説明

降温用噴霧システム

【課題】冷却エネルギー効率が良く、下を通行する人を濡らさずに高さがいろいろな構造物を用いて構成する降温用噴霧システムを提供する。
【解決手段】降温用噴霧システムは、水をミストとして噴霧して対象の空間の温度を低下する降温用噴霧システムにおいて、水をミストとして噴霧する噴霧ノズルの設置高さとミストの噴霧量は、噴霧ノズルから噴霧されるミストのザウター平均粒径に基づいて設定する。また、ザウター平均粒径が10〜22μmのとき、噴霧ノズルの設置高さを3.5〜6mに、噴霧量を3〜20cm/m・minに、また、ザウター平均粒径が15〜27μmのとき、噴霧ノズルの設置高さを6〜10mに、噴霧量を3〜40cm/m・minに、また、ザウター平均粒径が20〜30μmのとき、噴霧ノズルの設置高さを10〜16mに、噴霧量を6〜80cm/m・minに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、博覧会のパビリオンなど集客施設に設けられ、ミストの蒸散による潜熱による冷却作用を用いる降温用噴霧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の降温用噴霧システムは、集客施設などの入口またはその付近に建てられた柱などの構造物に装備された噴霧ノズル、その噴霧ノズルに加圧水を供給するポンプ、ポンプから噴霧ノズルに加圧水が導水される配水管から構成されている。そして、冷却が必要になったとき、その噴霧ノズルからミストを噴霧させ、ミストの蒸散にともなう潜熱によって集客施設を冷却している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−109341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、適切な位置から噴霧できるように新規に柱を建てると、費用が嵩んでしまい、実用化に適さないシステムになってしまうという問題がある。
そこで、既存の構造物に噴霧ノズルを装備することにより、システムの費用を低減することができるが、既存の構造物の高さがいろいろあるので、対象の空間を適切に冷却することが難しいという問題がある。例えば、通常の電柱のように高さが10mを越える構造物に装備された噴霧ノズルからミストを噴霧すると、冷却効果を充分に発揮することができない。また、通常の街路灯のような高さ10m未満の構造物に装備された噴霧ノズルからミストを噴霧すると、大きな水滴が下を通行している人を濡らしてしまうという問題がある。
また、常に噴霧されるミストの直径を小さくしようとして、高圧空気を用いて2流体噴流とした場合、ミストの大きさが10μm以下にすることができ、噴霧ノズルを高さの低い構造物に装備することができるが、高圧空気を供給するために非常に大量のエネルギーを消費しなければならず、冷却エネルギー効率が悪いという問題がある。
【0005】
この発明の目的は、冷却エネルギー効率が良く、下を通行する人を濡らすことなく高さのいろいろな構造物を用いて構成する降温用噴霧システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる降温用噴霧システムは、水をミストとして噴霧して対象の空間の温度を低下する降温用噴霧システムにおいて、水をミストとして噴霧する噴霧ノズルの設置高さとミストの噴霧量は、上記噴霧ノズルから噴霧されるミストのザウター平均粒径に基づいて設定される。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係わる降温用噴霧システムの効果は、ミストのザウター平均粒径に基づいて噴霧ノズルの設置高さおよびミストの噴霧量を設定するので、人を濡らすことなく適切に冷却することができる。また、高さがいろいろある既存の構造物に噴霧ノズルを装備するときその構造物の高さに基づいてミストのザウター平均粒径を調整すれば、人を濡らすことなく適切に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わる降温用噴霧システムの構成図である。図2は、実施の形態1に係わる噴霧ヘッドの平面図である。図3は、実施の形態1に係わる噴霧ヘッドの断面図である。図4は、実施の形態1に係わる噴霧ノズルの中心軸に沿った断面図である。図5は、噴霧ノズルから噴霧されたミストの粒度分布図である。図6は、噴霧ノズルからミストが噴霧される様子を表す図である。図7は、加圧水供給装置の構成図である。図8は、ミスト制御盤の機能ブロック図である。図8は、ミストの噴霧のタイミングチャートである。
なお、図2は、噴霧ヘッドを図3のBB断面から下方に見た一部断面図である。また、図3は、噴霧ヘッドを図2のAA断面から水平方向に見た断面図である。
【0009】
実施の形態1に係わる降温用噴霧システム1は、図1に示すように、地上から縦立された2本の柱2の先端にそれぞれ設けられた噴霧ヘッド3、噴霧ヘッド3に供給される加圧水が導水される子配水管4、子配水管4を介して加圧水を供給する加圧水供給装置5、周囲の温度と湿度を測定して加圧水供給装置5に送信する温湿度計6が備えられている。加圧水供給装置5には水道7から水が供給されている。なお、2本の柱2を例に挙げて説明するが、冷却する施設の大きさに従って適宜本数を定めればよい。
また、噴霧ヘッド3は、地上から縦立されている柱の先端に設けられたことを記載したが、天井から吊り下げられていてもよい。
【0010】
噴霧ヘッド3は、図2に示すように、子配水管4を通して導水された加圧水を6個の噴霧ノズル10に均等に圧力が掛かるよう分配する噴霧ヘッダ11、噴霧ヘッダ11から噴霧ノズル10を所定の距離離すために設けられる6本の延長配管12、加圧水をミストにして噴霧する6個の噴霧ノズル10から構成されている。そして、噴霧ノズル10の設置高度は、4mである。なお、噴霧ノズル10の設置高度は、ミストのザウター平均粒径および90%累積体積粒径に基づいて設定される。
ここで、6個の噴霧ノズル10を噴霧ヘッド3に設けることを記載したが、これに限定されず、噴霧ノズル10は1個からN個であればよい。
【0011】
噴霧ヘッダ11は、図2、図3に示すように、中心軸が鉛直方向に配され、断面が6角形の空洞15が内部に形成されている6角柱である。そして、6角柱の下側の端面の中心に子配水管4が連結される孔16が設けられ、外側と断面が6角形の空洞15とが連通されている。また、6角柱の各側面の中心に延長配管12が連結される孔17が設けられ、外側と断面が6角形の空洞15とが連通されている。加圧水は片方の端面の孔16から注水され、6個の側面の孔17から延長配管12に給水されていく。噴霧ヘッダ11は、ステンレスからできている。
【0012】
延長配管12は、図3に示すように、円筒管であり、噴霧ヘッダ11の側面に垂直に一方の端部が取り付けられ、長手方向に下向きに彎曲し、他方の端部では、噴霧ヘッダ11の下側の端面を含む水平面から円筒管の中心軸が角度θ=22.5°お辞儀するように傾いている。延長配管12は、ステンレスからできている。
その延長配管12の他方の端部には、直管18が取り付けられ、そこに噴霧ノズル10が嵌合されている。なお、1つの直管18から分岐して圧力変換器(株式会社共和電業製、型式PVD−100ka、測定レンジ0〜10MPa)14が取り付けられて、噴霧ノズル10の加圧水受け空洞21に掛かる水圧を計測し、それを噴霧水圧としている。通常は、この噴霧水圧と高圧ポンプの出力水圧との関係を予め求めておいて、高圧ポンプの出力水圧を管理することにより、噴霧水圧を管理する。なお、水圧の測定には、ブルドン管圧力計などを用いてもよい。また、直管18は、ステンレスからできている。
このように接続された噴霧ノズル10の中心軸は、噴霧ヘッダ11の下側の端面を含む水平面から角度θ22.5°下方に傾いている。
【0013】
噴霧ノズル10は、図4に示すように、略円筒状のハウジング19を有している。そして、円筒状のハウジング19の中心軸に沿って、延長配管12を介して供給された加圧水を受ける断面が円形の加圧水受け空洞20、加圧水受け空洞20の下流側に位置し、断面が加圧水受け空洞20の径より小さい円形の空洞21、感圧逆止弁22を収納し、断面が空洞21の径より大きい円形であり、下流側の端面の外縁部が中心方向に突き出されたリブ23により仕切られた弁収納空洞24、駒25を収納し、リブ23の下流側に位置し、断面が加圧水受け空洞20の径と等しい円形の空洞26およびその空洞26に連なる漏斗状の空洞27からなる噴流生成空洞28、漏斗状の空洞27の先端に連なるオリフィス29が連なるようにして設けられている。
【0014】
そして、弁収納空洞24には、空洞21の下流側の開口21aを閉鎖/開放する感圧逆止弁22が挿入されている。
感圧逆止弁22は、空洞21の下流側の開口21aに当接したとき、加圧水の流れを遮断する遮断球30、一端が遮断球30に当接し、他端がリブ23に固定され、遮断球30に所定のバネ圧が掛けられるように撓んでいるバネ31から構成されている。
そして、空洞21の水圧が所定のバネ圧を越えたとき、遮断球30と空洞21の開口21aとが離反して、その隙間から弁収納空洞24に水が流れ込む。
【0015】
ここで、遮断球30が開口21aに当接しているときのバネ圧が、0.2、0.4、1.0MPaからなるバネ31をそれぞれ備える3種類の噴霧ノズル10を用意し、水の圧力を0MPaから2MPaまで4秒間で変化させ、噴霧されたミストの粒径をレーザ回折粒径測定器(Malvern社製、スプレーテックRTS5000)を用いて測定した。測定点は、噴霧ノズル10の中心軸上でオリフィス29の先端から50mm離れた箇所とした。その結果、図示しないが、バネ圧が0.2MPaでは、棒状放水となり、通行人を濡らしてしまう。
そして、バネ圧が大きくなるに従い、径の大きなミストが少なくなり、図5に示すように、バネ圧が0.4MPaの噴霧ノズル10から噴霧されるミストは、90%累積体積粒径D(90)が160μm以下になり、大きな径の液滴が落下して通行人を濡らすことがなくなる。
さらに、バネ圧が1.0MPaの噴霧ノズル10から噴霧されるミストは、90%累積体積粒径D(90)が60μm以下となり、ミストが通行人に当たることもなくなる。
また、所定のバネ圧が噴霧水圧に近い1.8MPaの噴霧ノズル10では、遮断球30が開口21aから充分に離反できないので、噴霧量に制約を受けてしまい、バネ圧が1.5MPaの噴霧ノズル10では、噴霧量の制約は見られない。このような理由から所定のバネ圧は、0.6MPa以上、1.5MPa以下が好ましい。
【0016】
さらに、噴流生成空洞28では、加圧水を旋回噴流として噴出し、漏斗状の空洞27の内側面に衝突させるための駒25が円柱状の空洞26の内側面に接しながら噴霧ノズル10の中心軸方向に摺動しながら移動する。駒25には、側面に螺旋状の溝32が掘られ、その溝32と円柱状の空洞26の内側面とにより加圧水を旋回して噴出する旋回流路が形成される。
【0017】
次に、噴霧ノズル10において加圧水が噴霧される手順について説明する。
加圧水受け空洞20に加圧水が注水され、水圧が所定の値に達すると、遮断球30を押して加圧水が弁収納空洞24内に流れ込む。
そして、リブ23の中央に形成された孔23aから加圧水が駒25の一方の端面を押して駒25が噴霧ノズル10の中心軸に沿って漏斗状の空洞27の方向に移動され、駒25の側面の溝32を通って加圧水が旋回されながら通過し、溝32の端部から噴流される。
この噴流が漏斗状の空洞27の内側面に衝突して、衝突噴流になりミストとしてオリフィス29から噴霧される。
【0018】
次に、噴霧されたミストについて説明する。この発明におけるミストは、小さな径の水滴を意味する。そして、ミストの平均粒径は、レーザ回折粒径測定器で体面積平均粒径(ザウター平均粒径と称す。)を5回測定した平均値である。
実施の形態1で使用した噴霧ノズル10から噴霧水圧6MPaのときザウター平均粒径が20μmであった。なお、噴霧水圧が2MPa未満であるとミストのザウター平均粒径が大きくなるとともに噴霧量が少なくなり、冷却効果が小さくなってしまう。また、噴霧水圧が高いとミストの平均粒径が小さくなるとともに噴霧流量が多くなるが、噴霧水圧が10MPaを越えると配管などに大きな水撃が加わり、安全上好ましくない。これらの理由から噴霧水圧は、2MPa以上で10MPa以下が好ましい。なお、ミストの平均粒径として、レーザ回折粒径測定器を用いて測定しているが、他にドプラー位相粒径測定器などを用いて測定してもよい。このとき、測定器の種類により、平均粒径が異なるので、同一条件で噴霧したミストを測定して対比することが必要である。
【0019】
次に、ミストの噴霧の様子について説明し、噴霧領域を定義する。ミストは、図6に示すように、オリフィス29の近傍では、噴霧ノズル10の中心軸上に中心線を有し、オリフィス29の出口を頂点とする円錐内に噴霧される。この円錐の領域を噴霧領域34と称し、円錐の頂角を噴角35と称す。また、この噴霧領域34の側面を噴霧外縁36と称す。
この噴霧領域34は、オリフィス29の形状を調整することにより噴角35を調整することができる。噴角35を小さくすると、ミストを遠くまで飛ばすことができるし、噴角35を大きくすると、ミストが噴霧ノズル10の近くに漂うことになる。通常、噴角35を45度くらいにすることが好ましいが、45度に限るものではない。
このように噴角35を調整することにより、噴霧領域34がオリフィス29を横切る水平面の下方に位置することができる。
【0020】
そして、風が吹いていないとき、ミストが蒸散することにより周囲の空気が冷却され、下降気流が発生するので、噴霧されたミストは、下降気流にともなって降下していく。そして、下降の途中でミストが蒸散しつくす。ミストが蒸散することにより潜熱が空気から奪われ、空気が冷やされる。
一方、地面に水平の風が吹いているとき、ミストは下降しながら風の方向に流されていく。しかし、噴霧ヘッダ11の下側の端面を含む水平面より下方に噴霧外縁36が位置するので、ミストが水平に流されても、噴霧ヘッダ11に当たることがない。
また、噴霧領域34が柱2や子配水管4からみてオリフィス29の先端から離れており、そのオリフィス29の先端が延長配管12により柱2や子配水管4から離れているので、ミストが水平方向に流されても、延長配管12の長さだけ移動する間に拡散や蒸散してしまうので、ミストが柱2や子配水管4に当たることがない。
また、延長配管12が下向きに彎曲しているので、上向きの風が吹かないとミストが延長配管12に当たることが防げる。
【0021】
加圧水供給装置5は、図7に示すように、高圧ポンプ40、高圧ポンプ40の下流側に配設された元弁41、主配水管42内の水を排水する流路を開閉する排水弁43、各噴霧ヘッド3への加圧水の供給を選択する選択弁44、高圧ポンプ40および各種弁を制御するミスト制御盤45から構成されている。選択弁44は、子配水管4がそれぞれ接続されている。ミスト制御盤45に、温湿度計6で計測された乾球温度および湿球温度が入力される。
【0022】
そして、元弁41と選択弁44とは、主配水管42で連通され、主配水管42の途中から分岐する排水配管46により排水弁43が主配水管42に連通されている。主配水管42、排水配管46、子配水管4はそれぞれステンレスからできている。また、高圧ポンプ40と元弁41とは、ゴム製のブレードホース47により連通され、容積式の高圧ポンプ40により発生する脈動を平滑化している。
また、加圧水中に含まれる塵埃を取り除くために、高圧ポンプ40の出口に図示しない20μm角開口のフィルタが介在されている。
また、主配水管42、子配水管4、噴霧ヘッド3にスケールが沈積しないように、金属イオンの少ない加圧水を供給するために、高圧ポンプ40に図示しない軟水器から軟水化された水道水が供給されている。
【0023】
ミスト制御盤45は、図8に示すように、温湿度計6により計測された乾球温度および湿球温度に基づいて噴霧の可否を判断する噴霧判断手段50、噴霧可の場合、噴霧量を算出して、高圧ポンプ40からの給水量を制御する給水量制御手段51、高圧ポンプ40および各種弁を制御する噴霧シーケンス制御手段52、湿り空気線図が記憶されている空気線図データベース53を有している。このミスト制御盤45は、CPU、RAM、ROM、インタフェース回路を有するコンピュータから構成されている。
【0024】
次に、加圧水を高圧ポンプ40から供給するシーケンスについて図9を参照して説明する。
ミスト制御盤45の噴霧シーケンス制御手段52は、まず元弁41を開放する。同時に排水弁43を開放する。
次に、噴霧シーケンス制御手段52は、高圧ポンプ40の作動を開始して、加圧水をブレードホース47から主配水管42に送水する。そうすると、主配水管42内に残っている空気が排水弁43から水と一緒に押し出されて、主配水管42内が均一な水圧が掛かるようになる。
次に、噴霧シーケンス制御手段52は、排水弁43を閉じる。それにより、主配水管42内の水圧が所望の水圧、例えば、6MPaに達する。
次に、噴霧シーケンス制御手段52は、噴霧を行う噴霧ヘッド3に連なる選択弁44を開放して、加圧水が子配水管4を経由して上昇圧力波として伝搬し、噴霧ヘッド3に水が供給される。このときの加圧水受け空洞20に注水されて加わる水圧は4秒の間にほぼ0MPaから6MPaに達する。このように水圧が1MPa以上になると、噴霧ノズル10の感圧逆止弁22が開放されてミストの噴霧が開始される。
【0025】
逆に、ミストの噴霧を終了するときには、噴霧シーケンス制御手段52は、排水弁43を開放することにより下降圧力波が子配水管4内を伝搬され、噴霧ノズル10の加圧水受け空洞内の水圧が1MPa以下に低下するので、感圧逆止弁22が閉まり、ミストの噴霧が停止される。
そして、排水弁43が開放されてから約3秒経過後高圧ポンプ40の作動を停止し、選択弁44を閉じる。その後、元弁41と排水弁43とを閉じる。
【0026】
このように、主配水管42内の水圧を所望の値に一旦安定したのち、子配水管4に給水することにより、図10に示すように、噴霧ノズル10に給水される加圧水の水圧が数秒の間で0MPaから6MPaに変化することができる。そして、感圧逆止弁22が急激に開放され、水圧の低い状態で噴霧される時間を短くすることができるので、水圧が低い状態で噴霧されたときにみられる大きな粒径のミストが殆ど噴霧されることがない。
また、図11に示すように、排水弁43を開放すると主配水管42内の水圧が急激に低下し、感圧逆止弁22が急激に閉められ、水圧の低い状態で噴霧される時間が短くすることができるので、水圧が低い状態で噴霧されたときにみられる大きな粒径のミストが殆ど噴霧されることがない。
【0027】
なお、主配水管42に複数の子配水管4が接続されているとき、全ての子配水管4を同時に連通して、全ての噴霧ヘッド3に水を配水してもよいが、好ましくは、図9に示すように、1つの選択弁44をまず開放してそれに連なった噴霧ヘッド3から噴霧を開始し、次に、他の選択弁44を開放することにより、同時に選択弁44を開放するときより、噴霧ノズル10に加わる水圧が急激に噴霧水圧に達し、水圧の低い時間が短く、径の大きな水滴が落下することを防ぐことができる。
【0028】
次に、ミストの噴霧量の設定方法について図12、図13を参照しながら説明する。
なお、前提として噴霧されたミストは少なくとも1分間で蒸散される。延長配管12の長さを15cmとし、噴霧ノズル10から噴霧されたミストは、1m内に存在しているとして、噴霧量を定める。
噴霧判断手段50は、温湿度計6から入力される乾球温度DT(℃)および湿球温度WT(℃)から湿り空気線図に基づき相対湿度RH(%)を算出する。例えば、図12に示すように、乾球温度DTが30℃、湿球温度WTが20℃であった場合、湿り空気線図の横軸に表されている湿球温度WTの20℃から縦軸方向に延ばして相対湿度100%の線と交わる露点DPを求める。その露点DPから横軸方向に延ばして絶対湿度AH(kg/kg’)を求める。図12に示される例では、絶対湿度AHが0.015kg/kg’である。さらに、露点DPから横軸方向に延ばされた線と湿り空気線図の横軸に表されている乾球温度DTが30℃から縦軸方向に延ばされた線との交点Bを求める。そして、交点Bが交わる相対湿度RH(%)を求める。図12の場合、相対湿度RHは65%である。
【0029】
次に、噴霧判断手段50は、相対湿度RHが75%以上の場合、ミストを噴霧しても相対湿度が高すぎることになるため感覚温度が下がったと感じられないので、ミストの噴霧を行わない。逆に、相対湿度RHが75%未満の場合、ミストを噴射することにより感覚温度が下がったと感じられるのでミストの噴霧を行う。
【0030】
次に、給水量制御手段51は、温湿度計6の乾球温度DTが暑い閾値HHTTH(図12、図13において太い一点鎖線で示してある。)、または少し暑い閾値LHTTH(図12、図13において太い点線で示してある。)以上であるか否かを判断し、噴霧量を求める。すなわち、図12に示すように、乾球温度DTが予め定められた少し暑い閾値LHTTH以上の場合、湿り空気線図に基づき、交点Bが交わる等エンタルピの線と乾球温度DTより1℃低い温度から縦軸方向に延ばされた線との交点Cを求める。そして、交点Cから横軸方向に延ばして絶対湿度AH’(kg/kg’)を求める。そして、絶対湿度AH’から絶対湿度AHを減算して、ミストの噴霧量JW(kg)を求める。この噴霧量JWが1分間に1mの空間に噴霧することにより、1℃温度を低下することのできる量である。図12においては、絶対湿度AHが0.015kg/kg’、絶対湿度AH’が0.0155kg/kg’であるので、ミストの噴霧量JWは、0.0005kgとなる。そして、1分間に1m当たり0.0005kgのミストを噴霧することにより1℃冷却することができる。
【0031】
また、図13に示すように、乾球温度DTが予め定められた暑い閾値HHTTH以上の場合、湿り空気線図に基づき、交点Eが交わるエンタルピの線と乾球温度DTより2℃低い温度から縦軸方向に延ばされた線との交点Fを求める。そして、交点Fから横軸方向に延ばして絶対湿度BH’(kg/kg’)を求める。そして、絶対湿度BH’から絶対湿度BHを減算して、ミストの噴霧量JWを求める。図13において、絶対湿度BHが0.0198kg/kg’、絶対湿度BH’が0.0208kg/kg’であるので、ミストの噴霧量JWは、0.001kgとなる。そして、1分間に1m当たり0.001kgのミストを噴霧することにより2℃冷却することができる。
【0032】
このように噴霧ノズル10から噴霧されるミストのザウター平均粒径が20μm、ミストの90%累積体積粒径D90が80μm未満の場合、噴霧ノズル10の設置高さを4mとしても下方を通行する人を濡らさずに、所望の温度、例えば1℃や2℃、冷却することができる。
そこで、ミストのザウター平均粒径、噴霧ノズル10の設置高さ、噴霧量を変化させたとき、人が濡れるか否か、および冷却効果について実験を行った。
図14は、ザウター平均粒径を10μm以上で22μm以下、ミストの90%累積体積粒径D90を80μm未満に調整したときの冷却効果および人の濡れに関する実験結果である。この実験では、噴霧量を2、3、10、20、22cm/m・minと変化させた。また、噴霧ヘッド10の設置高さを3、3.5、6、6.5mと変化させた。
冷却効果に関する実験結果を示す図14(a)から分かるように、噴霧量が2cm/m・minでは設置高さに係わらず冷却効果がNGであった。また、噴霧量が3cm/m・minで設置高さが6.5mでも冷却効果がNGであった。
また、人の濡れに関する実験結果を示す図14(b)から分かるように、設置高さが3mで噴霧量が10、20、22cm/m・minでは人が濡れ、設置高さが3.5mで噴霧量が22cm/m・minのときも人が濡れる。このようにザウター平均粒径が10μm以上で22μm以下、ミストの90%累積体積粒径D90が80μm未満の場合、噴霧量は3cm/m・min以上で20cm/m・min以下が好ましいことが分かる。また、設置高さは3.5m以上で6m以下が好ましい。
【0033】
図15は、ザウター平均粒径を15μmを越え、27μm以下、ミストの90%累積体積粒径D90を80μm以上で100μm未満に調整したときの冷却効果および人の濡れに関する実験結果である。この実験では、噴霧量を2、3、20、40、44cm/m・minと変化させた。また、噴霧ヘッド10の設置高さを5、6、10、11mと変化させた。
冷却効果に関する実験結果を示す図15(a)から分かるように、噴霧量が2cm/m・minでは設置高さに係わらず冷却効果がNGであった。また、噴霧量が3cm/m・minで設置高さが11mでも冷却効果がNGであった。
また、人の濡れに関する実験結果を示す図15(b)から分かるように、設置高さが5mで噴霧量が20、40、44cm/m・minでは人が濡れ、設置高さが6mで噴霧量が44cm/m・minのとき人が濡れる。このようにザウター平均粒径が15μmを越え、27μm以下、ミストの90%累積体積粒径D90が80μm以上で100μm未満の場合、噴霧量は3cm/m・min以上で40cm/m・min以下が好ましいことが分かる。また、設置高さは、6m以上で10m以下が好ましい。
【0034】
図16は、ザウター平均粒径を20μmを越え、30μm以下、ミストの90%累積体積粒径D90を100μm以上で120μm未満の場合の冷却効果および人の濡れに関する実験結果である。この実験では、噴霧量を4、6、40、80、86cm/m・minと変化させた。また、噴霧ヘッド10の設置高さを9、10、15、16mと変化させた。
冷却効果に関する実験結果を示す図16(a)から分かるように、噴霧量が4cm/m・minでは設置高さに係わらず冷却効果がNGであった。また、噴霧量が6cm/m・minで設置高さが16mでも冷却効果がNGであった。
また、人の濡れに関する実験結果を示す図16(b)から分かるように、設置高さが9mで噴霧量が40、80、86cm/m・minでは人が濡れ、設置高さが10mで噴霧量が86cm/m・minのときも人が濡れる。
このようにザウター平均粒径が20μmを越え、30μm以下、ミストの90%累積体積粒径D90が100μm以上で120μm未満の場合、噴霧量は6cm/m・min以上で80cm/m・min以下が好ましいことが分かる。また、設置高さは、10m以上で16m未満が好ましい。
【0035】
このような降温用噴霧システム1は、噴霧ノズル10の設置高さに従ってミストの粒径、噴霧量を調整することにより人を濡らさずに適切に冷却することができるので、高さがいろいろある既存の構造物を用いることができる。
【0036】
また、オリフィス29から噴霧されるミストがオリフィス29を横切る水平面よりも下方にあるので、子配水管4などにミストが当たって液滴となり、下方に落下して、子配水管4などの下方にいる人を濡らすことを防止することができる。
【0037】
また、地面から立ち上がった子配水管4が噴霧ヘッダ11に下側の端面において接続され、噴霧されたミストが風に流されても延長配管12により子配水管4から離間されているので、ミストが子配水管4や噴霧ヘッダ11上で結露し、水滴が下方に落ちることがない。
【0038】
また、延長配管12により噴霧ノズル10を広い空間に分散して配設できるので、少ない子配水管4で広い空間に噴霧できる。
また、噴霧ヘッダ11に予め延長配管12および噴霧ノズル10を工場で取り付けておき、現地で噴霧ヘッド3を子配水管4に接続すれば良いので、現場での作業を簡略化することができる。
【0039】
なお、延長配管12が同一の長さ、彎曲も同様とした例について説明したが、例えば、長さが長い延長配管12を彎曲の小さいものにし、長さの短い延長配管12を彎曲の大きなものにしてもよい。このようにすると、より均等にミストを噴霧することができる。このように、延長配管12の長さや彎曲の度合いはそれぞれ異なっていても、噴霧領域が噴霧ヘッダ11の下面を含む水平面より下方になるように噴霧ノズル10からの噴角と噴霧ノズル10の中心軸の水平面からの角度θを調整すれば、噴霧ヘッド3にミストが結露して水滴が滴下することを防げる。
【0040】
また、延長配管12が長くすることができる場合、噴霧ノズル10の中心軸の水平面からの角度θを小さくし、延長配管12が長くすることができない場合、噴霧ノズル10の中心軸の水平面からの角度θを大きくしてもよい。すなわち、長さの長い延長配管12、例えば、25cmの場合、噴霧ノズル10の中心軸の水平面からの角度θを30°傾けることにより、液滴の落下が見られなくなるし、延長配管12の長さが15cmの場合、噴霧ノズル10の中心軸の水平面からの角度θを40°傾けることにより、液滴の落下が見られなくなる。
【0041】
また、延長配管12を彎曲して噴霧ノズル10の中心軸を噴霧ヘッダ11の下面を含む水平面から下方に傾けているが、その傾ける角度θと噴霧領域の噴角との関係を説明する。この発明においては、少なくとも噴角の半分、例えば、噴角が60°、70°、80°の場合、水平面からの角度θを30°、35°、40°以上傾くように延長配管12を彎曲する。但し、柱2が地面から縦立されており、さらに柱2に沿って子配水管4が配設されているときは、噴霧外縁が鉛直以上に柱2側に入ってしまうので、ミストが柱2に当たってしまう。そこで、噴霧ヘッダ11の下方に柱2や子配水管4がある場合、噴霧外縁が鉛直以上に柱側に寄らないようにすることが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる降温用噴霧システムの構成図である。
【図2】この発明の噴霧ヘッドの一部横断面図である。
【図3】この噴霧ヘッドの断面図である。
【図4】噴霧ノズルの中心軸に沿った断面図である。
【図5】噴霧されたミストの粒度分布の測定結果を示す図である。
【図6】噴霧ノズルからミストが噴霧される様子を表す図である。
【図7】実施の形態1に係わる加圧水供給装置の構成図である。
【図8】実施の形態1に係わるミスト制御盤の機能ブロック図である。
【図9】実施の形態1の加圧水供給装置により制御されたミストの噴霧のタイミングチャートである。
【図10】噴霧を始めるときに噴霧ノズルに加わる水圧の変化の様子を示す図である。
【図11】噴霧を終わらせるときに噴霧ノズルに加わる水圧の変化の様子を示す図である。
【図12】噴霧量を決めるための値が記入された湿り空気線図である。
【図13】他の条件の下、噴霧量を決めるための値が記入された湿り空気線図である。
【図14】ザウター平均粒径を10μm以上で22μm以下、ミストの90%累積体積粒径を80μm未満に調整したときの冷却効果および人の濡れに関する実験結果である。
【図15】ザウター平均粒径を15μmを越え、27μm以下、ミストの90%累積体積粒径を80μm以上で100μm未満に調整したときの冷却効果および人の濡れに関する実験結果である。
【図16】ザウター平均粒径を20μmを越え、30μm以下、ミストの90%累積体積粒径を100μm以上で120μm未満の場合の冷却効果および人の濡れに関する実験結果である。
【符号の説明】
【0043】
1 降温用噴霧システム、2 柱、3 噴霧ヘッド、4 子配水管、5 加圧水供給装置、6 温湿度計、7 水道、10 噴霧ノズル、11 噴霧ヘッダ、12 延長配管、14 圧力変換器、15 空洞、16、17 孔、18 直管、19 ハウジング、20、21 空洞、21a 開口、22 感圧逆止弁、23 リブ、23a 孔、24 弁収納空洞、25 駒、26、27 空洞、28 噴流生成空洞、29 オリフィス、30 遮断球、31 バネ、32 溝、34 噴霧領域、35 噴角、36 噴霧外縁、40 高圧ポンプ、41 元弁、42 主配水管、43 排水弁、44 選択弁、45 ミスト制御盤、46 排水配管、47 ブレードホース、50 噴霧判断手段、51 給水量制御手段、52 噴霧シーケンス制御手段、53 空気線図データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水をミストとして噴霧して対象の空間の温度を低下する降温用噴霧システムにおいて、
水をミストとして噴霧する噴霧ノズルの設置高さとミストの噴霧量は、上記噴霧ノズルから噴霧されるミストのザウター平均粒径に基づいて設定されることを特徴する降温用噴霧システム。
【請求項2】
上記ザウター平均粒径が10μm以上で22μm以下のとき、上記噴霧ノズルの設置高さは3.5m以上、6m以下に、上記噴霧量は3cm/m・min以上、20cm/m・min以下に設定されることを特徴とする請求項1に記載する降温用噴霧システム。
【請求項3】
上記ザウター平均粒径が15μmを越え、27μm以下のとき、上記噴霧ノズルの設置高さは6m以上、10m以下に、上記噴霧量は3cm/m・min以上、40cm/m・min以下に設定されることを特徴とする請求項1に記載する降温用噴霧システム。
【請求項4】
上記ザウター平均粒径が20μmを越え、30μm以下のとき、上記噴霧ノズルの設置高さは10m以上、16m未満に、上記噴霧量は6cm/m・min以上、80cm/m・min以下に設定されることを特徴とする請求項1に記載する降温用噴霧システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2006−177578(P2006−177578A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369048(P2004−369048)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、16年度経済産業省中部経済産業局地域新生コンソーシアム研究開発事業「ドライミスト蒸散効果によるヒートアイランド抑制システムの開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】