説明

集電体、その製造方法、電極及び蓄電装置

【課題】蓄電装置に適用した場合に内部抵抗を低くすることが可能な集電体、その製造方法及び電極を提供すること。
【解決手段】本発明の集電体は、金属製の基材と、基材の表面に形成され、基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有する蓄電装置用の集電体であって、導電体層の表面側に位置する導電材の粒子径が、接合層の基材側に位置する導電材の粒子径よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に適用したときに内部抵抗を小さくできる集電体、その製造方法、電極及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の排気ガスに由来する環境問題を解決する観点から、排気ガスの排出量を低減させた自動車や排気ガスを排出しない自動車の開発が進められている。排気ガスの排出量を低減させた自動車の一つとして、内燃機関と電気モータとを組み合わせたハイブリッド自動車がある。また、排気ガスを排出しない自動車の一つとして、電気自動車がある。これらの自動車は、二次電池やキャパシタなどの蓄電装置に蓄電された電気を動力源に採用している。
【0003】
自動車に搭載される蓄電装置に求められる性能としては、小型、軽量でありながら、必要に応じて瞬時に大電流で充放電可能であること、すなわち、高出力密度であることが要求されている。高出力密度を実現するには、蓄電装置の内部抵抗を低減する必要がある。蓄電装置の内部抵抗を低減するには、蓄電装置を構成する電極などの各種部材での抵抗を低減する必要がある。
【0004】
車両に搭載される蓄電装置としては、シート状に形成した電極(正負極)を、セパレータを間に介して巻回乃至積層した電極体を形成し、この電極体を電解液と共にケース内に収納した形態をもつものが一般的である。
【0005】
シート状の電極は、集電体としての金属箔の表面に電極活物質などを含む電極合材層を形成した構成をもつものがあげられる。シート状の電極では、集電体と電極合材層との間における電気の授受が内部抵抗に与える影響は少なくない。また、集電体上に電極材料が均一に分布していないと電荷の移動を伴う反応が不均一となり、電池の内部抵抗の上昇に繋がる。
【0006】
蓄電装置における集電体には、アルミニウム箔が用いられることがある。例えば、リチウム二次電池の正極の集電体に用いられる。一般的に、アルミニウムは、表面に酸化アルミニウムよりなる不動態皮膜が形成されている。つまり、通常のアルミニウムよりなる集電体は、電極合材層との間に電気抵抗が大きい不動態皮膜を有している。
【0007】
また、集電体上に電極合材層を形成する際に、一般的には、電極活物質材料をバインダ、導電材料、溶媒を混合してスラリー化して、集電体に塗工、乾燥して電極を形成している。この時、溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒が使用されている。しかし、環境の配慮、材料及び装置コストの面から、水を使用することが望まれている。アルミニウム箔よりなる集電体に電極材料をスラリー化し、塗工、乾燥する際、溶媒として水を使用した場合、スラリー中の成分とアルミニウム箔が化学反応を起こし(Al(OH)の生成)、更なる皮膜の形成や、反応ガスの生成による電極の不均一化が発生し、電池の内部抵抗が大きくなる。
【0008】
また、作製された蓄電装置を駆動させると、アルミニウムよりなる集電体を高電位に晒すこととなり、集電体を構成するアルミニウムと周囲の電解液とが反応して集電体の表面に高抵抗な皮膜が形成される。
【0009】
このように、従来の蓄電装置は、アルミニウムよりなる集電体の表面に形成される高抵抗な皮膜や、電極の不均一化により、内部抵抗が増加するという問題があった。内部抵抗が増加すると、大電流での充放電時における電圧降下を招き、出力が低下する。
【0010】
酸化皮膜や高抵抗な皮膜等の不動態皮膜の問題に対して、特許文献1〜3が開示されている。
【0011】
特許文献1には、アルミニウム箔の表面に、アルミニウム箔の厚みより小さな粒子径の電子導電性粒子が埋め込むことが開示されている。電子導電性粒子をアルミニウム箔に埋め込むことで、内部抵抗の増大を抑えている。
【0012】
特許文献2には、集電体の表面に、メジアン径が0.8μm以下の微粒炭素を塗布することが開示されている。微粒炭素を付着することで、集電体と電極活物質あるいは電解液との界面における不動態皮膜の形成を阻止する。
【0013】
特許文献3には、集電体の外部表面を、ハフニウムまたはハフニウム合金によって形成することが開示されている。
【0014】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された集電体は、表面に酸化皮膜が形成された状態で更なる処理を行っていることから、アルミニウム箔の表面の不動態皮膜が残存しており、内部抵抗を十分に低下させる効果が得られないという問題があった。
【0015】
さらに、特許文献1〜3に開示の技術においては、アルミニウム箔とその表面に形成される導電性の表面層とは、いずれもアルミニウム箔表面の凹凸に由来するアンカー効果により接合されているのみであり、耐久性・信頼性に問題があった。
【特許文献1】特開平7−22606号公報
【特許文献2】特開2002−298853号公報
【特許文献3】特開2004−63156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、蓄電装置に適用した場合に内部抵抗を低くすることが可能な集電体、その製造方法及び電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明者等は集電体の構造に関して検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0018】
すなわち、本発明の集電体は、金属製の基材と、基材の表面に形成され、基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有する蓄電装置用の集電体であって、導電体層の表面側に位置する導電材の粒子径が、接合層の基材側に位置する導電材の粒子径よりも大きいことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の集電体の製造方法は、金属製の基材と、基材の表面に形成され、基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有する蓄電装置用の集電体の製造方法であって、基材の表面に接合層を形成する工程と、接合層の表面に、接合層の基材側に位置する導電材の粒子径よりも大きい粒子径をもつ導電材をキャリアガスとともに吹き付ける工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の電極は、請求項1〜16のいずれかに記載の集電体、または請求項17〜31に記載の製造方法で製造されてなる集電体と、集電体の表面に形成された電極活物質層と、を有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の蓄電装置は、請求項1〜16のいずれかに記載の集電体、または請求項17〜31に記載の製造方法で製造されてなる集電体を用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の集電体は、導電性を備えた導電材をもつ導電体層により表面が形成されているため、有機電解液を用いた蓄電装置の電極を形成したときに、基材自身の表面が、電極作製時に用いられるスラリーや電解液に晒されなくなっている。これにより、基材の表面に高抵抗の不働態皮膜が形成されなくなり、内部抵抗の上昇が抑えられ出力特性が向上している。
【0023】
また、本発明の集電体は、基材の表面に導電体層を形成している。この導電体層は、粒子径の大きな導電材を用いており、導電材粒子間の隙間が少なくなおかつ、粒子径により厚みを制御して形成することができる。これにより、電極作製時に用いられるスラリーに含まれる水等との反応による皮膜形成、ガス発生に伴う電極の不均一化、電解液を介しての電気化学反応時に形成する皮膜の形成を抑制することができる。
【0024】
このように、本発明の集電体は、電極を形成したときに、内部抵抗が上昇しない集電体となっている。
【0025】
本発明の集電体の製造方法は、基材へのダメージを極力避けながら導電体層が表面を覆う集電体を製造することができる。さらに、導電体層を隙間が少なくなおかつ、粒子径により厚みを制御して形成することができる。これにより、集電体の電気抵抗の減少、電極材料の均一化が可能となり、内部抵抗の低減、出力向上が可能になる。
【0026】
本発明の電極は、内部抵抗が上昇しない集電体を用いており、集電体における内部抵抗の上昇が抑えられたものとなっている。さらに、本発明の電極は、表面に凹凸を持った状態で導電材が導電体層を形成しているため、電極活物質との密着性が向上し、出力の向上、耐久特性が向上する。
【0027】
本発明の蓄電装置は、内部抵抗が上昇しない集電体を用いており、集電体における内部抵抗の上昇が抑えられたものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(集電体)
本発明の蓄電装置用の集電体は、金属製の基材と、基材の表面に形成され、基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有する。そして、本発明の蓄電装置用の集電体は、導電体層の表面側に位置する導電材の粒子径が、接合層の基材側に位置する導電材の粒子径よりも大きくなっている。ここで、導電体層の表面側に位置する導電材の粒子及び接合層の基材側に位置する導電材の粒子のそれぞれは、各層に導電材の粒子を配したときに形状の変化が生じる場合には、変化が生じる前の導電材の粒子径を示す。
【0029】
本発明の集電体は、粒子径の小さい導電材粒子が基材に混在した接合層を基材の表面に有する。接合層に含まれる導電材粒子は、粒子径が小さいため、導電材粒子同士の間の隙間が小さくなっている。つまり、導電材粒子を密に配することで、基材が露出しなくなる。これにより、電極材料形成時のスラリーに含まれる水等との反応による皮膜形成、ガス発生に伴う電極の不均一化、電解液を介しての電気化学反応時に形成する皮膜の形成を抑制することができる。
【0030】
そして、本発明の集電体は、粒子径が大きい導電材粒子を導電体層の表面側に有している。粒子径の大きな導電材を有することで、粒子径により厚みを制御して導電体層を形成することができる。さらに、粒子径の大きな導電材粒子を用いると、粒子の間に大きな隙間が形成されるが、本発明では、基材表面に粒径の小さな導電材を持つ接合層が形成されており、基材が導電材により被覆され、電極材料形成時のスラリーに含まれる水等との反応による皮膜形成、ガス発生に伴う電極の不均一化、電解液を介しての電気化学反応時に形成する皮膜の形成を抑制することができる。
【0031】
また、本発明の集電体は、導電材粒子を吹き付けて導電体層を形成するときに、粒子径の大きな導電体粒子は、大きな運動エネルギーを持つこととなり、基材に衝突した時により高い応力が加わり、導電体粒子がより深い位置まで埋没される。そのため、強い接合力で接合層と接合するとともに導電材粒子同士が接合し、より多くの粒子が接合できるようになる。
【0032】
本発明の集電体は、導電性を備えた導電材をもつ導電体層により表面が形成されている。導電体層を持つことで、有機電解液を用いた蓄電装置の電極を形成したときに、基材が電解液に晒されなくなり、基材表面に不働態皮膜(高抵抗の皮膜)が形成されなくなる。不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ、内部抵抗の上昇による蓄電装置の出力特性の低下が抑えられる。
【0033】
また、本発明の集電体は、接合層により基材と導電体層とが接合されている。接合層は、基材を構成するアルミニウムと導電体層において導電性を発揮する導電材とが混在しており、接合層と基材及び基材接合層と導電体層との接合を同種の材質同士で行うことが可能となり、強固に接合される。これにより、集電体を蓄電装置に使用しても、導電体層の剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた集電体となっている。
【0034】
接合層と導電体層は、含まれる導電材の粒子径が基材側から表面側に進むにつれて大きくなっていることが好ましい。基材側から表面側に進むにつれて導電材の粒子径が大きくなることで、導電材粒子間の隙間が少なくなおかつ、粒子径により層の厚みを制御して形成することができる。
【0035】
導電体層は、接合層を形成した基材に、導電材を吹き付けてなることが好ましい。接合層は、基材の表面に導電材を吹き付けてなることが好ましい。接合層と導電体層が、導電材を吹き付けてなることで、導電材がエネルギーを持った状態で基材(接合層、導電体層)に当たる。この結果、導電材を持つ接合層や導電体層を形成することができる。
【0036】
さらに、基材に粒子径の小さい導電材を吹き付けると、導電材粒子が基材表面に形成された不動態被膜を突き破って基材内に進入・拡散する。これにより、基材と導電材が混在した接合層が形成される。小さい粒子を用いることで、接合層は微視的な隙間が極めて少ない状態で形成される。そして、粒子径の大きな導電材を接合層の表面に吹き付けると、集電体と接合された接合層または、接合層を介して直接基材と接合する。これにより、隙間が少なく、かつ接合部及び導電材粒子部分の厚みを増加させることができる。
【0037】
接合層は、基材の表面から内部に導電材が拡散して形成されたことが好ましい。基材の表面から内部に導電材が拡散すると、接合層の表面近傍は導電材を多量に含有し、表面から内部に進むにつれて導電材の含まれる割合が徐々に減少する。このような構成となることで、基材及び導電体層を強固に接合することができる。すなわち、接合層は、基材側から導電体層側に向かって導電材の濃度が増加することが好ましい。また、導電材を基材に拡散させることで、基材と接合層との界面が存在しなくなり、集電体の導電性が向上する。なお、導電材は、基材を構成する金属のマトリックス中に分子レベルで拡散したことが好ましい。
【0038】
また、基材に導電材を拡散させて接合層を形成することで、導電材を拡散させるときに基材を構成する金属の表面に存在する酸化皮膜が除去され、酸化皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられる。
【0039】
本発明の集電体において、接合層及び導電体層は、導電材が吹き付けられてなる層の表面に導電材を吹き付けるときの運動エネルギー(1/2mx+1x+1)が、前層を形成するために吹き付ける時の運動エネルギー(1/2m)よりも大きいことが好ましい。後から吹き付けられる導電材粒子の運動エネルギーがより大きくなることで、前層や基材に衝突した時により高い応力が加わり、粒子がより深い位置まで埋没される。そのため、基材や前層との接合力が強くなり、粒子径の小さな粒子を更に噴射し続けるよりも、より多くの粒子が接合できるようになる。これにより、より厚い層を形成できる。また、接合できる粒子が多くなり、材料の利用効率も大幅に向上でき、材料コストの低減が可能となる。
【0040】
本発明の集電体において、吹き付けられる導電材の平均粒子径と、前層を形成するために吹き付けられた導電材の平均粒子径との比が、1.2/1以上であることが好ましい。導電材の平均粒子径の比がこの範囲内となることで、粒子径の小さな導電材から緻密な層を形成でき、粒子径の大きな導電材からより厚い層を形成できる。
【0041】
本発明の集電体において、吹き付けられる導電材の吹き付け速度が、前層を形成するために吹き付けられた導電材の吹き付け速度よりも速いことが好ましい。導電材の吹き付け速度が制御されることで、粒子径の大きな導電材を吹き付けるときの運動エネルギーを大きくすることができ、粒子径の小さな導電材から緻密な層を形成でき、粒子径の大きな導電材からより厚い層を形成できる。吹き付けられる導電材の吹き付け速度と、前層を形成するために吹き付けられた導電材の吹き付け速度と、の比が、1.33/1以上であることがより好ましい。本発明の集電体において、導電材は、150〜450m/secで吹き付けられることが好ましい。
【0042】
本発明の集電体において、基材は、その表面の90%以上が導電材で被覆されることが好ましい。基材の表面の90%以上が導電材(接合層及び導電体層)で被覆されることで、基材が導電材により被覆され、電極材料形成時のスラリーに含まれる水等との反応による皮膜形成、ガス発生に伴う電極の不均一化、電解液を介しての電気化学反応時に形成する皮膜の形成を抑制することができる。
【0043】
本発明の集電体において、導電材の材質は特に限定されるものではなく、蓄電装置に用いたときの電解液や使用条件等により適宜選択することができる。集電体が使用される蓄電装置の電解液や使用条件等により、基材表面に生成される不働態皮膜が異なる。たとえば、リチウムイオン電池にはLiPFを電解質として含む電解液が用いられており、このリチウムイオン電池の基材がアルミニウムよりなる集電体において4V程度で生成される不働態皮膜は、フッ化アルミニウムである。このように、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により生成される不働態皮膜の材質や厚さが異なる。このため、導電材の材質は、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により適宜選択できる。たとえば、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種をあげることができる。また、これらを複合して用いてもよい。
【0044】
炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブの少なくとも一種であることが好ましい。導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種であることが好ましい。導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種であることが好ましい。金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種であることが好ましい。
【0045】
炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料がこれらの材質より選ばれることで、内部抵抗を上昇させることなく導電体層が電気伝導性を持つことが可能となる。
【0046】
本発明の集電体において、基材を構成する金属は特に限定されるものではない。本発明の集電体は、基材がアルミニウムの場合に特に効果を発揮することからアルミニウムであることがより好ましい。ここで、アルミニウムは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金であってもよい。たとえば、マンガンを含むアルミニウム合金は、強度が向上しており、基材の厚さを薄くすることが可能となる。また、基材は、焼きなましなどの熱処理が施されていないことが好ましい。
【0047】
基材は、30μm以下の厚さで形成されたことが好ましい。基材の厚さが30μmを超えると、集電体の厚さが厚くなりすぎる。集電体の厚さが厚くなると、蓄電装置を形成したときの電極にしめる基材の割合が多くなり、体積あたりの活物質量が減少することとなり、体積効率が低下する。
【0048】
接合層は、0.01μm以上の厚さで形成されたことが好ましい。ここで、接合層の厚さとは、導電材が含まれる部分の厚さを示す。接合層が0.01μm以上の厚さで形成されることで、基材と導電体層を接合する効果を発揮する。
【0049】
(製造方法)
本発明の集電体の製造方法は、金属製の基材と、基材の表面に形成され、基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有する蓄電装置用の集電体の製造方法であって、基材の表面に接合層を形成する工程と、接合層の表面に、接合層の基材側に位置する導電材の粒子径よりも大きい粒子径をもつ導電材をキャリアガスとともに吹き付ける工程と、を有する。
【0050】
本発明の集電体の製造方法では、金属製の基材と、基材の表面に形成され、基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有する蓄電装置用の集電体の製造方法である。すなわち、本発明の集電体の製造方法は上記の集電体を製造できる製造方法である。
【0051】
本発明の集電体の製造方法では、まず、基材の表面に接合層を形成し、つづいて、接合層の表面に、接合層の基材側に位置する導電材の粒子径よりも大きい粒子径をもつ導電材をキャリアガスとともに吹き付ける。これにより、上記の集電体を製造できる。
【0052】
接合層は、基材の表面に導電材を吹き付けてなることが好ましい。すなわち、導電材の粒子を吹き付けることで、導電材がエネルギーを持った状態で基材に当たり、導電材を持つ接合層や導電体層を形成することができる。
【0053】
基材に粒子径の小さい導電材を吹き付けると、導電材粒子が基材表面に形成された不動態被膜を突き破って基材内に進入・拡散する。これにより、基材と導電材が混在した接合層が形成される。小さい粒子を用いることで、接合層は微視的な隙間が極めて少ない状態で形成される。そして、粒子径の大きな導電材を接合層の表面に吹き付けると、集電体と接合された接合層または、接合層を介して直接基材と接合する。これにより、隙間が少なく、かつ接合部及び導電材粒子部分の厚みを増加させることができる。
【0054】
導電材粒子を基材に吹き付けて形成される接合層では、基材の表面から内部に導電材が拡散して形成される。基材の表面から内部に導電材が拡散すると、接合層の表面近傍は導電材を多量に含有し、表面から内部に進むにつれて導電材の含まれる割合が徐々に減少する。このような構成となることで、基材及び導電体層を強固に接合することができる。また、導電材を基材に拡散させることで、基材と接合層との界面が存在しなくなり、集電体の導電性が向上する。なお、導電材は、基材を構成する金属のマトリックス中に分子レベルで拡散したことが好ましい。
【0055】
また、基材に導電材を拡散させて接合層を形成することで、導電材を拡散させるときに基材を構成する金属の表面に存在する酸化皮膜が除去され、酸化皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられる。
【0056】
本発明の集電体の製造方法において、接合層及び導電体層は、導電材が吹き付けられてなる層の表面に導電材を吹き付けるときの運動エネルギー(1/2mx+1x+1)が、前層を形成するために吹き付ける時の運動エネルギー(1/2m)よりも大きいことが好ましい。後から吹き付けられる導電材粒子の運動エネルギーがより大きくなることで、前層や基材に衝突した時により高い応力が加わり、粒子がより深い位置まで埋没される。そのため、基材や前層との接合力が強くなり、粒子径の小さな粒子を更に噴射し続けるよりも、より多くの粒子が接合できるようになる。これにより、より厚い層を形成できる。また、接合できる粒子が多くなり、材料の利用効率も大幅に向上でき、材料コストの低減が可能となる。
【0057】
本発明の集電体の製造方法において、吹き付けられる導電材の平均粒子径と、前層を形成するために吹き付けられた導電材の平均粒子径との比が、1.2/1以上であることが好ましい。導電材の平均粒子径の比がこの範囲内となることで、粒子径の小さな導電材から緻密な層を形成でき、粒子径の大きな導電材からより厚い層を形成できる。
【0058】
本発明の集電体の製造方法において、吹き付けられる導電材の吹き付け速度が、前層を形成するために吹き付けられた導電材の吹き付け速度よりも速いことが好ましい。導電材の吹き付け速度が制御されることで、粒子径の大きな導電材を吹き付けるときの運動エネルギーを大きくすることができ、粒子径の小さな導電材から緻密な層を形成でき、粒子径の大きな導電材からより厚い層を形成できる。吹き付けられる導電材の吹き付け速度と、前層を形成するために吹き付けられた導電材の吹き付け速度と、の比が、1.33/1以上であることがより好ましい。本発明の集電体において、導電材は、150〜450m/secで吹き付けられることが好ましい。
【0059】
本発明の集電体の製造方法において、基材は、その表面の90%以上が導電材で被覆されることが好ましい。基材の表面の90%以上が導電材(接合層及び導電体層)で被覆されることで、基材が導電材により被覆され、電極材料形成時のスラリーに含まれる水等との反応による皮膜形成、ガス発生に伴う電極の不均一化、電解液を介しての電気化学反応時に形成する皮膜の形成を抑制することができる。
【0060】
本発明の集電体の製造方法において、導電材の材質は特に限定されるものではなく、蓄電装置に用いたときの電解液や使用条件等により適宜選択することができる。集電体が使用される蓄電装置の電解液や使用条件等により、基材表面に生成される不働態皮膜が異なる。たとえば、リチウムイオン電池にはLiPFを電解質として含む電解液が用いられており、このリチウムイオン電池の基材がアルミニウムよりなる集電体において4V程度で生成される不働態皮膜は、フッ化アルミニウムである。このように、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により生成される不働態皮膜の材質や厚さが異なる。このため、導電材の材質は、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により適宜選択できる。たとえば、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種をあげることができる。また、これらを複合して用いてもよい。
【0061】
炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブの少なくとも一種であることが好ましい。導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種であることが好ましい。導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種であることが好ましい。金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種であることが好ましい。
【0062】
炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料がこれらの材質より選ばれることで、内部抵抗を上昇させることなく導電体層が電気伝導性を持つことが可能となる。
【0063】
本発明の集電体の製造方法において、基材を構成する金属は特に限定されるものではない。本発明の集電体は、基材がアルミニウムの場合に特に効果を発揮することからアルミニウムであることがより好ましい。ここで、アルミニウムは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金であってもよい。たとえば、マンガンを含むアルミニウム合金は、強度が向上しており、基材の厚さを薄くすることが可能となる。また、基材は、焼きなましなどの熱処理が施されていないことが好ましい。
【0064】
キャリアガスは特に限定しないが、窒素ガス、空気、アルゴンなどの噴射雰囲気下において不活性乃至活性が低いガスを採用することが望ましい。キャリアガスの圧力としては微粒子材料が前述の好ましい速度になるような圧力を採用することが望ましく、例えば、前述の微粒子の噴射速度を実現するには0.1MPa〜1.0MPaを用いることが望ましい。
【0065】
基材は、30μm以下の厚さで形成されたことが好ましい。基材の厚さが30μmを超えると、集電体の厚さが厚くなりすぎる。集電体の厚さが厚くなると、蓄電装置を形成したときの電極にしめる基材の割合が多くなり、体積あたりの活物質量が減少することとなり、体積効率が低下する。
【0066】
接合層は、0.01μm以上の厚さで形成されたことが好ましい。ここで、接合層の厚さとは、導電材が含まれる部分の厚さを示す。接合層が0.01μm以上の厚さで形成されることで、基材と導電体層を接合する効果を発揮する。
【0067】
(電極)
本発明の電極は、請求項1〜16のいずれかに記載の集電体、または請求項17〜31に記載の製造方法で製造されてなる集電体と、集電体の表面に形成された電極活物質層と、を有する。すなわち、本発明の電極は、上記の集電体を用いてなる電極であり、上記の集電体は、基材の表面上に接合層を介して導電体層が形成されており、内部抵抗の上昇が抑えられ、かつ高い耐久性・信頼性を発揮する電極となっている。
【0068】
本発明の電極は、上記の集電体を用いてなる電極であり、導電体層上に電極活物質層をもつ電極である。電極活物質層は、イオンを吸蔵・放出可能なもしくは酸化還元反応に伴う電子の授受が可能なまたは電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極活物質をもつ。電極活物質は、本発明の電極を蓄電装置の電極として用いたときに電極反応を生じる物質である。電極活物質が生じる電極反応は、限定されるものではなく、リチウム電池の電極反応のようにイオンをその結晶構造中に吸蔵・放出する反応や、ラジカル電池のように酸化還元反応に伴う電子の授受を行う反応、電気二重層キャパシタのようにその表面に電気二重層を形成する反応をあげることができる。
【0069】
本発明の電極は、正極と負極のいずれに用いてもよい。たとえば、リチウムイオン電池の電極として用いられるときには、正極であることが好ましい。
【0070】
本発明の電極において電極活物質は、蓄電装置を構成したときに、イオンを吸蔵・放出する電極反応、酸化還元反応に伴う電子の授受を行う電極反応、イオンを可逆的に担持する電極反応の少なくとも一種の電極反応を生じる物質であれば特に限定されるものではない。電極活物質は、金属酸化物系化合物、ラジカル安定化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0071】
金属酸化物系化合物としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物であればよい。金属酸化物系化合物が、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な化合物よりなることで、本発明の電極を用いてリチウムイオン電池を形成することができる。金属酸化物系化合物としては、たとえば、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物を含む化合物やこれらの複合酸化物をあげることができる。すなわち、金属酸化物系化合物は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物の少なくとも一種あるいはこれらの複合体を含む化合物であることが好ましい。より具体的には、LiCoO,LiNiO,LiMnO,LiMnや、LiNi1−x−yCo(MはAl,Sr,Mg,Laなどの金属元素)のようなリチウム遷移金属酸化物の一種以上、あるいはこれらの複合体をあげることができる。
【0072】
ラジカル化合物は、不対電子を備えており、この不対電子が電極反応に用いられる。つまり、この不対電子が電流として集電体を介して取り出される。この結果、酸化還元反応に伴う電子の授受を行う電極反応が進行する。この電極反応を用いた蓄電装置は、電子の授受の容易さから、高出力が得られる効果を発揮する。ラジカル化合物は、電極反応に寄与する不対電子をもつ化合物であれば特に限定されるものではない。ラジカル化合物は、ニトロキシルラジカルを有する化合物、オキシラジカルを有する化合物、窒素ラジカルを有する化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0073】
電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極反応としては、たとえば、キャパシタの電極において生じる反応をあげることができる。電荷を可逆的に蓄えることが可能な活物質としては、従来公知のキャパシタにおいて用いられている活物質をあげることができ、たとえば、活性炭などの炭素質材料をあげることができる。
【0074】
本発明の電極において、接合層は、0.01μm以上の厚さで形成されたことが好ましい。ここで、接合層の厚さとは、導電材が含まれる部分の厚さを示す。接合層が0.01μm以上の厚さで形成されることで、基材と導電体層を接合する効果を発揮する。
【0075】
基材は、30μm以下の厚さで形成されたことが好ましい。基材の厚さが30μmを超えると、集電体の厚さが厚くなりすぎる。集電体の厚さが厚くなると、蓄電装置を形成したときの電極にしめる基材の割合が多くなり、体積あたりの活物質量が減少することとなり、体積効率が低下する。
【0076】
本発明の電極において、導電材の材質は特に限定されるものではなく、蓄電装置に用いたときの電解液や使用条件等により適宜選択することができる。集電体が使用される蓄電装置の電解液や使用条件等により、アルミニウム表面に生成される不働態皮膜が異なる。たとえば、リチウムイオン電池にはLiPFを電解質として含む電解液が用いられており、このリチウムイオン電池の集電体において4V程度で生成される不働態皮膜は、フッ化アルミニウムである。このように、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により生成される不働態皮膜の材質や厚さが異なる。このため、導電材の材質は、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により適宜選択できる。たとえば、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種をあげることができる。また、これらを複合して用いてもよい。
【0077】
炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブの少なくとも一種であることが好ましい。導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種であることが好ましい。導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種であることが好ましい。金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種であることが好ましい。
【0078】
炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料がこれらの材質より選ばれることで、内部抵抗を上昇させることなく導電体層が電気伝導性を持つことが可能となる。
【0079】
本発明の電極において、基材を構成するアルミニウムは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金であってもよい。たとえば、マンガンを含むアルミニウム合金は、強度が向上しており、基材の厚さを薄くすることが可能となる。また、基材は、焼きなましなどの熱処理が施されていないことが好ましい。
【0080】
本発明の電極は、集電体の導電体層に活物質層を形成できる方法であれば、その製造方法が限定されるものではない。たとえば、基材、接合層及び導電体層をもつ集電体を製造し、導電体層上に電極活物質を含むペーストを塗布し、乾燥させて活物質層を形成する製造方法をあげることができる。活物質層は、導電体層上に電極活物質を含むペーストを塗布、乾燥させた後に押圧して圧縮してもよい。
【0081】
(蓄電装置)
本発明の蓄電装置は、請求項1〜16のいずれかに記載の集電体、または請求項17〜31に記載の製造方法で製造されてなる集電体を用いてなる。すなわち、請求項32〜37に記載の電極を用いてなる蓄電装置である。
【0082】
本発明の蓄電装置は、上記した集電体及び電極以外は従来公知の蓄電装置と同様な構成とすることができる。すなわち、蓄電装置は、上記の集電体を用いて製造された電極を用いて電極体を形成し、この電極体を非水電解液とともに容器に密封した構成とすることができる。
【0083】
本発明の蓄電装置は、二次電池であることが好ましい。二次電池は、充放電を繰り返すことが可能な二次電池であればその種類が特に限定されるものではなく従来公知の二次電池を用いることができる。たとえば、リチウム電池などの電解液に有機電解液を用いた二次電池をあげることができる。エネルギー密度が高いことから、二次電池は非水系二次電池であることがより好ましい。非水系二次電池としては、たとえば、リチウムイオン電池をあげることができ、リチウムイオン電池においては上記の集電体を正極の集電体に用いることが好ましい。
【0084】
本発明の蓄電装置は、キャパシタであることが好ましい。キャパシタも充放電を繰り返すことが可能なキャパシタであればその種類が特に限定されるものではなく従来公知のキャパシタを用いることができる。キャパシタは、充放電時の高速応答性に優れた電気二重層型のキャパシタであることが好ましい。
【0085】
また、二次電池及びキャパシタは、ひとつの電極体をもつ単電池であっても複数の単電池よりなる組電池であってもいずれでもよい。また、一つの電極体がケースに収容された単セル電池であっても、複数の電極体が一つに収容された複数セル電池であってもいずれでもよい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0087】
本発明の実施例として、アルミニウム製集電体及び正極を製造した。
(集電体の作製)
導電材として、チタンカーバイド粒子を用いた。このチタンカーバイド粒子は、50%平均粒子半径(D50)が、0.83、0.91、1.0、1.58、2.00、3.50μmの粒子に分級された。
【0088】
基材には、厚さ15μmのH材よりなるアルミニウム箔(日本製箔株式会社製、JIS規定の1N30材)を用いた。このアルミニウム箔は、熱処理が施されていないアルミニウム箔である。
【0089】
このアルミニウム箔を、多孔質セラミックス材の表面に固定した。そして、セラミックス材の裏面側から真空吸引してアルミニウム箔をセラミックス材に密着させた。
【0090】
セラミックス材の表面に密着したアルミニウム箔の表面に、チタンカーバイド粒子を常温の条件下でキャリアガスを用いて吹き付けた。チタンカーバイド粒子の吹き付けは、使用ノズルとして幅10mm、ノズル部を動かすことでアルミニウム箔の狙った部分に粒子を吹き付けて行われた。今回の試験では、ノズルの走査速度を3m/分で30×70mmの面積に吹き付けた。なお、ノズルを走査するのではなく、アルミニウム箔(セラミックス材)を走査することでも同様な結果となる。
【0091】
チタンカーバイド粒子を吹き付けるためのキャリアガスには窒素ガスを用いた。キャリアガスの圧力を0.1〜0.5MPaで調整し、各粒子の吹き付け速度を測定した。吹き付け条件としては、使用ノズルが幅10mm、先端が平らでストレート形状の管を採用し、その先端からの距離が1mmになるようにアルミニウム箔を配置した状態で各微粒子材料を吹き付けた。ここで、粒子が吹き付けられるときの噴射速度を測定した。噴射速度の測定はノズルから噴射された微粒子材料に対して、100ns間隔にてパルスレーザを照射しながら、同期した高解像度カメラにて撮影することで行った。噴射速度は測定した微粒子材料のうち噴射速度が上位10%に入るものの速度の平均値を採用した。
【0092】
本実施例では、キャリアガス圧力を0.1MPa〜1.0MPaの範囲に制御することで、チタンカーバイド粒子の噴射速度を150m/sから450m/sに制御することができた。
【0093】
本実施例では、まず、第1のチタンカーバイド粒子(第1粒子)を供給用のホッパー部に入れ各条件のキャリアガスによって噴射させ、第1粒子をアルミニウム箔に吹き付けてアルミニウム箔よりなる基材に拡散させた。つづいて、供給用のホッパー部のチタンカーバイド粒子を第2のチタンカーバイド粒子(第2粒子)に交換して、第1粒子が拡散して接合層が形成された基材に、第2粒子を同様にキャリアガスによって吹き付け、導電体層を形成した。
【0094】
これにより、実施例及び比較例の集電体が製造できた。
【0095】
製造された集電体に使用されたチタンカーバイド粒子(第1及び第2粒子)の粒径を表1に示した。また、チタンカーバイド粒子の吹き付け時の運動エネルギー比を表1に合わせて示した。
【0096】
【表1】

【0097】
製造された集電体は、アルミニウム箔よりなる基材と、基材の表面に形成され、基材と導電性をもつチタンカーバイドよりなる導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、チタンカーバイドよりなる導電材を有する導電体層と、を有する集電体である。そして、本実施例の集電体は、導電体層の表面側に位置する第2粒子の粒子径が、接合層の基材側に位置する第1粒子の粒子径よりも大きくなっている。
(正極の製造)
まず、正極活物質としてニッケル酸リチウム(LiNiO)を、バインダとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びカルボキシルメチルセルロース(CMC)を、導電助剤としてカーボンブラックを、それぞれ所定量を秤量し、分散媒の水に分散させて正極合剤ペーストを調製した。
【0098】
調製された正極合剤ペーストを実施例及び比較例の集電体の表面に塗布、乾燥した。そして、ハンドプレスで押圧し、集電板の表面上の電極活物質を高密度化した。これにより、集電体の表面に正極活物質層が形成された正極が製造できた。
(負極の製造)
負極活物質として黒鉛を、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシルメチルセルロース(CMC)を、それぞれ所定量を秤量し、分散媒の水に分散させて負極合剤ペーストを調製した。
【0099】
調製された負極合剤ペーストを銅箔よりなる集電体の表面に塗布、乾燥した。これにより、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極が製造できた。
(試験用電池)
上記の正極及び負極を、ポリエチレン製の多孔質膜よりなるセパレータを介して積層させ、電解液とともにアルミニウムよりなる電池ケース内に挿入し、ケースを封口して試験用電池が製造された。電解液は、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)が体積比で1:1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPFを1mol/Lの割合となるように添加して製造された。
【0100】
(評価)
実施例及び比較例の集電体、正極及び電池の評価を行った。
【0101】
(集電体の評価)
実施例及び比較例の集電体このようにして得て導電体層についての評価内容、評価方法を以下に説明する。
【0102】
まず、集電体に付着した粒子の重量効率を測定した。
【0103】
この重量効率は、チタンカーバイド粒子が吹き付けられる前後のアルミニウム箔の重量、ノズルから噴射したチタンカーバイド粒子の重量に基づいて、[(接合後の集電体の重量−Al箔の重量)/噴射したチタンカーバイド粒子の総重量]×100で得られる値を比較することで行われた。算出された値の比較は、比較例1の値を1.0としたときの比として求めた。この重量効率の値を表2に示した。
【0104】
つづいて、集電体に付着した粒子の被覆率を測定した。
【0105】
被覆率は、集電体のSEM写真を撮影し、SEM写真による反射電子像の観察を行い、基材と導電材粒子のコントラストの違いから基材が導電材粒子で被覆される被覆率を測定した。測定結果を表2に合わせて示した。
(電池の評価)
つづいて、製造された電池の出力の評価を行った。
【0106】
この出力の評価は、SOC0(3V)〜100%(4.1V)の充放電を5サイクル終了後、電池電圧をSOC60%(3.72V)に充電した後、出力測定を行った。出力測定は、1Cの電流で10秒間放電、1Cの電流で10秒間充電休止時間5分を行い、初期の電圧と10秒後の電圧の差ΔV(1C)を求める。同様に、電流値を2C、4C、8C、12C、16C、20Cと変えて、ΔV(xC)を求める。そして、横軸に電流値、縦軸にΔVとなるグラフから、SOC60%からSOC0%まで放電された時の電圧となるΔVが0.72Vとなる電流値Iを求める。そして、3×I/正極活物質重量を出力値と算出した。測定結果を表2に合わせて示した。なお、表中には、比較例1の測定値を1.0としたときの比で示した。
【0107】
つづいて、製造された電池の電気抵抗の評価を行った。
【0108】
電池出力評価が終了した電極をφ15mmの円板状に切り出し、2枚の銅材で挟み込んだ。このとき、正極は、2枚の銅材の間を1MPaの加圧力で圧縮しており、正極は2枚の銅材のそれぞれに圧着している。そして、この2枚の銅材の間に一定の電流を印加して電圧を測定した。測定結果を表2に合わせて示した。
【0109】
【表2】

【0110】
第2粒子が第1粒子よりも大径の粒子を用いた実施例1〜4は、大径の粒子のみを用いた比較例1と比較して、材料重量効率、被覆率及び出力特性が向上し、電気抵抗が低下していることが確認できる。
【0111】
そして、実施例2は、第1及び第2粒子のそれぞれの粒子の粒径が実施例1の場合より大きくなっており、基材に衝突した時に、より高い応力が加わる。これにより、粒子がより深い位置まで埋没される。この結果、基材及び接合層の第1粒子との接合力が強くなり、第1粒子を吹き付け続けるよりも、より多くの第2粒子が接合できるようになり、隙間の少ない接合層と、より厚い接合層を形成できた。
【0112】
さらに、実施例3では、第2粒子を吹き付ける吹き付け速度が、第1粒子の吹き付け速度よりも速くなっている。すなわち、第2粒子と第1粒子の運動エネルギーの比が大きくなっている。これにより、第2粒子が基材に衝突した時に、より高い応力が加わる。これにより、粒子がより深い位置まで埋没される。この結果、基材及び接合層の第1粒子との接合力が強くなり、第1粒子を吹き付け続けるよりも、より多くの第2粒子が接合できるようになり、隙間の少ない接合層と、より厚い接合層を形成できた。さらに、材料重量効率が向上できることがわかった。
【0113】
また、実施例4では、第1及び第2粒子のそれぞれの粒子の粒径が実施例2の場合よりさらに大きくなっており、基材に衝突した時に、より高い応力が加わる。これにより、粒子がより深い位置まで埋没される。この結果、基材及び接合層の第1粒子との接合力が強くなり、第1粒子を吹き付け続けるよりも、より多くの第2粒子が接合できるようになり、隙間の少ない接合層と、より厚い接合層を形成できた。
【0114】
なお、比較例1は、第1及び第2粒子の粒子径が同じであり、第1粒子を吹き付けて接合層を形成した後に、さらに第1粒子(第2粒子)を吹き付けても、粒子を接合、付着させることができず、導電体層が形成できなかった。
【0115】
また、比較例2は、それぞれの評価結果が、ほぼ比較例1と同等であり、十分な効果が得られなかった。すなわち、第1及び第2粒子の粒子径が同じであれば、第2粒子を吹き付ける吹き付け速度が、第1粒子の吹き付け速度よりも速くなっても、十分な効果が得られないことが確認できた。
【0116】
さらに、比較例3は、第1及び第2粒子のそれぞれの粒子の粒径が大きくなったこと以外は比較例1と同様であり、それぞれの評価結果が、ほぼ比較例1と同等であり、十分な効果が得られなかった。
【0117】
上記のように、第1粒子に粒子径の小さな粒子を用い、第2粒子に第1粒子よりも粒子径の大きい粒子を用いることで、材料の利用効率の増加、被覆率の向上、出力特性の向上、電気抵抗の低下ができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材と、
該基材の表面に形成され、該基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、
該接合層上に形成され、該導電材を有する導電体層と、
を有する蓄電装置用の集電体であって、
該導電体層の表面側に位置する該導電材の粒子径が、該接合層の該基材側に位置する該導電材の粒子径よりも大きいことを特徴とする集電体。
【請求項2】
前記接合層と前記導電体層は、含まれる前記導電材の粒子径が基材側から表面側に進むにつれて大きくなっている請求項1記載の集電体。
【請求項3】
前記導電体層は、前記接合層を形成した前記基材に、前記導電材を吹き付けてなる請求項1〜2のいずれかに記載の集電体。
【請求項4】
前記接合層は、前記基材の表面に前記導電材を吹き付けてなる請求項1〜3のいずれかに記載の集電体。
【請求項5】
前記接合層及び前記導電体層は、前記導電材が吹き付けられてなる層の表面に前記導電材を吹き付けるときの運動エネルギー(1/2mx+1x+1)が、前層を形成するために吹き付ける時の運動エネルギー(1/2m)よりも大きい請求項3〜4のいずれかに記載の集電体。
【請求項6】
吹き付けられる前記導電材の平均粒子径と、前記前層を形成するために吹き付けられた前記導電材の平均粒子径との比が、1.2/1以上である請求項5記載の集電体。
【請求項7】
吹き付けられる前記導電材の吹き付け速度が、前記前層を形成するために吹き付けられた前記導電材の吹き付け速度よりも速い請求項5〜6のいずれかに記載の集電体。
【請求項8】
吹き付けられる前記導電材の吹き付け速度と、前記前層を形成するために吹き付けられた前記導電材の吹き付け速度と、の比が、1.33/1以上である請求項5〜7のいずれかに記載の集電体。
【請求項9】
前記導電材は、150〜450m/secで吹き付けられる請求項1〜8のいずれかに記載の集電体。
【請求項10】
前記基材は、その表面の90%以上が前記導電材で被覆される請求項1〜9のいずれかに記載の集電体。
【請求項11】
前記導電材は、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種よりなる請求項1〜10のいずれかに記載の集電体。
【請求項12】
前記炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素の少なくとも一種である請求項11記載の集電体。
【請求項13】
前記グラファイトは、鱗片状黒鉛、人造黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛の少なくとも一種である請求項12記載の集電体。
【請求項14】
前記導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種である請求項11記載の集電体。
【請求項15】
前記導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種である請求項11記載の集電体。
【請求項16】
前記金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種である請求項11記載の集電体。
【請求項17】
金属製の基材と、
該基材の表面に形成され、該基材と導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、
該接合層上に形成され、該導電材を有する導電体層と、
を有する蓄電装置用の集電体の製造方法であって、
該基材の表面に該接合層を形成する工程と、
該接合層の表面に、接合層の該基材側に位置する該導電材の粒子径よりも大きい粒子径をもつ該導電材をキャリアガスとともに吹き付ける工程と、
を有することを特徴とする集電体の製造方法。
【請求項18】
前記接合層は、前記基材の表面に前記導電材を吹き付けてなる請求項17記載の集電体の製造方法。
【請求項19】
前記接合層と前記導電体層は、含まれる前記導電材の粒子径が基材側から表面側に進むにつれて大きくなっている請求項18記載の集電体の製造方法。
【請求項20】
前記接合層及び前記導電体層は、前記導電材が吹き付けられてなる層の表面に前記導電材を吹き付けるときの運動エネルギー(1/2mx+1x+1)が、前層を形成するために吹き付ける時の運動エネルギー(1/2m)よりも大きい請求項17〜19のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項21】
吹き付けられる前記導電材の平均粒子径と、前記前層を形成するために吹き付けられた前記導電材の平均粒子径との比が、1.2/1以上である請求項20記載の集電体の製造方法。
【請求項22】
吹き付けられる前記導電材の吹き付け速度が、前記前層を形成するために吹き付けられた前記導電材の吹き付け速度よりも速い請求項20〜21のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項23】
吹き付けられる前記導電材の吹き付け速度と、前記前層を形成するために吹き付けられた前記導電材の吹き付け速度と、の比が、1.33/1以上である請求項20〜21のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項24】
前記導電材は、150〜450m/secで吹き付けられる請求項17〜23のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項25】
前記基材は、その表面の90%以上が前記導電材で被覆される請求項17〜24のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項26】
前記導電材は、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種よりなる請求項17〜25のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項27】
前記炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素の少なくとも一種である請求項26記載の集電体の製造方法。
【請求項28】
前記グラファイトは、鱗片状黒鉛、人造黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛の少なくとも一種である請求項27記載の集電体の製造方法。
【請求項29】
前記導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種である請求項26記載の集電体の製造方法。
【請求項30】
前記導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種である請求項26記載の集電体の製造方法。
【請求項31】
前記金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種である請求項26記載の集電体の製造方法。
【請求項32】
請求項1〜16のいずれかに記載の集電体、または請求項17〜31に記載の製造方法で製造されてなる集電体と、
該集電体の表面に形成された電極活物質層と、
を有することを特徴とする電極。
【請求項33】
前記電極活物質層は、イオンを吸蔵・放出可能なもしくは酸化還元反応に伴う電子の授受が可能な、または電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極活物質を有する請求項32記載の電極。
【請求項34】
前記電極活物質は、金属酸化物系化合物、ラジカル安定化合物の少なくとも一種である請求項33記載の電極。
【請求項35】
前記金属酸化物系化合物は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物、の少なくとも一種あるいはこれらの複合体を含む化合物である請求項34記載の電極。
【請求項36】
前記ラジカル化合物は、ニトロキシルラジカルを有する化合物、オキシラジカルを有する化合物、窒素ラジカルを有する化合物の少なくとも一種である請求項34記載の電極。
【請求項37】
前記電極活物質層は、前記電極活物質を水系溶媒に分散させたスラリーを用いてなる請求項32〜36のいずれかに記載の電極。
【請求項38】
請求項1〜16のいずれかに記載の集電体、または請求項17〜31に記載の製造方法で製造されてなる集電体を用いてなることを特徴とする蓄電装置。

【公開番号】特開2009−301898(P2009−301898A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155652(P2008−155652)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】