説明

除電装置

【課題】除電装置から離れた帯電体に対しても確実に除電を行えるようにする。
【解決手段】水を微粒化させて帯電体に向けて噴霧するノズルと、前記ノズルから噴霧する水をアース接続する手段と、前記ノズルと帯電体の間に配置されると共に、電源に接続された導電性材からなる電極を備え、前記ノズルから噴霧される微粒水滴を前記電極の極性と逆極性に誘導帯電させた前記微粒水滴の蒸発に伴い生成されるイオンで、前記帯電体の電荷を中和させて除電できる構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除電装置に関し、詳しくは、プラスチック加工・成型、印刷、半導体デバイス製造、液晶パネル製造などの生産工程やガソリンスタンド等の静電気が発生するあらゆる環境において静電気の除去を行う除電装置であって、広範囲な空間に存在する帯電体の除電と、静電気の発生を防止する加湿とを同時に行える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック加工・成型、印刷、半導体デバイス製造、液晶パネル製造などの工程において静電気が発生し、この静電気による影響が製品の不良率の増加、生産に要する時間の増加、製品の品質の低下、作業員の意欲減退などの様々な障害となって現れているため、帯電した物体の除電を行うための除電装置(イオナイザ)が広範囲の産業分野で利用されている。
【0003】
上記除電装置として、本出願人は先に特開2005−78980号公報(特許文献1)において、離れた帯電体に対して確実に除電が行える除電装置を提供している。
該除電装置は図10に示すように、水を微粒化させて帯電体2にむけて噴霧するノズル1と、該ノズル1から噴霧された水滴を帯電させるコロナ放電器3とを備え、該コロナ放電器3は針状等の放電電極3Aと、該放電電極3Aと対向配置するリング状等の対向電極3Bとからなり、放電電極3Aと対向電極3Bとの間のコロナ放電によりノズル1から噴射される微粒水滴を帯電微粒水滴とし、該帯電微粒水滴の蒸発に伴い生成されるイオンで帯電体2の電荷を中和して除電できる構成としている。
【0004】
前記特許文献1の除電装置では、帯電体に向けて噴霧する帯電微粒水滴がイオンに比べて、質量が大きくモビリティが遥かに低いため、電界による飛散・再結合が生じにくく、イオン密度を減衰させることなく、少ない損失で帯電体まで搬送することができる。この噴霧された帯電微粒水滴は、空気流により蒸発地点まで高密度のまま搬送され、蒸発に伴ってイオン(小イオンおよび大イオン)となって、近辺に存在する帯電体を濡らすことなく除電することができる。したがって、除電装置の近傍だけでなく離れた帯電体に対しても密度の高いイオンを到達させることができ、広い範囲の空間にわたって帯電体を除電することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−78980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の除電装置は、前記した利点を有するが、針状の放電電極とリング状の対向電極との間のコロナ放電を発生させて、微粒水滴を帯電微粒水滴としているため、針状電極およびリング電極と、これら電極と接続するリード線が必要となり、部品点数が多く、構成が複雑となる点で改良の余地がある。
さらに、針状の放電電極と接触した微粒水滴が粗大水滴となりやすく、よって、該粗大水滴を捕集するトラップ等を設ける必要があると共に、比較的高電圧を必要とする等、改良の余地がある。
【0007】
本発明は、前記した点に鑑みてなされたもので、離れた位置の帯電体に対して確実に除電が行えると共に、静電気の発生を抑制する加湿も行える除電装置において、構成を簡単とすると共に、粗大水滴の発生を抑制し、かつ、比較的低い電圧で作動できる除電装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、
水を微粒化させて帯電体に向けて噴霧するノズルと、
前記ノズルから噴霧する水をアース接続する手段と、
前記ノズルと帯電体の間に配置されると共に、電源に接続された導電性材からなる電極を備え、
前記ノズルから噴霧される微粒水滴に、前記電極通過時に、前記電極の極性と逆極性に誘導帯電させた前記微粒水滴の蒸発に伴い生成されるイオンで、前記帯電体の電荷を中和して除電できる構成としていることを特徴とする除電装置を提供している。

【0009】
前記電源に接続された電極として、リング状の電極(以下、リング電極と略称する)を用い、該リング電極内に前記ノズルから噴霧される微粒水滴を通過させていることが好ましい。
なお、リング電極に限定されず、前記微粒水滴に誘導帯電を発生させる位置に電極を配置すればよく、例えば、平板状の電極を上下対向させて配置させてもよく、さらに、上下、左右に夫々電極を配置してもよい。
【0010】
前記水をアース接続する手段として、下記の(1)(2)(3)等が挙げられ、ノズルより噴射する水をアース接続できる構成であればよい。
(1)前記ノズルを導電性金属材で形成すると共に該ノズルをアース接続;
(2)前記ノズルを絶縁樹脂材で形成すると共に配水管又は貯水槽を導電性金属で形成してアース接続;
(3)水中にアース接続した電極を入れる。
【0011】
前記電極は直流電源、交流電源またはパルス電源に接続している。
前記のように、ノズルから噴射される微粒水滴は電極を通過するときに電極に印加された電圧に対して逆極性に誘導帯電され、よって、電極が直流電源のプラス側に接続された場合にはマイナス側に帯電され、マイナス側に帯電されたイオンを生成することができる。プラス側とマイナス側にパルスを発生するパルス電源や交流電源を用いた場合には、正負両極性のイオンを交互に発生させることができる。
【0012】
このように、本発明の除電装置は誘導帯電方式としているため、特許文献1のコロナ帯電方式と比較して、ノズルの噴射側に電極を設けるだけでよく、リング電極と針状電極を対向配置する必要があるコロナ帯電方式よりも構造を簡単にすることができる。また、コロナ帯電方式と比較して低い印加電圧でよく、さらに、ノズルから噴霧される水滴が電極に直接衝突しない構造とすることができる。
【0013】
また、本発明の誘導帯電方式の場合も、特許文献1のコロナ帯電方式の場合と同様に、帯電微粒水滴はイオンのみに比べて質量が大きくモビリティが遥かに低いため、電界による飛散・再結合が生じにくく、イオン密度を減衰させることなく少ない損失で帯電体まで搬送することができる。この噴霧された帯電微粒水滴は、空気流により蒸発地点まで高密度のまま搬送され、蒸発に伴ってイオン(小イオンおよび大イオン)となって、近辺に存在する帯電体を濡らすことなく除電することができる。したがって、除電装置の近傍だけでなく離れた位置の帯電体に対しても密度の高いイオンを到達させることができ、広い範囲の空間にわたって帯電体を除電することが可能となる。
【0014】
特に、帯電微粒水滴の蒸発で生成されるイオンは、放電で発生するイオンよりモビリティーの低い成分が多く存在する。そのため蒸発地点の近辺だけでなく、それより遠方の地点でも高いイオン密度が得られる。これは水滴が蒸発した後も、水のクラスターがイオン化し、イオンに水の分子が付着していることより、イオンの動きが悪くなり、気中へのイオンの拡散が抑制されることによる。その結果、従来のコロナ放電式イオナイザと比較して離れた地点での除電能力を格段に高めることができる。
また、ノズルにより水を微粒化して噴霧しているので、帯電体を所要湿度に加湿でき、この加湿効果により静電気の発生を抑制することもできる。
【0015】
前記ノズルの噴射口から電極との距離はノズルからの噴霧量、噴霧角度等に応じて適宜に設定されるが、ノズルの噴射口から30mm以内の位置にしていることが好ましい。前記30mm以内であれば、ノズルの噴射口に取り付けて0mmとしても良い。
【0016】
本発明の除電装置では、ノズルの噴霧量を制御する噴霧制御手段と、
前記帯電体の表面の電位レベルを計測する表面電位計と、
該電位計に接続して前記帯電体の電位レベルに応じて前記噴霧制御手段を制御し、前記帯電体に到達するイオン量あるいは/およびイオンバランスをコントロールするイオン制御装置を備えていることが好ましい。
【0017】
前記構成とすると、表面電位計により帯電体表面の電位レベルを常に監視し、該電位レベルに応じて電極への印加電圧を制御して、発生するイオン量を増減させたり、噴霧制御手段を制御して噴霧される水滴量を増減させることにより、帯電体の電位レベルをリアルタイムにフィードバックしてイオンの過供給などを防止し、あるいは/およびイオンバランスを適正として、帯電体の静電気を最適に中和することができる。
【0018】
本発明では、電極を通過させた帯電微粒水滴は帯電体に到達するまでに衝突する部材がないため、粗大水滴は発生しない。その結果、粗大水滴を捕集するトラップ等を設ける必要はない。
なお、微粒水滴が電極を通過する時、電極と接触する微粒水滴は粗大化する場合もあるが、ノズルの噴霧方向にダクトを配置し、該ダクト内に電極を配置すると、電極と接触して粗大化した水滴をダクト内面に付着させることができる。かつ、ノズルからの噴霧をダクト内に通すことで、噴霧の流れ方向を規制して、対象とする帯電体に向けて効率よく噴霧できる。
【0019】
前記ノズルは水と空気とを混合噴霧する二流体ノズルあるいは水を噴霧する一流体ノズルのいずれでも良く、これらノズルとしては噴霧粒径が1μm以上100μm以下の微粒噴霧用ノズルが好適に用いられる。
噴霧の微粒化を図るためには、一流体ノズルよりも二流体ノズルが好適に用いられる。
噴霧粒径を1μm以上100μm以下とするノズルとしては、ノズル内部で流体を回転、衝突させて複数回の微粒化を図ると共に、噴射口を対向させて外部衝突混合させるタイプのノズル、例えば、本出願人が提供した特開昭62−289257号に記載の超微霧噴射ノズル等が好適に用いられる。なお、超音波霧化法で微粒化してもよい。
【0020】
前記ノズルとして、水と圧搾空気との混合流体を噴霧する二流体ノズルで、平均粒径が1μm以上10μm以下のドライフォグノズルを用いることが好ましい。
該ドライフォグノズルでは噴霧粒径が上記のように超微粒であるため、帯電体の除電を行う際に帯電体を濡らすことを確実に防止できる。
【0021】
前記ノズルとして加湿器に取り付けられるノズルを用い、言わば、除電機能付きの加湿器としてもよい。其の場合、加湿器の噴射口に近接した位置に前記電極を配置している。 雰囲気中の湿度調節のために従来より加湿器は取り付けられている場合が多い。この加湿器を利用し、除電機能を持たせると、本発明の除電装置における目的の1つである加湿機能を十分に発揮させることができる。かつ、加湿器と除電装置の両方を設置する必要がなくなり、設備費用のコスト低下、空間の有効利用を図ることができる。
上記二流体ノズルを取り付けた加湿器としては、本出願人が提供した特許第2843970号、第2843971号、第2633753号の加湿器が好適に用いられる。
【0022】
加湿器のハウジングから90度間隔をあけて4つのノズルを取り付けている場合、各ノズルの回りにダクトを夫々突設し、あるいは4つのノズルをすべて囲む全周方向のダクトを取り付け、該ダクト内で各ノズルの噴射方向前方に前記電極を配置している。
該構成とすると、1つの加湿器から全周方向に帯電水滴を噴霧でき広範囲に配置された帯電体の除電を行えると共に、当該範囲の空気を所要の湿度に保持することができる。
また、前記ダクトを設けずに、加湿器のハウジングと連結した支持材上に前記電極を取り付けた構成としてもよい。
【0023】
使用するノズルは、噴射口からの噴霧飛距離が1メートル以上5メートル以下とすることが好ましい。
ノズルからの噴霧飛距離(水滴が蒸発する距離)は長い程、離れた位置の帯電体の除電が出来るため、1メートル以上は必要である。一方、噴霧飛距離はノズルに供給される流体圧を高圧とすると、ある程度伸ばすことができるが、噴霧を微粒化するために蒸発しやすくなり、5メートル以上とすることは実際上困難であることによる。
【0024】
前記ノズルの上流に送風ファン等の送風機器を配置し、該ノズルより噴霧された水滴を搬送する気流を生成させると、水滴の飛距離を10メートルまで伸ばすことができる。
このようにノズルによる噴霧力に加え、前記送風機器により生成された気流によっても帯電微粒水滴を搬送でき、イオンを遠方の帯電体にまで速やかに届かせることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明より明らかなように、本発明の除電装置では、アースしたノズルから水を噴射し、電極に印加した電圧に対して逆極性に誘導帯電させた水滴としているため、イオン密度の減衰を抑えることができる。その結果、除電装置から離れた地点へ高密度のイオンを供給でき、広い範囲に存在する帯電体の除電を行うことができる。また、帯電微粒水滴の到達領域が限定されるように噴霧すれば、除電装置から離れた位置でありながら特定の領域の帯電体を除電することができる。さらに、イオンを空中から散布しているため凹凸のある帯電体でも均一に除電することができる。
また、ノズルから水滴を噴霧することによる加湿機能により静電気発生の予防効果があると共に、水滴の蒸発による冷却効果も期待できる。さらに、気流を発生する送風ファンなどを併用することによって、さらに遠方の帯電体を除電することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3は第1実施形態の除電装置10の概略図を示す。
ノズル11として平均粒径1μm〜10μmの微粒水滴を噴霧すると共にその噴霧された水滴30が全て大気中で蒸発する所謂ドライフォグノズルを用いている。
ノズル11は圧搾空気と水との混合流体を噴射する二流体ノズルからなる。該ノズル11には、気体供給管19を介して接続されたエアコンプレッサー17から圧搾空気が供給されると共に、水供給管20を介して接続された水供給装置18から水が供給される。
本実施形態のノズル11は、噴霧量が0.5リットル/H以上5リットル/H以下としている。
【0027】
前記ノズル11は導電性金属材から形成し、該ノズル11に導線100を接続し、該導線をアース接続し、該ノズル11内を通過する水をアース接続する構成としている。
ノズル11は絶縁材料からなる直管状のダクト36内に配置し、該ダクト36をノズル11の噴射口11aから噴霧方向に延在させて、帯電体28側に向けて配置している。前記帯電体28はノズル11から3m以内に配置している。前記ダクト36は帯電体28へ噴霧をガイドするだけでよく、帯電体28まで延在させる必要はない。
【0028】
さらに、ノズル11の後方、即ち、噴射方向と反対側には送風ファン22を設置して、ノズル11からダクト36へ噴霧される噴霧の流速を増加させている。
【0029】
前記ダクト36内には、ノズル11の噴射口11aから噴霧方向に0mm〜30mmの範囲内にリング電極21を配置し、該リング電極21を導線101を介して直流、交流またはパルス式の高圧電源24と接続している。該高圧電源24として本実施形態では直流電源を用い、1KV〜3KVの電圧を印加可能としている。
前記リング電極21は本実施形態では、内径50mm、外径50mm、リング厚みを10mmとしている。
【0030】
なお、リング電極21に交流高電圧を印加する場合は、周期的に正負のイオンが発生し、帯電体28の帯電極性に応じて逆極性のイオンが帯電体28の電荷を中和する。即ち、帯電体28は初期電荷に対して逆極性に帯電されることはない。
但し、交流高電圧を印加する場合はイオンの発生が周期的となるため、同じ印加電圧であれば直流高電圧を印加する場合より除電能力は低下する。
【0031】
ドライフォグノズルからなる前記ノズル11は図2に示す構成からなる。該ノズル11はノズル本体12の先端に一対のノズル頭部13、14を傾斜させて対向配置し、これらノズル頭部13、14の噴射孔15、16から噴射されるミストを衝突混合させて液滴を超微粒化させている。ノズル本体12にはノズル頭部13、14に圧搾空気および水を導入するための導気路42および導液路41を形成している。ノズル頭部13、14の内部にはノズルチップ46を収納してプラグ43により固定して、ノズルチップ46の先端をノズル頭部13、14より突出して噴射孔15、16を構成している。
導液路41を通る水はプラグ43の中心穴45およびノズルチップ46の液孔47を流通する一方、導気路42を通る圧搾空気はノズルチップ46の外周の空気噴出路48を流通し、図3に示すように、噴射孔15、16より混合噴霧されたミストがノズル外部でさらに衝突混合されて微粒化し、物体の表面を濡らさない平均粒径が10μm未満の超微霧を発生する。
【0032】
さらに、本実施形態の除電装置は、前記水供給管20に介設された噴霧制御手段23と、帯電体28の電位レベルを非接触で計測する非接触表面電位計26と、非接触表面電位計26に接続されると共に高圧電源24および噴霧制御手段23に接続されるイオン制御装置25を備えている。
【0033】
イオン制御装置25は、非接触表面電位計26で計測された帯電体28の表面の電位レベルを受信し、帯電体28へのイオン32の供給量が過多であると判断した場合には、高圧電源24よりリング電極21に印加される電圧を下げ、あるいは/および、噴霧制御手段23でノズル11より噴霧される水滴の量を減らしてイオン32供給量を低減させる。一方、帯電体28へのイオン32の供給量が少ないと判断した場合には、高圧電源24よりリング電極21に印加される電圧を上げ、あるいは/および、噴霧制御手段23でノズル11より噴霧される水滴の量を増大させてイオン供給量を増大させている。
なお、電源電圧が交流あるいはパルスである場合は、交流の正負のピーク電圧あるいはデユーテイー比を制御することにより、イオン量および正負のイオンバランスを制御し、帯電体の残留電荷を最小としている。
【0034】
次に、除電装置10の動作について説明する。
ノズル11には、エアコンプレッサー17から気体供給管19を介して圧搾空気が供給されると共に、水供給装置18から水供給管20を介して水が供給されることにより、対向する噴射孔15、16から噴射されるミストが衝突拡散されて、平均粒径1μm〜100μmの超微粒化された微粒水滴30がダクト36内を下流側に浮動していく。其の際、送風ファン22からの送風により微粒水滴30はより高速にダクト36内を流れる。
【0035】
このノズル11から噴出する微小の微粒水滴30はノズルから噴出される時までにアース接続されている。該微粒水滴30はリング電極21の内部を潜り抜け、其の際、リング電極21に印加された電圧と逆極性に誘導帯電され、帯電微粒水滴31が形成される。
帯電微粒水滴31は空間を移動して行く間に蒸発してイオン32となるが、この帯電微粒水滴31が蒸発するまでの過程では電荷が失われることはない。よって、ドライフォグノズル11の場合の蒸発距離は、典型的には噴射孔15、16から2〜3m程度であるので、ノズル11から少なくとも3m程度までは少ない損失で電荷を運ぶことができる。よって、前記したように、帯電体28をノズル11から3m以内に配置している。
【0036】
前記のように、ノズル11から噴霧された超微粒の帯電微粒水滴31は蒸発し、該蒸発により生じるイオン32が帯電体28の表面に到達することで、帯電体28の表面の静電気を中和して除電することができる。帯電微粒水滴31が蒸発することにより生じるイオン32は、前記特許文献1に記載のコロナ放電で生成されるイオンよりモビリティーの低い大イオンになっているものが多いため、イオンの飛散や再結合によるイオン密度の減衰が低減され、ドライフォグノズル11から3〜5m離れた地点であっても有効な除電を可能としている。また、ドライフォグノズル11により微粒化された水を噴霧しているため、加湿効果により静電気の発生を予防する効果も得られる。
なお、帯電体28の帯電極性が明確である場合は、帯電体28表面の電荷の極性に対して同極性の高電圧をリング電極21に印加し、逆極性イオンを生成して帯電体28の電荷を中和するとよい。
【0037】
また、この場合、除電動作中には、非接触表面電位計26により帯電体28の表面の電位レベルを常に計測している。この計測値を受信したイオン制御装置25が帯電体28へのイオン32の供給量が過多であると判断した場合には、高圧電源24を制御してリング電極21に印加される電圧を下げ、放電される電荷量を低減して微粒水滴30への帯電量を減らし、その蒸発により生じるイオン32を低減させる。
【0038】
また、噴霧制御手段23で制御して、ノズル11より噴霧される微粒水滴30の量を低減することで、帯電微粒水滴31を減らしてイオン32の供給量を低減させてもよい。このように、イオン制御装置25により、高圧電源24と噴霧制御手段23のいずれか一方を制御して、イオン32の供給量をコントロールしてもよいし、2つを同時に制御してイオン32の供給量をコントロールしてもよい。
【0039】
一方、イオン制御装置25が非接触表面電位計26より計測値を受信した結果、帯電体28へのイオン32の供給量が少ないと判断した場合には、高圧電源24を制御してリング電極21に印加される電圧を上げ、電荷量を増大させて微粒水滴30への帯電量を増やし、その蒸発により生じるイオン32の量を増大させている。
また、噴霧制御手段23を制御してノズル11より噴霧される微粒水滴30の量を増大することで、帯電微粒水滴31を増やし、その蒸発により生じるイオン32を増大させてもよい。
【0040】
さらに、ノズル11の後方に送風ファン22を設けているため、ノズル11より噴霧された微粒水滴30を速く搬送する気流を生成することができる。即ち、微粒水滴30および帯電微粒水滴31が蒸発する時間は、平均粒径や湿度等の条件が同一の場合にはほぼ決まっているため、帯電微粒水滴31を気流に乗せて蒸発時間内に素早く遠方まで運ぶことで、イオン32を遠くの帯電体28まで到達させることが可能となる。
【0041】
図4および図5は第2実施形態を示す。
第1実施形態との相違点は、ノズル11を単体で用いる代わりに、ドライフォグを噴射するノズル57を備えた加湿器29を用いている点である。
加湿器29として、本出願人が先に出願している特許第2843970号に記載されたものを使用している。詳しくは、図5(A)に示すように、ケーシング本体53および上蓋52により形成され、内部に貯水室54を有するケーシング51と、貯水室54内面に遊嵌して貯水量に応じて昇降するフロート61と、上蓋52に取り付けられて貯水室54と連通する液体流路を開閉する止水弁59と、上蓋52の内面側に回転自在に軸支されると共に先端をフロートと当接させて該フロート61の昇降と連動してテコの原理で止水弁59を上下させる止水レバー60と、フロート61の中心貫通孔を通り貯水室54の最下端まで垂下された吸液パイプ62と、上蓋52の上面に配置されて気体導入管55および吸液パイプ62と連通するノズル57とを備えている。
【0042】
ノズル57は、図5(B)に示すように、ボディ57aで二方向に分岐させた空気通路57bおよび液体通路57cと、互いに傾斜して向き合うように形成したチップ取付部57dと、チップ取付部57dの先端側に内嵌したノズルチップ63とを備えている。
前記チップ取付部57dにおいて空気と水を混合し、ノズルチップ63先端の噴射孔57eより噴霧したミストをノズル外部で衝突混合させて超微粒化されたミストを噴霧している。
他の構成および作用効果は第1実施形態と同一であるため説明を省略する。
【0043】
なお、加湿器29のケーシングの外周に90度間隔をあけてノズル57を配置している場合には、図6(A)に示すように各ノズル57の外周にそれぞれダクト36A’〜36D’を取り付け、各ダクト内に夫々リング電極21を配置してもよい。また、図6(B)に示すように外周全体を囲む断面環状としたダクト36”をを取り付けて、各ノズルの噴射口と対応する前方にリング電極21を配置してもよい。
このように、多方向に帯電水滴を噴射できる構成とすると、広い範囲で帯電体の除電と湿度の調節を行うことができる。
【0044】
なお、第1実施形態及び第2実施形態ではノズル11を導電性金属材で形成し、ノズル11をアース接続しているが、水供給管20あるいは/および貯水槽からなる水供給装置18を導電性金属材で形成してアース接続してもよい。あるいは、水中にアース接続した電極を投入してもよい。
【0045】
以下、前記第1実施形態について、下記の実験1〜実験3を行った。
[実験例1]
実験1ではノズル11とリング電極21との距離を変えて、ノズル11から2m離れた位置における空間電荷密度を測定した。
ノズル11へ供給するエアはエアコンプレッサー17の空気流量を37mL/minとし、水供給装置18から供給水流量は0.5mL/sとした。リング電極21として内径30mm、外径50mm、厚さ20mmを用い、該リング電極21に−3kVの電圧を印加した。送風ファン22からの風速は4.4m/sとした。
ノズル11とリング電極21との間隔は0mm、10mm、20mm、30mmと変え、ノズル11から2m離れた位置での空間電荷密度との関係を測定した。該空間電荷密度は、内部に金属細線でできた綿状フィルタを有する吸引式ファラデーゲージを用いて計測した。 その結果は、図7に示すように、リング電極21がノズルに近接する程、2m離れた位置においても、空間電荷密度が増大していることが確認できた。
【0046】
[実験2]
実験2ではリング電極21へ印加する電圧を変えて、ノズル11から2m離れた位置における空間電荷密度を測定した。
ノズル11とリング電極21との距離は2mmとした。該ノズル11に供給するエアと水とは実験1と同一とした。また、リング電極21の形状も実験1と同一とし、送風ファンからの風速も同一とした。リング電極23への印加電圧を0〜−6KVと変えて、ノズル11から空間電荷密度を測定した。その結果は、図8に示すように−3KVとした場合に空間電荷密度が最も高かった。
【0047】
[実験3]
実験3ではリング電極21の大きさを変えて、ノズル11から2m離れた位置の空間電荷密度を測定した。
ノズル11とリング電極21との距離は2mmとし、リング電極21には−3KVの電圧を印加した。ノズル11に供給するエアと水は実験1と同一とし、送風ファンからの風速も同一とした。
リング電極21は内径30mm、外径50mmとした小リングと、内径50mm、外径70mmとした大リングを用いた。
その結果は、図9に示すように、小リングを用いた場合の方が空間電荷密度は大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態の除電装置の構成図である。
【図2】ドライフォグノズルの要部断面図である。
【図3】ドライフォグノズルの噴射状況を示す要部拡大図である。
【図4】第2実施形態の除電装置の構成図である。
【図5】(A)は加湿器の断面図、(B)は要部断面図である。
【図6】(A)(B)は第2実施形態の変形例を示す概略平面図である。
【図7】実験1の結果を示すグラフである。
【図8】実験2の結果を示すグラフである。
【図9】実験3の結果を示すグラフである。
【図10】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0049】
10 除電装置
11 ノズル
12 ノズル本体
13、14 ノズル頭部
15、16 噴射孔
17、33 エアコンプレッサー
18 水供給装置
19 気体供給管
20 水供給管
21 リング電極
22 送風ファン
23 噴霧制御手段
24 高圧電源
25 イオン制御装置
26 非接触表面電位計
28 帯電体
29 加湿器
30 水滴
31 帯電微粒水滴
32 イオン
36 ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を微粒化させて帯電体に向けて噴霧するノズルと、
前記ノズルから噴霧する水をアース接続する手段と、
前記ノズルと帯電体の間に配置されると共に、電源に接続された導電性材からなる電極を備え、
前記ノズルから噴霧され微粒水滴に、前記電極通過時に前記電極の極性と逆極性に誘導帯電させた前記微粒水滴の蒸発に伴い生成されるイオンで、前記帯電体の電荷を中和して除電できる構成としていることを特徴とする除電装置。
【請求項2】
前記電源に接続された電極はリング電極からなり、該リング電極内に前記ノズルから噴霧される微粒水滴を通過させている請求項1に記載の除電装置。
【請求項3】
前記水をアース接続する手段は、下記の(1)(2)あるいは(3)からなる請求項1または請求項2に記載の除電装置。
(1)前記ノズルを導電性金属材で形成すると共に該ノズルをアース接続;
(2)前記ノズルを絶縁樹脂材で形成すると共に配水管又は貯水槽を導電性金属で形成してアース接続;
(3)水中にアース接続した電極を入れる。
【請求項4】
前記電極には直流電源、交流電源又はパルス電源を接続し、前記ノズルの噴霧量が0.5リットル/H以上5リットル/H以下の場合には、前記電源から前記電極に1〜3KVの電圧を印加している請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の除電装置。
【請求項5】
前記ノズルの噴射口から30mm以内の位置に前記電極を配置している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の除電装置。
【請求項6】
前記ノズルの噴霧量を制御する噴霧制御手段と、
前記帯電体の表面の電位レベルを計測する表面電位計と、
該電位計に接続して前記帯電体の電位レベルに応じて前記噴霧制御手段を制御し、前記帯電体に到達するイオン量あるいは/およびイオンバランスをコントロールするイオン制御装置とを備えている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の除電装置。
【請求項7】
前記ノズルは水と空気を噴霧混合する二流体ノズル或いは水だけを噴霧する一流体ノズからなり、これらの噴霧粒径は1μm以上100μm以下である請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の除電装置。
【請求項8】
前記ノズルは水と圧搾空気を混合させて、平均粒径が1μm以上10μm以下のドライフォグとして噴霧する二流体ノズルからなる請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の除電装置。
【請求項9】
前記ノズルは加湿器に取り付けるノズルで、該加湿器の噴射口から30mmの範囲内に上記電極を配置している請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の除電装置。
【請求項10】
前記ノズルからの噴霧を前記電極内を通して前記帯電体へと吹き飛ばす送風機器を備えている請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−84789(P2008−84789A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266057(P2006−266057)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(390002118)株式会社いけうち (26)
【Fターム(参考)】