用性のあるルールとなる。非発生ルールにおいても同様であるが、この場合には、カテゴリー区分に「以下」の概念を与えるように実施する。本願においてもSVMによって抽出された代表データに対しルール領域の拡張を用いることで、より汎用性の高いルールの作成を行うことも可能である。
以上、本願発明の実施の形態に係る防災総合計画支援システムを説明する上で重要な概念であるSVMとラフ集合について説明した。
【0020】
次に、図5及び図6を参照しながら本発明の実施の形態に係る防災総合計画支援システムについて説明する。
図5は防災総合計画支援システムの構成図であり、図6は防災総合計画支援システムにおいて実行される演算の工程を示すフローチャートである。
図5において、防災総合計画支援システム1は、大きくいうと、入力部2、SVM解析部3、ラフ集合解析部6、解析データベース4、データベース5及び出力部7から構成されている。
入力部2は、解析データベース4やデータベース5に格納される観測・点検データ8や解析条件データ9をはじめとして、解析データベース4及びデータベース5内に示される各データを予め入力して読み出し可能に格納しておくために用いられる。また、SVM解析部3に対して、観測・点検データ8や解析条件データ9を直接入力するためにも用いられる。入力部1としての具体例には、キーボード、マウス、ペンタブレット、光学式の読み取り装置あるいは、コンピュータ等の解析装置や計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置からなり目的に応じた使い分け可能な装置が考えられる。
また、出力部7としては、具体的にはCRT、液晶、プラズマあるいは有機ELなどによるディスプレイ装置、あるいはプリンタ装置などの表示装置、さらには外部装置への伝送を行うためのトランスミッタなどの発信装置などが考えられる。
SVM解析部3は、解析条件設定部10、分離面演算部11、危険度演算部12及び代表データ抽出部13から構成されるものである。
解析条件設定部10は、SVMの解析を実行するための解析条件を設定するものであり、入力部2から直接入力される解析条件データ9を読み込み、これを解析条件として設定したり、あるいは予め解析データベース4に入力部2から格納された解析条件データ9を読み出して設定することも可能である。SVM解析における解析条件としては、例えばソフトマージン法の場合では、誤判別を許容する程度を示すCとガウシアンカーネルの半径(データの影響度)であるrの2つのパラメータの設定が必要であり、これが解析条件として含まれる。あるいは、後述する危険度の演算において、代表データを抽出するためのしきい値又は条件なども解析条件として含まれるものである。すなわち、解析条件とは、SVM解析を実行する場合に、観測・点検データ8や分離面を構成する分離面関数データ14あるいは危険度の演算を実行するための危険度関数データ15以外に必要となる定数やパラメータあるいはしきい値又は条件などの条件に関する広く一般的なデータを意味しており、これらがSVM解析に際して設定されるようにするための要素を解析条件設定部10としているのである。
【0021】
SVM解析部3の分離面演算部11は、図6にステップS1として示すように、災害危険箇所や施設・設備・建造物等の観測・点検対象物における災害・事故・補修の発生・非発生に関して観測・点検されたデータを学習データ16として、また、観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として、それぞれ分離面関数データ14に入力し、災害・事故・補修の発生の可能性の有無を分離する分離面を演算し、その演算によって得られた分離面データ17を読み出し可能にデータベース5に格納するものである。もちろん、予め分離面データ17を、入力部2を介してデータベース5に読み出し可能に格納しておく場合には、分離面演算部11は削除してもよい。なお、学習データ16は、観測・点検対象物において観測・点検されたデータであるが、そのデータの内容は、災害・事故・補修の発生・非発生に関する要因に対して観測・点検された数値であり、学習データ16や観測・点検データ8では、それらの要因の数(nとする。n≧2)に応じた次元と、その次元に応じた多次元の座標軸を概念して、この座標軸によって形成される座標空間に学習データ16や観測・点検データ8をプロットして、同じくn次元空間中に概念される分離面との距離をこの後説明する危険度演算部12によって演算している。
前述のとおり、学習データ16と観測・点検データ8は、同一のデータを用いてもよいし、異なるデータ、すなわち観測・点検した地点・箇所が同一で異なる時期に得られたデータあるいは異なる地点・箇所で観測・点検して得られたデータのいずれでもよい。
また、本実施の形態においては、分離面関数データ14は解析データベース4に、学習データ16はデータベース5にそれぞれ予め格納されており、分離面演算部11は、それぞれ読み出して用いるが、これらは解析データベース4やデータベース5に格納されていなくとも、分離面演算部11が解析を実行する際に入力部2を介して入力されるようにしてもよい。以下、本実施の形態において解析データベース4やデータベース5に格納されているデータを用いる場合においても同様に、これらのデータベースから読み出して用いてもよいし、別途必要に応じて外部から入力部2を介して入力するようにしてもよい。
危険度演算部12では、図6にステップS2として示すように、分離面演算部11によって演算された結果得られたあるいは予めデータベース5に格納された分離面データ17によって構成される分離面に基づいて、観測・点検データ8からの距離を演算する。具体的には、距離を演算するための関数である危険度関数データ15に、分離面データ17と観測・点検データ8を入力して、n次元の座標空間において分離面と観測・点検データ8のプロット点との距離を演算している。この距離を危険度データ18として読み出し可能にデータベース5に格納する。
この距離の概念については前述のとおりである。そして、この距離を危険度として、観測・点検データ8に対する危険度を判断するものである。本願では、便宜上危険度として危険性に対する指標としているが、逆に安全性に対する指標として安全度としてもよいことは言うまでもない。
【0022】
次に、代表データ抽出部13は、図6にステップS3として示されるとおり、危険度演算部12において演算された危険度(危険度データ18)に対して、所望に設定される危険度に対するしきい値又は条件を基準として、危険度の選別を実行し、その選別された危険度に対応する観測・点検データ8を代表データ19として抽出するものである。危険度に対するしきい値又は条件は、予め解析条件データ9として解析データベース4に格納しておいて代表データ抽出部13が読み出して用いるか、解析時に入力部2を介して代表データ抽出部13が読み込むようにしておくとよい。
この代表データ19を抽出するための危険度に対するしきい値又は条件については、実施例の説明時にさらに詳細に説明する。
抽出された代表データ19は、読み出し可能にデータベース5に格納される。
【0023】
ラフ集合解析部6のラフ集合生成部22では、図6のステップS4として示されるように、SVM解析部3で得られた代表データ19をデータベース5から読み出し、ラフ集合を生成する。具体的には、まず、代表データ19に対応するn次元の災害・事故・補修発生要因に対し、この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設ける。このカテゴリー区間については、先にラフ集合の説明をした際に説明したとおりである。このカテゴリー区間は、予め災害・事故・補修発生要因毎に設定しておいて、これを解析条件データ9として解析データベース4に格納しておくか、あるいは、ラフ集合生成部22による解析時に、出力部7を介してカテゴリー区間の設定について問うように示して、入力部2を介してカテゴリー区間の入力を可能にしておくようにするとよい。そして、この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成する。これも先にラフ集合について説明したとおりである。複数のカテゴリー区間を備えた要因の組合せを本願ではモデルと呼んでいる。さらに、このモデルに代表データ19の内容を代入して、ラフ集合として形成し、ラフ集合データ20として読み出し可能にデータベース5に格納するものである。
この時点で、図3に示されるようなラフ集合が生成されている。
【0024】
ラフ集合解析部6の災害・事故・補修のルール生成部23では、図6に示されるステップS5にも記載されるとおり、ラフ集合生成部22で生成されたラフ集合データ20を用いて、災害・事故・補修の発生・非発生に関するルールを生成し、そのデータをルールデータ21としてデータベース5に読み出し可能に格納する。
具体的には、災害・事故・補修のルール生成部23は、ラフ集合データ20に対して、モデルに含まれるそれぞれの要因のカテゴリー区間毎の組合せである個々のルールにおける確信度とサポートを演算する。そして、確信度に対して所望に設定されたしきい値又は条件及び/又はサポートに対して所望に設定されたしきい値又は条件と比較しながら、いずれか、あるいはいずれをも満足する要因とカテゴリー区間の組合せ(ルール)を検索して抽出する。従って、個々のルールとして、1つのルールであるか、あるいは複数のルールとなるかは、確信度及び/又はサポートのしきい値又は条件にもよることになる。
その際に、さらに、前述のルールの拡張を実行してもよい。その際にも、ルールの拡張を許容するための確信度及び/又はサポートに関するしきい値又は条件を予め定めておき、これを解析条件データ9として格納しておき、解析時に読み出すようにしてもよい。
あるいは、確信度、サポート及びこの拡張のためのしきい値又は条件をその解析の際に入力部2を介して入力するようにしてもよい。
確信度及び/又はサポートに対するしきい値又は条件を満足する要因とカテゴリー区間の組合せ(ルール)が求まると、災害・事故・補修のルール生成部23は、これをルールデータ21としてデータベース5に読み出し可能に格納する。
【0025】
なお、SVM解析部3及びラフ集合解析部6に含まれるそれぞれの構成要素は、出力部7に対してそれぞれが演算、抽出、生成するデータを出力することができることは言うまでもない。
また、本実施の形態においては、システム発明として説明したが、図5に示されるシステムを汎用のコンピュータと捉え、これを動作させるプログラムとして、図6に示すフローチャートを実行させることを考えると、上述の説明はコンピュータが各工程を実行しながら観測・点検データ8から代表データ19を抽出し、その代表データ19を基に災害・事故・補修のルールを生成するプログラムについての実施の形態の説明として成立するものであり、このプログラムについての実施の形態に係る作用、効果については先に説明した防災総合計画支援システムに係る実施の形態に係る作用、効果と同様である。
【実施例1】
【0026】
以下、具体的なデータを用いた実施例について説明する。
本実施例では、土石流災害が面的に集中発生した1999年6月29日に広島県で発生した災害の発生形態について、防災総合計画支援システム1を用いて特に災害が多発した広島地区(安佐北区、安佐南区、佐伯区)の1,235箇所で取得したデータにより汎用性の高いルールを生成することを試みた。その検討対象地域については、図7に示す。
1,235箇所で取得したデータの内訳は、土石流発生流域は213箇所、非発生流域は1,022箇所となっている。なお、本実施例における土石流とは、山腹崩壊等を含めた渓流での土砂移動現象の総称として用いている。
また、本実施例の説明に使用した地形データは、渓流の流域特性を説明するため、土石流危険渓流を1次谷に分割し1/10,000地形図から計測される要因と土石流危険渓流調査結果により現地計測された要因(ここでは、渓床堆積厚さ、渓流幅の2要因)を用い、表1に示す合計17要因を地形要因として使用した。ここで、ラフ集合は連続値データを扱うことができないため、連続値データはカテゴリーに離散化して取り扱った。
降雨データは広島地区の29観測所(アメダス、広島県及び国土交通省管轄)の時間雨量を用いた。
【0027】
【表1】

【0028】
雨量分布を求める方法としては、1999年6月29日に発生した災害時の降雨が局所的な集中豪雨であったことから、本実施例ではより詳細な雨量分布を求める3次メッシュ(約1km×1km)の位置で時間雨量(以下、メッシュ雨量)を算出した。また、降雨のピークと災害発生時刻が概ね一致していることが確認されており、6月29日の最大時間雨量の記録時を災害発生時刻と推定し、その時刻における降雨量をメッシュ単位で算出した。よって本研究に用いる降雨要因としては最大時間雨量、最大時間雨量時の累積雨量(以下それぞれ、時間雨量、累積雨量と呼ぶ)の2要因を降雨要因として使用し、地形データと同様にして、既往研究を参考に表2 に示すような離散化処理を行った。表2に示されるような災害の発生・非発生の要因に対するカテゴリー区分は、予め解析条件データ9として解析データベース4に格納されるか、あるいは入力部2を介して入力される。
【0029】
【表2】

【0030】
まず、SVM解析部3を利用し、元データ(観測・点検データ8)から代表データの抽出を行った。
SVMの分析を行う際には、最適な解析を行うためのパラメータスタディが必要である。ソフトマージン法のSVMでは、誤判別を許容する程度を示すCとガウシアンカーネルの半径(データの影響度)であるrの2つのパラメータを設定しなくてはならない。本実施例では、C=5,10,50,100,200,300,400,500の8ケース、r=0.1,0.5,1.0,2.0,3.0,4.0,5.0の7ケースの計56ケースでパラメータスタディを行った。パラメータスタディでは、各ケースにおいて構築される分離面の精度(いかに正確にデータ分類が行われるか)を検証した。ここでは以下の式(4)に定義する的中率により分離面の精度を評価した。
【0031】
【数4】

【0032】
表3にパラメータスタディ結果として各ケースでの的中率一覧表を示す。
過去の研究では、分離面の汎用性を確保するために、的中率100%(完全分離)とならないパラメータをあえて使用していたが、本実施例では明確に災害発生・非発生に分離される代表データを抽出することを目的としているため、的中率100%のパラメータセットを採用することとした。
しかしながら、本実施例の最終的な目標が汎用的ルールの作成であることを考慮すると、完全分離を確保しながらも出来るだけ汎用的な分離面での分類結果を採用するのが望ましい。SVMにおいては|f(x)|≦1となるデータはサポートベクターと呼ばれ、分離面に近接したデータ群と考えることができる。汎用的な分離面とは、なるべくこのサポートベクターの数が少なくなる分析によって構築されたものと考えられることから、本実施例のパラメータスタディ結果の中ではこれに該当するC=300、r=3の組み合わせを解析用パラメータとして採用した。このCとrの組合せも解析条件データ9として解析データベース4に格納され、解析時に解析データベース4から読み出されるものである。あるいは、解析時に入力部2を介して入力されてもよい。
【0033】
【表3】

【0034】
上記パラメータを解析条件データ9としてSVM解析部3において実行されたSVM解析により算出されたf(x)値に基づき、災害発生ルールを求める上で元データ(観測・点検データ8)の代表となり得る代表データ19を抽出した。ルール作成のための代表データ19は、災害発生データとしてはより危険度の高いもの、非発生データとしてはより安全度の高いものと考えられることから、その抽出の条件として表4に示す3ケースを考えた。
ケース1は、 |f(x)|>1のデータのすべてを代表データとして用いるケースである。本ケースでは代表データとして発生データ:30箇所、非発生データ:710箇所が抽出される。ケース1では、抽出の条件がそのまま|f(x)|>1というしきい値でもある。
ケース2は、発生データと非発生データの危険度の高いもの、安全度の高いものそれぞれの上位から同数をそろえるケースである。本ケースでは発生の元データのf(x)値が−1より小さくなる30箇所のデータと、f(x)値が最も大きいものからこれと同数の非発生データ30箇所を代表データとする条件を設定し、それぞれから抽出した。
また、ケース3はケース2同様発生データと非発生データの危険度の高いもの、安全度の高いものそれぞれの上位からデータの抽出を行うものであるが、抽出するデータ数は元データにおける発生・非発生データ数の比率に合わせるという条件に従うケースである。ここではf(x)値が−1より小さくなる発生データが30個であったことから、元データにおける発生・非発生データの量比(213箇所:1022箇所)の関係が保持できるよう、非発生データからはf(x)が1より大きくなるデータのうち最も大きいものから144箇所を抽出して代表データを構成した。
以下、これら3つのケースに対してラフ集合解析部6を用いて、ラフ集合によるルール生成を実行した。
なお、本実施例においては、ケース1乃至3という3つのケースを考え、それぞれの代表データ19の抽出に際して条件あるいはしきい値を設定したが、代表データ19の抽出における条件やしきい値はこのような条件に限定するものではなく、観測・点検データ8の内容によっては適宜妥当性を検討しながら条件やしきい値を設定してもよい。
【0035】
【表4】

【0036】
代表データからルールを作成するには、前述のとおり、ラフ集合を用いる。ここで重要となるのがラフ集合解析に必要な最小要因数と整合度との関係である。整合度を高くすると要因数が増えルールが煩雑になる。また整合度を低くすると要因数が減少しルールとしては簡素化できる一方で、データの質が低下する傾向にある。本実施例では発生と非発生に関する代表データ19を用いてルールを作成するため、データの質の低下を防ぐために整合度100%を要求水準(しきい値)として設定し、その中でできるだけ少ない要因数で構成されるものという条件を満足するものをルールとして採用することとした。
整合度100%のもとに同じ要因数で構成されるルールが多数存在する場合、最適な組合せを選定することが困難である。そこで、整合度100%となる組合せの中で個々の要因の出現回数の多いものを多数含むものを最適な組み合わせとする条件を追加して演算を実行することとした。さらに、出現回数が同数の組合せが多く重要要因を絞りきれない場合には、既往研究で災害の発生・非発生の分離に大きく寄与することが示された「最急渓床勾配、渓流幅、時間雨量」をより多く含む組合せを優先する条件を設定した。
なお、本実施の形態においては、ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとしており、この確信度とサポートについて演算し、このしきい値又は条件を解析条件データ9として用いることを説明したが、先の説明における整合度についてもルールの構成要因数を絞り込むためのしきい値あるいは条件として用いることができる。この場合は、この整合度に関するしきい値又は条件は、予め解析条件データ9として解析データベース4に格納しておき、災害・事故・補修のルール生成部23が読み出して用いるか、あるいは災害・事故・補修のルール生成部23が入力部2を介して入力されるものをしきい値あるいは条件として読み込んで用いてもよい。
【0037】
ルールの生成において、本実施例においても汎用性の向上のため、ルール領域の拡張を行うこととした。拡張したルールのうち、確信度についてのしきい値は90%以上(ある程度の誤判別を許容できる割合として設定)として、この値以上のもののみを、災害ルールとして作成した。本実施例では、確信度のしきい値のみを採用してルールの拡張を実施しているが、解析の目的や用途に鑑みて、確信度に代えて、サポートに関するしきい値や条件を採用してもよいし、いずれをも満足するような拡張を行ってもよい。
【0038】
表4中のケース1で抽出された代表データ19を元に、ラフ集合解析部6によってルールの生成を行った。その結果を表5左側に示す。ルールを構成する要因において、表中における上矢印と下矢印の表記については、ルール領域の拡張の概念よりそのカテゴリー値以下、以上を意味する。「*」については、どのようなカテゴリー値でも良いことを意味する。ケース1においての最小要因数は流域面積、渓流幅、渓床堆積厚、流域長、谷深比、時間雨量の6要因となり、非発生ルールが1個のみ作成された。ルールの内容としては渓床堆積厚のカテゴリー値5以下であれば非発生といえる結果であった。
このルールを元データ(観測・点検データ8、1,235箇所)に適用した場合の結果を表5右側に示す。ここに示されるのは丸1から丸3については個々のルールで算出したデータ数を足し合わせた結果であり、丸4は全渓流1,235箇所から各ルールに含まれるデータ数(丸1)をさし引いたものである。また、丸5と丸6は各ルールの累計の確信度・サポートである。
本ケースでの結果としては、1個の非発生ルールのみで広島地区1,235渓流を説明できることが判明した。しかしながら、渓床堆積厚のカテゴリー値5とは表1からわかるように「4.0≦GG(渓床堆積厚4.0m以上)」と最大カテゴリー値になっており、「5以下」とはどのような値でもよいことと同意になり、ルール全体としても6要因すべてがどのような値でもよいことになる。また、発生ルールが全く特定できていないことからも有効なルール作成が行えなかったと判断される。この原因としては発生データ数30箇所に対して、非発生データ数710箇所と非発生のデータ数が多すぎることから、非発生に依存するルール作成が行われたと推測される。
【0039】
【表5】

【0040】
ケース1では非発生のデータが多すぎるという課題が生じた。ケース2ではSVMの結果のうちf(x)値が-1以下となったデータ数の30箇所を発生データとして抽出し、非発生データについても同数の30箇所をf(x)値の大きいものから順に抽出し、これらを合わせた60箇所のデータを代表データとしてルールを作成した。その結果を表6の左側に示す。
表6においての最小要因数は最急渓床勾配、時間雨量、累積雨量の3要因となり、非発生ルールが2個と発生ルールが2個の合計4個のルールが作成された。
このルールを元データに適用した場合の結果を表6の右側に記す。ここではルールが4個作成されているが、丸1から丸3は各ルールを累加したときのデータ数を示している。例えば、ルール4における丸1のデータ数185にはルール3のデータ107も含まれている。つまりルール4だけのデータを考えると185−107=78箇所となる。作成された4個のルールの全体の確信度やサポートが最終行であるルール9に示されており、この場合、4個のルールでの確信度は31.0%、サポートは97.1%となる。
ケース1とは異なり非発生ルール、発生ルールがともに作成されたが、元データ(観測・点検データ8)に適用した場合の非発生のサポートが15.0%と低い(丸6参照)。これは「非発生ルールに該当するデータ185箇所のうち、96.2%は安全だと考えられるが、該当するデータが全体の1,235箇所の中でわずか15.0%(185箇所)しかない」という結果であり、多くのデータを説明できるルールが作成されたものの、累計確信度が31.9%と低く信頼性に欠け、「確信度もサポートも高いルールの作成」という目標を達成できていない結果となった。
よって、このケース2からは代表的なルール作成が行えなかったと判断された。その原因としては30箇所の発生データに対して、非発生データを30箇所と同数にしたことにより非発生の代表データが少なくなりすぎたためであると考えられる。
【0041】
【表6】

【0042】
ケース1およびケース2のデータ数に関する問題点から代表データ19の抽出に関しては、全体のデータベースの質を変えない縮約方法が必要である。ケース3は、元データ(観測・点検データ8)における発生・非発生データの量比のバランスを保持した形で代表データを抽出したものである。表7の左側にルールの生成結果を示す。ここに示すようにケース3においての最小要因数は水系模様、最急渓床勾配、主渓流長、渓流幅、時間雨量の5要因となり、非発生ルールが3個、発生ルールが3個の合計6個のルールが作成された。
ただし、水系模様に関してはどのルールにおいても「*」となっており、実質の最小要因数は4要因といえる。
このルールを元データ(観測・点検データ8)に適用した場合の結果を表7の右側に記す。ここに示されるように、サポートについては非発生のサポートは71.4%%と、実際に数の多い非発生データをよく捉えている。また、非発生と発生の累計のサポートは84.8%とケース2の97.1%に比べてやや落ちるものの、ケース3の確信度は81.9となっており、ケース2の31.9%よりも格段に質の高いルールが作成されている。
以上のことより、SVMの結果においてf(x)値が-1以下となるデータ割合を算出し、これを非発生に適用して代表データを抽出し、ルールの作成を行うことで、より精度が高くバランスの良いルール作成が行えたと考えられる。
【0043】
【表7】

【0044】
ここで、検討ケース3で作成されたルールの内容(表8を参照)について考察する。作成したルールのうち、非発生ルールから推測される土石流の非発生渓流の姿は「最急渓床勾配が20度以下、主渓流長が0.20km以下、渓流幅が2.0mと小さく、時間雨量が60mm/hr以下の渓流」といったもので、発生渓流の姿は「最急渓床勾配が30度以上、主渓流長0.60km以上、時間雨量60mm/hr以上の渓流」である。
要因について考察すると、渓床勾配が20度以下では、土砂の生産源となる崩壊斜面が上流域に少ないことから非発生の要因として妥当であり、逆に30度以上では土砂の生産源である発生領域が多くなり、土石流の危険性は非常に高くなる。これは図8に示す実際の最急渓床勾配を見ても30度以上において発生率が増加していることと整合している。また、主渓流長については、延長が長ければ長いほど渓床の不安定土砂量が増加し、土石流の発生の危険性が高くなる。とくに主渓流長0.60km以下では図9に示すように、発生率が15%程度であるが、0.60km以上では発生率が30%近くに上昇していることからも数値として妥当であると考える。渓流幅についても図10から、2.0m以下では発生率が低くなり、非発生ルールの項目として妥当である。降雨についても同様であり、図11に示すように雨量が大きくなればなるほど発生の危険性は高まるというもので発生や非発生のルールの項目としては妥当であった。
既往研究で広島地区を対象として、ラフ集合を用いて土石流の発生・非発生に関しての重要要因の抽出、ならびにルール生成を行ったものと本実施例を比較して表8に示す。表8に示されるように水系模様、最急渓床勾配、流域幅、流域長、谷深比、0次谷の数、最大時間雨量の7要因が重要要因として挙げられているが、本実施例で抽出した重要要因5要因と共通していたのは水系模様、最急渓床勾配、流域幅、最大時間雨量の4要因であり、災害に起因する重要要因の結果が類似した結果となった。このことからもSVM解析部3とラフ集合解析部6を兼ね備えたシステムにより抽出した重要要因は妥当であると考えられる。
【0045】
また、この表8によれば、既往研究では全ての要因(19要因)のデータを用いて、発生ルール136個、非発生ルール250個と多くのルールを作成しているが、あまりにもルール数が多く、実用的なものとは言えなかった。しかし、本実施例では代表データ19に絞ってルール作成を行うことで、発生ルール3個、非発生ルール3個 とルール数を大幅に削減することに成功した。
1つのルールに対するサポートの最大値を比較すると、既往研究では非発生4.0%,発生0.5%であったものが、本実施例のケース3では非発生65.3%、発生4.8%となっており、汎用性が大きく向上しているのが認められる。また、非発生ルールで非発生データを、発生ルールで発生データを適合できた数の最大値を比べると、既往研究では、非発生49個、発生6個であったものが、検討ケース3では非発生717個、発生31個となっており、ルール適合の質が高いことが確認できた。
【0046】
【表8】

【実施例2】
【0047】
以上、具体的なデータを防災総合計画支援システムに用いて、土石流災害の発生形態についてのルールを生成した実施例について説明した。
次に、本実施例2では、道路や上下水道、ダム、港湾、砂防などの施設や設備、橋梁や鉄塔、発電所、ビルなどの建造物を代表して、大阪環状線の路下点検データを防災総合計画支援システム1に用いて、補修の要否(発生・非発生)に関する汎用性の高いルールを生成することを試みた。
使用した観測・点検データの取得年度は1985,1987,1990,1992,1995,1999,2004年である.この中で学習データとして1985〜1999年までのデータを使用した。本実施例における補修の発生に関係する要因としては9要因(ボルトの緩み,ボルトの欠損,異常音,排水管のつまり,排水管の損傷,漏水,止水工,伸縮本体の損傷,さび・腐食)を用いている。また、教師値については補修履歴(補修の発生・非発生)を用いている。
ここで、全く同じ要因の点検結果にも関わらず教師値が異なるデータが多く存在し、明らかな矛盾を含んでいることから、これらの発生・非発生データすべての削除を行った。学習データが1152箇所(発生292,非発生860)存在したが、明らかな矛盾データを処理することで、削除後の学習データは327箇所(発生132,非発生195)となった。
まず、予め解析条件データ9として用いるためのSVMに関するCとrのパラメータスタディを実施した。このパラメータスタディの結果を表9に示す。
このパラメータの組合せの中で、補修の要否についての分離性が最も高い93.0%を維持しながらも、代表データ19を多く抽出できる組合せとして、C=400、r=2を使用した。
【0048】
【表9】

【0049】
SVM解析部3による分離では、危険度に対するしきい値として、特に危険であると判断されるf(x)値が−1より小さくなる値を採用し、これに該当するデータが危険度演算部12によれば24箇所となった。さらに、ここで非発生データ(195箇所)と発生データ(132箇所)の量比を保持するように非発生データを選択するという条件を採用しており、これによる非発生データに関する代表データ数を算出すると、24*195/132=35箇所となった。
よって、本実施例における代表データ抽出部13が抽出した代表データ19は発生24箇所、非発生35箇所となり、これらのデータとラフ集合解析部6を用いてルールの作成を行った。
ラフ集合解析部6によって生成されたルールを行い、2004年の観測・点検データについて予測が可能であるかの検証を行った。結果を表10に示す。
ここで、データについては観測・点検箇所によって点検項目が異なるものが存在していたため、欠測値が見られた。そのため、表中の0は欠測項目を指し、データが補完されればルールが完成するといったものとなっている。
【0050】
【表10】

【0051】
検証の結果、5要因、2ルールで2004年の全データ157箇所を説明できることが判明した。2ルールでの累計確信度は95.5%、サポートは100%であり、質が高く、汎用性のあるルールが作成できたと考えられる。
ここで,代表データ19を抽出することなくラフ集合のみのルール作成を行う従来技術を用いた場合にどの程度の差(ルール数、要因数、確信度、サポート等)が生じるのかを比較した結果を表11に示す。
ラフ集合のみを用いてルールを作成した場合、表11左側に示すように9要因をすべて使って確信度が100%、サポートが14.6%となっており、5つのルールを用いても汎用性に問題があることが明らかとなった。それに対し、SVMによる代表ルールを用いた場合は、表11右側に示すように確信度が95.5%とラフ集合のみの解析結果と比べて同程度の質を保ちながら、サポートが100%と大きく向上させることができた。このことからも本実施例に係る防災総合計画支援システム1におけるSVM解析部3による代表データ19の抽出とラフ集合解析部6におけるルール生成の組合せが、要因やルール数を減少させながらもルールの質(精度)や汎用性を高めるために効果的であることが確認できた。
なお、今回は、実施例1で土石流の発生・非発生に関するルール、実施例2で大阪環状線の補修の要否に関するルールの生成に防災総合計画支援システムを使用したが、この他にも降雨を誘因として斜面あるいは渓流で発生する土砂災害、あるいは地震や火山活動によって発生する災害や河川災害など自然災害、さらには道路や上下水道、ダム、港湾、砂防などの施設や設備、橋梁や鉄塔、発電所、ビルなどの建造物における老朽化や上記の自然災害に伴う事故や補修を対象として、災害や事故の発生要因あるいは補修の要否判断に関する要因について観測・点検データが存在すれば、SVM解析部とラフ集合解析部を組み合わせて実行することで、精度と汎用性に優れたルールを生成することが可能である。従って、これらはそれぞれ災害の防止、事故の防止あるいは補修選定などの計画評価やその支援に単独でも用いられてもよいし、それぞれを組み合わせることで総合的なシステムとして用いることも可能である。
【0052】
【表11】

【0053】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る防災総合計画支援システムによれば、SVM解析部3とラフ集合解析部6を組み合わせて、観測・点検データ8のうち、一定のしきい値あるいは条件の下に抽出して代表データ19とし、これを用いてラフ集合解析部6によって災害・事故・補修のルールを生成することで、高精度でかつ汎用性の高い災害・事故・補修のルールを生成することが可能となっている。
自然災害や施設、構造物、設備などの老朽化などに伴う事故や補修の発生は、必ずしも理論的に導かれることが困難であり、定期的な観測や点検が必須であるが、その観測や点検の項目は数多く、また、その精度は点検者の経験や知識、さらにはその観測・点検箇所の状態に左右されることも否めない。従って、必ずしもすべてのデータの信憑性が常に一定の水準にあるという訳ではなく、ノイズが含まれることも多い。
そこで、特に自然災害や前述の施設、構造物、設備などの観測・点検によるデータを取得してそれらの発生・非発生を評価するためには、すべての観測・点検データを用いるのではなく、取捨選択を行うことが重要となっている。
本発明の実施の形態に係る防災総合計画支援システムやそのプログラムでは、すべての観測・点検データを平等に採用するのではなく、2段階に分けて解析を行う、すなわち、データの選別を、SVM解析部3を用いて実施し、その後にラフ集合解析部6を用いてルールの生成を行うことで、精度を向上させ、しかも、高い汎用性をも発揮させようとしているのである。
高精度かつ汎用性の高い災害・事故・補修のルールを生成することができることで、防災や事故予防あるいは補修の要否に関する評価の信頼性を向上させることができ、これらの事業の適切化や効率化を推進するための支援が可能となる。従って、広く地域住民の災害・事故に対する安全性を確保・維持することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
自治体や防災センターなど公的な機関における防災計画や事故予防あるいは補修の要否に関する計画の立案業務やハザードマップ作成など幅広い用途がある。また、教育機関などにおいて災害や事故の未然防止や避難訓練用の教材としても活用が見込まれ、さらに、建設・土木事業を営む私企業においても、防災事業や維持管理事業のニーズ掘り起こしや事業提案のためのツール、あるいは公的機関との連携を図るための共有ツールとして活用が可能であり、企業の防災技術や維持管理技術に関する研究開発や設計事業などの用途にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】SVMの基本的概念を模式的に示す概念図である。
【図2】SVMによる観測・点検データに対する距離と危険度についての基本的な概念を表現した2次元イメージ図である。
【図3】ラフ集合の基本的概念を模式的に示す概念図である。
【図4】(a)及び(b)は、ラフ集合の拡張を説明するための概念図である。
【図5】本実施の形態に係る防災総合計画支援システムの構造図である。
【図6】本実施の形態に係る防災総合計画支援システムにおいて実行される演算の工程を示すフローチャートである。
【図7】実施例で用いた観測・点検データを取得した地域を示す概念図である。
【図8】実施例において用いた観測・点検データにおける最急渓床勾配と土石流との関係を示すグラフである。
【図9】実施例において用いた観測・点検データにおける渓流幅と土石流との関係を示すグラフである。
【図10】実施例において用いた観測・点検データにおける主渓流長と土石流との関係を示すグラフである。
【図11】実施例において用いた観測・点検データにおける時間雨量と土石流との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1…防災総合計画支援システム 2…入力部 3…SVM解析部 4…解析データベース 5…データベース 6…ラフ集合解析部 7…出力部 8…観測・点検データ 9…解析条件データ 10…解析条件設定部 11…分離面演算部 12…危険度演算部 13…代表データ抽出部 14…分離面関数データ 15…危険度関数データ 16…学習データ 17…分離面データ 18…危険度データ 19…代表データ 20…ラフ集合データ 21…ルールデータ 22…ラフ集合生成部 23…災害・事故・補修のルール生成部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて解析して災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算部と、
前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出部と、
前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成部と、
前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成部と、
を有することを特徴とする防災総合計画支援システム。
【請求項2】
観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面を解析する分離面演算部と、
この分離面演算部で解析された分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算部と、
前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出部と、
前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成部と、
前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成部と、
を有することを特徴とする防災総合計画支援システム。
【請求項3】
コンピュータによって、災害・事故・補修の発生・非発生のルールを生成するために実行されるプログラムであって、
コンピュータに、観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて解析して災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算工程と、
前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出工程と、
前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成工程と、
前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成工程と、
を実行させることを特徴とする防災総合計画支援プログラム。
【請求項4】
コンピュータによって、災害・事故・補修の発生・非発生のルールを生成するために実行されるプログラムであって、
コンピュータに、観測・点検対象箇所において災害・事故・補修の発生要因(要因数をnとする。n≧2)を,n次元座標空間を構成する座標軸に対応させ、前記災害・事故・補修の発生要因毎に観測・点検されたn次元の観測・点検データを学習データとし,前記観測・点検対象箇所における災害・事故・補修の発生・非発生を教師値として用い,災害・事故・補修の発生・非発生の可能性をサポートベクターマシン(以下、SVMという。)を用いて災害・事故・補修の発生・非発生の境界を形成させる分離面を解析する分離面演算工程と、
この分離面演算部で解析された分離面と、前記観測・点検対象箇所において観測・点検された前記要因毎のn次元の観測・点検データと、を用い、前記n次元の観測・点検データが示す前記n次元座標空間中での座標点から前記分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記n次元座標空間の原点側にある場合を正としてもよいし、あるいは前記原点側にある場合を負としてもよい。)を前記観測・点検対象箇所の災害・事故・補修発生危険度として演算する危険度演算工程と、
前記災害・事故・補修発生危険度に対する所望のしきい値又は条件を基準として、該当する前記災害・事故・補修発生危険度を抽出すると共に、この抽出された前記災害・事故・補修発生危険度に対応する前記要因毎のn次元の観測・点検データを代表データとして抽出する代表データ抽出工程と、
前記n次元の災害・事故・補修発生要因に対し,この要因に関する属性値に対するカテゴリー区間を設け,この要因毎のカテゴリー区間を組み合わせてモデルを形成し、前記代表データをこのモデル内に代入して、ラフ集合を形成するラフ集合生成工程と、
前記ラフ集合において要因毎のカテゴリー区間の組合せをルールとして生成し、このルール毎の災害・事故・補修の確信度と、サポートを演算し、前記確信度に対する所望のしきい値又は条件及び/又は前記サポートに対する所望のしきい値又は条件を基準として、前記ルールを抽出する災害・事故・補修のルール生成工程と、
を実行させることを特徴とする防災総合計画支援プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−129003(P2010−129003A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305768(P2008−305768)
【出願日】平成20年11月29日(2008.11.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年度(第60回)土木学会中国支部研究発表会 土木学会中国支部 平成20年5月31日
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(594162308)西日本技術開発株式会社 (16)
【出願人】(591260672)中電技術コンサルタント株式会社 (58)
【出願人】(598154947)株式会社 エイト日本技術開発 (16)
【出願人】(592000886)八千代エンジニヤリング株式会社 (16)
【出願人】(508142734)株式会社北海道技術コンサルタント (5)
【Fターム(参考)】