説明

難燃性合成皮革

【課題】物性を損なうことなく高度な難燃性を有し、しかも省力化された工程で製造することが可能な難燃性合成皮革およびその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維質基材の一方の面に、リン系難燃剤が添加されたホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層、およびポリウレタン樹脂からなる保護層が順に積層されてなる難燃性合成皮革である。その製造に際しては、加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーにリン系難燃剤を添加し、得られた混合物とウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製し、加熱溶融状態の前記プレポリマー組成物を、[1]繊維質基材に塗布するか、又は[2]離型性基材上に塗布して該塗装面に繊維質基材を貼り合わせることにより、ポリウレタン樹脂からなる表皮層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な難燃性を有し、インテリア資材、車両用内装材として特に好適に用いられる合成皮革およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成皮革は、天然皮革の代替品として、あるいは、天然皮革以上に良好な物性を備えた皮革素材として、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両用内装材など様々な用途に用いられている。これらのうち、インテリア資材、車両用内装材は、火災時の人的被害を考慮し法的に厳しく規制されており、合成皮革にはこの規格をクリアする高い難燃性が求められている。
【0003】
合成皮革は、天然皮革調の触感や風合いを得るため、一般に、繊維質からなる基材(例えば、不織布、織物、編物など)にポリウレタン樹脂層を積層して形成される。ポリウレタン樹脂としては、主として溶剤系の樹脂が用いられてきたが、最近では、環境問題を考慮して、無溶剤系(無溶媒系)の樹脂を用いる技術が検討されている。例えば、特許文献1には、分子末端にイソシアネート基を有するホットメルトウレタンプレポリマー(以下、「ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマー」、あるいは単に「プレポリマー」という場合がある。)、いわゆる湿気硬化型ホットメルトポリウレタン樹脂を用いることにより、無溶剤かつ省力化された工程で、風合い、耐摩耗性、柔軟性などに優れた皮革様シートを得ることができることが記載されている。
【0004】
合成皮革を難燃化する方法としては、合成皮革を構成する各層(繊維質基材、ポリウレタン樹脂層、さらに繊維質基材とポリウレタン樹脂層の間に接着層が設けられることもある)のうち少なくとも1つを難燃化する方法(特許文献2〜4)や、難燃層を新たに設ける方法(特許文献5)などが報告されている。このうち、繊維質基材のみを難燃化する方法は、ポリウレタン樹脂層の類焼を防ぐことが困難で、法的規制をクリアするに足る十分な難燃性を得難いという問題があった。すなわち、繊維質基材とポリウレタン樹脂層の燃焼性を比較すると、繊維質基材を構成するポリエステル繊維やナイロン繊維、天然皮革などに比べてポリウレタン樹脂の方が燃えやすく、たとえ繊維質基材が難燃化されていても、ポリウレタン樹脂層が難燃化されていないことには、一旦、ポリウレタン樹脂層が燃焼すると、燃焼により生成した分解物を燃料とし、繊維質基材はいわば蝋燭の芯のような状態となって燃え続けるのである。また、難燃層を新たに設ける方法は、合成皮革全体の触感や風合いが粗硬になる問題がある。このため、ポリウレタン樹脂層を難燃化する方法が有利である。
【0005】
ポリウレタン樹脂を難燃化する方法としては、ポリウレタン樹脂に難燃剤を添加する方法や、ポリウレタン樹脂の重合時に難燃成分を導入して共重合させる方法があるが、ポリウレタン樹脂の汎用性の点から、前者の方が有利である。ホットメルトポリウレタン樹脂を用いる場合も例外でなく、特許文献1には、難燃剤を組み合わせて使用してもよいことが記載されている(段落0073)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−273131号公報
【特許文献2】特開昭58−144184号公報
【特許文献3】特開2005−344224号公報
【特許文献4】特開2003−89986号公報
【特許文献5】特開平6−146174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーに難燃剤を添加することは、実際上、いくつかの不具合を伴う。ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーは空気中の水分(湿気)と反応して硬化が進むため、難燃剤を添加する場合には、空気を遮断した密閉系で行う必要がある。しかしながら、難燃剤の形状によっては、特に、難燃剤が粉体状である場合には、難燃剤をプレポリマーに添加し撹拌しようとすると、空気の混入を避けることができない。また、難燃剤の形状に関わらず、難燃剤が湿気を帯びている場合もある。このため、例えば、難燃剤をあらかじめ低分子ポリオールに添加し撹拌、分散させたものを、塗布直前にプレポリマーに添加し撹拌、分散させることが必要となる。このとき用いられるのがミキシングヘッドであり、プレポリマーや難燃剤などをそれぞれ貯留する原料タンクと供給管路で接続され、各原料を所定の割合で混合する。
【0008】
ところが、分散媒として用いる低分子ポリオールはホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーと反応するため添加量に制限がある。そのため、難燃剤の添加量が制限される結果、十分な難燃性が得られない。例えば、自動車用内装材に適用される難燃性規格をクリアすることができても、鉄道車両用内装材に適用される難燃性規格をクリアすることができないという問題がある。また、低分子ポリオールとホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーが反応することにより、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性、例えば破断強度や破断伸度が低下し、その結果、得られる合成皮革の物性、例えば縫い目疲労が悪くなるという問題がある。
【0009】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、物性を損なうことなく高度な難燃性を有し、しかも省力化された工程で製造することが可能な難燃性合成皮革およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る難燃性合成皮革は、繊維質基材の一方の面に、リン系難燃剤が添加されたホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層、およびポリウレタン樹脂からなる保護層が順に積層されてなるものである。
【0011】
上記難燃性合成皮革を製造するのに好適な本発明に係る難燃性合成皮革の製造方法は、加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーにリン系難燃剤を添加し、得られた混合物とウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製し、加熱溶融状態の前記プレポリマー組成物を、
[1]繊維質基材に塗布するか、又は
[2]離型性基材上に塗布して該塗装面に繊維質基材を貼り合わせることにより、
ポリウレタン樹脂からなる表皮層を形成するものである。
【0012】
上記リン系難燃剤としては、下記一般式(I)で表されるジオルガニルホスフィン酸塩および/または下記一般式(II)で表されるジオルガニルジホスフィン酸塩であることが好ましい。
【化1】

[式中、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、直鎖状または分岐状の炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり;Rは直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基であり;MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、NaまたはKであり;mは1〜4の整数であり;nは1〜4の整数であり;xは1〜4の整数である。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、物性を損なうことなく高度な難燃性を有する合成皮革を、省力化された工程で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る難燃性合成皮革は、繊維質基材の一方の面に、リン系難燃剤が添加されたホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層、およびポリウレタン樹脂からなる保護層が順に積層されてなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に用いられる繊維質基材は特に限定されるものでなく、織物、編物、不織布などの繊維質布帛や、天然皮革などを挙げることができ、目的に応じて適宜選択すればよい。繊維質布帛において繊維の種類は特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。また、繊維質布帛に、従来公知の溶剤系または水系の高分子化合物、例えば、ポリウレタン樹脂やその共重合体を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固させたものを用いることもできる。なかでも強度や加工性の点から、合成繊維からなる編物、特にポリエステル繊維からなる編物が好ましく用いられる。
【0016】
本発明に係る難燃性合成皮革は、上述の繊維質基材の一方の面に、第1の樹脂層として、リン系難燃剤が添加されたホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層が積層されたものである。
【0017】
上記ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーは、分子末端に水酸基を有するホットメルトウレタンプレポリマーのことである。ポリウレタン樹脂は、周知の通り、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称であり、一般にポリオールとポリイソシアネートを反応(架橋・硬化反応)させることによって製造される。ウレタンプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートの反応を適当なところで止めたものであり、主鎖中にウレタン結合を有し、ポリウレタン樹脂を形成する際の主剤として用いられる。ウレタンプレポリマーには、製造時のポリオールとポリイソシアネートの比率によって、分子末端に水酸基を有するウレタンポリオールプレポリマーと、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンポリイソシアネートプレポリマーの2つがあるが、本発明では、ウレタンポリオールプレポリマーを選択して用いるものとする。ウレタンポリオールプレポリマーの分子末端に存在する水酸基が、ウレタン硬化剤として用いられるポリイソシアネートのイソシアネート基と反応してウレタン結合を生成し、ポリウレタン樹脂が形成される。
【0018】
本発明に用いられるウレタンポリオールプレポリマーは、それ自身反応性がなく、開放系で取り扱うことが可能である。そのため、難燃剤の形状を問わず、該プレポリマーに難燃剤を直接添加することが可能である。ウレタンポリイソシアネートプレポリマーのように、難燃剤を添加するための分散媒として低分子ポリオールを用いる必要が無く、したがってポリウレタン樹脂の物性を低下させることがない。また、難燃剤の添加量を制限されることもなく、高度な難燃性を具備することができる。
【0019】
また、本発明に用いられるウレタンポリオールプレポリマーはホットメルト性を有する。ホットメルト性は、分子構造に起因する性質であり、常温では固体ないしは基材に塗布困難な程度に粘稠な状態であるが、熱を加えると溶融して液状になり、冷却により再度凝集力が発現する性質をいう。このホットメルト性を有するウレタンポリオールプレポリマーを用いることにより、加熱溶融状態で基材に塗布することができるため、環境や人体に悪影響を及ぼす有機溶剤を使用する必要がない。また、製造工程で有機溶剤を除去する工程が不要となって、エネルギー負荷や製造コストを軽減することができる。
【0020】
さらに、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを用いることの利点として、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いた場合と比較して、硬化して得られるポリウレタン樹脂そのものの燃え難さを挙げることができる。ポリウレタン樹脂は、軟化温度が高いほど難燃性が良好となる傾向にある。一般に、ポリウレタン樹脂の分子量が大きいほど軟化温度も高く、このようなポリウレタン樹脂は、分子量の大きなウレタンプレポリマーを用いることにより得ることができる。ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーとでは、その末端の水酸基とイソシアネート基の反応性および安定性の違いから、一般に前者の方が高分子量のウレタンプレポリマーとなりやすく、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを主剤として用いた方が、容易に軟化温度の高いポリウレタン樹脂を得ることができ、難燃性が良好となる傾向にある。
【0021】
かかるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートを、ポリオールが有する水酸基が、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基に対して過剰となる条件で反応させることにより得ることができる。
【0022】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを製造する際に使用可能なポリオールは特に限定されるものでなく、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、シリコーン変性ポリオールなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールまたはポリカーボネートポリオールが好ましく、難燃性、耐光性および耐熱性の点からポリカーボネートポリオールがより好ましい。
【0023】
一方、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを製造する際に使用可能なポリイソシアネートも特に限定されるものでなく、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートあるいは脂環族ジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の2量体および3量体を含むポリメリックMDIなどを挙げることができる。なかでも、硬化反応のコントロールが容易であるという点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0024】
ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際の、水酸基/イソシアネート基の当量比は1.1〜2.5であることが好ましく、より好ましくは1.2〜2.0である。当量比が1.1未満であると、プレポリマーの両末端を水酸基とすることが難しく、プレポリマーに残存するイソシアネート基が周囲の湿気と反応することにより分子量が増加し、粘度が増加する結果、作業性が悪くなる虞がある。当量比が2.5を超えると、プレポリマーとウレタン硬化剤を反応させる際、未反応の水酸基が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性が不良となる虞がある。
【0025】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを製造するには、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、水分を除去したポリオールとポリイソシアネートを混合後、加熱してバッチ方式で反応させる方法、あるいは水分を除去したポリオールとポリイソシアネートをそれぞれ加熱して、所定の割合で押出機に投入して連続押出反応方式で反応させる方法などを採用することができる。
【0026】
かくして得られるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーの軟化温度は、20〜100℃であることが好ましく、より好ましくは40〜70℃である。軟化温度が20℃未満であると、硬化して得られるポリウレタン樹脂の軟化温度が低く、難燃性や耐熱性、強度が不良となる虞がある。軟化温度が100℃を超えると、加工に適した粘性を得るのに高温を要し、作業性が悪くなる虞がある。本明細書において、軟化温度は、DSC熱分析機を用いて示差走査熱分析法により測定される。
【0027】
また、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーは、数平均分子量が5000〜50000であることが好ましく、より好ましくは10000〜20000である。数平均分子量をこのような範囲内に設定することにより、優れた柔軟性及び物性(機械的強度)を確保するとともに、難燃性の向上に寄与することができる。本明細書において、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリエチレングリコール換算の数平均分子量(Mn)である。
【0028】
本発明に用いられるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーには、必須成分として、リン系難燃剤が添加される。難燃剤としては、従来、その優れた難燃性からハロゲン化合物が広く用いられてきた。また、難燃助剤としてアンチモン化合物を併用し、相乗的に難燃性を高めることが行われてきた。しかしながら、近年、環境問題に対する関心の高まりから、燃焼時にダイオキシン類をはじめ有毒なハロゲンガスを発生する虞のあるハロゲン化合物は、その使用が敬遠されている。また、アンチモン化合物も、人体に対する毒性が指摘されている。このため、本発明では、難燃剤としてリン化合物を特に選択して用いるものとする。
【0029】
リン系難燃剤の難燃機構は、加熱によりリン酸を生成し、これが、メタリン酸、ポリメタリン酸となって、ポリウレタン樹脂の燃焼部分に不揮発性のリン系ポリマーを形成する。また、リン酸の脱水作用によりポリウレタン樹脂を炭化させ、炭化物皮膜(チャー)を形成することにより、周囲からの酸素の供給および燃料(ポリウレタン樹脂の分解生成物)の供給を絶ち、燃焼を抑制するものである。
【0030】
本発明に用いられるリン系難燃剤は、リン原子を有する化合物であれば特に限定されるものでなく、有機系、無機系のいずれも用いることができる。有機系のリン化合物としては、例えば、リン酸エステルとその塩、亜リン酸エステルとその塩、ホスホン酸とその誘導体(塩を含む)、ホスフィン酸とその誘導体(塩を含む)、ホスフィン、ホスフィンオキサイド、ビホスフィン、ホスホニウム塩およびホスファゼンなどを挙げることができる。無機系のリン化合物としては、ポリリン酸アンモニウムに代表されるリン酸塩を挙げることができる。また、上述の化合物以外に、単体である赤リンを用いてもよい。なかでも、難燃性が良好で、物性への影響が少ないという理由により、ホスフィン酸塩が好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
リン系難燃剤として好ましく用いられるホスフィン酸塩は、以下の一般式(I)で表されるジオルガニルホスフィン酸塩または以下の一般式(II)で表されるジオルガニルジホスフィン酸塩であり、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。 以下、本明細書において「ジオルガニルホスフィン酸塩」という場合、ジオルガニルホスフィン酸塩そのものだけでなく、ジオルガニルジホスフィン酸塩をも包含する場合があるものとする。
【0032】
【化2】

【0033】
これらの式(I)および(II)において、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、直鎖状または分岐状の炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基である。具体的には、RおよびRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基またはフェニル基であるのが好ましく、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0034】
また、Rは、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基である。具体的には、Rは、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−オクチレン基またはn−ドデシレン基(以上、アルキレン基);フェニレン基またはナフチレン基(以上、アリーレン基);メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert−ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基またはtert−ブチルナフチレン基(以上、アルキルアリーレン基);フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基またはフェニルブチレン基(以上、アリールアルキレン基)であるのが好ましい。
【0035】
このようなオルガニル基を有するホスフィン酸塩やジホスフィン酸塩を構成するジオルガニルホスフィン酸およびジオルガニルジホスフィン酸として、好ましくは、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、エタン−1,2−ジ(メチルホスフィン酸)およびベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)などを挙げることができる。
【0036】
上記式中、Mは、これらのホスフィン酸やジホスフィン酸と塩を形成する金属イオンを表すものであって、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、NaまたはKである。Mは、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムまたは亜鉛であるのが好ましく、特に好ましくはアルミニウムまたは亜鉛である。
【0037】
また、mは、上記Mで表される金属のイオン価を表すものであって、1〜4の整数であり、2または3であるのが好ましい。また、nは、1〜4の整数であり、好ましくは1または3である。xは、1〜4の整数であり、好ましくは1または2である。
【0038】
このようなジオルガニルホスフィン酸塩としては、難燃性および合成の点から、好ましくは、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウムおよびジエチルホスフィン酸亜鉛などのジアルキルホスフィン酸のカルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩を挙げることができる。
【0039】
ジオルガニルホスフィン酸塩は、水溶液中、ジオルガニルホスフィン酸またはジオルガニルジホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物と反応させることにより得ることができる。これらは、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件によって、ポリマー性化合物も形成し得る。したがって、本明細書において「ジオルガニルホスフィン酸塩」という場合、ジオルガニルホスフィン酸塩および/またはジオルガニルジホスフィン酸塩のモノマーだけでなく、これらのポリマーをも包含するものとする。
【0040】
ジオルガニルホスフィン酸塩は、通常、平均粒径が0.1〜100μmの粉末であるが、好ましくは平均粒径が2〜10μm、より好ましくは3〜5μmに粉砕したものを用いるのがよい。ジオルガニルホスフィン酸塩は粒径が小さいほど表面積が大きくなり、燃焼熱によりリン酸化が進むため、炭化物皮膜の形成が促進されて、難燃性が有効に発揮される。平均粒径が10μmを超えると、十分な難燃性が得られない虞がある。一方、平均粒径が2μm未満であると、分散性が悪くなったり、作業性(粉体の取り扱い)が悪くなったりする虞がある。ここで、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・散乱法により測定される。
【0041】
リン系難燃剤の使用量は、その種類や求められる難燃性によって異なるが、通常、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと後述するウレタン硬化剤の総量100重量部に対して1〜50重量部であるのが好ましく、より好ましくは15〜40重量部である。使用量が1重量部未満であると、十分な難燃性が得られない虞がある。使用量が50重量部を超えると、合成皮革としての物性、例えば耐摩耗性や引張強度などが不良となる虞がある。使用量が上述の範囲内となるように、リン系難燃剤をホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに添加する。
【0042】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーには、上述のリン系難燃剤以外に、必要に応じて、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、ウレタン化触媒、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、工程負荷の軽減や合成皮革の物性向上のために、ウレタン化触媒を用いることが好ましい。
【0043】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと反応させる上記ウレタン硬化剤としては、ポリイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネートは特に限定されるものではなく、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート、カルボジイミド基を含むポリイソシアネート、アルファネート基を含むポリイソシアネート、イソシアヌレート基を含むポリイソシアネートなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも硬化反応のコントロールが容易であるという点では4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましく、硬化して得られるポリウレタン樹脂の黄変が少ないという点では脂肪族ポリイソシアネートが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートがより好ましい。
【0044】
本発明においては、ウレタン硬化剤として、上述のポリイソシアネート以外に、ポリオールとポリイソシアネートを、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基が、ポリオールが有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させることにより得られる化合物を用いることができる。この化合物は、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーとして、ポリウレタン樹脂を形成する際の主剤ともなり得るものである。かかるウレタンポリイソシアネートプレポリマーをウレタン硬化剤として用いることにより、ウレタン硬化剤としての働きに加えて、鎖伸長剤としての効果が得られるため、硬化して得られるポリウレタン樹脂の柔軟性を向上させることができる。
【0045】
ウレタン硬化剤として用いられる上記ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを製造する際に使用可能なポリオールやポリイソシアネートは特に限定されるものでなく、例えば、上述したホットメルトウレタンポリオールプレポリマーの製造に用いられるものと同様のポリオールやポリイソシアネートを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、ポリオールとしては、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールまたはポリカーボネートポリオールが好ましく、難燃性、耐光性および耐熱性の点からポリカーボネートポリオールがより好ましい。また、ポリイソシアネートとしては、硬化反応のコントロールが容易であるという点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0046】
また、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて上記ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを合成する際の、イソシアネート基/水酸基の当量比は1.1〜50であることが好ましく、より好ましくは3〜15である。当量比が1.1未満であると、プレポリマーの両末端をイソシアネート基とすることが難しく、ウレタン硬化剤としての働きが不十分となる虞がある。当量比が50を超えると、硬化して得られるポリウレタン樹脂の柔軟性が悪くなる虞がある。
【0047】
ウレタン硬化剤として用いられる上記ウレタンポリイソシアネートプレポリマーは、数平均分子量が250〜10000であり、かつ、上記ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーよりも小さいものが好ましい。また、その軟化温度は、0〜100℃であることが好ましい。
【0048】
上記表皮層は、上述のリン系難燃剤が添加されたホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと上述のウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる。ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤を反応させる際の、イソシアネート基/水酸基の当量比は0.95〜2.0であることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.3である。当量比が0.95未満であると、未反応のプレポリマーが残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性が不良となる虞がある。当量比が2.0を超えると、硬化反応が進みすぎて触感や風合いが粗硬になる虞がある。このとき、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマー100重量部に対するウレタン硬化剤の使用量は、プレポリマーやウレタン硬化剤の分子量にもよるが、通常3〜50重量部、好ましくは5〜40重量部である。
【0049】
形成されるポリウレタン樹脂の軟化温度は130〜240℃であることが好ましく、より好ましくは140〜200℃である。軟化温度が130℃未満であると、難燃性や耐熱性、強度が不良となる虞がある。軟化温度が240℃を超えると、合成皮革の触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0050】
上述のポリウレタン樹脂からなる表皮層は、イソシアネート基が大気中の水分と反応することで発生する炭酸ガスによって多孔質層となる。表皮層の厚さは50〜350μmであることが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。厚さが50μm未満であると、耐摩耗性が不良となる虞がある。厚さが350μmを超えると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0051】
本発明に係る難燃性合成皮革は、繊維質基材の一方の面に積層されたポリウレタン樹脂からなる表皮層の表面に、さらに、第2の樹脂層として、ポリウレタン樹脂からなる保護層が積層されたものである。これにより、合成皮革の耐摩耗性が向上する。なお、本発明において保護層は、表皮層の表面に形成されて当該表皮層を保護する最外層としての樹脂層の総称をいい、少なくとも一層の樹脂層からなるが、同一または異なる組成の2層以上の樹脂層からなることができる。
【0052】
保護層の形成に用いられるポリウレタン樹脂は特に限定されるものでなく、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、難燃性、耐久性および耐光性の点からポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。また、ポリウレタン樹脂の形態は、無溶剤系(無溶媒系)、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型を問わず使用可能であり、その目的と用途に応じて適宜選択すればよい。
【0053】
保護層のポリウレタン樹脂には、必要に応じて、ポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、ウレタン化触媒、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、難燃剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なお、難燃剤は、環境負荷を考慮し、リン化合物から選択することが好ましい。
【0054】
保護層の厚さは10〜150μmであることが好ましく、より好ましくは20〜80μmである。厚さが10μm未満であると、均一に保護層を形成することが困難で、部分的に保護層が欠如する虞がある。厚さが150μmを超えると、合成皮革の触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0055】
さらに、保護層の厚さは、表皮層の厚さの50%以下であることが好ましく、より好ましくは35%以下である。50%を超えると、表皮層が有する難燃性が十分に発揮されず、合成皮革全体として十分な難燃性が得られない虞がある。ただし、保護層が難燃剤を含有する場合は、この限りではない。
【0056】
次に、本発明に係る難燃性合成皮革の製造方法について説明する。該製造方法は、
加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーにリン系難燃剤を添加し、得られた混合物とウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製する工程と、
加熱溶融状態の前記プレポリマー組成物を、[1]繊維質基材に塗布するか、又は[2]離型性基材上に塗布して該塗装面に繊維質基材を貼り合わせることにより、ポリウレタン樹脂からなる表皮層を形成する工程、
とを含むものである。なお、[2]においては、プレポリマー組成物を離型性基材上に塗布する限り、離型性基材上に直接塗布しても(下記(2)の態様)、あるいはまた、離型性基材上に保護層を形成してからその上にプレポリマー組成物を塗布してもよい(下記(3)の態様)。
【0057】
上記のようにホットメルトウレタンポリオールプレポリマーは、それ自身反応性がなく、開放系で取り扱うことが可能であるため、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーのように、難燃剤を添加するための分散媒として低分子ポリオールを用いる必要が無い。そのため、ホットメルトウレタンポリオールにリン系難燃剤を直接添加し、これにウレタン硬化剤を混合してプレポリマー組成物を調製することにより、ポリウレタン樹脂の物性を低下させることがなく、また、難燃剤の添加量を制限されることもなく、高度な難燃性を付与することができる。
【0058】
より詳細には、上記難燃性合成皮革は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0059】
(1)リン系難燃剤が添加された加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと、ウレタン硬化剤を混合してなるプレポリマー組成物を繊維質基材に塗布し、該プレポリマー組成物が粘稠性を有する状態のうちに、離型性基材に貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理して表皮層を形成する。次いで、離型性基材を剥離し、露出する表皮層表面にポリウレタン樹脂を含む組成物を塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して保護層を形成する(上記[1]の一態様)。
【0060】
(2)リン系難燃剤が添加された加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと、ウレタン硬化剤を混合してなるプレポリマー組成物を離型性基材に塗布し、該プレポリマー組成物が粘稠性を有する状態のうちに、繊維質基材に貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理して表皮層を形成する。次いで、離型性基材を剥離し、露出する表皮層表面にポリウレタン樹脂を含む組成物を塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して保護層を形成する(上記[2]の一態様)。
【0061】
(3)離型性基材にポリウレタン樹脂を含む組成物を塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して保護層を形成する。次いで、保護層表面に、リン系難燃剤が添加された加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと、ウレタン硬化剤を混合してなるプレポリマー組成物を塗布し、該プレポリマー組成物が粘稠性を有する状態のうちに、繊維質基材に貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理して表皮層を形成する。最後に離型性基材を剥離する(上記[2]の一態様)。
【0062】
上記(1)〜(3)のなかでも、保護層の厚さを容易に調整可能で、且つ均一な層形成が可能であることから、(3)の方法が好ましい。以下、(3)の方法に沿って説明するが、樹脂の塗布方法や熱処理など各種の説明事項は、基本的に(1)および(2)の方法を採用する場合にも共通する事項である。
【0063】
保護層を形成するために、ポリウレタン樹脂組成物を離型性基材に塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、T−ダイコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。なかでも、均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0064】
本発明に用いられる離型性基材は特に限定されるものでなく、ポリウレタン樹脂に対して離型性を有する基材、あるいは離型処理を施した基材であればよく、例えば、離型紙、離型処理布、撥水処理布、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂などからなるオレフィンシートまたはフィルム、フッ素樹脂シートまたはフィルム、離型紙付きプラスチックフィルムなどを挙げることができる。離型性基材は凹凸模様を有していてもよく、このような離型性基材を用いることにより、合成皮革の表面に意匠性を付与することができる。
【0065】
ポリウレタン樹脂組成物の塗布厚は、前記保護層の厚さに応じて適宜設定すればよい。
【0066】
次いで、必要により熱処理を行う。熱処理は、ポリウレタン樹脂組成物中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるとともに、熱処理によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合や、二液硬化型の樹脂を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。熱処理温度は50〜150℃であることが好ましく、より好ましくは60〜120℃である。熱処理温度が50℃未満であると、熱処理に時間がかかり、工程負荷が大きくなったり、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が不良となったりする虞がある。熱処理温度が150℃を超えると、合成皮革の風合いが粗硬になる虞がある。また、熱処理時間は2〜20分間であることが好ましく、より好ましくは2〜10分間である。熱処理時間が2分間未満であると、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が不良となる虞がある。熱処理時間が20分間を超えると、加工速度が遅くなり工程負荷が大きくなる虞がある。
【0067】
なお、ポリウレタン樹脂として、ホットメルト系の樹脂を用いる場合にあっては、加熱溶融した樹脂を離型性基材に塗布した後、冷却することにより形成することができ、熱処理は不要である。
【0068】
さらに、必要によりエージング処理を行い、上述の反応を完結させる。かくして、離型性基材上に保護層が形成される。
【0069】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーの加熱溶融温度は、軟化温度よりも好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜60℃高い温度に設定する。加熱溶融温度がプレポリマーの軟化温度より10℃未満で高い温度であると、プレポリマーの粘度が高く、塗布時の作業性が悪くなる虞がある。加熱溶融温度がプレポリマーの軟化温度よりも80℃を超えて高い温度であると、硬化反応のコントロールが不可能となる虞がある。加熱溶融温度は通常、30〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲で設定する。なお、プレポリマーの加熱溶融は、温度制御可能な原料タンクにて行われ、この加熱溶融されたプレポリマーにリン系難燃剤が添加されて混合される。
【0070】
リン系難燃剤が添加された加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の混合には、加熱保温できる構造のミキシングヘッドが用いられ、両者を所定の割合で混合、撹拌した後、塗布装置に供給される。
【0071】
離型性基材上に形成された保護層表面にプレポリマー組成物を塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、スプレーコーター、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターまたはT−ダイコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。なかでも均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0072】
プレポリマー組成物の塗布厚は25〜300μmであることが好ましく、より好ましくは50〜200μmである。塗布厚をこの範囲に設定することにより、塗布厚の好ましくは1.1〜2倍、より好ましくは1.2〜1.5倍の厚さを有する表皮層を得ることができ、好ましくは50〜350μm、より好ましくは100〜200μmの厚さを有する表皮層となる。
【0073】
プレポリマー組成物を離型性基材に塗布した後、好ましくは熱処理を行う。ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の硬化反応は常温で進行するため、熱処理は必ずしも要さないが、熱処理により硬化反応が促進されるため、生産効率の点では熱処理を行うことが好ましい。
【0074】
このときの熱処理温度としては、選択するプレポリマーやウレタン硬化剤、任意で用いられる添加剤、塗布厚などによって適宜選択可能であるが、90〜150℃であることが好ましく、より好ましくは100〜130℃である。熱処理温度が90℃未満であると、熱処理を行うことによる反応促進効果が十分に得られない虞がある。熱処理温度が150℃を超えると、硬化反応のコントロールができず加工安定性に欠ける虞がある。また、熱処理時間は30秒間〜5分間であることが好ましく、より好ましくは1〜3分間である。熱処理時間が30秒間未満であると、熱処理を行うことによる反応促進効果が十分に得られない虞がある。熱処理時間が5分間を超えると、硬化反応が進みすぎて繊維質基材との接着性が悪くなる虞がある。
【0075】
次いで、プレポリマー組成物(その一部は硬化反応が進み、ポリウレタン樹脂となっている)が粘稠性を有する状態のうちに、繊維質基材に貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理することにより、表皮層が形成される。
【0076】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応速度は、選択するプレポリマーやウレタン硬化剤、任意で用いられる添加剤(特にウレタン化触媒)の種類や量によって大きく変動するため、選択する条件によってエージング処理条件を適宜設定する必要があるが、通常、室温で1日〜1週間程度行われる。この過程で、プレポリマーとウレタン硬化剤の硬化反応が完結する。硬化反応が未完結であると、耐摩耗性などの物性が不良となる虞がある。
【0077】
最後に離型性基材を剥離して、本発明の難燃性合成皮革を得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は重量基準であるものとする。また、得られた合成皮革の評価は以下の方法に従った。
【0079】
[燃焼性1]
米国自動車安全基準FMVSS302の試験方法に準拠して評価した。長さ350mm、幅100mmに裁断した試験片の端部に、ガスバーナーで15秒間接炎させ、着火操作を行い、着火した炎が端部から38mmの位置に設けた標線を越えてから消火するまでの距離と時間を測定した。経、緯方向でそれぞれ10点ずつ測定し、燃焼速度を算出し、以下の基準に従って判定した。
○:試験片に着火しなかったもの
△:着火した炎が標線前に消火したもの、または、燃焼速度の最大値が80mm/分未満のもの
×:燃焼速度の最大値が80mm/分以上のもの
【0080】
[燃焼性2]
鉄道車両用非金属材料試験法の45°エチルアルコール法に準拠して評価した。長さ257mm、幅182mmに裁断した試験片を45℃に傾斜させて保持し、燃料の純エチルアルコール0.5ccを入れた容器(アルミカップ)を、試験片の下面(樹脂層側)中央部で接炎するように設置する。次いで、燃料に着火し、燃料が燃え尽きるまで放置し、試験片に接炎させた。燃料の燃焼中は試験片への着火、着炎の状態を観察し、燃料の燃焼後は残炎状態を観察し、以下の基準に従って判定した。
○:試験片に着火しなかったもの
△:着火した炎の火勢が試験片の上端部を越えず、かつ、残炎がなかったもの
×:着火した炎の火勢が試験片の上端部を越える、または、残炎があったもの
【0081】
[縫い目疲労]
長さ10cm、幅10cmの試験片を経、緯方向から各々2枚1組で2組とり、2枚の試験片の表側(樹脂層側)を重ね合わせ、幅方向の一辺の端から6mmの位置を、23番ボールポイントのミシン針、ポリエステル8番のミシン糸を用いて、縫い目ピッチ5±0.5mmでミシン掛けし、経、緯方向各々2組の試験片を作る。試験片を縫い目疲労試験機(株式会社大栄精器製作所)につかみ間隔が120mmとなるように取り付けて、荷重29.4N、ストローク150mm、速度30往復/min、疲労回数2500回の条件にて縫い目疲労試験を行った後、試験片に4.9Nの荷重をかけた状態で、試験片の縫い目のずれにより生じた穴の寸法の最大値を目盛り付き拡大ルーペを用いて0.1mm単位で測定する。この試験片の縫い目のずれにより生じた穴の寸法の最大値をその試験片の縫い目疲労とし、以下の基準に従って判定した。
○:縫い目疲労が1.0mm以下
△:縫い目疲労が1.0mmを超え、且つ2.0mm以下
×:縫い目疲労が2.0mmを超える
【0082】
[柔軟性]
プレポリマー組成物をフラットな離型紙(EU130TPD、リンテック株式会社製)に、硬化膜の厚さが200μmとなるように塗布し、乾燥機にて120℃で2分間熱処理後、温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で1日間エージング処理して、硬化させる。硬化膜から長さ100mm、幅30mm(B)に裁断した試験片を引張試験機(オートグラフAG−X、株式会社島津製作所製)に取り付け、つかみ間隔50mm、引張速度20mm/分の条件にて引っ張り、ストローク距離が50mmとなった時の荷重(P)を測定し、下記式にて100%モジュラスを算出する。3点ずつ測定して100%モジュラスを算出し、その平均値を求めた。この値が小さいほど柔軟であることを意味する。
100%モジュラス(N/cm)=P/B
【0083】
ホットメルトウレタンプレポリマーは以下のように製造した。
[製造例1]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリエステルポリオール(クラレポリオールP2010、株式会社クラレ製)を80部、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(クラレポリオールC2090、株式会社クラレ製)を50部、数平均分子量が1000のポリエーテルポリオール(PTMG1000、三洋化成工業株式会社製)を10部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を15部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.25)、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを得た(軟化温度:40℃、数平均分子量:17000)。
【0084】
[製造例2]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(クラレポリオールC2090、株式会社クラレ製)を20部、数平均分子量が1000のポリエーテルポリオール(PTMG1000、三洋化成工業株式会社製)を30部を入れて撹拌した後、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を6部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.48)、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを得た(軟化温度:20℃、数平均分子量:10000)。
【0085】
[製造例3]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が1000のポリエステルポリオール(PTMG1000、三洋化成工業株式会社製)を10部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を20部入れて水酸基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(イソシアネート基/水酸基)は8.0)、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを得た(軟化温度:20℃、数平均分子量:3000)。
【0086】
[製造例4]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が1000のポリエステルポリオール(クラレポリオールP1010、株式会社クラレ製)を10部、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を10部入れて水酸基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(イソシアネート基/水酸基)は4.50)、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを得た(軟化温度:20℃、数平均分子量:4000)。
【0087】
[製造例5]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が3000のポリエステルポリオール(クラレポリオールP3010、株式会社クラレ製)を10部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を2部入れて水酸基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(イソシアネート基/水酸基)は2.4)、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを得た(軟化温度:60℃、数平均分子量:25000)。
【0088】
[実施例1]
処方1
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 100部
(クリスボンNY−328、大日本インキ化学工業株式会社製)
ジメチルホルムアミド(DMF) 40部
カーボンブラック顔料 15部
(DIALAC BLACK L−1770S、大日本インキ化学工業株式会社製)
架橋剤 2部
(バーノックDN950、大日本インキ化学工業株式会社製)
粘度を2000cps(23℃)に調整した。
【0089】
処方2
製造例1のホットメルトウレタンポリオールプレポリマー 100部
ウレタン硬化剤 5部
(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)
カーボンブラック顔料 2部
(ポリトンブラック、大日本インキ化学工業株式会社製)
アミン系ウレタン化触媒 1部
(TOYOCAT−DT、TOSOH株式会社製)
ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤 30部
(ジエチルホスフィン酸アルミニウム、平均粒径:4μm)
当量比(ウレタン硬化剤のイソシアネート基/プレポリマーの水酸基)は1.2である。
(調製法:60℃に加熱溶融したホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに、カーボンブラック顔料、アミン系ウレタン化触媒、ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤を添加し撹拌、分散させる。次いで、40℃に加熱溶融したウレタン硬化剤を添加し撹拌した後、直ちに、塗布操作に供する。)
【0090】
上述の処方1に従い調製したポリウレタン樹脂組成物を、シボ調の凹凸模様を有する離型紙(R−51、リンテック株式会社製)に、コンマコーターにて厚さが200μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で2分間熱処理して、厚さ40μmの保護層を形成した。
【0091】
上述の処方2に従い調製したプレポリマー組成物を、離型紙上に形成された保護層表面に、コンマコーターにて厚さが140μmとなるようにシート状に塗布し、乾燥機にて120℃で2分間熱処理後、該プレポリマー組成物が粘稠性を有する状態のうちにポリエステルトリコット布に貼り合わせ、マングルにて5kg/mの荷重で圧締し、温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で1日間エージング処理して、厚さ150μmの表皮層を形成し、離型紙を剥離して難燃性合成皮革を得た。表皮層を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度は200℃であった。
【0092】
[実施例2]
上記処方2の難燃剤の量を40部とした以外は、実施例1と同様にして難燃性合成皮革を得た。
【0093】
[実施例3]
上記処方2の難燃剤の量を50部とした以外は、実施例1と同様にして難燃性合成皮革を得た。
【0094】
[実施例4]
上記処方2の難燃剤として、ジオルガニルホスフィン酸塩の代わりに、無機リン酸塩系難燃剤(フランGP−10、大和化学工業株式会社製、粒径:8μm)を用い、難燃剤の量を40部とした以外は、実施例1と同様にして難燃性合成皮革を得た。
【0095】
[実施例5]
処方3
製造例1のホットメルトウレタンポリオールプレポリマー 100部
ウレタン硬化剤 10部
(製造例3のホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマー)
カーボンブラック顔料 2部
(ポリトンブラック、大日本インキ化学工業株式会社製)
アミン系ウレタン化触媒 1部
(TOYOCAT−DT、TOSOH株式会社製)
ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤 40部
(ジエチルホスフィン酸アルミニウム、平均粒径:4μm)
当量比(ウレタン硬化剤のイソシアネート基/プレポリマーの水酸基)は1.3である。
(調製法:60℃に加熱溶融したホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに、カーボンブラック顔料、アミン系ウレタン化触媒、ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤を添加し撹拌、分散させる。次いで、40℃に加熱溶融したウレタン硬化剤を添加し撹拌した後、直ちに、塗布操作に供する。)
【0096】
上述の処方3に従い調製したプレポリマー組成物を用いて表皮層を形成した以外は、実施例1と同様にして難燃性合成皮革を得た。表皮層を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度は200℃であった。
【0097】
[実施例6]
処方4
製造例2のホットメルトウレタンポリオールプレポリマー 100部
ウレタン硬化剤 25部
(製造例4のホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマー)
カーボンブラック顔料 2部
(ポリトンブラック、大日本インキ化学工業株式会社製)
アミン系ウレタン化触媒 1部
(TOYOCAT−DT、TOSOH株式会社製)
ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤 40部
(ジエチルホスフィン酸アルミニウム、平均粒径:4μm)
当量比(ウレタン硬化剤のイソシアネート基/プレポリマーの水酸基)は1.25である。
(調製法:60℃に加熱溶融したホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに、カーボンブラック顔料、アミン系ウレタン化触媒、ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤を添加し撹拌、分散させる。次いで、40℃に加熱溶融したウレタン硬化剤を添加し撹拌した後、直ちに、塗布操作に供する。)
【0098】
上述の処方4に従い調製したプレポリマー組成物を用いて表皮層を形成した以外は、実施例1と同様にして難燃性合成皮革を得た。表皮層を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度は180℃であった。
【0099】
[比較例1]
処方5
製造例5のホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマー 100部
ウレタン硬化剤 5部
(数平均分子量1000のポリエステルポリオール、クラレポリオールP1010、株式会社クラレ製)
カーボンブラック顔料 2部
(ポリトンブラック、大日本インキ化学工業株式会社製)
アミン系ウレタン化触媒 1部
(TOYOCAT−DT、TOSOH株式会社製)
ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤 30部
(ジエチルホスフィン酸アルミニウム、平均粒径:4μm)
当量比(プレポリマーのイソシアネート基/ウレタン硬化剤の水酸基)は1.4である。
(調製法:40℃に加熱溶融したウレタン硬化剤に、カーボンブラック顔料、アミン系ウレタン化触媒、ジオルガニルホスフィン酸塩系難燃剤を添加し撹拌、分散させる。次いで、100℃に加熱溶融したホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを添加し撹拌した後、直ちに、塗布操作に供する。)
【0100】
上述の処方1に従い調製したポリウレタン樹脂組成物を、シボ調の凹凸模様を有する離型紙(R−51、リンテック株式会社製)に、コンマコーターにて厚さが200μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で2分間熱処理して、厚さ40μmの保護層を形成した。
【0101】
上述の処方5に従い調製したプレポリマー組成物を、離型紙上に形成された保護層表面に、コンマコーターにて厚さが125μmとなるようにシート状に塗布し、該プレポリマー組成物が粘稠性を有する状態のうちにポリエステルトリコット布に貼り合わせ、マングルにて5kg/mの荷重で圧締し、温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で3日間エ−ジング処理して、厚さ150μmの表皮層を形成し、離型紙を剥離して合成皮革を得た。表皮層を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度は200℃であった。
【0102】
[比較例2]
上記処方5の難燃剤の量を40部とした以外は、比較例1と同様にして合成皮革を得た。プレポリマー組成物における難燃剤の分散性が不良で塗工性が悪く、得られた合成皮革は外観品位に乏しいものであった。
【0103】
[比較例3]
上記処方5の難燃剤の量を50部とする以外は、比較例1と同様にして合成皮革を得ることを試みた。プレポリマー組成物における難燃剤の分散性が極めて不良で塗布することができず、合成皮革を得ることはできなかった。
【0104】
上記実施例および比較例の合成皮革について、評価した結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1に示されるように、実施例に係る合成皮革では、縫い目疲労を損なうことなく、高度な難燃性を付与することができた。また、硬化膜が柔軟で、優れた風合いの合成皮革であった。これに対し、比較例1に係る合成皮革では、難燃性が不十分であり、難燃性を高めるために難燃剤を増量すると、外観品質に劣るとともに縫い目疲労を損なうものであった。また、硬化膜の柔軟性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係る難燃性合成皮革は、例えば、鉄道車両用材料の難燃性規格をクリアする高度な難燃性を有し、鉄道車両用内装材としてはもちろん、自動車用内装材として、さらにはインテリア資材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材の一方の面に、リン系難燃剤が添加されたホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層、およびポリウレタン樹脂からなる保護層が順に積層されてなることを特徴とする難燃性合成皮革。
【請求項2】
前記リン系難燃剤が、下記一般式(I)で表されるジオルガニルホスフィン酸塩および/または下記一般式(II)で表されるジオルガニルジホスフィン酸塩である、請求項1記載の難燃性合成皮革。
【化1】

[式中、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、直鎖状または分岐状の炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり;Rは直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基であり;MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、NaまたはKであり;mは1〜4の整数であり;nは1〜4の整数であり;xは1〜4の整数である。]
【請求項3】
前記ウレタン硬化剤として、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いた、請求項1記載の難燃性合成皮革。
【請求項4】
請求項1記載の難燃性合成皮革の製造方法であって、
加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーにリン系難燃剤を添加し、得られた混合物とウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製し、
加熱溶融状態の前記プレポリマー組成物を、[1]繊維質基材に塗布するか、又は[2]離型性基材上に塗布して該塗装面に繊維質基材を貼り合わせることにより、ポリウレタン樹脂からなる表皮層を形成する難燃性合成皮革の製造方法。

【公開番号】特開2009−209489(P2009−209489A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55012(P2008−55012)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【出願人】(591152698)株式会社加平 (5)
【Fターム(参考)】