説明

難燃性樹脂組成物とそれを用いた成形体

【課題】優れた難燃性、機械特性、柔軟性、耐摩耗性、耐熱性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物の溶出や、多量の煙、有害性ガスの発生がなく、リサイクル性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル共重合体および/またはエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンおよび/またはエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、共重合成分として(メタ)アクリル酸を含有するアクリルゴムを特定量含有する樹脂成分(A)100質量部に対して、水酸化マグネシウム150〜300質量部含有し、かつ、ポリプロピレン部位を有する樹脂を特定量含有し、酸および/または酸エステル成分を所定量含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線、電気ケーブル、電気コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどの被覆材として、または電源コード等のモールド材料、チューブ、シートとして好適な難燃性樹脂組成物およびそれを用いた配線材その他の成形体に関し、更に詳しくは架橋処理を施さなくても優れた耐熱性、柔軟性、機械的強度を有する難燃性樹脂組成物およびそれを用いた配線材その他の成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線、電気ケーブル、電気コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどの被覆材には、ポリ塩化ビニルコンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を含有したエチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物を使用することがよく知られている。
【0003】
近年、これらを適切な処理をせずに廃棄した場合、被覆材料に含有されている可塑剤や重金属安定剤が溶出したり、多量の腐食性ガスが発生したり、ダイオキシンの発生などという問題が議論されている。
このため、有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料を被覆する検討が活発におこなわれはじめている。
【0004】
ノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させており、難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が、また、樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−1-ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体などが用いられている。
【0005】
ところで電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスやその他の電気・電子機器用絶縁電線には安全性の面から非常に厳しい難燃性規格、例えばUL1581(Reference Standard for Electrical Wires, Cables, and Flexible Cords)などに規定されている垂直燃焼試験、(Vertical Flame Test)VW−1規格に合格する難燃性が求められている。
さらにこのような絶縁電線には、ULや電気用品取締規格などから伸び100%、力学的強度10MPa以上の高い機械的特性が要求されている。
【0006】
上記機械的特性と難燃性を両立させるため、金属水和物と赤リンを併用したノンハロゲン難燃材料が検討されている。
ところで電気・電子機器に使用される絶縁電線の被覆材料には、絶縁電線の種類や接続部を区別するなどの目的で、絶縁電線の表面に印刷を行ったものや、白、黄、赤等種々の色に着色されたものが使用されている。ところが、高度の難燃性と機械特性を両立させるために金属水和物と赤リンを含有したノンハロゲン難燃材料は、赤リンの発色のため、白など任意の色に着色することが困難となり、容易に種類や接続部を区別することが出来る絶縁電線が出来ないという問題が生じている。さらに、赤リンと金属水和物を併用したノンハロゲン材料の場合、燃焼時に多量の煙を発生するだけでなく、燃焼後の燃焼灰を埋立により廃棄し処理した場合、リン成分が流出して周辺の湖沼の富栄養化が起こる恐れがある。
【0007】
また、樹脂成分に金属水和物を高充填することで(例えば樹脂成分100質量部に対して金属水和物を200質量部以上含有)、VW−1に合格するような高度の難燃性を付与する検討も行われている(例えば、特許文献1参照)。しかし、金属水和物を高充填した結果、被覆材料の引張特性や耐摩耗性などの機械特性が著しく低下するという問題があった。
また、電気・電子機器に使用される成形体については、連続使用の状態で80℃〜105℃の耐熱性が要求される場合がある。
【0008】
上記の問題を解決するために、被覆材料を電子線架橋法や化学架橋法などによって架橋することにより、機械特性の低下防止や耐熱性の付与を図ることが検討されている。
しかしながら、架橋処理された配線材は、被覆材料の耐熱性が向上している反面、その再溶融が不可能であるため、再利用が難しく、リサイクル性が悪いことが指摘されている。例えば、導体に使用されている金属を回収する場合にも、被覆材を燃焼するなどしなければならない場合が多い。さらに電子線架橋設備や化学架橋設備など特別の設備を準備しなければならず、設備費や成形体のコスト高を招き汎用性を低下させる要因となる。
【0009】
また、リサイクル性と耐熱性を両立させるために、コンパウンド作成時にポリマーの一部分を架橋する方法も検討されてきた。しかし押出時にすでに材料の一部分が架橋されているため押出負荷が高く、例えば金属水和物の含有量が多い材料は量産性が悪く、特別な設備を準備する必要があった。
【0010】
ポリ塩化ビニルコンパウンドを被覆した成形体の使用温度は、通常UL定格温度で80℃又は105℃程度であることから、この成形体を代替するノンハロゲン材料も、この耐熱性を有することが必要になる。具体的には、UL80℃の耐熱性には121℃の雰囲気での加熱変形試験、加熱老化試験が求められていることから、代替するノンハロゲン材料は、少なくとも121℃、好ましくは135℃以上で溶融しないことが必要になる。通常、耐熱性を満足させるためには、ポリプロピレンを多量に含有する必要があるが、難燃性、柔軟性が低下してしまう場合があり、改良が望まれていた。
その他、電源プラグ等の成形部品についても上記と同様の問題があり、耐熱性、柔軟性、難燃性を有しており、リサイクル可能で再成形可能な成形部品の開発が求められている。
【特許文献1】特開2001−135142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述の問題を解決し、架橋処理を施さなくても優れた難燃性、機械特性、柔軟性、耐摩耗性、耐熱性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物の溶出や、多量の煙、有害性ガスの発生がなく、再溶融が可能なために再利用等のリサイクル性に優れた難燃性樹脂組成物とその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、(a−1)エチレン酢酸ビニル共重合体および/または(a−2)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(b−1)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンおよび/または(bー2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を特定量含有し、必要により(c)共重合成分として(メタ)アクリル酸を含有するアクリルゴムを含有する樹脂成分(A)100質量部に対して、水酸化マグネシウムを所定量含有し、かつ、樹脂成分(A)におけるポリプロピレン部位を有する樹脂を特定量含有し、さらに、樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分を特定量含有することにより、難燃性、機械特性、柔軟性、耐摩耗性、耐熱性をバランスよく有する難燃性樹脂組成物および成形体が得られることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0013】
すなわち本発明は、
(1)(a−1)エチレン−酢酸ビニル共重合体および/または(a−2)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を40〜80質量%、(b−1)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンおよび/または(b−2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を20〜60質量%、(c)共重合成分として(メタ)アクリル酸を含有するアクリルゴムを0〜40質量%含有する樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウムを150〜300質量部含有し、かつ、樹脂成分(A)におけるポリプロピレン部位を有する樹脂の含有量が5〜50質量%であり、樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量が20〜65質量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物、
(2) 前記樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量が30〜65質量%であることを特徴とする(1)記載の難燃性樹脂組成物、
(3) 前記樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量が43〜65質量%であることを特徴とする(1)記載の難燃性樹脂組成物、
(4)前記樹脂成分(A)中に、少なくとも不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリプロピレンを含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、
(5)前記樹脂成分(A)中に、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリプロピレンを8〜50質量%含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、
(6)前記水酸化マグネシウムが、無処理および/またはシランカップリング剤で処理されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物、
(7)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が、導体の外側に被覆されていることを特徴とする成形体、
(8)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が、光ファイバ素線および/または光ファイバ心線の外側に被覆されていることを特徴とする成形体、および、
(9)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が、成形されてなることを特徴とする成形体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物は、架橋処理を施さなくても優れた難燃性、機械特性、柔軟性、耐摩耗性、耐熱性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物の溶出や、多量の煙、有害性ガスの発生がなく、再溶融が可能なために再利用等のリサイクル性に優れた難燃性樹脂組成物である。
【0015】
そして、樹脂成分(A)中の酸および/または酸エステル成分の含有量を30〜65質量%、さらに43〜65質量%とすることにより、さらに難燃性を向上させることが可能である。
また、水酸化マグネシウムとして、無処理のもの、および/またはシランカップリング剤で処理されたものを使用することにより、より高い機械特性、耐熱性、難燃性を発揮することができる。
【0016】
以上から、本発明の難燃性樹脂組成物は、電気・電子機器用配線材や、光ファイバ心線、光ファイバコード等の被覆材料として、また、電源プラグ、コネクターさらにはチューブやテープ基材としても好適なものである。
そして、本発明の成形体は、架橋処理を施さなくても優れた難燃性、機械特性、柔軟性、耐摩耗性、耐熱性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物の溶出や、多量の煙、有害性ガスの発生がなく、再溶融が可能なために再利用等のリサイクル性に優れた成形体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物について詳細に説明する。
本発明の難燃性樹脂組成物は、樹脂成分(A)と水酸化マグネシウム(B)を含み、樹脂成分(A)100質量部に対して、水酸化マグネシウム(B)を150〜300質量部含有するものである。
先ず、難燃性樹脂組成物のうち、その樹脂成分(A)を構成する各成分およびその含有量について詳細に説明する。
【0018】
(a−1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a−2)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
本発明におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体とは、エチレンと酢酸ビニルを共重合させたもの(EVA)が使用でき、例えば、エバフレックス(商品名、三井デュポンポリケミカル(株)製)、ウルトラセン(商品名、東ソー(株)製)などが挙げられる。
また、本発明におけるエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体とは、例えばエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレンーメタクリル酸メチル共重合体(EMMA)などが挙げられる。具体的には例えば、エバルロイ(商品名 三井デュポンポリケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0019】
樹脂成分(A)には、前記(a−1)成分および前記(a−2)成分のいずれか1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明においては、難燃性および機械特性向上の点からは、エチレン−酢酸ビニル共重合体の使用が好ましい。
難燃性を向上させるうえでエチレンに対し共重合させた酸エステル成分の含有量(例えばEVAでは酢酸ビニル(VA)含有量、EEAではエチルアクリレート(EA)含有量)が、40〜80質量%が好ましく、さらに好ましくは50〜80質量%、最も好ましくは60〜80質量%である。
【0020】
本発明の(а−1)成分もしくは(a−2)成分のMFR(メルトフローレイト、JIS K 6730)は、強度の面、樹脂組成物の混練加工性の面から0.1〜20が好ましく、0.1〜10がさらに好ましい。
【0021】
本発明において、樹脂成分(A)中、(a−1)成分および/または(a−2)成分の含有量は、40〜80質量%であり、好ましくは45〜80質量%、さらに好ましく45〜75質量%である。その含有量が多すぎると機械特性が低下したり、電気特性が著しく低下する場合があり、また含有量が少なすぎると、難燃性に問題が発生する。
【0022】
(b−1)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン、(b−2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体
本発明における不飽和カルボン酸またはその誘導体(以下、これらを併せて不飽和カルボン酸等ともいう)で変性されたポリオレフィンとは、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性することにより、不飽和カルボン酸またはその誘導体が、ポリオレフィンにグラフトした樹脂のことである。
【0023】
この不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。
【0024】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン(直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、ポリプロピレン(ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体や、プロピレン−エチレンプロピレンブロック共重合体、プロピレンと他の少量のαオレフィン(例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体)、エチレンとαオレフィンとの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン系共重合体等が挙げられる。
【0025】
ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。不飽和カルボン酸等による変性量は、通常0.5〜15質量%である。
不飽和カルボン酸等により変性されたポリオレフィンとしては、具体的には例えば、ポリボンド(商品名、クロンプトン(株)製)、アドテックス(商品名、日本ポリエチレン(株)製)、アドマー(商品名、三井化学(株)製)、クレイトン(商品名、JSRクレイトン(株)製)、タフテック(商品名、旭化成製)などが挙げられる。
【0026】
本発明におけるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体とは、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体やエチレン−メタクリル酸共重合体を挙げることができる。具体的には例えば、ニュクレル(商品名、三井デュポンポリケミカル(株)製)を挙げることができる。
【0027】
樹脂成分(A)には、(b−1)成分および/または(b−2)成分の何れか1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明において、(b−1)成分および(b−2)成分は、後述する水酸化マグネシウムと成形時に化学的に結合することにより、高い難燃性、機械特性、耐摩耗性を得ることができる。前記のすぐれた効果は、アクリル酸もしくはメタクリル酸で変性されたポリオレフィンやエチレン(メタ)アクリル酸共重合体を使用したときに特に顕著である。よって本発明においては、(b−1)および/または(b−2)成分として、アクリル酸もしくはメタクリル酸で変性されたポリオレフィンやエチレン(メタ)アクリル酸共重合体を使用するか、併用したほうが好ましい。
【0028】
本発明において、樹脂成分(A)中、(b−1)成分および/または(b−2)成分の含有量は、20〜60質量%であり、好ましくは20〜50質量%、更に好ましくは20質量%を超え45質量%以下である。含有量が少なすぎると、実質的な効果が薄れ、難燃性、機械特性、絶縁特性が低下する恐れがある。また、多すぎると著しく伸びが低下する場合がある。
【0029】
本発明において、(b−1)成分と(b−2)成分を共に使用する場合は、(b−2)成分の含有量は20質量%以下、好ましくは15質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。(b−2)成分をあまり大量に含有すると、伸びの低下や耐寒性を低下させる恐れがある。
【0030】
(c)共重合成分として(メタ)アクリル酸を含有するアクリルゴム
本発明の樹脂成分(A)においては、(c)成分として、(メタ)アクリル酸を共重合成分に含むアクリルゴムを使用する。アクリルゴムとしては、例えばエチレン、アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸を単量体成分として有するアクリルゴムが挙げられる。
そのアクリル酸アルキルとしては、例えばアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
本発明のアクリルゴムとしては具体的には、例えば、ベイマックG、ベイマックGLS、ベイマックHVG、ベイマックHG(いずれも商品名、三井デュポンポリケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0031】
本発明において、アクリルゴムも後述する水酸化マグネシウムと強い相互作用を示し、高い難燃性、機械特性を維持することができる。さらに、アクリルゴムの含有により、配線材等の被覆をむく場合に、ひげ状に被覆材が伸びることがなく、皮むき性が良好になる。
【0032】
本発明の樹脂成分(A)は、(c)成分を含有してもしなくてもよく、その含有量は0〜40質量%であり、好ましくは0〜30質量%である。この含有量が多すぎると、成型時の押出負荷が過大となったり、伸びが著しく低下したり、加熱による割れが生じたりする。
【0033】
(d)ポリプロピレン
本発明の樹脂成分(A)には、前記の成分のほかに(d)成分としてポリプロピレンを必要により含有させるものであり、その量は0〜40質量%、好ましくは0〜30質量%程度である。
このポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体や、プロピレンとエチレンプロピレンゴムの共重合体、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体が挙げられる。
【0034】
ここで、エチレン−プロピレンランダム共重合体はエチレン成分含量が1〜4質量%程度のものをいい、エチレン−プロピレンブロック共重合体はエチレン成分含量が5〜20質量%程度のものをいう。
本発明で使用するポリプロピレンとしては、例えば、プライムポリマー(株)、日本ポリプロピレン(株)、サンアロマー(株)等から市販されているものが挙げられる。
【0035】
本発明におけるポリプロピレン樹脂のMFR(ASTM‐D‐1238、L条件、230℃)は、好ましくは0.1〜60g/10分、より好ましくは0.1〜25g/10分、さらに好ましくは0.5〜15g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では、熱処理後でもポリプロピレン樹脂の分子量が低下せず、得られる樹脂組成物の成形性が悪くなることがあり、一方、MFRが25g/10分を越えると、力学的強度が十分発揮されない。
【0036】
本発明の樹脂成分(A)は、前記した(a−1)成分および/または(a−2)成分、(b−1)および/または(b−2)成分を所定量含有し、さらに必要により(c)成分、(d)成分を含有し、かつ、ポリプロピレン部位を有する樹脂を特定量含有し、且つ、酸および/または酸エステル成分を特定量含有するものである。
【0037】
樹脂成分(A)において、ポリプロピレン部位を有する樹脂としては、(b−1)成分において、ポリオレフィンとしてポリプロピレンを使用したものや、(d)成分として使用したポリプロピレン等が挙げられる。本発明における樹脂成分(A)中のポリプレン部位を有する樹脂の含有量としては、樹脂成分(A)中の5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%が必要である。
【0038】
さらに、本発明においては樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量が20〜65質量%であることが必要である。樹脂成分(A)における酸もしくは酸エステル成分とは、(a−1)、(a−2)に含有されている酸エステル成分、(b−1)、(b−2)に含有されている酸成分もしくは酸エステル成分、および(c)の樹脂に含有されている酸成分もしくは酸エステル成分のことである。具体的には(a−1)、(a−2)においては、酢酸ビニルや(メタ)アクリル酸エステルなどの共重合成分であり、(b−1)、(b−2)においては、マレイン酸や無水マレイン酸等の変性成分や、酢酸ビニルなどの樹脂に共重合されている成分であり、(c)においては、アクリル酸アルキルやアクリル酸などの共重合成分である。本発明においては、樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分含有量は以下の式により求めることができる。
【0039】
【数1】

【0040】
樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量(%)は20〜65質量%が必要であり、好ましくは30〜65質量%、さらに好ましくは43〜65質量%である。含有量が少なすぎると、難燃性が劣り、またこれが高すぎると機械的特性が低下したり、低温性が低下したり、絶縁抵抗が著しく低下する場合がある。
【0041】
本発明においては、さらに(а−1)および/または(a−2)、(b−1)および/または(b−2)と(c)の各成分を所定量含有したものを使用することにより、架橋をしなくても高い耐熱性を有し、さらに難燃性、機械特性、端末加工性および柔軟性にバランスの取れた難燃性樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0042】
特に、(b−1)成分および/または(b−2)成分と(c)成分を特定量含有することにより、後述する水酸化マグネシウムと強固なイオン結合を形成し、難燃性を高めると共に柔軟性を保持しつつ、優れた端末加工性を得ることができる。また、高い加熱変形性も得られるため、通常大量に入れなければならなかったポリプロピレンの含有量を少なくすることが可能となり、柔軟性と難燃性とともに耐熱性をも満足させることができる。
この(b−1)成分および/または(b−2)成分と(c)成分の含有量は樹脂成分(A)100質量%中20〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%、特に好ましくは20質量%を超え45質量%以下であることが好ましい。
【0043】
さらに、(b−1)成分および/または(b−2)成分と(d)成分を併用することにより、本発明の組成物の酸含有量が高いにもかかわらず、良好な絶縁特性を得ることができるので、(d)成分を含有させるのが好ましい。難燃性、端末加工性、絶縁特性をより良好にするためには、アクリル酸および/又はメタクリル酸で変性されたポリオレフィン、特にアクリル酸および/又はメタクリル酸で変性されたポリプロピレンを使用する方が好ましい。
【0044】
本発明の難燃性樹脂組成物は、樹脂成分(A)と水酸化マグネシウム(B)を含有する。次に、水酸化マグネシウムについて記載する。
(B)水酸化マグネシウム
本発明の難燃性樹脂組成物においては、通常市販されている水酸化マグネシウムを使用することが可能である。本発明において、水酸化マグネシウムは、無処理のままでも、表面処理を施されていてもよく、表面処理としてはたとえば、脂肪酸処理、リン酸処理、チタネート処理、シランカップリング剤による処理などがあげられる。樹脂成分(A)との反応性の点から、本発明においては、無処理のものか、シランカップリング剤処理をしたものを使用するのが好ましい。
【0045】
本発明におけるシランカップリング剤は、末端にビニル基、メタクロキシ基、グリシジル基、アミノ基を有するものが好ましい。具体的にはたとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でもビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が好ましい。
【0046】
シランカップリング剤による表面処理の方法としては、通常使用される方法で処理を行うことが可能であるが、たとえば、表面処理をしていない水酸化マグネシウムをあらかじめドライブレンドしたり、湿式処理を行ったり、混練り時にシランカップリング剤をブレンドすることなどにより得ることが可能である。使用するシランカップリング剤の含有量は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には水酸化マグネシウムに対し0.1〜2.5質量%、好ましくは0.2〜1.8質量%、さらに好ましくは0.3〜1.0質量%である。
本発明においては、水酸化マグネシウムをシランカップリング剤で処理をする場合には、いずれか1種のシランカップリング剤のみでも、2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、すでにシランカップリング剤処理をおこなった水酸化マグネシウムを入手することも可能である。シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムとしては、具体的には、キスマ5L、キスマ5N、キスマ5P(いずれも商品名、協和化学(株)製)や、ファインマグMO−E(商品名、(株)TMG)、マグシーズS−3(商品名 神島化学工業(株))などがあげられる。
また、無処理の水酸化マグネシウムとしては、たとえばキスマ5(商品名、協和化学(株))、マグニフィンH5(商品名、アルベマール(株))などがあげられる。
【0048】
本発明においては、表面処理を行っていない水酸化マグネシウムや、表面処理を行った水酸化マグネシウムをそれぞれ単独で使用しても、併用してもよい。異なる表面処理を行った水酸化マグネシウムを併用することも可能である。
本発明の難燃剤組成物における水酸化マグネシウムの含有量は、樹脂成分(A)100質量部に対し150〜300質量部、好ましくは160〜270質量部である。含有量が少なすぎると、難燃性に問題があり、多すぎると伸びが低下したり、力学的強度が著しく低下したり、低温脆性が低下する問題がある。
【0049】
その他難燃性を向上させるためにメラミンシアヌレート化合物を加えることもできる。本発明においては、メラミンシアヌレートは、粒径が細かい物が好ましい。本発明で用いるメラミンシアヌレート化合物の平均粒径は好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。また、分散性の面から表面処理されたメラミンシアヌレート化合物が好ましく用いられる。本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物としては、例えばMCA−0、MCA−1(いずれも商品名、三菱化学社製)からされている。また表面処理したメラミンシアヌレート化合物メラミンシアヌレート化合物としては、MC640、MC610(いずれも商品名、日産化学社製)などがある。
【0050】
本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物として、例えば以下のような構造のメラミンシアヌレートがある。
【0051】
【化1】

【0052】
本発明の難燃性樹脂組成物には、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を含有させ、さらに難燃性を向上することも可能である。これらの化合物を用いることにより、燃焼時の殻形成の速度が増大し、殻形成がより強固になる。従って、燃焼時に内部よりガスを発生するメラミンシアヌレート化合物とともに、難燃性を飛躍的に向上させることができる。
【0053】
ここで用いるホウ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛は平均粒子径が5μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
ホウ酸亜鉛として、具体的には例えば、アルカネックスFRC−500(2ZnO/3B・3.5HO)、FRC−600(いずれも商品名、水澤化学(株)製)などがある。またスズ酸亜鉛(ZnSnO)、ヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH))として、アルカネックスZS、アルカネックスZHS(いずれも商品名、水澤化学(株)製)などがある。
【0054】
本発明の難燃性樹脂組成物には、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜含有することができる。
【0055】
酸化防止剤としては、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンゾイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などがあげられる。
【0056】
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などがあげられる。
難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどがあげられる。
【0057】
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられ、なかでも、ワックスE、ワックスOP(いずれも商品名、ヘキスト社製)などの内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。その中でもステアリン酸亜鉛やステアリン酸は、絶縁抵抗の向上の効果があり、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸マグネシウムは、目やにを防ぐ効果がある。さらに滑剤として脂肪酸アミドを併用することにより、配線材に使用した場合など、簡単に導体との密着性を制御することが可能となる。
【0058】
本発明の絶縁樹脂組成物は、前記の各成分を、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど、通常用いられる混練装置で溶融混練して得ることができる。
【0059】
次に本発明の絶縁電線、ケーブル、光コード等の成形体について説明する。
本発明の成形体は、たとえば導体や光ファイバやその他成形体の周りに上記の本発明の難燃性樹脂組成物が被覆されたものであり、本発明の難燃性樹脂組成物を通常の押出成形機を用いて導体、光ファイバ、集合絶縁電線やその他成形体の周囲に押出被覆することにより製造することができる。またチューブについても同様な方式で製造することができる。
【0060】
本発明の成形体の大きさや形状については特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。例えば絶縁電線に使用される場合、導体の周りに形成される難燃性樹脂組成物の被覆層の肉厚も特に制限はないが、0.15〜2mmが好ましい。また、この樹脂組成物層が多層構造であってもよく、本発明の難燃性樹脂組成物で形成した被覆層のほかに他の材料で形成した中間層などを有するものでもよい。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
実施例1〜10、比較例1〜5
表1に実施例1〜10および表2に比較例1〜5の樹脂組成物の各成分の含有量(表中の数字は、断りのない限り質量部である)を示す。表に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各樹脂組成物を製造した。
【0062】
表中に示す各成分材料は以下の通りである。
(a−1)エチレン−酢酸ビニル共重合体
商品名:エバフレックス EV180 製造元:三井デュポンポリケミカル(株)
酢酸ビニル含有量:33質量%
商品名:VPKA8784 製造元:バイエル社
酢酸ビニル含有量:70質量%
商品名:レバプレン800HV 製造元:バイエル社製
酢酸ビニル含有量:80質量%
商品名:YX−21K 製造元:東ソー社製
酢酸ビニル含有量:41質量%
(a−2)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
エチレン−アクリル酸エチル共重合体
商品名:エバフレックス−EEA A−714 製造元:三井デュポンポリケミカル(株)
アクリル酸エチル含有量:25質量%
(b−1)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン
アクリル酸変性ポリプロピレン
商品名:ポリボンドP−1002 製造元:クロンプトン(株)製
アクリル酸変性量:7質量%
マレイン酸変性ポリエチレン
商品名:アドマーXE070 製造元:三井化学(株)
マレイン酸変性量:1質量%
アクリル酸変性スチレン系エラストマー
商品名:クレイトン1901FG 製造元:JSRクレイトン(株)
アクリル酸変性量:1.4質量%
(b−2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体
エチレン−メタクリル酸共重合体
商品名:ニュクレルN1207C 製造元:三井デュポンポリケミカル(株)
メタクリル酸含有量:12質量%
(c)共重合成分として(メタ)アクリル酸を含有するアクリルゴム
アクリル酸含有アクリルゴム
商品名:ベイマックDP 製造元:三井デュポンポリケミカル(株)
アクリル酸含有量:70質量%
エチレン−アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体
商品名:ベイマックGLS 製造元:三井デュポンポリケミカル(株)
アクリル酸およびアクリル酸メチル含有量:70質量%
(d)ポリプロピレン
ブロックポリプロピレン
商品名:イデミツPP 150GK 製造元:出光石油化学(株)
ランダムポリプロピレン(R−PP)
商品名:BC6DR 製造元:日本ポリプロピレン(株)
メタロセンポリエチレン
商品名:ユメリット1540F 製造元:宇部丸善石油(株)
(B)水酸化マグネシウム
シラン処理水酸化マグネシウム
商品名:キスマ5L 製造元:協和化学(株)
無処理の水酸化マグネシウム
商品名:キスマ5 製造元:協和化学(株)
オレイン酸+シラン処理水酸化マグネシウム
商品名マグシーズS3 製造元:神島化学(株)
【0063】
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、予め溶融混練した各樹脂組成物を次の3種の各導体上に押出し法により被覆して、各々絶縁電線を製造した。
(ア)導体(導体径3.03mmφの錫メッキ軟銅撚線,構成:43本/0. 40mmφ)上に被覆して、各々外径を4.73mm、被覆層の肉厚0.85mmとした。
(イ)導体(導体径1.21mmφの錫メッキ軟銅撚線,構成:34本/0. 18mmφ)上に被覆して、各々外径を2.05mm、被覆層の肉厚0.42mmとした。
(ウ)導体(導体径0.76mmφの錫メッキ軟銅撚線,構成:17本/0. 16mmφ)上に被覆して、各々外径を1.60mm、被覆層の肉厚0.42mmとした。
【0064】
製造した樹脂組成物被覆の絶縁電線に対して、下記の評価を行った。得られた実施例1〜10の評価結果を表1に、比較例1〜5の評価結果を表2に示す。
(1)機械特性
UL1571に準拠し、上記(ウ)の電線より管状片を作成し引張試験を行った。表線間25mm、引張速度50mm/分で試験を行った。伸び100%以上、引張り強さ10Mpa以上が必要である。
(2)難燃性1(水平難燃性試験)
各絶縁電線について、UL1581に準拠して水平難燃性試験を行った。上記(ア)〜(ウ)の絶縁電線各2本の6個のサンプルを用いて評価を行った。接炎時間は10秒とし、電線に完全に火をつけて消えるまでの時間を測定した。残炎時間が60秒以内が合格である。6個すべて合格した場合を「合格」、それ以外を「不合格」とした。
(3)難燃性2(60度傾斜難燃性試験)
各絶縁電線について、JIS C 3005に準拠して60度傾斜難燃性試験を行った。上記と同様に各2本の6個のサンプルを用いて評価を行った。接炎時間は10秒とし、電線に完全に火をつけて消えるまでの時間を測定した。残炎時間が60秒以内が合格である。6個すべて合格した場合を「合格」、それ以外を「不合格」とした。
(4)難燃性3(垂直難燃性試験)
各絶縁電線について、UL1581の Vertical Flame Test を行った。同様に6個のサンプルを用いて評価を行った。残炎時間が60秒以内が合格である。6個すべて合格した場合を「合格」、それ以外を「不合格」とした。
なお、難燃性試験では、難燃性1には合格する必要があるが、必ずしも難燃性2および難燃性3には合格する必要はない。
(5)加熱変形性
加熱変形性については、上記と同様に(ア)〜(ウ)の絶縁電線各2本の6個のサンプルについてUL1581に準拠して行った。温度は121℃、荷重2.45Nで行い、その平均値を求めた。45%以下でなければならない。
(6)耐外傷性
同様に(ア)〜(ウ)の絶縁電線各2本の6個のサンプルについてJASO D 608に基づく耐摩耗試験のブレード往復法の試験方法で、R=0.125mmのブレードを使用し、荷重5Nで2往復摩耗を行った。その後のサンプルを観察した。
外傷が無い又は白化が無い場合は、「○」で表示し、外傷がある又は白化が著しい場合は、「×」で表示した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
実施例1〜10はいずれの評価項目においても満足な結果が得られている。特に実施例3、4以外のように、樹脂成分(A)中の酸および/または酸エステル含有量を30%以上とすることにより、厳しい難燃試験である難燃性2の試験にも合格し、さらに43%以上とすると、より厳しい難燃性3の試験にも合格し、共に耐熱性を向上させることが可能である。
これに対して、比較例1〜5に示されるように、本発明の必須成分である(a−1)および/または(a−2)成分、もしくは(b−1)および/または(b−2)成分の配合量が規定の範囲を外れた場合(比較例1、2、3)、水酸化マグネシウムの含有量が規定の範囲を外れた場合(比較例4、5)、樹脂成分中のポリプロピレン成分を含む樹脂の含有量が規定の範囲を外れた場合(比較例3)のいずれにおいても、引張り強さ、伸び、難燃性、加熱変形性、耐外傷性のいずれかの項目を満足することができず、本発明の効果が得られないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a−1)エチレン−酢酸ビニル共重合体および/または(a−2)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を40〜80質量%、(b−1)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンおよび/または(b−2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を20〜60質量%、(c)共重合成分として(メタ)アクリル酸を含有するアクリルゴムを0〜40質量%含有する樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウムを150〜300質量部含有し、かつ、樹脂成分(A)におけるポリプロピレン部位を有する樹脂の含有量が5〜50質量%であり、樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量が20〜65質量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量が30〜65質量%であることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分(A)における酸および/または酸エステル成分の含有量が43〜65質量%であることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分(A)中に、少なくとも不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリプロピレンを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂成分(A)中に、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリプロピレンを8〜50質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記水酸化マグネシウムが、無処理および/またはシランカップリング剤で処理されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が、導体の外側に被覆されていることを特徴とする成形体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が、光ファイバ素線および/または光ファイバ心線の外側に被覆されていることを特徴とする成形体。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が、成形されてなることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2007−217614(P2007−217614A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41668(P2006−41668)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】