説明

集積型薄膜太陽電池の製造方法

【課題】集積型薄膜太陽電池を効率よく製造することのできる太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)絶縁基板上に、少なくとも下部電極層、光吸収層及び上部電極層が形成された太陽電池基板を提供し、(2)前記太陽電池基板の後工程で相互に分割されて個別の太陽電池の機能領域となる領域に、上部電極層側から下部電極層面に至る深さで、上部電極層面上に複数の溝を形成するパターニング工程、(3)前記複数の溝と平行に広がる領域であって、個別の太陽電池の機能領域となる領域の両側の上部電極側から下部電極層面に至る各層を除去して下部電極層を露出させるワイドパターニング工程、(4)脆性基板のスクライブ工程及び(5)ブレーク工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積型薄膜太陽電池の製造方法に関し、特にカルコパイライト化合物系集積型薄膜太陽電池の製造方法に関する。ここで、カルコパイライト化合物には、CIGS[Cu(In,Ga)Se]、CIGSS[Cu(In,Ga)(Se,S)]、CIS[CuInS]等の化合物半導体が含まれる。
【背景技術】
【0002】
カルコパイライト化合物等の化合物半導体を光吸収層として用いる薄膜太陽電池においては、絶縁基板上に、下部電極層、光吸収層、高抵抗バッファ層、必要に応じて絶縁層及び上部電極層を順次形成した薄膜積層体において、下部電極層を分離する溝[下部電極分離用溝]、光吸収層及び高抵抗バッファ層(及び絶縁層)を分離して下部電極層と上部電極層とを接続するための溝[電極間コンタクト用溝]、上部電極層、(絶縁層及び)高抵抗バッファ層及び光吸収層を分離する溝[上部電極分離用溝]をそれぞれ形成することにより、複数のユニットセルが直列接続された集積型構造とすることが一般的である。
【0003】
従来のカルコパイライト化合物系集積型薄膜太陽電池の製造方法について説明する(特許文献1〜3)。図6は、CIGS薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図である。まず、図6(a)に示すように、ソーダライムガラス(SLG)等からなる絶縁基板1上に、プラス側の下部電極となるMo電極層2をスパッタリング法によって形成した後、光吸収層形成前の太陽電池基板に対するスクライブ加工により下部電極分離用の溝Sを形成する。
【0004】
その後、図6(b)に示すように、Mo電極層2上に、CIGS薄膜からなる光吸収層3を蒸着法、スパッタリング法等によって形成し、その上に、ヘテロ接合のためのZnS薄膜等からなるバッファ層4をCBD法(ケミカルバスデポジション法)により形成し、その上に、ZnO薄膜からなる絶縁層5を形成する。そして、上部電極層形成前の薄膜太陽電池基板に対して、下部電極分離用の溝Sから横方向に所定距離はなれた位置に、スクライブ加工によりMo電極層2にまで到達する電極間コンタクト用の溝M1を形成する。
【0005】
続いて、図6(c)に示すように、絶縁層5の上からZnO:Al薄膜からなる上部電極としての透明電極層6を形成し、光電変換を利用した発電に必要な各機能層を備えた太陽電池基板とし、スクライブ加工により下部のMo電極層2にまで到達する上部電極分離用の溝M2を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11ー312815号公報
【特許文献2】特開2002−94089号公報
【特許文献3】特開2004−115356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、集積型薄膜太陽電池を製造するためには、絶縁基板上に少なくとも4種類の薄膜を形成する工程と、各薄膜に溝を形成する少なくとも3つの工程とを、交互に行う必要があり、製造効率を向上させることに限界があった。
【0008】
本発明は、最終的に相互に分割される個別の太陽電池の機能領域となる複数の領域を含む太陽電池基板(マザー基板)を製造し、薄膜形成及び溝形成を一括して行うことにより、薄膜太陽電池の製造効率を向上させることを目的とする。
【0009】
特に、全ての機能層(薄膜)を形成してから個別の太陽電池を得るまでの工程の効率化を図ることにより、太陽電池の製造工程全体としての効率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の集積型薄膜太陽電池の製造方法は、
(1)絶縁基板上に、少なくとも下部電極層、光吸収層及び上部電極層が形成された太陽電池基板を提供する工程、
(2)前記太陽電池基板の後工程で相互に分割されて個別の太陽電池の機能領域となる領域のそれぞれに、上部電極層側から下部電極層面に至る深さで、上部電極層面上で一方向に相互に平行に伸びる複数の溝を形成するパターニング工程、
(3)前記パターニング工程で形成された複数の溝と平行に広がる領域であって、個別の太陽電池の機能領域となる領域の両側に位置する領域の上部電極側から下部電極層面に至る各層を除去して下部電極層を露出させるワイドパターニング工程、
(4)前記ワイドパターニング工程で下部電極層が露出した領域にスクライブラインを形成するスクライブ工程及び
(5)前記スクライブラインに沿ってブレークするブレーク工程
を含む。
【0011】
本発明の薄膜太陽電池の製造方法は、必要に応じて、前記パターニング工程の前に前記太陽電池基板にアライメントマークを形成するマーキング工程を含むことができる。前記アライメントマークはレーザーマーキングにより形成することができる。
【0012】
本発明の薄膜太陽電池の製造方法は、前記ワイドパターニング工程の後で且つ前記スクライブ工程の前に、又は前記ブレーク工程の後に、前記パターニング工程で形成された複数の溝の両端側の溝と直交する方向の領域に絶縁加工を行う絶縁工程を含むことができる。前記絶縁加工は、被絶縁部にレーザ照射又はメカニカルスクライブすることにより機能層を除去することにより行うことができる。
【0013】
本発明の薄膜太陽電池の製造方法は、前記絶縁工程の後に絶縁加工された領域の外側に前記上部電極層(表面側)から前記絶縁基板(裏面側)まで貫通する貫通孔を形成する貫通孔形成工程を含むことができる。前記貫通孔の形成には、グリーンレーザ加工装置を使用することができる。
【0014】
前記太陽電池基板は、前記光吸収層と上部電極層との間に高抵抗バッファ層が形成された太陽電池基板であることができ、さらに、高抵抗バッファ層と上部電極層との間に絶縁層が形成された太陽電池基板であることができる。前記光吸収層は、CIGS、CIGSS及びCISから成る群から選択されたカルコパイライト化合物であることができ、前記下部電極層は、Mo層であることができ、前記上部電極層は、透明導電膜層であることができ、前記絶縁基板は、ガラス基板であることができる。前記パターニング工程においては、少なくとも先端が板状又は棒状の溝加工ツールの先端を、上部電極層上面の溝形成部に押圧しながら、前記溝加工ツールと前記太陽電池基板とを溝形成方向に相対移動させることにより、前記上部電極層から前記下部電極層面に至る溝を形成することができる。
【0015】
前記パターニング工程において、棒状のボディと、ボディの先端に形成された刃先領域とからなり、刃先領域は細長く延びる長方形の底面と、底面の短手方向の端辺から立ち上がる前面及び後面と、底面の長手方向の端辺から直角に立ち上がって互いに平行な一対の面をなす左、右側面とからなり、少なくとも前後面のいずれか片面と底面とによって形成される角部が刃先となるようにしてある溝加工ツールを使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の薄膜太陽電池の製造方法によれば、相互に分割されて個別の太陽電池の機能領域となる複数の領域を含む太陽電池基板を製造した後、個別の太陽電池に分離するので、各機能層(薄膜)及び溝の形成を効率よく行うことができる。
【0017】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
絶縁基板表裏面間配線用の貫通孔を最終段階で形成する場合には、薄膜形成前に貫通孔を形成する場合に懸念される薄膜形成工程における加熱・冷却により、貫通孔形成時に形成されるマイクロクラックからクラックが伸展して絶縁基板の強度等に悪影響を与えるという問題の発生を回避することができる。特にグリーンレーザ加工装置で貫通孔を形成する場合には、水を使用するメカニカルドリルや、水を使用しないメカニカルスクライブの場合に問題となるパーティクルの発生による機能領域への悪影響がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる集積型薄膜太陽電池の製造方法の一実施形態を示す工程図。
【図2】本発明におけるパターニング工程において使用されるパターニング手段の一実施形態を示す斜視図。
【図3】本発明におけるパターニング工程において使用される溝加工ツールの一実施形態を示す斜視図。
【図4】図3の溝加工ツールの底面拡大図。
【図5】図3の溝加工ツールの取り付け傾斜角度と、それに対応する太陽電池基板のスクライブラインの加工状態を示す模式図。
【図6】一般的なCIGS系の薄膜太陽電池の製造工程を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、本発明の詳細を、その実施の形態を示す図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明にかかる集積型薄膜太陽電池の製造方法の一実施形態の工程図である。
【0020】
(1)太陽電池基板
絶縁基板上に下部電極層、光吸収層、高抵抗バッファ層、必要に応じて絶縁層及び上部電極層が形成された太陽電池基板を提供する。この太陽電池基板は、下部電極層に下部電極分離用の溝が形成され、光吸収層、高抵抗バッファ層及び絶縁層に、下部電極層と上部電極層とを接続するための溝が形成されているが、上部電極層分離用の溝は形成されていない。
特に限定されるものではないが、絶縁基板としては、例えば、ガラス、セラミックス等の絶縁性の脆性材料基板を使用することができる。下部電極層としては、通常、Mo電極層を例示できる。光吸収層としては、カルコゲナイト化合物等の各種の化合物半導体からなる層、例えば、CIGS層、CIGSS層、CIS層等を例示できる。高抵抗バッファ層としては、例えば、ZnS層等を例示できる。絶縁層としては、例えば、ZnO層を例示できる。
【0021】
(2)マーキング工程
マーキング工程において、前記太陽電池基板に、後続の工程で太陽電池基板の位置決めをし、溝形成等の加工を施す際の基準となるアライメントマークを形成する。アライメントマークの形成には、レーザーマーキング装置を使用することができる。このレーザーマーキング装置としては、後工程(貫通孔形成工程)で貫通孔の形成に使用されるグリーンレーザ加工装置を兼用することができる。
【0022】
(3)パターニング工程
次にパターニング工程において、上部電極分離用の複数の溝を形成する。上部電極分離用の溝は上部電極層から下部電極層表面に至る深さで形成する。上部電極分離用の溝は、通常、直線状であり、一方向に相互に平行に形成される。前記溝は、少なくとも先端が板状又は棒状の溝加工ツールの先端を、上部電極層上面の溝形成部に押圧しながら、前記溝加工ツールと前記太陽電池基板とを溝形成方向に相対移動させることにより、形成することができる。
【0023】
図2は、パターニング工程に使用できる装置構成(パターニング手段)の一実施形態を示す斜視図である。パターニング手段は、水平方向(Y方向)に移動可能で、かつ、水平面内で90度及び角度θ回転可能なテーブル18を備えており、テーブル18は実質的に太陽電池基板の保持手段を形成する。
【0024】
テーブル18を挟んで設けてある両側の支持柱20,20と、X方向に延びるガイドバー21とで構成されるブリッジ19は、テーブル18上を跨ぐように設けてある。ホルダ支持体23は、ガイドバー21に形成したガイド22に沿って移動可能に取り付けられ、モータ24の回転によりX方向に移動する。
【0025】
ホルダ支持体23には、スクライブヘッド7が設けられており、スクライブヘッド7の下部には、テーブル18上に載置される太陽電池基板Wの薄膜表面をスクライブ加工する溝加工ツール8を保持するホルダ9が設けられている。ホルダ9はスクライブヘッド7への取り付け角度を調整することができるようにしてあり、この取り付け角度を調整することで、溝加工ツール8と太陽電池基板Wとの角度を調整できるようにしてある。
【0026】
また、X方向及びY方向に移動することが可能な台座12,13にカメラ10、11が夫々設けられている。台座12、13は支持台13上でX方向に延設されたガイド15に沿って移動する。カメラ10、11は、手動操作で上下動することができ、撮像の焦点を調整することができる。カメラ10、11で撮影された画像はモニタ16、17に表示される。テーブル18上に載置された太陽電池基板Wの表面に形成されたアライメントマークを、カメラ10、11により撮像することにより、太陽電池基板Wの位置を調整する。具体的には、テーブル18に支持された太陽電池基板W表面のアライメントマークを、カメラ10、11により撮像してアライメントマークの位置を特定する。特定されたアライメントマークの位置に基づいて、太陽電池基板W表面の載置時の方向ズレを検出し、テーブル18を所定角度回転させることでズレを修正する。
【0027】
そして、テーブル18をY方向に所定ピッチで移動するごとに、スクライブヘッド7を下降させて溝加工ツール8の刃先を太陽電池基板Wの表面に押しつけた状態でX方向に移動させ、太陽電池基板Wの表面をX方向に沿ってスクライブ加工する。太陽電池基板Wの表面をY方向に沿ってスクライブ加工する場合は、テーブル18を90度回転させて、上記と同様の動作を行う。
【0028】
図3及び図4は、パターニング工程において用いる溝加工ツール8を示す。図3は下方から見た斜視図であり、図4は溝加工ツール8の底面を拡大した図である。この溝加工ツールは、棒状のボディと、ボディの先端部に形成された刃先領域とからなり、刃先領域は細長く延びる長方形の底面と、底面の短手方向の端辺から立ち上がる前面並びに後面と、底面の長手方向の端辺から直角に立ち上がって互いに平行な一対の面をなす左、右側面とからなり、前後面のいずれか片面と底面とによって形成される角部が刃先をなし、長方形をなす底面の長軸方向が前記移動方向に沿って配置され、刃先領域の前面若しくは後面が太陽電池の被加工面との間になす角度が50〜80度、特には65度〜75度の範囲内で進行方向側に傾斜させて溝加工を行うようにしている。
【0029】
すなわち、この溝加工ツール8は実質的にスクライブヘッド7への取付部となる円柱状のボディ81と、その先端部に放電加工等により一体的に形成された刃先領域82とからなり、超硬合金又はダイヤモンド等の硬質材料で造られている。刃先領域82は、長方形の底面83と、底面83の短手方向の端辺から直角に立ち上がった前面84及び後面85と、底面83の長手方向の端辺から直角に立ち上がって互いに並行をなす左、右側面88、89とからなる。底面83と前、後面88、89とによって形成される角部がそれぞれ刃先86、87となる。
【0030】
底面83の左右幅L1は50〜60μmが好ましいが、要求されるスクライブの溝幅に合わせて25〜80μmとすることができる。また、刃先領域82の有効高さ、即ち刃先領域の左右側面87、88並びに前後面84、85の高さL2は0.5mm程度が好ましい。さらに、円柱状のボディ81の直径は2〜3mm程度がよい。なお、溝加工ツール8のボディ81は円柱状に限らず、断面四角形や多角形で形成することも可能である。
【0031】
上述した溝加工ツール8を用いて加工を行う場合は、刃先領域82の底面83の長軸方向をツールの移動方向に沿った状態で、かつ、太陽電池基板Wに対して刃先部分82の前面84又は後面85を所定角度だけ傾斜させた状態でスクライブヘッド7に取り付ける。この場合の傾斜角度は50〜80度、特には65度〜75度の範囲が好ましい。
【0032】
なお、上記実施形態では、スクライブヘッド7をX方向に移動させることでスクライブ加工を実行したが、スクライブヘッド7と、太陽電池基板Wとが相対的に移動できれば足りることから、太陽電池基板Wが固定された状態でスクライブヘッド7をX方向およびY方向に移動させてもよいし、スクライブヘッド7を移動させることなく、太陽電池基板WのみをX方向及びY方向に移動させてもよい。
【0033】
(4)ワイドパターニング工程
さらに、ワイドパターニング工程において、上部電極分離用の溝に平行に広がる領域であって、後工程で相互に分離される個別の太陽電池の機能領域となる領域の両側に位置する領域の上部電極層から下部電極層面に至る各層を除去して下部電極層を露出させる。各層の除去(ワイドパターニング)には、各種冶具(例えば、ニードル、ノミ状部材、棒状部材、板状部材、刃状部材、スクレーパ等)を使用することができる。
【0034】
(5)スクライブ工程
そして、スクライブ工程において、各機能領域の間で、ワイドパターニング工程において下部電極層面を露出した領域に絶縁基板分断用のスクライブラインを形成する。スクライブラインの形成には、レーザスクライブを使用することもできるが、通常は、スクライビングホイールを使用すること(メカニカルスクライブ)が好ましい。スクライブラインは、上面(下部電極層面)側から形成してもよいし、裏面(絶縁基板側)側から形成してもよい。
【0035】
(6)ブレーク工程
次にブレーク工程において、スクライブラインに沿って、裏面から押圧したり、裏面から衝撃を加えたり、振動を加えたり、スクライブラインを軸としてスクライブラインに沿って形成されたクラックを開く向きに曲げモーメントをかけたりすることによって、太陽電池基板(マザー基板)を個別の太陽電池に分離する。
【0036】
(7)絶縁工程
上部電極分離用の溝の両端部側で溝と直交する方向に各機能層を除去することによって絶縁部を形成する。絶縁部の形成は、レーザ照射や、メカニカルスクライブによって行うことができる。絶縁工程は、ブレーク工程の後(個別の太陽電池に分離した後)に実施してもよいが、ワイドパターニング工程の後でスクライブ工程の前(個別の太陽電池に分離する前)に実施してもよい。
【0037】
(8)貫通孔形成工程
最後に、貫通孔形成工程において、絶縁部の外側(機能領域の外側)の領域に貫通孔を形成する。貫通孔は、絶縁基板の表面側(機能領域側)の上下電極からの配線を絶縁基板の裏面側に配線するために利用される。従来は、事前に貫通孔を形成した絶縁基板に対して各機能層の形成と各溝の形成とを行っていたが、各機能層形成時の加熱・冷却等の影響で、貫通孔を形成する際に形成されるマイクロクラックからクラックが伸展し、絶縁基板の強度等に対して悪影響を与えるという問題があった。貫通孔を最終段階で形成することにより、各機能層形成時の加熱・冷却等によるクラックの伸展による絶縁基板の強度低下等の問題の発生を回避することができる。
【0038】
本発明によれば、後工程で相互に分割されて個別の太陽電池となる複数の領域を有する太陽電池基板(マザー基板)をパターニング工程及びワイドパターニング工程に供した後、スクライブ工程及びブレーク工程により、個別の太陽電池に分離するので、個別の太陽電池をそれぞれ個別にパターニング工程及びワイドパターニング工程に供する場合と比較して、効率よく太陽電池を製造することができる。
【0039】
また、パターニング工程の前にアライメントマークを形成することにより、その後の工程(パターニング工程、ワイドパターニング工程、スクライブ工程、ブレーク工程等)を効率よく、精確に実施することができる。
【0040】
さらに、上部電極層形成後に貫通孔を形成することにより、各機能層形成前に貫通孔を形成する場合に発生する貫通孔形成時に形成されるマイクロクラックから各機能層形成時の加熱・冷却等によりクラックが伸展して絶縁基板の強度に悪影響を与えるという問題の発生を回避することができる。
【0041】
前記パターニング工程において、少なくとも先端が板状又は棒状の溝加工ツールを使用することにより、パターニングをスムースに行うことができる。特に、図5に示すように、溝加工ツール8の刃先領域の前面84又は後面85と太陽電池基板Wの上面(上部電極層)に対する角度が、50〜80度、特には65度〜75度の範囲内で進行方向側に傾斜させることにより、除去した膜屑に乗り上げてバウンドすることによるスクライブラインの断絶や、押圧荷重が高くなることによる不規則な薄膜の剥離の発生を無くして、直線状で再現性のある幅のスクライブラインを形成することができる。
【0042】
さらに、溝加工ツール8の刃先86、87は、前後の角部に2カ所形成されているので、一方が摩耗又は破損すれば、溝加工ツール8の取り付け方向を変えることにより他方の刃先を新品として使用できる。しかも、いずれの刃先も摩耗した場合には、底面83並びに必要に応じて前後面84,85を研磨することによって刃先を補修することができる。
【0043】
以上、本発明で使用する溝加工ツールの代表的な実施例について説明したが、本発明で使用する溝加工ツールは必ずしも上記の実施例の構造のみに特定されるものではない。例えば、底面と前後面とによって形成される刃先の角度は上記実施例で述べたように略直角が好ましいが、多少鈍角に形成しても差し支えがない。
【0044】
その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、カルコパイライト化合物系半導体膜を用いた集積型薄膜太陽電池の製造方法、及び、これに用いることのできる溝加工ツールに適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
W 太陽電池基板
7 スクライブヘッド
8 溝加工ツール
81 ボディ
82 刃先領域
83 刃先領域の底面
84 刃先領域の前面
85 刃先領域の後面
86 刃先
87 刃先
88 刃先領域の側面
89 刃先領域の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)絶縁基板上に、少なくとも下部電極層、光吸収層及び上部電極層が形成された太陽電池基板を提供する工程、
(2)前記太陽電池基板の後工程で相互に分割されて個別の太陽電池の機能領域となる領域のそれぞれに、上部電極層側から下部電極層面に至る深さで、上部電極層面上で一方向に相互に平行に伸びる複数の溝を形成するパターニング工程、
(3)前記パターニング工程で形成された複数の溝と平行に広がる領域であって、個別の太陽電池の機能領域となる領域の両側に位置する領域の上部電極側から下部電極層面に至る各層を除去して下部電極層を露出させるワイドパターニング工程、
(4)前記ワイドパターニング工程で下部電極層が露出した領域にスクライブラインを形成するスクライブ工程及び
(5)前記スクライブラインに沿ってブレークするブレーク工程
を含むことを特徴とする集積型薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記パターニング工程の前に前記太陽電池基板にアライメントマークを形成するマーキング工程を含む請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記アライメントマークをレーザーマーキングにより形成する請求項2記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記ワイドパターニング工程の後で且つ前記スクライブ工程の前に、又は前記ブレーク工程の後に、前記パターニング工程で形成された複数の溝の両端側の溝と直交する方向の領域に絶縁加工を行う絶縁工程を含む請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁加工を被絶縁部にレーザ照射又はメカニカルスクライブすることにより行う請求項4記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁工程の後に絶縁加工された領域の外側に前記上部電極から前記基板まで貫通する貫通孔を形成する貫通孔形成工程を含む請求項4記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記貫通孔の形成にグリーンレーザ加工装置を使用する請求項6記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記太陽電池基板が、前記光吸収層と上部電極との間に高抵抗バッファ層が形成された太陽電池基板である請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記太陽電池基板が、前記高抵抗バッファ層と上部電極との間に絶縁層が形成された太陽電池基板である請求項8記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記光吸収層が、Cu(In,Ga)Se、Cu(In,Ga)(Se,S)及び(CuInS)から成る群から選択されたカルコパイライト化合物からなる請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記下部電極層がMo層である請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項12】
前記上部電極層が透明導電膜層である請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記絶縁基板がガラス基板である請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項14】
前記パターニング工程において、少なくとも先端が板状又は棒状の溝加工ツールの先端を、上部電極層上面の溝形成部に押圧しながら、前記溝加工ツールと前記太陽電池基板とを溝形成方向に相対移動させることにより、前記上部電極から前記下部電極面に至る溝を形成する請求項1記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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