説明

防食状態監視方法及びシステム

【課題】 良好な防食状況を維持するのに不都合な状況(例えば塗覆装の損傷など)を観測点間程度の位置精度で検知する。
【解決手段】 塗覆装および電気防食が施された埋設金属の防食状態を監視する際に、 少なくとも1箇所の計測地点で該埋設金属の防食電流の大きさ及び流れる方向を非接触で測定する直流計測装置1を防食電流に対して磁路が鎖交するように装着し、当該直流計測装置1により測定した防食電流の電流量および流れる方向を識別し、識別した防食電流の電流量および流れる方向に基づいて、計測地点での防食電位および直流電流測定値を判別し、判別した防食電位及び直流電流測定値に基づいて、塗覆装及び埋設金属の防食状態を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食を施された埋設金属管などにおける電気防食状態を監視するための防食状態監視方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
国内の高圧ガス導管等に代表される埋設導管には、鋼管の腐食に伴う漏洩事故を防止するために土壌と接触する外面にポリエチレンなどの塗覆装を施し、かつ塗覆装に欠陥が生じた場合に欠陥部を防食するために電気防食を併用している。埋設物の電気防食方法としては、防食対象物の電位を外部電源又は犠牲陽極を用いて卑方向に引き下げ陰極防食状態をつくりだす手法が従来から用いられており、導管管理者はこの防食状態を良好に維持することが要求されている。
【0003】
従来において主流となる埋設導管の防食状態の監視方法としては、標準電極に対する埋設導管の電位を測定し、規定値以下に卑電位であれば良しとする方法である。埋設導管上に200〜1,000mの間隔で設置したターミナルボックスにおいて、埋設導管に接続したターミナルケーブルと地表に設置した照合電極の間に直流電位差計を接続し、管対地電位を測定することにより、これを実行することとなる。
【0004】
また、地上部に直流電源をおき防食対象と接地極間に直流電圧をかけて防食を行う外部電源方式では、電源部の防食電流出力を読み取り、防食状態の監視を行っている。
【0005】
また、マグネシウムなどの犠牲陽極を導管近傍に多数分散させて埋設し、ターミナルケーブルにて導管と電気的に接続する流電陽極方式の電気防食方法では、前記、管対地電位に加えてターミナルケーブルにシャント抵抗を挿入し、陽極の発生電流を測定する。
【0006】
また、他の防食状態監視方法として、金属性の鏃(以降プローブという)を模擬的な損傷と見立てて埋設地点近傍に打ち込み、防食対象と電気的に接続してそこに流れる防食電流を測定することにより、防食状態の確認を行う例もある。
【0007】
また、何らかの理由により、導管の塗覆装が傷つけられそのまま土中に放置されていると防食状態が悪化するので、かかる損傷部を検知する技術が従来において提案されている。
【0008】
また、特許文献1においては、導管に交流信号を多種類印加し、各計測地点で信号電流と電圧を計測して損傷を推定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−145934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来行われている電気防食管理では前述した電位監視、およびプローブによる監視、外部電源装置の出力監視である。
【0010】
電位監視においてはターミナルボックスで測定される管対地電位が基準電位より卑電位に保たれていても損傷部周辺の環境、例えば塗覆装の損傷部に大規模な構造物が接触し、その結果、かかる接触箇所に防食電流が大量に流入してしまう場合もある。かかる場合には、本来目的としている防食対象物について、十分な電流が流れ込んでいるか否かを直接確認することができず、腐食進行を見逃してしまう可能性がある。
【0011】
プローブによる監視についても同様であり、環境により防食電流は左右されるため、プローブで十分な防食電流が確認されたとしても、それが直接的に損傷部に十分な防食電流が流入しているという点に結びつく訳ではない。
【0012】
外部電源装置による防食電流の出力監視においては、外電接続部近傍での防食電流については、十分に識別することができるが、防食対象とする埋設導管全線においての防食電流分布を把握することができないという問題点があった。
【0013】
流電陽極方式では陽極発生電流を測定する際に回路中にシャントなどの計測器を接続しなければならない。
【0014】
このため、上述の如く長距離にわたる埋設導管などの防食管理において、導管内を流れる防食電流を直接測定することができなかったため、電位監視やプローブ監視または電源出力監視といった不確定性のある従来の防食状態監視手法に新しい監視手法を付加する必要性があった。
【0015】
ちなみに、良好な防食状況を阻害する塗覆装の欠陥検出には従来から様々な技術が開発されてきている。
【0016】
例えば、特許文献1に代表される導管に交流信号を多種類印加し、各計測地点で信号電流と電圧を計測して損傷を推定する構成においては、長距離にわたる監視対象区間への交流信号の印加により、信号の伝播は分布定数にみられる伝播形態を示し、直流を印加した場合のような単調な減衰を示さず、フェランチ現象に代表されるうねりを示す伝播形態となる。このため単純な損傷判定基準は適用できず、かつ損傷が入ることで、その伝播形態が複雑に変化するため、損傷の検知についての誤判定が起こりやすく、検出不能に陥る場合もあった。また、システムの構成要素も増加し、装置コストやメンテナンスコストの増大といった問題も生じていた。
【0017】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、良好な防食状況を維持するのに不都合な状況(例えば塗覆装の損傷など)を観測点間程度の位置精度で検知する機能を実装した防食状態監視方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明を適用した防食状態監視方法は、上述した課題を解決するために、塗覆装および電気防食が施された埋設金属の防食状態を監視する防食状態監視方法において、 少なくとも1箇所の計測地点で該埋設金属の防食電流の大きさ及び流れる方向を非接触で測定する直流計測装置センサ部を防食電流に対して磁路が鎖交するように装着し、当該直流計測装置により測定した防食電流の電流量および流れる方向を識別し、上記識別した防食電流の電流量および流れる方向に基づいて直流電流測定値を判別するとともに、さらに防食電位測定装置により防食電位を判別し、判別した防食電位及び直流電流測定値に基づいて、塗覆装及び埋設金属の防食状態を評価する。
【0019】
また、本発明を適用した防食状態監視システムは、塗覆装および電気防食が施された埋設金属の防食状態を監視する防食状態監視システムにおいて、少なくとも1箇所の計測地点で該埋設金属の防食電流の大きさ及び流れる方向を非接触で測定する直流計測装置と、防食電位を判別する防食電位測定装置と、上記直流計測装置により測定された防食電流の電流量および流れる方向を通信網を介して識別するとともに、上記防食電位測定装置により判別された防食電位を通信網を介して取得する制御装置とを備え、上記制御装置は、上記識別した防食電流の電流量および流れる方向に基づいて、直流電流測定値を判別し、この判別した直流電流測定値と上記取得した防食電位とに基づいて、塗覆装及び埋設金属の防食状態を評価する。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、可搬型の防食電流計測装置とし、導管管理者は該装置を携帯して管理区間を巡回し、装着可能箇所で防食電流の電流量およびその方向を計測することができる。各地点で計測した電流値は、塗覆装が健全で抵抗値が非常に高ければキルヒホッフの第1法則が適用できるが、長距離にわたる導管では塗覆装が土壌と接触する面積が膨大となるため、塗覆装の抵抗値が非常に高くてもわずかながら減衰し伝播する。逆にいえばある計測地点の間に微小な減衰以上の防食電流の変化が観測されればこの地点間のどこかで防食電流の消費されている不具合があることが推定できる。
【0021】
なお、本発明で得られる欠陥部は、ある計測点間のおおよその位置であるため、正確な位置を特定する場合は欠陥の存在が認められた区間において、例えば前述した特公平7−52166号公報に開示されている技術を併用し、詳細な位置を判別することができる。
【0022】
さらに従来から行われている電位分布監視を併用すると、防食電流値と防食電位値から導管の抵抗値を算出することができ、定量的な評価が可能となる。この各地点での防食電流値や従来からの防食電位記録、およびこれらから算出される導管の抵抗値を長期にわたり監視、データ化して、その変化を解析することにより、塗覆装劣化進行具合を推定し劣化進行の早い区間には対策を打つことが可能となる。
【0023】
また、本発明では、据え置き型の防食電流計測装置に測定結果を電話回線やインターネットにて送信する通信機能を持たせる構成としてもよい。防食対象区間の複数箇所に据え置き型の防食電流計測装置を配置し、各地点の計測データを1箇所に集めて各地点間の防食電流の電流量および流れる方向をリアルタイムに監視することでその時点での導管全体の防食状況を一挙に把握することができる。同一絶縁区間内で防食用電源が1箇所の排流点で行われる防食システムにおいて、外部電源方式を採用している導管では、土木重機の接触事故などで塗覆装に損傷が起こり、防食電流が損傷部へ流入した場合には上流部(外部電源側)に配置した計測装置の防食電流計測結果が損傷部への流入防食電流分増加することになる。このことより異変を計測した地点から防食電流の下流方向(絶縁端方向)で次の計測地点までの範囲で異変が起こっていることをリアルタイムに検知することが可能となる。
【0024】
また、電気防食管理区間の終点である絶縁継手近傍では、絶縁継手性能が正常であればこの地点での直流、交流の電流値は零アンペアとなる。逆に絶縁近傍での直流または交流の電流が検出された場合に、絶縁継手の性能不良を確定することが可能となる。
【0025】
この手法は埋設導管だけでなく陸上露出のタンクなどの配管絶縁継手などの性能確認にも応用することができる。
【0026】
さらに河川横断部などで橋梁に導管が添架されたような状況で添架部において固定金具と導管の鋼材がメタルタッチするまたは、大規模構造物出入り部などで導管鋼材と構造物鉄筋などがメタルタッチした場合は防食電流が構造物鉄筋等に流入するため莫大な防食電流が消費されたり防食電位の貴化がおこり防食管理上非常に具合の悪い環境となる。
【0027】
このようなメタルタッチも防食電流の増加という形で検知可能である。
【0028】
また、請求項7記載の発明では、長距離に渡る絶縁管理区間が設定され単独の外部電源では防食状態が維持されないため、2箇所以上の外部電源を接続して防食状態を維持している導管、または複数の犠牲陽極の接続による電気防食法が適用されている場合、各ステーション部における防食電流の供給源を特定するには本技術で使用している直流電流測定装置で防食電流の流れる方向を確認し、電流の上流側にある電源あるいは犠牲陽極と特定することができる。このような場合、本技術で課題としているメタルタッチの発生検知ではメタルタッチ前後において防食電流の大幅な変動や電流の流れる方向の反転や減少が観測されるためメタルタッチ発生を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0030】
本発明を適用した防食状態監視システム10は、例えば図1に示すように、18kmの絶縁区間を持つガス導管3に対して適用される。このガス導管3における絶縁区間には5つのステーションA〜Eが設けられており、それぞれのステーションA〜Eに対して、巡視員2が巡回し、可搬型の直流電流計測装置1を使用して、防食電流の測定を行うものである。ステーションAには外部電源装置4が配設されており、ガス導管3全線を電気防食する。巡視員2は各ステーションA〜Eにおいてガス導管3の地上露出部に直流電流計測装置1を装着することにより、各ステーションA〜Eでの防食電流を測定する。
【0031】
直流電流計測装置1は、ステーションA〜Eのように導管が地上に露出した場所に装着可能で橋梁架管部、共同坑などでも装着することが可能である。また、場合によっては掘削を行い導管を露出させて装着、計測することも可能である。さらに、半永久的に装着する場合は、掘削工事を行い地中部に防水型の直流計測装置を装着し、そのまま埋め込みにして計測ターミナルのみ地表に露出させて計測することも可能である。
【0032】
この防食電流の測定方法は例えば国際出願番号PCT/JP03/07729開示技術に従って計測を行うことにより、防食電流の電流量および電流の方向を測定して記録する方式を採用してもよい。このような技術を構成要素として導管に直流センサーを装着して、磁気ブリッジの平衡を実現すれば導管を流れる防食電流の電流量とその流れる向きを計測することが可能となる。
【0033】
このとき、巡視員2は、従来から行われている電気防食の管理手法を兼ねて実行するようにしてもよい。この従来の管理手法は、例えば、防食電位の計測や防食電源の出力監視、プローブが設置されている場合は、プローブ電流の測定などその他導管運用の諸雑務等も含まれる。巡視員2は、測定した防食電流の電流量及びその方向をデータとして記録し、またこれを持ち帰って管理記録として保存することとなる。
【0034】
各ステーションA〜Eにおいて計測した防食電流の変化を図2に示す。通常の如く、ポリエチレン塗覆装をガス導管に適用し、外部電源方式で防食システムを構成すると、塗覆装が健全な新設時であればキルヒホッフの第1法則が適用できる。しかしながら、ガス導管3が長距離に亘って配設されている場合には、塗覆装が土壌と接触する面積が膨大となり、導管の抵抗値が非常に高くてもわずかながら減衰し伝播する。
【0035】
このため数十キロメートルにわたるガス導管3においても管径や環境によって違うが外部電源出力は多くて数百(mA)オーダーである。防食の管理区間端である絶縁継手5bでは絶縁性能が正常であればこの地点での防食電流は0(mA)として計測される。本実施例の場合、防食電流は外部電源4から絶縁継手5bに向かい80(mA)から0(mA)まで減衰しながら伝播している。
【0036】
この図2においては、竣工時の塗覆装が健全な場合を実線で示す。また、ステーションB−C間において、図1に示すように土木重機6で模擬的な塗覆装の損傷点を形成させたとき、各ステーション位置A〜Eでの防食電流の計測値を図2中の一点鎖線で示す。
【0037】
この損傷を加えた損傷点に防食電流Id(mA)が流入し、ステーションAの外部電源装置4へ帰還していくことになる。このため、損傷点よりも外部電源4側にあるステーションAおよびステーションBでの防食電流の計測値はId(mA)分増加することになる。
【0038】
通常、巡視員2により収集される巡視記録データ解析方法としては、各計測点A〜Eにおける日々の防食電流の変動を求め、管理基準に定められた以上の変動を示した場合は防食状況に異常があるとして異常データを示した計測地点近傍の詳細調査を行うことにしている。
【0039】
また、防食監視区間の端部である絶縁継手5bの部分でも直流電流計測装置を装着して防食電流を測定し絶縁継手5bの絶縁性能の監視を行っている。通常、絶縁継手5bが正常であれば防食電流は0(mA)として検出され、正常でなければ防食電流が計測され修理を必要とすることとなる。
【0040】
図3に竣工時の絶縁継手5bが健全な場合の防食電流分布を一点鎖線で示す。また、この図3において、絶縁継手5bの絶縁抵抗が不良で延伸方向の導管から防食電流Iiが流入している場合の防食電流分布を実線で示す。絶縁継手5bの性能が良好であれば絶縁継手5bでの防食電流は0(mA)である。これに対して、絶縁継手5bが不良であればIi(mA)の流入によるシフトが全ステーションA〜Eにおいて測定されることとなる。
【0041】
また、本発明を適用した防食状態監視システム1では、長期的な監視により防食電流が徐々に上昇している部分や降下している部分などを見つけ出すことができ、緩やかな塗覆装の劣化の進行をも識別することができる。
【0042】
例として、図4に示すように数ヶ月、数年オーダーのデータ管理によりステーションA並びにステーションBの防食電流が徐々に増加する場合は、ステーションB−C間に他構造物の接触による微小な損傷が形成されているものと推測することができ、さらにこれを放置しておけば、かかる損傷が徐々に拡大していくことが懸念される。
【0043】
導管管理者は、以上のような管理形態をとることで短期的にも長期的にも防食の不具合区間を限定して調査と対処を施すことが可能となる。
【0044】
図5は、通信網7を介して防食状態を経時的に監視する防食状態監視システム11の構成を示している。
【0045】
この防食状態監視システム11では、18kmの絶縁区間を持つガス導管3において、各ステーションA〜Eにつき露出導管に据え置き型の直流電流計測装置1を装着する。直流電流計測装置1は、防食電流計測値および防食電流の流れる方向をデータ化し、これを通信網7を介して導管管理者受信機8へ伝送する。この直流電流計測装置1には、通常のPC(パーソナルコンピュータ)と同様の機能を実装させるようにしてもよく、通信網7を介して送信されてきた送信要求を受けてデータを転送するようにしてもよいし、また自身の図示しないROMに格納された制御プログラムに基づいて、かかるデータを定期的に転送するようにしてもよい。
【0046】
また、この直流電流計測装置1には、通信網7との間で有線又は無線通信を実行するための図示しない通信I/Fが実装されている。この図示しない通信I/Fは、通信網7と接続するための回線制御回路と、データ通信を行うための信号変換装置としてのモデムによって実現される。この図示しない通信I/Fは、直流電流計測装置1の制御部からの各種命令に変換処理を施してこれを通信網7側へ送出するとともに、通信網7からのデータを受信した場合にはこれに所定の変換処理を施すことになる。
【0047】
通信網7は、各ステーションA〜Eに配設された直流電流計測装置1と導管管理者受信機8との間で電話回線を介して接続されるインターネット網を始め、TA/モデムと接続されるISDN(Integrated Services Digital Network)/B(broadband)−ISDN等のように、情報の双方向送受信を可能とした公衆通信網等で構成される。
【0048】
導管管理者受信機8は、PC等で構成され、通信網7を介して各直流電流計測装置1から伝送されてきた防食電流計測値および防食電流の流れる方向のデータを取得し、これをディスプレイを介して導管管理者に対して表示するとともに、データベース化する。継続してデータを取得する場合には、各直流電流計測装置1から定期的に伝送されてくる電流情報を図示しないハードディスク内に格納しておき、これらを事後的にチェックすることにより、長期的な監視をも実現することが可能となる。
【0049】
この防食状態監視システム11において、導管管理者は各ステーションA〜Eを巡回することなく、防食電流量と流れる方向をリアルタイムに常時監視でき、日常の防食状態監視業務を容易に遂行ことが可能となる。また、導管全体の防食状況を一挙に把握することができる。
【0050】
ここで監視区間の導管に土木重機6の接触事故が発生して塗覆装が破壊され防食電流が損傷部に流入すると損傷部から外部電源までのステーションでの防食電流値が増加する現象となりこの防食電流増加を検知することで損傷発生の判定を行う。防食電流分布は実施例1で示した図2と同じ分布となる。また、この防食状態監視システム11では、リアルタイムに各ステーションA〜Eの防食電流の変化を監視できるので、図6に示すように、各ステーションA〜Eの防食電流の数時間から数分オーダーでの変化を識別することも可能となる。
【0051】
この図6ではある損傷発生時tにおいてステーションBおよびステーションC間において、防食電流Idが流入する損傷が発生した場合を示している。
【0052】
導管管理者は、各ステーションA〜Eで計測される防食電流値の増減に対して閾値(図6においては一点破線で示す)を設定する。そして、各ステーションA〜Eにおいてリアルタイムに計測される防食電流値に対して閾値を越えた時点(この場合は損傷発生時t)において、かかる損傷が発生されたものとして判別する。なお、導管管理者受信機8において、かかる損傷が発生したものと判別された場合に、警報を発する機構を取り入れることにより、導管管理者に対して注意を促すようにしてもよい。
【0053】
また、図6に示す損傷点の推定では、ステーションA、Bは電流値が上昇して閾値を超えているが、それ以外のステーションC〜Eでは閾値を超えていないため、ステーションB−C間において不具合が発生したと判断することが可能となる。このため、導管管理者は警報が発せられた時点で、ステーションB−C間を巡視し、異常が無いかを調査することとなる。
【0054】
このように、防食状態監視システム11では、ガス導管3の異常をリアルタイムで管理者に通報できるため損傷の拡大を防ぎ、即座に復旧する措置を取ることができ、またガス導管3に対して危害を加える原因を排除することができ、ひいては致命的な事故を防止することが可能となる。
【0055】
また、本防食状態監視システム10、11においては、図示しない交流測定装置を追加することにより、ガス導管3に誘導される誘導電流も測定することができるようになる。このため高圧送電線に併走する導管などは直流の防食電流を計測することに加えて商用周波数の電流成分を測定して誘導電流を把握し、交流腐食への調査も行うことができる。
【0056】
図7は、通信網7を介して防食状態を経時的に監視する防食状態監視システム12の構成を示している。
【0057】
この防食状態監視システム12では、18kmの絶縁区間を持つガス導管3において各ステーションA〜Eにおける露出導管に据え置き型の直流電流計測装置1を装着している。また、この区間を電気防食する外部電源装置4aおよび4bを絶縁区間両端に2つ配置した場合の運用例を示している。
【0058】
図8は、防食状態監視システム12により測定した各ステーションA〜Eにおける防食電流を示している。この図8では、各ステーションA〜Eにおいて外部電源4aで形成される回路の直流電流を正とし、外部電源4bで形成される回路の直流電流を負としてプロットしている。中心付近のCステーションにおいては両端の外部電源4a,4bの影響が拮抗し、防食電流は小さな値として計測されている。
【0059】
この図8において、ステーションB−C間に大規模な他構造物(例えば大規模コンクリート構造物の鉄筋)等が地震などにより塗覆装が破られ、メタルタッチをおこして他構造物に防食電流が大量に流れ込んだ場合の電流分布を点線で示す。
【0060】
かかる場合において、両端にあるステーションA、E、及びステーションB及びDでは、計測している防食電流の流れる方向は変わらず、電流量の増減が観測されることになる。また、ステーションCにおいては防食電流の流れ方向の反転が起こっており外部電源4aで形成される電気回路から外部電源4bで形成される電気回路への移行となる。
【0061】
図9は、防食状態監視システム12により測定した各ステーションA〜Eにおける防食電流の時間変化を示している。上述した防食状態監視システム11と同様に損傷発生時tにおいて損傷が発生したことを検知することができる。
【0062】
即ち、従来の判定方法に実施例1および2で示している従来の損傷区間の判定方法に当てはめると、計測地点から見た防食電流の下流側に損傷があると判定できるのでこの実施例においてもステーションB−C間で異常が起こっていると判定できる。
【0063】
このように従来の交流用のカレントトランスフォーマで行えなかった電流方向(すなわち電源方向確定)も本技術では行うことができ、本事例に示すように複数の防食電流供給源が混在する中でも損傷の発生と発生区間を検知することができる。
【0064】
即ち、本発明は、従来の防食電位管理やプローブによる防食電流流入密度管理、さらに外部電源の出力管理といった防食状態の監視技術に加えて直接計測が難しかった防食電流を測定する直流電流計測技術を導入することで効果的で確実な防食状態の管理方法を提供することができる。
【0065】
また、本発明では、リアルタイムで全線にわたる防食電流の監視により従来交流信号で行っていた防食区間の塗覆装監視を交流電源や信号計測装置などの設備投入なしに突発的に発生する防食機能を損なうような事故に対しても対応ができる。さらに長期的な監視により徐々に劣化する防食状況の検知も可能となりこれに基づいた適切な対応をとることができるようになり導管保守管理の効率と信頼性を向上させることが可能となる。
【0066】
また、本発明においては、導管管理者受信機8から、通信網7を介して外部電源4aへアクセスし、そこから流すべき防食電流量を制御できるようにしてもよい。このとき、導管管理者受信機8は、塗覆装に不具合があると判断された場合に、通信網7を介して外部電源装置にアクセスし、その流すべき防食電流量を上げるように命令するようにしてもよい。かかる場合には、外部電源4aに対して、通信機能を実装することになる。
【0067】
なお、本発明で得られる欠陥部はある計測点間のおおよその位置であるため、正確な位置を特定する場合は欠陥の存在が認められた区間において、例えば前述した特公平7−52166号公報に開示されている技術を併用し、詳細な位置を判別するようにしてもよい。
【0068】
さらに従来から行われている電位分布監視を併用すると防食電流値と防食電位値から塗覆装の抵抗値を算出することができ定量的な評価が可能となる。ちなみに、この防食電位は、例えば従来から利用されている防食電位測定装置を利用するようにしてもよい。この各地点での防食電流値や従来からの防食電位記録およびこれらから算出される塗覆装の抵抗値を長期にわたり監視、データ化してその変化を解析することにより塗覆装劣化進行具合を推定し劣化進行の早い区間には対策を打つなどができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態を示す全体図である。
【図2】各ステーションでの防食電流測定結果を示す図である。
【図3】絶縁継手の絶縁性能が不良の場合の各ステーションで測定される電流分布を示す図である。
【図4】長期的な塗覆装の不具合進行した場合の防食電流変化を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す図である。
【図6】時刻tにおいてB、C間に損傷が発生した場合につき、時系列で示した図である。
【図7】本発明のさらなる他の実施形態を示す図である。
【図8】図7に示す実施形態における各ステーションでの防食電流測定結果を示す図である。
【図9】図7に示す実施形態において、B、C間に損傷が発生した場合につき、時系列で示した図である。
【符号の説明】
【0070】
1 直流電流計測装置
2 監視員
3 ガス導管
4 外部電源装置
5 絶縁継手
6 土木重機
7 通信網
8 導管管理者受信機
10、11、12 防食状態監視システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗覆装および電気防食が施された埋設金属の防食状態を監視する防食状態監視方法において、
少なくとも1箇所の計測地点で該埋設金属の防食電流の大きさ及び流れる方向を非接触で測定する直流計測装置センサ部を防食電流に対して磁路が鎖交するように装着し、
当該直流計測装置により測定した防食電流の電流量および流れる方向を識別し、
上記識別した防食電流の電流量および流れる方向に基づいて直流電流測定値を判別するとともに、さらに防食電位測定装置により防食電位を判別し、
判別した防食電位及び直流電流測定値に基づいて、塗覆装及び埋設金属の防食状態を評価すること
を特徴とする防食状態監視方法。
【請求項2】
防食電流の電流量および流れる方向を継続して監視し、防食電流の増加を検知した場合、防食電流の下流(絶縁端)方向に塗覆装に損傷などの不具合があると判断すること
を特徴とする請求項1記載の防食状態監視方法。
【請求項3】
同一絶縁区間内で防食用電源が1箇所の排流点で行われる防食システムにおいて、少なくとも2箇所の計測地点で直流計測装置を装着することにより防食電流を計測し、上記各計測地点間の電流量の差異を算出し、下流側(絶縁端)電流が上流(電源)側電流値に対して基準値以上減衰している場合、該計測点間の塗覆装に不具合があると判断すること
を特徴とする請求項1記載の防食状態監視方法。
【請求項4】
塗覆装に不具合があるか否かの判断を、上記電流計測装置に対して通信網を介して接続された制御装置により実行すること
を特徴とする請求項2又は3記載の防食状態監視方法。
【請求項5】
上記制御装置により塗覆装に不具合があると判断された場合に、上記通信網を介して上記防食電流を流す外部電源装置にアクセスし、その流すべき防食電流量を制御すること
を特徴とする請求項4記載の防食状態監視方法。
【請求項6】
直流計測装置を絶縁継手近傍に装着し絶縁継手の絶縁性能を調査すること
を特徴とする請求項1記載の防食状態監視方法。
【請求項7】
2箇所以上の防食用電源により、電気防食を施した区間において防食電流の電流方向の反転または減少が起こった場合に電流の下流方向に異常があると判断すること
を特徴とする請求項1記載の防食状態監視方法。
【請求項8】
塗覆装および電気防食が施された埋設金属の防食状態を監視する防食状態監視システムにおいて、
少なくとも1箇所の計測地点で該埋設金属の防食電流の大きさ及び流れる方向を非接触で測定する直流計測装置と、
防食電位を判別する防食電位測定装置と、
上記直流計測装置により測定された防食電流の電流量および流れる方向を通信網を介して識別するとともに、上記防食電位測定装置により判別された防食電位を通信網を介して取得する制御装置とを備え、
上記制御装置は、上記識別した防食電流の電流量および流れる方向に基づいて、直流電流測定値を判別し、この判別した直流電流測定値と上記取得した防食電位とに基づいて、塗覆装及び埋設金属の防食状態を評価すること
を特徴とする防食状態監視システム。
【請求項9】
同一絶縁区間内で防食用電源が1箇所の排流点で行われる防食システムにおいて、上記制御装置は、防食電流の電流量および流れる方向を継続して監視し、防食電流の増加を検知した場合、防食電流の下流(絶縁端)方向に塗覆装に損傷などの不具合があると判断すること
を特徴とする請求項8記載の防食状態監視システム。
【請求項10】
同一絶縁区間内で防食用電源が1箇所の排流点で行われる防食システムにおいて、上記直流計測装置は、少なくとも2箇所の計測地点に装着され、
上記制御装置は、上記各計測地点間の電流量の差異を算出し、下流側(絶縁端)電流が上流(電源)側電流値に対して基準値以上減衰している場合、該計測点間の塗覆装に不具合があると判断すること
を特徴とする請求項8記載の防食状態監視システム。
【請求項11】
上記制御装置は、塗覆装に不具合があると判断した場合に、上記通信網を介して上記防食電流を流す外部電源装置にアクセスし、その流すべき防食電流量を制御すること
を特徴とする請求項8〜10のうち何れか1項記載の防食状態監視システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−33133(P2007−33133A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214281(P2005−214281)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】