説明

防虫樹脂組成物およびそれより得られる徐放性防虫樹脂成形体

【課題】即効性、残効性および保存性を兼ね備え、かつ商品性・製造管理性に優れた徐放性防虫樹脂成形体および当該徐放性防虫樹脂成形体を作製するための防虫樹脂組成物を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂中に、非蒸散性防虫成分およびエルカ酸が含有されてなる防虫樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫樹脂組成物およびそれより得られる徐放性防虫樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材樹脂中に飽和溶解量以上の非蒸散性防虫成分(殺虫・防虫性化合物や忌避性化合物などノミ、ダニなどの動物への寄生生物に対して有効な非蒸散性生理活性成分を総称して非蒸散性防虫成分と言う。以下、単に防虫成分と呼ぶこともある)を溶融混練した後、所望の形状に成形し、成形体の表面に過飽和量の防虫成分を徐々にブリードさせてなる徐放性防虫樹脂成形体は、例えば犬、猫などに対するノミやダニ防除用の防虫首輪などとしてよく知られており、これらは密閉した包装袋に収納された状態で市販されていて、使用時には包装袋からこれを取り出して犬や猫などの首に着用して利用されている。
【0003】
このような徐放性防虫樹脂成形体は、その製造上の問題として、基材樹脂に溶融混練された防虫成分のブリードにより成形直後から基材表面がべとつくために、成形から密閉包装に至るまでの時間(リードタイム)が制約されるという製造管理の容易性の問題や、密閉包装されたのちの製品の流通過程において、包装袋内で防虫成分がブリードして開封時に基材表面がべとついてしまうという保存安定性の問題もあるが、最も重要な徐放性防虫樹脂成形体としての機能上の問題として、即効性および残効性を挙げることができる。
【0004】
ここで、即効性とは包装袋を開封し、徐放性防虫樹脂成形体の使用を開始した時から所望の効果が得られるまでの時間が短時間であることを意図し、残効性とは使用開始から所望の効果が持続する時間が長いことを意図するものである。
【0005】
また、「ブリード」とは、成形体中に飽和溶解量以上(過飽和量)の防虫成分を保持させた場合に、過飽和な量の防虫成分(=成形体中に含まれる全防虫成分量−成形体における防虫成分の飽和溶解量)が、成形体の表面へ移行する現象である。
【0006】
このような徐放性樹脂成形体については、例えば、特許文献1にはポリオレフィン系樹脂、殺虫性化合物および脂肪族炭化水素を含有する樹脂組成物と、当該樹脂組成物を成形してなる成形体が開示され、また、特許文献2には、基材樹脂、殺虫剤などの活性化合物および蒸散性可塑剤を含有する樹脂組成物と、当該樹脂組成物を成形してなる成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−279033号公報(2001年10月10日公開)
【特許文献2】特開平9−77908号公報(1997年3月25日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これら特許文献に記載のいずれの技術においても、基材樹脂としてポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂を使用した場合には、基材樹脂に柔軟性が乏しいために、柔軟性が要求される動物用の防虫首輪などの分野には適用し難い。
【0009】
また、これらの技術においては、前記した製造管理上の容易性や、保存安定性についてはある程度満足できても、徐放性防虫樹脂成形体としての機能上の最も重要な問題である、製品の開封後使用開始時から有効な防虫成分量が基材表面にブリードするまでの時間が3日以上の長時間を必要とするなど即効性に著しく欠け、また、ブリードを開始しても長期間経過後においてはブリード量が低下して基材表面での防虫成分量が少なくなり、長期残効性において必ずしも満足できるものではなかった。
【0010】
このため、防虫成分の含有量を増加させることが考えられるが、この場合でも、僅かにブリード量が向上する程度であって、防虫成分含量の増加に見合う即効性は十分なものであるとは言えなかった。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、徐放性防虫樹脂成形体として最も重要な機能である、密閉された包装袋より成形体を取り出して使用を開始した後速やかに防虫成分がブリードを開始するという即効性と、使用開始後長期間にわたって有効量の防虫成分のブリードを持続するという長期残効性に優れるとともに、製造管理上の問題である成形から密閉包装に至るまでの時間(リードタイム)が長く、密閉包装された袋内での保存安定性にも優れるという極めてバランスの取れた性能を有する防虫樹脂組成物および当該防虫樹脂組成物より成形される徐放性防虫樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、基材樹脂として塩化ビニル系樹脂を適用し、かつ該塩化ビニル系樹脂中に非蒸散性防虫成分とともに新規成分であるエルカ酸を含有せしめることにより、製造管理が容易で、保存安定性に優れるとともに、即効性および長期残効性を併せ持つ優れた防虫樹脂組成物を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の防虫樹脂組成物は、上記課題を解決するために、塩化ビニル系樹脂中に、非蒸散性防虫成分およびエルカ酸を含有していることを特徴としている。
【0014】
本発明の防虫樹脂組成物では、上記エルカ酸が樹脂組成物中の含量として1〜5重量%、特に1.2〜3重量%含有されていることを特徴としている。
【0015】
本発明の防虫樹脂組成物では、非蒸散性防虫成分がピレスロイド系化合物であることが好ましく、さらには昆虫成長制御活性化合物と併用されていることを特徴としている。
【0016】
本発明の防虫樹脂組成物は、上記各成分とともに、蒸散性可塑剤がさらに含有されていることを特徴としている。
【0017】
本発明の防虫樹脂組成物は、蒸散性可塑剤とともにブリード促進剤をさらに含有していることを特徴としている。
【0018】
本発明の徐放性防虫樹脂成形体は、上記課題を解決するために、本発明の防虫樹脂組成物を成形してなるものであることを特徴としている。
【0019】
本発明の徐放性防虫樹脂成形体は防虫シートであることが好ましく、特にペット用防虫首輪であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、徐放性防虫樹脂成形体として最も重要な機能である、密閉された包装袋より成形体を取り出して使用を開始した後速やかに防虫成分がブリードを開始するという即効性と、使用開始後長期間にわたって有効量の防虫成分のブリードを持続するという長期残効性に優れるとともに、製造管理上の問題である成形から密閉包装に至るまでの時間(リードタイム)が長く、密閉包装された袋内での保存安定性にも優れるという極めてバランスの取れた性能を有する防虫樹脂組成物および当該防虫樹脂組成物より成形される徐放性防虫樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】比較例1〜3および実施例1〜3の樹脂組成物を用いて作製した成形体の「ブリード試験−1」の結果を示すグラフである。
【図2】比較例4および実施例4の樹脂組成物を用いて作製した首輪の「ブリード試験−2」の結果を示すグラフである。
【図3】比較例4および実施例4の樹脂組成物を用いて作製した首輪の「ブリード試験−2」の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
〔1.防虫樹脂組成物〕
本発明の防虫樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂中に、非蒸散性防虫成分およびエルカ酸を含有してなるものである。
ここで、 エルカ酸は一般式(CH−(CHCH=CH(CH11COOH)で示される直鎖モノエン脂肪酸であって、その融点は33.8℃である。
【0024】
本実施の形態の防虫樹脂組成物中に含有されるエルカ酸の量は特に限定されないが、少なすぎると所望の効果が得られにくく、多すぎても経済的に不利であるところから、実用的には防虫樹脂組成物中の含量としては通常1〜5重量%、特に1.2〜3重量%の範囲が好ましく、保存安定性を考慮すると1.5〜2.8重量%の範囲がとりわけ好ましい。
【0025】
基材樹脂としては、非蒸散性防虫成分の溶解性やエルカ酸との相溶性が良好で、成形体としての柔軟性にも優れ、特に徐放性防虫樹脂成形体として防虫首輪などの目的に好適な塩化ビニル系樹脂が使用される。
【0026】
本実施の形態の樹脂組成物中に含有される非蒸散性防虫成分は、成形体製造時および得られた成形体表面からの蒸散による放出を防止し、基材表面へブリードさせる観点から20℃における蒸気圧が0.01mmHg未満、特に0.001mmHg未満であることが好ましい。
【0027】
かかる非蒸散性防虫成分としては、通常、殺虫・防虫剤として使用される各種生理活性物質のうち、それが非蒸散性であれば特に制限されないが、ピレスロイド系化合物が特に好ましく用いられ、該ピレスロイド系化合物としては、例えばピレトリン、ペルメトリン、アレスリン、フタルスリン、プラレトリン、シフェノトリン、フェノトリン、レスメトリン、フラメトリン、イミプロトリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、シハロトリン、シフルトリン、エトフェンプロックス、トラロメトリン、エスビオスリンおよびテラレトリンなどが挙げられるが、これらの中でも、特にフェノトリンが好ましく使用される。
【0028】
また、非蒸散性防虫成分は単独化合物の使用であってもよいが、他の任意の非蒸散性防虫成分と併用してもよく、特にピリプロキシフェン、ビストリフルロン、メソプレン、ヒドロプレンおよびジフルベンズロンなどの昆虫成長抑制制御剤と併用することは、防虫効果がより一層向上することから好ましい。
【0029】
その他、ピペロニルブトキサイドまたはMGK−264などの防虫成分の効力増強剤など、通常使用される補助成分を使用しても何ら差し支えない。
【0030】
本実施の形態の防虫樹脂組成物中に含有される非蒸散性防虫成分の含有量は特に限定されず、使用する非蒸散性防虫成分の種類、塩化ビニル系樹脂の種類、使用する可塑剤の種類やその量、さらには製品である徐放性防虫樹脂成形体として所望の有効期間などの諸条件によっても変わるが、防虫成分として機能するのは基材表面にブリードする薬剤量であるところから、少なくとも基材樹脂である塩化ビニル系樹脂に対して飽和溶解量以上は含有していることが必要であり、その量が少なすぎるとブリードする有効成分量が少なくなって長期間にわたる防虫効果が劣り、多すぎると基材樹脂中に均一に配合できなかったり、必要以上にブリードして基材表面がべたつくなどの問題が生じることから、一般的には防虫樹脂組成物中の含量として10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%の範囲である。
【0031】
本実施の形態の防虫樹脂組成物は、基本的には上記非蒸散性防虫成分およびエルカ酸を塩化ビニル系樹脂中に含有せしめることにより構成されるが、上記成分以外に蒸散性可塑剤やブリード促進剤を含有していることが好ましく、とりわけ両成分の併用は効果的である。
【0032】
上記蒸散性可塑剤およびブリード促進剤は、前記特許文献などに記載の樹脂組成物中にも配合されていて公知であるが、かかる公知の樹脂組成物における蒸散性可塑剤は、基材樹脂への飽和溶解量以上の防虫成分の配合量を増加させる効果を有するが、成形直後から蒸散性可塑剤が蒸散し、防虫成分が基材表面にブリードし始めるためリードタイムが短く、成形直後に成形体を包装しなければならなくなるなど製造管理上問題がある。
【0033】
しかし、本実施の形態のように、エルカ酸とともにこのような蒸散性可塑剤およびブリード促進剤を使用すると、前記した蒸散性可塑剤およびブリード促進剤が持つそれぞれの利点をそのまま維持しつつ、それぞれの欠点が改善されて、即効性に優れ、製造管理上の問題もなくなるとともに、保存安定性や長期残効性に優れた防虫樹脂組成物およびその成形体を得ることができる。
【0034】
このような蒸散性可塑剤は、前記したように公知であり、常温で液体状のエステル類(例えば、フタル酸エステル類、直鎖二塩基酸エステル類またはリン酸エステル類など)、アルコール類、ケトン類、動植物精油などが挙げられるが、本発明においては液体状のエステル類が好ましく、特にフタル酸エステル類、直鎖二塩基酸エステル類、リン酸エステル類、とりわけリン酸トリエチル、リン酸トリブチルなどのリン酸エステル類が好ましく用いられる。
【0035】
また、ブリード促進剤としては、防虫樹脂組成物中での拡散性が高いほど、防虫樹脂組成物への溶解性が低いほど、また蒸散性可塑剤への溶解性が高いほど好ましい。特にカルボン酸がブリード促進剤として好ましく、その具体例としてラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの脂肪酸、安息香酸などの芳香族カルボン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸などのジカルボン酸、クエン酸などのトリカルボン酸などが挙げられるが、これらの中でも脂肪酸、とりわけイソステアリン酸が好ましく用いられる。
【0036】
蒸散性可塑剤を用いる場合、その使用量は防虫樹脂組成物中の含量として通常5〜20重量%である。
【0037】
ブリード促進剤を用いる場合、その使用量は防虫樹脂組成物中の含量として通常1〜10重量%である。
【0038】
本実施の形態において、蒸散性可塑剤以外の可塑剤、安定剤など塩化ビニル系樹脂に一般的に配合される配合剤の使用は特に制限されず、特に可塑剤は目的とする徐放性防虫樹脂成形体の用途に応じた所望の硬さ、柔軟性を付与したり、加工性の向上のために適宜使用される。
【0039】
このような可塑剤としては20℃における蒸気圧が0.0001mmHg未満であり、塩化ビニル系樹脂に対する相溶性が低い可塑剤が好ましく、例えばアジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アゼライン酸 ジ2−エチルヘキシル、セバシン酸 2−エチルヘキシルまたは脂肪族系ポリエステルなどが挙げられるが、中でもアジピン酸ジイソデシルを用いることが好ましい。
【0040】
本実施の形態の防虫樹脂組成物中に含有される上記可塑剤の量は特に限定されず、適宜、所望の量だけ含有させることができる。例えば、上記可塑剤は防虫樹脂組成物中の含量として、通常5〜30%の範囲である。
【0041】
また、安定剤は、防虫樹脂組成物およびその成形体中の含有成分や基材である塩化ビニル系樹脂を安定に維持したり、成形体の形状を安定に維持するために使用され、一般的に使用されている従来より公知の安定剤が使用されて特に限定されないが、具体的にはエポキシ化大豆油、バリウム/亜鉛系液状安定剤、ステアリン酸バリウムなどを挙げることができる。
【0042】
安定剤の使用量は特に限定されないが、一般的には防虫樹脂組成物中の含量として0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。
【0043】
その他、当該防虫樹脂組成物中には染料、顔料などの着色材のほか、通常塩化ビニル系樹脂に配合される各種の配合剤を任意に含有していても何ら差し支えない。
【0044】
本実施の形態の防虫樹脂組成物は、上述した塩化ビニル系樹脂に各種成分が所望の含量となるように混合することによって製造される。例えば、バンバリーミキサー、スーパーミキサーまたは押出機などの通常の混合機を用い、通常の方法で配合成分を溶融混練することによって容易に製造することができる。
【0045】
本発明の防虫樹脂組成物は、例えば、以下に記載する1)〜4)の効果を奏する。
【0046】
1)本防虫樹脂組成物を所望の形状に成形した後密封包装するまでの間、常温状態で徐放性防虫樹脂成形体からの非蒸散性防虫成分の放出、すなわちブリードが抑制されるため、製造工程での成形体の保存が可能となって、製造後にその密封包装を早急に行う必要が無く、製造工程の管理を容易なものにすることができる。
【0047】
2)密封包装された徐放性防虫樹脂成形体を開封するまでは、徐放性防虫樹脂成形体からの非蒸散性防虫成分のブリードが抑制され、その結果長期にわたって徐放性防虫樹脂成形体の保存性を向上させることができる。
【0048】
3)徐放性防虫樹脂成形体を、例えば犬や猫の防虫首輪として使用を開始した場合には、使用開始後短時間で有効量の防虫成分がその表面にブリードし、目的の効果に関して即効性を示す徐放性防虫樹脂成形体を実現することができる。
【0049】
4)徐放性防虫樹脂成形体の使用開始後は、長期間にわたって、有効値以上の防虫成分の放出を維持することができ、目的の効果に関して長期残効性を示す徐放性防虫樹脂成形体を実現することができる。
【0050】
〔2.徐放性防虫樹脂成形体〕
本実施の形態の徐放性防虫樹脂成形体は、前記した本発明の防虫樹脂組成物を、一般的な樹脂の成形加工法、例えば射出成形、押出成形、プレス成形などの通常の方法により、使用目的に応じた所望の形状、大きさに容易に成形することができる。
【0051】
本実施の形態の徐放性防虫樹脂成形体は、防虫シート、防虫網戸などとして利用することもできるが、低温では非蒸散性防虫成分のブリードが抑制される傾向にあり、常温よりも少し高い温度雰囲気にある場合に防虫成分が長期間にわたって安定してブリードされるので、体表温度が常温を超える動物に対する利用が最も有効であり、かかる観点から、動物の体表面に接して使用される家畜用(例えば、牛用)イヤータッグや犬、猫などの防虫首輪として、なかでも動物体温の影響を受けやすい防虫首輪として極めて優れた性能を発揮する。
【0052】
また、本実施の形態の徐放性防虫樹脂成形体の形状はフィルム状、シート状、リング状、繊維状、ネット状など特に限定されず、使用目的に応じてその形状、大きさ、厚さなどが適宜選択されるが、防虫首輪として使用する場合には帯状もしくはバンド状の形状とされ、イヤータッグとして用いられる場合にはプレート状の形状とされるのが一般的である。
【0053】
もちろん、使用目的によっては棒状、球状または錐状などの立体形状に成形されていてもよい。
【実施例】
【0054】
<1.防虫樹脂組成物の製造>
<1−1.防虫樹脂組成物の製造−1>
以下の(A)〜(J)の各成分のうち、液状成分である(A)〜(H)の各成分を常温で混合、撹拌し、均一な混合液を作製した。次に約170℃に保った混練機に(I)および(J)を投入し、これらを混練しながら上記混合液を徐々に添加していき、その後3分間にわたりさらに混練して、表1に示す組成からなる比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物を得た。
【0055】
尚、比較例1は市販されている防虫樹脂成形体の成分および配合割合とほぼ同一となるようにその組成を調整したものであり(市販品類似)、比較例2および3はそれに対して防虫成分の含有量が多くなるように調整したものである。
【0056】
(A)フェノトリン(住友化学株式会社製、商品名:スミスリン、20℃での蒸気圧:1.2×10−6mmHg)
(B)ピリプロキシフェン(住友化学株式会社製、商品名:スミラブ、20℃での蒸気圧:2.2×10−6mmHg)
(C)リン酸トリエチル(20℃での蒸気圧:0.3mmHg)
(D)アジピン酸ジイソデシル
(E)イソステアリン酸
(F)エルカ酸(日本精化株式会社製)
(G)エポキシ化大豆油
(H)バリウム/亜鉛系液状安定剤
(I)ステアリン酸バリウム
(J)塩化ビニル樹脂(新第一塩ビ株式会社製、商品名:ZEST 1300Z)
【0057】
【表1】

【0058】
<1−2.防虫樹脂組成物の製造−2>
前記比較例1および実施例1で示すと同じ成分を用い、同じ組成となるように、以下の方法で比較例4および実施例4の防虫樹脂組成物を製造した。
【0059】
まず液状成分である(A)〜(H)の各成分を常温で混合、撹拌し、均一な混合液を作製した。次にスーパーミキサーに(I)および(J)を投入し、撹拌しながら上記混合液を徐々に添加していくとともに温度を徐々に約130℃まで上昇させた。その後冷却してスーパーミキサーから取り出し、比較例1の組成と同じ防虫樹脂組成物(比較例4)および実施例1の組成と同じ防虫樹脂組成物(実施例4)を得た。
【0060】
<2.徐放性防虫樹脂成形体の製造>
<2−1.徐放性防虫樹脂成形体の製造−1>
比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物の各々を180℃に加熱したプレス機を用いて100kg/cmの圧力で1分間プレスし、2分間冷却して縦15cm×横15cm×厚み0.3cmのシートを作製した。このシートを幅1cmの帯状に裁断して幅1cm×長さ15cm×厚み0.3cmの各々の徐放性防虫樹脂成形体を得た。なお、当該徐放性防虫樹脂成形体の表面積は、39.6cmであった。
【0061】
得られたそれぞれの徐放性防虫樹脂成形体は、後述する<3.リードタイム試験>、<4.保存試験>および<5.ブリード試験−1>に用いた。
【0062】
<2−2.徐放性防虫樹脂成形体の製造−2>
比較例4および実施例4の防虫樹脂組成物の各々を140〜150℃に加熱した押出成形機に投入し、幅1cm×厚み0.3cmの帯状の成形体を押出成形し、冷却水で冷却して所定の長さに切断し、幅1cm×長さ35cm×厚み0.3cmの各々の徐放性防虫樹脂成形体(首輪)を得た。なお、当該首輪の表面積は、91.6cmであった。
【0063】
得られたそれぞれの首輪は、後述する<6.ブリード試験−2>に用いた。
【0064】
<3.リードタイム試験>
比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物から製造した各徐放性防虫樹脂成形体を、22℃〜25℃(室温に対応)の開放状態の室内に静置して、肉眼にて徐放性防虫樹脂成形体の表面にベトツキが観察されるまでの時間(リードタイム)を測定した。表面にベトツキが観察されれば「ブリード」が始まっていること、換言すれば、防虫成分が徐放性防虫樹脂成形体から放出されていることを示している。当該「リードタイム試験」によって、成形体製造後から密閉包装までの許容時間が判断され、製造管理上の容易性を評価することができる。
【0065】
<4.保存試験>
比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物から製造した各徐放性防虫樹脂成形体を、薬剤バリア性を有する透明樹脂袋(カイト化学工業株式会社製のエバール袋)に収納し、密封した。当該透明樹脂袋を60℃の恒温器内にて1ヶ月間保存した後、肉眼にて徐放性防虫樹脂成形体の表面にベトツキがあるか否かを肉眼にて観察した。当該「保存試験」によって、密封した状態における徐放性防虫樹脂成形体の保存性を評価することができる。
【0066】
<5.ブリード試験−1>
比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物から製造した各々の徐放性防虫樹脂成形体を、開放条件下で35℃(犬、猫等の各種動物の体温に対応)の恒温器内に16日間にわたり放置し、経時的に各成形体の表面を拭き取って、フェノトリンのブリード量を測定した。具体的には、徐放性防虫樹脂成形体の表面にブリードした成分を、紙(日本製紙クレシア株式会社製、商品名:キムワイプ)を用いて拭き取り、アセトンで抽出後、フェノトリンの含量を液体クロマトグラフィーで測定した。当該ブリード試験−1では、徐放性防虫樹脂成形体から放出される防虫成分の量を実使用時の擬似環境下で測定することにより、実使用時における徐放性防虫樹脂成形体の即効性を評価することができる。
【0067】
<6.ブリード試験−2>
比較例4および実施例4の防虫樹脂組成物から製造したそれぞれの徐放性防虫樹脂成形体(首輪)を、開放条件下で35℃(犬、猫等の各種動物の体温に対応)の恒温器内に4ヶ月間にわたり放置し、経時的に徐放性防虫樹脂成形体(首輪)の表面を拭き取って、フェノトリンおよびピリプロキシフェンのブリード量を測定した。具体的には、首輪の表面にブリードした成分を、紙(日本製紙クレシア株式会社製、商品名:キムワイプ)を用いて拭き取り、アセトンで抽出後、フェノトリンおよびピリプロキシフェンの含量を液体クロマトグラフィーで測定した。当該「ブリード試験−2」では、徐放性防虫樹脂成形体(首輪)から放出される防虫成分の量を実使用時の擬似環境下で測定することにより、実使用時における徐放性防虫樹脂成形体(首輪)の即効性および残効性を評価することができる。
【0068】
<7.実験結果>
<リードタイム試験結果>
表2に、比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物を用いて製造した徐放性防虫樹脂成形体の「リードタイム試験」の結果を示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2は、比較例1〜3および実施例1〜3ではいずれも製造管理上許容される目途とされる40時間よりリードタイムが長く、本発明の徐放性防虫樹脂成形体はその製造上従来品と同様に問題ないことを示している。
【0071】
<保存試験結果>
比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物を用いて製造した徐放性防虫樹脂成形体の「保存試験」の結果、比較例1〜3および実施例1〜2ではベトツキが観察されず、実施例3ではベトツキは観察されるもののその程度は軽微であって、実質的な差異は見られず、60℃で1ヶ月間保存という超苛酷条件下での保存試験であることを考えると、実施例1〜3の防虫樹脂組成物を用いて製造した徐放性防虫樹脂成形体は、従来品と同様にいずれも密封状態での保存安定性に優れていることを示している。
【0072】
<ブリード試験-1結果>
表3に、比較例1〜3および実施例1〜3の防虫樹脂組成物を用いて製造した徐放性防虫樹脂成形体の「ブリード試験−1」の結果を示す。なお、図1は、表3の数値データをグラフ化した図である。
【0073】
【表3】

【0074】
表3は、比較例1〜3では十分量のフェノトリンがブリードするのに少なくとも3日を要して即効性に劣るのに対し、実施例1〜3では1日後においてすでに十分量のフェノトリンがブリードして即効性に優れるとともに、その後の日数経過後においてもブリード量の減少率が小さく、残効性にも優れていることを示している。
【0075】
このことは市販品と類似組成の比較例1における防虫成分含量を実施例1〜3と同じになるように増量した比較例3との対比においても明確に示されている。
【0076】
<ブリード試験-2結果>
表4に、比較例4および実施例4の防虫樹脂組成物を用いて製造した徐放性防虫樹脂成形体(首輪)の「ブリード試験−2」の結果を示す。なお、図2および図3は、表4の数値データをグラフ化した図である。
【0077】
【表4】

【0078】
表4は、比較例4の防虫樹脂組成物を用いて製造した徐放性防虫樹脂成形体(首輪)は、1日後においても防虫成分のブリード量が少なく、長期間経過後においてはブリード量が著しく低くなって即効性および残効性に劣っているが、実施例4の徐放性防虫樹脂成形体(首輪)は、1日目から防虫成分が多量にブリードして即効性に優れるとともに、約4ケ月経過後においても比較例4の防虫樹脂成形体に比べてブリード量が多く、即効性および残効性の両方に優れていることを示している。
【0079】
<評価結果>
以上の結果より、本発明例である実施例1〜4の防虫樹脂組成物より製造される徐放性防虫樹脂成形体は、即効性および長期残効性に優れるとともに、製造管理の容易性の目安とされるリードタイムも長く、保存安定性にも優れるという極めてバランスのとれた性能を具備しているのに対し、比較例1〜4の防虫樹脂組成物より製造される防虫樹脂成形体は、製造管理の容易性や保存安定性は高いが、徐放性防虫樹脂成形体としての実使用時での重要な機能である即効性および長期残効性に劣っていることがわかる。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、徐放性防虫樹脂成形体として、犬、猫などのペット用防虫首輪、家畜(例えば牛や羊など)用イヤータッグ、防虫網戸、防虫シートなどとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂中に、非蒸散性防虫成分およびエルカ酸が含有されてなることを特徴とする防虫樹脂組成物。
【請求項2】
上記エルカ酸が、防虫樹脂組成物100重量部中に1〜5重量部含有されていることを特徴とする請求項1に記載の防虫樹脂組成物。
【請求項3】
上記エルカ酸が、防虫樹脂組成物100重量部中に1.2〜3重量部含有されていることを特徴とする請求項1に記載の防虫樹脂組成物。
【請求項4】
非蒸散性防虫成分がピレスロイド化合物である請求項1〜3の何れか1項に記載の防虫樹脂組成物。
【請求項5】
非蒸散性防虫成分としてさらに昆虫成長制御活性化合物を含有してなる請求項4に記載の防虫樹脂組成物。
【請求項6】
蒸散性可塑剤をさらに含有してなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の防虫樹脂組成物。
【請求項7】
蒸散性可塑剤とともにブリード促進剤をさらに含有してなる請求項6に記載の防虫樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の防虫樹脂組成物を成形してなる徐放性防虫樹脂成形体。
【請求項9】
徐放性防虫樹脂成形体が防虫シートである請求項8に記載の徐放性防虫樹脂成形体。
【請求項10】
徐放性防虫樹脂成形体がペット用防虫首輪である請求項8に記載の徐放性防虫樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132375(P2011−132375A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293255(P2009−293255)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(390000527)住化ライフテク株式会社 (54)
【Fターム(参考)】