説明

防蝉光伝送ケーブル

【課題】昆虫の産卵管刺入を防止し、引き込み作業において、光ファイバ心線に負荷が掛かるのを抑えて伝送特性の低下を防止したドロップケーブルを提供する。
【解決手段】中心に光ファイバ心線11を、その両側に間隔をあけてテンションメンバ12を配し、両者の上に長軸/短軸の比を1〜2とする保護被覆15を施し、保護被覆15と光ファイバ心線11との間に微小ギャップGを設け、保護被覆15の表面長さ方向に、谷底が円弧状で、谷面と外周面とが交わる部分に微小アールRを設けたV字状凹溝を形成し、上記保護被覆の外側に外被を施した支持線を配したものであり、上記V字状凹溝の深さを、保護被覆の短軸の1/12〜1/7とし、円弧の半径を、保護被覆の短軸の1/18〜1/8としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は架空光配線ケーブルからクロージャを経て利用者宅に光ケーブルを引き込む光ドロップケーブル、特に昆虫の産卵管刺入による被害を防止した光ドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の中には、樹皮内に直接産卵管を刺入して卵を産み付ける習性をもつもの、樹皮に咬み疵を付け、この疵を経て樹皮内に卵を産み付ける習性をもつものなどがおり、こうした習性をもつ昆虫、とりわけ強力な産卵管を持つクマゼミが、光ドロップケーブルの外被に卵を産み付け、そのため光ドロップケーブル内の光ファイバ心線を損傷させ、あるいは断線させる事故が起きている。
【0003】
上記事故を観察したところ、断面が扁平または小判形の保護被覆を剥ぎ取り易くするために、この保護被覆の表面長手方向にV字状凹溝を形成しており、このV字状凹溝から産卵管が刺入され、その先端が光ファイバ心線に到達し損傷あるいは断線することが分かってきた。
【0004】
こうした事故の防止策を講じたものとして次の特許文献を挙げることができる。
【特許文献1】特開2002−090593号公報(要約および選択図面)
【特許文献2】特開2002−328276号公報(要約および選択図面)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献に係る発明は、いずれも上記V字状凹溝を光ファイバ心線の直上から左右にずらせることによって、産卵管の先端が光ファイバ心線に到達しないようにしたもの(図2,3参照)であるが、実証試験の結果、十分な効果が得られないことが分かった。
【0006】
また、上記特許文献に記載のものは、保護被覆(外被)に用いられている素材が塩化ビニルあるいは低密度ポリエチレンであるため、柔らかく、かつ、断面が扁平または小判形で深いV字状凹溝を形成しているので昆虫(蝉)が止まり易く、産卵管が刺入され易い状態になっている。
【0007】
さらに、上記素材では機械的強度は低く、摩擦係数が大きいため、敷設(引き込み)作業時の滑りが悪く、光ファイバ心線に負荷が掛かり伝送特性の低下を招く恐れもある。
【0008】
また本出願人は、図4に示すように保護被覆を断面がやや縦長の6角形を二個並列し、並列したときにできる谷部分の約1/2を埋めて谷底を平らにし、光ファイバ心線とテンションメンバとを結ぶ線上で、かつ、上記保護被覆の外側に支持線を配置して保護被覆と共にブリッジを介して外被を形成したドロップケーブルを試作した。
【0009】
この試作品は、V字状凹溝の谷底を平らにして産卵管の刺入をし難くしたものであるが、この試作品も実証試験の結果、充分な効果が得られないことが分かった。
【0010】
上記に鑑みこの発明は、第一に昆虫、特にクマゼミが止まり難く、かつ、産卵管を刺入し難くすること、第二に光ドロップケーブルを、利用者宅に引き込む際、光ファイバ心線に掛かる外圧を出来るだけ小さくして伝送特性の低下を防止した光ドロップケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためにこの発明は、中心に光ファイバ心線を、その両側に間隔をあけてテンションメンバを配置し、両者の上に断面円形または楕円形の保護被覆を施してなる光ファイバケーブルにおいて、上記保護被覆の長軸/短軸の比を1〜2とし、この保護被覆の表面長さ方向にV字状凹溝を形成したもので、上記保護被覆と光ファイバ心線との間に微小ギャップを設け、上記光ファイバ心線とテンションメンバとを結ぶ線の延長線上で、かつ、上記保護被覆の外側に支持線を配置し、この支持線の上に外被を、ブリッジを介して上記保護被覆とともに施してなり、上記V字状凹溝を、上記光ファイバ心線とテンションメンバとを結ぶ線の中点で、直交する線上の保護被覆表面に、谷底が円弧状で、谷面と外周面とが交わる部分に微小アールを形成したV字状凹溝とし、上記V字状凹溝の深さを、保護被覆の短軸の1/12〜1/7、円弧の半径を、保護被覆の短軸の1/18〜1/8とし、その素材を硬度は90(HDA)以上、塩化ビニルに対する摩擦係数が0.2以下の低摩擦・難燃性ポリウレタン組成物としたものである。
【発明の効果】
【0012】
上記の如く構成するこの発明は、防蝉光伝送ケーブル本体の外形を断面円形または楕円形とし、V字状凹溝の谷底形状と深さを特定すること、およびV字状凹溝の谷面と外周面とが交わる部分に微小アールを設けることにより昆虫(蝉)が止り難く、かつ、産卵管を刺し難くし、機械的強度を大きくすることができる。
【0013】
また、保護被覆の素材を摩擦係数の低いものを選択することにより、引き込み作業が容易になり、かつ、引き込み作業において光ファイバ心線に負荷が掛かるのを抑え伝送特性の低下を防止し、光ファイバ心線と保護被覆との間にギャップを設けることにより、保護被覆に負荷が掛かっても光ファイバ心線に負荷が掛からず、かつ、光ファイバ心線が保護被覆内で動くので、産卵管の先端は光ファイバ心線から外れてしまうこととなる。
【0014】
上記課題解決のための手段において、保護被覆の長軸/短軸の比を1〜2としたのは、1以下では長軸と短軸の関係が逆転して、外被の剥ぎ取り作業に支障をきたし、2以上では長楕円になって、配線、とりわけ長軸方向の折り曲げが困難になるからである。
【0015】
また、V字状凹溝の深さを保護被覆の短軸の1/12〜1/7としたのは、1/12以下(溝が浅い)では配線工事での保護被覆の引き裂きが難しく、1/7以上では蝉の産卵管が刺さり易くなるからである。さらに、V字状凹溝の谷底の半径(円弧の)を保護被覆の短軸の1/18〜1/8とするのは、1/18以下では蝉の産卵管の刺入が集中し易くなって光ファイバ心線に産卵管が届く危険性があるからで、1/8以上では保護被覆の引き裂き効果が低下するからである。
【0016】
保護被覆を、硬度90(HDA)以上、塩化ビニルに対する摩擦係数を0.2以下の低摩擦・難燃性ポリウレタン組成物で形成するのは、配線工事での摩擦抵抗で光ファイバ心線への張力付加による伝送特性の低下を防止しケーブルを媒体とする延焼を防止することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次にこの発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。この発明に係るドロップケーブル10は、中心に光ファイバ心線11と、その両側に間隔をあけてテンションメンバ12とを配置し、両者の上に断面円形、または楕円形の保護被覆15を施し、上記光ファイバ心線11と上記テンションメンバ12とを結ぶ線の中点で、直交する線上の保護被覆15の表面長さ方向に、谷底が円弧状で、谷面と保護被覆の外周面とが交わる部分に微小アールRを形成したV字状凹溝14を設け、上記光ファイバ心線11と保護被覆15との間に微小ギャップGを設けたものである。
【0018】
また、別の実施の形態として、光ファイバ心線(光ファイバテープ心線を含む)11と、その両側に間隔をあけてテンションメンバ12とを配置し、両者の上に断面円形、または楕円形の保護被覆15を施し、上記光ファイバ心線11と上記テンションメンバ12とを結ぶ線の延長線上の、上記保護被覆15の外側に支持線13(亜鉛メッキ鋼線)を配置し、この支持線13の上に外被16を、ブリッジ17を介して上記保護被覆15と一体に施してなり、上記光ファイバ心線11とテンションメンバ12とを結ぶ線の中点で、直交する線上の保護被覆15の表面長さ方向に、谷底が円弧状で、谷面と保護被覆の外周面とが交わる部分に微小アールRを有するV字状凹溝14を設け、上記光ファイバ心線11と保護被覆15との間に微小ギャップGを設けたものである。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は実施例1で、11は外径0.25mmの単心光ファイバ心線、12は0.45mmφのアラミド繊維強化プラスチック紐のテンションメンバで、単心光ファイバ心線11とテンションメンバ12の上に、低摩擦・難燃性ポリウレタン組成物により外径2.0mmφの保護被覆15を形成している。
【0020】
上記保護被覆15の成形では、光ファイバ心線11を支持・通過させるニップルの先端をダイスの端面より若干突き出し、いわゆるパイプ押し出し法を採用し、光ファイバ心線11と保護被覆15との間に0.2〜0.5mmの微小ギャップGを形成し、保護被覆15の表面長さ方向に谷底が円弧状で、谷面と外周面が交わる部分に微小アールRを形成したV字状凹溝14を設ける。
【0021】
ここで光ファイバ心線11と保護被覆15間の微小ギャップGを0.2〜0.5mmとするのは0.2mm未満では産卵管の刺入回避効果が得られず、0.5mmを超えると上記V字状凹溝の谷底までの肉厚が薄くなることと、保護被覆15が座屈する恐れがあるからである。
【0022】
上記微小ギャップGは僅かのように思われるが、ギャップがない場合は産卵管が保護被覆に周囲から抱きかかえられたような状態、いわば産卵管の先端が補強され曲がらない状態で光ファイバ心線に到達するが、ギャップがあると光ファイバ心線はギャップ内で自由に動き、産卵管の先端が光ファイバ心線から外れ直接アタックできなくなるのではないかと考えられる。
【0023】
また、V字状凹溝14の谷底円弧の半径=0.2mm、傾斜角θ=60度、深さ=0.3mmとし、保護被覆には公知のハロゲン系、ノンハロゲン系、リン系難燃剤を適量配合した低摩擦・難燃性ポリウレタン組成物を採用し、その硬度は、90(HDA)以上、塩化ビニルに対する摩擦係数は0.2以下である。
【実施例2】
【0024】
図1(b)は実施例2で、11は外径0.25mmの光ファイバ心線を2心平行配置した2心光ファイバ心線、12は上記光ファイバ心線の両側に間隔をあけて配置した0.45mmφのアラミド繊維強化プラスチック紐のテンションメンバ、13は1.2mmφの亜鉛メッキ鋼線(支持線)で、これらの上に低摩擦・難燃ポリウレタン組成物により外径3.0mmφの保護被覆15とブリッジ17を介して外径2.0mmφの外被16を設けている。
【0025】
この実施例では支持線と外被を設けた他は、基本的に実施例1と同様で相違するところはV字状凹溝の傾斜角αが30度になっているだけであるから説明を省略する。
【実施例3】
【0026】
図1(c)は実施例3で、11は外径0.25mmの光ファイバ心線を2心平行配置した2心光ファイバ心線、12は上記光ファイバ心線の両側に間隔をあけて配置した0.45mmφのアラミド繊維強化プラスチック紐のテンションメンバ、13は1.2mmφの亜鉛メッキ鋼線(支持線)で、これらの上に低摩擦・難燃性ポリウレタン組成物により短軸2.4mm×長軸2.7mmの楕円形保護被覆15と、ブリッジ17を介して外径2.4mmφの外被を設けている。
【0027】
この実施例は実施例2との対比で、保護被覆が楕円形になり、V字状凹溝の傾斜角θが60度になっている点が異なるだけで、その他は基本的に同様であるから説明を省略する。
【実施例4】
【0028】
図1(d)は実施例4で、11は外径0.25mmの光ファイバ心線を4心平行配置した4心光ファイバテープ心線、12は上記光ファイバテープ心線の両側に間隔をあけて配置した0.45mmφのアラミド繊維強化プラスチック紐のテンションメンバ、13は1.2mmφの亜鉛メッキ鋼線(支持線)で、これらの上に低摩擦・難燃性ポリウレタン組成物により短軸2.0mm×長軸4.0mmの楕円形保護被覆15と、ブリッジ17を介して外径2.0mmφの外被16を設けている。
【0029】
上記保護被覆15の成形は、パイプ押し出し法を採用し、光ファイバテープ心線11と保護被覆15との間に、短軸側0.11mm、長軸側0.35mmの微小ギャップGを形成し、保護被覆15の表面長さ方向に谷底が円弧状で、谷面と外周面が交わる部分に微小アールRを形成したV字状凹溝14を設ける。ここで上記微小ギャップGは、短軸側、長軸側とも0.5mmまで広げることができるが、それ以上は、実施例1と同じ理由で広げることは好ましくない。なお、上記以外は、実施例1、実施例2と基本的に同様であるから説明を省略する。
【0030】
【表1】

フィールド試験場所
A:株式会社きんでん殿
1:京都支店管内、2:和歌山支店管内、3:奈良支店管内、4:神戸支店管内、
5:姫路支店管内、6:中央区支店管内、7:社員宅:滋賀県
B:タツタ電線株式会社大阪工場
C: 同 福知山工場
樹種 A:樫、 B:欅、 C:椚、 D:柿、 E:桜、 F:メタセコイヤ、
G:プラタナス、 H:椋、 I:合歓
【実証試験】
【0031】
次に本発明の防蝉効果を確認するため、実施例1、実施例2、実施例3および図4に示す従来例の各サンプルを表1に示す試験場の各種樹木の幹表面に這わせて敷設し、2004年7月31日から2ヶ月経過後の産卵管の刺入状況を観察したところ、3カ所の試験場所、3樹種で産卵管の刺入疵を確認したが、刺入疵があったのはいずれも従来例のサンプルで、本発明の各実施例のサンプルでは刺入疵は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したようにドロップケーブル本体の外形を円形または楕円形とし、保護被覆表面に形成したV字状凹溝の谷底の形状と、深さを特定することにより昆虫が止り難くなり、産卵管の刺入も難しくなり、産卵管が刺入されたとしても光ファイバ心線と保護被覆との間にギャップがあることにより、光ファイバ心線が損傷あるいは断線に至る可能性が小さくなった。
【0033】
また、支持線付きのものにあっては着雪が成長せず、機械的強度が大きいものとなり、保護被覆の素材を摩擦係数の低いものを選択することにより引き込み・敷設作業において光ファイバ心線に負荷が掛かるのを抑え伝送特性の低下を防止し、昆虫の産卵管の刺入を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るドロップケーブルの断面図で(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は実施例3、(d)は実施例4を示す。
【図2】従来技術に係るドロップケーブルの断面図(その1)
【図3】同(その2)
【図4】同(その3)
【符号の説明】
【0035】
10 ドロップケーブル
11 光ファイバ(テープ)心線
12 テンションメンバ
13 亜鉛メッキ鋼線(支持線)
14 V字状凹溝
15 保護被覆
16 外被
17 ブリッジ
G ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に光ファイバ心線を、その両側に間隔をあけてテンションメンバを配置し、両者の上に断面円形または楕円形の保護被覆を施してなる光ファイバケーブルにおいて、前記保護被覆の長軸/短軸の比を1〜2とし、この保護被覆の表面長さ方向にV字状凹溝を形成したことを特徴とする防蝉光伝送ケーブル。
【請求項2】
上記保護被覆と光ファイバ心線との間に微小ギャップを設けたことを特徴とする請求項1に記載の防蝉光伝送ケーブル。
【請求項3】
上記光ファイバ心線とテンションメンバとを結ぶ線の延長線上で、かつ、上記保護被覆の外側に支持線を配置し、この支持線の上に外被を、ブリッジを介して上記保護被覆とともに施してなることを特徴とする請求項1または2に記載の防蝉光伝送ケーブル。
【請求項4】
上記光ファイバ心線とテンションメンバとを結ぶ線の中点で、直交する線上の保護被覆表面に、谷底が円弧状で、谷面と外周面とが交わる部分に微小アールを形成したV字状凹溝を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防蝉光伝送ケーブル。
【請求項5】
上記V字状凹溝の深さを、保護被覆の短軸の1/12〜1/7、円弧の半径を、保護被覆の短軸の1/18〜1/8としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防蝉光伝送ケーブル。
【請求項6】
上記保護被覆を、硬度は90(HDA)以上、塩化ビニルに対する摩擦係数が0.2以下の低摩擦・難燃性ポリウレタン組成物で形成したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の防蝉光伝送ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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