説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】難燃性、耐熱性、耐衝撃性、透明性のバランスに優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物、及び成形品を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)、芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)、メタクリル酸メチル単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(C)、及び芳香族ポリカーボネート樹脂(D)からなる熱可塑性樹脂組成物(E)100質量部に、難燃剤(F)5〜50質量部を含有してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の重量平均分子量Mwと該熱可塑性樹脂組成物(E)中における該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の含有量G(質量%)の関係が、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする上記難燃性熱可塑性樹脂組成物。
13,000≦Mw≦30,000 ・・・(1)
1≦G≦−2.9×10−4×Mw+20.824 ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、耐熱性、機械的強度、及び透明性に優れる難燃性熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、難燃性を付与されたスチレン系樹脂は、成形加工性、良好な機械的特性バランスを有し、電気絶縁性に優れることから、電気・電子機器分野、OA機器分野等、広範な分野で用いられている。
【0003】
一般的に、樹脂製品に意匠を付与する目的で、製品に全塗装、或いは部分塗装を施す場合がある。しかしながら、塗装処理は塗装不良による生産の歩留まり低下を生じやすい。また揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOC)排出抑制の流れから、できるだけ塗装処理を施すことなく、鮮やかな色、或いは深みのある色に着色したり、金属調やパール調の外観を持たせる等、意匠性を付与しやすい樹脂が望まれていた。
【0004】
スチレン系樹脂を難燃化する方法として、特定構造を有するリン系難燃剤を添加する方法(例えば、特許文献1、2参照)等が提案されている。しかしながら、得られる組成物の意匠性については何ら言及されていない。
【0005】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステルを共重合したゴム強化スチレン系樹脂に、リン酸エステル系難燃剤を添加する方法(例えば特許文献3〜7参照)、ハロゲン系難燃剤を添加する方法(例えば特許文献8参照)は、透明性を有することから着色性を含む意匠性には優れるものの、難燃性を付与するためには多量の難燃剤を必要とするため、耐熱性や衝撃強度が充分ではなかった。
【特許文献1】特開昭59−24736号公報
【特許文献2】特開平7−26093号公報
【特許文献3】特開2000−344994号公報
【特許文献4】特開2001−200131号公報
【特許文献5】特開2002−201330号公報
【特許文献6】特開2002−206039号公報
【特許文献7】特開2003−201384号公報
【特許文献8】特開昭62−116648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、難燃性、耐熱性、機械的強度、透明性を同時に発現することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の問題を解決するために鋭意検討した結果、特定範囲の分子量を持つ芳香族ポリカーボネート樹脂(D)を特定量添加することにより、課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち本発明は、以下のとおりである。
【0009】
[1]ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)、芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)、メタクリル酸メチル単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(C)、及び芳香族ポリカーボネート樹脂(D)からなる熱可塑性樹脂組成物(E)100質量部に、難燃剤(F)5〜50質量部を含有してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の重量平均分子量Mwと該熱可塑性樹脂組成物(E)中における該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の含有量G(質量%)の関係が、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする上記難燃性熱可塑性樹脂組成物。
13,000≦Mw≦30,000 ・・・(1)
1≦G≦−2.9×10−4×Mw+20.824 ・・・(2)
【0010】
[2]芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)、メタクリル酸メチル単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(C)、及び芳香族ポリカーボネート樹脂(D)からなる熱可塑性樹脂組成物(E)100質量部、難燃剤(F)5〜50質量部とを含有してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の重量平均分子量Mwと該熱可塑性樹脂組成物(E)中における該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の含有量G(質量%)の関係が、式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする上記難燃性熱可塑性樹脂組成物。
13,000≦Mw≦30,000 ・・・(1)
1≦G≦−2.9×10−4×Mw+20.824 ・・・(2)
【0011】
[3]前記グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体が、共役ジエン系ゴムである[1]に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[4]前記難燃剤(F)が下記一般式(1)で表されるリン酸エステル系難燃剤である[1]又は[2]に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【化1】


(Ra、Rb、Rc、及びRdはそれぞれ独立したアリール基であり、その一つ以上の水素が置換されていてもいなくてもよい。nは自然数、Xは2価のフェノール類より誘導される芳香族基、j、k、l、及びmはそれぞれ独立して0又は1である。)
【0013】
[5]前記熱可塑性樹脂組成物(E)中における前記共重合体(C)の含有量が30〜90質量%である[1]又は[2]に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[6]前記共重合体(C)におけるメタクリル酸メチル単量体の含有量が60〜99.5質量%である[1]又は[2]に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[7][1]〜[6]のいずれか一項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、難燃性、耐熱性、機械的強度、透明性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物、及び成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明におけるグラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系ゴム、及びこれらの水素添加物、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン−アクリルゴム等が挙げられ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。この中で好ましいのは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリル共重合体、アクリル系ゴム、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン−アクリルゴムであり、特に好ましいのは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリル共重合体であり、これらを使用することで機械的強度及び透明性に特に優れた熱可塑性樹脂組成物、及び成形品を得ることができる。
【0018】
グラフト共重合体(A)及び共重合体(B)における芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレンが挙げられ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。この中で特に好ましいのは、スチレン、及びα−メチルスチレンである。
【0019】
グラフト共重合体(A)及び共重合体(B)において、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステルや、同様の置換体のメタクリル酸エステル、さらに、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類やN−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体等が挙げられ、この中で特に好ましいのは、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、N−フェニルマレイミド、グリシジルメタクリレートである。
【0020】
グラフト共重合体(A)において、ゴム質重合体を除く成分における芳香族ビニル系単量体の含有量は60〜90質量%であることが好ましく、さらに好ましくは65〜85質量%、特に好ましくは70〜85質量%、最も好ましくは75〜85質量%である。芳香族ビニル系単量体の含有量がこの範囲にあると、特に透明性に優れた組成物を得ることができる。本発明において、グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体の体積平均粒子径は、機械的強度、成形加工性、成形品外観のバランスから、好ましくは0.1〜1.2μm、より好ましくは0.15〜0.8μm、さらに好ましくは0.15〜0.6μm、特に好ましくは0.2〜0.4μmである。
【0021】
また、グラフト共重合体(A)におけるグラフト率は、好ましくは10〜150質量%、より好ましくは20〜110質量%、さらに好ましくは25〜60質量%である。グラフト率をこの範囲にすることで、機械的強度に優れ、成形加工性の良好な組成物を得ることができる。なお、グラフト率とは、ゴム質重合体にグラフト共重合した単量体の、ゴム質重合体に対する重量割合として定義される。その測定法は、以下の通りである。重合反応により生成した重合体をアセトンに溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分と不溶分とに分離する。この時、アセトンに溶解する成分は重合反応した共重合体のうちグラフト反応しなかった成分(非グラフト成分)であり、アセトン不溶分はゴム質重合体、及びゴム質重合体にグラフト反応した成分(グラフト成分)である。アセトン不溶分の重量からゴム質重合体の重量を差し引いた値がグラフト成分の重量として定義されるので、これらの値からグラフト率を求めることができる。
【0022】
ゴム質重合体の屈折率は、20℃における屈折率として1.51〜1.54であることが好ましい。屈折率がこの範囲にあると、特に透明性に優れた組成物を得ることができる。
【0023】
共重合体(B)の還元粘度(ηsp/c)は0.3〜1.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.35〜1.0dl/g、さらに好ましくは0.35〜0.8dl/g、特に好ましくは0.40〜0.8dl/gである。還元粘度がこの範囲にあると耐衝撃性、及び難燃性に優れた組成物を得ることができる。還元粘度は、共重合体(B)0.50gを2−ブタノン100mlに溶解した溶液について、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することにより得られる。
【0024】
共重合体(C)におけるメタクリル酸メチル単量体と共重合可能な単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が挙げられ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。この中で好ましいのは、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチルであり、特に好ましいのはアクリル酸メチルである。
【0025】
共重合体(C)におけるメタクリル酸メチル単量体の含有量は好ましくは60〜99.5質量%であり、より好ましくは68〜99.5質量%、さらに好ましくは80〜99.5質量%、最も好ましくは90〜98質量%である。メタクリル酸メチル単量体がこの範囲にあると、難燃性、透明性に優れるだけでなく、耐傷性にも優れた組成物を得ることができる。
【0026】
また、共重合体(C)の還元粘度は0.18〜0.8ml/gであることが好ましく、より好ましくは0.20〜0.8ml/g、さらに好ましくは0.25〜0.80ml/g、特に好ましくは0.30〜0.65ml/gである。還元粘度がこの範囲にあると、耐衝撃性、難燃性に優れた組成物を得ることができる。還元粘度は、共重合体(B)と同様に共重合体(C)0.50gを2−ブタノン100mlにて溶解した溶液について、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することにより得られる。
【0027】
グラフト共重合体(A)、共重合体(B)、及び共重合体(C)は、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、懸濁塊状重合、溶液重合等、公知の方法によって製造することができる。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物(E)中における共重合体(C)の含有量は、30〜90質量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜85質量%、特に好ましくは40〜80質量%、最も好ましくは40〜70質量%である。共重合体(C)の含有量がこの範囲にあると、難燃性、機械的強度、透明性に優れるだけでなく、耐傷性にも優れた組成物を得ることができる。
【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂(D)は、公知の方法で製造したものを使用することができる。具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応せしめる公知の方法、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(例えばホスゲン)を水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(例えばホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(例えばジフェニルカーボネート)などを反応させるエステル交換法(溶融法)、ホスゲン法又は溶融法で得られた結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法(特開平1−158033(米国特許第4,948,871号に対応)、特開平1−271426、特開平3−68627(米国特許第5,204,377号に対応))などの方法により製造されたものを用いることができる。
【0030】
芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができ、測定条件は以下の通りである。
【0031】
すなわち、テトラヒドロフランを溶媒として、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式による換算分子量較正曲線を用いて求められる。
pc=0.3591Mps1.0388
(Mpcは芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量、Mpsはポリスチレンの分子量)
【0032】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、分子量が異なる2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
熱可塑性樹脂組成物(E)中における芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の重量平均分子量Mwと含有量G(質量%)の関係は、式(1)及び(2)を満たし、図1の点ABCDで囲まれた斜線部分(境界線を含む)であり、好ましくは式(1)及び(3)を満たす点AEFDで囲まれた部分、さらに好ましくは式(1)及び(4)を満たす点GEFHで囲まれた部分である。
13,000≦Mw≦30,000 ・・・(1)
1≦G≦−2.9×10−4×Mw+20.824 ・・・(2)
4≦G≦−2.9×10−4×Mw+20.824 ・・・(3)
4≦G≦−2.9×10−4×Mw+17.824 ・・・(4)
【0034】
これがこの範囲にあると、難燃性、特に吸湿状態での難燃性、耐熱性、機械的強度、及び透明性に優れた組成物を得ることができる。
【0035】
難燃剤(F)とは、常温で液状又は固体で、樹脂へ添加することにより難燃性を付与することのできる公知の化合物を意味し、例えば、有機リン化合物、赤リン、無機系リン酸塩等のリン系、ハロゲン系、シリカ系、シリコーン系などの難燃剤が挙げられる。
【0036】
有機リン系化合物としては、例えばリン酸エステル系化合物や縮合リン酸エステル系化合物、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステルやこれらを各種置換基で変性させた化合物、或いはトリス(クロロエチル)ホスフェート、ビス(2、3ジブロモプロピル)2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート等、含ハロゲン酸エステル等が挙げられ、この中で好ましいのは、リン酸エステル化合物、及び縮合リン酸エステル化合物である。
【0037】
この中で、特に好ましいのは下記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル化合物である。
【化2】


(Ra、Rb、Rc、及びRdはそれぞれ独立してアリール基であり、その一つ以上の水素が置換されていてもいなくてもよい。nは自然数、Xは2価のフェノール類より誘導される芳香族基、j、k、l、及びmはそれぞれ独立して0又は1である。)
【0038】
この中でも最も好ましいのは下記一般式(2)で表される縮合リン酸エステル化合物である。
【化3】

【0039】
式(2)で表される難燃剤を使用することにより、難燃性、機械的強度、耐熱性、意匠性のバランスに特に優れた組成物を得ることができる。
【0040】
赤リンとしては、一般の赤リンの他に、その表面をあらかじめ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物の被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物及び熱硬化性樹脂からなる被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物の被膜の上に熱硬化性樹脂の被膜で二重に被覆処理されたものなどが挙げられる。
【0041】
無機系リン酸塩としては、例えばポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0042】
ハロゲン系難燃剤としては、例えば芳香族ハロゲン化合物、ハロゲン化芳香族ビニル系重合体、ハロゲン化シアヌレート樹脂、ハロゲン化ポリフェニレンエーテル、ハロゲン化ポリフェニレンチオエーテル、ハロゲン化アルキルトリアジン化合物等が挙げられ、好ましくはブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、ブロム化ポリスチレン樹脂、ブロム化架橋ポリスチレン樹脂、ブロム化ビスフェノールシアヌレート樹脂、ブロム化ポリフェニレンオキシド、ポリジブロムフェニレンオキシド、デカブロモジフェニルオキシドビスフェノール縮合物、(テトラブロモビスフェノールA、そのオリゴマー等)、ブロム化アルキルトリアジン化合物等が挙げられる。
【0043】
これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
難燃剤(F)の添加量は、熱可塑性樹脂組成物(E)100質量部に対して5〜50質量部、好ましくは10〜30質量部、さらに好ましくは10〜25質量部である。難燃剤(F)の添加量がこの範囲にあると、難燃性、耐熱性、及び機械的強度に優れた組成物を得ることができる。
【0045】
本発明における難燃性樹脂組成物(E)の混合方法に特に制限は無いが、公知の溶融混合法を用いることができる。具体的には、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機、単軸押出機、2軸押出機等の連続式混練機が挙げられる。
【0046】
また、混練の順序に特に制限は無く、例えば全量を一括して混練する方法、難燃剤(F)、或いは芳香族ポリカーボネート樹脂(D)を高濃度に含むマスターバッチを製造し、その後希釈する方法等が挙げられるが、最も好ましいのは、グラフト共重合体(A)/共重合体(B)/共重合体(C)/芳香族ポリカーボネート樹脂(D)、又はグラフト共重合体(A)/共重合体(C)/芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の組み合わせで芳香族ポリカーボネート樹脂(D)を高濃度に含むマスターバッチを製造し、その後残りの樹脂と難燃剤を溶融混合する方法である。この方法により、難燃性、機械的強度、及び透明性に優れた組成物を得ることができる。
【0047】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の2.5mm厚平板における23℃における全光線透過率は60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。また、ヘイズは40%未満が好ましく、より好ましくは30未満、さらに好ましくは25未満である。これらがこの範囲にあると、鮮やかな色や深みのある色への着色も可能となり、意匠性に優れた成形品を得ることができる。
【0048】
全光線透過率をこの範囲に制御する方法として、例えばゴム質重合体の屈折率と、共重合体(B)及び共重合体(C)からなる成分の屈折率を1.51〜1.54の範囲に制御する方法、共重合体(B)と共重合体(C)からなる成分がLSCT型の曇点曲線を持つ場合には曇点以下の温度で成形を行う方法、溶融混練を行う際に芳香族ポリカーボネート樹脂(D)がより小さな分散粒子径で分散する条件で行う方法等が挙げられる。本発明の成形には、一般に熱可塑性樹脂の成形に用いられている公知の方法、例えば射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形、プレス成形等の方法を用いることができる。
【0049】
特に射出成形においては、樹脂が金型キャビティに充填される直前のキャビティ表面温度は好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上であると、キャビティ表面への転写性が向上し、さらに意匠性に優れた成形品を得ることができる。一般に、キャビティ表面温度を高くすると冷却までの時間が長くなるため、成形サイクルが長くなるという問題があったが、キャビティ表面を短時間で加熱冷却するヒートサイクル成形法を用いることで、意匠性の向上と生産性を両立することができる。
【0050】
本発明において、その目的に応じて公知の添加剤、例えば、可塑剤、滑剤(例えば、高級脂肪酸、及びその金属塩、高級脂肪酸アミド類等)、熱安定化剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオジブロプロピオン酸エステル型のチオエーテル等)、耐候剤(例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系等)、難燃助剤(例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等)、帯電防止剤(例えば、ポリアミドエラストマー、四級アンモニウム塩系、ピリジン誘導体、脂肪族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩共重合体、硫酸エステル塩、多価アルコール部分エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、ポリアルキレングリコール誘導体、ベタイン系、イミダゾリン誘導体等)、抗菌剤、抗カビ剤、摺動性改良剤(例えば、低分子量ポリエチレン等の炭化水素系、高級アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル、脂肪酸と多価アルコールとのフルエステル又は部分エステル、脂肪酸とポリグリコールとのフルエステル又は部分エステル、シリコーン系、フッ素樹脂系等)等をその目的に合わせて任意の割合で配合することができる。
【0051】
また、意匠性を付与する目的で、公知の着色剤、例えば無機顔料、有機系顔料、メタリック顔料、染料を添加することができる。
【0052】
無機顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸鉛系顔料、カドミウム系顔料などが挙げられる。
【0053】
有機顔料としては、例えばアゾレーキ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジアリリド顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料などが挙げられる。
【0054】
メタリック顔料としては、例えばリン片状のアルミのメタリック顔料、ウェルド外観を改良するために使用されている球状のアルミ顔料、パール調メタリック顔料用のマイカ粉、その他ガラス等の無機物の多面体粒子に金属をメッキやスパッタリングで被覆したものなどが含まれる。
【0055】
染料としては、例えばニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン/ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン/インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン/オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料等が挙げられる。
【0056】
これらの着色剤は、単体、或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。また、実施例における評価は以下の方法に従って行った。
【0058】
(1)ノッチ付シャルピー衝撃強度(kJ/m
ISO179に準じて、評価した。
【0059】
(2)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準じて、評価した。
【0060】
(3)荷重たわみ温度(1.8MPa荷重)(℃)
ISO75−1,2に準じて、評価した。
【0061】
(4)メルトボリュームフローレート
ISO1133に準じて、220℃、荷重98Nで評価した。
【0062】
(5)全光線透過率(%)、ヘイズ(%)
射出成形機を用いて、シリンダー温度=220℃、金型温度=60℃にて5cm×9cm、厚み2.5mmの平板を射出成形した。この平板を用いて、ASTM D1003に準じて評価した。
【0063】
(6)難燃性
UL−94に準じて評価した。(厚み1.6mm)
エージング条件:試験片を70℃×168時間処理した後、シリカゲルを入れたデシケータ中で4時間以上冷却した後、燃焼試験を実施した。
受理状態(吸湿状態の難燃性):試験片を23℃、50%湿度雰囲気下に30日間放置後、燃焼試験を実施した。
判定は、エージング条件及び受理状態の両方を合格した場合のみ良好(○)、いずれか一方でも不合格であれば不良(×)とした。
【0064】
(参考例1)ポリブタジエンゴムラテックスの製造
ブタジエンモノマー950質量部、アクリロニトリル50質量部、脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)135質量部、オレイン酸カリウム3.0質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.2質量部、及び水酸化カリウム0.18質量部を撹拌機の付いた耐圧容器に収納して、温度を70℃に上げ、重合を開始した。重合時間15時間で日機装(株)社製マイクロトラック粒度分析計「nanotrac150」(商品名)にて測定した体積平均粒子径80nm、固形分40質量%のポリブタジエンラテックスを得た。これに乳化剤
【化4】


をラテックスの固形分100質量部に対して0.1質量部加え、5分間攪拌後、酢酸0.65質量部を添加した。ついで、水酸化カリウム0.65質量部を加えて安定なラテックスを得た。このラテックスは、体積平均粒子径が250nmの粒子径分布を持ったラテックスであり、コアギュラムを副成せず、固形分37質量%の高濃度凝集ラテックスであった。350nm以上の粒子径のラテックスの質量分率は11質量%であった。
【0065】
(参考例2)グラフト共重合体(A)の製造
参考例1で製造したポリブタジエンゴムラテックス135質量部に、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、及び脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)15質量部を加え、気相部を窒素置換し、これに脱イオン水25質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.06質量部、硫酸第一鉄0.0008質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.02質量部を溶解してなる水溶液を加えた後、55℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル10質量部、スチレンを40質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.4質量部、クメンハイドロパーオキシド0.15質量部よりなる単量体混合液、及び脱イオン水25質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.035質量部を溶解してなる水溶液を4時間にわたり添加した。添加終了後にクメンハイドロパーオキシド0.02質量部を加えた後、さらに1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。
【0066】
このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、及びフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、固形分濃度が10質量%となるように脱イオン水を加えて調整し、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、スクリュープレス機にて固液分離を行った。この時の含水率は10質量%であった。これを乾燥させてグラフト共重合体(A)を得た。
【0067】
該共重合体の組成比は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR−IR)(日本分光(株)製)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル9.7質量%、ブタジエン51.3質量%、スチレン39.0質量%であった。またグラフト率は46質量%、非グラフト成分(アセトン可溶分)の還元粘度(0.50g/100ml、2−ブタノン溶液中、30℃測定)は0.31dl/gであった。
【0068】
(参考例3)共重合体(B)の製造
特許1960531号公報実施例1に記載の方法にて、アクリロニトリル、及びスチレンを、溶媒としてセカンダリーブチルアルコールを用い、重合反応器に上記混合液を連続的に添加し、重合計の温度を140から160℃にコントロールして重合反応を行った。その後、未反応のモノマーを真空下にて除去し、共重合体(B)の固形粉末を得た。該共重合体の組成は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR−IR)(日本分光(株)製)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル20.8質量%、スチレン79.2質量%であった。また、還元粘度は0.75dl/gであった。
【0069】
(参考例4)共重合体(C)の製造
メタクリル酸メチル68.6質量部、アクリル酸メチル1.4質量部、エチルベンゼン30質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.015質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.15質量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉式耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度135℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯槽に連続的に送り出し、260℃、10mmHgの高真空に保たれた揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、及び溶媒を脱揮回収し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送した。ここで、押出機に接続した添加剤投口からラウリン酸とステアリルアルコールを90℃で溶融した状態で定量的に供給して、共重合体(C−1)のペレットを得た。この共重合体の還元粘度は、0.35dl/gであり、プロトンNMR法を用いて組成分析したところ、メタクリル酸メチル単位/アクリル酸メチル単位=98.0/2.0(重量比)の結果を得た。さらに、樹脂組成物中のラウリン酸とステアリルアルコールを定量したところ、樹脂組成物100質量部当たり、それぞれ0.03及び0.1質量部との結果を得た。
【0070】
(参考例5)芳香族ポリカーボネート樹脂(D−1)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法により製造された、ビスフェノールA系ポリカーボネートであり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを400ppm、及び、ホスファイト系熱安定剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを200ppm含むもの。
重量平均分子量(Mw)=15,000
フェノール性末端基比率(フェノール性末端基が全末端基数に占める割合)=29モル%
【0071】
(参考例6)芳香族ポリカーボネート樹脂(D−2)
参考例7と同様にして、芳香族ポリカーボネート樹脂(D−2)を得た。重量平均分子量(Mw)は22,000、フェノール性末端基比率は25モル%であった。
【0072】
(参考例7)芳香族ポリカーボネート樹脂(D−3)
参考例7と同様にして、芳香族ポリカーボネート樹脂(D−3)を得た。重量平均分子量(Mw)は26,000、フェノール性末端基比率は25モル%であった。
【0073】
(参考例8)芳香族ポリカーとネート樹脂(D−4)
参考例7と同様にして芳香族ポリカーボネート樹脂(D−4)を得た。重量平均分子量(Mw)は35,000、フェノール性末端基比率は27モル%であった。
【0074】
(難燃剤F)
難燃剤として以下を使用した。
難燃剤(F−1):大八化学社製「PX200」
(1,3−フェニレンビス(2,6−ジメチルフェニル=ホスファート))
【化5】


難燃剤(F−2):大八化学社製「CR−741」
α−ジフェノキシホスホリル−ω−フェノキシポリ(n=1〜3)[オキシ−1,4−フェニレンイソプロピリデン−1,4−フェニレンオキシ(フェノキシホスホリル)]
【化6】

【0075】
(実施例1)
充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A)22.5質量部、共重合体(B)17.5質量部、共重合体(C)50質量部、芳香族ポリカーボネート樹脂(D−1)10質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、難燃剤(F−1)は定量フィーダーを用いて定量的に投入しながら、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数200rpm、混練樹脂の吐出速度12kg/hrの条件で混練して樹脂ペレットを得、各特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A)20質量部、共重合体(C)40質量部、芳香族ポリカーボネート樹脂(D−1)40質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度270℃、スクリュー回転数200rpm、混練樹脂の吐出速度20kg/hrの条件で混練してマスターバッチペレットを得た。該マスターバッチペレットとグラフト共重合体(A)、共重合体(B)及び共重合体(C)を表1の比率となるように混合した後、これをホッパーに投入し、難燃剤(F−1)は定量フィーダーを用いて定量的に投入しながら、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数200rpm、混練樹脂の吐出速度12kg/hrの条件で混練して樹脂ペレットを得、各特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3及び5〜8)
実施例2と同様にして樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
難燃剤(F−2)を80℃に加温したものを、二軸押出機のダイ先端よりスクリュー長の2/3の位置からギアポンプを用いて圧入し、混練した以外は実施例2と同様にして各特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1及び2)
実施例1と同様にして樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0080】
(比較例3〜5)
実施例2と同様にして樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【表1】

【0081】
実施例1〜8は、難燃性、透明性を有しており、また機械的物性バランスに優れている。
【0082】
一方、比較例1は、芳香族ポリカーボネート樹脂(D)が添加されていないために機械的物性バランス及び透明性には優れるものの、吸湿状態での難燃性が不十分である。比較例2は難燃剤の添加量を増加したことにより、難燃性は充分であるが、機械的物性バランスに劣っている。比較例3〜5は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量或いは含有量が図1の点ABCDに囲まれた範囲から外れているため、透明性が充分ではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の組成物を用いることで、難燃性、耐熱性、耐衝撃性、透明性のバランスに優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物、及び成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の重量平均分子量Mwと含有量G(質量%)の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)、芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)、メタクリル酸メチル単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(C)、及び芳香族ポリカーボネート樹脂(D)からなる熱可塑性樹脂組成物(E)100質量部に、難燃剤(F)5〜50質量部を含有してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の重量平均分子量Mwと該熱可塑性樹脂組成物(E)中における該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の含有量G(質量%)の関係が、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする上記難燃性熱可塑性樹脂組成物。
13,000≦Mw≦30,000 ・・・(1)
1≦G≦−2.9×10−4×Mw+20.824 ・・・(2)
【請求項2】
芳香族ビニル系単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)、メタクリル酸メチル単量体及びこれと共重合可能な一種又は二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(C)、及び芳香族ポリカーボネート樹脂(D)からなる熱可塑性樹脂組成物(E)100質量部と、難燃剤(F)5〜50質量部とを含有してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の重量平均分子量Mwと該熱可塑性樹脂組成物(E)中における該芳香族ポリカーボネート樹脂(D)の含有量G(質量%)の関係が、式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする上記難燃性熱可塑性樹脂組成物。
13,000≦Mw≦30,000 ・・・(1)
1≦G≦−2.9×10−4×Mw+20.824 ・・・(2)
【請求項3】
前記グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体が、共役ジエン系ゴムである請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃剤(F)が下記一般式(1)で表されるリン酸エステル系難燃剤である請求項1又は2に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【化1】


(Ra、Rb、Rc、及びRdはそれぞれ独立したアリール基であり、その一つ以上の水素が置換されていてもいなくてもよい。nは自然数、Xは2価のフェノール類より誘導される芳香族基、j、k、l、及びmはそれぞれ独立して0又は1である。)
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物(E)中における前記共重合体(C)の含有量が30〜90質量%である請求項1又は2に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記共重合体(C)における前記メタクリル酸メチル単量体の含有量が60〜99.5質量%である請求項1又は2に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−116467(P2010−116467A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289890(P2008−289890)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】