説明

防爆構造誘導加熱装置

【課題】誘導加熱コイルの変形や露出を防止し、また反応釜の保温効果を高めることのできる防爆構造誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】反応釜2と、反応釜を加熱するための誘導加熱モジュール3と、防爆装置4と、を備え、誘導加熱モジュールは、冷却用気体9を流通可能な金属管を反応釜の外周に取り巻いてコイル状に形成した誘導加熱コイル10を具備し、金属管にガラス繊維チューブ11を被せ、さらに耐熱材(耐熱セメント12)によりモールドして形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を加熱する反応釜と、該反応釜を外側から誘導加熱により加熱する誘導加熱構造と、反応釜を保護する防爆構造と、を備えた防爆構造誘導加熱装置に関する。更に詳しくは、誘導加熱コイルの変形を抑えると共に露出を防止し、また反応釜の保温効果を高めることのできる防爆構造誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化学製品や食品の製造プロセスにおいて、原料液に対して、例えば200〜300℃程度の加熱を行う際に反応釜が用いられていた。この種の反応釜では、工場に集中配置されたガスや重油焚きのボイラによって250〜350℃の高温に加熱された熱媒油を、工場内の10〜200メートル程度の配管を介して反応釜の周囲に供給することで反応釜を加熱していた。しかしながら、この種の加熱装置では、大規模なボイラや配管を必要とする上に、熱媒油は例えばアルキルベンゼンやアルキルナフタリン等であり引火し易いため、熱媒油の漏れ防止や引火防止のための設備もまた大掛かりになっていた。このため、加熱装置の小型化・簡素化が望まれていた。
【0003】
これを解決するために、近年では、反応釜を誘導加熱により発熱させる誘導加熱装置を備えた反応釜が開発されている。この種の誘導加熱装置は、ボイラや配管構造を必要とせず、反応釜の周囲に直接取り付けられる。そして、この誘導加熱装置の構造としては、例えば、セラミックスまたはプラスチック製の円筒ケースに誘導加熱コイルを巻き付け、その外周にシリコンシートを巻き付けて、更にその外周をアルミニウム製の円筒カバーで覆って成る構造が知られている(特許文献1を参照)。この円筒状の誘導加熱装置は、セラミックス製の円筒状の断熱材を介して反応釜の周囲に取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−119314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、特許文献1に示すような誘導加熱装置では、誘導加熱コイルは円筒ケースに巻き付けられること及び外周側からシリコンシートを巻き付けられることでのみ固定されているので、固定力が弱く、加熱時に誘導加熱コイルが熱膨張で伸張すると容易に変形してしまい、コイルがケースから飛び出して露出してしまう。また、反応釜を保温するために誘導加熱装置との間に断熱材が介在されているが、十分な保温効果を確保するためには断熱材を厚くせざるを得ず、その周囲に誘導加熱コイルを設ける構造であることから装置全体が大型化してしまう。更に、誘導加熱コイルの周囲はシリコンシートのみにより絶縁されていると共に誘導加熱コイルの表面は何も被覆されていないので、シリコンシートは熱劣化等により亀裂を生じ易いことから絶縁性の確保が困難である。
【0006】
本発明は、前記現状に鑑みてなされたものであり、誘導加熱コイルの変形や露出を防止し、また反応釜の保温効果を高めることのできる防爆構造誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、反応釜と、該反応釜を加熱するための誘導加熱モジュールと、防爆装置と、を備え、前記誘導加熱モジュールは、冷却用気体が流通可能な金属管を前記反応釜の外周に取り巻いてコイル状に形成した誘導加熱コイルを具備し、該金属管にガラス繊維チューブを被せ、さらに耐熱材によりモールドして形成されたことを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載において、前記防爆装置は、前記反応釜の少なくとも前記誘導加熱モジュールが設けられた部分を収容する密閉ケースと、前記密閉ケースの外部から前記誘導加熱コイルの一方の開口端に前記冷却用気体を導入する気体導入路と、前記誘導加熱コイルの他方の開口端から前記冷却用気体を前記密閉ケース内に放出する気体放出口と、前記冷却用気体を前記密閉ケースの外部に排出するための気体排出弁と、を備え、空気又は不活性ガスを前記気体導入路に常時供給して前記誘導加熱コイルを冷却すると共に、前記密閉ケース内を外気圧よりも高い所定の気圧に保つことを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2記載において、前記誘導加熱モジュールは複数であり、前記気体導入路は複数の前記誘導加熱モジュールに分岐して並列して接続され、それぞれの前記誘導加熱モジュールの前記気体放出口から前記密閉ケース内に前記冷却用気体が排出されることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項記載において、前記誘導加熱モジュールは複数であると共に、前記誘導加熱モジュールごとに別個に接続されたインバータを備えることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項記載において、前記耐熱材は耐熱セメントであることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項記載において、前記反応釜の上下方向中央部より上側の外周面に温度センサを備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明の防爆構造誘導加熱装置によれば、誘導加熱モジュールは、誘導加熱コイルを耐熱材によりモールドして形成されているので、誘導加熱コイルの固定力を高めることができる。このため、従来のように誘導加熱コイルの固定力が弱い場合に比べて、加熱時に誘導加熱コイルが熱膨張により伸張及び拡径しても誘導加熱コイルの変形を抑えて加熱力の変化を防止することができる。また、耐熱材が反応釜の周囲を取り囲むので、反応釜の保温断熱を図ることができる。更に、誘導加熱コイルを耐熱材でモールドすることで、誘導加熱コイルの絶縁性を高めることができる。
また、誘導加熱コイルにはガラス繊維チューブが被せられているので、加熱時に誘導加熱コイルが熱により伸長及び拡径しても、ガラス繊維チューブが誘導加熱コイルと耐熱材との間の緩衝材及び滑り材として機能して、耐熱材の破損を防止することができ、誘導加熱コイルの露出を防止し電気的絶縁性の低下を防ぐことができる。更に、万が一、耐熱材に亀裂が入った場合でも、誘導加熱コイルの表面はガラス繊維チューブで被覆されており露出を防止することができる。
そして、請求項2に記載の発明によると、防爆装置において空気又は不活性ガスを気体導入路に常時供給して誘導加熱コイルを冷却するので、反応釜を冷却することなく誘導加熱コイルのみを冷却することができる。しかも、密閉ケース内を外気圧よりもやや高い所定の気圧に保っているので、例えば他の場所から漏れてきた可燃性ガスが密閉ケース内に入り込むことを防止し、誘導加熱モジュール及び反応釜の高温部と可燃性ガスとの接触を防止して防爆性能を保持することができる。更に、誘導加熱コイルを冷却した後の気体を利用して密閉ケース内を正圧にしているので、気体の供給設備を簡素化することができる。
また、請求項3に記載の発明によると、複数の誘導加熱モジュールを備えているので、誘導加熱モジュールごとに加熱の程度を異ならせて制御することができる。このため、例えば、反応釜の液量が多い時は全ての誘導加熱モジュールを作動させるようにし、また液量が少ない時は下の方の誘導加熱モジュールのみを作動させるようにして過熱防止と省エネルギ化を図り、液量に応じて無駄無く局所加熱制御するようにできる。更に、気体導入路が複数の誘導加熱モジュールに分岐して並列して接続されているので、各誘導加熱コイルに供給される冷却用空気の温度を均一化することができる。このため、全ての誘導加熱コイルを均等に温度制御することができる。
そして、請求項4に記載の発明によると、複数の誘導加熱モジュールごとに別個に接続されたインバータを備えているので、それぞれのインバータにより誘導加熱モジュールごとの制御を実現できるので、反応釜の高さ方向において異なる温度の制御をすることができる。
また、請求項5に記載の発明によると、耐熱材が耐熱セメントであるので、誘導加熱コイルの固定力及び絶縁性を更に高めることができる。
また、請求項6に記載の発明によると、反応釜の上下方向中央部より上側の外周面に温度センサを備えているので、制御異常による過昇温だけでなく、空焚きによる過昇温も検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施例に係る防爆構造誘導加熱装置の中央縦断面側面図である。
【図2】複数の誘導加熱モジュールを示す斜視図である。
【図3】誘導加熱モジュール及び防爆装置における配管及び配線を示す概略図である。
【図4】誘導加熱モジュールの製造工程を示す斜視図であり、(A)は誘導加熱コイルをスペーサにより保持した状態、(B)はそれを耐熱セメントでモールドした状態である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜4を参照しながら本発明の防爆構造誘導加熱装置を詳しく説明する。ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
本発明に係る防爆構造誘導加熱装置は、反応釜と、該反応釜を加熱するための誘導加熱モジュールと、防爆装置と、を備えたものである(例えば、図1等参照)。
【0012】
上記「反応釜」は、例えば化学製品や食品の製造プロセスにおいて、原料液を加熱するためのものである限り、その形状、構造、材質、耐熱温度等は特に問わない。加熱温度としては、例えば200〜300℃程度の加熱とする。反応釜は、例えば、上部に設けられた原料液流入口と、下部に設けられた反応液流出口と、内部に設けられた撹拌プロペラと、該撹拌プロペラを回転させるモータと、を備えたものとできる。反応釜の上下方向中央部より上側の外周面には温度センサを備えるようにできる。
【0013】
上記「誘導加熱モジュール」は、冷却用気体が流通可能な金属管を反応釜の外周に取り巻いてコイル状に形成した誘導加熱コイルを具備し、該金属管にガラス繊維チューブを被せ、さらに耐熱材(好ましくは耐熱セメント)によりモールドして形成されたものであり、誘導加熱コイルへの通電により反応釜を誘導加熱する限り、その形状、構造、材質等は特に問わない(例えば、図2等参照)。金属管を銅又は銅合金の管とした場合の外径は、例えば、8〜20mm(好ましくは肉厚が0.8〜1.2mmで且つ外径が10〜16mm、特に肉厚が1mmで且つ外径が12〜14mm)であることができる。さらに、ガラス繊維チューブとしては、例えば、ガラス繊維の編物、織物、不織布等を挙げることができる。このガラス繊維チューブの内径は、誘導加熱コイル(金属管)の外径より所定値(例えば、2〜3mm)大きなものを選択して誘導加熱コイルと耐熱材との間に空間を持たせることができる。例えば、誘導加熱コイルの外径が12mmのときはガラス繊維チューブの内径が14mmのものを選択することができる。また、冷却用気体としては、窒素等の不活性ガスや空気とすることができる。この誘導加熱モジュールは例えば円筒形状であり、その内径は反応釜の外径に合わせて数種類に標準化することができる。この内径の標準化としては、例えば600mm,1150mm,1400mmの3種類とすることができる。
【0014】
上記「防爆装置」は、反応釜の誘導加熱モジュール取付部部分を収容する密閉ケースと、誘導加熱コイルの一方の開口端に冷却用気体を導入する気体導入路と、誘導加熱コイルの他方の開口端から冷却用気体を放出する気体放出口と、冷却用気体を密閉ケースの外部に排出する気体排出弁と、を備えたものである限り、その形状、構造、材質等は特に問わない(例えば、図3等参照)。密閉ケースは、反応釜の少なくとも誘導加熱モジュールが設けられた部分を収容し、外気圧よりもやや高い所定の気圧に保たれている限り、その形状、構造、材質等は特に問わない。密閉ケースとしては、例えばアルミニウム合金製とすることができる。密閉ケース内の気圧としては、例えば外気圧との差圧をプラス0.5kPa(キロパスカル)程度とすることができる。気体導入路は、密閉ケースの外部から誘導加熱コイルの一方の開口端に冷却用気体を導入し、冷却用気体を気体導入路に常時供給して誘導加熱コイルを冷却する限り、その形状、構造、材質等は特に問わない。気体導入路と誘導加熱コイルとは、例えば、耐熱電気絶縁性のゴムチューブ(例えば、シリコンゴムチューブ等)により両者間に電気的絶縁空間を保って連結するようにできる。気体放出口は、誘導加熱コイルの他方の開口端から冷却用気体を密閉ケース内に放出する限り、その形状、構造、材質等は特に問わない。気体排出弁は、冷却用気体を密閉ケースの外部に排出する限り、その形状、構造、材質等は特に問わない。
【0015】
また、誘導加熱モジュールは複数であるようにできる。この場合、誘導加熱モジュールごとに別個に接続されたインバータを備えて、各誘導加熱モジュールを別個に制御するようにできる。例えば、反応釜の液量が多い時は全ての誘導加熱モジュールを作動させるようにし、また液量が少ない時は下の方の誘導加熱モジュールのみを作動させるようにして過熱防止と省エネルギ化を図り、液量に応じて無駄無く局所加熱制御するようにできる。ここで、インバータによる制御周波数としては、例えば、20〜23kHzとすることができる。
【0016】
更に、誘導加熱モジュールが複数である場合、気体導入路は複数の誘導加熱モジュールに分岐して並列して接続され、それぞれの誘導加熱モジュールの気体放出口から密閉ケース内に冷却用気体が排出されるようにできる。
【実施例】
【0017】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
【0018】
(1)防爆構造誘導加熱装置の構成
本実施例に防爆構造誘導加熱装置1は、図1に示すように、反応釜2と、該反応釜2を加熱するための誘導加熱モジュール3と、防爆装置4と、を備えたものである。
【0019】
反応釜2は、例えば化学製品や食品の製造プロセスにおいて、原料液を例えば200〜300℃程度に加熱するためのものとしている。反応釜2の材質としては、本実施例ではオーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS310S)やオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(例えばSUS329J4L)を使用している。反応釜2は、上部に設けられた原料液流入口5と、下部に設けられた反応液流出口6と、内部に設けられた撹拌プロペラ7と、該撹拌プロペラ7を回転させるモータ8と、を備えている。
【0020】
誘導加熱モジュール3は、図1及び図2に示すように、冷却用気体9が流通可能な金属管を反応釜2の外周に取り巻いてコイル状に形成した誘導加熱コイル10を具備し、該金属管にガラス繊維チューブ11を被せ、さらに耐熱セメント12によりモールドして形成されたものであり、誘導加熱コイル10への通電により反応釜2を誘導加熱する。耐熱セメント12としては、本実施例ではセラミック系の東和キャスタブル(東和耐火工業(株)製)やアサヒアルミナセメント(AGCセラミック(株)製)を使用している。誘導加熱コイル10としては、銅製又は銅合金製の金属管からなり、本実施例では無酸素銅(例えばC1020T)・りん脱酸銅(例えばC1201T)等の継目無管を使用している。冷却用気体9は窒素としている。この誘導加熱モジュール3は円筒形状であり、その内径は反応釜2の外径に合わせて600mm,1150mm,1400mmの3種類に標準化して形成しており、適宜なものを選択して使用している。
【0021】
また、誘導加熱モジュール3は、反応釜2の外周部に4箇所、下部に1箇所設けられている。更に、これらの誘導加熱モジュール3は外側から固定用耐熱セメント24により固定されている。そして、図3に示すように、誘導加熱モジュール3ごとに別個に接続されたインバータ13を備えて、各誘導加熱モジュール3を別個に制御可能としている。インバータ13による制御周波数としては、20〜23kHzとしている。
【0022】
防爆装置4は、反応釜2の外周部及び下部の全体を収容する密閉ケース14と、誘導加熱コイル10の一方の開口端15に冷却用気体9を導入する気体導入路16と、誘導加熱コイル10の他方の開口端17から冷却用気体9を密閉ケース14内に放出する気体放出口18と、密閉ケース14内の圧力を検出するための圧力検出器26と、冷却用気体9を密閉ケース14の外部に排出する気体排出弁19と、を備えている。
【0023】
密閉ケース14は、アルミニウム合金製で、内部は冷却用気体9により外気圧よりも高く、外気との差圧にしてプラス0.5kPaに保たれている。密閉ケース14の材質としては、純アルミ系合金(例えばA1200P)又は耐熱アルミ系合金(例えばA3003P、A5052P)を使用している。気体導入路16は銅パイプから成り、シリコンゴムチューブ20によって各誘導加熱コイル10に連結されている。このシリコンゴムチューブ20によって気体導入路16と誘導加熱コイル10との間に空間を設けて電気的絶縁が図られている。そして、密閉ケース14の外部から気体導入路16を介して誘導加熱コイル10の一方の開口端15に冷却用気体9を導入し、冷却用気体9を気体導入路16に常時供給して誘導加熱コイル10を冷却する。また、気体導入路16は複数の誘導加熱モジュール3に分岐して並列して接続され、それぞれの誘導加熱モジュール3の気体放出口18から密閉ケース14内に冷却用気体9が排出されるようにしている。
【0024】
気体排出弁19では、密閉ケース14の内部が冷却用気体9により所定の圧力を維持するように排出を行う。気体排出弁19は制御装置(図示せず)に接続されている。制御装置では、密閉ケース14内の気圧が極端に低下した場合に、例えば外気圧との差圧が0.2kPa以下になった時に、密閉ケース14への気体供給に異常が生じたものとして誘導加熱モジュール3への通電を停止するようにしている。
【0025】
更に、反応釜2の上下方向中央部より上側の外周面には温度センサ21が設けられている。この温度センサ21は制御装置(図示せず)に接続されている。該制御装置では、反応釜2の壁面温度が所定温度より上昇したことを検出した場合に、例えば構造的使用上限温度を300℃で設計した場合は320℃以上の上昇を検出した時に、誘導加熱モジュール3への通電を停止するものとしている。
【0026】
(2)防爆構造誘導加熱装置の作用
次に、上記構成の防爆構造誘導加熱装置1の作用について説明する。
【0027】
誘導加熱モジュール3を製造する際は、誘導加熱コイル10を保持可能な溝22を有するスペーサ23を予め複数個、本実施例においては4つ用意する。所定の形状に形成した誘導加熱コイル10にガラス繊維チューブ11を被せ、これを等間隔に配置したスペーサ23により外側から保持する(図4(A))。そして、スペーサ23により誘導加熱コイル10を保持したまま耐熱セメント12でモールドするようにする(図4(B))。
【0028】
防爆構造誘導加熱装置1を組み立てる際は、誘導加熱モジュール3を反応釜2の外周部及び下部に取り付け、その周囲を更に固定用耐熱セメント24で覆って固定する。そして、各誘導加熱コイル10にインバータ13を接続し、気体導入路16を連結して、その周囲に密閉ケース14を被せる。
【0029】
防爆構造誘導加熱装置1を使用する際は、原料液流入口5から所定量の原料液25を流入する。そして、液面より低い部位にある誘導加熱モジュール3に接続されたインバータ13を作動させて、該誘導加熱モジュール3の誘導加熱コイル10に通電させる。これにより、反応釜2が200〜300℃に誘導加熱され、原料液25が加熱される。反応釜2のモータ8を適宜駆動して撹拌プロペラ7を回転させ、原料液25を撹拌する。
【0030】
また、気体導入路16から常温の冷却用気体9を常時導入し、各誘導加熱コイル10に流通させる。これにより、各誘導加熱コイル10を常時冷却して誘導加熱コイル10の熱膨張による変形を抑える。各誘導加熱コイル10の気体放出口18から100〜110℃程度に加熱された冷却用気体9が放出され、密閉ケース14内を正圧にする。気体排出弁19は密閉ケース14内の圧力を、外気圧との差圧をプラス0.5kPa程度に維持するように冷却用気体9を排出する。
【0031】
所定時間の加熱により原料液25の反応が終了すると、インバータ13を停止して誘導加熱を終了させる。そして、反応液流出口6から反応液を流出させる。また、気体導入路16からの冷却用気体9の導入は反応釜2が冷却するまで継続する。
【0032】
ここで、密閉ケース14内の気圧が、外気圧との差圧でプラス0.2kPa以下に低下したことを気体排出弁19の前に設けた圧力検出器26が検知した場合、あるいは反応釜2の壁面温度が所定温度より上昇したことを温度センサ21が検出した場合には、反応釜2の過熱を防止するために制御装置により誘導加熱モジュール3への通電を停止する。
【0033】
(3)実施例の効果
本実施例の防爆構造誘導加熱装置1によれば、誘導加熱モジュール3は、誘導加熱コイル10を耐熱セメント12によりモールドして形成されているので、誘導加熱コイル10の固定力を高めることができる。このため、従来のように誘導加熱コイル10の固定力が弱い場合に比べて、加熱時に誘導加熱コイル10が熱膨張により伸張及び拡径しても誘導加熱コイル10の変形を抑えて加熱力の変化を防止することができる。また、耐熱セメント12及び固定用耐熱セメント24が反応釜2の周囲を取り囲むので、反応釜2の保温断熱を図ることができる。更に、誘導加熱コイル10を耐熱セメント12でモールドすることで、誘導加熱コイル10の絶縁性を高めることができる。
【0034】
また、誘導加熱モジュール3の内径は、600mm,1150mm,1400mmの3種類に標準化されているので、誘導加熱モジュール3の段数を変えることで、反応釜2の外径が同一で高さ寸法を変えて反応釜2の容積を変えることが出来、設計・製作・取付を簡素化し、低コスト化を図ることができる。
【0035】
また、誘導加熱コイル10にはガラス繊維チューブ11が被せられているので、加熱時に誘導加熱コイル10が熱で伸長及び拡径しても、ガラス繊維チューブ11が誘導加熱コイル10と耐熱セメント12との間の緩衝材及び滑り材として機能して、耐熱セメント12の損傷を防止することができ、誘導加熱コイル10の露出を防止し電気的絶縁性の低下を防ぐことができる。更に、万が一、耐熱セメント12に亀裂が入った場合でも、誘導加熱コイル10の表面はガラス繊維チューブ11で被覆されており露出を防止することができる。本実施例では、ガラス繊維チューブとしてシリコンワニスガラス編組チューブ(日星電気(株)製)を使用している。
【0036】
そして、防爆装置4において冷却用気体9を気体導入路16に常時供給して誘導加熱コイル10を冷却しているので、反応釜2を冷却することなく誘導加熱コイル10のみを冷却することができるようになる。しかも、密閉ケース14内を外気圧よりもやや高い所定の気圧に保っているので、他の場所から漏れてきた可燃性ガスが密閉ケース14に入り込むことを防止し、誘導加熱モジュール3及び反応釜2の高温部と可燃性ガスとの接触を防止して防爆を図ることができる。更に、誘導加熱コイル10を冷却した後の気体を利用して密閉ケース14内を正圧にしているので、冷却用気体9の供給設備を簡素化することができる。
【0037】
また、複数の誘導加熱モジュール3を備えているので、誘導加熱モジュール3ごとに加熱の程度を異ならせて制御することができる。このため、反応釜2の加熱領域を適宜局所加熱制御することができるようになる。更に、気体導入路16が複数の誘導加熱モジュール3に分岐して並列して接続されているので、各誘導加熱コイル10に供給される冷却用空気の温度を均一化することができる。このため、全ての誘導加熱コイル10を均等に温度制御することができるようになる。
【0038】
そして、複数の誘導加熱モジュール3ごとに別個に接続されたインバータ13が接続されているので、それぞれのインバータ13により誘導加熱モジュール3ごとの制御を実現でき、反応釜2の高さ方向において異なる温度の制御をすることができる。
【0039】
また、反応釜2の上下方向中央部より上側で通常使用時の原料液面(標準液面)より下側の外周面に温度センサ21が設けられているので、制御異常による過昇温だけでなく、空焚きによる過昇温も検知することができる。
【0040】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、上記実施例では、誘導加熱モジュール3を複数設けたが、これに限定されず、1つのみとしても良い。また、上記実施例では、誘導加熱モジュール3の内径を標準化したが、これに限定されず、標準化をしなくても反応釜2の外径に合わせて適宜設定することができる。更に、上記実施例では、冷却用気体9は窒素としたが、これに限定されず、他の不活性ガスや空気としても良い。
【0041】
また、上記実施例では、気体導入路16は複数の誘導加熱モジュール3に分岐して並列に接続するようにしたが、これに限定されず、複数の誘導加熱モジュール3の誘導加熱コイル10を直列に接続して、これに接続するようにしても良い。
【0042】
更に、上記実施例では、反応釜2の上下方向中央部より上側の外周面に温度センサ21を設けたが、これに限定されず、他の適宜な位置に設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本防爆構造誘導加熱装置は、反応釜を誘導加熱する技術として利用される。特に、誘導加熱コイルの変形を抑え加熱力の変化を防ぐと共に、耐熱セメントの破損を防ぎ誘導加熱コイルの露出を防止し、また反応釜の保温効果を高めることのでき、危険部署で安全に使用できる装置として好適に利用される。
【符号の説明】
【0044】
1;防爆構造誘導加熱装置、2;反応釜、3;誘導加熱モジュール、4;防爆装置、9;冷却用気体、10;誘導加熱コイル、11;ガラス繊維チューブ、12;耐熱セメント、13;インバータ、14;密閉ケース、16;気体導入路、18;気体放出口、19;気体排出弁、21;温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応釜と、該反応釜を加熱するための誘導加熱モジュールと、防爆装置と、を備え、
前記誘導加熱モジュールは、冷却用気体が流通可能な金属管を前記反応釜の外周に取り巻いてコイル状に形成した誘導加熱コイルを具備し、該金属管にガラス繊維チューブを被せ、さらに耐熱材によりモールドして形成されたことを特徴とする防爆構造誘導加熱装置。
【請求項2】
前記防爆装置は、
前記反応釜の少なくとも前記誘導加熱モジュールが設けられた部分を収容する密閉ケースと、
前記密閉ケースの外部から前記誘導加熱コイルの一方の開口端に前記冷却用気体を導入する気体導入路と、
前記誘導加熱コイルの他方の開口端から前記冷却用気体を前記密閉ケース内に放出する気体放出口と、
前記冷却用気体を前記密閉ケースの外部に排出するための気体排出弁と、
を備え、
空気又は不活性ガスを前記気体導入路に常時供給して前記誘導加熱コイルを冷却すると共に、前記密閉ケース内を外気圧よりも高い所定の気圧に保つ請求項1記載の防爆構造誘導加熱装置。
【請求項3】
前記誘導加熱モジュールは複数であり、
前記気体導入路は複数の前記誘導加熱モジュールに分岐して並列して接続され、それぞれの前記誘導加熱モジュールの前記気体放出口から前記密閉ケース内に前記冷却用気体が排出される請求項2記載の防爆構造誘導加熱装置。
【請求項4】
前記誘導加熱モジュールは複数であると共に、前記誘導加熱モジュールごとに別個に接続されたインバータを備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防爆構造誘導加熱装置。
【請求項5】
前記耐熱材は耐熱セメントである請求項1乃至4のいずれか一項に記載の防爆構造誘導加熱装置。
【請求項6】
前記反応釜の上下方向中央部より上側の外周面に温度センサを備える請求項1乃至5のいずれか一項に記載の防爆構造誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−258392(P2011−258392A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131496(P2010−131496)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(591015016)伊藤工機株式会社 (1)
【出願人】(390008497)日本電熱株式会社 (32)
【Fターム(参考)】