説明

陰圧治療用装填材

【課題】刃物を用いることなく容易に整形、又は裁断できる陰圧治療用装填材を提供する。
【解決手段】陰圧治療用装填材は、透水性弾性体から成る母材3が複数の部分塊5に区分され、部分塊5よりも断面積の小さい連結部7を介して、複数の部分塊5が相互に連なる。母材3に複数の切欠17が形成され、複数の部分塊5が互いに切欠17を境に隣接しても良い。連結部7が糸状でも良い。透水性弾性体として、連続気孔を有するスポンジを適用できる。上記の断面積の比率は、部分塊5に対して連結部7が1/10〜1/50以下であることが好ましい。連結部7の肉厚は1.5〜0.3mm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷に陰圧を付与する陰圧治療において、創傷を密封する被覆フィルムの内側に装填される陰圧治療用装填材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、創傷の陰圧治療は、創傷を被覆フィルムで密封し、その内側を陰圧に保ちながら創傷に薬剤、又は洗浄液を供給することにより行われている。また、創傷に薬剤、又は洗浄液を導くための透水性材料が被覆フィルムの内側に装填される。これらの例が下記の特許文献に開示されている。ここに述べた陰圧治療には、薬剤、又は洗浄液を創傷に供給する一方で、これを被覆フィルムの内側から吸引する方法と、薬剤等を用いることなく創傷の滲出液等を吸引するだけの方法が含まれる。
【0003】
しかしながら、創傷の全域に透水性材料を一様に馴染ませるには、透水性材料が創傷の形状に倣うように、鋏等の刃物を使用して透水性材料を整形しなければならない。この場合、作業者が鋏等の刃物を何度も透水性材料に切り込ませると、透水性材料が細切れになり屑の発生する原因となる。また、創傷の大きさに合わせて透水性材料を裁断するときも刃物の使用が不可欠である。このため、医療の現場で透水性材料を所望の形状、又は大きさに仕上げるのに手間を強いられる。また、人手で透水性材料を引っ張る等して、透水性材料を無理に裂くと、その切り口が粗雑になり、創傷に浸入する恐れのある屑が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−517690号公報
【特許文献2】特表2006−528038号公報
【特許文献3】特表2009−525087号公報
【特許文献4】特表2009−506878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、刃物を用いることなく容易に整形、又は裁断できる陰圧治療用装填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、透水性弾性体から成る母材が複数の部分塊に区分され、前記部分塊よりも断面積の小さい連結部を介して、前記複数の部分塊が相互に連なることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、前記複数の部分塊が、互いに直交する前記母材の厚み方向、幅方向、及び長手方向に配列されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記母材に複数の切欠が形成され、前記複数の部分塊が互いに前記切欠を境に隣接することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記連結部が糸状であることを特徴とする。また、本発明は、前記部分塊にホースの端部を没入させる嵌入孔を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る陰圧治療用装填材は、透水性弾性体から成る母材に張力が加えられると、その応力が部分塊よりも断面積の小さな連結部に集中するので、連結部を直ちに切断することができる。当該陰圧治療用装填材の整形、又は裁断を行うとき、総ての連結部の中から破断するべき対象の連結部を選択し、この連結部で連結された隣合う部分塊を人手により互いに引き離すだけで、母材を容易に切り分けることができる。このため、本発明によれば、医療の現場で鋏等の刃物を準備する手間を省略し、透水性弾性体の母材を創傷の固有の形状に適合するよう整形し、又は適正な寸法に裁断する作業を迅速に行うことができる。
【0011】
上記の応力は、連結部が切断された直後に残留し、連結部の切り口を収縮させる力として作用するので、連結部が断片化するのを抑止し、透水性弾性体の屑が飛散するのを予防することができる。また、上記のように切断された連結部以外の連結部によって母材の連結が保たれる。このため、本発明に係る陰圧治療用装填材は、創傷に装着される前に不用意に分散するようなことがなく、或いは個々の部分塊が母材から脱落しないという利点がある。
【0012】
更に、複数の部分塊の配列される方向が母材の厚み方向、幅方向、及び長手方向である場合、本発明に係る陰圧治療用装填材によれば、創傷の形状、表面積の広さ、又は深さに合うように、母材の厚み方向、幅方向、及び長手方向の寸法をそれぞれ自在に調整することができる。
【0013】
更に、本発明に係る陰圧治療用装填材は、透水性弾性体の母材に形成された切欠を境に複数の部分塊が互いに隣接しているので、母材を整形、又は裁断する作業者は、切欠を目印にして母材を切り分ける箇所を認識できるので、母材の仕上がりを予測するのが容易である。更に、連結部が糸状である場合、連結部に上記の応力を顕著に集中させられるので、連結部の切断は一層容易なものとなる。
【0014】
更に、本発明に係る陰圧治療用装填材は、例えば被覆シートを貫くホースによって創傷から薬剤等が吸引される場合、ホースを不要に曲げる等することなく、被覆シートの内側にホースを収めることができる。また、ホースを被覆シートの内側に収めるための余地を確保するのに、部分塊に切欠を形成するような余計な手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る陰圧治療用装填材を整形した例を示す斜視図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る陰圧治療用装填材の要部を示す断面図。
【図3】(a)は本発明の第1の実施形態に係る陰圧治療用装填材の要部の側面図、(b)はそれを切り分ける工程を示す側面図。
【図4】(a),(b)は本発明の第1の実施形態に係る陰圧治療用装填材に適用できる部分塊の変形例の斜視図、(c)は母材から切り分けられた単一の部分塊の斜視図。
【図5】(a)は本発明の第1の実施形態に係る陰圧治療用装填材を装填する工程を示す断面図、(b)はその使用例を示す断面図。
【図6】(a)は本発明の第2の実施形態に係る陰圧治療用装填材の要部を示す斜視図、(b)はそれを湾曲させた形態を示す斜視図。
【図7】(a)は本発明の第3の実施形態に係る陰圧治療用装填材の要部を示す斜視図、(b)はその変形例を示す斜視図。
【図8】(a)は本発明の第4の実施形態に係る陰圧治療用装填材の使用例を示す断面図、(b),(c)はその部分塊の変形例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1,2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る陰圧治療用装填材1は、透水性弾性体から成る母材3が複数の部分塊5に区分され、個々の部分塊5よりも断面積の小さい連結部7を介して、複数の部分塊5が相互に連なるものである。例えばポリウレタンフォーム、ポリエステル系ウレタンフォーム、又はポリエーテル系ウレタンフォームのように、連続気孔を有する発泡樹脂(スポンジ)を透水性弾性体として適用するのが好ましい。上記の断面積の比率は、部分塊5に対して連結部7が1/10〜1/50以下であることが好ましい。連結部7の肉厚は1.5〜0.3mm以下であることが好ましい。
【0017】
図2は、連結部7を表すために隣合う部分塊5の間を空隙としているが、図1に示すように隣合う部分塊5は密接していても良い。個々の部分塊5は、その厚み方向、幅方向、及び長手方向の一辺の長さをそれぞれ約1〜4cmとした立方体である。部分塊5の一辺の長さは4cmを超えても良く1cm未満であっても良い。部分塊5の形状、及び個数が限定されることはなく、個々の部分塊5が、多面体、球体、又は図4(a),(b)に示すような錐体であっても良い。また、総ての部分塊5のそれぞれの形状、又は寸法が互いに同じである必要はない。
【0018】
次に、陰圧治療用装填材1を使用する手順について説明する。作業者は総ての連結部7の中から破断するべき対象の連結部を選択する。例えば、図3(a)にドットを付した3つの部分塊5を切り分けるには、これらの部分塊5を作業者が把持し、三者が互いに離れるような力を母材3に加える。これにより母材3に発生する応力は、切断する対象となる連結部7に集中し、これらの連結部7が図3(b)に示すように伸長する。そして、連結部7が伸長できる限度を超えると直ちに破断するので、この時点で母材3が切り分けられる。図4(c)は、母材3から切り離された部分塊5の連結部7の切り口9を表している。
【0019】
以上に述べた要領で、作業者は、陰圧治療用装填材1を創傷の固有の形状に適合するよう容易に整形することができ、或いは適正な寸法に裁断することができる。また、作業者は、母材3を切り分けるのに刃物を使用しなくて済むので、医療の現場における手間が大幅に軽減されることになる。上記の応力は、連結部7の破断した直後に残留し、連結部7の切り口9を収縮させる力として作用するので、連結部7が断片化するのを抑止し、透水性弾性体の屑が飛散するのを予防することができる。
【0020】
図5(a)は創傷11に倣う形状に整形された陰圧治療用装填材1が装填される工程を表している。図5(b)は被覆シート13の内側に装填された陰圧治療用装填材1が大気圧で圧縮され創傷11に密接した例を示している。被覆シート13の内側に陰圧を導くホースは同図で省略されている。上記のように切断された連結部以外の連結部7によって図5(a)に示した陰圧治療用装填材1の母材3の連結が保たれる。このため、創傷11に装着される前に陰圧治療用装填材1が不用意に分散するようなことはなく、或いは個々の部分塊5が母材3から脱落しないという利点がある。
【0021】
更に、複数の部分塊5の配列されている方向は、図1に示すように母材3の厚み方向、幅方向、及び長手方向の三方向に一致するので、創傷11の深さ、表面積の広さ、又は形状に合うように、作業者は母材3の三方向の寸法をそれぞれ自在に調整することができる。例えば、創傷11が比較的浅いときは、母材3の厚み方向に並ぶ部分塊5の個数が少なくなるように母材3から幾つかの部分塊5を切り離し、創傷11が深いほど母材3の厚み方向に並ぶ部分塊5を母材3から切り離す個数を少なくすれば良い。
【0022】
図6(a)に示すように、本発明の第2の実施形態に係る陰圧治療用装填材15は、棒状の母材3に複数の切欠17が形成され、複数の部分塊5が互いに切欠17を境に隣接するものである。複数の切欠17は、母材3の長手方向に等間隔で並び、これらが母材3に切り込む向きは、母材3の長手方向に切欠17の並ぶ順で交互に反対向きである。
【0023】
陰圧治療用装填材15を整形、又は裁断する作業者は、切欠17を目印にして母材3を切り分けるべき箇所を認識できるので、母材3を切り分けた後のその仕上がりを容易に予測することができる。符号10は連結部7の切り口を指している。図6(b)に示すように、陰圧治療用装填材15を湾曲させた形態で被覆シートの内側に装填することができる。このとき、複数の切欠17のうち母材3の湾曲する内側の切欠17が閉じ、母材3の湾曲する外側の切欠17が開くように、陰圧治療用装填材15が変形するので、陰圧治療用装填材15の母材3に不要な力を加えることなく、陰圧治療用装填材15を滑らかな円弧状に湾曲させることができる。
【0024】
複数の切欠17の個数、又はそれらの間隔は何ら限定されるものではなく、総ての切欠17が母材3に切り込む向きを一方に揃えてもよい。この他の陰圧治療用装填材15の構成、及び陰圧治療用装填材15による効果は陰圧治療用装填材1と同様である。
【0025】
図7(a)に示すように、本発明の第3の実施形態に係る陰圧治療用装填材19は、連結部7を糸状としたものである。図7(b)に示すように、複数の部分塊5にナイロン等の合成樹脂製の糸20を貫通させ、複数の部分塊5を糸20によって連結するようにしても良い。互いに交差する複数条の糸20によって複数の部分塊5を連結しても良い。陰圧治療用装填材19によれば、上記の応力を連結部7に顕著に集中させることができるので、連結部7、又は糸20の切断が一層容易なものとなる。この他の陰圧治療用装填材19の構成、及び陰圧治療用装填材19による効果は陰圧治療用装填材1と同様である。
【0026】
図8(a)に示すように、本発明の第4の実施形態に係る陰圧治療用装填材21は、部分塊5にホース23の端部を没入させる嵌入孔25を形成したものである。ホース23は、創傷11に薬剤等を供給する経路、創傷11から薬剤等を吸引する経路、又は被覆シート13の内側を圧力センサに接続する経路を担うものである。図8(b),(c)に示すように、嵌入孔25は十字形、星形に切り込んだスリットでも良く、ホース23よりも直径の小さなピンホールであっても良い。また、嵌入孔25は部分塊5を貫通していても良いが、嵌入孔25の奥端27が部分塊5の内方に位置するようにしても良い。
【0027】
陰圧治療用装填材21によれば、被覆シート13を貫いたホース23を不要に曲げる等することなく、ホース23の端部を被覆シート13の内側に収めることができる。また、ホース23の端部を被覆シート13の内側に収めるための余地を確保するのに、部分塊5に切欠を形成するような余計な手間を省くことができる。この他の陰圧治療用装填材21の構成、及び陰圧治療用装填材21による効果は陰圧治療用装填材1と同様である。
【0028】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施することができる。図5(a),図8(a)は一つの陰圧治療用装填材1,21を一箇所の創傷11に装着する例を示しているが、個別の母材3に由来する複数の陰圧治療用装填材1,15,19,21を組み合わせ、これらを一つの創傷11に装着しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る陰圧治療用装填材は、創傷の滲出液を吸引し、創傷を灌注し、又は洗浄する等の陰圧治療に適用できる。陰圧治療は、薬剤、又は洗浄液を創傷に供給する一方で、これを被覆フィルムの内側から吸引する方法と、薬剤等を用いることなく創傷の滲出液等を吸引するだけの方法の何れでも良い。
【符号の説明】
【0030】
1,15,19,21...陰圧治療用装填材、3...母材、5...部分塊、7...連結部、9,10...切り口、11...創傷、13...被覆シート、17...切欠、20...糸、23...ホース、25...嵌入孔、27...奥端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性弾性体から成る母材が複数の部分塊に区分され、前記部分塊よりも断面積の小さい連結部を介して、前記複数の部分塊が相互に連なることを特徴とする陰圧治療用装填材。
【請求項2】
前記複数の部分塊は、互いに直交する前記母材の厚み方向、幅方向、及び長手方向に配列されていることを特徴とする請求項1に記載の陰圧治療用装填材。
【請求項3】
前記母材に複数の切欠が形成され、前記複数の部分塊が互いに前記切欠を境に隣接することを特徴とする請求項1又は2に記載の陰圧治療用装填材。
【請求項4】
前記連結部が糸状であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の陰圧治療用装填材。
【請求項5】
前記部分塊にホースの端部を没入させる嵌入孔を形成したことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の陰圧治療用装填材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−105840(P2012−105840A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257415(P2010−257415)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】