説明

防炎性複合材料

本発明は、ポリマーならびに、複合材料の全重量に対して、a) 0.1〜30重量%の、電荷を釣り合わせるイオンを含む、層をなす2水酸化物、およびb) 10〜70重量%の金属水酸化物を含む複合材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、金属水酸化物およびクレーを含む複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような複合材料においては、金属水酸化物が一般に、難燃剤として役立つ。従来、そのような燃え上がりを阻止する金属水酸化物と有機的に変性されたカチオンクレーとの組合せが開示されている。
例えば米国特許第6,750,282号明細書は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛およびアルミニウムの水酸化物または複水酸化物から選択される金属水酸化物と、有機的に挿入された層をなすシリケート、例えばスメクタイトとの両方の使用を開示する。
ポリマーマトリックス中の有機的に変性されたアニオンクレー、例えば層状複水酸化物の使用はまた、従来公知である。特公平12(2000)-345,057号および特公平13(2001)-226,522号公報は、有機的に変性された層状複水酸化物(LDH)を記載し、これは、ポリマーマトリックス中で難燃剤として役立つ。
【0003】
ポリマーマトリックス中で有機的に変性されたLDHと金属水酸化物の組合せを使用すると、得られる複合材料の難燃特性の相乗的な改善に至ることを記載または示唆する参考文献はない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、改善された難燃特性を有する複合材料、好ましくはナノ複合材料を提供することである。
【0005】
この目的は、ポリマーならびに、複合材料の全重量に対して
a) 0.1〜30重量%の、電荷を釣り合わせるイオンを含む、層状複水酸化物、および
b) 10〜70重量%の金属水酸化物
を含む複合材料によって達成される。
【0006】
本発明の複合材料は、改善された難燃特性を有する。燃やすと、複合材料は、滴りの減少、および熱放出速度の最高値の低下を示す。それは、複合材料が燃えている事象において高められた煙の抑制を示す。与えられた量での有機的に変性された層状複水酸化物の存在のために、より少ない量の金属酸化物を使用することができ、それは、複合材料中の無機物質の全量の減少を可能にし;このことは、今度は一般に複合材料を容易に製造可能にし、かつ改善された機械的特性を結果として生ずることができる。
【0007】
本発明の1つの実施態様においては、複合材料は、ポリマーならびに、複合材料の全重量に対して
a) 0.1〜30重量%の、少なくとも2個の炭素原子を有する電荷を釣り合わせる有機イオンを含む有機的に変性された層状複水酸化物、および
b) 10〜70重量%の金属水酸化物
を含む複合材料である。
【0008】
本発明の好ましい実施態様においては、複合材料は、ナノ複合材料である。本願明細書においては、「ナノ複合材料」または「ナノ複合物」という語は、少なくとも1成分が、0.1〜100ナノメートル範囲に少なくとも1個の寸法を有する無機相を含む複合材料をいう。本発明のナノ複合材料は、少なくとも部分的に層間剥離しているか、または剥離している、有機的に変性されたLDHを含む。複合材料について先にすでに挙げた利点の他に、本発明のナノ複合物は、それが難燃特性ならびに機械的特性を改善するというさらなる利点を有する。層間剥離しているか、または剥離している、変性されたLDHは、ナノ複合物の分解中に木炭層の形成を生じることができ、これは一般に、不燃物質であり、可燃性揮発生成物の発生を低下させる。本発明のLDHは、有機的に変性されたカチオンクレーより熱的に安定である。
【0009】
本願明細書においては、「電荷を釣り合わせる有機イオン」という語は、結晶LDHシートの静電荷欠損を補償するアニオンをいう。LDHは典型的には層をなす構造を有するので、電荷を釣り合わせるイオンは、積層されたLDH層の中間層、端、または外表面に位置することができる。積層されたLDH層の中間層に位置するそのようなアニオンは、挿入イオンと称される。電荷を釣り合わせるアニオンを用いて処理されたLDHは、親有機的(organophilic)にされ、また「オルガノクレー(organoclay)」と称される。
そのような積層されたLDHまたはオルガノクレーはまた、例えばポリマーマトリックス中で、層間剥離されるか、または剥離されることができる。本明細書内では、「層間剥離」という語は、LDH構造の少なくとも一部分の層剥離(de-layer)、それにより体積当たり有意に多い個々のLDHシートを含む材料を生じることによるLDH粒子の平均積層度の減少として定義される。「剥離」という語は、完全な層間剥離、すなわちLDHシートに垂直の方向における周期性の消失として定義され、媒体中の個々の層の無作為の分散に至り、それによって、少しも積層順序を残さない。
またLDHの挿入と言われる、LDHの膨張または拡張を、X-線回折(XRD)で観察することができる。というのは、基本反射の位置- すなわちd(001)反射 -は、層間距離の表示であり、この距離は、層間剥離すると増加するからである。
平均積層度の減少は、消失までのXRD反射の広がりとして、または基本反射(001)の増加する非対称性によって、観察することができる。
完全な層間剥離、すなわち剥離の特性決定は、分析上の挑戦を残すが、一般に、元のLDHからの非-(hk0)反射の完全な消失から結論を下すことができる。
【0010】
層の配列、故に層間剥離の程度はさらに、透過電子顕微鏡(TEM)で視覚化することができる。
【0011】
本発明のLDHは、当業者に公知の任意のLDHであることができる。典型的にはこれらのLDHは、拡張または膨張することができる無機LDHである。そのようなLDHは、間にはさまれた電荷を釣り合わせるアニオンを有する、荷電した結晶シート(また個々のLDH層と称される)を含む層をなす構造を有する。本願明細書における「拡張」および「膨張」という語は、荷電した結晶シート間の距離の増加をいう。拡張可能なLDHは、適当な溶媒、例えば水中で膨張することができ、電荷を釣り合わせるイオンを他の(有機の)電荷を釣り合わせるイオンで交換することによって、さらに拡張され、変性されることができ、この変性はまた、挿入として従来公知である。
【0012】
またLDHと称される、変性された層状複水酸化物は、一般式:

に対応する層をなす構造を有する。ここで、M2+は、2価金属イオン、例えばZn2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Cu2+、Sn2+、Ba2+、Ca2+およびMg2+であり、M3+は、3価金属イオン、例えばAl3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Mn3+、Ni3+、Ce3+およびGa3+であり、mおよびnは、m/n=1〜10であるような値を有し、bは、0〜10の範囲の値を有する。本発明の方法を用いて製造される層状複水酸化物において3種以上の異なる金属イオンを使用することがまた企図される。これらの金属イオンの中で、Mg2+および/またはZn2+ならびにAl3+の組合せが好ましい。
Xは、当業者に公知の電荷を釣り合わせるアニオンである。電荷を釣り合わせるアニオンは、有機アニオンまたは無機アニオンであることができる。1種以上の有機アニオンおよび/または1種以上の無機アニオンを使用することが考えられる。
従来公知の無機アニオンの例としては、水酸化物、カーボネート、バイカーボネート、ナイトレート、塩化物、臭化物、スルホネート、サルフェート、バイサルフェート、バナデート、タングステート、ボレート、ホスフェート、柱となる(pillaring)アニオン、例えばHVO4-、V2O74-、HV2O124-、V3O93-、V10O286-、Mo7O246-、PW12O403-、B(OH)4-、B4O5(OH)42-、[B3O3(OH)4]-、[B3O3(OH)5]2-、HBO42-、HGaO32-、CrO42-、およびケギンイオン(Keggin-ion)を包含する。無機アニオンは好ましくは、水酸化物、カーボネート、バイカーボネート、ナイトレート、塩化物、臭化物、スルホネート、サルフェート、バイサルフェートまたはそれらの混合物から成る群より選択される。
本発明の好ましい実施態様においては、電荷を釣り合わせるアニオンは、カーボネート、水酸化物および、少なくとも2個の炭素原子を有する有機アニオンからなる群より選択される。
本発明の1つの実施態様においては、Xは、少なくとも2個の炭素原子を有する電荷を釣り合わせる有機アニオンまたは、挿入イオンの少なくとも一部が少なくとも2個の炭素原子を有する有機アニオンによって構成される限り、当業者に公知の任意の他のアニオンである。
【0013】
本発明のLDHは、ハイドロタルサイト(hydrotalcite)およびハイドロタルサイトのようなアニオンLDHを包含する。そのようなLDHの例は、ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイトのような物質、マイキセネライト、マナッセイト、パイロオーライト、ジョグレナイト、ステッチタイト、バルベロナイト、タコバイト、リーベサライトおよびデソーテルサイトである。好ましいLDHはハイドロタルサイトであり、これは、一般式:

に対応する層をなす構造を有するLDHである。ここで、mおよびnはm/n=1〜10、好ましくは1〜6であるような値を有し、bは、0〜10の範囲の値、一般に2〜6の値、しばしば約4の値を有する。Xは、先に定義した電荷を釣り合わせるイオンである。m/nは、2〜4の値を有するべきであるのが好ましい。
【0014】
LDHは、従来公知の任意の結晶形態、例えばカバニ(Cavani)ら(Catalysis Today, 11 (1991年), 第173-301頁)により記載された形態、またはブッキン(Bookin)ら(LDHs and LDH Minerals, (1993年), 第41巻(5)、第558-564頁)により記載された形態であり得る。LDHがハイドロタルサイトであるなら、ハイドロタルサイトは、例えば3H1、3H2、3R1または3R2積層を有するポリタイプであり得る。
【0015】
本発明に従う電荷を釣り合わせる有機イオンは、従来公知の任意の有機アニオンであり得る。少なくとも2個の炭素原子を有するそのような有機アニオンとしては、モノ-、ジ-もしくは多-カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸およびサルフェート酸を包含する。好ましくは、有機アニオンは少なくとも6個の炭素原子を含み、最も好ましくは少なくとも8個の炭素原子を含む。電荷を釣り合わせる有機アニオンが1個以上の官能基、例えばヒドロキシル、アミン、カルボン酸およびビニルを含むことがさらに企図される。これらの官能基は、本発明のナノ複合材料において使用されるポリマーと相互作用するか、または反応することができる。
本発明の有機アニオンの適当な例は、モノカルボン酸、例えば脂肪酸およびロジンに基づくイオンである。
1つの実施態様においては、有機アニオンは、8〜22個の炭素原子を有する脂肪酸である。そのような脂肪酸は、飽和もしくは不飽和の脂肪酸であることができる。そのような脂肪酸の適当な例は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、デセン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびそれらの混合物である。
本発明の別の実施態様においては、有機アニオンはロジンである。ロジンは、天然源由来であり、容易に入手可能であり、合成有機アニオンに比べて比較的安価である。ロジンの天然源の典型的な例は、ガムロジン、木材ロジンおよびトールオイルロジンである。ロジンは一般に、通常約20個の炭素原子を含むモノカルボキシル3環ロジン酸の広く種々の異なる異性体の混合物である。種々のロジン酸の3環構造は、主に二重結合の位置が異なる。典型的にはロジンは、レボピマル酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、セコ-デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ピマル酸およびイソピマル酸を含む物質の混合物である。天然源由来のロジンとしてはまた、重合、異性化、不均化、水素化ならびに、アクリル酸、無水物およびアクリル酸エステルを用いたディールス-アルダー反応によって著しく変性されたロジン、すなわちロジン混合物を包含する。これらのプロセスによって得られる生成物は、変性ロジンと称される。天然ロジンはまた、従来公知の任意のプロセス、例えばロジンのカルボキシル基と金属酸化物、金属水酸化物もしくは塩とが反応してロジン石鹸もしくは塩(いわゆるレジネート)を形成することによって、化学的に変えることができる。そのような化学的に変えられたロジンは、ロジン誘導体と称される。そのようなロジンは、有機基、アニオン基もしくはカチオン基を導入することによって変性されるか、または化学的に変えられることができる。有機基は、1〜40個の炭素原子を有する置換もしくは非置換の脂肪族もしくは芳香族炭化水素であることができる。アニオン基は、当業者に公知の任意のアニオン基、例えばカルボキシレートもしくはスルホネートであることができる。
これらのロジンに基づく物質のさらなる詳細は、D.F.ジンケル(Zinkel)およびJ.ラッセル(Russell)(ナーバル ストアーズ、プロダクション-ケミストリー-ユーティライゼーション(NavalStores, production-chemistry-utilization)、1989年、ニューヨーク、第II部、第9章において)ならびにJ.B.クラス(Class)(「レジンズ、 ナチュラル(Resins, Natural)」、第1章:「ロジン アンド モディファイド ロジンズ(Rosin and Modified Rosins)」、カーク-オスマー エンサイクロペディア オブ ケミカル テクノロジー(Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology)、オンライン掲示日:2000年、12月4日)から収集することができる。
1種以上の有機アニオンを含む本発明のLDHを使用することがまた、企図される。1つの実施態様においては、挿入アニオンは、脂肪酸とロジンとの混合物である。
【0016】
1つの実施態様においては、本発明に従うLDHタイプにおける挿入イオンの全量の少なくとも10%は有機アニオンであり、挿入イオンの全量の好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも60%、なおさらに好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%は有機アニオンである。好ましい実施態様においては、挿入イオンの全量の少なくとも10%は、脂肪酸誘導アニオンもしくはロジン誘導アニオンまたは両方のアニオンの混合物であり、挿入イオンの全量の好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも60%、なおさらに好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%は、脂肪酸誘導アニオンもしくはロジン誘導アニオンまたは両方のアニオンの混合物である。
【0017】
LDHに基づくオルガノクレーにおける個々のLDH層間の距離は一般に、本発明に従う有機アニオン、例えばカーボネートイオンを含まない慣用のLDHの層間の距離より大きい。好ましくは、本発明のLDHにおける層間の距離は、少なくとも1.0nm、さらに好ましくは少なくとも1.5nm、最も好ましくは少なくとも2nmである。個々の層間の距離は、先に概要を示したX-線回折を用いて決定することができる。
【0018】
複合材料中の(有機的に変性された)LDHの量は一般に、複合材料の全重量に基づき0.1〜30重量%である。好ましくはLDHの量は0.2〜25重量%、最も好ましくは0.5〜20重量%である。
【0019】
本発明の金属水酸化物は従来公知であり、一般に難燃剤として役立つ。一般に、金属水酸化物は、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む。好ましくは金属は、マグネシウムおよび/またはアルミニウムである。そのような金属水酸化物の例は、水酸化マグネシウム例えばブルーサイト、水酸化アルミニウム例えば三水酸化アルミニウム、、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛および水酸化バリウムである。
【0020】
複合材料中の金属水酸化物の量は一般に、複合材料の全重量に基づき10〜70重量%である。好ましくは金属水酸化物の量は15〜60重量%であり、最も好ましくは18〜40重量%である。
有機的に変性されたLDH対金属水酸化物の重量比は、一般に100:1〜1:100、好ましくは70:1〜1:70、さらに好ましくは50:1〜1:50、最も好ましくは35:1〜1:35である。
【0021】
金属水酸化物は、複合材料もしくはナノ複合材料において慣用的に使用されるような比表面積および平均粒径を有する。
【0022】
一般に、金属水酸化物は、3〜150m2/gの比表面積および0.1〜20μmの平均粒径を有する。好ましくは比表面積は5〜100 m2/g、最も好ましくは10〜50 m2/gであり、平均粒径は、1〜15μm、最も好ましくは2〜10μmである。
【0023】
本発明はまた、本発明のLDHと金属水酸化物との組合せに関する。この組合せは、物理的混合物または部品のキットであることができる。
本発明の1つの実施態様においては、組合せは、組合せの全重量に基づき、
a) 1〜80重量%の、無機の電荷を釣り合わせるアニオンを含む層状複水酸化物であって、無機の電荷を釣り合わせるアニオンは好ましくは、カーボネートもしくは水酸化物であり、および/または有機的に変性された層状複水酸化物は、少なくとも2個の炭素原子を有する電荷を釣り合わせる有機イオンを含む、複水酸化物ならびに
b) 20〜99重量%の金属水酸化物
を含む。
好ましくは組合せは、組合せの全重量に基づき5〜70重量%の層状複水酸化物および30〜95重量%の金属水酸化物を含み、最も好ましくは組合せは、10〜60重量%の層状複水酸化物および40〜90重量%の金属水酸化物を含む。
物理的混合物は、別々の成分を物理的に混合することによって製造することができる。あるいは、これらの混合物は、1-ポット合成で製造することができる。本発明のLDHは、従来公知のプロセスに従って製造することができる。本発明は、電荷を釣り合わせるアニオンおよび金属水酸化物を含む層状複水酸化物の混合物を製造する方法であって、
(a) 2価金属イオン源、3価金属イオン源、水および/または溶媒(溶媒は好ましくは水と混和性である)および、任意的に電荷を釣り合わせるアニオンの前駆体を含む、前駆体懸濁物もしくは溶液を製造する工程;
(b) 前駆体懸濁物もしくは溶液を処理して、層状複水酸化物を得る工程;ならびに
(c) さらに2価もしくは3価の金属イオン源を懸濁物に添加し、かつ懸濁物を処理して金属水酸化物を得る工程;
(d) 任意的に、得られた混合物を固体形態で分離する工程
を含む方法を提供する。
プロセスの条件、金属イオン源のタイプ(例えば塩および/または固体)、溶媒ならびに電荷を釣り合わせるアニオンの前駆体は、どのLDHおよび金属水酸化物が製造されるかを決定する。所望の組合せに依存して、当業者は、どのようにプロセスを行うべきであるかを理解するであろう。
【0024】
本発明のナノ複合材料において適当に使用することができるポリマーは、従来公知の任意のポリマーマトリックスであることができる。この明細書においては、「ポリマー」という語は、少なくとも2個の構成ブロック(すなわちモノマー)を有する有機物質をいい、かくして、オリゴマー、コポリマーおよびポリマー樹脂を包含する。ポリマーマトリックスにおいて使用するのに適当なポリマーは、多-付加物および重縮合物の両方である。ポリマーはさらに、ホモポリマーまたはコポリマーであることができる。好ましくはポリマーマトリックスは、少なくとも20、さらに好ましくは少なくとも50の重合度を有する。この点については、重合度の定義のために、P.J.フローリー(Flory)、プリンシプルズ オブ ポリマー ケミストリー(Principles of Polymer Chemistry)、ニューヨーク、1953年が参照される。
適当なポリマーの例は、ポリオレフィン例えばポリエチレンもしくはポリプロピレン、ビニルポリマー例えばポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンもしくはポリフッ化ビニリデン、飽和ポリエステル例えばポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸もしくはポリ(εカプロラクトン)、不飽和ポリエステル樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテル、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエステルケトン、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリエポキシドならびに、2種以上のポリマーのブレンドである。好ましくは、ポリオレフィン、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタンまたはポリエポキシドが使用される。
本発明に従うオルガノクレーは、熱可塑性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびアセタール(コ)ポリマー、例えばポリオキシメチレン(POM)、ならびにゴム、例えば天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、ポリイソブチレン(IIR)、ハロゲン化ポリイソブチレン、ブタジエンニトリルゴム(NBR)、水素化ブタジエンニトリルゴム(HNBR)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)および同様のスチレンブロックコポリマー、ポリ(エピクロロヒドリン)ゴム(CO、ECO、GPO)、ケイ素ゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリスルフィドゴム(T)、フッ素ゴム(FKM)、エチレン-酢酸ビニルゴム(EVA)、ポリアクリルゴム(ACM)、ポリノルボルネン(PNR)、ポリウレタン(AU/EU)およびポリエステル/エーテル熱可塑性エラストマーにおいて使用するのに特に適当である。
【0025】
特に好ましくは、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの重合によって得ることができるポリマーもしくはコポリマーである。そのようなポリマーの例は、ポリオレフィンおよび変性ポリオレフィンであり、これらは当業者に公知である。ポリオレフィンまたは変性ポリオレフィンは、ホモポリマーまたはコポリマーであることができる。そのような(変性)ポリオレフィンの適当な例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンおよびエチレン-プロピレンゴム、プロピレン-ブチレンコポリマー、エチレン-塩化ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)、アクリロニトリル-アクリレート-スチレンコポリマー(AAS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレンコポリマー(MBS)、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、エチレン-アクリレートコポリマー、塩化ビニル-プロピレンコポリマー、ならびにそれらの混合物である。特定の種類のポリプロピレン、すなわちポリオレフィンとEPRゴムとのブレンドもしくは反応器等級物を包含する、いわゆる熱可塑性ポリオレフィン(TPO)を、本発明の複合材料またはナノ複合材料において使用することがまた考えられる。
ポリエチレンの特定の例は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよび超高分子量ポリエチレンである。エチレに基づくコポリマーの例は、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン-エチルアクリレートコポリマー(EEA)、エチレン-メチルアクリレートコポリマー(EMA)およびエチレン-アクリル酸コポリマー(EAA)である。
【0026】
本発明の複合材料またはナノ複合材料はさらに、従来一般的に使用される添加剤を含むことができる。そのような添加剤の例は、顔料、染料、UV-安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、充填剤(例えばヒドロキシアパタイト、シリカ、シランカップリング剤、相溶化剤、オイル、ワックス、カーボンブラック、ガラス繊維および他の無機物質)、加工助剤(例えばステアリン酸カルシウム)、核剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、レオロジー改良剤、架橋剤および脱気剤である。
これらの任意の追加物およびそれらの相当する量は、必要に応じて選択することができる。
【0027】
本発明の1つの実施態様においては、有機的に変性されたカチオンクレーが、本発明の複合材料またはナノ複合材料に添加される。カチオンクレーは、カチオンの電荷を釣り合わせるイオンを有するクレーである。カチオンクレーの例は、カオリン、蛇紋石、イライト、バーミキュライトおよびスメクタイトである。好ましいカチオンクレーのタイプは、スメクタイトであり、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト(hectorite)、サポナイトおよびソーコナイトからなる群より選択される。これらのスメクタイトおよびその製造方法は、米国特許第4,695,402号、第3,855,147号、第3,852,405号、第3,844,979号、第3,844,978号、第3,671,190号、第3,666,407号、第3,586,478号および第3,252,757号明細書に記載されている。好ましいスメクタイトは、モンモリロナイト、ヘクトライトおよびサポナイトである。最も好ましいスメクタイトはモンモリロナイトである。
【0028】
カチオンの電荷を釣り合わせる有機イオンは、従来公知の任意の有機カチオンであることができる。好ましくは有機カチオンは、4級アンモニウム基を含む炭化水素、例えば欧州特許第0,780,340号に記載されているものである。
【0029】
複合材料またはナノ複合材料におけるクレー、特に有機的に変性されたクレーの量は一般に、複合材料またはナノ複合材料の全重量に基づき0.1〜30重量%である。好ましくは(有機的に変性された)カチオンクレーの量は0.2〜25重量%、最も好ましくは0.5〜20重量%である。
LDH、特に有機的に変性されたLDH対カチオンクレーの重量比は、一般に100:1〜1:100、好ましくは50:1〜1:50、最も好ましくは10:1〜1:10である。
【0030】
本発明の複合材料またはナノ複合材料において、他の慣用の難燃剤を使用することがまた企図される。適当な例は、酸化アンチモン、赤リン、硫化亜鉛、メラミン誘導体、有機リン化合物および/または無機ホウ素化合物である。これらの剤は、有機的に変性されたカチオンクレーについて開示されたのと同様の量で使用することができる。
【0031】
本発明はさらに、マスターバッチ、すなわち、マスターバッチの全重量に基づき10〜70重量%の量の変性LDHおよび30〜90重量%のポリマーを含む、高度に濃縮された添加剤プレミックスに関する。変性LDHは、無機の電荷を釣り合わせるアニオンもしくは有機の電荷を釣り合わせるアニオンで変性されたLDHであることができる。そのようなマスターバッチは、本発明の複合材料またはナノ複合材料の製造のために有利に使用することができる。これらのマスターバッチは、層間剥離した、または剥離した本発明の変性LDHを含むことができる。
【0032】
しかしながら、そのようなマスターバッチ中のLDHが完全には層間剥離していないなら、後の段階で、所望であれば、マスターバッチを(さらなる)ポリマーとブレンドして、真のポリマーに基づくナノ複合物を得るときに、さらなる層間剥離が達成され得る。
【0033】
本発明の複合材料またはナノ複合材料は、当業者に公知の任意の方法に従って製造することができる。当業者は、ポリマーマトリックスと本発明のLDHとを、例えば溶融ブレンド法を用いて、よく混合することができる。この方法は、簡単であり、経済的であり、かつ現存のプラントにおいて容易に適用可能であるので、好ましい。本発明のLDHを、ポリマーマトリックスの存在下で、またはモノマーおよび/またはオリゴマーを重合してポリマーマトリックスを形成する前、最中またはその後に、モノマーおよび/またはオリゴマーの存在下で、製造することがまた考えられる。
【0034】
本発明の方法の1つの実施態様においては、変性LDHまたはマスターバッチは、ポリマーをそれが流体である温度に維持しながら、ポリマーに添加される。あるいは、固体形態の変性LDHまたはマスターバッチが、固体の第1もしくは第2ポリマーに添加されるか、またはそれと混合され、その後、混合物は、ポリマーが流体である温度に加熱される。ポリマーが結晶であるなら、この温度は一般に、結晶ポリマーの溶融温度より上であり、ポリマーがガラス転移温度を有するなら、温度は、ポリマーのガラス転移温度より上でなければならない。このようにして、LDHまたはマスターバッチがポリマー中に容易に混合され、短時間内でさえポリマー中でナノメートルの大きさのLDH粒子の均一な分布を可能にし、この方法を経済的により魅力あるものにすることが保証される。混合および/またはコンパウンド段階は、バッチプロセスで、例えばバンバリーミキサーで、もしくは2軸のロールミル(ゴムのために適当)で、または連続方式で、例えばチューブ反応器、押出機例えば(共に回転する)2軸もしくは単軸押出機またはバス-ニーダー(往復運動する単軸押出機)およびプラウミキサーで、行うことができる。
【0035】
本発明の複合材料またはナノ複合材料は、これらの複合材料が慣用的に使用される任意の用途において使用することができる。ナノ複合物中のポリマーが、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの重合によって得ることができる(コ)ポリマーであるなら、ナノ複合材料は、敷物材料、自動車部品、繊維、容器の蓋、建築用製品、
弁当箱、クロージャー、医療用器具、家庭用品、食品容器、食洗機、屋外用家具、ブロー成形びん、使い捨ての不織布、ケーブルおよびワイヤーならびに梱包材料において適当に使用することができる。
本発明の1つの実施態様においては、(ナノ)複合材料のポリマーは、ポリプロピレンを含む。ポリプロピレンについてのさらなる詳細は、カーク-オスマー エンサイクロペディア オブ ケミカル テクノロジー(Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology)、オンライン掲示日:2000年、12月4日のR.B.リーベルマン(Lieberman)による「ポリプロピレン(Polypropylene)」、第5章:「用途 (Uses)」ならびに、「ポリプロピレン:織物、硬質包装、消費物、膜、自動車、電機/電子機器および家庭用器具(Polypropylene: Textile, Rigid Packaging, Consumer, Film,Automotive, Electrical/Electronics and Home Appliances)」という標題のバーゼル(Basell)の小冊子022 PPe 10/01に見出すことができる。
ナノ複合材料がゴムを含むなら、これらのナノ複合材料は、タイヤ製造、例えば自動車のタイヤ、トラックのタイヤ、オフロードタイヤおよび航空機のタイヤの製造において、手袋、コンドーム、風船、カテーテル、ラテックス糸、フォーム、カーペットの裏打ちおよびゴム張りのコイアおよびヘアを含むラテックス製品において、履物において、土木工学製品、例えば橋のベアリング、ゴム-金属-積層ベアリングにおいて、ベルトおよびホースにおいて、エンジンマウント、ゴムベアリング、シール、グロメット、ワッシャーおよびブーツを含む、タイヤでない自動車用途において、ワイヤーおよびケーブルにおいて、ならびにパイプシール、医療用クロージャー、ローラー、小さい中実タイヤ、家庭用および市販の用途のためのマウンティング、ゴムボールおよびゴム管、搾乳インフレーションおよび他の農業に基づく用途において適当に適用することができる。
【0036】
好ましい実施態様においては、本発明の複合材料またはナノ複合材料は、ケーブルおよびワイヤーにおいて使用される。そのようなケーブルおよびワイヤーにおいて一般に使用される適当なポリマーは、エチレン-酢酸ビニル(コ)ポリマー(EVA)、低密度ポリエチレン(LDPE)、塩素化ポリエチレン(CPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)である。
【0037】
以下の実施例において、本発明をさらに説明する。
【0038】
実施例
【0039】
実施例1〜4ならびに比較例AおよびB
ローラーロ−ターを備えたHaake Rgeomix 600混合室で全ての成分を合わせることによって、全ての複合材料を製造した。混合物は、50rpmの回転速度で200℃にて混合した。15分後、複合材料を冷却し、その後、180℃にて鋼板間で圧縮成形することによって、2-および3-mmシートに形成した。
得られた2-mmシートを切ってストリップにした。これらのストリップをASTM D3801に従い、物質94V-0、94V-1または94V-2に分類するための垂直燃焼試験(Vertical Burning Test) UL-94に従って試験した。
【0040】
ASTM E 1354-04aに従って酸素消費熱量計(円錐熱量計)を用いて、3-mmシートを分析した。
【0041】
上記複合材料の製造において、以下の成分を使用した:
PP :Moplen HP500N:ポリプロピレン、バーゼル(Basell)から、
MgOH :Magshield UF:水酸化マグネシウム、マーティン マリエッタ マグネシア スペシャルティーズ(Martin Marietta Magnesia Specialties)から、
Perkalite F100 :タロウ酸で変性されたLDH、アクゾ ノーベル ケミカルズ(Akzo Nobel Chemicals)から
Perkalite P100S :タロウ酸で変性されたLDH、アクゾ ノーベル ケミカルズ(Akzo Nobel Chemicals)から
比較例AおよびBならびに実施例1〜4の複合材料において使用された成分の量を表1にまとめる。さらに、表1は、実施例のそれぞれについてのUL 94試験の結果を示す。

【0042】
上記表は明らかに、本発明の有機的に変性されたLDHを含む複合材料が、UL 94試験においてより良い等級を有することを証明する。
【0043】
表2においては、円錐熱量計の結果が、同じ複合材料について示される。

【0044】
円錐熱量計の結果は、比較例と比べて、本発明に従う実施例についてより低い最大熱放出ならびにより低い煙放出を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーならびに、複合材料の全重量に対して
a) 0.1〜30重量%の、電荷を釣り合わせるアニオンを含む、層状複水酸化物、および
b) 10〜70重量%の金属水酸化物
を含む複合材料。
【請求項2】
層状複水酸化物が、カーボネート、水酸化物、および少なくとも2個の炭素原子を有する有機アニオンからなる群より選択される電荷を釣り合わせるアニオンを含む請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
層状複水酸化物が、少なくとも2個の炭素原子を有する、電荷を釣り合わせる有機アニオンを含む請求項2記載の複合材料。
【請求項4】
複合材料がナノ複合材料である請求項1〜3のいずれか1項記載の複合材料。
【請求項5】
有機的に変性された層状複水酸化物における層間の距離が少なくとも1.0nmである請求項3記載の複合材料。
【請求項6】
有機的に変性された層状複水酸化物が、モノカルボン酸およびロジンからなる群より選択される少なくとも1個の、電荷を釣り合わせる有機イオンを含む請求項1〜5のいずれか1項記載の複合材料。
【請求項7】
金属水酸化物が、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウム(好ましくは3水酸化アルミニウム)である請求項1〜6のいずれか1項記載の複合材料。
【請求項8】
有機的に変性されたカチオンクレー(好ましくは有機的に変性されたスメクタイト)をさらに含む請求項1〜7のいずれか1項記載の複合材料。

【公表番号】特表2009−527616(P2009−527616A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555798(P2008−555798)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051715
【国際公開番号】WO2007/096408
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】