説明

難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線・ケーブル

【課題】 金属水和物からなる難燃剤の添加量を少なくしてもノンハロゲンの難燃性を有すると共に、特に耐傷付き白化や耐曲げ白化および耐磨耗性等に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供すること。また、その難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を導体上に被覆することによって、ISO規格6722の45°傾斜燃焼試験に合格する難燃性と、絶縁体層が薄肉化されても十分な耐磨耗性を有する絶縁電線・ケーブルを提供することにある。
【解決手段】 ポリプロピレン50〜80質量%、低密度ポリエチレン10〜40質量%、酸変性ポリプロピレン10〜20質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、有機化処理クレイ1〜5質量部および金属水和物50〜100質量部を溶融混練した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物することによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲンの難燃性と耐磨耗性に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物、並びにそれを用いた難燃性と耐磨耗性を有する絶縁電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種成型品の絶縁材料として、ポリ塩化ビニル樹脂組成物(以下PVC樹脂組成物)が用いられているが、PVC樹脂組成物は難燃性や電気絶縁性に優れているが、燃焼時に腐食性の塩化水素ガスを発生し、またダイオキシン等の有害ガスを発生することから焼却処分に問題があり、また廃棄処分に於いては安定剤として添加する鉛系化合物が問題となっている。このため、ポリオレフィン系樹脂組成物が注目されている。そして、この樹脂組成物に難燃性を付与するために、有機ハロゲン化合物等の難燃剤と三酸化アンチモン等の難燃助剤を組み合わせることが行われているが、燃焼時に火垂れが生じたり発煙量が多く、また有害ガスの発生の問題や金属を腐食する等の問題点が指摘されていた。また、このような問題がない難燃剤として、多量の水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の金属水和物を添加することが行われている。しかし、金属水和物を多量に添加すると、得られた難燃性樹脂組成物の機械的特性の低下等が生じると共に、成型品どうしが擦りあわされたり、曲げられたり、また硬い材料等と接触したりして製品表面に白化現象が生じる。特に絶縁電線などに於いては、傷付き白化と称する白化現象が生じ、この白化現象は絶縁電線の外観が損なわれるのみならず、耐アーク性や絶縁特性等が低下することにもなる。このため、難燃性と耐磨耗性を有するポリオレフィン系の樹脂組成物が要望されている。
【0003】
このような技術に関して、特許文献1が知られている。すなわち、難燃化に必要十分量の難燃剤を配合しても機械的強度、耐磨耗性等の特性を満足することができる難燃性耐磨耗性樹脂組成物として、ポリマー成分としてのプロピレン−エチレンブロックコポリマー及びエチレン・酢酸ビニルコポリマー、並びに金属水酸化物を含有する難燃性樹脂組成物であって、前記ポリマー成分におけるプロピレン−エチレンブロックコポリマーの含有率が90〜45重量%で、前記エチレン・酢酸ビニルコポリマーの含有率が10〜55重量%であり、且つ前記ポリマー成分100重量部に対して、前記金属水酸化物30〜300重量部を含有することが記載されている。しかしながら、この難燃性樹脂組成物に於いても、電線・ケーブルの絶縁体層の薄肉化や耐磨耗性の要求に対しては、今だ十分とは言えなかった。
【特許文献1】特開2000−86858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって本発明が解決しようとする課題は、金属水和物からなる難燃剤の添加量を少なくしてもノンハロゲンの難燃性を有すると共に、耐磨耗性等に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供すること。また、金属水和物からなる難燃剤の添加量を少なくしてもノンハロゲンの難燃性を有すると共に、特に耐傷付き白化や耐曲げ白化および耐磨耗性等に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供すること。さらに、その難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を導体上に被覆することによって、ISO規格6722の45°傾斜燃焼試験に合格する難燃性と、絶縁体層が薄肉化されても十分な耐磨耗性を有する絶縁電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載されるように、ポリプロピレン50〜80質量%、低密度ポリエチレン10〜40質量%、酸変性ポリプロピレン10〜20質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、有機化処理クレイ1〜5質量部および金属水和物50〜100質量部を溶融混練した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物することによって、解決される。また請求項2に記載されるように、前記溶融混練を、1×10〜1×10dyne/cmのせん断力で行なった請求項1に記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物とすることによって、解決される。
【0006】
さらに請求項3に記載されるように、前記有機化処理クレイは、1000℃における強熱減量(JIS規格A6201に準拠)が35%質量以上である請求項1または3に記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物とすることによって、解決される。
【0007】
そして請求項4に記載されるように、請求項1〜3のいずれかに記載する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を導体上に被覆した、難燃性と耐磨耗性に優れた絶縁電線・ケーブルとすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0008】
以上の本発明は、ポリプロピレン(以下PP)50〜80質量%、低密度ポリエチレン(以下LDPE)10〜40質量%、酸変性ポリプロピレン(以下酸変性PP)10〜20質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、有機化処理クレイ1〜5質量部および金属水和物50〜100質量部を溶融混練した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物としたので、金属水和物からなる難燃剤の添加量を少なくしてもノンハロゲンの難燃性を有すると共に、特に耐傷付き白化や耐曲げ白化および耐磨耗性等に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物が得られる。また、前記難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物の溶融混練を1×10〜1×10dyne/cmのせん断力で行なうことによって、有機化クレイの分散を十分に行なうことができ、金属水和物からなる難燃剤の添加量を少なくしても、より優れたノンハロゲンの高難燃性を付与することができると共に前述の特性を有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物が得られる。
【0009】
さらに前記有機化処理クレイとして、1000℃における強熱減量(JIS規格A6201に準拠)が35質量%以上の有機化処理されたクレイを用いたので、ポリオレフィン系樹脂に対しての分散性が良好となり、高難燃性が得られると共に前述の特性を有するものである。
【0010】
そして、前記難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を導体上に被覆した絶縁電線・ケーブルは、ISO規格6722の45°傾斜燃焼試験に合格する難燃性と、絶縁体層を薄肉化しても十分な耐磨耗性を有する絶縁電線・ケーブルが得られる。特に自動車用の絶縁電線・ケーブルとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1に記載される発明は、PP50〜80質量%、LDPE10〜40質量%、酸変性PP10〜20質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、有機化処理クレイ1〜5質量部および金属水和物50〜100質量部を溶融混練した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物であり、射出成型、押出し成型、回転成型、圧縮成型等によって、難燃性と耐磨耗性に優れた例えば、絶縁電線・ケーブルをはじめ、電線・ケーブルの付属品、各種シート類、各種ホース類、建築内装材、家具材料部品、玩具材料部品等とすることができる。特に難燃性と耐磨耗性に優れた自動車用の絶縁電線・ケーブルとして有用である。
【0012】
まず、ベース樹脂となるポリオレフィン系樹脂について説明する。本発明で使用されるポリオレフィン系樹脂としては、PP、LDPEおよび酸変性PPからなり、PPとしてはPPのホモポリマーが使用される。またLDPEとしては、密度が0.91〜0.94g/cm程度の低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が、さらに、無水マレイン酸等のカルボン酸をグラフトした酸変性PPが、それぞれの配合量範囲で混合等してベース樹脂とする。そして、このベース樹脂を100質量部として、水酸化マグネシウムや有機化処理クレイが必要量配合され、溶融混練して難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物となる。なお、好ましいLDPEとしては、宇部興産社のUBE C150等が、酸変性ポリオレフィンとしては、三井化学社製のER320P等が挙げられる。
【0013】
そして、前記ベース樹脂となるポリオレフィン系樹脂は、PP50〜80質量%、LDPE10〜40質量%、酸変性PP10〜20質量%の配合組成とすることによって、水酸化マグネシウム等の金属水和物からなる難燃剤の添加量を少なくしても、ノンハロゲンの難燃性を有し、電気的特性や機械的特性を維持しながら耐磨耗性を付与した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物とすることができる。すなわち、PPの配合量を50〜80質量%とするのは、PPの配合量が50質量%未満であると破断伸びが低下し、80質量%を超えると硬くなり過ぎるためである。また、LDPEを10〜40質量%とするのは、その配合量が10質量%未満であると難燃性が不十分であり、40質量%を超えると破断伸びが低下する。さらに、酸変性PPを10〜20質量%とするのは、10質量%未満であると有機化処理クレイの分散性が不十分となって、目的とする特性が得られず、また20質量%を超えると、絶縁電線・ケーブルとしたときに導体との密着力が強くなり過ぎて、口出し作業等の作業性が悪くなる可能性があるためである。
【0014】
そして、前述のポリオレフィン系樹脂には、有機化処理クレイおよび金属水和物が配合され、難燃性と耐磨耗性に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物となる。まず、難燃助剤として添加される有機化処理クレイ(層間修飾クレイとも称される)について説明する。有機化処理クレイは、クレイ層間に含まれる金属イオンを有機カチオンと交換(インターカレーション)させることによって、クレイの層間を広げると共にポリオレフィン系樹脂との相溶性を高めたものである。より詳細には、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のクレイを、例えばアルキルアンモニウム塩やフェニルアルキルアンモニウム塩等のアンモニウムイオン、トリアルキルスルホニウム塩等のスルホニウムイオンである有機カチオンによってインターカレーションしたものである。具体的には、Nanomer(NANOCOR社製)、ズードケミー触媒社製の商品名であるナノフィル等が知られている。そして、この有機化処理クレイはポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、1〜5質量部配合される。これは、有機化処理クレイの配合量が1質量部未満であると、難燃助剤としての効果がなく目的とする難燃性が得られず、また5質量部を超えて配合されると分散性が悪くなり、難燃性の向上が見られなくなるだけでなく、耐磨耗性が低下するためである。
【0015】
つぎに、前述の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を得るためのより好ましい溶融混練条件について説明する。すなわち請求項2に記載されるように、請求項1に記載される組成の混合物を、1×10〜1×10dyne/cmのせん断力で溶融混合するものである。このように1×10〜1×10dyne/cmのせん断力で溶融混合することによって、有機化処理クレイ(層間修飾クレイとも称される)を十分に分散させることができ、金属水和物からなる難燃剤の添加量を少なくしてもよりノンハロゲンで高難燃性を有すると共に、優れた耐磨耗性を有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物とすることができる。難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を溶融混合させる場合、1×10dyne/cm未満のせん断力であると、分散が不十分となって目的とする特性が得られず、また1×10dyne/cmを超えるせん断力とすると、樹脂の分解が生じ特性が大きく低下するので、1×10〜1×10dyne/cmの範囲のせん断力で溶融混合するのが良い。このようにして得られた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、射出成型、押出し成型、回転成型、圧縮成型等によって、難燃性や耐磨耗性により優れた、例えば絶縁電線・ケーブルをはじめ、電線・ケーブルの付属品、各種シート類、各種ホース類、建築内装材、家具材料部品、玩具材料部品等とすることができる。特に自動車用の絶縁電線・ケーブルとして有用である。
【0016】
なお前記有機化処理クレイは、請求項3に記載するように、1000℃における強熱減量(JIS規格A6201に準拠)が35%以上の有機化処理されたクレイであることが好ましい。すなわち、クレイに対してインターカレーションした有機カチオンの含有量が35%以上のものである。具体的には、試料1gを975±25℃で15分間加熱したときの減量分として測定される。このような有機化処理クレイを用いることによって、ポリオレフィン系樹脂中に有機化処理クレイを良好に分散させることができ、この結果、金属水和物の配合量を低減しても難燃性を十分維持させることができると共に、特に耐傷付き白化や耐曲げ白化および耐磨耗性等に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物が得られる。
【0017】
そして、難燃剤として配合する金属水和物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が使用される。最もよく用いられる水酸化マグネシウムについて述べる。水酸化マグネシウムは、高温に曝されると水を放出してその気化熱により自消性を発現し、しかもこの難燃剤はノンハロゲンであるから燃焼時に有害なハロゲンガスを生じることがなく、また押出し加工性も好ましいものである。その特性は特に制限されるものではないが、平均粒径が0.5〜1.5μm程度でBET法により測定した比表面積が1〜20m/g程度のものが好ましい。このような特性を有する水酸化マグネシウムは、分散性がより良好なものとなり難燃性の効果が得られ易くなる。また、ポリオレフィン系樹脂との混練に際しての分散性をより良好にするために、ステアリン酸等の高級脂肪酸やシランカップリング剤によって表面処理を施すのが好ましい。表面処理された具体的な商品としては、協和化学工業社のキスマ5A、キスマ5L、キスマ5P、タテホ化学社のファインマグなどが挙げられる。そして前記金属水和物の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して50〜100質量部とされる。これは、金属水和物の配合量が50質量部未満であると、有機化処理クレイと併用しても目的とするISO規格6722の45°傾斜燃焼試験に合格する難燃性が得られず、また100質量部を超えると破断強度や破断伸び等の機械的特性が悪くなり、また耐磨耗性も悪くなるためである。
【0018】
以上の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、前述した各成分をバンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機、ブスコニーダー、ヘンシェルミキサー、ロールニーダー等を用いて溶融混練して得ることができる。その際、1×10〜1×10dyne/cmの範囲のせん断力で溶融混合するのが好ましい。特に二軸押出機は、大きなせん断力が得られるので好ましい。また、安定剤、酸化防止剤、充填剤、架橋剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、銅害劣化防止剤、成型性向上のための滑剤や加工性改良剤、着色剤等を必要量添加しても良い。このようにして得られた難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、射出成型、押出し成型、回転成型、圧縮成型等によって各種の成型品とすることができる。特に押出し成型によって、耐磨耗性と難燃性に優れた絶縁電線・ケーブルが製造される。この絶縁電線・ケーブルは、特に耐磨耗性と難燃性が要求される自動車用の絶縁電線・ケーブルとして有用である。
【0019】
つぎに、前記絶縁電線・ケーブルについて述べる。すなわち請求項4に記載されるように、前述した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を導体上に被覆することによって、ノンハロゲンであって、ISO規格6722の45°傾斜燃焼試験に合格する難燃性や、必要な電気的特性、機械的特性を有し、特に絶縁体層を薄肉化しても耐磨耗性に優れた絶縁電線・ケーブルとすることができる。具体的には、ISO規格6722のブレード往復法に合格する耐磨耗性を有する。前記絶縁電線・ケーブルは、例えば導体径が0.5〜1.0mmΦ程度の銅導体上に、厚さ0.2〜0.5mm程度に押出し被覆することによって得られる。このような薄肉化の絶縁体層とするのは、使用される絶縁電線・ケーブルが軽量化および細径化されるためである。また、得られた絶縁電線・ケーブルは、機械的特性が破断強度として10MPa以上、破断伸びが125%以上のものである。これらの絶縁電線・ケーブルは、焼却した場合にも有害なハロゲンガスやダイオキシン等を発生しないので、環境問題も少ない。またその用途としては、電子機器等に使用する絶縁電線・ケーブルとして使用することができ、特に、薄肉の絶縁層で耐磨耗性を要求される自動車用の絶縁電線・ケーブルとして好ましいものである。
【実施例】
【0020】
実施例並びに比較例によって、本発明の効果を示した。表1に記載した難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を、30mmΦ、L/D=45の二軸押出機を用いて混練してコンパウンドを作製した。そして、導体径1.0mmの軟銅導体上に0.2mm厚さに押出し被覆して絶縁電線とした。これを試料として用いた。なお、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物の各成分としては、PPとして三井化学社のE111Gを、またLDPEとして、宇部興産社のUBE C150、酸変性プロピレンとしては、三菱化学社のER320Pを、また有機化処理クレイとして、アルキルアンモニウムでインターカレーションしたナノフィル948(ズードケミー触媒社)、水酸化マグネシウムとしては、キスマ5P(協和化学工業社)を使用した。
【0021】
前記の試料について、以下の試験を行なった。耐磨耗性についてISO規格6722のブレード往復法によって測定した。ニードル径φ0.45、荷重720gで、150回以上を合格として○印で、150回未満を×印として記載した。また難燃性については、ISO規格6722の45°傾斜燃焼試験によるもので、5本の試料についての合格数として記載した。さらに、JIS規格C3005に従って、破断強度並びに破断伸びを測定した。破断強度は10MPa以上、破断伸びは125%以上のものを合格として○印で記載した。不合格の場合は、×印で示した。結果を表1に記載した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなとおり、実施例1〜8に記載される本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を用いた絶縁電線は、耐磨耗性、難燃性並びに破断伸び、破断強度に合格するものであった。すなわち、PP50〜80質量%、LDPE10〜40質量%、酸変性ポリオレフィン10〜20質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、金属水和物50〜100質量部および有機化処理クレイ1〜5質量部を含有してなる難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を、導体上に被覆した絶縁電線・ケーブルは、耐磨耗性に関してISO規格6722のブレード往復法における、ニードル径φ0.45、荷重720gで150回以上に耐えるものであり、また難燃性については、ISO規格6722の45°傾斜燃焼試験に於いて、5本の試料について全て合格するものであった。さらに、破断強度並びに破断伸びについても、破断強度は10MPa以上、破断伸びは125%以上と優れたものであった。
【0024】
これに対して、本発明範囲を外れる比較例1〜7は、前記試験項目のいずれかが不合格となった。すなわち、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物中に酸変性PPを添加しないと、比較例1のように難燃性が不合格となる。また、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物中のPPが90質量%と多く、LDPEが含まれない場合は、比較例3に示すように難燃性が不合格となる。さらに、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物中のPPが40質量%と少ない場合には、比較例4に見られるように破断伸びが不合格となる。また、比較例7のように水酸化マグネシウムの添加量が本発明の下限値以下であると、難燃性が全く得られず試験本数全てが不合格となった。さらに、比較例8のように水酸化マグネシウムの添加量が本発明の上限値を超えると、耐磨耗性と破断伸びが不合格となる。また、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物中に有機化処理クレイを多量に添加すると、比較例6に示されるように耐磨耗性が不合格となる。なお、有機化処理クレイを配合しない場合には、比較例5に示すように水酸化マグネシウムが本発明の範囲内であっても、難燃性に問題が生じて好ましくない。
【0025】
つぎに表2に記載した実験例によって、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を得るためのより好ましい溶融混練条件について確認した。難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物としては、PP(63質量%)、LDPE(27質量%)、酸変性PP(10質量%)からなるベースポリマー100質量部に、有機化処理クレイ5質量部、水酸化マグネシウム70質量部の樹脂組成物を使用した。また実験は、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物の溶融混練時のせん断力を種々変えて行なった。得られた絶縁電線について、耐磨耗性、難燃性並びに破断伸び、破断強度を表1で説明したのと同様に測定して評価した。結果を表2に記載した。
【0026】
【表2】

【0027】
表2の実験例から明らかなように、PP50〜80質量%、LDPE10〜40質量%、酸変性PP10〜20質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、有機化処理クレイ1〜5質量部および金属水和物50〜100質量部を添加した混合物を、1×10〜1×10dyne/cmのせん断力で溶融混合して得た難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を、導体上に被覆した絶縁電線・ケーブルは、実験例2〜6に示すようにノンハロゲンで優れた難燃性を有し、また耐磨耗性に優れ、さらに破断伸び、破断強度に合格するものであった。すなわち、前記組成の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を1×10〜1×10dyne/cmのせん断力で溶融混合して得た難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を用いることによって、難燃性がISO規格6722の45°傾斜燃焼試験に於いて、5本の試料の全てが合格するものであった。また水酸化マグネシウムの添加量も100質量部までで十分であるから、破断強度や破断伸び等も優れたものとなる。さらに耐磨耗性に関しては、ISO規格6722のブレード往復法における、ニードル径φ0.45、荷重720gで150回以上に耐えるものである。また、破断強度が10MPa以上、破断伸びは125%以上と機械的特性に優れたものであった。
【0028】
これに対して本発明の範囲を外れると、難燃性が不合格となる。すなわち、実験例1のように溶融混練時のせん断力が5×10dyne/cmと小さい場合には、有機化クレイが十分に分散されないため難燃性(2/5)が不合格となった。また実験例7に示すとおり、溶融混練時のせん断力が5×10dyne/cmと大きくなると、樹脂の分解により低分子量成分が多くなるために、難燃性(3/5)が不合格となる。このため溶融混練時のせん断力は、1×10〜1×10dyne/cmの範囲で行なうことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上の本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を用いることによって、ノンハロゲンの難燃性と耐磨耗性に優れた絶縁電線・ケーブルとなり、また薄肉の絶縁体層としても前記の特性を有するので、特に自動車用の絶縁電線・ケーブルとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン50〜80質量%、低密度ポリエチレン10〜40質量%、酸変性ポリプロピレン10〜20質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、有機化処理クレイ1〜5質量部および金属水和物50〜100質量部を溶融混練したことを特徴とする難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記溶融混練を、1×10〜1×10dyne/cmのせん断力で行なったことを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機化処理クレイは、1000℃における強熱減量(JIS規格A6201に準拠)が35%質量以上であることを特徴する請求項1または2に記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を導体上に被覆した、難燃性と耐磨耗性に優れたことを特徴とする絶縁電線・ケーブル。

【公開番号】特開2006−265507(P2006−265507A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118637(P2005−118637)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】