説明

集電子磨耗検出装置および集電子磨耗検出システム

【課題】すでに運用がされている設備へ簡単に取付けることが可能となり、ひとつの検知装置で、複数の移動機器に設定された集電子の磨耗を検出できる集電子磨耗検出装置および集電子磨耗検出システムを提供する。
【解決手段】集電子と接触する導体と、前記導体上に被せられた絶縁カバーからなる絶縁トロリに配置される集電子磨耗検出装置おいて、前記絶縁カバーの少なくとも一方の側面に設けられた前記集電子の磨耗状態を検出する磨耗状態検出部と前記磨耗状態検出部と前記導体との距離が一定となるように前記磨耗状態検出部と前記導体との間に配置された連結部とを備え、前記磨耗状態検出部は前記集電子が磨耗によって、前記集電子の位置の変位を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取り付けが簡単にでき、集電子の磨耗状態を精度良く検出できる集電子磨耗検出装置および集電子磨耗検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、天井走行クレーンやホイスト等の移動機械への電力供給用として絶縁トロリが用いられている。
この絶縁トロリの一般的なものとして図6に記載された形状のものがある。これは、絶縁トロリ900の断面図であり、導体901の一部を図示しない集電子が摺導する被摺動面902として露出された状態で導体901に絶縁カバー903を被せたもので、この被摺動面902を摺動する集電子が脱線しないように、前記絶縁カバー903には被摺動面902の両側に位置する部分に一対の脚部904a、904bが設けられている
【0003】
この絶縁トロリを天井走行クレーンやホイスト等の移動機器の走行路に沿って敷設し、集電子を備えた走行体連結部を介して移動機器へと電力を供給する。
【0004】
走行体連結部910は、図7に示すように、接続部911aに接続部911bを取付けることで、接続部911を構成し、図示しない移動機器に接続するようにしている。接続部911aには起伏自在に動くように2本のアーム912が取付けられ、2本のアーム912を張力バネ913で接続することで揺動可能としている。アーム912の先端には集電子を支持する支持体915を介して集電子保護部916と集電子917が備えられている。
【0005】
集電子917は、銅とセラミック等を混合させた導電性の焼結合金からなり、絶縁部材からなる集電子保護部916で外からの衝撃から保護するため覆われ、支持されている。集電子917には、電源供給線918が接続され、電源供給線918の他端は移動機器内にある負荷に接続されることとなる。
【0006】
この集電子917が、図6に示したような絶縁トロリ900の被摺動面902部分に摺動することによって、電源供給線918を介して図示しない移動機器へと電力を供給する。また、アーム912には引張バネ913が取付けられ、この引張バネ913の引張力により、アーム912が上方向に引っ張られ、集電子917が絶縁トロリ900の被摺動面902部分に押し付けられるようになっている。
【0007】
移動機器への電力の供給は、集電子917と絶縁トロリ900の被摺動面902とが摺動することによって実現されるため、集電子917と絶縁トロリ900の被摺動面902は当然ながら磨耗していく。通常、交換作業効率を考慮して、集電子917の材質は絶縁トロリ900の被摺動面902の材質よりも柔らかい材質を使用し、集電子917の磨耗の方が、絶縁トロリ900の被摺動面902の磨耗よりも大きくなるようにしている。
【0008】
そこで、従来は、特許文献1のような方法が示されている、集電子自体の底面から集電子の使用上の磨耗限界位置まで貫通した穴部を形成し、絶縁電線の先端部の被覆を剥がして導体を露出させた部分に絶縁材料をモールドして磨耗検知部を形成し、その磨耗検知部を上記の穴部に挿入することによって磨耗を検出する装置が開発されている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−235102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の装置では、集電子に磨耗検知部を設けているため、すでに運用中の移動機器を一旦停止させて交換作業をする必要があった。また、磨耗検知装置を移動機器の数量だけ準備しなければならず、交換する際の手間とコストがかかっていた。
【0011】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、すでに運用がされている設備へ簡単に取付けることが可能となり、ひとつの検知装置で、複数の移動機器に設定された集電子の磨耗を検出できる集電子磨耗検出装置および集電子磨耗検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の集電子磨耗検出装置の第1の態様は、集電子と接触する導体と、前記導体上に被せられた絶縁カバーからなる絶縁トロリに配置される集電子磨耗検出装置おいて、前記絶縁カバーの少なくとも一方の側面に設けられた前記集電子の磨耗状態を検出する磨耗状態検出部と、前記磨耗状態検出部と前記導体との距離が一定となるように前記磨耗状態検出部と前記導体との間に配置された連結部とを備え、記磨耗状態検出部は前記集電子が磨耗によって、前記集電子の位置の変位を検出することを特徴とする。
【0013】
この発明の集電子磨耗検出装置の他の態様は、前記磨耗状態検出部は前記絶縁カバーの両側面に設けられたことを特徴とする。
【0014】
この発明の集電子磨耗検出装置の他の態様は、前記連結部は前記絶縁カバーを覆うように配置されていることを特徴とする。
【0015】
この発明の集電子磨耗検出装置の他の態様は、前記集電子を保護するように前記集電子の側面には、一体に組み立てられた集電子保護部が設けられており、前記磨耗状態検出部は、前記集電子保護の位置の変位を検出することを特徴とする。
【0016】
この発明の集電子磨耗検出システムの第1の態様は、集電子磨耗検出装置が配置された前記絶縁トロリの両側に位置補正用ガイドが設けられ、前記集電子の磨耗状態の検出を行う際に、前記位置補正用ガイドにより前記集電子の位置を最適な場所に補正させることを特徴とする。
【0017】
この発明の集電子磨耗検出システムの他の態様は、前記位置補正用ガイドの少なくとも集電子が入ってくる側の端部は外側に向かって細くなっていることを特徴する。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、集電子の磨耗検出装置を、絶縁トロリ側に配置するようにしたため、すでに運用がされている設備へ簡単に取付けることが可能となり、また、一つの磨耗検知装置で、複数の移動機器に設定された集電子の磨耗状態を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態における磨耗検知装置の構成について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0020】
本発明の集電子磨耗検知装置の実施の形態を、図1、2を用いて以下に説明する。また、図1は本実施形態の集電子磨耗検知装置100を絶縁トロリに取り付けた状態の断面図を示したものである。図2は(a)は、本実施形態の集電子磨耗検知装置100を絶縁トロリに取り付けた状態を側面から見たときの構成図を示している。また、図2(b)は、本実施形態の集電子磨耗検知装置100を絶縁トロリに取り付けた状態を上から見たときの構成図を示している。
【0021】
図1のように、集電子111は集電子保護部112により走行方向両側を保護するように覆われており、集電子支持体110に集電子保護部112と共にそれぞれ取り付けられている。この集電子111が絶縁トロリ120の被摺動面121に接触し走行しながら、図示しない移動機器に電力を供給している。
【0022】
集電子磨耗検知装置100は、絶縁トロリ120に接続し固定するための連結部101と、集電子111の磨耗を検出する磨耗検出部102と磨耗検出部102に取り付けれ、集電子保護部112の変位を計測する検出センサ103で構成されている。
【0023】
集電子111が絶縁トロリ120の被摺動面121に接触しながら走行すると、集電子111は磨耗し、集電子111の高さが低くなっていく。集電子111の高さが低くなると、集電子111が取り付けられている集電子支持体110や、集電子支持体110に取り付けられている集電子保護部112は、集電子111の摩擦がない状態と比べて、相対的に位置が変化することになる。具体的には、集電子111の磨耗により、絶縁トロリ120と集電子支持体110もしくは集電子保護部112との間の距離が小さくなる。
【0024】
この集電子支持体110もしくは集電子保護部112の変位を検出センサ103で検出する。検出センサ103は、可動部103aと、可動部103aの先端に取り付けられる接触部103bで構成されている。
【0025】
図1では、この接触部103bは集電子保護部112と接触させるようにしている。集電子111の磨耗による集電子保護部112の変位を、接触部103bを介して可動部103aが上下に動くことにより検出することになる。
【0026】
接触部103bは、走行中に集電子支持体110が走行方向左右に横揺れするので、横揺れに対応した所定の横幅を有するようにすることが好ましい。また、横揺れによる誤検出を防止するため、接触部103bは、ある程度クッション性や弾性力のある樹脂等の材料であることが好ましい。また、可動部103aは、金属など剛性の高い材料とすることが好ましい。このようにすることによって、集電子111の磨耗による集電子保護部112の変位を精度良く検出することが可能となる。
【0027】
集電子111の磨耗に伴う可動部103aの変位により、磨耗検出部102が集電子111の磨耗状態を判断する。磨耗検出部102は可動部103aの変位量と、あらかじめ決められた集電子111の磨耗変位閾値とを比較することによって、集電子111を交換するべきかの判断を行う。
【0028】
集電子111の交換が必要だと判断すると、磨耗検出部102は交換表示部130に信号を送り、交換が必要になったことを表示する。磨耗検出部102から交換表示部130への信号の伝達は、ケーブルなどを用いても良いし、無線で信号を送信することも可能である。
【0029】
磨耗検出部102は、連結部101を介して、絶縁トロリ120に取り付けられる。図1では、磨耗検出部102が強固に絶縁トロリ120に取り付けられるように、連結部101は、絶縁トロリ120の外形形状に対応した連結端部101aを有している。
このように、連結端部101aが絶縁トロリ120の外形形状に対応し接続されることにより、絶縁トロリが振動等により動いた場合でも、磨耗検出部102や検出センサ103と絶縁トロリとの位置関係が常に同じく保たれることとなり、精度良く集電子111の磨耗状態を検出することが可能となる。
【0030】
また、連結端部101aは、絶縁トロリ120の側面に形成されている溝部の形状に対応する構造とすることによって、強固な固定が可能となるので好ましい。さらにいうと、連結端部101aは、絶縁トロリ120の集電子側に形成されている一対の脚部の形状にまで対応する構造とすることによって、より強固な固定が可能となるのでより好ましい。
【0031】
図2(a)、(b)は、集電子磨耗検知装置100を絶縁トロリに取り付けた状態について、絶縁トロリの側面および上面から見た構成図を示している。
図1で説明した集電子磨耗検知装置100は、磨耗検出部102の絶縁トロリ120へのさらなる強固で、かつ柔軟な固定として、連結部101はさらに連結端部101bを有している。連結端部101bは、連結部101から絶縁トロリに沿って伸びており、その先端には別の連結端部101aが形成されている。
【0032】
このように、連結部101に、さらに連結端部101bと連結端部101bの先端に別の連結端部101aを形成することにより、絶縁トロリ120を曲げて敷設している箇所等では、磨耗検出部102の絶縁トロリ120への強固でかつ柔軟な固定を実現することができる。
【0033】
本発明の集電子磨耗検知装置の実施の別の形態を、図3を用いて以下に説明する。集電子磨耗検知装置200の実施形態が図1及び図2の実施形態と異なる点は、磨耗検出部102を絶縁トロリ120の走行方向両側に設けたことである。このようにすることによって、走行中に集電子支持体110が走行方向左右に横揺れした場合でも、両側に設けた磨耗検出部102の検出センサ103の変位量の平均値をとることにより、より精度良く集電子111の磨耗状態を検出することが可能となる。
【0034】
本発明の集電子磨耗検知装置の実施の別の形態を、図4を用いて以下に説明する。集電子磨耗検知装置300の実施形態は、磨耗検出部102aが光センサになっており、磨耗検出部102aから光を集電子111に照射することで、集電子111の変位を検出するものである。磨耗検出部102aからの光の照射角度を変化させることで集電子支持体110が走行中において走行方向左右に横揺れした場合でも集電子111の変位量の変化に柔軟に対応することができるため、より精度良く集電子111の磨耗状態を検出することが可能となる。
【0035】
次に、本発明の磨耗検知システムの実施の形態を、図5(a)、(b)を用いて以下に説明する。図5(a)は絶縁トロリに集電子磨耗検出装置100を配置した磨耗検知システムを上から見た図である。また、図6(b)は、磨耗検知システムの断面図である。
【0036】
図5(a)、(b)は、集電子磨耗検出装置100を配置した絶縁トロリ120の両側に位置補正用ガイド140をさらに配置した構成となっている。位置補正用ガイド140は、集電子支持体110が走行中において走行方向左右に横揺れすることを抑制し、集電子111の磨耗状態の検出を行う際に、位置補正用ガイド140により集電子111の位置を最適な場所に補正させることにより、より精度良く集電子111の磨耗状態を検出することを可能とするものである。
【0037】
さらに、位置補正用ガイド140は、集電子111が入ってくる側の端部141が外側に向かって細くなっていることにより、位置補正用ガイド140により集電子111の位置を最適な場所に補正する際に、集電子支持体110に大きな衝撃を与えることがなくなる。また、集電子111が出て行く側の端部142が外側に向かって細くなっていることにより、集電子111が集電子磨耗検出装置100を通過した後にも、衝撃を与えることがなくなる。
【0038】
以上説明したように本発明によれば、すでに運用がされている設備へ簡単に取付けることが可能となり、ひとつの検知装置で、複数の移動機器に設定された集電子の磨耗を検出できる集電子磨耗検出装置および集電子磨耗検出システムを提供することが可能となる。
【0039】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る集電子磨耗検出装置および集電子磨耗検出システムの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における集電子磨耗検出装置および集電子磨耗検出システム等の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態の集電子磨耗検出装置を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態の集電子磨耗検出装置を示す側面図、および上面図である。
【図3】本発明の別の実施形態の集電子磨耗検出装を示す断面図である。
【図4】本発明の別の実施形態の集電子磨耗検出装を示す断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態の集電子磨耗検出装置を示す上面図および断面である。
【図6】絶縁トロリの断面図である。
【図7】走行体連結部を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
100、200、300 集電子磨耗検出装置
101 連結部
102 磨耗検出部
103 検出センサ
110 集電子支持体
111 集電子
112 集電子保護部
130 交換表示部
140 位置補正用ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電子と接触する導体と、前記導体上に被せられた絶縁カバーからなる絶縁トロリに配置される集電子磨耗検出装置おいて、
前記絶縁カバーの少なくとも一方の側面に設けられた前記集電子の磨耗状態を検出する磨耗状態検出部と、
前記磨耗状態検出部と前記導体との距離が一定となるように前記磨耗状態検出部と前記導体との間に配置された連結部とを備え、
前記磨耗状態検出部は前記集電子が磨耗によって、前記集電子の位置の変位を検出することを特徴とする集電子磨耗検出装置。
【請求項2】
前記磨耗状態検出部は前記絶縁カバーの両側面に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の集電子磨耗検出装置。
【請求項3】
前記連結部は前記絶縁カバーを覆うように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の集電子磨耗検出装置。
【請求項4】
前記集電子を保護するように前記集電子の側面には、一体に組み立てられた集電子保護部が設けられており、前記磨耗状態検出部は、前記集電子保護の位置の変位を検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の集電子磨耗検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の集電子磨耗検出装置が配置された前記絶縁トロリの両側に位置補正用ガイドが設けられ、前記集電子の磨耗状態の検出を行う際に、前記位置補正用ガイドにより前記集電子の位置を最適な場所に補正させることを特徴とする集電子磨耗検出装システム。
【請求項6】
前記位置補正用ガイドの少なくとも集電子が入ってくる側の端部は外側に向かって細くなっていることを特徴する請求項5に記載の集電子磨耗検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−143450(P2010−143450A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323451(P2008−323451)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】