説明

離型剤塗布方法及び離型剤塗布装置

【課題】金型の昇温時間の短縮化と長寿命化を図ることができる離型剤の塗布方法を提供する。
【解決手段】成形面Waの温度が予め設定された目標温度Tまで昇温した定常状態であるか、又は、目標温度Tまで昇温していない初期状態であるかを判断し、初期状態である場合には、外冷特性が異なる複数の離型剤のうち、外冷特性が低い離型剤を成形面Waに塗布し、定常状態である場合には、外冷特性が高い離型剤を成形面Waに塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高速ダイカスト鋳造等において金型の成形面に離型剤を塗布する離型剤塗布方法及び離型剤塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば高速ダイカスト鋳造では、金型の温度が目標温度に到達していない初期状態に金型を加熱して昇温することが行われている。そして、その方法の一つとして、常温の金型内に溶湯を注入して鋳込みを行う、いわゆる捨て打ち鋳造を行い、その鋳造熱を利用して金型を昇温させる方法がある。1回の鋳込みによる熱量は小さいので、捨て打ち鋳造を複数回連続して行い、金型の温度を漸次昇温させて目標温度に到達させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−218355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、捨て打ち鋳造においても金型の成形面には離型剤を塗布しなければならない。従って、鋳込みによって上昇させた成形面の温度が、離型剤によって奪熱されて再び低下してしまう。
【0005】
従来の離型剤は、金型が目標温度まで昇温している通常運転時に、目標温度を保持するように、その外冷特性が設定されている。従って、金型の温度が目標温度よりも低い初期状態においては、外冷特性が過多であり、金型を目標温度まで昇温させるには、より多くの鋳込みを繰り返し行わなければならず、多くの材料が必要とされ、材料費の低減が図れないという問題がある。
【0006】
また、より多くの鋳込みを繰り返し行わなければならないので、捨て打ち鋳造によって金型を目標温度に昇温させるまでに時間がかかり、その分だけ、製品の生産時間が削減されてしまい、生産数の増大を図ることができないという問題もある。
【0007】
また、金型の成形面には、鋳造による加熱と離型剤による奪熱との繰り返しにより、温度変化の振幅が発生するが、初期状態においては外冷特性が過多であり、温度変化の振幅が大きくなり、成形面に比較的大きな熱衝撃が繰り返し発生するおそれがある。従って、成形面の劣化が促進されて金型の寿命が短くなるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金型の昇温時間の短縮化と長寿命化を図ることができる離型剤の塗布方法及び離型剤塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の離型剤塗布方法は、金型の成形面に離型剤を塗布する離型剤塗布方法であって、成形面の温度が予め設定された目標温度まで昇温した定常状態であるか、又は、目標温度まで昇温していない初期状態であるかを判断し、初期状態である場合には、外冷特性が異なる複数の離型剤のうち、外冷特性が低い離型剤を成形面に塗布し、定常状態である場合には、外冷特性が高い離型剤を成形面に塗布することを特徴としている。
【0010】
本発明の離型剤塗布方法によれば、成形面の温度が予め設定された目標温度まで昇温していない初期状態である場合には、外冷特性が低い離型剤を成形面に塗布するので、離型剤による温度の低下量を小さくすることができ、目標温度まで迅速に昇温させることができる。
【0011】
従って、金型昇温時における捨て打ち鋳造の鋳込み数を減らすことができ、捨て打ち鋳造に必要とされる材料量を低減し、必要な材料費を低く抑えることができる。そして、初期状態の時間、換言すると、捨て打ち鋳造によって金型を目標温度まで昇温させる時間を短縮できるので、その分だけ製品の生産時間を長くとることができ、生産数の増大を図ることができる。
【0012】
また、初期状態において、鋳造による加熱と離型剤による奪熱との繰り返しにより金型の成形面に発生する温度変化の振幅を小さくすることができ、熱衝撃の影響を小さくすることができる。従って、成形面の熱衝撃による劣化を抑制し、金型の長寿命化を図ることができる。
【0013】
また、本発明は、好ましくは、外冷特性が低い離型剤には油系離型剤を用い、外冷特性が高い離型剤には水溶性離型剤を用いることができる。
【0014】
また、本発明は、好ましくは、成形面を赤外線サーモグラフィ装置により測定し、その測定結果に基づいて成形面の温度を判断することとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形面の温度が予め設定された目標温度まで昇温していない初期状態である場合には、外冷特性が低い離型剤を成形面に塗布するので、離型剤による温度の低下量を小さくすることができ、目標温度まで迅速に昇温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態における離型剤塗布装置の機能ブロック図。
【図2】離型剤塗布装置のスプレー装置の構成を説明する図。
【図3】本実施の形態における離型剤塗布方法を説明するフローチャート。
【図4】鋳込み数と金型温度の変化の関係を示すグラフ。
【図5】初期状態における鋳込み数と成形面の温度の変化との関係を詳細に示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて以下に詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における離型剤塗布装置の機能ブロック図、図2は、スプレー装置の構成を説明する図である。離型剤塗布装置1は、図1に示すように、金型Wの成形面Waの温度を測定する温度測定装置2と、成形面Waに向かって水や複数種類の離型剤を噴射するスプレー装置3と、温度測定装置2の測定結果に基づいてスプレー装置3を制御する制御装置4を備えている。
【0018】
温度測定装置2は、成形面Waを撮影して成形面Waから放射される赤外線の量に基づいて成形面Waの温度を測定する赤外線サーモグラフィを有している。赤外線サーモグラフィは、成形面Waにおける温度分布を把握することができる。なお、赤外線サーモグラフィについては、既知の構成のものを用いるので、その構成の詳細な説明は省略する。赤外線サーモグラフィにより測定された成形面Waの温度は、制御装置4に入力される。
【0019】
スプレー装置3は、図2に示すように、汎用のハイブリッドスプレー11と、ハイブリッドスプレー11に水や離型剤を供給する供給手段12を有している。ハイブリッドスプレー11は、制御装置4からの制御指令に応じて、水や離型剤の種類を切り替えて選択的に噴射する機能を有している。供給手段12は、貯留タンク13に貯留されている水や離型剤を、ポンプPの駆動により、配管15を介してハイブリッドスプレー11に供給する。
【0020】
貯留タンク13には、水や、外冷特性が互いに異なる複数種類の離型剤がそれぞれ貯留されている。本実施の形態では、外冷特性が低い離型剤には油系離型剤が用いられ、外冷特性が高い離型剤には水溶性離型剤が用いられている。ハイブリッドスプレー11は、図示していない多軸ロボットのロボットアーム先端に取り付けられており、金型Wの成形面Waに対して適切な位置に配置される。
【0021】
制御装置4は、コンピュータ等のハードウエアと、専用のアプリケーションプログラムによって構成されている。制御装置4の入力側には、温度測定装置2が接続され、出力側には、スプレー装置3が接続されている。また、ロボット制御装置5との間で情報の双方向通信ができるように接続されている。
【0022】
制御装置4では、ハードウエアにインストールされたアプリケーションプログラムを起動することにより、以下に示す離型剤塗布方法が実現される。
【0023】
図3は、離型剤の塗布方法を説明するフローチャートである。まず、温度測定装置2によって成形面Waの温度測定が行われ、その測定結果が成形面Waの温度情報として、温度測定装置2から制御装置4に入力される(ステップS1)。そして、その温度情報に基づいて、成形面Waの温度状態が初期状態であるか、又は、定常状態であるかが判断される(ステップS2)。
【0024】
ここでは、成形面Waの温度が目標温度に到達しているか否かが判断され、目標温度Tに到達していない場合には、常温から目標温度Tに向かって昇温途中の初期状態であると判断され、目標温度に到達している場合には、目標温度Tに到達した定常状態であると判断される。
【0025】
そして、初期状態であると判断された場合には(ステップS2でYES)、外冷特性が異なる複数の離型剤のうち、外冷特性が低い油系離型剤が選択される(ステップS3)。また、定常状態であると判断した場合には(ステップS2でNO)、外冷特性が高い水溶性離型剤、或いは水が選択される(ステップS4)。そして、選択された離型剤等をハイブリッドスプレー11から成形面Waに塗布すべく、スプレー装置3が制御される(ステップS5)。
【0026】
図4は、鋳込み数と成形面の温度の変化との関係を示すグラフである。成形面Waの温度は、図4に示すように、常温から捨て打ち鋳造を開始した場合に、金型温度の上昇率が急激に増加し、その後、捨て打ち鋳造の回数の増加に応じて上昇率が減少し、最も安定した温度である目標温度Tに到達する。この打ち込み鋳造の開始から目標温度Tに到達するまでが初期状態であり、目標温度Tに到達した後が定常状態である。
【0027】
図5は、初期状態における鋳込み数と成形面の温度の変化との関係を詳細に示すグラフであり、図5に示す実線が本発明の離型剤塗布方法によるもの、図5に示す破線が従来の離型剤塗布方法によるものである。
【0028】
本実施の形態における離型剤塗布方法よれば、初期状態では、外冷特性が低い離型剤を用いるので、離型剤の塗布による成形面Waの温度低下の幅を小さくすることができ、捨て打ち鋳込みの鋳込み数Aで目標温度Tに到達させることができる。そして、定常状態では、外冷特性が高い離型剤を用いるので、成形面Waの温度を目標温度Tに調整することができる。
【0029】
一方、従来は、定常状態において成形面Waの温度を目標温度Tに調整する離型剤のみ、すなわち、外冷特性が高い離型剤のみを用いているので、初期状態においては、離型剤の塗布による成形面Waの温度低下の幅が過大になり、目標温度Tに到達するまでに、捨て打ち鋳込みの鋳込み数Bを要していた(鋳込み数A<鋳込み数B)。
【0030】
本実施の形態における離型剤塗布方法によれば、初期状態では外冷特性が低い離型剤を用いるので、成形面Waの温度を目標温度Tまで迅速に昇温させることができる。従って、従来と比較して、捨て打ち鋳造の鋳込み数を減らすことができ、捨て打ち鋳造に必要とされる材料量を低減し、必要な材料費を低く抑えることができる。そして、初期状態の時間を短縮でき、その分だけ製品の生産時間を長くとることが可能となり、生産数の増大を図ることができる。
【0031】
また、初期状態において、鋳造による加熱と離型剤による奪熱との繰り返しにより金型Wの成形面Waに発生する温度変化の振幅を小さくすることができ、成形面Waに対する熱衝撃の影響を小さくすることができる。従って、成形面Waの劣化を抑制し、金型Wの長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 離型剤塗布装置
2 温度測定装置
3 スプレー装置
4 制御装置
5 ロボット制御装置
W 金型
Wa 成形面
T 目標温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の成形面に離型剤を塗布する離型剤塗布方法であって、
成形面の温度が予め設定された目標温度まで昇温した定常状態であるか、又は、前記目標温度まで昇温していない初期状態であるかを判断し、
初期状態である場合には、外冷特性が異なる複数の離型剤のうち、外冷特性が低い離型剤を成形面に塗布し、
定常状態である場合には、外冷特性が高い離型剤を成形面に塗布することを特徴とする離型剤塗布方法。
【請求項2】
前記外冷特性が低い離型剤には油系離型剤を用い、
前記外冷特性が高い離型剤には水溶性離型剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の離型剤塗布方法。
【請求項3】
前記成形面を赤外線サーモグラフィにより測定し、該測定結果に基づいて前記成形面の温度を判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の離型剤塗布方法。
【請求項4】
金型の成形面に離型剤を塗布する離型剤塗布装置であって、
前記成形面の温度を測定する温度測定装置と、
外冷特性が異なる複数の離型剤のうち、少なくとも一つを選択して塗布するスプレー装置と、
前記温度測定装置の測定結果に応じて、成形面の温度が予め設定された目標温度まで昇温した定常状態であるか、又は、前記目標温度まで昇温していない初期状態であるかを判断し、初期状態である場合には外冷特性が低い離型剤を成形面に塗布し、定常状態である場合には外冷特性が高い離型剤を成形面に塗布するように前記スプレー装置を制御する制御装置と、
を有することを特徴とする離型剤塗布装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−79017(P2011−79017A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233468(P2009−233468)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】