説明

難燃性樹脂組成物、当該樹脂組成物の製造方法、及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線

【課題】耐摩耗性に優れ、更には難燃性、機械的特性等の諸特性にバランスのとれた難燃性樹脂組成物、当該樹脂組成物の製造方法、及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、エチレン系共重合体5〜20質量%、変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、表面処理が施されていない水酸化マグネシウム40〜150質量部を含有してなり、例えば、自動車や電気・電子機器に配設される電線の絶縁被覆材料や当該自動車等の構成部材等に最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、当該樹脂組成物の製造方法、及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線に関する。更に詳しくは、自動車、電気・電子機器等に使用される難燃性樹脂組成物、当該樹脂組成物の製造方法、及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電気・電子機器等の構成部材やこれらの中に配設される絶縁電線の絶縁被覆材料としては、耐熱性、耐寒性、耐湿性に加えて難燃性、耐摩耗性等の種々の特性が要求される。また、それらを構成する樹脂材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂や分子中に臭素(Br)原子や塩素(Cl)原子を含有するハロゲン系難燃剤を含有するポリオレフィン系樹脂が広く使用されていた。一方、このような材料を用いた製品を適切な処理をせずに廃棄した場合にあっては、様々な問題が発生しており、例えば、これらの製品を埋め立て廃棄した場合には、材料中に含まれるリン系化合物、可塑剤や重金属安定剤として鉛系化合物等が溶出してしまうという問題があり、また、焼却廃棄した場合には、腐食性のハロゲン系ガスやダイオキシン等が発生するという問題があった。
【0003】
このため、有害な重金属や腐食性のハロゲン系ガス等の発生がないノンハロゲン難燃性樹脂組成物が検討され、一部においては実用化されている。検討ないし実用化されているノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ベースポリマーとしてポリオレフィン系樹脂を使用し、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物を多量に充填したものが広く知られており、また、当該樹脂組成物のベースポリマーとしては、多量の金属水和物を分散させやすいエチレン系共重合体が用いられていた。
【0004】
一方、このようなノンハロゲン難燃性樹脂組成物の機械的特性や耐熱性は、現在使用されているポリビニル系樹脂と比較すると低いため、ポリ塩化ビニル系樹脂と同等の特性を有するノンハロゲン難燃性材料の開発が期待されている。そして、かかる問題を解決するため、機械的特性や耐熱性に優れるポリプロピレンをベースポリマーとして使用した樹脂組成物や(例えば、特許文献1を参照。)、エチレン系共重合体をベースポリマーとする難燃性樹脂組成物を化学架橋や電子線架橋で架橋する方法が検討されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−354826号公報([請求項1]、[0007])
【特許文献2】特開2002−332385号公報([請求項3]、[0019])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した従来の樹脂組成物は、難燃性、機械的特性、耐熱性、耐寒性等の諸特性をバランスよく兼ね備えることが難しかった。更には、これまでに検討ないし実用化されている難燃性樹脂組成物を被覆した絶縁電線は、従来のポリ塩化ビニル系樹脂を押出被覆した絶縁電線と比較して耐摩耗性が劣るものであり、これについても改善が求められていた。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性に優れ、更には難燃性、機械的特性にバランスのとれた難燃性樹脂組成物、当該樹脂組成物の製造方法、及び当該樹脂組成物を被覆した絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の難燃性樹脂組成物は、(a)ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、(b)エチレン系共重合体5〜20質量%、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び(d)変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、(e)表面処理が施されていない水酸化マグネシウム40〜150質量部を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の難燃性樹脂組成物は、前記(b)エチレン系共重合体と前記(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーとの質量比率が、エチレン系共重合体/変性スチレン系熱可塑性エラストマー=2/1〜1/2であることが好ましい。
【0010】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、前記した本発明の難燃性樹脂組成物を製造する方法であって、前記ポリプロピレン系樹脂及び表面処理が施されていない水酸化マグネシウムを溶融混練して溶融混練物とする工程と、当該溶融混練物に、エチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンを更に溶融混練する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の絶縁電線は、導体に前記本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性樹脂組成物は、ベースポリマーとしてポリプロピレン系樹脂を使用し、その他特定量のエチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンからなる樹脂混合物に対して、表面処理が施されていない水酸化マグネシウムを特定量含有する構成を採用しているので、耐熱性や耐寒性に加えて耐摩耗性に優れ、また、難燃性、機械的特性も良好となり、これらの諸特性をバランスよく兼ね備えた難燃性樹脂組成物となる。
【0013】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、エチレン系共重合体と変性スチレン系熱可塑性エラストマーとの質量比率が、エチレン系共重合体/変性スチレン系熱可塑性エラストマー=2/1〜1/2であるので、樹脂組成物の耐摩耗性を更に向上させることができる。
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、前記した本発明の難燃性樹脂組成物を製造するにあたり、まず、ポリプロピレン系樹脂及び表面処理が施されていない水酸化マグネシウムを溶融混練して溶融混練物を製造して、この溶融混練物に、エチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンを更に溶融混練するようにしているので、樹脂組成物中における水酸化マグネシウムの分散性が向上して、耐摩耗性や機械的特性が更に向上する。
【0015】
そして、本発明の絶縁電線は、導体に前記した本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆してなるので、前記した本発明の樹脂組成物の奏する効果を享受し、耐熱性や耐寒性に加えて耐摩耗性、難燃性、機械的特性をバランスよく兼ね備えた絶縁電線となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物について説明する。本発明の難燃性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という場合もある。)は、(a)ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、(b)エチレン系共重合体5〜20質量%、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び(d)変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、(e)表面処理が施されていない水酸化マグネシウム40〜150質量部を含有してなるものである。
【0017】
(a)ポリプロピレン系樹脂:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成するポリプロピレンは、樹脂組成物のベースポリマーとなり、樹脂組成物の機械的特性、耐熱性及び耐寒性を良好なものとする。使用可能なポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンのみを重合したものや、エチレン、1−ブテンなどのα−オレフィンとプロピレンを共重合したもの等が挙げられる。具体的には、例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、及びプロピレン−ブテンランダム共重合体等が挙げられる。
【0018】
また、かかるポリプロピレン系樹脂としては、本発明の樹脂組成物が、耐摩耗性が要求される部材や絶縁電線の絶縁被覆材料として使用されることを考慮して、硬度(HRR)が65以上、曲げ弾性率が1000MPa以上のポリプロピレンを使用することが好ましい。
【0019】
なお、本発明において、これらのポリプロピレンは、樹脂組成物の混練性を向上させるという観点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイト(MFR)が、10.0g/10分以下(230℃、2.16kgf荷重)であることが好ましい。
【0020】
(b)エチレン系共重合体:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成するエチレン系共重合体は、後記する(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーと併用することにより、樹脂組成物の機械的特性や耐摩耗性を向上させるはたらきを持つ。本発明において使用可能なエチレン系共重合体としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体等が挙げられる。
【0021】
本発明においてこれらのエチレン系共重合体は、ポリプロピレン系樹脂と同様に、樹脂組成物の混練性を向上させるという観点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイト(MFR)が10.0g/10分以下(190℃、2.16kgf荷重)であることが好ましい。このようなエチレン系共重合体として、「エバフレックス」「ニュクレル」「ハイミラン」(全て三井デュポンポリケミカル社製)、「ロトリル」(アトフィナ社製)等が挙げられる。
【0022】
(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成し、前記の(b)エチレン系共重合体と併用することにより、樹脂組成物の機械的特性や耐摩耗性を向上させる変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーを不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性したものである。
【0023】
使用可能なスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が、不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル等が挙げられる。
【0024】
本発明においては、これらの変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレン系樹脂及びエチレン系共重合体と同様に、樹脂組成物の混練性を向上させるという点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイト(MFR)が、10.0g/10分以下(230℃、2.16kgf荷重)であることが好ましい。このような変性スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、「変性DYNARON」(JSR(株)製)、「タフテックM」(旭化成(株)製)、「クレイトンFG1901X」(クレイトンポリマー社製)等がある。
【0025】
(d)変性ポリオレフィン:
変性ポリオレフィンは、必要により本発明の樹脂組成物に添加され、後記する非樹脂成分である(e)表面処理が施されていない水酸化マグネシウムの樹脂混合物に対する分散性を向上させ、更に機械的特性や耐摩耗性を向上するはたらきを持つ。
【0026】
変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性したものである。使用できるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が、不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル等がある。
【0027】
本発明においては、これらの変性ポリオレフィンは、ポリプロピレン系樹脂等と同様に、樹脂組成物の混練性を向上させるという点から、JIS K7210に規定されるメルトフローレイトが、10.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)以下であることが好ましい。このような変性ポリオレフィンとして、「ポリボンド」(ユニロイヤルケミカル社製)、「アドテックス」(日本ポリエチレン(株)製)、「オレバック」(アトフィナ社製)等が挙げられる。
【0028】
(e)水酸化マグネシウム:
本発明の難燃性樹脂組成物を構成する水酸化マグネシウムは、当該樹脂組成物の難燃性を向上させるとともに、耐摩耗性を良好なものとする。また、水酸化マグネシウムとしては、脂肪酸やシランカップリング剤等で表面処理されたものや、表面処理が施されていないものがあるが、本発明にあっては、表面処理が施されていない水酸化マグネシウムを採用することにより、樹脂組成物の耐摩耗性を更に向上させることができる。表面処理が施されていない水酸化マグネシウムとしては、例えば、「マグニフィンH7」(アルベマール社製)、キスマ5(協和化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0029】
水酸化マグネシウムは、樹脂混合物に対する分散性を良好にするため、例えば、0.3〜1.5μmの範囲の平均粒径を有しているもので、凝集がほとんどないものが好ましい。平均粒径は、0.5〜1.0μm程度とすることが特に好ましい。
【0030】
次に、本発明の難燃性樹脂組成物における各成分の含有量について説明する。
樹脂組成物中における(a)ポリプロピレンの含有量は、樹脂成分の全体、すなわち、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)エチレン系共重合体、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー、(d)変性ポリオレフィンからなる樹脂混合物全体に対して、40〜90質量%である。ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%より少ないと、樹脂組成物の耐摩耗性や耐熱性が低下する場合があり、一方、含有量が90質量%を超えると、樹脂組成物の機械的特性や耐寒性が低下する場合がある。かかるポリプロピレン系樹脂の含有量は、樹脂混合物全体に対して、70〜80質量%とすることが好ましい。
【0031】
(b)エチレン系共重合体と(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレンに各々単独で使用するより、併用することで機械的特性や耐摩耗性が向上する。エチレン系共重合体の含有量は、樹脂混合物全体に対して5〜20質量%であり、また、変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量も、樹脂混合物全体に対して5〜20質量%である。エチレン系共重合体や変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が5質量%より小さいと、機械的特性や耐寒性が低下する場合があり、一方、含有量が20質量%を超えると、耐摩耗性や耐熱性が低下する場合がある。エチレン系共重合体や変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、樹脂混合物全体に対して5〜10質量%とすることが好ましい。
【0032】
また、エチレン系共重合体と変性スチレン系熱可塑性エラストマーの質量比率は、エチレン系共重合体/変性スチレン系熱可塑性エラストマー=2/1〜1/2であることが好ましく、略等量(1/1)であることが特に好ましい。両者をこの質量比率の範囲内とすることにより、更に耐摩耗性が向上する。
【0033】
エチレン系共重合体と変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の合計は、樹脂混合物全体に対して10〜40質量%とすることが好ましい。かかる含有量の合計が10質量%より少ないと、樹脂組成物の機械的特性や耐寒性が低下する場合があり、一方、40質量%を超えると、樹脂組成物の耐熱性や耐摩耗性が低下する場合がある。エチレン系共重合体と変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の合計は、10〜20質量%とすることが特に好ましい。
【0034】
樹脂組成物中における(d)変性ポリオレフィンの含有量は、樹脂混合物全体の0〜20質量%である。変性ポリオレフィンの含有量が20質量%を超えると、樹脂組成物の流動性が低下し、成形加工性に問題が生じる場合がある。変性ポリオレフィンの含有量は、樹脂混合物全体に対して5〜10質量%とすることが好ましい。なお、本発明の難燃性樹脂組成物にあって、ポリプロピレン系樹脂、エチレン系共重合体、及び変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量によっては、変性ポリオレフィンを含有しない構成を採用する場合もあり、変性ポリオレフィンを含有させることにより、変性ポリオレフィンを含有しない難燃性樹脂組成物と比較して、水酸化マグネシウムの分散性が向上することにより、耐摩耗性や難燃性の向上につながる。一方、変性ポリオレフィンを含有しないことにより、含有するものと比較すると各特性は若干劣るものの、依然として優れた引張特性等の機械的特性、耐摩耗性及び難燃性を維持することができる。
【0035】
樹脂組成物中における(e)表面処理が施されていない水酸化マグネシウムの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、40〜150質量部である。当該水酸化マグネシウムの含有量が40質量部より少ないと、樹脂組成物に十分な難燃性を付与することができず、一方、150質量部を超えると、樹脂組成物の機械的特性や耐寒性に悪影響を及ぼし、また、比重が増加する。表面処理が施されていない水酸化マグネシウムの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、60〜120質量部とすることが好ましい。
【0036】
なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、前記した以外の各種の樹脂成分やゴム成分、及び各種の添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。添加剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、プロセスオイル、シリコンオイル、紫外線吸収剤、カーボンブラック、分散剤、顔料、染料、ブロッキング防止剤、架橋剤、架橋助剤等が挙げられ、また、用途によっては、従来から慣用されている赤燐、ポリリン酸化合物、ヒドロキシ錫酸亜鉛、錫酸亜鉛、ほう酸亜鉛、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト、酸化アンチモン等の難燃助剤を添加してもよい。
【0037】
本発明の難燃性樹脂組成物は、前記した各成分及び必要により添加した添加剤を、例えば、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ローラー等の従来公知の混練装置で溶融混練することにより簡便に製造することができる。また、二軸押出機を使用した場合、工程を連続的に実施することができる。
【0038】
なお、難燃性樹脂組成物の製造にあっては、ポリプロピレン系樹脂及び表面処理が施されていない水酸化マグネシウム(及び必要により添加剤等)をあらかじめ溶融混練して溶融混練物とする工程と、この溶融混練物に、残りの材料(エチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー、変性ポリオレフィン)を更に溶融混練する工程を含むようにして製造すればよい。このようにすることにより、樹脂組成物中における水酸化マグネシウムの分散性が向上して、耐摩耗性や機械的特性が更に向上するという効果がある。また、混練温度としては、水酸化マグネシウムの分解温度以下(例えば、340℃以下)に設定することが好ましい。なお、押出量等、その他の製造条件については、使用する樹脂成分等の種類により適宜決定することができる。
【0039】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、必要に応じて架橋処理を施すようにしてもよい。架橋方法としては、常法による電子線照射架橋法や化学架橋法を採用することができる。電子線照射架橋法の場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を成形した後に常法により電子線を照射することによって架橋を行うことができる。一方、化学架橋法による場合は、樹脂組成物に有機パーオキサイド等を従来公知の架橋剤として添加し、成形した後に常法により加熱処理して架橋を行うようにすればよい。
【0040】
本発明の難燃性樹脂組成物は、ベースポリマーとしてポリプロピレン系樹脂を使用し、その他特定量のエチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンからなる樹脂混合物に対して、表面処理が施されていない水酸化マグネシウムを特定量含有する構成を採用しているので、耐熱性や耐寒性に加えて耐摩耗性に優れ、また、難燃性、機械的特性も良好となり、これらの諸特性をバランスよく兼ね備えた難燃性樹脂組成物となる。そして、廃却後もリサイクル化し易く、埋設等の廃却処分をしても、鉛系化合物やリン化合物による環境汚染の問題を生じることがなく、焼却した場合にも有害なハロゲンガスやダイオキシン等を発生することもなく、環境性も良好である。
【0041】
また、銅線、錫メッキ銅線、アルミ線等の導体や光ファイバに本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆した絶縁電線は、難燃性、耐摩耗性、引張特性等の機械的特性、及び環境への適応性を兼ね備えた電線として広く利用することができる。特に、本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆した電線を、高い耐摩耗性、難燃性、機械的特性等が必要とされる自動車や電子機器に配設される電線として使用した場合には、効果を最大限に発揮することができる。このような絶縁電線は、本発明の樹脂組成物を、公知の押出成形方法を用いて導体の外周に押出被覆することにより簡便に得ることができる。
【0042】
なお、本発明の絶縁電線にあっては、絶縁被覆材料の厚さも特に制限はなく、所望の厚さとして形成することができる。また、絶縁電線は、本発明の樹脂組成物からなる絶縁被覆材料と導体の間に別途中間層を設ける等、絶縁層が多層構造となるようにしても問題はない。
【0043】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は樹脂成形体とすることにより、前記した優れた効果を享受する樹脂成形体を提供することができる。かかる樹脂成形体の形状には特に制限はなく、例えば、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート等を挙げることができる。これらの樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物を押出成形方法や射出成形方法等の従来公知の成形方法により成形加工することにより得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0045】
[実施例1、2、比較例1〜4]
実施例1、2及び比較例1〜4の難燃性樹脂組成物の構成(使用した材料と含有量)を表1に示した。難燃性樹脂組成物の製造は、混練機としてバンバリーミキサーを用い、ポリプロピレン系樹脂と水酸化マグネシウム、酸化防止剤、滑剤を溶融混練して溶融混練物とした後、この溶融混練物に残りの材料(エチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー、変性ポリオレフィン)を更に溶融混練してペレット化した。
【0046】
また、使用した材料の詳細は下記のとおりである。なお、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210の規定に従って、下記の温度条件及び荷重条件により測定した。ここで、表1における含有量は、樹脂混合物全体を100質量部としたときの質量部として示している((1)〜(4)からなる樹脂混合物を構成する樹脂材料それぞれについては、樹脂混合物全体を100質量%とした場合の含有量(質量%)と同意となる。)。
【0047】
(1)ポリプロピレン(ポリプロピレン系樹脂)
品名 : E−200GP((株)プライムポリマー製)
MFR : 2.0g/10分(230℃、2.16kgf荷重)
【0048】
(2)エチレン・酢酸ビニル共重合体(エチレン系共重合体):
品名 : エバフレックスV527−4(三井デュポンポリケミカル社製)
MFR : 0.7g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0049】
(3)変性スチレン系熱可塑性エラストマー
品名 : クレイトンFG1901X(クレイトンポリマー社製)
MFR : 6.4g/10分(230℃、2.16kgf荷重)
【0050】
(4)変性ポリオレフィン
品名 : アドテックスL6100M(日本ポリエチレン(株)製)
MFR : 1.1g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0051】
(5)水酸化マグネシウムA
品名 : マグニフィンH7(アルベマール社製)
表面処理: なし
平均粒径: 1.0μm
【0052】
(6)水酸化マグネシウムB
品名 : キスマ5L(協和化学工業(株)製)
表面処理: あり(シランカップリング剤による表面処理)
平均粒径: 0.8μm
【0053】
(7)酸化防止剤
イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカル社製)
【0054】
(8)滑剤
ネオワックスACL(ヤスハラケミカル(株)製)
【0055】
(樹脂組成物の構成)
【表1】

【0056】
[試験例1]
実施例1、実施例2、及び比較例1〜比較例4の難燃性樹脂組成物を、汎用の電線製造用押出成形機で、従来公知の押出条件を用いて、導体の直径がφ0.85mmの軟銅線の外周に絶縁被覆材料として0.2mmの厚さで連続して押出被覆して絶縁電線を製造した。そして、得られた電線に対して、下記の基準で「引張特性」「難燃性」「耐摩耗性」について比較・評価した。結果を表2に示す。
【0057】
(引張特性)
得られた絶縁電線の絶縁被覆材料の引張強度(MPa)、引張伸び(%)を、JIS C3005に準拠して、標線50mm、引張速度200mm/分で測定した。引張強度は16MPa以上、引張伸びは125%以上で合格とした。
【0058】
(難燃性)
JIS C3005に規定される水平燃焼試験を実施して難燃性を確認した。15秒以内に炎が消えたものを合格とした。
【0059】
(耐摩耗性)
先端にφ0.45mmのピアノ線を取り付けたブレードに7Nの荷重をかけ、電線表面を60回/分で往復運動させ、ブレードが被覆を貫通して導体に接触するまでの往復回数を測定した。150回以上で合格とした。
【0060】
(結果)
【表2】

【0061】
表2の結果より、本発明の実施例に示される樹脂組成物を押出被覆した絶縁電線は、優れた引張特性、耐摩耗性及び難燃性を示すものであった。なお、変性ポリオレフィンを含有しない実施例2は、実施例1と比較すると各特性は若干劣るものの、優れた引張特性、耐摩耗性及び難燃性を示していた。
【0062】
これに対して、水酸化マグネシウムとして表面処理が施された水酸化マグネシウムを使用した比較例1、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンを含有しない比較例2、エチレン系共重合体(エチレン・酢酸ビニル共重合体)及び変性ポリオレフィンを含有しない比較例3、エチレン系共重合体及び変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含有しない比較例4は耐摩耗性に問題があり、加えて比較例2は引張特性(引張伸び)も悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の難燃性樹脂組成物は、耐摩耗性に優れ、更には難燃性、機械的特性等の諸特性にバランスのとれた難燃性樹脂組成物であるので、例えば、自動車や電気・電子機器に配設される電線の絶縁被覆材料や当該自動車等の構成部材等として有利に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリプロピレン系樹脂40〜90質量%、(b)エチレン系共重合体5〜20質量%、(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー5〜20質量%、及び(d)変性ポリオレフィン0〜20質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、
(e)表面処理が施されていない水酸化マグネシウム40〜150質量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b)エチレン系共重合体と前記(c)変性スチレン系熱可塑性エラストマーとの質量比率が、エチレン系共重合体/変性スチレン系熱可塑性エラストマー=2/1〜1/2であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物を製造する方法であって、
前記ポリプロピレン系樹脂及び表面処理が施されていない水酸化マグネシウムを溶融混練して溶融混練物とする工程と、
当該溶融混練物に、エチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー及び変性ポリオレフィンを更に溶融混練する工程を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
導体に前記請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物を押出被覆したことを特徴とする絶縁電線。


【公開番号】特開2007−246726(P2007−246726A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73354(P2006−73354)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】