説明

難燃性汎用電子部材

【課題】特殊処理により難燃性積層フィルムと金属層との密着強度を向上させ、様々な電化製品に汎用的に部品として組み込める難燃性汎用電子部材を提供する。
【解決手段】UL94 VTM-0規格の自己消火性を持つフィルムを用いて表面エネルギーを上げることにより、積層させる金属材料との密着性を向上させ、密着強度の高い積層フィルムを創生する。表面エネルギーを上げる手段としては、酸・アルカリなどを使った化学的処理などがあるが、コロナ放電処理やプラズマ処理などの物理的処理のほうが一般的に効果も高く生産性の点からも利用しやすい。これらをUL94 VTM-0規格を持つ難燃性スポンジと組み合わせることにより、より高度に難燃化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポンジ材などの柔軟性を具備した芯材に、電気導電性や電磁波シールド効果のある導電性材料で被覆することによって成る、柔軟性を持った電磁波シールド用ガスケットや電気接点材料、熱伝導材料などに用いられている汎用性電子部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器などの筐体合わせ部や内部に使われる接点材料やEMC対策用ガスケットには、従来ウレタン等の柔軟性のある材料に、例えば金属の蒸着などにより導電性を持たせた布を被覆することによって構成される構造物が用いられてきている。
【特許文献1】特開2003-243873
【特許文献2】特開2001-111285
【特許文献3】特開平11-54980
【0003】
また、本発明に先駆けて、芯材に導電布を被覆するのではなく、PETフィルム上に金属を蒸着させた積層フィルムを被覆することによって、導電布を被覆したものに比べ柔軟性が極めて高く複雑な形状部分にもフィットし易い素材が開発され、汎用性のある電子部材として実用化されている。
【特許文献4】特許番号 第2801180号
【特許文献5】特開2006-222107
【0004】
しかしながら、PETフィルムは蒸着する金属との密着性こそ他のプラスチック材料に比べ比較的良いものの、耐燃焼性は極めて悪い。火炎に接した場合に燃焼し、火炎を離しても自己消火性はなく延焼する欠点がある。
【0005】
このような、可燃性のフィルムを使って、芯材を被覆した部材を作製した場合、芯材に難燃性スポンジを用いたものであっても、火炎に接すれば延焼することに変わりはない。従って、耐久性が要求されるいわゆる家電製品や自動車・医療機器などに組み込むことは火災の際に極めて危険であり、柔軟性があり電磁波シールド性も良好であるという長所を生かしきれず、一部の電気製品へのみ組み込まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に示したように、PETフィルムベースの積層フィルムを用いた部材には、難燃性が付与されない。フィルムそのものが可燃性であるだけでなく、表面に薄い金属層を形成することで燃焼性はより顕著になり、実際の電子材料部材として使用した場合、温度上昇や放電などを起因として火災を誘発する危険性が極めて高く、その利用範囲には自ずと限界が生ずる。
【0007】
【表1】


一方で広く普及している導電布を用いた難燃性ガスケットは、柔軟性という点でフィルム材を用いたものに比べ大きく劣っており、近年の電子部材の小型化・薄型化に伴う革新的な発展に対し、薄さという点においても追随できないでいる。すなわち、10mm厚でなら実現できるものでも、2mm厚になると柔軟性が乏しくなり、ガスケット本来の性能が発揮できない。表1は導電布を用いた場合と積層フィルムを用いた場合にそれぞれガスケットとして組み上げた場合の厚さと柔軟性との関係を比較したものである。◎は適当な柔軟性が付与されていることを、○はやや柔軟性に劣るが実用面では問題のない程度を示している。△は柔軟性に乏しく実用上好ましいとは言えないレベルであり、×は導電布の厚さそのものが制約となり製作が困難で比較対象にならないレベルを示している。表が示すように積層フィルムを用いた製品では非常に薄いものでも充分な柔軟性を持っていることが明瞭にわかる。このため、積層フィルムを用いた部材が一歩先んじて将来性のある材料として注目されている。
【0008】
フィルム材を用いた場合に生ずる可燃性の問題を解決するため、自己消火性を持ったフィルムを用いた構成物の開発が試みられているが、難燃性を付与されたプラスチックフィルムでは、PETフィルムとは異なり、積層する金属との密着性は必ずしも高くはない。
【0009】
すなわち電子部品として組み込んだ場合に、使用中に積層した金属層が剥がれ落ちる可能性が高い。金属層との密着性が非常に弱い積層フィルムの場合、基材プラスチックフィルムと金属層との熱膨張率の違いから、自然な状態で保管をした場合でも気温による熱サイクルによって、数ヶ月で積層フィルムは劣化する。ガスケットや接点材料として用いる場合でもその製造工程において、わずかな力が加わるだけでも金属層が剥離してしまう。また仮に製造を行えたとしても、携帯電話やモバイル、医療機器、測定機器など、移動して使用することが前提となっている機器には組み込めない。これは、密着性の弱さから、振動にはきわめて弱く持ち運びの際に剥離する可能性が高いからである。
【0010】
前項で示したように、金属層が剥離してしまっては、最初に想定された性能を維持できないので、耐久消費材の電子部品として組み込むことは困難である。このため難燃性を持つだけではなく、PET基材と同等の柔軟性を具備し、尚且つ金属層と基材プラスチックフィルムの密着性が良い部材の開発が切望されてきた。難燃性を備えたプラスチックフィルムを基材とし、これに金属を積層させプラスチック層と金属層との密着強度を実用化レベルまで引き上げることが出来れば、新規な材料としての普及が進むと考えられる。
【0011】
同時に芯材並びに芯材とフィルムの接着に用いる部材(以下粘着材と言う)にも、難燃性を付与することが好ましい。一般の可燃性発泡ウレタンなどを芯材とした場合には、難燃性積層フィルムを用いて組み立てた構成部材であっても耐火性についての性能向上はほとんど認められない。しかし、添加剤などを付与して難燃性を高めUL94 VTM-0規格を取得したものを芯材とし粘着材も難燃化することで、耐燃焼性を高めることが可能である。すなわち積層フィルムの改良だけでは問題は解決せず、芯材など他の部材との組み合わせによって、組みあがった部材にUL94 V-0規格を与えることが可能となる。ここで、重要なことは、各部材に難燃性を持たせることにより、相乗効果が生まれ、よりハイグレードな規格品として生産が可能になる点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ガスケットなどの部品に難燃性を持たせるためには、芯材とそれを被覆する積層フィルムの両方さらには両者を接合させる粘着材にも工夫が必要となる。すなわち、芯材に発泡樹脂として難燃性ウレタンなどを採用すると共に、難燃性を持つプラスチックフィルムを基材とした難燃性積層フィルムの開発を行う必要がある。そして粘着材にもリン・シリコンなどの難燃化成分の添加をすることが好ましい。この場合、積層フィルム側に粘着材が直接積層可されたものであっても、なんら問題はない。しかし、前述しているように、難燃性を付与されたプラスチックフィルムは一般的にPVDやCVDなどの方法で作る金属層との密着性が悪く、液晶、PDP、CRTなどのディスプレイ、携帯電話を含む電話機ならびにFAX・コピー機、パソコン、プリンタ・ルータなどのパソコン周辺機器、ゲーム機、電磁調理器、デジタルオーディオ、カーナビゲーションシステム・ETC車載機などを含む自動車関連製品、航空機航行システムなどの耐久消費財、あるいは心臓ペースメーカー、人工呼吸器などの医療機器、またオシロスコープ、デジタルアナライザーなどの計測機器と言った機材へ電子部品として組み込むことは難しい。
【0013】
これは技術的に組み込むことが、単に可能かどうかという問題ではない。もし組み込んだとしても、密着強度の弱い金属層が経過時間とともに剥離することが確実視される。すなわち電磁波シールドとして用いた場合にそのシールド性が損なわれてしまうこと、接点材料として用いた場合にも同じく期待される性能が長期間維持できず、放熱材として使用する場合にもその放熱特性が劣化することになる。
【0014】
本発明では、この密着性の問題を解消し、難燃性の積層フィルムを開発することに成功した。すなわち、プラスチックフィルムの表面状態をコントロールし、それにより積層する金属との密着強度を実用化に足るまでに向上させることができた。
【0015】
通常、重合されたプラスチック表面には親水性の官能基はほとんど存在しない。しかしながら、何らかの方法で高分子の構造そのものを変化させ親水性の官能基の数を大幅に増やしてやることで、表面エネルギーは高まり、積層させる金属との密着性は後の実施例で示すようにその強度が測定不可能なほどまで向上する。例えばプラズマ処理やコロナ処理をプラスチックフィルムに施すことは生産性も良く、効果的に表面エネルギーを上げる方法のひとつである。
【0016】
一例として、実際に同じ条件で銅の蒸着を行った場合の密着強度を調べた。表面処理として1500Wの出力で窒素雰囲気の常圧プラズマ処理を行った。その後金属面にPETフィルムを張り合わせ幅10cmのサンプルを作成して密着強度の測定を行った。従来型のPETフィルムの場合、処理前には蒸着した銅の剥離に0.42Nしか要しなかったのに対し、処理後には剥離試験の際にフィルムが切れてしまい測定不可能なレベルまで密着強度が向上した。PPSでは処理前には金属層との密着強度は限りなくゼロに近い値しか示さなかったが、プラズマ処理後には2.41Nの密着強度を示した。
【0017】
このように使用するプラスチックフィルムに例えばプラズマ処理を施せば、自己消火性を持ったフィルムに金属を蒸着して強密着で積層化することが可能である。この難燃性積層フィルムと難燃性で柔軟性のある芯材を用いれば、自己消火性を持ったガスケットや接点材料、熱伝導材料等を組むことが可能になる。ここで、金属を積層化する方法については、一例として蒸着を挙げているが、PVDであってもCVDであっても本質的に問題はない。
【0018】
同様の効果は、他の表面処理方法を用いた場合においても確認され、コロナ放電処理・アルカリ処理・酸処理なども適用可能であることが分かった。それぞれの処理と、具体的に適応するプラスチックフィルムとの間には相性があり、その処理効果と、具体的な実用性との関係は単純ではない。
【0019】
特に、アルカリ処理、酸処理は湿式であるため、工業生産上の工程で、処理後に水洗いが必要である点から、薄いフィルムに適応することは、量産性の点から見ても技術上の困難があり、テーブルテストの域を出ることはコスト面から容易ではないと判断された。
【0020】
また、PI、ポリアミドについては、フィルムはもともと耐薬品性に優れているため、実際の処理効果は小さく、水酸化カリウムや濃硫酸で表面処理を行った場合でも、密着強度はかろうじて1Nを超える程度であることがわかり、物理処理に比べ結果においても不利であることが分かっている。
【0021】
本発明では一つ大きな発見を伴っている。厚さ25μm以下のフィルムでは、一般にUL94 VTM-0の規格は満たせても、UL94 V-0の規格試験は行うことができない。同様に、UL94 VTM-0の規格を持つ芯材もUL94 V-0の規格試験を行うことは困難を伴う、しかしながら、これらを組み合わせて部材の形状にしたとき、その形状によっては、UL94 V-0の規格試験を行うことが可能になる。実施例で示すように、ある部材においてはUL94 V-0の規格を満たしていることがわかる。このように積層フィルムと芯材との組み合わせにより、相乗効果が得られ、よりグレードの高い製品を開発することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
昨今、電磁波による環境悪化は著しく、携帯電話や無線LANのみならず、様々な家電製品、電磁調理器などから電磁波が発生し、これらが精密機器の誤動作を引き起こすような問題も多々見られる。環境電磁波の問題を解決するためには個々の機器からの電磁波漏洩を防ぐことが重要な点の一つであり、また、個々の機器への電磁波進入を防ぐことも同じく重要な課題である。このような背景から、電子機器の内面に電磁波シールドを組み込むことが積極的になされている。
【0023】
電磁波シールドをより有効な状態で保つためには、機器の組み合わせ部分に効果的な電磁波シールド用ガスケットを入れることが肝要である。従来から用いられてきた、例えば導電布を用いたガスケットは合わせ部分での密着が必ずしも十分であるとは言えず、より柔軟性のあるガスケットの登場が望まれた。そして、新たに金属層を具備したPETフィルムを柔軟な発泡樹脂に被覆したものが開発されたが、難燃性に問題がありその使用用途が限られてきた。
【0024】
本発明による、難燃性積層フィルムを用いた汎用性電子部材の開発によって、柔軟性を持った優れたガスケットの応用範囲は大幅に広がることが容易に推察される。これはPETベースの従来品ではこれまで耐燃焼性が要求される場所に使用ができなかったためで、プラスチックフィルムと金属層との密着強度の向上がもたらした恩恵と言える。
【0025】
応用範囲の代表的な例として、液晶、PDP、CRTなどのディスプレイ、携帯電話を含む電話機ならびにFAX・コピー機、パソコン、プリンタ・ルータなどのパソコン周辺機器、ゲーム機、電磁調理器、デジタルオーディオ、カーナビゲーションシステム・ETC車載機などを含む自動車関連製品、航空機航行システムなどの耐久消費財、あるいは心臓ペースメーカー、人工呼吸器などの医療機器、またオシロスコープ、デジタルアナライザーなどの計測機器が挙げられ、これらのEMC対策がより一層進むことが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
これまで見てきたように、本発明の要点は、密着強度の低かった積層金属を、どのようにしてプラスチックフィルムに対して強密着化するかという点に絞られる。
【0027】
電磁波をシールドするのに十分な金属層の厚さは、材料として銅を選択した場合、2000Åから10000Åであり、これ以上の厚みは必要がない。これらの厚さの金属の積層化処理により、電磁波のシールド性は、通常70dBから80dBに到達する。
【0028】
この積層金属の厚さの下限が2000Åであるのは、これ以下の厚さの金属膜を均質に実用に足る広い面積で作ることは容易ではないことに起因する。金属膜が不均質になると、シールド材として用いた場合、電磁波の漏洩が起こる。金属層の厚さはシールド性に若干の寄与がある。しかしながら、電磁波が本発明品のような金属薄膜層に照射された場合にはそのほとんどが表面で反射されてしまう。内部に侵入した電磁波も金属層内で多重反射しながら減衰するので、実際にはメートル波から紫外域では電磁波の透過はほとんど起こらない。上限の10000Åは、これ以上の厚さの金属層を形成しても、金属内部で多重反射する電磁波の減衰効果の向上はほとんど期待できないからである。そして金属層を厚くすることはわずかではあるがシールド性の向上には寄与する、反面フィルムとしてのしなやかさを失うことにもなり、これも金属層の厚さ上限が制約される一因となる。
【0029】
そして、フィルムとしての柔軟性を保つためには、金属層は薄い方が良いため、むやみな層厚増加にはほとんど意味はない。実用性と経済効果の両方を考慮したとき金属層の厚さについての好適な範囲は3000Åから6000Å程度となる。このとき、片面に6000Åの金属層を形成するよりも、基材フィルムの両面に3000Åずつ、合わせて6000Åの厚さにするほうが、電磁波シールドとしての性能は上がる。これは多層膜にした場合膜内での電磁波の多重反射がより複雑になり、特に金属層とプラスチックフィルムとの界面での屈折率の差による反射率が非常に大きいため間に位置する基材フィルムの電磁波減衰効果が大いに期待できるからである。
【0030】
難燃性を具備したプラスチックフィルムに金属の積層化処理を行った場合、積層化前後で耐燃焼性に変化が見られる。すなわち、金属の薄膜は燃焼に対して活性であり、積層フィルム全体の燃焼を支援する傾向がある。例えばPIコートしたPETに対してUL94 VTM-0に準ずる接炎試験を行った場合、延焼時間は約1秒であったが、銅で3000Åの積層化処理をした場合には約17秒にまで延焼時間が延びることが確認された。このように基材フィルムによっては、表面への薄い金属の積層化は延焼時間を支援する効果がある。
【0031】
金属の積層化による延焼支援効果は、フィルムによって大きく異なる。PIやPPSを用いた場合、延焼支援効果はほとんど見られないことが実験の結果分かった。したがって、PIやPPSが本発明品の中で最適のフィルムであることが言える。ただし、PIは他のプラスチックフィルムと比較してかなり高価なフィルムであり、実用上はコストパフォーマンスが悪いという欠点がある。
【0032】
表面改質を行うにあたって窒素ガスを用いた常圧プラズマ処理で行う場合の条件としては、出力1500Wのとき、フィルムの送り速度が毎秒2mで比較的良い密着が得られている。フィルム送り速度は表面処理の度合いを決定付ける大きなファクターで、速ければ製品生産能力も向上するが、必然的に処理能力が低下する。このため、フィルム送り速度を最大毎秒32mまで振って、様々な条件での処理を行った結果、上記の処理速度が好適であることを見出した。
【0033】
プラズマ発生ガスには窒素ガスの他ヘリウムやネオン・アルゴンなどの不活性ガスを用いることも出来るが、処理効果に最も優れているのはヘリウムガスである。しかしヘリウムガスは高価なガスであり、ヘリウムガスを用いると採算性の点で不利である。工業製品として一般的に採算ラインに乗せるには、アルゴンより安価なガスを用いる方が良く、アルゴンは処理能力も高く好適なガスである。更なるコストダウンを考慮したとき、窒素ガスを用い処理速度をその分低下させることでアルゴン使用と同程度の効果を見出すことも可能である。本発明品では窒素ガスを常圧で用い、その流量を100L/minとしたときに比較的好適な条件が得られることが分かった。
【0034】
また、プラズマ処理後、金属層の形成を行うまでの期間として、約2週間以内であれば、十分な強密着が得られる。この際、金属層の形成には高周波加熱による真空蒸着、あるいは電子ビーム加熱による真空蒸着などの物理的形成法が工業生産法として都合が良い。
【0035】
プラズマ処理の効果は処理膜を大気中にさらしておくと、そのファクターを金属層との密着強度とした場合、時間に対しほぼ指数関数的に減少していく傾向がある。処理の翌日に金属層蒸着を行った場合には非常に良い結果を得る。また、一週間程度の時間が経過しても金属層の密着強度は十分使用に耐える。これは量産品に関して特に言えることで、処理後のプラスチックフィルムを巻物として保管した場合には、処理面が直接空気に触れることがなく、表面に作られた種々の官能基が効果的に保存できるからである。こうした効果が期待できるのも2週間程度までではあるが、処理後のフィルム保管方法に十分注意すればさらに長期に渡って性能を維持することも可能である。しかし良好な状態で長期保存するには保存コストも大きく経済性の観点からは好ましくはない。したがって、処理効果が低下する前に金属層を形成することが望ましい。
【実施例1】
【0036】
厚さ25μmのPPSを用いた接炎試験を行った。PPSには自己消火性があり、生フィルムでUL94 VTM-0に準ずる接炎試験を行った場合延焼時間は3秒39であった。銅で片面に3000Åの積層化をしたものでは、延焼時間は3秒71で、金属蒸着による耐燃焼性の変化はほとんどない。PPSは本発明品として、最も適した材質の一つと言える。
【実施例2】
【0037】
厚さ25μmのPIを用いた接炎試験を行った。PIにも自己消火性があり、生フィルムでUL94 VTM-0に準ずる接炎試験を行った場合延焼時間は1秒以下であった。銅で3000Åの積層化したものでも、延焼時間は1秒以下で、PPSと比較してもさらに良い結果が得られている。
【実施例3】
【0038】
厚さ25μmのポリエチレンナフタレート(PEN)を用いた接炎試験を行った。PENには自己消火性があり、UL94 VTM-0に準ずる接炎試験を行った場合延焼時間は1秒以下であった。銅で3000Åの積層化したものでは金属薄膜層の燃焼支援効果が認められ、延焼時間は2分を超えた、しかしこの場合でもUL94 VTM-1規格を満たすことが分かった。
【実施例4】
【0039】
次に、開発した積層フィルムを難燃性発泡樹脂に被覆し、厚さ0.6mm幅10mm長さ100mmのガスケット形状に加工したものについての接炎試験を行った。難燃性発泡樹脂としてはUL94 VTM-0規格を満たしているリン窒素系添加剤を加えた発泡ポリウレタン(例えば日清紡社製SEシート、厚さ0.5mm)を用いた。接着にも難燃化粘着材を用いた。フィルムにはプラズマ処理を施し強密着の金属層を成し、芯材に被覆したものを作製してUL94 V-0に準ずる実験をした。その結果、PENベースの場合には、11秒29の延焼時間が認められたが、PPS、PI、PIコートしたPETベースの金属積層フィルムではいずれでも、延焼時間は1秒以下になった。PENベースの例から、フィルム自体がUL94 VTM-0規格を満たしていなくても、ガスケット形状に組んだ場合には規格を満たす可能性のあることがわかった。また、ガスケット状に組んだ場合には、VTM-0ではなくV-0規格の試験が可能になった。このようにフィルムと芯材との相乗効果が現れ、性能が向上することが分かった。
【実施例5】
【0040】
実施例4の結果を受けて、PENのケースでは芯材を難燃化することで、製品の耐燃焼特性が向上することが分かった。そこで同じ日清紡社製SEシートに従来型のPETベースで銅3000Åを蒸着したものを被覆して接炎試験を行った。接着には難燃化粘着剤を用いている。この実験では短時間延焼して自己消火性を示すものと、火炎が延焼して表面のPETを全て燃焼させてしまうものに分かれ、必ずしも良好な結果は得られなかった。従ってPETフィルムベースで金属積層化されたものでは、難燃性の電子部材を作るには無理のあることがわかった。
【実施例6】
【0041】
芯材を変えることで、耐燃焼性がどのように変化するかを確認する実験を行った。芯材としてシリコンスポンジ(例えば、サンポリマー社製Si-800、厚さ5mm)を用いた。接着には難燃化粘着剤を用いた。積層フィルムには、プラズマ処理を施した強密着タイプを用いた。その結果、接炎後の延焼時間はPI、PPS、PIコートしたPETベースでは1秒以下で自己消火した。PENベースでも8秒54で自己消火し、何れもUL94 V-0の難燃規格を満たすことが示された。しかし、PETベースの積層材を用いた場合にはフィルムが全て延焼してしまうサンプルがあり、難燃性の規格を満たすことは出来なかった。
【実施例7】
【0042】
逆に芯材を可燃性のスポンジを用い、難燃性の積層フィルムで被覆したものの接炎試験も行った。接着には比較のため他の試験と同じ難燃性の粘着剤を用いた。積層フィルムにはPET、PEN、PIコートPET、PPS、PIの5種類を準備し、それぞれプラズマ処理の後、一週間以内に銅を3000Å蒸着したものを用いた。これらをUL94 V-0規格で試験をしたところ、全て芯材が燃焼してしまい、難燃性フィルムと難燃性粘着剤での耐燃焼性向上は非常に困難であることがわかった。
【0043】
【表2】

表2は芯材と積層フィルムの組み合わせによって、耐燃焼性がどのように異なるかを示したものである。用いたフィルムの厚さは25μm、金属層は銅3000Åとした。芯材との接着には難燃性粘着材を用いた。表で◎は非常に性能が良く、UL94 V-0試験において、接炎後の延焼時間が1秒以下であったものを示している。○は◎程の性能ではないが、十分UL94 V-0規格を満たすことを示している。△はUL94 V-1規格に相当し、耐燃焼性において応用範囲が限られると考えられる。△×は使用部位によっては部品として組み込むことは可能であるが、耐燃焼性が悪いため、強い制限を受ける程度であることを示している。×△は芯材の燃焼性を多少遅らせる程度であり、耐燃焼性を要求される部品として使うことは出来ない程度であることを示している。×は、全く耐燃焼性がないため、部品としての使用には非常に強い制限を受け、耐燃焼性部材とは認められないことを示している。
【実施例8】
【0044】
フィルムと積層させた金属層との密着強度に付いて調べた。まず、簡易的な方法であるセロテープ(登録商標)剥離試験を、未処理のPI、PPS、PEN、PIコートしたPET、PET(いずれも厚さ25μm)の5種類のフィルムに銅を3000Å蒸着した物について行った。その結果PIで50%程度、PPSで90%程度、PENで80%程度の剥離が認められた。PIコートしたPET、PETについては、剥離は観察されなかった。
【0045】
次に、コロナ放電処理を行ったそれぞれのフィルムに、翌日にやはり銅を3000Å蒸着したサンプルについてセロテープ(登録商標)剥離試験を行った。コロナ放電の条件は、大気中で出力350Wとした。この場合には、表面改質が比較的良く行われ、セロテープ(登録商標)剥離試験ではPPSで20%、その他のいずれのフィルムでも剥離は認められなかった。密着強度が向上したといえる。
【0046】
より厳密な密着強度を調べるため、コロナ放電処理後、翌日に銅を3000Å蒸着したサンプルの金属面側に、16μmのPETフィルムを貼り合わせ剥離試験を行った。貼り合わせには、タケネート(三井タケダケミカル)、タケラック(三井タケダケミカル)、酢酸エチルを重量比で12:1:9の割合で混合したものを接着剤とし、接着するフィルムにバーコーターで塗布し、摂氏100度で1分間乾燥させたのち、室温のロールで仮貼り合わせを行い、摂氏100度のロールで本貼り合わせを行う。この後、摂氏50度で60時間保温(エイジング)して剥離試験用サンプルとした。剥離試験サンプルの幅は10mmとした。密着強度はPIが0.7N、PPSが0.3N、PENが1.1N、PIコートしたPETが1.3N、PETが1.7Nとなった。
【0047】
参考値として、未処理のPETフィルムに蒸着したものでは、10mm幅のサンプルで密着強度は0.42N、また未処理のPIコートPETでは0.37Nであった。他のPI、PPS、PENフィルムでは、密着強度が低すぎて、正確な測定は出来なかった。この場合の密着強度は数値で表せばほぼ0Nと言える。
【0048】
さらに、5種類のフィルムにプラズマ処理を施した場合の結果は、前述しているように飛躍的な密着強度の向上が認められている。プラズマ処理の翌日に銅を3000Å蒸着したものでは、コロナ放電処理の場合と同じ条件で剥離試験を行ったが、引張試験機に掛けたところ全てのサンプルでフィルムが切れてしまい測定は不可能であった。密着強度が非常に高いために起こった現象と言える。プラズマ処理がコロナ処理に比べても非常に革新的な技術であることが分かる。
【0049】
そこで、プラズマ処理後一週間後に同じ条件で蒸着したサンプルを作製した。密着強度が測定できたのはPIとPPSの2種類だけで、それぞれ1.49N、2.41N、であった。それ以外のサンプルについては、やはり剥離の時に切れてしまい、密着強度を測定することは出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
UL94 VTM-0規格を満たす厚さ25μm以下のプラスチックフィルム基材上に片面もしくは
両面に単一又は複数の導電性金属層や合金層で強密着に形成した難燃性積層フィルムを用いて、少なくともUL94 VTM-0同等以上の規格性能を満たす発泡樹脂・ゴム・ゲル材などのクッショ
ン性芯材に導電性面を外側にして被覆した構成により相乗効果を発揮してUL94V0規格に
格上げした難燃性・柔軟性を特徴とする難燃性汎用電子部材。
【請求項2】
請求項1に示した構成を持ったUL94 V-0規格の難燃性を特長とする難燃性汎用電子部材の
電磁波シールド用難燃性ガスケット。
【請求項3】
請求項1に示した構成を持ち、導電性を具備した柔軟性のある芯材を用いることで、さらに電磁波シールド性を向上させた同じくUL94 V-0規格の難燃性を特長とする難燃性ガスケット。
【請求項4】
請求項2並びに請求項3で示したガスケット材で、柔軟性を保持したままガスケットの厚さ
を10mm未満に加工したUL94 V-0規格の難燃性を特長とする・電磁波シールド用難燃性ガス
ケット。
【請求項5】
請求項1に示した構成を持ち、表面の電気良導性と柔軟性並びにUL94 V-0規格の難燃性を特長として、アース・スイッチなどに用いられる難燃性電気接点材料。
【請求項6】
芯材としてUL94 VTM-0もしくはUL94 V-0規格を満たした熱伝導性を向上させたスポンジ材・ゲル材などを用い、プラスチックフィルムに積層した金属層の熱良導性を利用する、請求項1に示した構成を持つUL94 V-0規格を持つ難燃熱伝導性材料。
【請求項7】
請求項1に用いられる難燃性積層フィルムは、一般に市販される25μm以下の厚さのプラスチック基材において積層させる金属層との密着性を飛躍的に向上させるため基材表面への物理処理・化学処理などを施して成るもので、基材となるプラスチックフィルムとしてはポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、両面を難燃性物質であるPIでコートされたポリエチレンテレフタレート(PET)などを含むUL94 VTM-0規格を満たすフィルムのうち一つからなる難燃性フィルムを用い、その密着強度は10mm幅のサンプルで剥離試験を行った時に0.5N以上であり、自己消火性を具備し、火炎に接炎させても延焼し難いUL94 VTM-0規格を満たす難燃性積層フィルム。

【公開番号】特開2008−78368(P2008−78368A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255554(P2006−255554)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000231280)日本資材株式会社 (9)
【Fターム(参考)】