説明

難燃性ポリカーボネート樹脂組成物

【構成】(A)ポリカーボネート樹脂80〜99.9重量%及び(B)テルペン樹脂0.1〜20重量%を100重量部となるように含有し、更に(C)有機金属塩化合物0.01〜2重量部、(D)繊維形成型の含フッ素ポリマー0.05〜5重量部、(E)リン系および/またはフェノール系熱安定剤0.01〜2重量部及び(F)無機充填材0〜50重量部を配合してなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【効果】 本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、優れた難燃性を示し、変色や発生するガスによる金型汚染を低減することができるため成形加工時の作業性にも優れている。さらに、生産性に優れるため、種々の大型若しくは薄肉成形品や各種難燃性工業部品材料として好適に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性のポリカーボネート樹脂組成物に関し、より詳細には、テルペン樹脂、有機金属塩化合物、繊維形成型の含フッ素ポリマー及びリン系および/またはフェノール系熱安定剤並びに任意に無機充填材を特定量配合することにより、ハロゲンやリンを含有する従来の難燃剤を使用することなく優れた難燃性を示し、さらに、含有するテルペン樹脂を少量にすることで成形加工時の変色や、発生するガスが少ない成型加工性に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気・電子・OA、機械、自動車、建材等の分野で広く使用されている。このうち電気・電子・OAの分野では、パーソナルコンピュータ外装部品のように高度な難燃性(UL94V)や耐衝撃性を要求される部品が少なくない。ポリカーボネート樹脂は、自己消火性を備えた難燃性の高いプラスチック材料ではあるが、電気・電子・OA分野では安全上の要求を満たすため、UL94V−0やV−1相当の一層高い難燃性が求められている。
そこでポリカーボネート樹脂の難燃性を向上するために、従来、難燃剤としてハロゲン系化合物やリン系化合物を配合する方法が採用されている。
これらの中で特に臭素や塩素等のハロゲン系化合物については、環境面からこれらを含有しない難燃剤の使用が望まれている。
【0003】
一方、難燃性のポリカーボネート樹脂にテルペン樹脂を用いることは行われているが(特許文献3及び4)、これらにおいてテルペン樹脂は難燃効果をもたらすものとしては用いられておらず、リン系化合物等の難燃剤を配合して難燃性を達成するものであった。
また、テルペン樹脂を難燃剤として用いた場合(特許文献5)においても、優れた難燃性は得られるものの高温で成形加工を行う際の変色や、発生するガスによる金型汚染などの問題が残っていた。
【0004】
【特許文献1】特開平7−179742号公報
【特許文献2】特開平9−95610号公報
【特許文献3】特開2000−63651号公報
【特許文献4】特開2003−160724号公報
【特許文献5】特開2004−206712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、変色や発生するガスによる金型汚染を低減することにより成形加工時の作業性にも極めて優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。更に、成型加工時の変色や、発生するガスが少なく、生産性に優れるため、種々の大型若しくは薄肉成形品や各種難燃性工業部品材料として適している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂に対し、テルペン樹脂、有機金属塩化合物及び繊維形成型の含フッ素ポリマー、リン系および/またはフェノール系である熱安定剤及び無機充填材を特定量配合することにより、少量のテルペン樹脂であっても優れた難燃性難燃性を示し、変色や発生するガスによる金型汚染を低減することにより成形加工時の作業性にも優れるという相乗効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、(A)ポリカーボネート樹脂80〜99.9重量%及び(B)テルペン樹脂0.1〜20重量%を100重量部となるように含有し、更に(C)有機金属塩化合物0.01〜2重量部、(D)繊維形成型の含フッ素ポリマー0.05〜5重量部、(E)リン系および/またはフェノール系熱安定剤0.01〜2重量部及び(F)無機充填材0〜50重量部を配合してなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、優れた難燃性を示し、変色や発生するガスによる金型汚染を低減することができるため成形加工時の作業性にも優れている。さらに、生産性に優れるため、種々の大型若しくは薄肉成形品や各種難燃性工業部品材料として好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に使用される(A)ポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0009】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0010】
これらは、単独又は2種類以上混合して使用されるが、ハロゲンで置換されていない方が燃焼時に懸念される当該ハロゲンを含むガスの環境への排出防止の面から好ましい。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0011】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。
3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0012】
(A)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは17000〜28000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0013】
本発明の(B)テルペン樹脂には、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂、水添リモネン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂などが含まれる。
テルペン樹脂はテルペン化合物を原料として得られ、テルペン化合物は、一般にモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン等のイソプレンの重合体を基本骨格とする化合物である。テルペン化合物として、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等、好ましくはα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンが挙げられる。
【0014】
テルペン樹脂は、これらテルペン化合物をフリーデルクラフト触媒のもとで、カチオン重合したものである。原料としてテルペン化合物単独のほか、テルペン化合物と芳香族化合物(重合化合物を芳香族変性テルペン樹脂という。)、テルペン化合物とフェノール系化合物(重合化合物をフェノール変性テルペン樹脂という。)を使用してもよい。芳香族化合物として、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられ、フェノール系化合物として、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。また、得られた上記テルペン樹脂を水素添加処理したものを使用してもよい。またテルペン樹脂として、テルペン化合物と環状ポリオレフィン、非環式モノ不飽和オレフィン等の成分を併用したものを使用してもよい。
【0015】
このようなテルペン樹脂として、例えば、ヤスハラケミカル(株)より”YSレジンPX”(テルペン樹脂)、”YSレジンTO”(芳香族変性テルペン樹脂)、”YSレジンTR”(芳香族変性テルペン樹脂)、”クリアロン”(水添テルペン樹脂)、”YSポリスター”(フェノール変性テルペン樹脂)、”マイティエース”(フェノール変性テルペン樹脂)などの商品名で市販されているものが挙げられる。
【0016】
(B)テルペン樹脂の配合量は、(A)及び(B)からなる樹脂成分を基準として、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。0.1重量%未満であると、相乗効果が得られにくいため十分な難燃性を示さないので好ましくない。また、20重量%を越えると難燃性は更に向上するが、変色を起こしたり、ガスの発生が増加するため好ましくない。
【0017】
本発明の(C)有機金属塩化合物としては、芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩があげられる。金属の種類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。好適には、4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルフォニル−ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3−3′−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩等が使用できる。
【0018】
(C)有機金属塩化合物の配合量は、(A)及び(B)からなる樹脂成分100重量部に対し、0.01〜2重量部、好ましくは0.03〜1重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部である。配合量が0.01重量部未満では、相乗効果が得られにくいため難燃性が低下するので好ましくない。また、2重量部を超えると、衝撃強度や難燃性が得られなかったり、表面外観が悪化したりするといった問題が発生するので好ましくない。
【0019】
本発明にて使用される、(D)繊維形成型の含フッ素ポリマーとしては、(A)及び(B)からなる樹脂成分中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成するものがよく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。とりわけ、分子量1000000以上で二次粒子径100μm以上のフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好適に使用される。
【0020】
(D)繊維形成型の含フッ素ポリマーの配合量は、(A)及び(B)からなる樹脂成分100重量部に対し、0.05〜5重量部である。配合量が0.05重量部未満では、相乗効果が得られにくく、かつ燃焼時のドリッピング防止効果に劣るので好ましくない。また、5重量部を超えると造粒が困難となることから安定生産に支障をきたすので好ましくない。この配合量は、好ましくは、0.1〜1重量部、より好ましくは0.2〜0.5重量部の範囲である。この範囲では、難燃性、成形性のバランスが一層良好となる。
【0021】
本発明にて使用される(E)熱安定剤としては、りん系および/またはフェノール系熱安定剤が挙げられる。
リン系熱安定剤としては、下記一般式(1)で表わされるアリルフォスフォネート及び下記一般式(2)で表わされるアリルフォスファイトのうち1種又は2種からなるものが挙げられる。
一般式(1)
【0022】
【化1】

(一般式(1)において、R1〜4は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基。)
一般式(2)
【0023】
【化2】

(一般式(2)において、R5〜R6は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基。)
【0024】
また、フェノール系熱安定剤としては下記一般式(3)を有するものが挙げられる。
一般式(3)
【0025】
【化3】

(一般式(3)において、R1及びR2は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基。)
【0026】
上記、構造式を有するフェノール系安定剤としては、R1およびR2にt−ブチル基を有する下記一般式(4)を好適に用いることができる。
一般式(4)
【0027】
【化4】

【0028】
(E)熱安定剤の配合量は、(A)及び(B)からなる樹脂成分100重量部に対し、0.01〜2重量部である。配合量が0.01重量部未満では、熱安定性劣るので好ましくない。また、2重量部を超えると発生ガス量が増加するため好ましくない。この配合量は、好ましくは、0.03〜1重量部、より好ましくは0.04〜0.2重量部の範囲である。この範囲では、難燃性が一層良好となる。
【0029】
(A)ポリカーボネート樹脂に対し、上記の(B)テルペン樹脂、(C)有機金属塩化合物、(D)繊維形成型の含フッ素ポリマー、(E)りん系および/またはフェノール系熱安定剤をそれぞれ単独で配合するのみでは、十分な難燃性を示さない。すなわち、(A)ポリカーボネート樹脂に対し、(B)テルペン樹脂、(C)有機金属塩化合物及び(D)繊維形成型の含フッ素ポリマー、(E)りん系および/またはフェノール系熱安定剤を配合することにより相乗的効果が得られ、ドリッピングを生じない自己消火性で、かつ造粒加工時の作業性や表面外観に優れ、さらに発生するガスが少なく変色も少ない難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供できるものである。
【0030】
加えて、(F)無機充填材を添加すると、成型品燃焼時の形状保持性が著しく高くなり、さらに薄肉での難燃性に優れる。
(F)無機充填材としては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク粉、クレー粉、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、ワラストナイト粉、シリカ粉等が挙げられる。
(F)無機充填材の配合量は、(A)及び(B)からなる樹脂成分100重量部に対し、0〜50重量部である。無機充填材を50重量部以下で添加した場合薄肉成型体の燃焼時の形状保持性が著しく高くなり、難燃性が向上する。50重量部を超えると造粒時にポリカーボネート樹脂の分子量低下を引き起こし安定生産に支障をきたすので好ましくない。この配合量は、好ましくは2〜20重量部、より好ましくは3〜15重量部の範囲である。この範囲では、造粒加工性、難燃性、成形性のバランスが一層良好となる。
【0031】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光増白剤、離型剤、軟化材、帯電防止剤、等の添加剤、衝撃性改良材、他のポリマーを配合してもよい。
熱安定剤としては、例えば硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素リチウム等の硫酸水素金属塩及び硫酸アルミニウム等の硫酸金属塩等が挙げられる。
【0032】
本発明の難燃性樹脂組成物中の各種配合成分の混合方法には、特に制限はなく、公知の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー等による混合や押出機による溶融混練が挙げられる。
【0033】
本発明の難燃性樹脂組成物を成形する方法としては、特に制限はなく、公知の射出成形法、射出・圧縮成形法等を用いることができる。
【0034】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、「部」は重量基準に基づく。
【実施例】
【0035】
表2に示す配合成分、配合量に基づき、タンブラーを用いて各種配合成分を混合し37mm径の二軸押出機(神戸製鋼社製KTX−37)を用いて、シリンダー温度240℃にて溶融混練し、各種ペレットを得た。
使用した配合成分は、それぞれ次のとおりである。
1.(A)ポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製カリバー 200−20
(粘度平均分子量19000)(以下「PC」と略記する。)
2.(B)テルペン樹脂:
ヤスハラケミカル社製 マイティーエースG−150
(フェノール変性テルペン樹脂、以下「テルペン樹脂」と略記する。)
3.(C)有機金属塩化合物:
N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩
(以下「金属塩」と略記する。)
4.(D)繊維形成型の含フッ素ポリマー:
ポリテトラフルオロエチレン
ダイキン社製ポリフロンFA−500
(以下「PTFE」と略記する。)
5.(E)熱安定剤:
フェノール系安定剤:川口化学工業社製 アンテージDBH
りん系安定剤:旭電化工業社製 PEPQ
6.(F)無機充填材:微粉状マイカ(山口雲母製 A−41)(以下「無機充填材」と略記する。)
【0036】
得られた各種ペレットを105℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100SAII)を用いて245℃、射出圧力1600Kg/cmにて難燃性評価用試験片を作成し、試験片の成型品外観を目視にて観察した。
【0037】
(難燃性)
試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で72時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。UL94によるクラスを表1に示す。
【0038】
【表1】


残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が、有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
【0039】
(流動性)
得られた各種ペレットを105℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100SAII)にて280℃、射出圧力1600kg/cmの条件下、アルキメデススパイラルフロー金型(巾10mm、厚み1.0mm)を用いて流動長さを測定した。流動長さが120mm以上を合格とした。
【0040】
(初期着色及び耐光性の評価)
得られた各種ペレットを105℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100SAII)を用いて245℃、射出圧力1600Kg/cmにて作成した平板試験片(3cm×3cm×2mm厚み)を、超促進耐候試験機アイスーパーUVテスター(岩崎電気社製SUV−W13)の中に設置し、6時間照射を行った。その後、照射前後の試料をスペクトロフォトメーター(村上色彩研究所社製CMS−35SP)により、黄色度(YI)を測定した。YIとは、照射前の黄味の程度を表し、YIが小さい程、黄味は小さくなる。YIの評価の基準としては、YIの値が10未満であるものを合格、10以上であるものを不合格とした。
また、ΔYIとは、照射前後の黄味の程度の差を表し、ΔYIが小さい程、変色は小さく耐光性に優れている。ΔYIの評価の基準としては、ΔYIの値が2未満であるものを合格、2以上であるものを不合格とした。
【0041】
(成形時の発生ガスによる金型汚染)
得られた各種ペレットを105℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100SAII)を成型温度280℃、金型温度50℃、射出圧力1600Kg/cmの条件下で、キャビティー容量の70パーセント充填するように射出容量を設定し、両端2点のサイドゲートを持つ平板金型(90mm×150mm×3mm)を用いて、連続で50ショット成型を行った。
その後、未充填部の金型表面を目視にて確認し、顕著な曇りがみられないものを良好と判定した。
【0042】
【表2】

【0043】
比較例1〜7
比較のため表3に示す配合にて実施例1〜7と同様の操作を行った。その結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

* NRはどの難燃クラスにも属さないものを表す。
【0045】
実施例1〜7に示すように、本発明の要件を具備したポリカーボネート系樹脂組成物は高度な難燃性及び良好な外観を維持しながら、熱による変色や発生ガスの低減効果を発揮する。
(比較例1)テルペン樹脂が0.5部未満である場合には、難燃性の向上効果が不十分であった。
(比較例2)安定剤が0.01部未満の場合においては、熱安定性が劣りΔYIが不合格であった。
(比較例3)テルペン樹脂が20部を超えて配合された場合には、成型加工時に発生ガスが多いため、金型汚染を生じる。
(比較例4)金属塩は、0.01部未満の場合、共にテルペン樹脂との相乗効果が発現せず、難燃性の向上が低い。
(比較例5)安定剤が2部を超えて含まれている場合には、成型加工時に発生ガスが多いため、金型汚染を生じる。
(比較例6)無機充填剤が50部を超えて含まれている場合には、外観不良であり、難燃性にも劣る。
(比較例7)PTFEが0.05未満の場合においては、燃焼時のドリップ防止効果が向上せず、十分な難燃性を示さない。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂80〜99.9重量%及び(B)テルペン樹脂0.1〜20重量%を100重量部となるように含有し、更に(C)有機金属塩化合物0.01〜2重量部、(D)繊維形成型の含フッ素ポリマー0.05〜5重量部、(E)リン系および/またはフェノール系熱安定剤0.01〜2重量部及び(F)無機充填材0〜50重量部を配合してなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)テルペン樹脂を0.5〜10重量部配合することを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)テルペン樹脂が芳香族変性テルペン樹脂である請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)テルペン樹脂がフェノール変性テルペン樹脂である請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記(E)の熱安定剤が、下記一般式(1)で表わされるアリルフォスフォネート及び下記一般式(2)で表わされるアリルフォスファイトから選択される1種又は2種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)において、R1〜4は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)において、R5〜R6は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基。)
【請求項6】
前記(E)の熱安定剤が下記一般式(3)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)において、R1及びR2は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基。)
【請求項7】
前記(E)の熱安定剤が下記一般式(4)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4)
【化4】



【公開番号】特開2007−297450(P2007−297450A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124960(P2006−124960)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】