説明

陸水中の土壌由来懸濁物濃度の推定方法

【課題】観測方向や水底色の相違などの影響を受けにくい、陸水中の土壌由来懸濁物濃度の非接触的な推定方法を提供する。
【解決手段】陸水表面の太陽光の反射光から、短波長赤外域に含まれる1つの波長バンド、近赤外域に含まれる1つの波長、およびバンド可視域に含まれる1つの波長バンドについての非偏光反射率を測定し、演算処理することによる陸水中の土壌由来懸濁物濃度の推定方法であり、前記短波長赤外域が波長1500〜2300nmの範囲で、前記近赤外バンドが波長750〜1300nmの範囲で、前記可視域が波長450〜700nmの範囲であることが好ましく、更に本発明は、前記非偏光反射率の測定が、該波長バンドごとの反射光が光軸を中心として回転する偏光フィルタを通過することにより検出される該波長バンド反射光中の偏光反射強度の割合から算定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、湖沼水の土壌由来懸濁物濃度の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川、湖沼水等の水環境は、飲料水をはじめとする生活環境において、又水産資源において重要な要素の一つである。水質改善の前提となる水質監視技術はますます重要性を増している。そのための信頼性の高い水質測定手段が求められている。
【0003】
従来の水質測定の技法は、人手による操作の観点から分類すれば、現場で技能者が測定器具等を用いて行うものと、現場で採取したサンプルを研究室に持ち帰ってから計測機器により測定するものとがある。
【0004】
前者は、例えば水の外観、匂い、水温、pH、ORP、電気伝導率、透視度、溶存酸素、CODmnなどの現場測定であり、測定器具があれば短時間で計測結果を入手することができるが、技能者を必要とすることおよび監視のための定期的な測定にコストがかかる難点がある。
【0005】
また後者は、水の土壌または生物由来懸濁物濃度、BOD、CODcr、あるいはアンモニア、亜硝酸、硝酸などの窒素濃度等、測定項目に対応した精密測定機器を用いて研究室で測定可能であるが、現場で採取したサンプルを変質しない形態で研究室まで持ち帰る必要があり、遠隔地の水質を定期的に分析監視するには難点がある。
【0006】
前記方法はいずれにせよ、これらの測定結果から水質データがまとめられるには採水から数日ないし十数日の時間を必要とする。そこで、現場に光電式センサを利用した水質測定装置を設置して連続的または定期的に監視データの収集を行うことが一部で行われている。
【0007】
従来の土壌由来懸濁物濃度推定方法は、接触計測法としては、水を採取して分析するか、または測定装置を直接水中に敷設する方法に限られていた。非接触的計測法としては、リモートセンシング分野で上空から反射光の波長別強度を利用する方法として、特に可視および近赤外域の400-1050nmに含まれる複数の反射光の強さを利用するものであった(例えば特許文献1および非特許文献1、非特許文献2を参照。)。
【0008】
又、水深0.5ないし5m程度の中規模河川においては、上空から反射光の強度を測定すること等により、河川表層部の土壌由来懸濁物濃度の推定値をもって該河川の土壌由来懸濁物濃度とすることの可能性が示唆されているが(例えば非特許文献3を参照。)、本方法は表層と底層との土壌由来懸濁物濃度に差が少ない、定常的な水流がある場合に限定されている。
【0009】
上記の通り従来の接触計測法によれば、測定の迅速性および多点性に困難があり、反射光による方法では、観測の方向や水底色などの条件の多様性には十分対応できなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2004−150916号公報
【非特許文献1】山田康晴・斉藤元也・奥山武彦「濁水の分光反射率測定-沖縄国頭マージを事例として」平成4年度農業土木学会大会講演会講演要旨集p468-469、1992.
【非特許文献2】J. A. Warrick、L. A. K. Mertes、 D. A. Siegel and C. Mackenzie、“Estimating suspended sediment concentrations in turbid coastal waters of theSanta Barbara Channel with SeaWiFS”、 International Journal ofRemote Sensing、 25、p1995-2002、 2004.
【非特許文献3】坂西研二・佐々木由佳・神田健一・中島康弘、「中規模流域における農耕地等から流出する懸濁物質の実態把握」 平成16年度農業土木学会講演会講演要旨集p636-637、 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、陸水中の土壌由来懸濁物濃度の計測において、観測方向や水底色の相違などの影響を受けにくい、非接触的な推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、短波長赤外域に含まれる1つの波長バンド、近赤外域に含まれる1つの波長バンド、および可視域に含まれる1つの波長バンドの反射光から偏光成分を除去することにより、観測方向による測定誤差を縮減し、土壌由来懸濁物濃度の推定精度を向上させることを見出し、本発明に至った。即ち本発明は以下の通りである。
<1>陸水表面の太陽光の反射光から、短波長赤外域に含まれる1つの波長バンド、近赤外域に含まれる1つの波長バンド、および可視域に含まれる1つの波長バンドについての非偏光反射率を測定し、演算処理することによる陸水中の土壌由来懸濁物濃度の推定方法であり、前記非偏光反射率が、1つの波長バンドの反射光が光軸を中心として回転する偏光フィルタを通過することにより検出される該波長バンド反射光中の偏光反射強度から算定されることが好ましい。
<2>更に本発明は、前記演算処理が、
SS=A+D+α×NPRs+β×NPRn+γ×NPRv
である土壌由来懸濁物濃度の推定方法である。
上記演算処理において、SSは陸水中の土壌由来懸濁物濃度、Dは水底色の違いによる補正値、NPRsは短波長赤外域に含まれる1つの波長バンドsの非偏光反射率、NPRnは近赤外域に含まれる1つの波長バンドnの非偏光反射率、NPRvは可視域に含まれる1つの波長バンドvの非偏光反射率、α、β、γ、およびAはあらかじめ設定された定数をそれぞれ示す。
<3>更に本発明は、測定対象である光を一定の視野範囲に絞って取り入れるアパーチャ部と、波長を選択するフィルタと、偏光フィルタと、偏光フィルタ回転機構と、反射光を光電変換する光電変換センサと、光電変換した電流を増幅したのち同期検波および平滑化し出力電圧を取り出す電圧出力装置とを備えた偏光反射強度の測定装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、陸水中の土壌由来懸濁物濃度を、観測方向にかかわらず精度よく推定でき、又水底色の相違を一つの係数の増減で調整できるため、極めて省力的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、陸水表面の太陽光の反射光から、短波長赤外域に含まれる1つの波長バンド、近赤外域に含まれる1つの波長バンド、および可視域に含まれる1つの波長バンドについての非偏光反射率を測定し、演算処理することによる陸水中の土壌由来懸濁物濃度(mg/L、以下SSということがある。)の推定方法である。以下本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
(特定波長バンドへの分光)
陸水表面の太陽光の反射光は、アパーチャ部により測定対象である光が一定の視野範囲に絞られる。該アパーチャ部は、陸水表面からの距離に応じて視野範囲を調整できる開口角切り替え方式が好ましい。該開口角切り替え方式の開口角切り替え範囲としては、開口角半値幅が2°〜10°の範囲が好ましい。前記開口角切り替え方式において、アパーチャ部と陸水表面との距離は0.5m〜20mの範囲が好ましい。
【0016】
前記アパーチャ部へ入射された反射光は、バンドパスフィルタにより、特定の波長バンドに分けられる。波長別の分光方法としては、バンドパスフィルタによることが好ましく、回折格子によるものは、分光時に偏光を生起するために好ましくない。
【0017】
前記波長バンドとしては短波長赤外域、近赤外域、および可視域に含まれる波長バンドを選択する。選択される波長バンドとしては、短波長赤外域では波長1500〜2300nmの範囲が、前記近赤外域では波長750〜1300nmの範囲が、前記可視域では波長450〜700nmの範囲が好ましく、中でも短波長赤外域では波長1600〜1700nmの範囲が、前記近赤外域では波長780〜880nmの範囲が、前記可視域では波長510〜610nmの範囲がより好ましい。
【0018】
前記波長別反射光の反射強度の測定は、光電変換する光検出器による出力値(以下光電変換値という。)により測定する。該波長別反射光の反射強度は、偏光分光放射計により光電変換値として、連続的に測定される。該光電変換値に換算係数Kを乗じることにより、反射強度を得ることができる。
【0019】
(偏光測定)
前記により波長バンドごとに分光された波長別反射光は、光軸を中心軸として回転する偏光フィルタを通過することにより、該波長別反射光中の偏光の割合(以下波長別偏光度という。)に応じて通過光の光量が増減する。該光量の増減は、連続的に偏光分光放射計により、波長別光電変換値として測定され、前記換算係数Kを乗じることにより、偏光成分の反射強度を得ることができる。なお、反射光中の偏光成分以外を、非偏光反射光とする。
【0020】
前記偏光フィルタは、連続的に常時一定方向一定速度で光軸と平行な回転中心軸の周りを回転していることが好ましい。該回転速度は、1回転に1〜3秒が好ましく、1.5〜2.5秒がより好ましい。前記偏光フィルタの偏光角測定範囲は少なくとも0°〜180°が必要で、0°〜360°が好ましい。偏光角精度は−2〜+2°の範囲が好ましく、−1〜+1°の範囲がより好ましい。
【0021】
さらに前記偏光フィルタは、フィルタ部位の製造ムラに起因する光透過率の偏差を補正されることが好ましい。該補正は、簡易積分球に太陽光を入射、多重反射させた偏光成分を含まない光により、較正値をあらかじめ作成することが好ましい。
【0022】
本発明は太陽光を用いるため、太陽光量の波長別推定値Sを使用するが、該「推定値S」は、「太陽定数」に測定地点の緯度、経度、および測定日、時刻から算出した「太陽天頂角の余弦」を乗じた値として算出する。また、偏光分光放射計は測定時の光軸の天頂角検出機構、および磁北を基準とした方位検出機構を備えることが好ましい。
【0023】
(波長別偏光度および非偏光波長別反射率の算出)
前記波長別光電変換値について、回転角度ごとに得られる光電変換値の中から、光電変換最大値(Max)および光電変換最小値(Min)を検出する。
【0024】
前記光電変換最大値(Max)および光電変換最小値(Min)より、下記式1により波長別偏光度Pを算出する。なお該波長別偏光度Pは、対象物からの反射光中の、波長別の偏光反射強度の割合である。
【0025】
P=(Max−Min)/(Max+Min) (式1)
【0026】
前記光電変換最大値(Max)、光電変換最小値(Min)、換算係数Kおよび前記太陽光量の波長別推定値Sを用いて、下記式2により波長別反射率R(%)を算出する。
【0027】
R=K×(Max+Min)/(2×S)×100 (式2)
【0028】
上記波長別偏光度P、および波長別反射率Rから、下記式3により非偏光波長別反射率NPR(%)を算出する。
【0029】
NPR=R×(1−P) (式3)
【0030】
上記により求められた短波長赤外域に含まれる1つの波長バンドsの非偏光反射率NPRs、近赤外域に含まれる1つの波長バンドnの非偏光反射率NPRn、可視域に含まれる1つの波長バンドvの非偏光反射率NPRv、およびあらかじめ設定された定数α、β、γ、およびA、並びに水底色の違いによる補正値Dを用いることにより、陸水中の土壌由来懸濁物濃度SSは下記式により得ることができる。
【0031】
SS=A+D+α×NPRs+β×NPRn+γ×NPRv (式4)
【実施例】
【0032】
以下、本発明の具体的内容を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(測定装置)
本実施例に用いた偏光反射強度の測定には、センサヘッド部、制御部、コンピュータおよび電池電源部より構成される偏光分光放射計を用いた。前記センサヘッド部は、外部より測定対象である光を一定の視野範囲に絞って取り入れるアパーチャ部(株式会社ドナレック加工品にて鏡筒に組み込み、開口角半値幅5°/7.5°切り替え式)、偏光フィルタ(株式会社ルケオ、可視域POLAX-42S、および近赤外域POLAX-381RII、株式会社ドナレック社でカットして同社加工の回転リングに組み込み、偏光角測定範囲:0-359°、偏光角測定精度:±1°)、およびそれらの回転機構(株式会社ドナレック製、上記回転リングをDCモーターで駆動、偏光フィルタ回転速度:1回転/2秒)、測定光を波長別に分けるバンドパスフィルタ(中心波長、可視域内の490nm、 560nm、 660nmの3バンド、近赤外域内の中心波長、830nm、 1150nm、 1250nmの3バンド、 短波長赤外域内より、1650nm、2200nmの2バンド、計8バンド、いずれも光伸光学工業製、特別注文品)と、それぞれの波長バンドごとの光量を光電変換する光検出器(浜松フォトニクス社製 シリコンフォトセンサ S2386-18K ×4、同じくゲルマニウムフォトセンサ B2538-01 ×3、同じくPbSフォトセンサ P2532 ×1)より構成される。
【0033】
前記偏光方向は測定光軸に対し鉛直上向きな方向を0°とした。このセンサヘッド部には、さらに測定時の光軸の天頂角検出機構(観測天頂角測定方式:懸垂錘およびパルスエンコーダ、オムロン製 E6C2-A、観測天頂角測定範囲:0〜180°、1°ステップ(下方0°、水平時90°)、観測天頂角測定精度:±2°)、および磁北を基準とした方位検出機構(方位角測定方式:磁気方位センサ、株式会社エイプラス製 AP-311、方位角測定範囲:0〜359°、1°ステップ、方位角測定精度:±8°)を備えた。
【0034】
前記制御部(株式会社ドナレック製、市販の半導体、抵抗、コンデンサー等の電子部品からなる同社内製)は、センサヘッドに入射する波長バンドごとの光量を電圧値に変換し(以下波長別光電変換値という。)、付属のコンピュータに伝送し、処理、記録する。前記波長別光電変換値は、偏光フィルタの回転に伴う角度1°毎に、0〜359°の間において出力される。
【0035】
(偏光フィルタの製造ムラの補正法)
偏光フィルタの回転にともなうフィルタ部位の製造ムラに起因する光透過率の偏差については、市販の発泡スチロール製球(内部直径260mm)内部を水性ペイント白つや消しスプレーで塗装した簡易積分球(株式会社ドナレック製)に太陽光を入射させ、内部で多重反射させることにより偏光成分を含まないと仮定できる光としたうえで、該光をセンサヘッド部に入射させて、波長別光電変換値を偏光フィルタの角度位置とともに記録した較正値をあらかじめ作成し、対象測定時波長別光電変換値を該較正値で偏光フィルタ回転角ごとに除することにより補正した。
【0036】
(波長別光電変換値から反射強度への換算係数Kの算出)
前記補正された波長別光電変換値については、100V500Wの波長別放射照度標準電球(ウシオ電機株式会社製、JPD-100-500CS、日本電気計器検定所にて波長別放射照度の検定済。)に指定電圧を与えて得た照明光を、硫酸バリウム粉末を塗布したアルミ板(EastmanKodak: White Reflectance Coating、反射率1.0の完全拡散面とみなした。)に照射した反射光の光電変換値を測定し、波長別放射照度と光電変換値との換算係数Kを求め、前記波長別光電変換値を波長別反射強度(μW・cm-2・sr-1・nm-1)に変換した。以後該波長別反射強度により観測結果を処理した。
【0037】
(水槽)
水中の土壌由来懸濁物濃度( mg/L、以下SSということがある。)、および底面の色の異なる水槽を以下により作成した。水槽として、底面直径70cm、高さ50cmの白色プラスチック製の円筒(側壁透光率約30%、底面透光率約20%、底面反射率可視域65%、近赤外域5〜60%)を用いた。
【0038】
黒色と黄褐色のウレタン防炎加工厚地布を2枚重ねて縫い合わせた、表裏の色の異なる遮光幕(約2m×2m)を用いて、前記円筒の底面に、該遮光幕の黒色面を上面として敷設した区(以下黒色底面区という。透光率は無視可能、反射率は約2%。)と、黄褐色面を上面として敷設した区(以下黄褐色底面区という。透光率は無視可能、反射率は可視域で約10〜25%、近赤外域で約40%。)と、遮光幕を敷設しない区(以下白色底面区という。反射率は、可視域と830nmで65%、1150nmで45%、1250および1650nmで28%、2200nmで約7%。)との、底面の色の異なる3種類の円筒を設け、各円筒に水道水を水深45cmまで注入して、本実施例の水槽とした。
【0039】
前記底面の色の異なる各水槽に、愛知県安城市内の水田表層から採取した細粒黄色土の高濃度懸濁液を、注入量を変えて注入し、充分撹拌することにより、SSが 0mg/Lから約200mg/Lまで、5段階のSSレベルを設定した。
【0040】
(水槽材料の反射率、透光率の測定方法)
前記反射率は、前記偏光分光放射計を用いて、対象物による太陽光の反射強度と、同じ条件で太陽光により照明された標準拡散板(ラブスフェア社製、型式:SRT-99-120I、 絶対反射率のメーカ保証値97%以上。)からの反射強度との比として求めた。
【0041】
前記透光率も同様に前記偏光分光放射計を用いて、地面に対して45°に傾斜させた前記標準拡散板を太陽光で照明して得られた反射強度と、前記標準拡散板と前記偏光分光放射計との間に対象物を垂直に挿入したときに得られた反射強度との比として求めた。
【0042】
(光電変換最大値(Max)および光電変換最小値(Min)の測定)
茨城県つくば市の農業環境技術研究所構内における周囲の開けた芝生上に、前記SSレベルの異なる水槽を設置し、前記偏光分光放射計を用いて、各水槽からの反射光の波長別反射率および波長別偏光度を測定した。測定波長は、可視域として中心波長、490nm、 560nm、 660nmの3バンド、近赤外域として中心波長、830nm、 1150nm、 1250nmの3バンド、 短波長赤外域として、1650nm、2200nmの2バンド、計8バンドとした。
【0043】
前記偏光分光放射計を高さ約1mの三脚上に設置し、観測視野を10°として、かつ該観測視野が対象水面のほぼ中心となり、水槽壁および外部にかからないように該偏光分光放射計と水槽水面との離隔距離を0.5m〜1.5mの範囲で調節した。なお前記偏光分光放射計には測定位置および範囲を確認するための照準器を付属した。
【0044】
測定は7月28日に実施した。天候は快晴無風だった。実験は午前10時から12時半まで行い、その間に太陽天頂角は、28°から17°まで減少したのち、再び19°まで増加した。測定時の測定地点直上大気上端における太陽光量の波長別推定値は、太陽定数に測定地点の緯度、経度および測定日・時刻から算出した太陽天頂角の余弦を乗じた値とした。
【0045】
測定時の太陽方位は、真北を0°とし、東を90°、南を180°とした場合に、測定開始時点においては約120°で、測定終了時においては約210°まで変化した。波長別反射率ならびに波長別偏光度の測定は、観測方向として測定時の太陽方位を基準に、約180°(太陽正対)、約90°(横方向)および約60°(斜め後ろ)の3方向を、観測天頂角として、0、15、30、45および60°の5角度を前記各観測方向で設定した。以上より測定は、SSレベル5段階のそれぞれに関して、底色×3、観測方向×3および観測天頂角×5の45測定を行った。
【0046】
前記太陽光で照明された対象物からの反射光が偏光分光放射計へ入射されて、該反射光が前記バンドパスフィルタを通過することにより、前記波長バンドに分光される。該波長別反射光が光軸を中心として回転する偏光フィルタを通過することにより、該波長別反射光中の偏光反射強度の割合に応じて通過光が増減し、これにともない偏光分光放射計の波長別光電変換値も増減する。そこで偏光フィルタの回転にともなって、その回転角度1°ごとに得られる光電変換値の中から、光電変換最大値(Max)および光電変換最小値(Min)を検出した。なお、本手順は、文献(R. Ghosh、 V. N. Sridhar、H. Venkatesh、 A. N. Mehta、and K. I. Patel、 “Linear polarizationmeasurements of a wheat canopy”、 International Journal ofRemote Sensing 14、 p2501-2508、1993.)の記載に基づいて行った。
【0047】
(波長別偏光度および非偏光波長別反射率の算出)
波長別偏光度Pは、前記光電変換最大値(Max)および光電変換最小値(Min)より、下記式1により算出した。なお該波長別偏光度Pは、対象物からの反射光中の、波長別の偏光反射強度の割合である。
【0048】
P=(Max‐Min)/(Max+Min) (式1)
【0049】
波長別反射率R(%)を、前記光電変換最大値(Max)、光電変換最小値(Min)、換算係数Kおよび前記太陽光量の波長別推定値Sを用いて、下記式2により算出した。
R=K×(Max+Min)/(2×S)×100 (式2)
【0050】
更に、非偏光波長別反射率NPR(%)を、下記式3により算出した。
【0051】
NPR=R×(1‐P) (式3)
【0052】
上記により求められる波長別反射率、および非偏光波長別反射率の測定結果について、底面の色とSSとの関係を検討した。SSの実測値は、サンプル水を500ml採取し、フィルタ(Millipore社製 Membrane filter 0.45μm HV、 Cat. No.HVLP04700)で吸引濾過し、捉えた土壌粒子をフィルタとともに105℃で充分に通風乾燥したのち秤量し、あらかじめ秤量しておいた濾過前のフィルタの乾燥重を差し引いて、土壌粒子の質量を求め、これをサンプル水の体積で除して1L当たりの土壌mg数としてSS(mg/L)を算出した。
【0053】
(結果1:非偏光波長別反射率、観測角度および底色を独立変数とするSS推定重回帰分析)
上記により得た8バンドの測定値から、2200nmを除く7バンドの非偏光波長別反射率、太陽相対観測方位角、観測天頂角および底色ダミー変数を独立変数とし、SSを従属変数とした重回帰分析を行った。なお底色ダミー変数とは、本実施例においては底色が3色なので、2個の変数d1とd2を導入し、黒の場合、d1=1、d2=0、白の場合、d1=0、 d2=1、黄褐色の場合d1=d2=-1とした。該重回帰分析の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の回帰分析を要約すると、決定係数(R2)=0.843、誤差の標準偏差(RMSE)=26.56 mg/L、観測数(N)=213となり、観測天頂角ならびに太陽相対観測方位角の項はいずれも有意とならなかった。したがって非偏光波長別反射率を用いることにより観測方向や観測天頂角の項をモデルの説明変数から除去できることが明らかとなった。
【0056】
(結果2:3バンド非偏光波長別反射率と底色ダミー変数のみから成るSS推定モデル)
前記結果1の解析から、非偏光波長別反射率を測定した5観測天頂角での値を加算平均して45個の観測データに要約した。次に変数増減法などのステップワイズ重回帰法を利用して使用バンド数を絞った結果、560nm、830nm、 1650nmの3バンドの非偏光波長別反射率と底色ダミー変数を用いることで、下記式5に示すモデルを得た。結果を図1に示す。
【0057】
SS=-47.25+D−95.34×NPR1650+85.32×NPR830−4.53×NPR560 (式5)
【0058】
式5において、NPR1650、NPR830、NPR560はそれぞれ1650nm、830nm、 560nmの3バンドの非偏光波長別反射率を、Dは底色係数で、底色が黒色では、D=59.83、底色が白色では、D=-80.56、底色が黄褐色では、D=20.72、である。本式による推定値と実測値との関係は決定係数(R2)=0.95、誤差の標準偏差(RMSE)=15.2mg/L、観測数(N)=45で表された。
【0059】
したがって上記の3バンドで測定された非偏光波長別反射率を用いた式5は、底色係数を観測対象に応じて調整することにより、観測方向の影響を考慮することなくSSを推定するのに有効である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の方法を用いることにより、陸水中の土壌由来懸濁物濃度を非接触的に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】非偏光波長別反射率3バンドを用いた重回帰モデルによるSS推定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸水表面の太陽光の反射光から、短波長赤外域に含まれる1つの波長バンド、近赤外域に含まれる1つの波長バンド、および可視域に含まれる1つの波長バンドについての非偏光反射率を測定し、演算処理することによる陸水中の土壌由来懸濁物濃度の推定方法。
【請求項2】
前記短波長赤外域が波長1500〜2300nmの範囲で、前記近赤外域が波長750〜1300nmの範囲で、前記可視域が波長450〜700nmの範囲である請求項1に記載の土壌由来懸濁物濃度の推定方法。
【請求項3】
前記非偏光反射率が、1つの波長バンドの反射光が光軸を中心として回転する偏光フィルタを通過することにより検出される該波長バンド反射光の偏光反射強度から算定される請求項1又は請求項2に記載の土壌由来懸濁物濃度の推定方法。
【請求項4】
前記演算処理が、
SS=A+D+α×NPRs+β×NPRn+γ×NPRv
である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の土壌由来懸濁物濃度の推定方法。
上記演算処理において、SSは陸水中の土壌由来懸濁物濃度、Dは水底色の違いによる補正値、NPRsは短波長赤外域に含まれる1つの波長バンドsの非偏光反射率、NPRnは近赤外域に含まれる1つの波長バンドnの非偏光反射率、NPRvは可視域に含まれる1つの波長バンドvの非偏光反射率、α、β、γ、およびAはあらかじめ設定された定数をそれぞれ示す。
【請求項5】
測定対象である光を一定の視野範囲に絞って取り入れるアパーチャ部と、波長を選択するフィルタと、偏光フィルタと、偏光フィルタ回転機構と、反射光を光電変換する光電変換センサと、光電変換した電流を増幅したのち同期検波および平滑化し出力電圧を取り出す電圧出力装置とを備えた請求項3に記載の偏光反射強度の測定装置。


【図1】
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【公開番号】特開2007−225358(P2007−225358A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44786(P2006−44786)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】