説明

難燃性油圧作動油組成物

【課題】 火災発生の危険性が高く、高温かつ高圧下で使用される用途に最適で、かつ高圧ポンプへの適用可能な、耐摩耗性、耐焼き付き性、スラッジ抑制性能及び防錆性に優れ、長期間使用可能であることを特徴とする難燃性油圧作動油組成物を提供する。
【解決手段】合成油および油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油に、(A)芳香族アミン系酸化防止剤を組成物全量基準で0.01〜5.0質量%、(B)式(1)で示されるアミノ酸誘導体を組成物全量基準で0.001〜2.0質量%、及び(C)硫黄含有リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩及び亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の摩耗防止剤を組成物全量基準で0.001〜5.0質量%含有してなり、引火点が280℃以上であることを特徴とする難燃性油圧作動油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性油圧作動油組成物に関し、特にアルミダイキャスト押し出し加工機あるいは製鉄所構内作業など、火災発生の危険性が高く、高温かつ高圧下で使用される用途に最適で、かつ高圧ポンプへの適用可能な、耐摩耗性、耐焼き付き性、スラッジ抑制性能及び防錆性に優れ、長期間使用可能であることを特徴とする難燃性油圧作動油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりアルミダイキャスト押し出し加工機あるいは製鉄所構内作業など、火災発生の危険性が高い場所で使用される作動液は、安全性を保つため水グリコールあるいは脂肪酸エステルなどの難燃性作動油(液)が使用されていた。その中でも消防法の規制から、第四石油類の規制がある場所では、水グリコールが主に使用されていたが、使用液管理の煩雑さ、耐摩耗性などについての欠点を有していた。しかしながら2002年の消防法の改正により引火点250℃以上の脂肪酸エステルを基油とする作動油も消防法の適用外となり、その用途が広がることとなった。
【0003】
一方、最近油圧システムの高圧化が進み、このような環境下で使用される作動油には優れた耐摩耗性が要求されると共に、長寿命化も要求されている。従来の鉱油系作動油あるいはエステル系作動油には、ZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)、芳香族リン酸エステルなどの耐摩耗性添加剤が使用されてきた(特許文献1〜3参照)。また防錆剤として、多価アルコール部分エステル、アルケニルコハク酸部分エステル、Caスルフォネート、脂肪族アミン、脂肪族アミドなどが主に使用されてきた。しかしながら、基油をエステルとした場合、エステル自身の吸着活性が高いために、鉱油と比較してこれら添加剤の効果がほとんど発揮されないとの問題が指摘されてきた。例えば、代表的なリン系摩耗防止剤であるTCP(トリクレジルフォスフェート)は、脂肪酸エステル中ではほとんどその耐摩耗性の効果が発揮されない。
【0004】
また防錆剤についてもエステル以上の金属表面への吸着力が必要で、かつ添加量も多くなるという欠点を有していた。金属表面に対して防錆剤は元々摩耗防止剤との競争吸着が起こりやすく、摩耗防止剤の性能に悪影響を及ぼすことが従来から知られており、従来の技術では、良好な防錆性を有しながら、耐摩耗性、耐焼き付き性を維持するのはきわめて困難であった。
【特許文献1】特開2001−214187号公報
【特許文献2】特許第3548591号公報
【特許文献3】特許第2888747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脂肪酸エステル作動油の使用拡大と共に、耐摩耗性、耐焼き付き性の要求は強まり、水が混入しやすい脂肪酸エステル作動油については防錆性能も極めて重要である。
本発明の目的は、火災発生の危険性が高く、かつ高性能化されたシステムに利用される油圧作動油において、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れているだけでなく、FZGギヤ試験において合格ステージが10以上であり、さらにOECD301B法による生分解率が60%以上であり、防錆性にも優れた長寿命の難燃性作動油を提供することを目的とする。
ここで、FZGギヤ試験とは、ASTMD5182に規定されたギヤ試験を意味する。また、OECD301B法とは、生分解性作動油規格ISO15380に規定されているOECD301B法の生分解性試験を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、合成油及び/又は油脂に対して、特に脂肪酸エステルに対しても高い防錆効果をもち、かつ耐摩耗性、耐焼き付き性、酸化安定性に悪影響を及ぼさない特定のアミノ酸誘導体の防錆剤を選択し、スラッジ性能などに悪影響を及ぼさない最適な摩耗防止剤と酸化防止剤を組み合わせで使用することによって本課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、合成油および油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油に、(A)芳香族アミン系酸化防止剤を組成物全量基準で0.01〜5.0質量%、(B)式(1)で示されるアミノ酸誘導体を組成物全量基準で0.001〜2.0質量%、及び(C)硫黄含有リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩及び亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の摩耗防止剤を組成物全量基準で0.001〜5.0質量%含有してなり、引火点が280℃以上であることを特徴とする難燃性油圧作動油組成物に関するものである。
【化3】

(式(1)中、Aは式(2)又は式(3)で示される基であり、Bは炭素数1〜12のアルキル基又は式(4)で示される1価カルボン酸エステルの残基であり、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。)
O−CO−R− (2)
O−CO−R−CO− (3)
−C−CO−OR (4)
(式(2)〜(4)中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜10のアルキレン基であり、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基あり、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0008】
また本発明は、成分(B)が下式(5)で示されるアミノ酸誘導体化合物であることを特徴とする前記の難燃性油圧作動油組成物に関するものである。
【化4】

(式(5)中、Rは炭素数4〜12のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【0009】
さらに本発明は、基油が多価アルコールの脂肪酸エステルであることを特徴とする前記の難燃性油圧作動油組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、合成油及び/又は油脂に対して、特に脂肪酸エステルに対しても高い防錆効果を有し、耐摩耗性、耐焼き付き性及び酸化安定性優れた難燃性油圧作動油組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
本発明の難燃性油圧作動油組成物に使用される基油としては、合成油及び油脂の中から選ばれる基油が用いられ、特に含酸素油が好ましい。かかる基油としては、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテルなどが例示されるが、この中でもエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルエーテル及びこれらの混合物が挙げられる。とりわけエステルが好ましく、特に40℃における動粘度が10〜200mm/s、引火点が280℃以上のものが好ましく用いられる。なお、本発明で用いられる含酸素油は合成物又は天然物のいずれであってもよい。例えば、エステルは、動植物由来の油脂から抽出されるものであってもよく、合成エステルであってもよい。
【0012】
エステルとしては、例えば、脂肪酸エステル、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、芳香族エステル、炭酸エステル及びこれらの混合物などが例示される。
【0013】
脂肪酸エステルとしては、炭素数5〜19の直鎖又は分枝アルキル基を有する脂肪酸と、直鎖又は分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコールとのエステル及びこれらの混合物が好ましく用いられる。具体的には、ブチルステアレート、オクチルラウレートなどの脂肪酸エステルが好ましい。
【0014】
二塩基酸エステルとしては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの炭素数5〜10の二塩基酸と、直鎖又は分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコールとのエステル及びこれらの混合物が好ましく用いられ、具体的には例えば、ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0015】
ポリオールエステルとしては、ジオールあるいは水酸基を3〜20個有するポリオールと、炭素数1〜24の脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。ここで、ジオールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2ーメチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。ポリオールとしては、具体的には例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜20量体)、1,3,5ーペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物、及びメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。これらの中でもポリオールとしては、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0016】
前記脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1〜24のものが用いられる。炭素数1〜24の脂肪酸の中でも、潤滑性の点から炭素数3以上のものが好ましく、炭素数4以上のものがより好ましく、炭素数5以上のものがさらにより好ましく、炭素数10以上のものが最も好ましい。
また、直鎖状脂肪酸、分枝状脂肪酸の何れであっても良く、潤滑性の点からは直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の点からは分枝状脂肪酸が好ましい。更に、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の何れであっても良い。
【0017】
前記脂肪酸としては、具体的には例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸などの直鎖又は分枝のもの、あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸などが挙げられる。さらに具体的には、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、などが好ましい。
【0018】
好ましいポリオールエステルの具体例としては、ネオペンチルグリコールと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸とのジエステル、トリメチロールエタンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル、トリメチロールプロパンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル、トリメチロールブタンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル、ペンタエリスリトールと吉草酸、イソペンタン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、オレイン酸、の中から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸とのテトラエステルが挙げられる。
【0019】
また、ポリオールエステルの中でも、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン及びペンタエリスリトールのエステルがさらにより好ましく、加水分解安定性に特に優れることからトリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールのエステルが特に好ましい。具体的には、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンオレエート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等が好ましく用いられる。
【0020】
なお、2種以上の脂肪酸とのエステルとは、1種の脂肪酸とポリオールのエステルを2種以上混合したものでも良く、2種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステルであっても良い。また、ポリオールエステルとしては、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに残った部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0021】
コンプレックスエステルとは、脂肪酸及び二塩基酸と、一価アルコール及びポリオールとのエステルのことであり、脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、二塩基酸エステル及びポリオールエステルに関する説明において例示したものと同様のものが使用できる。
【0022】
芳香族エステルとしては、1〜6価、好ましくは1〜4価、より好ましくは1〜3価の芳香族カルボン酸と炭素数1〜18、好ましくは1〜12の脂肪族アルコールとのエステルなどが用いられる。1〜6価の芳香族カルボン酸としては、具体的には例えば、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの混合物などが挙げられる。また、炭素数1〜18の脂肪族アルコールとしては、直鎖状のものでも分枝状のものであってもよく、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分枝状のプロパノール、直鎖状又は分枝状のブタノール、直鎖状又は分枝状のペンタノール、直鎖状又は分枝状のヘキサノール、直鎖状又は分枝状のヘプタノール、直鎖状又は分枝状のオクタノール、直鎖状又は分枝状のノナノール、直鎖状又は分枝状のデカノール、直鎖状又は分枝状のウンデカノール、直鎖状又は分枝状のドデカノール、直鎖状又は分枝状のトリデカノール、直鎖状又は分枝状のテトラデカノール、直鎖状又は分枝状のペンタデカノール、直鎖状又は分枝状のヘキサデカノール、直鎖状又は分枝状のヘプタデカノール、直鎖状又は分枝状のオクタデカノール及びこれらの混合物などが挙げられる。芳香族エステルとしては、具体的には例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジノニル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジドデシル、フタル酸ジトリデシル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリノニル、トリメリット酸トリデシル、トリメリット酸トリドデシル、トリメリット酸トリトリデシルなどが挙げられる。なお、当然のことながら、2価以上の芳香族カルボン酸を用いた場合、1種の脂肪族アルコールからなる単純エステルであってもよいし、2種以上の脂肪族アルコールからなる複合エステルであってもよい。
【0023】
また、炭酸エステルとは、分子内に炭酸エステル構造を有する化合物である。なお、炭酸エステル構造は一分子内に1つでも良いし複数有していても良い。
炭酸エステルを構成するアルコールとしては、前述の脂肪族アルコール、ポリオールなどが使用でき、またポリグリコールやポリオールにポリグリコールを付加させたものも使用できる。また、炭酸と脂肪酸及び/又は二塩基酸を用いたものを使用しても良い。
【0024】
また、当然のことながら本発明でいうエステルとしては、単一の構造のエステル1種からなるものであっても良く、構造の異なる2種以上のエステルの混合物であっても良い。
これらのエステル系基油の中でも、耐水性に優れることから、ポリオールエステルが好ましい。
本発明においては、上記のエステル系基油のうちの1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明の難燃性油圧作動油組成物の基油として用いられるポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
−〔(OR−OR10 (6)
式(6)中、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基又は水酸基を2〜8個有する化合物の残基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、R10は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアシル基、fは1〜80の整数、gは1〜8の整数を示す。
【0026】
上記一般式(6)において、R、R10におけるアルキル基は直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、直鎖状又は分枝状のブチル基、直鎖状又は分枝状のペンチル基、直鎖状又は分枝状のヘキシル基、直鎖状又は分枝状のヘプチル基、直鎖状又は分枝状のオクチル基、直鎖状又は分枝状のノニル基、直鎖状又は分枝状のデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。
【0027】
また、R、R10におけるアシル基のアルキル基部分は直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アシル基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。
及びR10が、いずれもアルキル基又はアシル基である場合には、RとR10は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。さらにgが2以上の場合は、1分子中の複数のR10は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
なお、本発明において、水酸基を有する化合物の残基とは、当該水酸基を除いた残基を意味する。
【0029】
本発明においては、上記R及びR10は少なくとも一つがアルキル基、特に炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、とりわけメチル基であることが粘度特性の点から好ましい。更には、上記と同様の理由からR及びR10の両方がアルキル基、特に炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、とりわけメチル基であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(6)中のRは炭素数2〜4のアルキレン基であり、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。(OR)で表される繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよい。
【0031】
本発明にかかるポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテルが経済性及び効果の点で好適であり、また、ポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル、さらにはポリオキシプロピレングリコールジアセテートなどが経済性等の点で好適である。
【0032】
また、本発明の難燃性油圧作動油組成物の基油として用いられるポリビニルエーテルとしては、例えば下記一般式(7)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系化合物が挙げられる。
【化5】

【0033】
式(7)中、R11、R12及びR13はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、R14は炭素数1〜10の二価の炭化水素基又は炭素数2〜20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基、R15は炭素数1〜20の炭化水素基、qはその平均値が0〜10の数を示し、R11〜R15は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR14Oが複数ある場合には、複数のR14Oは同一でも異なっていてもよい。
【0034】
また、本発明の難燃性油圧作動油組成物の基油として用いられる油脂としては、例えば、牛脂、豚脂、ひまわり油、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、あるいはこれらの水素添加物等が挙げられる。植物油の中では、脂肪酸組成がオレイン酸の比率が高いハイオレイン酸タイプの植物油が特に望ましい。
本発明の難燃性作動油組成物の基油としては、上記した基油を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0035】
なお、これら基油の動粘度は、特に限定されず任意であるが、難燃性、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れ、かつ攪拌抵抗による摩擦ロスが少ない等の点から、通常、40℃における動粘度は、好ましくは10〜200mm/s、より好ましくは15〜150mm/sであり、さらに好ましくは20〜100mm/sである。またその粘度指数も任意であるが、高温における油膜維持等の点から、通常、その粘度指数は、好ましくは80〜500、より好ましくは100〜300である。さらにその流動点も任意であるが、冬期におけるポンプ始動性等の点から、通常、その流動点は、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−15℃以下である。
【0036】
本発明の難燃性作動油組成物は、必須成分として、(A)芳香族アミン系酸化防止剤を少なくとも一種含有する。(A)芳香族アミン系酸化防止剤としては、下記の一般式(8)で表される(A−1)フェニル−α−ナフチルアミン類、及び一般式(9)で表される(A−2)p,p’−ジアルキルジフェニルアミンが使用される。
【0037】
【化6】

【化7】

【0038】
一般式(8)において、R16は水素原子又は炭素数1〜16のアルキル基を示す。
また、一般式(9)において、R17及びR18は、それぞれ個別に、炭素数1〜16のアルキル基を示す。
【0039】
先ず、一般式(8)で表されるフェニル−α−ナフチルアミン類について説明する。一般式(8)において、R16は水素原子又は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示す。R16の炭素数が16を超える場合には分子中に占める官能基の割合が小さくなり、酸化防止効果に悪影響を与える恐れがある。R16で表されるアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシ基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、及びヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でも良い)が挙げられる。
【0040】
一般式(8)で表される化合物の中でもR16がアルキル基である場合は、より優れたスラッジ生成抑制効果が得られることから、R16は、炭素数8〜16の分枝アルキル基が好ましく、さらに炭素数3又は4のオレフィンのオリゴマーから誘導される炭素数8〜16の分枝アルキル基がより好ましい。炭素数3又は4のオレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、2−ブテン及びイソブチレンが挙げられるが、より優れたスラッジ生成抑制効果を得るためには、プロピレン又はイソブチレンが好ましい。更に優れたスラッジ生成抑制効果を得るためには、R16は、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、プロピレンの3量体から誘導される分枝ノニル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基、プロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基またはプロピレンの5量体から誘導される分枝ペンタデシル基がさらに好ましく、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基又はプロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基がより好ましく、分岐ドデシル基が最も好ましい。
【0041】
一般式(8)で表される芳香族アミンのうちR16がアルキル基である化合物は、フェニル−α−ナフチルアミン類として市販のものを用いても良く、また合成物を用いても良い。合成物は、フェニル−α−ナフチルアミンと炭素数1〜16のハロゲン化アルキル化合物、あるいは炭素数2〜16のオレフィン又は炭素数2〜16のオレフィンオリゴマーとフェニル−α−ナフチルアミンとをフリーデル・クラフツ触媒を用いて反応させることにより、容易に合成することができるが、いずれの合成方法であっても良い。
【0042】
次に、一般式(9)で表されるp,p’−ジアルキルジフェニルアミンについて説明する。上記R17及びR18は、それぞれ個別に、炭素数1〜16のアルキル基を示す。R17及びR18の一方または双方が水素原子の場合にはそれ自身の酸化によりスラッジを生成する恐れがあり、また炭素数が16を超える場合には分子中に占める官能基の割合が小さくなり、スラッジ生成抑制効果に悪影響を与える恐れがある。R17又はR18で表されるアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシ基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でも良い)が挙げられる。これらの中でもR17又はR18は、より優れたスラッジ生成抑制効果を得るために、炭素数3〜16の分枝アルキル基が好ましく、さらに炭素数3又は4のオレフィン、又はそのオリゴマーから誘導される炭素数3〜16の分枝アルキル基がより好ましい。上記炭素数3又は4のオレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、2−ブテンおよびイソブチレン等が挙げられるが、より優れたスラッジ生成抑制効果を得るためにプロピレン又はイソブチレンが好ましい。
【0043】
さらに、R17又はR18は、より優れた酸化防止効果を得るために、それぞれイソブチレンから誘導されるtert−ブチル基、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基、プロピレンの2量体から誘導される分枝ヘキシル基、プロピレンの3量体から誘導される分枝ノニル基、プロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基又はプロピレンの5量体から誘導される分枝ペンタデシル基がより好ましく、イソブチレンから誘導されるtert−ブチル基、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基が最も好ましい。
【0044】
一般式(9)で表されるp,p’−ジアルキルジフェニルアミンは市販のものを用いても良くまた合成物を用いても良い。合成物は、一般式(8)で表されるフェニル−α−ナフチルアミンと同様に、炭素数1〜16のハロゲン化アルキル化合物とジフェニルアミン、あるいは炭素数2〜16のオレフィン又は炭素数2〜16のオレフィン又はこれらのオリゴマーとジフェニルアミンとをフリーデル・クラフツ触媒を用いて反応させることにより、容易に合成することができるが、いずれの合成方法であっても良い。
【0045】
本発明の難燃性作動油組成物の(A)成分は、上記一般式(8)及び(9)で示される化合物から選ばれ、それぞれ単一の構造でもよく、構造の異なる2種以上からなる混合物を用いても良い。
【0046】
本発明の難燃性作動油組成物における(A)成分の含有量は、その上限値は、組成物全量基準で5質量%であり、好ましくは2質量%、最も好ましくは1.5質量%である。その含有量が5質量%を越えても、その含有量に見合うだけのスラッジ抑制効果のさらなる向上効果はみられないだけでなく、逆にスラッジ生成量の増加を招く恐れがある。一方、(A)成分の含有量の下限値は、組成物全量基準で0.01質量%であり、好ましくは0.02質量%、さらに好ましくは0.05質量%、最も好ましくは0.1質量%である。(A)成分の含有量が0.01質量%に満たない場合は、その添加効果が見られず、スラッジ抑制効果が見られない恐れがある。
【0047】
本発明の難燃性作動油組成物は、必須成分として、(B)アミノ酸誘導体を少なくとも一種含有する。
かかるアミノ酸誘導体は、下記一般式(1)で示され、式(5)のものが特に好ましい。
【化8】

【0048】
式(1)中、Aは式(2)又は式(3)で示される基であり、Bは炭素数1〜12のアルキル基又は式(4)で示される1価カルボン酸エステルの残基であり、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。)
O−CO−R− (2)
O−CO−R−CO− (3)
−C−CO−OR (4)
(式(2)〜(4)中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜10のアルキレン基であり、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基あり、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0049】
【化9】

【0050】
式(5)中、Rは炭素数4〜12のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。
【0051】
は、炭素数4〜12のアルキル基であり、好ましくは炭素数4〜10、さらに好ましくは炭素数6〜10のアルキル基である。また、R及びRは、炭素数1〜10のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。Rは水素又は炭素数1〜10のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。
【0052】
(B)成分のアミノ酸誘導体の配合量は、組成物全量基準で0.001〜2.0質量%であり、好ましくは0.05〜1.5質量%、最も好ましくは0.1〜1.0質量%である。(B)成分が2.0質量%を越えても、その配合量に見合うだけの防錆効果のさらなる向上効果はみられない。一方、(B)成分の含有量が0.001質量%に満たない場合は、その防錆効果が見られない恐れがある。
【0053】
本発明の難燃性油圧作動油組成物は、必須成分として、(C)(C−1)硫黄含有リン酸エステル、(C−2)酸性リン酸エステル、(C−3)酸性リン酸エステルアミン塩、及び(C−4)亜リン酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種類の摩耗防止剤を含有する。
【0054】
(C−1)硫黄含有リン酸エステルとしては、具体的には、アルキル基が炭素数4〜18であるトリアルキルフォスフォロチオネート、トリオレイルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフォロチオネート、トリキシレニルフォスフォロチオネート、クレジルジフェニルフォスフォロチオネート、キシレニルジフェニルフォスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート等が挙げられる。
【0055】
(C−2)酸性リン酸エステルの具体例としては、アルキル基が炭素数7〜18であるアルキルアシッドフォスフェート、アルキル基が炭素数4〜18であるジアルキルアシッドフォスフェート及びジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0056】
(C−3)酸性リン酸エステルアミン塩としては、具体的には、前記酸性リン酸エステルと、炭素数1〜8のアルキル基を有するアミン、炭素数1〜8のアルキル基を2個有するアミン、及び炭素数1〜8のアルキル基を3個有するアミン、との塩が挙げられる。
【0057】
(C−4)亜リン酸エステルとしては、具体的には、炭素数4〜12のアルキル基を2個有するジアルキルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、炭素数4〜12のアルキル基を3個有するトリアルキルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリクレジルホスファイトなどが挙げられる。
【0058】
本発明で用いる(C)成分としては、中でも油脂及び合成油中での効果が高いことから、(C−1)硫黄含有リン酸エステル、(C−2)酸性リン酸エステル、(C−3)酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましく用いられる。
【0059】
本発明の難燃性油圧作動油成物における(C)成分の含有量の上限値は、組成物全量基準で5質量%であり、好ましくは2質量%、より好ましくは1.5質量%である。含有量が5質量%を越える場合、熱安定性に劣り、スラッジ発生の原因となるので好ましくない。一方、(C)成分の含有量の下限値は、組成物全量基準で0.001質量%であり、好ましくは0.005質量%、より好ましくは0.01質量%である。(C)成分の含有量が0.001質量%に満たない場合は、耐摩耗性及び耐焼付性が不足するので好ましくない。
【0060】
本発明においては、その性能を更に向上させる目的で、必要に応じて、さらにその他の酸化防止剤、さび止め剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、抗乳化剤、スティックスリップ防止剤、油性剤等に代表される各種添加剤を単独で、又は数種類組み合わせて含有させても良い。
【0061】
本発明の難燃性油圧作動油組成物は、アミン系酸化防止剤を必須成分として含有するものであるが、さらにフェノール系酸化防止剤を併用してもよい。フェノール系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のアルキルフェノール系化合物が使用可能であり、特に限定されるのもではないが、例えば、アルキルフェノール類及びビスフェノール類などのヒンダードフェノール類が好ましく、分子中にサルファイド基、エステル結合を含むものも好ましく使用される。
【0062】
さび止め剤としては、具体的には、多価アルコールの部分エステル;ラノリン脂肪酸エステル、アルキルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸エステル等のエステル類;ザルコシン;ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール部分エステル類;脂肪酸金属塩、ラノリン脂肪酸金属塩、酸化ワックス金属塩等の金属石けん類;カルシウムスルフォネート、バリウムスルフォネート等のスルフォネート類;酸化ワックス;アミン類;リン酸;リン酸塩等が例示できる。
本発明においては、これらのさび止め剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で油圧作動油組成物に含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.01〜1質量%であるのが望ましい。
【0063】
金属不活性化剤としては、具体的には、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が例示できる。本発明においては、これらの金属不活性化剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.001〜1質量%であるのが望ましい。
【0064】
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物、エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物及びポリアルキルスチレン等の、いわゆる非分散型粘度指数向上剤等が例示できる。本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.01〜10質量%であるのが望ましい。
【0065】
流動点降下剤としては、具体的には、各種アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物、又はスチレン-ジエンコポリマー等が例示できる。本発明においては、これらの流動点降下剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.01〜5質量%であるのが望ましい。
【0066】
消泡剤としては、具体的には、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が例示できる。本発明においては、これらの消泡剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.001〜0.05質量%であるのが望ましい。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール,ポリオキシアルキレンアルキルエーテル,ポリオキシアルキレンアルキルアミド,ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
スティックスリップ防止剤としては、具体的には、多価アルコールエステル(完全エステル、部分エステル)などが挙げられる。
油性剤としては、具体的には脂肪酸、エステル、アルコール等が挙げられる。通常、その含有量は、油圧作動油組成物全量基準で0.01〜0.5質量%であるのが望ましい。
【0067】
本発明の油圧作動油組成物の引火点は280℃以上であり、好ましくは300℃以上であり、難燃性に優れる。特に脂肪酸エステルや油脂類は鉱物油より引火点が高く、事実上火災の危険性が著しく低減される。また、引火点が280℃以上であるので、消防法の第四石油類の危険物の指定からはずれて可燃性液体類となり、取り扱いが容易となる。
なお、ここでいう引火点とは、JIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準拠して測定される値である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に何ら限定されるものではない。
【0069】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
表1に示すように、基油および添加剤を配合して油圧作動油組成物を調製した。かかる油圧作動油組成物について、引火点、熱安定度試験、四球試験、FZGギヤ試験、V104Cベーンポンプ試験、防錆試験および生分解性試験の結果を表1に示す。
【0070】
なお、実施例及び比較例で用いた基油および添加剤は以下のとおりである。
<基油>
基油A:トリメチルロールプロパンのオレイン酸エステル
(動粘度47.2mm/s(@40℃)、粘度指数190)
基油B:高オレイン酸含有菜種油(動粘度35mm/s(@40℃)、粘度指数
190、オレイン酸比率75%)
<酸化防止剤(A)>
A1:N−p−イソドデシルフェニル−α−ナフチルアミン
A2:p,p’−ジオクチルジフェニルアミン
<防錆剤(B)>
B1:アミノ酸誘導体(次式で示される化合物)
【化10】

(ここで、Rは、オクチル基、Rはブチル基,Rはブチレン基を示す。)
B2:ソルビタンモノオレエート
B3:アルケニルコハク酸部分エステル
<摩耗防止剤(C)>
C1:トリクレジルホスフェート
C2:トリフェニルフォスフォロチオネート
C3:2−エチルヘキシルアシッドフォスフェート
<その他の添加剤(D)>
D1:N−メチルベンゾトリアゾール
D2:ポリメタクリレート(分子量5万)
【0071】
[引火点]
JIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準拠した。
【0072】
[熱安定度試験]
JIS K 2540に規定する「潤滑油熱安定度方法」に準じ、容量50mlのビーカーに試料油50mlを採取し、鉄および銅のコイル状触媒を加え、140℃の空気恒温槽で一定期間(20日、40日)熱安定性試験を行う。試験後は試料油をフィルターでろ過して試料油中のスラッジ量を測定した。
【0073】
[四球試験]
ASTMD2783−88に規定する潤滑油の極圧性能測定用標準試験方法(四球法)「Standard Test Method for Measurement of Extreme-Pressure Properties of Lubricating Fluids(Four- Ball Method)」に準拠し、回転数1200min−1、荷重294N,油温75℃、試験時間1時間の条件で試験を実施し、3個の固定球の摩耗痕径(mm)の平均値を測定する。
【0074】
[FZGギヤ試験]
ASTMD5182に規定されたギヤ試験。回転数1500rpm/min−1、試験開始油温90℃で試験を開始し、各ステージで規定された重量でギヤに荷重をかけ、15分間運転する。ギヤが焼き付く荷重のステージで油の耐焼き付き性の評価を行う。ギヤが焼き付いた荷重のステージを不合格ステージとして報告する。
【0075】
[V104Cベーンポンプ試験]
ASTM D 2882に規定されたベーンポンプ試験を実施し、試験前後のベーンとリングの重量を計測し、摩耗量を測定した。試験時間は100時間とした。
【0076】
[防錆試験]
JISK2510に規定された、みがき棒鋼用一般鋼材を用いた防錆試験。使用する水により、蒸留水と人工海水の2種類の試験方法があるが、今回はより厳しい人工海水で試験を実施した。試験時間は24時間、試験油温は60℃である。
【0077】
[生分解性試験]
生分解性作動油規格ISO15380に規定されているOECD301C法による生分解性試験を行った。10箇所以上の汚水処理場から採取された活性汚泥を用いて、試料油の生分解性を評価する。その評価法により種々の試験法があるが、本方法では、試料油のBOD(生物化学的酸素要求量)で分解率を測定する。28日間の試験で、60%分解した場合、生分解性があると評価する。
【0078】
表1の結果から明らかなように、本発明の難燃性油圧作動油組成物は、引火点が高く、熱安定性、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れており、さらに防錆性、生分解性にも優れた長寿命の難燃性油圧作動油である。
【0079】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成油および油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油に、(A)芳香族アミン系酸化防止剤を組成物全量基準で0.01〜5.0質量%、(B)式(1)で示されるアミノ酸誘導体を組成物全量基準で0.001〜2.0質量%、及び(C)硫黄含有リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩及び亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の摩耗防止剤を組成物全量基準で0.001〜5.0質量%含有してなり、引火点が280℃以上であることを特徴とする難燃性油圧作動油組成物。
【化1】

(式(1)中、Aは式(2)又は式(3)で示される基であり、Bは炭素数1〜12のアルキル基又は式(4)で示される1価カルボン酸エステルの残基であり、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。)
O−CO−R− (2)
O−CO−R−CO− (3)
−C−CO−OR (4)
(式(2)〜(4)中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜10のアルキレン基であり、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基あり、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。)
【請求項2】
成分(B)が式(5)で示されるアミノ酸誘導体化合物であることを特徴とする請求項1記載の難燃性油圧作動油組成物。
【化2】

(式(5)中、Rは炭素数4〜12のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【請求項3】
基油が多価アルコールの脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性油圧作動油組成物。

【公開番号】特開2009−144045(P2009−144045A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322534(P2007−322534)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】