説明

集積化PCR−CEマイクロ流体デバイスにおける圧力を均一化するための圧力マニホールド

毛細管チャネルによって接続されていてもよい複数のウエルを有するチップ、並びにウエル及び毛細管チャネルの全てに均一の圧力をかけるためにチップ上に配置されるように構成されるマニホールド部材を含むデバイスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2007年5月15日に出願された米国特許出願番号第60/938,171号の優先権を主張し、それは本明細書に参照によって組み入れられている。
【0002】
[技術分野]
本発明は、毛細管チャネルによって接続されていてもよい複数のウエルを有するチップ、及びウエルとチャネルにおける液の蒸発、結露及び意図しない動きを防止するため、ウエル及び毛細管チャネルの全てに均一の圧力をかけるためにチップ上に配置されるように構成されたマニホールド部材、を含むデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
Wilding及び共同研究者らがマイクロチップデバイス中のチャンバーにおいてPCRを初めて実施して以来、マイクロ流体PCRが発展してきた(非特許文献1)。Northrupらは、異なる基材上に製作されたPCR反応器と毛細管電気泳動(CE)モジュールを連結したデバイスについて述べている(非特許文献2)。その後、Burnsのグループは、PCR及びゲル電気泳動を実施可能な集積化デバイスを開発した(非特許文献3)。MathiesのグループのLagally及びACLARA Biosciences社のKohも集積化マイクロ流体デバイスにおけるPCR−CEを実証した(非特許文献4及び非特許文献5)。Hessらは核酸ハイブリダイゼーションを制御するために高圧化でPCRを実施するための反応器を使用した(特許文献1)。
【0004】
PCRを行うために必要な温度は、水の沸点に近い95℃にも達する。そのような高温では蒸発が激しく、それによって反応溶液中の濃度が変化し、そしてPCR効率が低下することがある。PCRチャンバー中の溶液内部で気泡が発生することがあり、その結果、マイクロ流体チャネル中で圧力差が生じて、目的とする領域外に液を押出してしまう(例えば、分離緩衝液がCE分離チャネルの外に移動することがある)。更に、ゲルバルブ、ワックスバルブのようなバルブや多くのマイクロ流体デバイスにおいて一般的に使用される疎水性材料は再使用できず、PCR反応の最終段階やPCR反応完了時点でのみのPCR増幅の検出にデバイスが限定されてしまう。
【0005】
使い捨てPCRデバイスは、キャリー・オーバー及び交差汚染の問題を避けることが望ましい。更に、蒸発と液の移動を防ぐためにバルブが使用できるものの、マイクロ流体PCRデバイス内へのバルブの組み込みによって、加工コストが実質的に上昇するおそれがある。バルブは一旦作動されるとその機能を失う傾向にあり、その結果、反応室から産物を連続して又は複数回サンプリングすることができなくなるので、マイクロ流体PCRシステムにおけるバルブの使用にも疑問がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6753169号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wilding, P., Shoffner, M.A., Kricka, L.J., PCR in a silicon microstructure,Clin. Chem., 1994, 40, 1815-1818.
【非特許文献2】Woolley, A.T., Hadley, D., Landre, Pl, deMelloA.J., Mathies, R.A., Northrup, M.A. Functional integration of PCR amplification and capillary electrophoresis in a microfabricated DNA analysis device, Anal. Chem., 1996, 68, 4081-4086.
【非特許文献3】Burns, M.A., Johnson, B.N., Brahmasandra, S.N., Handique, K, Webster, J.R., Krishnan, M., Sammarco, T.S., Man, P.M., Jones, D., Heldsinger, D., Mastrangelo, C.H., Burke,D.T., An integrated nanoliter DNA analysis device,Science, 1998, 282, 484-487.
【非特許文献4】Lagally, E.T., Simpson, P.C., Mathies,R.A., Monolithic integrated microfluidic DNA amplification and capillary electrophoresis analysis system,Sensors and Actuators B, 2000, 63, 138-146.
【非特許文献5】Koh, C.G., Tan, W., Zhao, M., Ricco, A.J.,Fan,Z.H., Integrating polymerase chain reaction, valving, and electrophoresis in a plastic device for bacterial detection,Anal. Chem., 2003, 75, 4591-4598.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、PCRサイクル中のマイクロ流体チャネル・ネットワークにおける圧力差に起因する液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止するために使用される、マニホールドを有するデバイスが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
毛細管チャネルによって接続されていてもよい複数のウエルを有するチップ、及びウエル及び毛細管チャネルの全てに均一の圧力をかけるためにチップ上に配置されるように構成されるマニホールド部材を含むデバイスが提供される。
【0010】
PCRサイクル中のウエル及びチップチャネル中の圧力差に起因するその中の液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止するために、マニホールド部材を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)毛細管電気泳動(CE)チップ上に配置してもよい。
【0011】
これまでの一般的記述及び以下の詳細な記述の両者が、単に例示的かつ説明的なものであり、そしてクレームされたように本発明を制約するものではないと理解されるべきである。以下に記載される実施態様は、マイクロ流体PCR−CEチップと共にデバイスを使用することに関するものであるが、デバイス自体はそのようなチップと共に使用されることに制限されない。
【0012】
この明細書中に組込まれ、そしてその一部を構成する添付図は、本発明の実施態様を例示し、そしてその記述と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。図の間で同じ参照番号が使用される場合、それらは同じ又は類似の要素を言及している。更に、この開示において記載される如何なる及び全ての参考文献は本明細書に参照によって組み入れられているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のデバイスの実施態様である。
【図2】本発明のデバイスの実施態様である。
【図3】図3Aは本発明の実施態様からの例示的測定結果を示す。図3Bは制御システムの測定結果を示す。
【図4】PCR成長曲線である。
【図5】PCR標的産物が検出可能となり始める18サイクルでの毛細管電気泳動(CE)分離の電気泳動図である。
【図6】ゼロコピーから10コピーまでのCE分離結果の電気泳動図である。
【図7】本発明のデバイスの別の実施態様である。
【図8】本発明のデバイスの更に別の実施態様である。
【図9】本発明のデバイスの別の実施態様である。
【図10】本発明のデバイスの別の実施態様である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の例示的実施態様について詳細に言及するが、その実施例が添付図において図示されている。可能な限り、同じ又は同様の部品を参照するために、図全体を通して、同じ参照番号が使用されている。
【0015】
ここに記載される本発明の実施態様は、PCRサイクル中のマイクロ流体チャネル中の圧力差に起因する液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止するためのマイクロ流体デバイスにおいて使用されるマニホールドである。このマニホールドは、PCRサイクル中に圧力差が生じないように、マイクロ流体デバイスのウエルとマイクロ流体チャネルを外部環境からシールすることを可能にする。また、これは外部圧力源が全てのウエルに接続されることを可能にする。外部圧力をかけると、PCR溶液の沸点が上昇し、その結果、サーマルサイクル中での蒸発を抑制することができる。
【0016】
本発明の実施態様を図1に示す。マイクロ流体デバイス100はマニホールドブロック200及びマイクロ流体PCR−CEチップ300を含む。マニホールドブロック200は、マイクロ流体PCR−CEチップ300において各ウエルとインターフェイスで接続できる相互接続しているチャネル210を有している。マニホールドブロックは、マニホールドブロック200の頂部上に外部圧力ポート220も有している。マニホールドブロック200は一つ以上の外部圧力ポートを有していてもよく、相互接続チャネルの一つのグループが一つのポートに繋がる一方で、チャネルの別のグループが別のポートに繋がっていてもよい。PCR−CEチップ300は、チャネル320によって相互接続された全部で8個のウエル310と共に示されているが、必要に応じて、チップはそれより多くの又はそれより少ないウエルを有していてもよく、チャネルをそれに応じて配置させればよい。チャネル320はウエル310の底部から生じてチップ300内に延びる。各ウエルのサイズは使用目的(application)に応じて、均一であっても互いに異なっていてもよい。O−リングのようなガスケット250がマニホールドブロック200とPCR−CEマイクロ流体チップ300の間に挟まれている。ウエル310とチャネル320を外部環境からシールするために、マニホールドブロック200、ガスケット250及びPCR−CEマイクロ流体チップ300が一緒に固定されている。マニホールドブロック200の頂部上のポート220を通して、外部圧力源140からの調整された外部圧力をかけることができる。マニホールドブロック200は、マイクロ流体デバイス100中の気体又は蒸気によって生じる圧力差を均一化するのに役立つ。マイクロ流体デバイス100における高い加熱温度での溶液の蒸発を制御するためには、10psi以上〜100psi以下の圧力が使用できる。この圧力は約20psi〜40psi、更には約30psi〜40psiの間であってもよい。しかしながら、この圧力は100psi以下に制限されるものではない。圧力の上限はより高い圧力の必要性に応じて、例えば、溶液の沸点を更に下げるために、より高いものであってもよい。
【0017】
PCRでは、変性工程を通じて、温度を95℃まで上昇させることがあり、ほぼその温度周辺で、蒸発が生じ、気泡が発生することがある。マイクロ流体デバイスにおいて、これらの変化は、異なる区画及びチャネルの間での大きな圧力差の発生につながり、制御不能な液の蒸発、結露及び意図しない動きを引き起すことがある。
【0018】
本発明の別の例示的実施態様において、図2Aの断面図において示されるマニホールドブロック400はアクリル樹脂で作製されている。マニホールドブロック400は、ウエルをシールするためのO−リング515(側面図では4つのみが示されている)を載置させた合計で8個のウエル510を有するマイクロ流体PCR−CEチップ500上に配置されるように設計されているが、ウエルの数は必要に応じて変更してもよい。マニホールドブロック400内に配置される相互接続チャネル410は、その両端部でPCRチップ500上の各ウエル510とインターフェイスで接続するように構成されている。相互接続チャネル410は、外部圧力源(図示されていない)につながる外部ポート420と一体となっている。別の例示的例において、図2Bは異なるタイプのウエルを示し、ここで各ウエル510は溝530に加えて管状の延長部520を有している。管状延長部520は、ウエルの溝530の液体の容量を増すのに役立つ。管状延長部520の体積は約5〜50μLの範囲から選択される。しかしながら、図2Aに示される通り、各ウエル510に対して必要な必須体積は、もっぱらチップ500内の適切な寸法を有するように決定される。尚、図2Bの場合におけるマニホールドブロック400には、電圧をかけるために、相互接続チャネル410を通ってブロックの頂部からウエル510に延びている電極440も示されている。ウエル510はその構成及び必要性に応じてそのような電極を有していても又は有していなくてもよい(図1及び図2Aには如何なる電極も示されていないが、同様に電極を有していてもよい)。電極440を挿入するために開けられた孔はエポキシ接着剤450によってシールできる。また、この例において、良好なシールを達成するために、外部ポート420には、反対側の端でマニホールドブロック400の側部にプラグ430が設置される。
【0019】
図2Cに本発明の別の実施態様を示す。この実施態様の部品は図2Bにおける部品に対応しており、図2Bにおける要素と同じ参照番号である。図2Bと2Cの実施態様の主な相違点は、図2Cにおける電極440がマニホールドブロック400内に集積化されており、電極440が、空気ダクト、つまり、相互接続チャネル410から分離されて配置されている点である。この構成によって、より良い電極絶縁が可能となり、そしてより確実にウエルをシールできる。
【0020】
図2Aの本実施態様において、各ウエル510の容量は約25μLである。しかしながら、各ウエルの容量は、サンプル量に対応して適宜設計され、使用目的(application)によって0.1nL〜500μLの範囲から選択される。尚、PCRを行う場合には、サンプル量としては1μL〜100μLの範囲が一般的である。従って、PCRチップ500に対して使用されるウエルは、PCRサンプルを収容するために、例えば、1μL〜100μLの容量を有するように適宜設計される。例示的マニホールドブロック400における相互接続チャネルのチャネル幅は約1mmであり、その深さは約500μmである。このチャネル寸法は例示的なものであり、デザイン及び目標とする使用目的(application)に応じて変更してもよい。マニホールドブロック400の例示的寸法は37mm×22.4mm×12mmである。しかしながら、このブロックの寸法は、ここで述べた例示的寸法に制限されない。このブロック自身の寸法は、例えば、PCRチップのウエルの数及び/又はそれらの容積サイズに応じて変更してもよい。
【0021】
ここで、図2AにおけるPCRを行うための例示的方法について述べる。25μLの各PCR反応混合物は以下を含む:1×PCR緩衝液;0.4mM dNTP;3mM MgCl;250nM フォワードプライマー CTCACCTATGTGTCGACCTG;250nM リバースプライマー GGTCGAGTACGCCTTCTTG;1μL BCGゲノムDNA(10コピー);及び1U rTaqDNAポリメラーゼ。
【0022】
25μLのPCR反応混合物を、ひとつのウエル510からPCRチップ500内に添加した。次いで、ウエル510に、場合により、約1μLの鉱油を積層した。次いで、マニホールドブロック400、O−リング515及びPCRチップ500を一緒に固定した。この組立てられた構成において、PCRチップ500のウエル510は、マニホールドブロック400内の相互接続チャネル410によって共通の圧力通路を有しており、それによって如何なる圧力差であってもそのバランスをとることができ、また液の蒸発、結露及び意図しない動きを更に抑制又は防止するために、ウエル510に外部圧力をかけることができる。次いで、この組立てられたマニホールド−PCRチップを、サーマルサイクラー600の加熱ブロックの頂部の上に固定した(図2Aを参照)。マニホールドブロック400の頂部にある外部ポート420を通して30psiの外部圧力をかけた。標準システムとマニホールドブロック−PCRチップ組立て品のDNA収率を比較するために、チューブコントロール反応も実施した。
【0023】
以下のサイクルプロトコールを用いてPCRを行った:1×96℃、30s;及び40×96℃、15s、62℃、15s、及び72℃、30s。1μLの産物を、DNA 1000キットを用いてアジレント バイオアナライザー(Agilent Bioanalyzer)で解析した。
【0024】
図3Aは、ウエルに鉱油を積層し、組立て品に対して外部源から30psiの圧力をかけたマニホールドブロック−PCRチップ組立て品を用いてPCRを行った結果であり、DNA産物収率が13.73ng/μLであったことを示す。図3Bは、チューブ中でPCR反応を行ったコントロール反応の結果であり、DNA産物収率が17.36ng/μLであったことを示す。この組立構成(setup)によって159−bp BCGターゲットを増幅できることが実証され、その収率は、コントロールチューブ反応に対して80%であった。
【0025】
液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止するという点について、マニホールドブロック400の有効性を示すために、表Aにまとめた一連の異なる実験を更に行った。以下に述べる実験1〜6では、PCRウエル510にBSA溶液を満たし、擬似的な増幅反応としてサイクルプロトコールを開始し、最後に10サイクル(約26分)後のウエル中のBSA溶液の量を求めた。
【0026】
【表1】

【0027】
表Aは、BSA溶液を用いた実験1〜6及び対応する結果をまとめたものである。実験1では、マニホールドブロック400を使用せずに、PCRチップ500を開放したままの状態で実験を行った。その結果、10サイクル後にウエルは乾燥し、液体は全く残っていなかった。
【0028】
実験2では、PCRチップ500とマニホールドブロック400を一緒に固定したが、PCRサイクル中に外部ポート420を通して圧力を全くかけなかった。その結果、マニホールドの相互接続チャネル410中に若干の結露が生じた。また、気泡も観察され、元の溶液の約50%だけが残っていた。
【0029】
実験3では、マニホールドブロック400とPCRチップ500を組立ててシールし、そして今回は、PCRサイクル中に外部ポート420を通して20psiの圧力をかけた。相互接続チャネル410中には、まだ若干の結露が観察されたが、ウエル510中の溶液には気泡は全く観察されなかった。しかしながら、ウエル510の各々の近傍には大きな気泡が観察された。ウエル510中には元の溶液の約80%が残っていた。
【0030】
実験4では、マニホールドブロック400とPCRチップ500を組立ててシールし、PCRサイクル中に外部ポート420を通して30psiの圧力をかけた。この場合、相互接続チャネル410中には若干の結露が観察され、またウエル510の各々の近傍には大きな気泡が観察された。しかしながら、ウエル510中には元の溶液の約90%が残っていた。
【0031】
実験5では、ウエルに鉱油を積層し、マニホールドブロック400とPCRチップ500を組立ててシールした。そしてPCRサイクル中に外部ポート420を通して約30psiの圧力をかけた。今回は、結露が全く観察されず、溶液の約100%がウエル中に残っていた。
【0032】
実験6では、マニホールドブロック400とPCRチップ500を組み立てた後に、PCRサイクル中に外部ポート420を通して40psiの圧力をかけた。この特別な組立て品では、圧力が原因でチップが剥離した。しかしながら、チップ500として、より頑丈な構造体を用いれば、より高い圧力にも耐え得ると予測され、そのような構造体も本発明の範囲に包含される。
【0033】
実験1〜5から、マニホールドブロックはチップ内の液の蒸発、結露及び意図しない動きの抑制又は防止に役立つことが判る。
【0034】
鉱油はウエル中の蒸発を抑制するのに更に役立つかもしれないが、以下の実験8が示すように、鉱油は必須なものではない。
【0035】
表Bに、マニホールドブロック400、及びチップ500と同様(図2Bに示されたものと同様)であるが、より高い圧力に耐えることができるより強い積層構造を有するように作られたPCR−CEチップを用いた、二つの追加実験のまとめを示す。各実験では、約1時間の全継続時間、40サイクルのPCRを行った。
【0036】
【表2】

【0037】
実験7において、チップのより強い積層構造体は40psiの圧力に耐え得ることが確認された。この圧力でも剥離が全く起こらなかった。より強い材料及びより強化された構造体を用いれば、チップはもっと高い圧力に耐え得ると予測される。
【0038】
実験8に、図4のリアルタイム40サイクルPCR−CEアッセイの結果を示す。PCR−CEチップのCE分離チャネルをゲルマトリックスで満たし、28μLのPCR反応混合物をチップチャンバーにロードした。マニホールドブロック400及びPCR−CEチップを組立て、サーマルサイクルヒーター上に設置した後、PCRサイクル中に外部ポート420を通して35psiの圧力をかけた。リアルタイム増幅を検出することができた。サイクル14、16、18、20、22、25及び30でウエル間に電圧をかけることによって、チャンバーからのPCR産物サンプルを解析用のCE分離チャネル内に移行誘導した。PCR混合物中の内部マーカー(100bpのDNA)を用いて、PCR産物のピーク面積を正規化し、図4に示すようにサイクル数に対してプロットして、リアルタイムPCR産物成長曲線を作成した。図5に、上記と同じリアルタイムPCR−CEアッセイの18サイクルでのCE分離の電気泳動図を示す。標的PCR産物サンプル(200bp)が、18PCRサイクル又はその近辺で検出可能となり始めることが実証された。蒸発が実質的に防止され、PCRの40サイクル後に、基本的に100%の液体がチャンバー中に残っていた。合計時間は1時間であり、ウエルに鉱油は使用しなかった。この例では、鉱油を使用しなくても蒸発を基本的に防止できることを示すために、鉱油を使用しなかった。
【0039】
PCRウエルからの反応混合物の蒸発が、マニホールドと、30psiまでの外部圧力の印加とを組合せて使用することによって抑制された。溶液を添加した後にウエルに鉱油を添加すると、蒸発の低減に更に役立つと予測される。しかし、実験8で示されたように、本実施態様のデバイスを用いた場合には、ウエルの頂部上に鉱油を1滴滴下する一般的な方法によって、高温での蒸発を防ぐ必要がなくなる。
【0040】
図2Bに示されたものと同様の構成で追加実験を実施した。これらの方法及びプロトコールは、基本的に前述の実験において報告したものと同じである。鉱油を使用せずに、35psiでの40PCRサイクル エンド・ポイントCEアッセイを実施した結果を図6にグラフで示す。100bp及び700bpは、内部参照マーカーを示す。実際のPCR産物は100bp及び700bpの内部参照マーカーの間に位置する。電気泳動図A〜Fに、1アッセイ当たり10〜10のDNA標的コピー範囲の検出結果を示す。全ての実験において、全てのウエルとチャネルに対して等しい圧力を維持するために圧力マニホールドデバイスを適用すると、大量の液体の損失はなかった。
【0041】
本発明の別の実施態様を図7に示す。この場合の圧力マニホールドブロック700は、マイクロ流体PCR−CEチップ710上に配置させるための、単一のチャネルを有するブロックである。外部圧力ポート705が圧力マニホールドブロック700の頂部に備わっている。マニホールドブロック700は、PCRサーマルサイクル中にウエル720間に生じる圧力差を最小化又は抑制するために、マイクロ流体ウエル720及びチップ710の分離チャネル730の全てに亘って配置させるための蓋として機能する。シリコーンO−リングのようなガスケット740が、ウエル720及び分離チャネル730の全てを取り囲み、マニホールドブロック700とPCR−CEマイクロ流体チップ710の間に挟まれている。マニホールドブロック700は、ブロック700とチップ710の間に、ガスケット740によって共通の空隙空間が形成されるような固体ブロックであってもよい。また、図8に示されているように、マニホールドブロック700は、チップ710とブロック700の間に形成され、シールされた空洞800を有していてもよい。図7及び8では、外部圧力ポート705は、空気通路(単一チャネル)750を通って空洞又は空隙につながっている。そして、完全なシールを確保するために、組立てられたマニホールドガスケット−PCR−CEチップは一緒に固定されている。全てのウエル720と分離チャネル730の上方の圧力を均一にするために、調節された外部圧力を、外部圧力ポート705を通してマニホールドブロック700に印加することによって、チップ710内での溶液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止できる。
【0042】
図9に、チップ710とマニホールドブロック700の間に空洞800が存在すること、及びガスケット740によってシールされることによって、ウエル720の管状延長部810の収容が可能となる、別の例示的実施態様を示す。ウエル720は溝820及び管状延長部810の両者からなっている。マニホールドブロック700の寸法は、チップ710に亘って配置されるのに十分な大きさでよく、管状延長部810を受容れるのに十分大きなサイズの空洞を有していてもよい。図9では、マニホールドブロック700の側部に、外部圧力ポート705及び空気通路750が示されているが、これらは頂部を含む如何なる場所に設置されていてもよい。この実施態様では、電極830が、ウエル720の各々に対して示されているが、チップ710のデザインによっては、全てのウエルが電極を必要とするものではない。図7及び8のような他の図では電極を示していないが、マニホールドブロックの図を単に簡略化するために電極を省略しただけである。
【0043】
図10に、マニホールドブロック910と基板920の間に形成され、シールされた空洞900が、ガスケット925によって、マニホールドブロック910が基板920と接触する周辺の回りで密閉してシールされる、別の例示的実施態様を示す。ウエル(管状延長部)940及びチャネル(図示していない)を有するチップ930は、空洞900内に完全に取り囲まれている。また、この実施態様では、ウエル940に電圧をかけるための電極は、完全にチップ930中に埋設されているか又はチップ930の上にプリントされているので、ウエルに達するためにマニホールドブロックを貫通する電極は必要ではない。サーマルサイクラー950は、基板920の底部に取り付けるか、又はその中に集積化してもよい。基板920は銅やアルミニウムのような金属製であっても、又はサーマルサイクラー950からチップ930に適切に熱を伝えることができるプラスチック材料製であってもよい。基板920の形状は、チップ930及びマニホールドブロック910の接点の両者を支えるように適切な大きさに作られる。この構成の有利な点は、マニホールドブロック910がチップ930自身を完全に取り囲むため、チップにストレス(stress)を与えてしまうような、チップ930への追加の接触圧力がないことである。更に、チップ930の積層によって、空洞900の等しい内部空気圧のみが得られ、図9のチップ710に於いてのような、空洞内圧と外部空気圧の圧力差が無くなる。従って、この構成によれば、チップ930に剥離、漏洩又はその他のタイプの損傷が生じるおそれがより少なくなる。また、チップ930が全体的に取り囲まれているため、全てのウエル及びチャネルを通して確実に圧力が均一になる。
【0044】
加圧される前又は後で、マニホールドブロックによって創出される空洞内での結露の形成を更に防ぐために、いずれの実施態様のマニホールドブロックも、対流(例えば、熱空気を吹き込む)や伝導(例えば、抵抗加熱を適用する)によって加熱すればよい。
【0045】
マニホールドブロックの使用目的(application)は、PCRチップでの使用に限定されるものではない。マニホールドブロックの本実施態様では、PCR−CEチップでの使用に関して示しているが、マニホールドブロックは、PCRを含まない、化学的又は生物学的反応を実施するためのウエルを有するマイクロ流体デバイスにおいて圧力を均一にするためにも使用することができる。
【0046】
また、とりわけマニホールドブロック及びマイクロ流体チップで構成されるマイクロ流体デバイス内の圧力を維持するために、マイクロ流体デバイスに加圧された空気を供給する外部圧力源を閉じることができる。例えば、外部圧力源から高圧空気を供給するチューブは、空気を遮断し、マニホールドブロック−マイクロ流体チップデバイス中の圧力を維持するため、クランプ機構や同様の機構を有していてもよい。クローズドシステムとして、マニホールドブロック及びチップが、高圧を維持しながらも可搬型にできるように、チューブはクランプ機構の近傍で着脱可能としてもよい。
【0047】
また、マイクロ流体チップと共に、マニホールドブロックは、クローズドシステムとして、即ち、十分にシールされた外部開口部を有するシステムや如何なる外部開口部も有さないシステムとして構成してもよい。このシステムにおいては、例えば、低沸点液を有する一つのウエルを選択的に加熱することによって、又はドライアイスをウエル中に置くことによって、マニホールド内部の圧力を内部的に上げてもよい。この配置におけるマニホールドブロック内の均一化された圧力は、残りのウェル中の液の蒸発、結露及びチャネル内の液の意図しない動きを抑制又は防止するための機能を果たすことになる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
マニホールドブロックを有する、安価で使い捨て可能なデバイスが提供される。マニホールドブロックは、PCRサイクル中のPCRチップチャネル中の圧力差に起因する、チャネル中の液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止するために、PCRチップ上をシールする。デバイスはマイクロ流体形態において使用されるが、より巨視的な規模においても使用できる。
【0049】
本明細書に開示された本発明の明細書及び実施を考慮すれば、本発明の他の実施態様が当業者にとって明白であろう。明細書及び実施例は単に例示的なものとして考えられ、そして本発明の範囲と精神は以下の請求の範囲によって示されることを意図するものである。
【符号の説明】
【0050】
100 マイクロ流体デバイス
140 外部圧力源
200、400、700、910 マニホールドブロック
210、410 相互接続チャネル
220、420、705 外部圧力ポート
250、740、925 ガスケット
300、500、710、930 チップ
310、510、720、940 ウエル
320、730 (分離)チャネル
430 プラグ
440、830 電極
450 エポキシ接着剤
520、810 管状延長部
530、820 溝
515 O−リング
600、950 サーマルサイクラー
750 空気通路
800、900 空洞
920 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管チャネルによって接続されていてもよいウエルを有するマイクロ流体チップと共に使用するためのマニホールドデバイスであって:
ウエル及び毛細管チャネルの全てに均一の圧力をかけるためにチップ上に配置されるように構成されるマニホールド部材
を含む当該マニホールドデバイス。
【請求項2】
マニホールド部材が、更に相互接続しているチャネルを有し、その相互接続しているチャネルの各端部がチップに向かって各ウエル上に各々配列するように構成され、その相互接続しているチャネルがマニホールド部材の面で開口部につながるように構成されており、そして各ウエルに対して一つのガスケットが存在し、かつ各ガスケットが各ウエルに配置され、マニホールド部材と各ウエルとの境界面をシールするように構成されている、請求項1記載のマニホールドデバイス。
【請求項3】
各ウエルが、管状の延長部を有する場合、ガスケットが各ウエルの管状の延長部の上に配置され、そしてマニホールドデバイスが、各管状の延長部のガスケット上に配置されるように構成される、請求項2に記載のマニホールドデバイス。
【請求項4】
マニホールド部材が全てのウエル及び毛細管チャネルに均一の圧力をかけるためにチップ上に配置されるように、マニホールド部材とチップとの境界面をシールするために、一つのガスケットがウエルと毛細管チャネルを囲む、請求項1記載のマニホールドデバイス。
【請求項5】
マニホールド部材が、全てのウエル及び毛細管チャネル覆うように空洞を有し、そしてマニホールド部材の面開口部から空洞につながる空気通路を有する、請求項4記載のマニホールドデバイス。
【請求項6】
各ウエルが管状の延長部を有し、そして空洞内でウエルをシールするために、マニホールド部材が、管状の延長部を有する各ウエルの上に配置される、請求項5記載のマニホールドデバイス。
【請求項7】
マニホールド部材がバルブ無しのマニホールドブロックである、請求項1記載のマニホールドデバイス。
【請求項8】
チップが基板上に配置され、マニホールド部材は、マニホールド部材がガスケットを介して基板と接触して、マニホールド部材と基板の間に形成された空洞内にチップを完全に囲むように構成される、請求項1記載のマニホールドデバイス。
【請求項9】
マニホールド部材は、チップのウエルに達するような電極を有する、請求項1記載のマニホールドデバイス。
【請求項10】
チップが、チップのウエルに電圧をかけるために、マニホールド部材を通してではなく、チップの中に埋設されて又はその上にプリントされて配置される電極を有する、請求項1記載のマニホールドデバイス。
【請求項11】
毛細管チャネルによって接続されていてもよい複数のウエルを有するマイクロ流体チップと共に使用するためのマニホールドデバイスであって:
チップ上に配置されるように構成されるマニホールド部材を含み、
マニホールド部材が、相互接続しているチャネルのグループを有し、各グループの相互接続しているチャネルの各端部が、チップに向かって各ウエル上に各々配列するように構成され、そして各グループの相互接続しているチャネルがマニホールド部材の面開口部につながるようにグループの数と同じ数の開口部が存在するように、構成されているマニホールドデバイス。
【請求項12】
マニホールド部材と各ウエルとの境界面をシールするために、チップの各ウエルに配置されるガスケットを更に含む、請求項11記載のマニホールドデバイス。
【請求項13】
前記緩衝液の電気伝導率は前記緩衝液の塩又はイオンの濃度とほぼ比例する、請求項10記載の方法。
【請求項14】
チップのウエルをシールするために、マニホールド部材が、各管状の延長部上のガスケットに接触するように構成される、請求項13記載のマニホールドデバイス。
【請求項15】
マニホールド部材がバルブ無しのマニホールドブロックである、請求項11記載のマニホールドデバイス。
【請求項16】
マニホールド部材は、チップのウエルに達するような電極を有する、請求項11記載のマニホールドデバイス。
【請求項17】
チップが、チップのウエルに電圧をかけるために、マニホールド部材を通してではなく、チップの中に埋設されて又はその上にプリントされて配置される電極を有する、請求項11記載のマニホールドデバイス。
【請求項18】
デバイスにおける圧力を制御する方法であって:
毛細管チャネルによって接続されていてもよい複数のウエルを有するチップを供すること;
チップ上に配置されるマニホールド部材を供すること、ここでマニホールド部材は外部圧力を導入するための開口部を有する;
ウエルに適切な試薬と反応混合物を充填した後、マニホールド部材によってチップのウエルをシールすること;及び
マニホールド部材によりウエルとチャネルの全てに均一の圧力をかけることによって、反応プロセス中にウエルにおいて気泡が発生することを抑制又は防止するためおよび、液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止するために、マニホールド部材上の開口部を通して外部圧力を供すること;
を含むデバイスにおける圧力を制御する方法。
【請求項19】
ウエルをマニホールド部材でシールする前に、ウエルに鉱油を供する工程を更に含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
毛細管チャネルによって接続されていてもよい複数のウエルを有するチップ;及び
請求項1記載のマニホールドデバイス;
を含むデバイス。
【請求項21】
デバイスがマイクロ流体デバイスであり、そしてチップがポリメラーゼ連鎖反応及び毛細管電気泳動を行うように構成されている、請求項20記載のデバイス。
【請求項22】
液の蒸発、結露及び意図しない動きを抑制又は防止するために、ウエルの全てに均一の圧力をかけるためにマニホールド部材の開口部に接続された圧力源を更に含む、請求項20記載のデバイス。
【請求項23】
毛細管チャネルによって接続されていてもよい複数のウエルを有するチップ;及び
請求項11記載のマニホールドデバイス;
を含むデバイス。
【請求項24】
デバイスがマイクロ流体デバイスであり、そしてチップがポリメラーゼ連鎖反応及び毛細管電気泳動を行うように構成されている、請求項23記載のデバイス。
【請求項25】
相互接続しているチャネル及びウエルにおいて圧力を調整するためにマニホールド部材の各開口部に接続された圧力源を更に含む、請求項23記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−528264(P2010−528264A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508433(P2010−508433)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/006266
【国際公開番号】WO2008/143959
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】