説明

防虫断熱材及びその製造方法

【課題】溶剤を用いることなく均一に防虫剤が発泡体中に分散し、長期間に亘って十分な防虫効果が得られる防虫断熱材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】防虫剤が分散含有された発泡原料液から発泡成形された発泡体からなる防虫断熱材において、前記発泡体は、加熱溶解された融点35℃〜150℃の防虫剤を混入した防虫剤含有原料液の冷却により当該防虫剤を再結晶化させて結晶状態で分散させた防虫剤含有原料液と、他の発泡原料液とを混合して発泡成形されており、前記防虫剤は、加熱冷却後の冷却により再結晶化させて結晶状態で発泡体中に分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防虫断熱材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家屋の断熱等に使用される断熱材として、表面側に防虫剤塗膜面を有するポリウレタンフォーム等の発泡体や、内部に防虫剤が混入されたポリウレタンフォーム等の発泡体からなる、防虫性能を有する防虫断熱材が提案されている。
【0003】
しかし、前者の防虫剤塗膜面を有する防虫断熱材においては、単に発泡体表面に防虫剤を塗布して前記塗膜面を形成しているため、その塗膜面が存在している間は相応の防虫効果(具体的には白蟻による食害等を防ぐ効果)が得られるが、該塗膜面が虫(白蟻)による食害の進行や経時的な劣化等にともなって、当該防虫効果が低下するおそれがあり、耐久性に欠ける問題があった。
【0004】
他方、後者の内部に防虫剤が混入された発泡体からなる防虫断熱材においては、ポリウレタン原料液等の発泡原料液に常温で粉体または油状液体の防虫剤を混入し、その防虫剤が含まれた発泡原料液を攪拌することにより防虫剤含有原料液を調製し、その原料液を用いて発泡成形を行っている。しかし、粉体状の防虫剤を混合する場合には防虫剤が発泡原料液に均一に分散し難く、得られる発泡体は防虫剤の偏在したものとなって、充分な防虫効果が得られないおそれがある。さらに、防虫効果を高めるために粉体状防虫剤の混合量を増やそうとすると、発泡原料液内での粉体状防虫剤の偏在が激しくなって発泡が良好に行われなくなり、まともな発泡体が得られなくなる。また、前記防虫剤として、常温で油状液体となるものを混合する場合には、得られる防虫断熱材の使用される常温では、防虫断熱材内の防虫剤が液状のため、蒸発等によって防虫剤の無駄な減少があり、長期に亘って良好な防虫効果を得られない問題がある。
【0005】
なお、前記防虫剤が発泡体内部に混入される場合においては、特開平6−294165号公報に記載の発明等の如く、前記防虫剤含有原料液の調製時に防虫剤の溶剤としてトルエン等を用いることがあるが、その場合、前記トルエン等に起因してウレタンフォームの発泡形成時にフォームのセル荒れ等が起こり、本来の断熱材としての機能を阻害するおそれがある。また、フォーム中にトルエン等が残存する当該断熱材を個人住宅や商用ビル等に使用する場合には、環境汚染や人体への影響が懸念される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、前記の点に鑑み提案されたものであって、溶剤を用いることなく均一に防虫剤が発泡体中に分散し、長期間に亘って十分な防虫効果が得られる防虫断熱材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る防虫断熱材は、防虫剤が分散含有された発泡原料液から発泡成形された発泡体からなる防虫断熱材において、前記発泡体は、加熱融解された融点35℃〜150℃の防虫剤を混入した防虫剤含有原料液と他の発泡原料液と混合して発泡成形されており、前記発泡体中に前記防虫剤が分散していることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明に係る防虫断熱材は、防虫剤が分散含有された発泡原料液から発泡成形された発泡体からなる防虫断熱材において、前記発泡体は、加熱溶解された融点35℃〜150℃の防虫剤を混入した防虫剤含有原料液の冷却により当該防虫剤を再結晶化させて結晶状態で分散させた防虫剤含有原料液と、他の発泡原料液とを混合して発泡成形されており、前記防虫剤は、結晶状態で発泡体中に分散していることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明に係る防虫断熱材の製造方法は、複数の発泡原料液を混合して行う発泡成形により防虫断熱材を製造する方法において、前記複数の発泡原料液はポリオール成分を含むポリオール側発泡原料液とイソシアネート成分を含むイソシアネート側発泡原料液からなり、融点35℃〜150℃の防虫剤を、前記ポリオール側発泡原料液と前記イソシアネート側発泡原料液の少なくとも一液に混入するとともに、前記防虫剤を加熱融解させて防虫剤含有原料液を調製し、その後、前記防虫剤含有原料液を他の発泡原料液と混合して発泡成形を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2の発明に係る防虫断熱材においては、その発泡体中に防虫剤が偏在することなく分散しているので、防虫効果を十分に発揮できるとともに、その防虫効果を長期間に亘って維持することができる。しかも、防虫断熱材が使用される常温では防虫剤が固体となっており、蒸発による無駄な減少が少なく、それによっても良好な防虫効果を長期に亘って維持できる。
【0011】
請求項3の発明によれば、粉体の防虫剤を加熱融解させて防虫剤含有原料液を調製するので、先の従来技術欄に述べたようにトルエン等の溶剤を用いなくても、極めて容易に、防虫剤を前記原料液中に均一に分散させることができ、成形後の発泡体中に防虫剤が偏在し難いのみならず、融解により防虫剤を液状として混合分散させるので発泡不良を生じ難い。しかも得られた防虫断熱材は、前記請求項1及び2の場合と同様の理由により、長期に亘って良好な防虫効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
請求項1及び2の発明に係る防虫断熱材は、家屋等の断熱材として使用されるもので、発泡原料液を用いて発泡成形した発泡体からなる。そして、この防虫断熱材にあっては、前記発泡体中に融点が35℃〜150℃の防虫剤が分散しており、白蟻による食害を防除する等の防虫作用が付与されている。
【0013】
前記発泡原料液は、従来からこの種断熱材に使用されているものであって、ポリオール成分を含むポリオール側発泡原料液(通称A液)とイソシアネート成分を含むイソシアネート側発泡原料液(通称B液)の2液とされるのが一般的である。
【0014】
前記ポリオール成分には、ポリエーテルポリオール,ポリエステルポリオールの双方あるいは何れか一方が使用されるが、主要となるポリオールは、短鎖多官能であって水酸基価が250〜450KOHmg/gとするのが好ましい。なお、このポリオール成分には、触媒,製泡剤,発泡剤,難燃剤,可塑剤等が適宜添加される。
【0015】
前記イソシアネート成分には、トルエンジフェニルジイソシアネート(TDI)プレポリマー,メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI),クルードMDI,ポリメリックMDI,ウレトジオン変性MDI,カルボジイミド変性MDI等が使用される。
【0016】
上記の発泡原料液から得られる発泡体としては、広義のポリウレタン硬質フォームが好ましく、具体的には、ポリウレタンフォーム,ウレタン変成イソシアヌレートフォーム,ウレアフォーム等が挙げられる。
【0017】
前記防虫剤は、常温(5℃〜35℃未満)時において固体で存在し、かつ少なくともポリオールの分解温度(150℃)以下で融解できるものとされる。すなわち、本発明の防虫剤にあっては、その融点が35℃〜150℃とされる。さらに好ましくは、前記発泡原料液の発泡を良好に行うため、発泡する際の反応温度(140℃程度)よりも低い、50℃〜90℃の融点を有する防虫剤を用いるのが良い。具体的に当該防虫剤としては、2−(4−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテル〔融点:37.0℃、慣用名:エトフェンプロックス〕、α−シペルメトリン〔融点:82.5℃〕、ビフェントリン〔融点:61.0℃〕、クロルピリホス〔融点:42.0℃〕、0,0−ジメチル−0−3,5,6,−トリクロロ−2−ピリジルホスホロチオエート〔融点:45.5℃、慣用名:クロルピリホスメチル〕等が挙げられる。
【0018】
この防虫剤は、後述するように、前記発泡原料液を用いる発泡成形に先立って、少なくとも一液に混入される。前記防虫剤の添加量(混入量)は、防虫作用の有効性や攪拌時に用いる攪拌装置への負担や防虫剤混入後における原料液の粘性(該原料液の取り扱い性)等を考慮して定められる。具体的に当該防虫剤の添加量は、ポリオール成分100重量部に対して0.05〜30.0重量部程度とされる。
【0019】
次に、上記防虫断熱材の製造方法の一例について説明する。
まず、前記粉体の防虫剤を前記発泡原料液の少なくとも一液、この例ではポリオール成分側発泡原料液に混入するとともに、該防虫剤を融解させ、これを攪拌することによって、融解防虫剤が均一に分散した防虫剤含有原料液を調製する。なお、前記防虫剤の融解は、予め防虫剤の融点以上に昇温しておいた発泡原料液に防虫剤を混入することにより行っても良いし、あるいは防虫剤の発泡原料液への混入後にその発泡原料液を加熱することにより行っても良い。
【0020】
次いで、前記防虫剤含有原料液を所定温度まで冷却、好ましくは急冷することにより、前記防虫剤を再結晶化させ、防虫剤が微細な結晶状態で分散した発泡原料液とする。なお、前記防虫剤含有原料液の冷却温度は、発泡成形の効率性等を考慮して、後述する防虫剤含有原料液と他の発泡原料液とを混合させる際の混合温度と等しく設定するのが望ましい。
【0021】
その後、前記防虫剤が微細な結晶状態で分散した原料液を他の発泡原料液、この例ではイソシアネート成分側発泡原料液と混合し、公知の手法及び条件に基づいて発泡成形を行えば、上記防虫剤が分散した発泡体からなる防虫断熱材を得ることができる。
【実施例】
【0022】
本発明の実施例の内で特に代表的なものを以下に示す。
実施例1,2
芳香族ポリエステルポリオール(水酸基価:450)100重量部に、防虫剤として粉体のエトフェンプロックス(三井東圧社製)を実施例1として2.5重量部、実施例2として5.0重量部添加し、これをジャケットタイプの温調設備を備えたプロペラ攪拌機に投入し、70℃に昇温して20分間攪拌した。そして、エトフェンプロックスが融解して、ポリオール混合液(防虫剤含有原料液)が透明になるのを確認した後、さらに前記ポリオール混合液に整泡剤(ジメチルポリシロキサン変性体)1.5重量部、触媒(ジメチルシクロヘキシルアミン)1.5重量部、発泡剤として水3重量部を添加し、さらに20分間攪拌した。その後、その混合液を室温まで冷却して前記防虫剤を再結晶化させて、ポリオール側発泡原料液を調製した。
【0023】
他方、イソシアネートとして、10℃に温調したポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製、MR200)からなるイソシアネート側発泡原料液を128重量部、イソシアネートインデクス105となるようにして、低圧注入機により前記ポリオール側発泡原料液と共にダブルコンベア上に吐出し、防虫断熱材を得た。
【0024】
実施例3,4
実施例1または2において、防虫剤としてα−シペルメトリン94.3%(日本サイアナミッド社製)0.5重量部または1.0重量部を芳香族ポリエステルポリオールに添加して、上記と同様に発泡成形を行い防虫断熱材を得た。
【0025】
実施例5,6
実施例1または2において、防虫剤としてビフェントリン89%(FMC CORPRATION , Agricultural
Chemical Group製)0.25重量部または0.5重量部を芳香族ポリエステルポリオールに添加して、上記と同様に発泡成形を行い防虫断熱材を得た。
【0026】
上記実施例1〜6の各防虫断熱材に対して次のように耐蟻性試験を行った。
各防虫断熱材から1×1×2cmの試験体を切り出し、直径8cm,長さ6cmのアクリル樹脂製円筒の底部に硬石こうを厚さ約5mmで固めた飼育容器に前記試験体を1個入れ、該飼育容器に無作為に巣から取り出した職蟻150匹と兵蟻15匹を投入する。この飼育容器を試験体の数だけ複数用意し、これらをあらかじめ底一面に約2cmの厚さに湿潤綿を敷きつめた蓋付き容器内に入れ、該蓋付き容器を28±2℃の暗所に21日間静置して飼育した後、試験体に付着した付着物を取り去り、該試験体の質量を測定し、試験に供する前の質量から試験後の質量を差し引き、質量減少率を算出した。また、同時に、試験終了後に生存していた蟻の数を計測して死虫率を算出した。なお、防虫剤を添加せずに上述の実施例と同じように発泡成形した比較例1、防虫剤として融点25〜30℃、沸点220℃の黄褐色油状液体からなるペルメトリンを用いて発泡成形した比較例2についても、同様にして耐蟻性試験を行った。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
ここで開示された発明に係る防虫断熱材は、その発泡体中に防虫剤が均一に分散しているので、白蟻による食害等に対する防虫作用が高まるとともに、その防虫作用を長期間に亘って維持することができる。さらに、防虫断熱材使用時の常温において、防虫剤は固体化しているため、蒸発等による無駄な減少が少なく、これによっても、良好な防虫効果がより長期に亘って得られる。加えて、当該防虫断熱材は、トルエン等の揮発性物質を用いないので、人体や環境等に対する安全性が向上する。
【0029】
また、ここで開示された防虫断熱材の製造方法の発明によれば、防虫剤含有原料液の調製は融点が35℃〜150℃の防虫剤を加熱融解させて行うので、極めて簡単に防虫剤が均一に分散した防虫剤含有原料液を調製することができ、発泡成形後における発泡体中で防虫剤が偏在するのを容易に防ぐことができる。さらに、防虫剤を融解させて発泡原料液に混合分散するため、その分散不良による発泡不良のおそれがなく、防虫剤添加量の制限を緩和できる利点もある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防虫剤が分散含有された発泡原料液から発泡成形された発泡体からなる防虫断熱材において、
前記発泡体は、加熱融解された融点35℃〜150℃の防虫剤を混入した防虫剤含有原料液と他の発泡原料液と混合して発泡成形されており、
前記発泡体中に前記防虫剤が分散していることを特徴とする防虫断熱材。
【請求項2】
防虫剤が分散含有された発泡原料液から発泡成形された発泡体からなる防虫断熱材において、
前記発泡体は、加熱溶解された融点35℃〜150℃の防虫剤を混入した防虫剤含有原料液の冷却により当該防虫剤を再結晶化させて結晶状態で分散させた防虫剤含有原料液と、他の発泡原料液とを混合して発泡成形されており、
前記防虫剤は、結晶状態で発泡体中に分散していることを特徴とする防虫断熱材。

【請求項3】
複数の発泡原料液を混合して行う発泡成形により防虫断熱材を製造する方法において、
前記複数の発泡原料液はポリオール成分を含むポリオール側発泡原料液とイソシアネート成分を含むイソシアネート側発泡原料液からなり、
融点35℃〜150℃の防虫剤を、前記ポリオール側発泡原料液と前記イソシアネート側発泡原料液の少なくとも一液に混入するとともに、前記防虫剤を加熱融解させて防虫剤含有原料液を調製し、その後、前記防虫剤含有原料液を他の発泡原料液と混合して発泡成形を行うことを特徴とする防虫断熱材の製造方法。


【公開番号】特開2008−88807(P2008−88807A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320690(P2007−320690)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【分割の表示】特願平11−173080の分割
【原出願日】平成11年6月18日(1999.6.18)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【出願人】(390015358)大日本木材防腐株式会社 (10)
【Fターム(参考)】