説明

防錆油組成物

【課題】防錆性、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性、及び貯蔵安定性の全てを満足する防錆油組成物を提供する。
【解決手段】基油と次の成分(A)及び(B)を含有する防錆油組成物を用いる。
(A)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステル、および、ラノリン脂肪酸の金属塩から選ばれる1種又は2種以上。
(B)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数6〜44の脂肪族二価カルボン酸の1種又は2種以上。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の錆を防止する防錆油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板、鋼線、軸受、鋼球、ガイドレールなどの金属製部材の分野では、部材のさびの発生を防止するために防錆剤が使用されている。防錆剤は一般に、炭化水素溶剤、鉱油、合成油、水等の溶剤に酸化パラフィン、ワックス、ペトロラタム等の造膜剤と、防錆添加剤を配合することにより作られ、金属材料の表面を被覆することにより防錆性を発現している。このような防錆剤では、防錆添加剤として、例えばラノリン脂肪酸の金属塩を用いたもの(特許文献1)やラノリン脂肪酸と多価アルコールの部分エステルを用いたもの(特許文献2)などが知られている。
【特許文献1】特公昭52−14215号公報
【特許文献2】特開2002−302690号公報
【0003】
しかしながら、上記の防錆剤であっても、防錆剤として十分満足するものではなかった。即ち、従来使用されているラノリン脂肪酸の金属塩やラノリン脂肪酸と多価アルコールの部分エステルは、防錆性が良好なものは基油に対する溶解性、脱脂性及び水分離性が不十分であり、防錆性、並びに、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性及び貯蔵安定性の全てを満足するものではなかった。このような状況で、防錆性、並びに、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性及び貯蔵安定性の全てを満足する防錆油組成物が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明が解決しようとしている課題は、防錆性、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性及び貯蔵安定性の全てを満足する防錆油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、防錆性、並びに、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性、及び貯蔵安定性の全てを満足する防錆油組成物を提供するために鋭意検討を行ったところ、次に示す成分(A)及び(B)を含有する防錆油組成物が防錆性、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性、及び貯蔵安定性の全てを満足する組成物であることを見出し、本発明を完成した。
(1)基油と次の成分(A)及び(B)を含有する防錆油組成物。
(A)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステル、および、ラノリン脂肪酸の金属塩から選ばれる1種又は2種以上
(B)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数6〜44の脂肪族二価カルボン酸の1種又は2種以上
(2)成分(A)が、成分(A−1)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステルの1種又は2種以上である(1)に記載の防錆油組成物。
(3)成分(A)の一価アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールおよびイソブタノールから選ばれる1種又は2種以上である(1)又は(2)に記載の防錆油組成物
(4)成分(A)が、成分(A−2)ラノリン脂肪酸の金属塩の1種又は2種以上である(1)に記載の防錆油組成物。
(5)成分(A)のラノリン脂肪酸の金属塩が、ラノリン脂肪酸カルシウム塩、ラノリン脂肪酸バリウム塩およびラノリン脂肪酸亜鉛塩である(1)又は(4)に記載の防錆油組成物。
(6)成分(A)のラノリン脂肪酸が、軟質ラノリン脂肪酸である(1)〜(5)の何れかに記載の防錆油組成物。
(7)成分(B)が、ダイマー酸および水素添加ダイマー酸から選ばれる1種又は2種である(1)〜(6)の何れかに記載の防錆油組成物。
(8)さらにスルホン酸塩を含有する(1)〜(7)の何れかに記載の防錆油組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、防錆性、並びに、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性及び貯蔵安定性の全てを満足する防錆油組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いられる成分は、基油と以下の成分(A−1)、(A−2)、(B)である。
(A−1)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステルの1種又は2種以上
(A−2)ラノリン脂肪酸の金属塩の1種又は2種以上
(B)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数6〜44の脂肪族二価カルボン酸の1種又は2種以上
【0008】
当該防錆油組成物を構成する基油としては、防錆油や金属加工油に基油として一般に使用される鉱油や合成油を用いることができる。また、基油は1種類を単独で、または、複数種類を併用して使用することができる。鉱油としては、例えば、原油を蒸留して得られる留分を精製したパラフィン系、ナフテン系の精製鉱油を挙げることができる。また、合成油としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、オレフィン系等の炭化水素系合成油、および、エステル系合成油を挙げることができる。
【0009】
成分(A−1)および(A−2)に用いるラノリン脂肪酸とは、羊の毛の表面に分泌される羊毛脂を加水分解して得られる脂肪酸である。羊毛脂はそのまま用いても良いが、ろ過、脱色、脱臭、脱水、溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの精製をして得られるラノリンを用いても良い。ラノリン脂肪酸は市販されているラノリン、精製ラノリン、液状ラノリン、ハードラノリン、還元ラノリンや吸着精製ラノリンなどを加水分解して得ることもできるが、より好ましくは精製ラノリン、液状ラノリンを用いるのが良い。液状ラノリンとは、ラノリンから溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの操作により比較的低分子量の成分を取り出したものであり、曇り点が約10〜30℃のラノリンである。ハードラノリンとはラノリンから溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの操作により比較的高分子量の成分を取り出したものであり、融点が約30〜60℃のラノリンである。
【0010】
羊毛脂またはラノリンの加水分解の方法は、特に限定されるわけではなく公知の方法を用いることができるが、例えば、アルカリによる加水分解によって得ることができる。用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが一般的であるが、その他のアルカリを用いてもよい。又、塩酸、硫酸、燐酸などの酸で加水分解してもよい。加水分解したラノリンを溶剤抽出などにより分離し、脂肪酸の石鹸部分を酸で中和して遊離の脂肪酸にすることにより、目的のラノリン脂肪酸を得る。このようなラノリン脂肪酸としては、ラノリン脂肪酸、精製ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸などがあるが、本発明に使用するエステルに用いるラノリン脂肪酸としては、より好ましくは基油への溶解性、脱脂性、貯蔵安定性の点からラノリン脂肪酸、精製ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸であり、更に好ましくは軟質ラノリン脂肪酸である。軟質ラノリン脂肪酸とはラノリン脂肪酸から溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの操作により比較的低分子量の成分を取り出したものであり、融点が約20〜50℃のラノリン脂肪酸である。これらのラノリン脂肪酸の市販品としては、ラノリン脂肪酸ソフト(融点36℃、日本精化(株)製)が上げられる。硬質ラノリン脂肪酸とはラノリン脂肪酸から溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの操作により比較的高分子量の成分を取り出したものであり、融点が約60〜90℃のラノリン脂肪酸である。
【0011】
本発明に用いる成分(A−1)には、直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールを用いることが好ましい。二価以上のアルコールを用いると、防錆性は良好であるが、基油への溶解性、脱脂性に欠点が生ずる。このような直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、n−ヘキサノール、イソヘキサノール、n−ヘプタノール、イソヘプタノール、n−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、イソウンデカノール、ドデカノール、イソドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、テトラデカノール、イソテトラデカノール、ペンタデカノール、イソペンタデカノール、ヘキサデカノール、イソヘキサデカノール、ヘプタデカノール、イソヘプタデカノール、オクタデカノール、イソオクタデカノール、シクロヘキサノール、ウンデセノール、オクタデセノールなどがあり、より好ましくは反応性、防錆性からメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、n−ヘキサノール、イソヘキサノール、n−ヘプタノール、イソヘプタノール、n−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、イソデカノールであり、更に好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノールである。
【0012】
本発明に用いる成分(A−1)の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステルは、前記の直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールと、前記のラノリン脂肪酸とのエステルである。エステルの製造方法は、特に限定されないが、以下の製造方法、すなわち、原料のラノリン脂肪酸と直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜36の一価アルコールを無溶媒で150〜260℃で反応させる方法、触媒と溶媒を用いて50〜150℃行う方法などがある。酸触媒等の触媒を使用する場合は、パラトルエンスルホン酸、硫酸、塩酸、メタンスルホン酸、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体、チタンアルコラート、固体酸触媒等の一般的な酸触触媒を用いることができる。溶媒を用いる場合には、トルエン、ヘプタン等の一般的に使用される溶剤を使用することができる。エステル化反応終了後、未精製、若しくは、減圧蒸留、水洗、水蒸気蒸留脱臭、活性炭処理等の通常の精製方法で精製することにより、目的とする本発明のエステルを得ることができる。なお、製造の際、完全にエステル化されずに原料のラノリン脂肪酸や一価アルコールが残存することがある。これらは残存していても良いが、防錆性、溶解性、脱脂性、水分離性の点からエステルの酸価は、0〜60、より好ましくは0〜40、更に好ましくは0〜20であると良い。このようにして得られた一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステルは、そのまま防錆油組成物に用いても良いが、必要により脱色、脱臭、溶剤分別、蒸留などの精製を行ったものを用いてもよい。
【0013】
本発明に用いる成分(A−1)の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステルの防錆油組成物への配合量は、0.01〜99重量%で可能であるが、防錆性の点から好ましくは0.1〜90重量%、より好ましくは、1〜70重量%である。
【0014】
本発明に用いる成分(A−2)のラノリン脂肪酸の金属塩としては、ラノリン脂肪酸ナトリウム塩、ラノリン脂肪酸カリウム塩、ラノリン脂肪酸リチウム塩、ラノリン脂肪酸カルシウム塩、ラノリン脂肪酸バリウム塩、ラノリン脂肪酸マグネシウム塩、ラノリン脂肪酸亜鉛塩、ラノリン脂肪酸アルミニウム塩、ラノリン脂肪酸鉄塩などがあるが、防錆性の点から好ましくは、ラノリン脂肪酸カルシウム塩、ラノリン脂肪酸バリウム塩、ラノリン脂肪酸マグネシウム塩、ラノリン脂肪酸亜鉛塩、ラノリン脂肪酸アルミニウム塩であり、更に好ましくは、ラノリン脂肪酸カルシウム塩、ラノリン脂肪酸バリウム塩、ラノリン脂肪酸マグネシウム塩、ラノリン脂肪酸亜鉛塩である。本発明のラノリン脂肪酸の金属塩の製造方法は特に限定されず、定法に従って複分解法、溶融法、半溶融法、スラリー法、固相法、溶媒法などで製造できる。
【0015】
本発明に用いる成分(A−2)のラノリン脂肪酸の金属塩の防錆油組成物への配合量は、0.01〜50重量%で可能であるが、好ましくは0.1〜40重量%、防錆性の点からより好ましくは、1〜20重量%である。
【0016】
本発明に用いる成分(B)の直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数6〜44の脂肪族二価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,4−ジエチルペンタン二酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、2,4,4−トリメチルアジピン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、8−エチルオクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジメチルエイコサン二酸、不飽和脂肪酸を重合して得られるダイマー酸、水素添加ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸等を例示することができるが、防錆油組成物への溶解性と防錆性の点からより好ましくは、2,4−ジエチルペンタン二酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、2,4,4−トリメチルアジピン酸、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸であり、更に好ましくは、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸である。これらの二価カルボン酸は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
ここでいうダイマー酸、水素添加ダイマー酸とは、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されている。例えば、ダイマー酸及び/又はその低級アルコールエステルは、炭素数が11〜22の不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルを粘土触媒にて2量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、炭素数36程度の2塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ任意量のトリマー酸、モノマー酸を含有する。一般にダイマー酸の含有量は70重量%を越える程度のもの、及び、分子蒸留によってダイマー酸含有量を90%以上にまで高めたものが流通している。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、更に水素添加を行って酸化安定性を向上させたものも販売されている。本発明には、このような現在流通しているいずれのダイマー酸、水素添加ダイマー酸も用いることができる。このようなダイマー酸、水素添加ダイマー酸の市販品としては、ハリダイマー200(ハリマ化成(株)社製)、UNIDYME14(アリゾナケミカル社製)等がある。
【0018】
直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数6〜44の脂肪族二価カルボン酸の防錆油組成物への配合量は、0.001〜50重量%で可能であるが、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは、0.01〜20重量%である。
【0019】
成分(A−1)と成分(B)、又は、(A−2)と成分(B)の比率は特に制限されないが、防錆性の点から成分(A−1)/成分(B)、又は、成分(A−2)/成分(B)の比(重量比)が、99/1〜10/90であることが好ましく、99/1〜50/50であることが更に好ましい。成分(B)が少ないと防錆性が劣り、多いと防錆油組成物の外観が悪化するためである。成分(A−1)と成分(A−2)では脱脂性の面で成分(A−1)がより好ましい。成分(A−1)および成分(B)、成分(A−2)および成分(B)、または、成分(A−1)および(A−2)並びに成分(B)からなる防錆油添加物を調製後、その他成分を加えて防錆油組成物としても良い。
【0020】
本発明の防錆油組成物には、さらにスルホン酸塩を添加することが好ましい。本発明に使用するスルホン酸塩とは、石油留出成分の芳香族成分をスルホン化して得られる石油系スルホン酸またはアルキルベンゼンもしくはジノニルナフタレンをスルホン化することによって得られる合成スルホン酸の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルシウム塩に水酸化カルシウム又は炭酸カルシウムの微粒子を均一に分散保持した塩基性カルシウム塩、アミン塩等を挙げることができる。市販のスルホン酸塩としては、スルホール500(石油系ナトリウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSC−60(合成系ナトリウム塩 松村石油研究所(株)製)、スルホールCa−45N(石油系中性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、スルホールCa−45(石油系塩基性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSC−45N(合成系中性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSC−45(合成系塩基性カルシウム塩 松村石油研究所(株)製)、NCP(NEUTRAL CALCIUM PETRONATE 石油系中性カルシウム塩 Chemtura Corporation製)、300BCP(300BASE CALCIUM PETRONATE 石油系過塩基性カルシウム塩 Chemtura Corporation製)、スルホールBa−30N(石油系バリウム塩 松村石油研究所(株)製)、モレスコアンバーSB−50N(合成系バリウム塩 松村石油研究所(株)製)、LOCKGUARD 3650(石油系バリウム塩 Lockhart Chemical Company製)、Bryton Ba−50N(合成系バリウム塩 Chemtura Corporation製)等を例示することができる。これらのスルホン酸塩は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。本発明の防錆油組成物へのスルホン酸塩の配合比率は特に制限されないが、防錆性の点から成分(B)/スルホン酸塩の比(重量比)が、99/1〜1/99であることが好ましく、60/40〜1/99であることがより好ましく、50/50〜5/95であることが更に好ましい。
【0021】
本発明の防錆油組成物には、本発明の好ましい効果を損なわない範囲で、成分(A−1)、(A−2)、(B)、スルホン酸塩の他、一般的に防錆剤に配合される添加成分、日本国及び諸外国特許公報及び特許公開公報(公表公報・再公表を含む)に記載されている成分、例えば、原油から得られる鉱油、ナフテン系・パラフィン系・芳香族系・オレフィン系合成炭化水素油、ポリマー、脂肪族・芳香族カルボン酸又はその塩脂肪族・芳香族アミン又はその塩、脂肪族・芳香族エステル、脂肪族・芳香族アルコール、脂肪族・芳香族エーテル、脂肪族・芳香族アミド、リン酸エステル、フェノール系化合物、シリコーン化合物、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イオウ化合物、無機塩、無機・有機顔料、無機・有機染料、溶剤等を配合することができる。
【0022】
本発明の防錆油組成物は、防錆性、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性、及び貯蔵安定性の全てを満足するものであり、様々な金属製部材の防錆油として好適に用いることができる。被処理体である金属製部材は特に制限されず、具体的には、自動車ボディや電気製品ボディとなる冷延鋼板、熱延鋼板、高張力後半、亜鉛めっき鋼板などの表面処理鋼板、ブリキ用原板、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板などの金属製板材、更には転がり軸受、テーパー転がり軸受、ニードル軸受等の軸受部品、建築用鋼材、精密部品等が挙げられる。
【0023】
このような金属製部材に対する防錆油としては、金属製部材の加工工程等の過程で用いられる中間防錆油、出荷時の防錆のために用いられる出荷防錆油、プレス加工に供する前の異物除去又は金属板製造業者において出荷に先立つ異物除去のための洗浄工程で用いられる洗浄防錆油などがあるが、本発明の防錆油組成物は上記のいずれの用途にも使用することができる。
【0024】
本発明の防錆油組成物を被処理体に塗布する方法は特に制限されず、例えば、スプレー、滴下、フェルト材等による転写、静電塗油等の方法により金属製部材に塗布することができる。これらの塗布法の中でも、スプレー法は、微細な霧状で塗布することにより油膜厚さを均一とできるので好ましい。スプレー法を適用する場合の塗布装置としては、防錆油組成物を霧化できるものであれば特に制限されず、例えばエアースプレータイプ、エアレススプレータイプ、ホットメルトタイプなどのいずれも適用可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明につき実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
製造例1(軟質ラノリン脂肪酸メチルエステルの製造)
軟質ラノリン脂肪酸(ラノリン脂肪酸ソフト 酸価135、融点36℃、日本精化(株)製)1000gにメチルアルコール200ml、パラトルエンスルホン酸一水和物1gを加え、常圧、還流にて3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、減圧にて含水メチルアルコールを回収した。含水メチルアルコールを回収後メチルアルコール100ml投入し、同様に常圧、還流にて3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、減圧にて含水メチルアルコールを回収した。次いで15%NaOHにて中和後、水洗、減圧脱水し本発明の軟質ラノリン脂肪酸メチルエステル(酸価15)を得た。
【0027】
製造例2(軟質ラノリン脂肪酸イソプロピルエステルの製造)
軟質ラノリン脂肪酸(ラノリン脂肪酸ソフト 酸価135、融点36℃、日本精化(株)製)1000gにイソプロピルアルコール500ml、パラトルエンスルホン酸一水和物1gを加え、常圧、還流にて3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、減圧にて含水イソプロピルアルコールを回収した。含水イソプロピルアルコールを回収後イソプロピルアルコール200ml投入し、同様に常圧、還流にて3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、減圧にて含水イソプロピルアルコールを回収した。次いで15%NaOHにて中和後、水洗、減圧脱水し本発明の軟質ラノリン脂肪酸イソプロピルエステル(酸価15)を得た。
【0028】
製造例3(軟質ラノリン脂肪酸Ca塩の製造)
軟質ラノリン脂肪酸(ラノリン脂肪酸ソフト 酸価135、融点36℃、日本精化(株)製)1000g、スーパーオイルM100(40℃動粘度97mm2/sのパラフィン系潤滑油、新日本石油(株)製)1500gに消石灰(入交産業(株)製)89gを水180gでスラリーとしたものを加え、100℃で1時間反応後、130℃で減圧脱水し軟質ラノリン脂肪酸Ca塩を得た。
【0029】
比較製造例1(軟質ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトール部分エステルの製造)
軟質ラノリン脂肪酸(ラノリン脂肪酸ソフト 酸価135、融点36℃、日本精化(株)製)1000gにペンタエリスリトール(三菱ガス化学(株)製)176gを加え、減圧下に200℃で3時間加熱撹拌してエステル化を行なった後、水洗、減圧脱水しラノリン脂肪酸ペンタエリスリトール部分エステル(酸価6)を得た。
【0030】
比較製造例2(酸化ワックスBa塩の製造)
酸化ペトロラタム(半固形状ワックス)(OX−0450、酸価45、日本精鑞(株)製)1000gに水酸化バリウム(堺化学工業(株)製)253gを昇温しながら120℃より発泡に注意しながら添加。水酸化バリウム全量添加後200℃まで昇温、1時間熟成後減圧脱水、冷却し酸化ワックスBa塩を得た。
【0031】
製造例4(防錆油添加物の製造)
軟質ラノリン脂肪酸イソプロピル1000gにダイマー酸(ハリダイマー200、ハリマ化成(株)社製)80gを加え、常圧、80℃にて0.5時間混合し、防錆油添加物を得た。
【0032】
実施例1〜5、比較例1〜5(防錆油組成物の調製)
軟質ラノリン脂肪酸メチル50g、ダイマー酸(ハリダイマー200、ハリマ化成(株)社製)1g、及びアルキルベンゼンスルホネートCa塩(NCP、Chemtura Corporation製)75gに、基油としてマシン油W10(谷口石油精製(株)製)874gを加え、常圧、80℃にて0.5時間混合し、実施例1の防錆油組成物を得た。同様にして、表1に示す組成にて実施例2〜6の防錆油組成物を、表2に示す組成にて比較例1〜5の防錆油組成物を得た。尚、実施例3は製造例4の防錆油添加物54g、アルキルベンゼンスルホネートCa塩75g、及びマシン油W10(谷口石油精製(株)製)871gを混合し防錆油組成物を得た。
【0033】
性能評価(実施例1〜6、比較例1〜5)
実施例1〜6及び比較例1〜5の組成の防錆油組成物について、以下に示した評価方法により塩水噴霧試験(防錆性試験)、脱脂性試験、水分離性試験、耐オイルステイン性試験、及び貯蔵安定性試験を行った。結果は表1、2の下部に示した。
【0034】
(塩水噴霧試験)
市販のSPCC−SD相当冷延鋼板(0.8mm×60mm×80mm)を防錆油組成物中に1分間浸した後引き上げ、室温で24時間放置すると2〜3μmの塗膜が得られた。このようにして得られた試験片について、JIS K 2246「塩水噴霧試験方法」に準拠して塩水噴霧試験を行い、24時間及び48時間経過後のさびの発生面積率を以下の評価基準に基づいて評価した。
A:0%
B:1〜10%
C:11〜25%
D:26〜50%
E:51〜100%
【0035】
(脱脂性試験)
市販のSPCC−SD相当冷延鋼板(0.8mm×60mm×80mm)を防錆油組成物中に1分間浸した後引き上げ、室温で24時間放置すると2〜3μmの塗膜が得られた。このようにして得られた試験片を、FC-L4328(ノニオン系アルカリ脱脂剤、日本パーカーライジング(株)製)2重量%水溶液の42℃脱脂液に攪拌しつつ2分間浸漬した。浸漬終了後、流水中で30秒間洗浄し、水洗後の試験片の水濡れ面積率で脱脂性を以下の基準に基づいて評価した。
A:90〜100%
B:60〜89%
C:0〜59%
【0036】
(水分離試験)
容量50mlの比色管に防錆油組成物25mlと精製水25mlを採取した。この試料を40℃恒温水槽にて30分保持後、1分間激しく振とうした。振とう後40℃恒温水槽に放置し、生じた乳化液が水と油に分離する時間(分)を以下の基準に基づいて評価した。
A:10分未満
B:10〜20分
C:21分以上
【0037】
(耐オイルステイン性試験)
市販のSPCC−SD相当冷延鋼板(0.8mm×60mm×80mm)に、防錆油組成物に精製水5%添加し乳化状態にしたものを試験片で挟み、100g荷重をかけた状態にて82℃で24時間放置後の腐食面積を以下の基準に基づいて評価した。
A:腐食なし
B:腐食10%未満
C:腐食10%以上
【0038】
(貯蔵安定性試験)
容量50mlのガラスビンに防錆油組成物30gを採取した。この試料について、20℃、相対湿度50%で12時間保持した後、更に50℃、相対湿度95%で12時間保持する処理を1サイクルとして、このサイクルを曇り又は沈殿が発生するまで連続的に繰り返した。曇り又は沈殿が発生するまでに要した日数から、以下の基準に基づいて防錆油組成物の貯蔵安定性を評価した。
A:21日以上
B:15〜20日
C:8〜14日
D:2〜7日
E:1日以内
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1、2の結果から分かるように、実施例1〜6の防錆油組成物は、比較例1〜5の防錆油組成物よりも防錆性、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性、及び貯蔵安定性が優れていることが分かり、本発明の組成物は、防錆性、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性、及び貯蔵安定性の全てを満足する防錆油組成物であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、防錆性、脱脂性、水分離性、耐オイルステイン性、及び貯蔵安定性の全てを満足する防錆油組成物を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と次の成分(A)及び(B)を含有する防錆油組成物。
(A)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステル、および、ラノリン脂肪酸の金属塩から選ばれる1種又は2種以上
(B)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数6〜44の脂肪族二価カルボン酸の1種又は2種以上
【請求項2】
成分(A)が、成分(A−1)直鎖、分岐鎖、環状、飽和若しくは不飽和構造を有する炭素数1〜18の一価アルコールとラノリン脂肪酸とのエステルの1種又は2種以上である請求項1に記載の防錆油組成物。
【請求項3】
成分(A)の一価アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールおよびイソブタノールから選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の防錆油組成物。
【請求項4】
成分(A)が、成分(A−2)ラノリン脂肪酸の金属塩の1種又は2種以上である請求項1に記載の防錆油組成物。
【請求項5】
成分(A)のラノリン脂肪酸の金属塩が、ラノリン脂肪酸カルシウム塩、ラノリン脂肪酸バリウム塩およびラノリン脂肪酸亜鉛塩である請求項1又は4に記載の防錆油組成物。
【請求項6】
成分(A)のラノリン脂肪酸が、軟質ラノリン脂肪酸である請求項1〜5の何れかに記載の防錆油組成物。
【請求項7】
成分(B)が、ダイマー酸および水素添加ダイマー酸から選ばれる1種又は2種である請求項1〜6の何れかに記載の防錆油組成物。
【請求項8】
さらに、スルホン酸塩を含有する請求項1〜7の何れかに記載の防錆油組成物。


【公開番号】特開2010−70820(P2010−70820A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240968(P2008−240968)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000231497)日本精化株式会社 (60)
【Fターム(参考)】