説明

除雪装置及び同除雪装置が装着される車両

【課題】車両に除雪板を装着して除雪作業を可能にする除雪装置において、除雪作業中に車両が高負荷状態で運転される場合にあっても、駆動系の過熱による不具合の発生を抑制することのできる除雪装置を提供する。
【解決手段】車両に対して着脱可能な除雪装置は、その除雪板10に形成された放熱通路20と、エンジン冷却水の循環経路に着脱可能に接続されて循環経路と放熱通路20とを連通するインレットホース21及びアウトレットホース22とを備えている。そして、この除雪装置は循環経路からインレットホース21を通じてエンジン冷却水を放熱通路20に循環させて放熱通路20からアウトレットホース22を通じて循環経路に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に着脱可能な除雪装置と同除雪装置が装着される車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般車両に着脱可能な除雪装置として、例えば特許文献1には、図8に示されるように自動車1に着脱可能な支持部材2と、支持部材2に連結されたと除雪板3とを備えた除雪装置4が記載されている。この除雪装置4によれば、支持部材2を自動車1の前部に装着することにより除雪板3を自動車1に固定し、自動車1を前進させることによって除雪板3で積雪を押し分けて除雪作業を行うことができるようになる。
【0003】
こうした除雪装置によれば、除雪専用車両によらずとも、一般車両の駆動力を利用して比較的容易に除雪作業を行うことができるようになる。
【特許文献1】特開2001‐329517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうした除雪装置を一般車両に装着して除雪作業を行う際には、除雪板に集積する雪を押し分けて進むため、車両の駆動系に大きな負荷が作用する状態が継続し、駆動系の温度が上昇しやすくなる。そのため、駆動系が過熱状態に陥りやすくなり、各部の焼き付きや構成部品の過度な熱変形に起因する故障や破損等を招くおそれがある。
【0005】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものでありその目的は、車両に除雪板を装着して除雪作業を可能にする除雪装置において、除雪作業中に車両が高負荷状態で運転される場合にあっても、駆動系の過熱による不具合の発生を抑制することのできる除雪装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、車両に対して着脱可能な除雪板を有する除雪装置において、前記除雪板に形成された放熱通路と、前記車両の駆動系における冷却媒体の循環経路に着脱可能に接続されて同循環経路と前記放熱通路とを連通するインレットホース及びアウトレットホースとを備え、前記循環経路から前記インレットホースを通じて前記放熱通路に供給される冷却媒体を循環させて同放熱通路から前記アウトレットホースを通じて前記循環経路に戻すことをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、車両駆動系の冷却媒体は、循環経路からインレットホースを通じて除雪板に形成された放熱通路に供給され、放熱通路からアウトレットホースを通じて車両の循環経路に排出されるようになる。そのため、インレットホースを通じて除雪板の放熱通路に供給された冷却媒体は、除雪作業中に除雪板に集積される雪によって冷却され、アウトレットホースを通じて車両の循環経路に戻される。その結果、冷却媒体による駆動系の冷却性能が向上し、除雪作業中に車両が高負荷状態で運転される場合にあっても、駆動系の過熱による不具合の発生を抑制することができるようになる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の除雪装置において、前記除雪板は車両前部に取り付けられるものであり、前記循環経路は車両のエンジンに形成されたウォータジャケットと車両前方に配設されたラジエータとの間で前記冷却媒体としてのエンジン冷却水を循環させる冷却水循環経路であることをその要旨とする。
【0009】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の除雪装置において、前記除雪板は車両前部に取り付けられるものであり、前記循環経路は車両の自動変速機と車両前方に配設されたラジエータとの間で前記冷却媒体としての作動油を循環させる作動油循環経路であることをその要旨とする。
【0010】
一般に車両においては、エンジン冷却水を循環させて機関各部の熱を奪うことによってその過度な温度上昇を抑制するようにしている。機関各部の熱によって温められたエンジン冷却水は、車両前方に配設されたラジエータに供給され、走行風等、車両前方から取り込まれた空気との熱交換により冷却される。そして、ラジエータを通じて冷却されたエンジン冷却水は再び機関各部へと送出される。このようにラジエータを通じてエンジン冷却水の放熱、冷却が行われることによって所定の冷却性能が維持される。また、車両走行中は車速が上昇するほど、走行風の量が増大するため放熱作用が促進され、機関高負荷域においても十分な冷却性能が確保される。
【0011】
ところが、車両前方に除雪板を装着し除雪作業を行う場合には、ラジエータの前方に装着された除雪装置により車両前方からの空気の流れが遮られるとともに、雪の重みにより車両の速度が上昇しにくくなるため、走行風の量が著しく減少し、十分な冷却性能を発揮することができなくなるおそれがある。
【0012】
そのため、請求項2に記載の発明のように、除雪板が車両前部に取り付けられるものであり、循環経路が車両のエンジンに形成されたウォータジャケットと車両前方に配設されたラジエータとの間でエンジン冷却水を循環させる冷却水循環経路である場合、又は請求項5に記載の発明のように、循環経路が車両の自動変速機と車両前方に配設されたラジエータとの間で前記冷却媒体としての作動油を循環させる作動油循環経路である場合には、上述した請求項1に記載の発明の構成を採用し、冷却媒体としてのエンジン冷却水又は作動油を除雪板の放熱通路に循環させることが特に望ましい。こうした構成によれば、ラジエータの冷却性能が低下した場合であっても、除雪板に形成された放熱通路の放熱作用により冷却性能の低下を補うことができるようになる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の除雪装置において、前記循環経路は前記ラジエータをバイパスするバイパス通路に設けられエンジン冷却水が所定温度未満であるときに前記ウォータジャケットから吐出されたエンジン冷却水が前記ラジエータを迂回し前記バイパス通路を通じて前記ウォータジャケットに直接戻されるように前記バイパス通路を開閉するサーモスタットバルブを含み、前記インレットホース及びアウトレットホースは前記サーモスタットバルブの開閉状態に応じて前記ラジエータとともにエンジン冷却水が前記放熱通路を迂回する状態とエンジン冷却水が前記放熱通路に供給される状態とが切り換えられる態様で前記循環経路に接続されることをその要旨とする。
【0014】
機関始動直後等のような機関冷間時には、噴射された燃料が霧化し難いため内燃機関の燃焼状態が不安定になりやすい。そこで、冷却水循環経路にサーモスタットバルブを設け、エンジン冷却水が所定温度未満であるときには、ウォータジャケットから吐出されたエンジン冷却水をラジエータを迂回させてウォータジャケットに直接戻すようにしている。こうしてラジエータを迂回してエンジン冷却水を循環させることにより機関冷間時には暖機を促進させるようにしている。この点に鑑み、上記請求項3に記載の発明では、インレットホース及びアウトレットホースをサーモスタットバルブの開閉状態に応じてラジエータとともにエンジン冷却水が放熱通路を迂回する状態とエンジン冷却水が放熱通路に供給される状態とが切り換えられる態様で循環経路に接続するようにしている。そのため、エンジン冷却水が所定温度未満の期間、即ち、機関温度が上昇し燃料の霧化が促進されるまでの期間は、ラジエータとともに除雪板の放熱通路を迂回してエンジン冷却液の循環が行われるようになる。従って、機関冷間時には除雪板の放熱通路におけるエンジン冷却水の冷却を停止して暖機の促進を図ることができるようになる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の除雪装置において、前記車両は自動変速機の作動油とエンジン冷却水との間で熱交換を行う熱交換器を備えることをその要旨とする。
【0016】
除雪装置を装着して除雪作業を行う際には、除雪板に集積する雪を押し分けて進むために大きな駆動力が必要とされる。除雪装置が装着された車両の自動変速機にあっては、大きな駆動力を伝達する状態が継続するため自動変速機の作動油の温度が上昇しやすくなる。そして、作動油の温度が過度に上昇すると作動油が劣化しやすくなり、ひいてはトルク伝達効率の低下や自動変速機各部の焼付きの発生等を招くおそれがある。この点、上記請求項4に記載の発明のように自動変速機の作動油とエンジン冷却水との間で熱交換を行う熱交換器を備えた車両に請求項2又は請求項3に記載の除雪装置を採用すれば、除雪作業中に除雪板の放熱通路を通じて冷却されたエンジン冷却水と自動変速機の作動油との間で熱交換が行われるようになる。従って、熱交換器を通じた作動油の冷却性能を向上させることができるようになり、除雪作業中に温度が上昇しやすい自動変速機の作動油の過熱を抑制することができるようになる。
【0017】
ところで、機関始動直後等の作動油の温度が低いときに、除雪板の放熱通路を通じて冷却されたエンジン冷却水と作動油との間で熱交換を行うと、作動油が過度に冷却されてその粘性が高くなり、駆動力の損失が大きくなるおそれがある。この点、請求項3に記載の発明において、請求項4に記載の構成を適用する場合には、エンジン冷却水の温度が所定温度未満のとき、即ち、同エンジン冷却水との間で熱交換が行われる作動油の温度が低いと推定されるときには、上述したように除雪装置の放熱通路を迂回してエンジン冷却水が循環されエンジン冷却水の冷却作用が抑制されるため、作動油が過度に冷却されてその粘性が高くなることによる駆動損失の増大についても抑制することができるようになる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の除雪装置が装着可能な車両であって、前記インレットホース及びアウトレットホースがそれぞれ着脱可能なコネクタを備えることをその要旨としている。
【0019】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の除雪装置が装着可能な車両は、請求項6に記載の発明のように、インレットホース及びアウトレットホースが着脱可能なコネクタを備えて構成される。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の車両において、前記インレットホース及びアウトレットホースが着脱可能な各コネクタは前記インレットホース及びアウトレットホースを取り外したときに自立的に閉弁する逆止弁を含むことをその要旨とする。
【0021】
また、請求項7に記載されるように、インレットホース及びアウトレットホースが着脱可能なコネクタは、インレットホース及びアウトレットホースを取り外したときに自立的に閉弁する逆止弁を含む構成とすれば、ホースを取り外したときに、エンジン冷却水や自動変速機の作動油等、車両駆動系の冷却媒体が循環経路から外部に漏出することを抑制することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、この発明にかかる除雪装置と同除雪装置が装着される車両の第1の実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
【0023】
まず、図1を参照して除雪装置の構成について説明する。図1は本実施形態にかかる除雪装置の全体構成を示す斜視図である。この除雪装置は、図1に示されるように除雪板10と、同除雪板10を車両に固定する固定プレート11とを備えている。固定プレート11には、一対の支持アーム12が連結されており、この一対の支持アームの先端には除雪板10が連結されている。また、図1に示されるように固定プレート11の両端部には、ベルト穴11aが形成されており、このベルト穴11aに通されたベルト(図示略)によって固定プレート11と車両のフロントバンパとが固定される。こうして固定プレート11を車両のフロントバンパに固定することにより除雪装置が車両前部に装着される。そして、この除雪装置を装着した状態で車両を前進させることにより除雪板10で雪を押し分けて除雪作業を行うことができるようになる。
【0024】
また、除雪板10には、図1に示されるように放熱通路20が形成されている。この放熱通路20には、車両の冷却水通路に着脱可能なインレットホース21とアウトレットホース22とが接続されている。インレットホース21の先端には供給側プラグ30aが、アウトレットホース22の先端には排出側プラグ30bがそれぞれ取り付けられている。この供給側プラグ30a、排出側プラグ30bの構成については、図4を参照して後述する。
【0025】
次に図2を参照して、除雪板10の構成について説明する。除雪板10は、除雪作業中に雪を押し分けるバケット15と、放熱通路20が形成された放熱板25とを組み合わせることによって形成されている。放熱板25内には、図2に示されるようにその上部に設けられた供給口25aから下部に設けられた排出口25bに向かって蛇行して延びる放熱通路20が形成されている。そして、供給口25aにはインレットホース21が、排出口25bにはアウトレットホース22がそれぞれ接続される。
【0026】
一方、バケット15には、その裏面(車両に取り付けられた状態において車両側の面)に図2に示されるように放熱板25が嵌入される凹部15aが形成されており、この凹部15aに放熱板25を嵌入し、溶接等によって凹部15aに固定することにより、除雪板10に放熱通路20が形成される。
【0027】
次に、図3を参照して、上記のように放熱通路20が形成された除雪装置が装着される車両の構成について説明する。図3は、この除雪装置が装着される車両100の駆動系の概略構成を示す模式図である。車両100のエンジン110には、自動変速機120が接続され、この自動変速機120からは車両100の図示しない後輪に駆動力を伝達するプロペラシャフト121が延びている。エンジン110の駆動力は自動変速機120、プロペラシャフト121を介して後輪に伝達される。
【0028】
また、図3に示されるように車両100の前部には、エンジン110各部を循環して温められたエンジン冷却水を冷却するラジエータ111が設けられている。ラジエータ111は、吐出通路112及び流入通路113を介してエンジン110と接続されている。エンジン110各部を循環して温められ、エンジン110から吐出されるエンジン冷却水は、吐出通路112を通じてラジエータ111に供給される。ラジエータ111を通じて放熱、冷却されたエンジン冷却水は、流入通路113を通じてエンジン110に戻され、再びエンジン110各部を循環する。
【0029】
また、エンジン冷却水の一部は、自動変速機120に設けられた放熱器122にも供給され、自動変速機120の作動油との間で熱交換を行う。放熱器122とエンジン110とは、変速機側吐出通路123と変速機側流入通路124とを介して接続されている。エンジン冷却水の一部は、この変速機側吐出通路123を通じて放熱器122に供給される。放熱器122を通じて作動油との間で熱交換を行ったエンジン冷却水は、変速機側流入通路124を通じてエンジン110に戻される。
【0030】
また、吐出通路112及び流入通路113には、除雪装置のインレットホース21及びアウトレットホース22が接続される供給側分岐通路112a、排出側分岐通路113aがそれぞれ接続されている。供給側分岐通路112aの先端部にはインレットホース21の供給側プラグ30aと接続可能な供給側コネクタ130aが、排出側分岐通路113aの先端部にはアウトレットホース22の排出側プラグ30bが接続可能な排出側コネクタ130bがそれぞれ設けられている。インレットホース21及びアウトレットホース22の各プラグ30a,30bと車両の冷却水通路に設けられた各コネクタ130a,130bとを接続することにより、除雪装置に形成された放熱通路20と車両100の冷却水通路とが接続され、エンジン冷却水が放熱通路20に循環されるようになる。
【0031】
次に、図4を参照して、これら各プラグ30a,30b及び各コネクタ130a,130bの構成と、これらの接続態様について詳しく説明する。尚、供給側プラグ30a及び供給側コネクタ130aと、排出側プラグ30b及び排出側コネクタ130bとは同一の構成を有しているため、ここでは、供給側プラグ30a及び供給側コネクタ130aについてのみ、その構成並びにこれらの接続態様を説明する。
【0032】
図4(a)は、供給側プラグ30a及び供給側コネクタ130aの構成を示す断面図であり、図4(b)は、供給側プラグ30aと供給側コネクタ130aとが接続された状態を示す断面図である。
【0033】
供給側プラグ30aは、インレットホース21の先端に取り付けられるプラグ本体31と、プラグ本体31に外嵌された円筒形状の締め付け部材32とから構成されている。プラグ本体31の内部には、図4(a)に示されるようにプラグ本体31の端部から突出するように軸方向に沿って延びるプッシュロッド35が形成されている。
【0034】
締め付け部材32は、その内周面に供給側コネクタ130aの外周面に形成された螺子と螺合する螺子形成されている。締め付け部材32と供給側コネクタ130aとを螺合させることにより、図4(b)に示されるように供給側プラグ30aと供給側コネクタ130aとが接続される。尚、プラグ本体31の端部にはフランジ33が、締め付け部材32の端部には内周方向に縮径した縮径部34がそれぞれ設けられており、締め付け部材32が供給側コネクタ130aに螺合された状態において、フランジ33と縮径部34とが係合することによって供給側プラグ30aの抜脱が規制されるようになっている。
【0035】
供給側コネクタ130aのハウジング131は、図4(a)に示されるように吐出口135近傍が縮径されている。また、ハウジング131の内部には、逆止弁としてのチェックボール132が設けられている。ハウジング131の内部に形成されたリテーナ134にはスプリング133が固定されており、このスプリング133の付勢力によってチェックボール132は吐出口135を閉塞する方向に付勢されている。そのため、図4(a)に示されるように供給側プラグ30aが接続されていない状態にあっては、チェックボール132によって吐出口135が閉塞される。
【0036】
一方、図4(b)に示されるように供給側プラグ30aと供給側コネクタ130aとが接続されると、プッシュロッド35がチェックボールをスプリング133の付勢力に抗してハウジング131の内部に押し戻す。その結果、矢印で示されるように車両側から吐出されるエンジン冷却水がチェックボール132と吐出口135との間から供給側プラグ30aに流れ込むようになる。
【0037】
上記のように構成された各プラグ30a,30bと各コネクタ130a,130bとがそれぞれ接続されることにより、除雪装置の放熱通路20は車両100の冷却水通路に接続され、放熱通路20にエンジン冷却水が循環されるようになる。
【0038】
以下、車両100の冷却水通路と除雪装置の放熱通路20とが接続された状態におけるエンジン冷却水の循環経路について図5及び図6を参照して説明する。尚、図5はエンジン冷却水の温度が低いとき、図6はエンジン冷却水の温度が高いときにおけるエンジン冷却水の循環経路の状態をそれぞれ示している。
【0039】
まず、図5を参照してエンジン110内の冷却水通路についてその構成を説明する。この冷却水通路は、図5に示されるようにエンジン冷却水を圧送するウォータポンプ114と、エンジン冷却水の温度に基づいて循環経路を切り替えるサーモスタットバルブ140とを備えている。
【0040】
ウォータポンプ114の吐出側には、エンジン110の図示しないシリンダを取り囲むようにウォータジャケット115が形成されている。ウォータジャケット115の下流側は、エンジン110の図示しないシリンダヘッドに形成されたメインギャラリ116と、変速機側吐出通路123とに分岐している。
【0041】
メインギャラリ116は、エンジン110の長手方向に沿って延び、車両前方のラジエータ111と接続された吐出通路112に接続されている。また、メインギャラリ116には、メインギャラリ116から分岐したバイパス通路117を介してサーモスタットバルブ140に接続されている。
【0042】
サーモスタットバルブ140には、バイパス通路117に加え、ラジエータ111と接続された流入通路113及びウォータポンプ114の流入側と接続されたリターン通路118が接続されている。サーモスタットバルブ140は、バイパス通路が接続されたバイパス側流入口143と、流入通路113が接続されたラジエータ側流入口144のうち、いずれか一方を選択的に閉塞する弁体141を備えており、図5に示されるように弁体141は、スプリング142によってラジエータ側流入口144を閉塞するように付勢されている。尚、サーモスタットバルブ140には、その内部に図示しないワックスが封入されており、エンジン冷却水の温度が上昇し所定温度に達すると、ワックスが液化して膨張し、弁体141がスプリング142の付勢力に抗して押し戻され、バイパス側流入口143を開放する。尚、この所定温度は、エンジン冷却水の温度が同所定温度に達することによりエンジン110における燃料の霧化が十分に促進される状態になったことが推定される温度、例えば80度に設定されている。
【0043】
以下、図6を併せ参照してサーモスタットバルブ140によるエンジン冷却水の循環経路の切り替えについて説明する。
エンジン冷却水の温度が80度未満の場合には、ワックスは固化しているため、サーモスタットバルブ140の弁体141がスプリング142によって付勢され図5に示されるようにラジエータ側流入口144を閉塞している。そのため、この状態にあっては、ラジエータ111及び除雪板10の放熱通路20からウォータポンプ114へのエンジン冷却水の流通が停止される。従って、ウォータポンプ114から吐出されたエンジン冷却水は、図5に矢印で示されるようにウォータジャケット115、メインギャラリ116、バイパス通路117を順に流れ、サーモスタットバルブ140、リターン通路118を通じてウォータポンプ114に戻される。
【0044】
また、エンジン冷却水の一部は、ウォータジャケット115から変速機側吐出通路123を通じて放熱器122に供給されその内部で循環することにより自動変速機120の作動油を冷却する。そして、エンジン冷却水は変速機側流入通路124を通じてメインギャラリ116に流入し、バイパス通路117、サーモスタットバルブ140、リターン通路118を通じてウォータポンプ114に戻される。
【0045】
一方、エンジン冷却水の温度が上昇し、80度以上になるとサーモスタットバルブ140内に封入されたワックスが液化して膨張し、弁体141がスプリング142の付勢力に抗して押し戻される。その結果、図6に示されるように弁体141は、バイパス側流入口143を閉塞する一方、ラジエータ側流入口144を開放する。そのため、バイパス通路117を通じたウォータポンプ114へのエンジン冷却水の流通が停止され、ラジエータ111及び除雪板10の放熱通路20側からウォータポンプ114側へのエンジン冷却水の流通が許容される。従って、ウォータポンプ114から吐出されたエンジン冷却水は、図6に矢印で示されるようにウォータジャケット115、メインギャラリ116を流れ、吐出通路112を通じてラジエータ111に供給される。
【0046】
また、上述したようにエンジン冷却水の一部は、ウォータジャケット115から変速機側吐出通路123を通じて放熱器122に供給されてその内部で循環することにより自動変速機120の作動油を冷却する。そして、エンジン冷却水は変速機側流入通路124を通じてメインギャラリ116に流入し、吐出通路112を通じてラジエータ111に供給される。ラジエータ111を通じて放熱、冷却されたエンジン冷却水は、流入通路113からサーモスタットバルブ140、リターン通路118を通じてウォータポンプ114に戻される。また、吐出通路112を流れるエンジン冷却水の一部は、供給側分岐通路112aに接続されたインレットホース21を通じて除雪板10の放熱通路20に供給される。放熱通路20を通じて放熱、冷却されたエンジン冷却水は、排出側分岐通路113aに接続されたアウトレットホース22を通じて流入通路113を流れるエンジン冷却水と合流した後、ウォータポンプ114に戻される。
【0047】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)エンジン冷却水は、車両100内の循環経路からインレットホース21を通じて除雪板10に形成された放熱通路20に供給され、放熱通路20からアウトレットホース22を通じて車両100の循環経路に排出されるようになる。そのため、インレットホース21を通じて除雪板10の放熱通路20に供給されたエンジン冷却水は、除雪作業中に除雪板10に集積される雪によって冷却され、アウトレットホース22を通じて車両100の循環経路に戻される。その結果、エンジン冷却水による冷却性能が向上し、除雪作業中に車両100が高負荷状態で運転される場合にあっても、駆動系の過熱による不具合の発生を抑制することができるようになる。
【0048】
(2)車両100の前方に除雪板10を装着し除雪作業を行う場合には、ラジエータ111の前方に装着された除雪板10により車両100の前方からの空気の流れが遮られるとともに、雪の重みにより車両100の速度が上昇しにくくなる。そのため、走行風の量が著しく減少し、十分な冷却性能を発揮することができなくなるおそれがある。
【0049】
この点、上記第1の実施形態のように、除雪板10に形成された放熱通路20にエンジン冷却水を循環させる構成によれば、ラジエータ111の冷却性能が低下した場合であっても、除雪板10に形成された放熱通路20による冷却作用によって冷却性能の低下を補うことができるようになる。
【0050】
(3)吐出通路112から分岐する供給側分岐通路112aにインレットホース21を接続するとともに、流入通路113から分岐する排出側分岐通路113aにアウトレットホース22を接続するようにしている。そのため、サーモスタットバルブ140の開閉状態に応じてエンジン冷却水がラジエータ111とともに放熱通路20を迂回する状態と、エンジン冷却水がラジエータ111とともに放熱通路20に供給される状態とが切り換えられる。その結果、エンジン冷却水が80度未満の期間、即ち、機関温度が上昇し燃料の霧化が促進されるまでの期間は、ラジエータ111とともに除雪板10の放熱通路20を迂回してエンジン冷却液の循環が行われるようになる。従って、機関冷間時には除雪板10の放熱通路20におけるエンジン冷却水の冷却を停止して暖気の促進を図ることができるようになる。
【0051】
(4)上記第1の実施形態の車両100は自動変速機120の作動油とエンジン冷却水との間で熱交換を行う放熱器122を備えている。そのため、除雪作業中に除雪板10の放熱通路20を通じて冷却されたエンジン冷却水と自動変速機120の作動油との間で熱交換が行われる。従って、放熱器122を通じた作動油の冷却性能を向上させることができるようになり、除雪作業中に温度が上昇しやすい自動変速機120の作動油の過熱を抑制することができるようになる。
(5)また、機関始動直後等の作動油の温度が低いときに、除雪板10の放熱通路20を通じて冷却されたエンジン冷却水と作動油との間で熱交換を行うと、作動油が過度に冷却されてその粘性が高くなり、駆動力の損失が大きくなるおそれがある。この点、上記実施形態では、エンジン冷却水の温度が80度未満のとき、即ち、同エンジン冷却水との間で熱交換が行われる作動油の温度が低いときには、除雪板10の放熱通路20を迂回してエンジン冷却水が循環されエンジン冷却水の冷却作用が抑制される。そのため、作動油が過度に冷却されてその粘性が高くなることによる駆動損失の増大についても抑制することができるようになる。
(6)供給側分岐通路112aに設けられた供給側コネクタ130a及び排出側分岐通路113aに設けられた排出側コネクタ130bは、インレットホース21及びアウトレットホース22を取り外したときに自立的に閉弁するように逆止弁としてのチェックボール132を含んで構成されている。そのため、各ホース21,22を取り外したときに、エンジン冷却水が循環経路から外部に漏出することを抑制することができるようになる。
【0052】
尚、上記第1の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・自動変速機120に放熱器122を備え、エンジン冷却水と自動変速機120の作動油との間で熱交換を行う構成を示したが、こうした放熱器122を備えていない車両であってもこの発明を適用することができる。その場合には、自動変速機120の作動油を冷却する効果は得られないものの、エンジン冷却水を除雪板10の放熱通路20に循環させることにより、エンジン冷却水による冷却性能を向上させることができる。
【0053】
・エンジン冷却水の温度に基づくサーモスタットバルブ140の開閉状態に応じて、ラジエータ111とともに放熱通路20を迂回してエンジン冷却水が循環する状態と、ラジエータ111とともに放熱通路20にエンジン冷却水が供給される状態とが切り換えられる構成を示した。これに対して、常にエンジン冷却水が除雪板10の放熱通路20に循環されるように、インレットホース21及びアウトレットホース22とエンジン冷却水の循環経路と接続するようにした構成を採用してもよい。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、図7を参照して説明する。第1の実施形態では、放熱器122を通じてエンジン冷却水と自動変速機120の作動油との間で熱交換を行う構成を示した。これに対して第2の実施形態では、こうした構成に替えて除雪板10の放熱通路として冷却水用放熱通路の他、作動油用放熱通路を別途形成し、自動変速機120の作動油をこの作動油用放熱通路に循環させて作動油を直接冷却する構成を採用している。以下、第1の実施形態と第2の実施形態とにおいて共通する点については同一の符号を付すのみとしてその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0054】
図7に示されるように車両100のラジエータ111には、自動変速機120の作動油を冷却するオイルクーラ128が設けられている。オイルクーラ128と自動変速機120とを接続する作動油吐出通路126には供給側作動油通路126aが、作動油流入通路127には排出側作動油通路127aがそれぞれ分岐して形成されている。また、供給側作動油通路126aの先端には作動油用供給側コネクタ130cが、排出側作動油通路127aには作動油用排出側コネクタ130dがそれぞれ設けられている。
【0055】
そして、除雪板10の放熱通路に接続された作動油用インレットホース23の先端に設けられた作動油用供給側プラグ30cを供給側作動油通路126aに接続し、作動油用アウトレットホース24の先端に設けられた作動油用排出側プラグ30dを排出側作動油通路127aに接続することにより作動油を除雪板10に直接循環させる。尚、作動油用の各コネクタ130c,130d並びに作動油用の各プラグ30c,30dの構成及び接続態様は、上述したエンジン冷却水用のコネクタ130a,130b及び各プラグ30a,30bと同一であるため、その説明は割愛する。また、各プラグ30a〜30d,各コネクタ130a〜130dをそれぞれ対応する組み合わせごとに同一の色で着色する、或いはプラグ30a〜30dがこれに対応するコネクタ130a〜130dにのみ接続可能な形状を有する等、それぞれのプラグが間違えて接続されることを抑制することのできる構成を採用することが望ましい。
【0056】
以上説明した第2の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(7)自動変速機120の作動油を除雪板10の放熱通路に循環させることにより、除雪作業中に除雪板10に集積される雪によって作動油を冷却することができるようになり、除雪作業中に温度が上昇しやすい自動変速機の作動油の過熱を抑制することができるようになる。
【0057】
尚、上記第2の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記第2の実施形態における作動油の循環経路に、作動油の温度が所定温度未満の場合には除雪板10への作動油の循環を禁止する作動油用サーモスタットバルブ等の循環禁止手段を設けることが望ましい。こうした構成によれば、機関始動直後等の作動油の温度が低いときには、除雪板10への作動油の循環が禁止されるようになり、作動油の冷却作用が抑制されるため、作動油が過度に冷却されてその粘性が高くなることによる駆動損失の増大についても抑制することができるようになる。
【0058】
・また、上記第2の実施形態では、エンジン冷却水と自動変速機120の作動油の双方を除雪板10に循環させる構成を示したが、自動変速機120の作動油のみを循環させる構成としてもよい。
【0059】
尚、上記第1、第2の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記第1、第2の実施形態では、各プラグ30a〜30dを取り外したときに自立的に閉弁するように、各コネクタ130a〜130dが逆止弁としてのチェックボール132を含んで構成されている例を示した。これに対してこの発明は、こうした構成に限定されるものではない。例えば、各コネクタ130a〜130dに手動で開弁状態、閉弁状態を切り替える弁等を設ける構成を採用することもできる。
【0060】
・固定プレート11のベルト穴11aに通したベルトによって、除雪装置が車両100のフロントバンパに固定され、車両前部に装着される構成を示したが、この発明の適用される除雪装置はこうした固定方法に限定されるものではない。例えば、車両に予め固定された連結機構に連結金具を備えた除雪板10を連結する除雪装置であってもよい。
【0061】
・また、この発明は、車両前方に取り付けられる除雪装置に限定されるものではない。車両の駆動力を利用して除雪板10を積雪に接触させることにより除雪作業を行う除雪装置であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる除雪装置の全体構成を示す斜視図。
【図2】同実施形態にかかる除雪装置における除雪板の構成を示す分解斜視図。
【図3】同実施形態にかかる除雪装置が装着される車両の構成を示す模式図。
【図4】(a)は供給側プラグ及び供給側コネクタの構成を示す断面図、(b)は供給側プラグと供給側コネクタとが接続された状態を示す断面図。
【図5】同実施形態にかかる除雪装置と車両とが接続された状態において、冷却水温度が低い場合の冷却水の循環経路を示す模式図。
【図6】同実施形態にかかる除雪装置と車両とが接続された状態において、冷却水温度が高い場合の冷却水の循環経路を示す模式図。
【図7】この発明の第2の実施形態にかかる除雪装置が装着される車両の構成を示す模式図。
【図8】車両に着脱可能な一般の除雪装置の構成を示す正面図。
【符号の説明】
【0063】
10…除雪板、11…固定プレート、11a…ベルト穴、12…支持アーム、15…バケット、15a…凹部、20…放熱通路、21…インレットホース、22…アウトレットホース、23…作動油用インレットホース、24…作動油用アウトレットホース、25…放熱板、25a…供給口、25b…排出口、30a…供給側プラグ、30b…排出側プラグ、30c…作動油用供給側プラグ、30d…作動油用排出側プラグ、31…プラグ本体、32…締め付け部材、33…フランジ、34…縮径部、35…プッシュロッド、100…車両、110…エンジン、111…ラジエータ、112…吐出通路、112a…供給側分岐通路、113…流入通路、113a…排出側分岐通路、114…ウォータポンプ、115…ウォータジャケット、116…メインギャラリ、117…バイパス通路、118…リターン通路、120…自動変速機、121…プロペラシャフト、122…放熱器、123…変速機側吐出通路、124…変速機側流入通路、126…作動油用吐出通路、126a…供給側作動油通路、127a…排出側作動油通路、127…作動油用流入通路、130a…供給側コネクタ、130b…排出側コネクタ、130c…作動油用供給側コネクタ、130d…作動油用排出側コネクタ、140…サーモスタットバルブ、141…弁体、142…スプリング、143…バイパス側流入口、144…ラジエータ側流入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対して着脱可能な除雪板を有する除雪装置において、
前記除雪板に形成された放熱通路と、前記車両の駆動系における冷却媒体の循環経路に着脱可能に接続されて同循環経路と前記放熱通路とを連通するインレットホース及びアウトレットホースとを備え、前記循環経路から前記インレットホースを通じて前記放熱通路に供給される冷却媒体を循環させて同放熱通路から前記アウトレットホースを通じて前記循環経路に戻す
ことを特徴とする除雪装置。
【請求項2】
請求項1に記載の除雪装置において、
前記除雪板は車両前部に取り付けられるものであり、前記循環経路は車両のエンジンに形成されたウォータジャケットと車両前方に配設されたラジエータとの間で前記冷却媒体としてのエンジン冷却水を循環させる冷却水循環経路である
ことを特徴とする除雪装置。
【請求項3】
請求項2に記載の除雪装置において、
前記循環経路は前記ラジエータをバイパスするバイパス通路に設けられエンジン冷却水が所定温度未満であるときに前記ウォータジャケットから吐出されたエンジン冷却水が前記ラジエータを迂回し前記バイパス通路を通じて前記ウォータジャケットに直接戻されるように前記バイパス通路を開閉するサーモスタットバルブを含み、前記インレットホース及びアウトレットホースは前記サーモスタットバルブの開閉状態に応じて前記ラジエータとともにエンジン冷却水が前記放熱通路を迂回する状態とエンジン冷却水が前記放熱通路に供給される状態とが切り換えられる態様で前記循環経路に接続される
ことを特徴とする除雪装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の除雪装置において、
前記車両は自動変速機の作動油とエンジン冷却水との間で熱交換を行う熱交換器を備える
ことを特徴とする除雪装置。
【請求項5】
請求項1に記載の除雪装置において、
前記除雪板は車両前部に取り付けられるものであり、前記循環経路は車両の自動変速機と車両前方に配設されたラジエータとの間で前記冷却媒体としての作動油を循環させる作動油循環経路である
ことを特徴とする除雪装置。
【請求項6】
前記インレットホース及びアウトレットホースがそれぞれ着脱可能なコネクタを備えて請求項1〜5のいずれか一項に記載の除雪装置が装着可能な車両。
【請求項7】
請求項6に記載の車両において、
前記インレットホース及びアウトレットホースが着脱可能な各コネクタは前記インレットホース及びアウトレットホースを取り外したときに自立的に閉弁する逆止弁を含む
ことを特徴とする車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−95295(P2008−95295A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275154(P2006−275154)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】