説明

難燃性合成繊維、難燃繊維複合体およびそれを用いた難燃性マットレス

【課題】高度な難燃性を必要とする繊維製品に好適に使用することができる高度な難燃性を有する難燃性合成繊維、それを含む難燃繊維複合体、およびそれを用いて得られる難燃性マットレスを提供する。
【解決手段】アクリロニトリル単位30〜70重量%、塩素含有ビニルおよび/または塩素含有ビニリデン単量体単位70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜10重量%からなる重合体100重量部に対し、酸化亜鉛の含有割合が20〜80重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体3〜50重量部、および塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上である塩素化パラフィン3〜50重量部を含む難燃性合成繊維であって、前記酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体、および塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または塩素化パラフィンの合計が6〜50重量部である難燃性合成繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝具や家具等に用いられる高度な難燃性を必要とする繊維製品に好適に使用できる高度な難燃性を有する難燃性合成繊維、難燃繊維複合体、および該難燃繊維複合体を用いた難燃性マットレスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣食住の安全性確保の要求が強まり、防炎の観点より難燃素材の必要性が高まってきている。そのような中で、特に発生時に人的被害が大きい就寝中の火災を防止するため、寝具や家具等に使用される素材への難燃性付与の必要性が高まってきている。
【0003】
これら寝具や家具等の製品においては、使用時の快適さや意匠性のために綿やポリエステル、ウレタンフォームなどの易燃性素材がその内部や表面に用いられることが多い。それらの防炎性の確保には、適当な難燃素材をこれら製品中に使用することで、その易燃性素材への着炎を長時間にわたり防止する高度な難燃性を具備することが重要である。また、その難燃素材は、これら寝具や家具等の製品の快適さや意匠性を損なわないものでなければならない。
【0004】
この難燃素材に使用される繊維製品に対し、過去様々な難燃性合成繊維や防炎薬剤が検討されてきたが、この高度な難燃性と寝具や家具等の製品に求められる快適さや意匠性といった要件を充分に兼ね合わせたものは未だ現れていない。
【0005】
例えば、綿布に防炎薬剤を塗布する、いわゆる後加工防炎という手法があるが、防炎薬剤の付着の均一化、付着による布の硬化、洗濯による脱離、安全性などの問題があった。
【0006】
また、安価な素材であるポリエステルを用いた場合には、ポリエステルは炭化成分となりえないため、強制燃焼させた場合には溶融し穴が空き、構造を維持することができず、前述の寝具や家具等に用いられる綿やウレタンフォームへ着炎してしまい、性能としては全く不充分であった。
【0007】
また、耐熱性繊維は、難燃性には優れているが極めて高価であり、さらに布帛とする際の開繊時等加工性の問題や、布帛自体の吸湿性や触感の悪さ、そして染色性の悪さから意匠性の高い色柄を得るのが難しいという問題もある。
【0008】
これらの家具、寝具に使用される難燃繊維素材の欠点を改良し、一般的な特性として要求される優れた風合、吸湿性、触感を有し、かつ、安定した難燃性を有する素材として、難燃剤を大量に添加した高度に難燃化した含ハロゲン繊維と、難燃化していない他の繊維とを組み合わせた難燃繊維複合体(特許文献1)が、提案されている。また、耐熱性繊維を少量混ぜることで、作業服用途に使用可能な、高度難燃繊維複合体(特許文献2)で、風合いや吸湿性に優れ、高度な難燃性を有するとの記載はあるが、有機耐熱繊維は一般に着色し布帛の白度が不充分であり、また染色による発色にも問題があり、意匠性に問題のある難燃繊維複合体であった。さらに、これらはまた、本質的に難燃性である繊維と含ハロゲン繊維から嵩高さを有する難燃性不織布(特許文献3)が提案されているが、これらの方法では複数の繊維を複合化して用いなければ高度な難燃性が得られず、製品の製造工程が複雑になり、また、有機耐熱繊維や本質的に難燃性である繊維は一般的に高価でありコスト的に不利であるという問題点があった。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−89339号公報
【特許文献2】特開平8−218259号公報
【特許文献3】国際公開第03/023108号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の難燃性合成繊維では解決が困難であった課題、すなわち、加工性や風合い、触感が良好で、意匠性のある家具、寝具等に用いられる繊維製品を安価に製造することを可能とし、かつ高度な難燃性を有する難燃性合成繊維、それを含む難燃繊維複合体、およびそれを用いて得られる難燃性マットレスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、塩素を含有する合成繊維に酸化亜鉛および縮合リン酸系化合物の複合体および塩化ビニルおよび/または塩化ビニリデン樹脂を含有させることで、加工性や風合い、触感は良好なまま、高度な難燃性を獲得できることを見出した。この結果、意匠性を損なうことなく、かつバーナー炎等の火力の強い炎やタバコ炎等の蓄熱するような炎にも耐え得る難燃性や形態保持性を兼ね備えた家具、寝具等に用いられる繊維製品を得ることが可能な難燃性合成繊維が安価に得られることを見出した。また、耐熱性繊維単独で使用するときの問題であった、加工性や価格の問題も改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、アクリロニトリル単位30〜70重量%、塩素含有ビニルおよび/または塩素含有ビニリデン単量体単位70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜10重量%からなる重合体100重量部に対し、酸化亜鉛の含有割合が20〜80重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体3〜50重量部、および塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上である塩素化パラフィン3〜50重量部を含み、かつ前記酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体、および塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または塩素化パラフィンの合計が6〜50重量部である難燃性合成繊維に関する。
【0013】
前記縮合リン酸塩系化合物が、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましく、トリポリリン酸塩であることがより好ましい。
【0014】
前記塩化ビニル樹脂が、塩化ビニル単位80〜100重量%、その他の共重合可能な単量体単位0〜20重量%からなることが好ましい。
【0015】
前記塩化ビニリデン樹脂が、塩化ビニリデン単位50〜100重量%、その他の共重合可能な単量体単位0〜50重量%からなることが好ましい。
【0016】
難燃性合成繊維中における前記塩化ビニル樹脂および塩化ビニリデン樹脂の平均粒子径が10μm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、(A)請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性合成繊維20重量%以上、および(B)天然繊維および化学繊維の少なくとも一種の繊維80重量%以下からなる難燃繊維複合体に関する。
【0018】
繊維(B)がポリエステル系繊維の場合は、難燃繊維複合体に対する含有量が40重量%以下であることが好ましい。
【0019】
ポリエステル系繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、低融点バインダー繊維からなる群より選択された少なくとも1つの繊維であることが好ましい。
【0020】
前記低融点バインダー繊維が、低融点ポリエステル単一成分よりなる繊維、ポリエチレンテレフタレートと低融点ポリエステルの複合成分よりなる繊維、ポリエチレンテレフタレートと低融点ポリオレフィンの複合成分よりなる繊維からなる群より選択された少なくとも1つの繊維であることが好ましい。
【0021】
前記難燃繊維複合体が不織布であることが好ましい。
【0022】
本発明は、前記難燃繊維複合体からなる炎遮蔽性バリア用不織布に関する。
【0023】
前記炎遮断性バリア用不織布の目付けが250〜400g/m2であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の難燃性合成繊維は、風合い、触感、視感などの意匠性や加工性に優れ、バーナー炎のような火力の強い炎やタバコ炎のような蓄熱するような炎にも耐え得る高度な難燃性や形態保持性、自己消火性を有する繊維製品を得ることを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の難燃性合成繊維(塩素含有繊維)の基質となる重合体(塩素含有重合体)は、アクリロニトリル単位30〜70重量%、塩素含有ビニルおよび/または塩素含有ビニリデン単量体単位70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜10重量%からなる。
【0026】
前記塩素含有ビニルおよび塩素含有ビニリデンの具体例としては、塩化ビニル、塩化ビニリデンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。得られる繊維の難燃性、価格、入手性、取扱いの容易さなどから、塩化ビニル、塩化ビニリデンが好ましい。
【0027】
塩素含有ビニル単位および塩素含有ビニリデン単位の両者を含む場合は、これらの重量比としては、90:10〜10:90であることが好ましく、70:30〜30:70であることがより好ましい。両者の重量比をこの範囲とすることにより、得られる繊維が所望の性能(強度、難燃性、染色性、白度など)を有し、かつアクリル繊維としての風合いも有する繊維とすることができる。
【0028】
前記共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有ビニル系単量体およびそれらの塩などがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。これら共重合可能なビニル系単量体は、塩素含有重合体からなる繊維に、染色性や強度などの特性を付与するために用いられる。例えば、スルホン酸基含有ビニル系単量体を用いた場合には、前記塩素含有重合体の染色性を向上させることができる。
【0029】
前記アクリロニトリル単位はより好ましくは40〜60重量%であり、塩素含有ビニルおよび/または塩素含有ビニリデン単量体単位はより好ましくは60〜40重量%、およびそれらと共重合可能なビニル系単量体単位はより好ましくは0.1〜5重量%であることが特に好ましい。
【0030】
前記塩素含有重合体の各単位の組合せは、たとえば、アクリロニトリル−塩化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニル−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−フッ化ビニリデンなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
前記塩素含有重合体の具体例としては、例えば塩化ビニル50部、アクリロニトリル49部、スチレンスルホン酸ソーダ1部よりなる共重合体、塩化ビニリデン47部、アクリロニトリル51.5部、スチレンスルホン酸ソーダ1.5部よりなる共重合体、塩化ビニリデン41部、アクリロニトリル56部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ3部などがあげられる。これらは、既知の重合方法で得ることができる。
【0032】
本発明においては、酸化亜鉛の含有割合が20〜80重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体を前記塩素含有繊維に含有させることにより、塩素含有繊維を用いた難燃性寝具製品、家具などを燃焼させたときに、燃焼後、繊維内に残存し形態を保持する働きがあるだけでなく、燃焼時、不燃物である縮合リン酸塩系化合物をコアとして、周囲などに複合化している酸化亜鉛の存在により、前記塩素含有繊維が架橋、炭化するため、燃焼後の繊維炭化物に柔軟性を持たせることができる。さらには、推定ではあるが、縮合リン酸塩系化合物の存在および酸化亜鉛の活性により、つまり、酸化亜鉛が前記塩素含有繊維中の塩素と容易に反応し、塩化亜鉛となり、この塩化亜鉛が重合体中の分子鎖間架橋反応の触媒として作用する働きが適度に弱められるため、酸化亜鉛の存在による燃焼時の塩素含有繊維の高収縮を抑制、炭化速度を弱め、燃焼後の繊維炭化物が硬くかつ脆くなるのを抑えることができる。前記塩素含有繊維の高収縮、および硬くかつ脆くなる現象は、寝具製品や家具製品の一部の難燃試験、例えば米国カリフォルニア州燃焼試験TB603において、塩素含有繊維を用いた不織布を用いた場合、収縮あるいは割れにより不織布に穴明きが発生し、そこから内部の易燃性ウレタンに着火し、前記試験に不合格になる場合があるので良くない。
【0033】
前記酸化亜鉛含有量が20〜80重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体に用いる縮合リン酸塩系化合物としては、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩などの鎖状ポリリン酸塩、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸塩などの環状ポリリン酸塩などを挙げることができるがこれらに限定されるものではなく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。具体的には、鎖状ポリリン酸塩としては、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウムなどのトリポリリン酸塩などがあげられ、環状ポリリン酸塩としては、トリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸アルミニウム、テトラメタリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸アルミニウムなどがあげられる。なかでも、特にトリポリリン酸塩が燃焼時の温度領域(500℃〜1000℃)において、その一部が溶融し、繊維表面にガラス皮膜を形成する効果が高いため、燃焼時、繊維形態保持効果を強め、さらには燃焼後の繊維炭化物に柔軟性を付与するので好ましい。
【0034】
前記酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体を作製する方法としては、特に限定されるものではないが、湿式反応により40〜100℃の温水中で前記酸化亜鉛と縮合リン酸塩系化合物を反応させた後、ろ過、乾燥、粉砕させたものが好ましい。この方法により、酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体の形状として、縮合リン酸塩系化合物の表面を酸化亜鉛で被覆(コーティング)したもの、あるいは縮合リン酸塩系化合物と酸化亜鉛が化学的あるいは物理的力で結合あるいは接着した形状が得られる。前記塩素含有重合体を含有する紡糸原液に添加した際、酸化亜鉛と縮合リン酸塩系化合物が近接していないと、局部的に縮合リン酸系塩による酸性、あるいは酸化亜鉛による塩基性が生じ、紡糸原液がゲル化あるいは着色して、紡糸性が悪くなるだけでなく、視感の良い繊維を安定して得ることができない。
【0035】
前記酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体における酸化亜鉛の含有割合は20〜80重量%である。酸化亜鉛の含有割合が20重量%未満の場合は、燃焼時に前記塩素含有繊維が充分に架橋、炭化せず、溶融するため、例えば前記塩素含有繊維をベットカバーとして用いた寝具製品に炎を晒すと、加熱部分に穴明きが生じ、炎が内部の易燃性物質であるウレタンフォーム等に着火するため、充分な難燃性能を得ることができない。一方、酸化亜鉛の含有割合が80重量%を超える場合は、燃焼時、前記塩素含有繊維が容易に架橋、炭化して繊維炭化物となるが、この場合縮合リン酸塩系化合物含有量が20重量%未満となるため、繊維炭化物に柔軟性を付与することができない。
【0036】
酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体の含有量は、前記塩素含有重合体100重量部に対して3〜50重量部であり、好ましくは4〜40重量部、より好ましくは5〜30重量部である。酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体の含有量が3重量部未満の場合は、燃焼後に塩素含有重合体の形態を保持する効果(形態保持効果)が少なくなる傾向があり、所望とする高度な難燃性能を得る必要な形態保持効果を得ることができない。前記含有量が50重量部を超える場合は、充分な形態保持効果は得られるが繊維化時の製造工程において糸切れなどが発生するため好ましくない。
【0037】
前記酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体の平均粒子径としては、5μm以下であることが塩素含有重合体に前記酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体成分を添加してなる繊維の製造工程上におけるノズル詰りなどのトラブル回避、繊維の強度向上、繊維中での縮合リン酸塩系化合物成分粒子の分散などの点から好ましい。
【0038】
本発明の難燃性合成繊維は、前記塩素含有重合体、酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体に、さらに塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上である塩素化パラフィンを含有する。
【0039】
前記塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニルのホモポリマー、塩化ビニルと他の共重合可能な単量体、例えば酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル等との共重合体が挙げられる。塩素含有量の点から塩化ビニルのホモポリマーおよび塩化ビニル単量体と酢酸ビニルの共重合体であることが好ましい。
【0040】
前記塩化ビニリデン樹脂としては、塩化ビニリデンのホモポリマー、塩化ビニリデンと他の共重合可能な単量体、例えば塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等との共重合体が挙げられる。塩素含有量の点から塩化ビニリデンのホモポリマーが好ましい。
【0041】
前記塩素化パラフィンの平均分子量は800以上であり、塩素含有量は50重量%以上である。平均分子量は900以上であることが好ましく、1100以上がより好ましい。平均分子量の上限は特に限定されるものではないが、紡糸原液の粘度の点から、100000であることが好ましい。塩素含有量は55重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。塩素化パラフィンの平均分子量が800未満、または塩素含有量が50重量%未満の場合は、例えば、紡糸時、凝固、水洗工程が必要となる湿式紡糸法において、浴中に塩素化パラフィンが溶出してしまい、所望の難燃性能が得られない可能性がある。
【0042】
前記塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂、および/または塩素化パラフィンは、前記塩素含有重合体に添加して用いられる。具体的な添加形態としては、樹脂粉末あるいはこれら樹脂を溶解した溶液を繊維化時の紡糸原液に投入し、混合する方法が挙げられる。なかでも、樹脂粉末の状態で添加する方法が紡糸原液との馴染みが良好で繊維化が容易であり好ましい。樹脂粉末の状態で添加する場合は、塩化ビニル樹脂または塩化ビニリデン樹脂の平均粒子径は、前記難燃性合成繊維中、10μm以下であることが好ましい。10μmを超えると繊維化時にノズルの閉塞等が生じ生産が困難になったり、繊維の基本的物性(強度、伸度等)が劣る傾向がある。
【0043】
前記塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または塩素化パラフィンの添加量は、前記塩素含有重合体100重量部に対し3〜50重量部であり、好ましくは5〜20重量部である。前記塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または塩素化パラフィンの添加量が3重量部未満の場合は、所望の難燃性を得ることが困難となり、50重量部を超えると繊維化時に単糸切れや繊維の基本的物性(強度、伸度等)が劣る傾向があり好ましくない。
【0044】
前記塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂は、既知の方法で製造される。例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、マイクロサスペンジョン法が挙げられる。なかでも、マイクロサスペンジョン法で製造された樹脂は、樹脂をさらに微粉砕する等の前処理なく使用できる点で好ましい。
【0045】
前記平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上の塩素化パラフィンはパラフィンワックスやノルマルパラフィンを原料とし塩素化して製造される。該塩素化は、公知の方法を採用することができる。
【0046】
本発明の難燃性合成繊維は、塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上の塩素化パラフィンを前記塩素含有繊維に含有させることによって、タバコ熱のような火力が弱く温度も低いが、蓄熱するような燃焼場において優れた難燃効果を発揮する。この理由は、推定ではあるが、アクリロニトリル、塩素含有ビニルおよび/または塩素含有ビニリデンからなる合成繊維に、前記合成繊維と塩素放出温度および軟化点の異なる熱可塑性樹脂である塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上の塩素化パラフィンを添加することで、例えば米国タバコ試験16CFRpart1632によるマットレスの難燃試験実施時に、タバコ燃焼温度(約200〜400℃)の広い範囲において、継続的に不燃性ガスである塩素ガスを放出し、また、前記合成繊維が軟化、溶融する前に塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上の塩素化パラフィンが軟化、溶融し、繊維表面に被膜を形成することで可燃性ガスの発生を抑制する効果があると考えられる。
【0047】
前記米国におけるマットレスの難燃規格であるタバコ試験16CFRpart1632に基づく難燃試験とは、たとえばマットレスの上にタバコを15cm以上の間隔で合計18本置いた時に、タバコが燃え尽きた後の炭化範囲が2インチ以内である場合を合格とする試験である。また、他の難燃試験として、米国カリフォルニア州燃焼試験TB603(マットレスの側面から42mmの所に垂直にT字型のバーナー、マットレスの上面から39mmの所に水平にT字型のバーナーをセットし、燃焼ガスとしてプロパンガスを使用し、ガス圧力は101KPaで上面はガス流量12.9L/分、側面は6.6L/分、着炎時間が側面50秒間および上面70秒間で、計30分間の観察時間における最大熱放出量が200Kw未満であり、かつ初めの10分間の積算熱放出量が25MJ未満である場合を合格とする)がある。
【0048】
本発明の難燃性合成繊維には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤といったその他添加剤を含有してもよい。
【0049】
本発明の難燃性合成繊維は、塩素含有重合体を用い、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾半湿式法等の公知の製造方法で製造される。例えば湿式紡糸法では、上記重合体をN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、ロダン塩水溶液等の溶媒に溶解後、ノズルを通じて凝固浴に押出すことで凝固させ、次いで水洗、乾燥、延伸、熱処理し、必要であれば捲縮を付与し切断することで製品を得る。
【0050】
本発明の難燃性合成繊維は、短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能であり、例えば他の天然繊維および化学繊維と複合させて加工するには複合させる繊維に近似なものが好ましく、繊維製品用途に使用される他の天然繊維および化学繊維に合わせて、1.7〜12dtex程度、カット長38〜128mm程度の短繊維が好ましい。
【0051】
前記塩素含有繊維において炭化速度が速いと、推定ではあるが、燃焼時に繊維が急速に炭化し、燃焼後、硬く脆くなる。一方、炭化速度が遅いと、燃焼時に繊維が炭化する前に、軟化、溶融するために、燃焼後、繊維が形状を保持しなくなる。ここで、炭化速度とは、TMA(熱応力歪測定装置)にて測定されるもので、初期サンプル長を100%とし、150〜250℃付近に現われる初期収縮の下式で求められる収縮速度
収縮速度[%・℃-1]=
初期収縮率[%]/(初期収縮終了温度[℃]−初期収縮開始温度[℃])
をいう。
【0052】
炭化速度と本発明の繊維、またはその繊維を用いた寝具製品や家具製品の難燃性との関係は、試験の方法、合否判定基準などによって異なってくるが、本発明の塩素含有繊維、あるいはその繊維を用いた寝具製品や家具製品の燃焼後、前記繊維あるいは前記繊維を用いた製品に柔軟性を要求されるような場合、例えば米国カリフォルニア州難燃試験TB603における試験体(マットレス)のボーダー部分(マットレスの側面)においては、燃焼後、マットレス本体の荷重を支えるために、ある程度の形状維持性、および柔軟性が要求されるため、炭化速度は、軟化、溶融してしまわない程度に遅い方が好ましい。本発明の塩素含有重合体の炭化速度は、特に限定されるものではないが、たとえば、炭化速度が2.0〜3.5%・℃-1であることが好ましい。
【0053】
また、本発明は、(A)請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性合成繊維20重量%以上、および(B)天然繊維および化学繊維の少なくとも一種の繊維80重量%以下からなる難燃繊維複合体に関する。
【0054】
(B)天然繊維および化学繊維の少なくとも一種の繊維は、本発明の難燃性布帛に優れた風合、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性を与えるための、また寝具や家具に難燃性不織布を用いる際の加工性を良好にする成分である。
【0055】
前記天然繊維の具体例としては、例えば綿、麻などの植物性繊維や、羊毛、らくだ毛、山羊毛、絹などの動物性繊維などが挙げられる。また化学繊維の具体例としては、たとえばビスコースレーヨン繊維、キュプラ繊維、アセテート繊維などの再生繊維、再生繊維に水ガラスを含有せしめた特殊再生繊維(セテリ オサケュスティオ製 VISIL 登録商標)、あるいはナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などの融点が200℃を超えるポリエステル繊維、ポリエステル系低融点バインダー繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維などの合成繊維が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら天然繊維や化学繊維は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なかでも、耐熱性、風合いの点から、綿、レーヨン、ビスコースレーヨン繊維、キュプラ繊維などのレーヨン繊維が好ましく、不織布に嵩高性を付与するという点から、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系低融点バインダー繊維からなる群より選択された少なくとも1つの繊維が好ましい。
【0056】
前記天然繊維および化学繊維を両方用いる場合は、両者の混合重量比は、1:6〜6:1であることが好ましく、1:6〜3:1であることがより好ましい。前記天然および化学繊維重量比をこの範囲とすることにより、得られる繊維が所望の性能(強度、難燃性、染色性、白度など)を有し、かつアクリル繊維としての風合いも有する繊維とすることができる。
【0057】
本発明において、前記繊維(B)にポリエステル系繊維を用いる場合には、燃焼時に溶融物が生じ、難燃性不織布を覆うことで難燃性不織布により形成される炭化層がより強固なものとなり、激しい炎に長時間晒されても寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ炎遮蔽バリア性能を付与することができること、不織布に加工した際の嵩高性が得やすいこと、開繊機(カード)において難燃性合成繊維の強度の問題から繊維が破損することを緩和することから好ましい。ポリエステル系繊維の含有量は、難燃繊維複合体中40重量%以下とすることが好ましく、15〜25重量%含むことがより好ましい。ポリエステル系繊維の含有量が、40重量%を超える場合は、燃焼時にポリエステル繊維が溶融し、炎遮断バリアに穴明きが生じるため、難燃性能が劣る傾向がある。15重量%未満の場合は、燃焼時に生じる溶融物が充分に難燃性複合体を覆うことができず、炎遮蔽バリア性能が不充分となる傾向がある。
【0058】
本発明においてポリエステル系低融点バインダー繊維を用いる場合は、不織布とする際に簡便な熱溶融接着法が採用できる。ポリエステル系低融点バインダー繊維としては、低融点ポリエステル単一型繊維でもよくポリエステル/低融点ポリプロピレン、低融点ポリエチレン、低融点ポリエステルからなる並列型もしくは芯鞘型複合型繊維でも良い。一般的に低融点ポリエステルの融点は概ね110〜200℃、低融点ポリプロピレンの融点は概ね140〜160℃、低融点ポリエチレンの融点は概ね95〜130℃であり、概ね110〜200℃程度で融解接着能力を有するものであれば特に限定はない。また低融点でないポリエステル系繊維を使用した場合、不織布とする際簡便なニードルパンチ法が採用できる。
【0059】
前記(A)難燃性合成繊維20重量%以上および(B)天然繊維および化学繊維の少なくとも一種の繊維80重量%以下とから、本発明の難燃繊維複合体が製造されるが、それらの混合割合は、得られる難燃性複合体からなる不織布から製造される最終製品に要求される難燃性とともに、吸水性、風合、吸湿性、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて決定される。一般に、(A)難燃性合成繊維の混合割合が90〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは60〜20重量%であり、前記繊維(B)の混合割合が10〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは80〜40重量%である。なお、不織布製造の際に熱溶融接着法を選択する場合には、前記繊維(B)として、ポリエステル系低融点バインダー繊維を少なくとも難燃繊維複合体中に10重量%含むことが好ましい。前記繊維(A)の混合割合が20重量%未満の場合は、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐための炭化層形成が不充分で所望とする高度な難燃性能を得ることが難しい傾向がある。また、タバコ炎などの火源に対する温度低下効果に対して有効とされる塩素ガスの放出量が少なくなり、火源の温度が充分に下がらず、例えば、前記難燃性合成繊維の混合割合が20重量%未満である不織布を用いたマットレスにおいて、米国タバコ試験16CFRpart1632に不合格になるケースがあるので好ましくない傾向がある。
【0060】
本発明の難燃繊維複合体は、前述のごとき(A)難燃性合成繊維、(B)天然繊維および化学繊維の少なくとも一種の繊維が複合したものであり、織物編物、不織布などの布帛、スライバーやウェブなどの繊維の集合体、紡績糸や合糸・撚糸などの糸状物、編み紐、組み紐などのヒモ状物のごとき形態のものである。前記複合したとは、難燃性合成繊維、天然繊維および/または化学繊維をさまざまな方法で混ぜ合わせて所定の比率で含有する布帛などを得ることをいい、混綿、紡績、撚糸、織り、編みの段階でそれぞれの繊維や糸を組み合わせることを意味する。なかでも、加工性の点から不織布であることが好ましい。
【0061】
本発明の難燃繊維複合体は炎遮蔽バリア用不織布として好適に用いられる。ここでいう炎遮蔽バリアとは、難燃性不織布が炎に晒された際に難燃性不織布が繊維の形態を維持したまま炭化することで炎を遮蔽し、反対側に炎が移るのを防ぐことであり、具体的にはマットレスや布張り家具等の表面生地と内部構造体であるウレタンフォームや詰め綿等との間に本発明の炎遮蔽バリア用不織布をはさむことで、火災の際に内部構造物への炎の着火を防ぎ、被害を最小限に食い止めることができるものである。難燃性不織布の製造方法としては一般的な熱溶融接着法、ケミカルボンド法、ウォータージェット法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法等の不織布作成方法が用いることが可能であり、複数の種類の繊維を混綿した後にカードにより開繊、ウェブ作成を行い、このウェブを不織布製造装置にかけることにより作成される。装置の簡便さからはニードルパンチ方式、ポリエステル系低融点バインダー繊維を用いれば熱溶融接着方式による製造が一般的で生産性が高いため好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0062】
また、本発明は前記炎遮蔽バリア用不織布を用いた難燃性マットレスに関する。
【0063】
本発明の難燃性マットレスとしては、例えば、金属製のコイルが内部に用いられたポケットコイルマットレス、ボックスコイルマットレス、あるいはスチレンやウレタン樹脂などを発泡させたインシュレーターが内部に使用されたマットレス等がある。
【0064】
本発明の難燃繊維複合体による防炎性が発揮されることにより、前記難燃性マットレス内部の構造体への延焼が防止できるため、何れの構造のマットレスにおいても、難燃性と同時に優れた風合いや触感に優れたマットレスを得ることができる。さらに本発明の難燃繊維複合体を使用すると、マットレスに関する難燃規格、米国タバコ試験16CFRpart1632、およびベッドマットレスの米国カリフォルニア州燃焼試験TB603に合格するものが得られる。
【実施例】
【0065】
以下、実施をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
実施例1〜13
(塩素含有繊維の製造方法)
アクリロニトリル単位51重量%、塩化ビニリデン単位48重量%およびp−スチレンスルホン酸ソーダ単位1重量%よりなる共重合体(塩素原子割合:35重量%)をアセトンに樹脂濃度が30%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液の樹脂重量に対して、酸化亜鉛の含有割合が20重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体における縮合リン酸塩系化合物としてトリポリリン酸二水素アルミニウム(K−WHITE #105 テイカ(TAYCA)(株)製)、酸化亜鉛の含有割合が40重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体における縮合リン酸塩系化合物としてトリポリリン酸二水素アルミニウム(K−WHITE #108 テイカ(TAYCA)(株)製)、「塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂」として塩化ビニルペースト樹脂(PSH−10 (株)カネカ製)、「および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上である塩素化パラフィン」として塩素化パラフィン(味の素ファインテクノ(株)製 エンパラ70;平均分子量1156 塩素含有量68−72重量%)を表1に示す添加量において添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル孔径0.10mmおよび孔数1000ホールのノズルを用い、50%アセトン水溶液中へ押し出し、水洗したのち120℃で乾燥し、ついで3倍に延伸してから、さらに150℃で5分間熱処理、さらに切断することで塩素含有繊維を得た。得られた繊維は繊度5.6dtexであり、カット長51mmの短繊維であった。
【0067】
比較例1〜11
酸化亜鉛を複合化(コーティング)していない縮合リン酸塩系化合物として実施例で用いたトリポリリン酸二水素アルミニウム単体、および酸化亜鉛単体(堺化学(株)製 酸化亜鉛3種)を表1および表2に示す添加量において添加した以外は、実施例1〜13と同様の方法により紡糸原液を得、塩素含有繊維を作製した。
【0068】
実施例1〜3および比較例1〜5において得られた塩素含有繊維を用いて、塩素含有繊維の難燃性評価試験(LOI値、加熱時の炭化速度(繊維収縮速度))を下記の試験法に従い実施した。結果を表1に示す。なお、総合判定については、塩素含有繊維の難燃性は、LOI値が30以上、かつ加熱時の炭化速度(繊維収縮速度)が2.0〜3.5%・℃-1であるものを充分な難燃性があるとみなし、合格○とし、前記条件を満たさないものを不合格×とした。
【0069】
【表1】

【0070】
(加熱時の炭化速度(繊維収縮速度)の測定方法)
実施例および比較例で得られた塩素含有繊維、約3000dtexを約5mmとり、TMA(熱応力歪測定装置(セイコーインスツルメンツ(株)製 TMA/SS150C 使用ガス:チッ素 ガス流量:30L/min、昇温速度:3℃/min 荷重18mN))にて測定した。初期サンプル長を100%とし、150〜250℃付近に現われる初期収縮の収縮速度(収縮速度[%・℃-1]=初期収縮率[%]/(初期収縮終了温度[℃]−初期収縮開始温度[℃]))を算出し、収縮速度が大きいほど塩素含有繊維の炭化速度が早いものと定義した。難燃性評価は、炭化速度が2.0〜3.5%・℃-1である場合、難燃性があるものと判断した。
【0071】
表1より、実施例1〜3は、LOI値による難燃性評価において数値が30以上となり、かつ加熱時の炭化速度が2.0〜3.5%・℃-1の範囲となるため、優れた難燃性を示すことがわかる。
【0072】
これに対して、比較例1では酸化亜鉛の含有割合が20〜80重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体を含まないため、加熱時の炭化速度が1.5%・℃-1であり、充分な炭化速度が得られなかった。
【0073】
比較例2では、塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上である塩素化パラフィンを含まないためLOI値が低く劣ったものとなった。
【0074】
比較例3では、トリポリリン酸二水素アルミニウムに酸化亜鉛が複合化されていないため、加熱時の炭化速度が1.6%・℃-1であり、充分な炭化速度が得られなかった。
【0075】
比較例4では、酸化亜鉛の含有割合が20〜80重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体が塩素含有重合体100重量部に対して30重量部含有しているため、残じんが発生してLOI値が低く劣ったものになった。
【0076】
比較例5では、LOI値による難燃性評価における数値は30以上となるが、加熱時の炭化速度が5.5%・℃-1であり、炭化速度が2.0〜3.5%・℃-1の範囲を上回るため不合格となった。
【0077】
実施例4〜13および比較例6〜12で得られた塩素含有繊維を用いて、難燃性評価試験(簡易TB603試験、簡易16CFRpart1632試験)を下記のように実施した。結果を表2に示す。なお、総合判定は、難燃性評価試験(簡易TB603試験、簡易16CFRpart1632試験(通称;タバコ試験))の結果を総合して、合格○、不合格×と判定した。
【0078】
【表2】

【0079】
2)難燃性評価試験用不織布(難燃性複合体)の作成方法
前記実施例および比較例に従って作製した塩素含有繊維50重量%とレギュラーレーヨン(ダイワボウ(株)製、1.5dtex、カット長38mm)30重量%と熱融着ポリエステル繊維(東レ(TORAY)(株)製のサフメット(繊度4.4dtex、カット長51mm、融点110℃))20重量%とを均一に混合し、ローラーカードにより開繊してウェブを作製した後、熱融着方式により目付け300g/m2、縦200mm×横200mmの難燃繊維複合体(難燃性試験用不織布)を作製した。
3)難燃性評価試験方法
【0080】
(簡易TB603試験方法)
縦200mm×横200mm×厚さ10mmのパーライト板の中心に直径150mmの穴をあけたものを準備し、その上に難燃性評価試験用不織布を置き、加熱時に難燃性評価試験用不織布が収縮しないよう4辺をクリップで固定した。この試料を難燃性評価試験用不織布の面を上にして、ガスコンロ((株)パロマ工業製PA−10H−2)にバーナー面より40mmの所に試料の中心とバーナーの中心が合うようにセットした。燃料ガスは純度99%以上のプロパンを用い、炎の高さは25mmとし、接炎時間は180秒とした。この時に難燃性評価試験用不織布の炭化層に貫通した孔があいておらずひびもなく、さらには燃焼後の不織布を、中心部を軸に180°折り曲げたとき、不織布の炭化層が割れなかった場合を○、穴やひびがある場合、折り曲げたときに割れる場合を×とし、○を合格とした。
【0081】
(簡易16CFRpart1632試験方法)
難燃性評価試験用不織布の作成方法によって作成した不織布を、図1および2に示すように、該不織布(3)を縦30cm×横30cm×厚み5cmのポリウレタンフォーム(1)、(2)(アキレス製 密度18kg/m3)の上に置き、さらに表面生地(4)としてコットン製織布(目付120g/cm2)で該不織布(3)、ウレタン(1)、(2)全面を包んだ後、工業用キルトミシン((株)ジューキ製)で表側対角線をキルトし、擬似マットレスとした。
【0082】
この擬似マットレスのキルト部分に、着火したタバコ4本を置き、試験を開始した。試験終了後の擬似マットレスの燃焼状況を米国連邦法16CFRpart1632に準じて次のように評価した。即ち、表面炭化範囲がタバコから2インチ以内でかつ裏面に炭化部分が露出していないものを○、表面炭化範囲がタバコから2インチ以内で裏面に炭化部分が露出しているものを△、表面炭化範囲がタバコから2インチを超える場合を×とした。○または△を合格とした。
【0083】
実施例4〜13の燃焼試験結果は良好であった。難燃性不織布の難燃性評価においては、簡易TB603試験では、ガスコンロによる加熱後、良好な炭化層を形成し穴明きやひび割れの発生もなく合格し、また、燃焼後の不織布の柔軟性も良好であった。また、簡易16CFRpart1632においても、試験終了後の擬似マットレスの表面炭化範囲がタバコから2インチ以内であったため、高度な難燃性能を有していると判断し、総合評価を合格とした。
【0084】
これに対して比較例6では、形状保持性能や炭化物の柔軟性を与え、対TB603性能に優れると考えられる酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体を10部添加しているため、簡易TB603試験には合格するが、対16CFR1632試験性能に優れた効果を発揮する塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂を含有していないため、簡易16CFRpart1632試験において、試験終了後の擬似マットレスの表面炭化範囲がタバコから2インチ以上となり、充分な難燃性能を得ることができないことから、総合判定を不合格とした。
【0085】
また、比較例7および8では、対16CFR1632試験性能に優れた効果を発揮する塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または塩素化パラフィンを15部含有するため、簡易16CFRpart1632試験において合格となったが、対TB603性能に優れると考えられる酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体を添加していないため、簡易TB603試験において、着火後直ぐに不織布に穴明きが生じ、充分な難燃性能を得ることができないことから、総合判定を不合格とした。
【0086】
比較例9では、形状保持性能および、推定ではあるがガラス被膜形成能に優れるトリポリリン酸二水素アルミニウムを前記塩素含有重合体に5部添加しているが、酸化亜鉛をトリポリリン酸二水素アルミニウムと複合化(コーティング)していないため、簡易TB603試験において、燃焼時、前記塩素含有重合体の炭化速度が遅く、不織布に穴明きが生じ、充分な難燃性能を得ることができないことから総合判定が不合格となった。また、比較例10においても、対16CFR1632試験性能に優れた効果を発揮する塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂を15部含有するため、簡易16CFRpart1632試験において合格となったが、簡易TB603試験において、着火後直ぐに穴明きが生じ、充分な難燃性能を得ることができなかったため、不合格とした。
【0087】
また、比較例11および比較例12においては、前記塩素含有重合体の架橋、炭化を促進する酸化亜鉛を表1に示す量において、前記塩素含有繊維に添加しているため、簡易TB603試験時に、不織布が炭化膜を形成するが、コアとなるトリポリリン酸二水素アルミニウムを含有していないため、燃焼後の不織布の炭化部分が硬く脆くなっており、柔軟性がなく、折り曲げたときに割れが発生したため、総合判定が不合格となった。
【0088】
特に比較例12においては、対16CFR1632試験性能に優れた効果を発揮する塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂を15部含有するにもかかわらず、簡易16CFR1632試験において、試験終了後の擬似マットレスの表面炭化範囲がタバコから2インチ以上となり、充分な難燃性能を得ることができなかった。これは、縮合リン酸塩系化合物を含まない酸化亜鉛は、活性が強く、簡易16CFRpart1632試験において効果的と考えられる、塩化ビニルおよび/または塩化ビニリデン樹脂および/または塩素化パラフィンから放出される塩素ガスと容易に反応し、塩化亜鉛として、前記塩素重合体内に滞在するからだと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】難燃性評価用簡易マットレスの構造(全体図)である。
【図2】難燃性評価用簡易マットレスの構造(断面図)である。
【符号の説明】
【0090】
1、2 ポリウレタンフォーム
3 不織布
4 表面生地
5 キルト部
6 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル単位30〜70重量%、塩素含有ビニルおよび/または塩素含有ビニリデン単量体単位70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜10重量%からなる重合体100重量部に対し、酸化亜鉛の含有割合が20〜80重量%である酸化亜鉛および縮合リン酸塩系化合物の複合体3〜50重量部、および塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または平均分子量800以上、かつ塩素含有量50重量%以上である塩素化パラフィン3〜50重量部を含む難燃性合成繊維であって、前記複合体、および塩化ビニル樹脂および/または塩化ビニリデン樹脂および/または塩素化パラフィンの合計が6〜50重量部である難燃性合成繊維。
【請求項2】
前記縮合リン酸塩系化合物が、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1記載の難燃性合成繊維。
【請求項3】
前記縮合リン酸塩化合物が、トリポリリン酸塩である請求項2記載の難燃性合成繊維。
【請求項4】
前記塩化ビニル樹脂が、塩化ビニル単位80〜100重量%、その他の共重合可能な単量体単位0〜20重量%からなる請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性合成繊維。
【請求項5】
前記塩化ビニリデン樹脂が、塩化ビニリデン単位50〜100重量%、その他の共重合可能な単量体単位0〜50重量%からなる請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性合成繊維。
【請求項6】
前記塩化ビニル樹脂および塩化ビニリデン樹脂の平均粒子径が10μm以下である請求項4または5記載の難燃性合成繊維。
【請求項7】
(A)請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性合成繊維20重量%以上、および(B)天然繊維および化学繊維の少なくとも一種の繊維80重量%以下からなる難燃繊維複合体。
【請求項8】
繊維(B)がポリエステル系繊維であり、かつ難燃繊維複合体に対する含有量が40重量%以下である請求項7記載の難燃繊維複合体。
【請求項9】
ポリエステル系繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、低融点バインダー繊維からなる群より選択された少なくとも1つの繊維である請求項8記載の難燃繊維複合体。
【請求項10】
前記低融点バインダー繊維が、低融点ポリエステル単一成分よりなる繊維、ポリエチレンテレフタレートと低融点ポリエステルの複合成分よりなる繊維、ポリエチレンテレフタレートと低融点ポリオレフィンの複合成分よりなる繊維からなる群より選択された少なくとも1つの繊維である請求項9記載の難燃繊維複合体。
【請求項11】
前記難燃繊維複合体が不織布である請求項7〜10のいずれかに記載の難燃繊維複合体。
【請求項12】
請求項11記載の難燃繊維複合体からなる炎遮蔽性バリア用不織布。
【請求項13】
炎遮断性バリア用不織布の目付けが250〜400g/m2である請求項12記載の難燃性マットレス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−291571(P2007−291571A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122515(P2006−122515)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】