説明

難燃性組成物ならびに被覆電線およびワイヤーハーネス

【課題】コンパウンド時や成形時などにおいて、着色を防止できる難燃性組成物と、これを用いた被覆電線を提供すること。
【解決手段】オレフィン系樹脂などのマトリックスポリマーと、水酸基の2,6位にtert−ブチル基を有するフェノール系酸化防止剤と、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物よりなる難燃剤とを少なくとも含有し、難燃剤中の酸化鉄濃度を1000ppm以下にした難燃性組成物とする。また、これを被覆材に用いた被覆電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両部品や電気・電子機器部品などの配線に用いられる被覆電線の被覆材として好適な難燃性組成物と、これを用いた被覆電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などに使用される絶縁材料には、その用途に応じて、機械特性、難燃性、耐熱性、耐寒性などの種々の特性が要求されている。従来、その絶縁材料としては、ポリ塩化ビニル化合物と、ハロゲン原子を含有するハロゲン系難燃剤とを配合した材料が良く用いられてきた。
【0003】
近年、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、燃焼時に有害なハロゲン系ガスを出さないオレフィン系高分子などのノンハロゲン系材料が用いられるようになってきている。この場合、オレフィン系高分子などのそれ自体が難燃性を有しない材料には、難燃性を付与するために難燃剤が配合される。ハロゲン原子を含有しない難燃剤としては、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物等が知られている。
【0004】
水酸化マグネシウムとしては、例えば海水中のマグネシウムを原料とするものや、天然鉱物を原料とするものがある。このうち、天然鉱物を原料とするものは比較的安価である。そのため、難燃剤として、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕品を用いる場合がある。
【0005】
例えば特許文献1には、プラスチックやゴムに、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物を難燃剤として配合した難燃性組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3280099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物を難燃剤として配合した場合、難燃性組成物のコンパウンド時や成形時などに、難燃性組成物が赤色に着色することがあった。そして、このように着色する原因はこれまでよく分かっていなかった。
【0008】
例えば被覆電線の被覆材では、電線の種類を区別するなどの目的で、文字等の印刷や、色分けのための着色が施されることがある。そのため、意に反して難燃性組成物が着色されると、印刷された文字等が見にくくなったり、所望の色分けができなくなったりするため、電線の識別ができなくなるおそれがある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、コンパウンド時や成形時などにおいて、着色を防止できる難燃性組成物と、これを用いた被覆電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、難燃性組成物が着色される原因を突き止めることができた。そして、難燃性組成物に添加される特定の酸化防止剤と、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物中に含まれる酸化鉄とが組み合わされると、難燃性組成物が着色されやすいとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る難燃性組成物は、マトリックスポリマーと、水酸基の2,6位にtert−ブチル基を有するフェノール系酸化防止剤と、金属水酸化物を主成分とする難燃剤とを少なくとも含有し、前記難燃剤中の酸化鉄濃度が1000ppm以下であることを要旨とするものである。
【0012】
この場合、前記難燃剤は、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物であることが望ましい。
【0013】
また、前記マトリックスポリマーは、オレフィン系樹脂を含有することが望ましい。
【0014】
そして、本発明に係る被覆電線は、上記難燃性組成物を被覆材に用いたことを要旨とする。
【0015】
また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記難燃性組成物を用いたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る難燃性組成物によれば、上記特定の酸化防止剤を含有するときに、難燃剤中の酸化鉄濃度を特定量以下に抑えるようにしたため、意に反する着色を防止することができる。これにより、例えば被覆電線の被覆材に用いる場合には、文字等の印刷や、色分けのための着色が可能となり、電線の識別が行ないやすくなる。
【0017】
この場合、前記難燃剤が水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物であると、特に着色防止効果がある。
【0018】
また、種々の絶縁材料にオレフィン系樹脂が良く用いられているため、前記マトリックスポリマーがオレフィン系樹脂を含有する場合、種々の絶縁材料に適用することができる。
【0019】
そして、本発明に係る被覆電線およびワイヤーハーネスは、上記難燃性組成物を用いているため、文字等の印刷や、色分けのための着色が可能となり、被覆電線やワイヤーハーネスの識別が行ないやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る難燃性組成物は、マトリックスポリマーと、特定の酸化防止剤と、金属水酸化物を主成分とする難燃剤とを少なくとも含有するものである。本発明に係る難燃性組成物においては、マトリックスポリマーの種類は特に限定されるものではない。そして、種々の添加剤の組み合わせを検討した結果から、本発明は、特定の酸化防止剤と、金属水酸化物を主成分とする難燃剤との組み合わせにおいて特有の効果を有する。
【0021】
上記特定の酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤であり、芳香環の水酸基の2,6位にtert−ブチル基を有する化合物である。上記化合物は、いわゆるヒンダードフェノール系酸化防止剤に含まれる。芳香環のそれ以外の位置には、さらに、置換基を有していても良いし、置換基を有していなくても良い。好ましくは、芳香環の水酸基の4位にさらに置換基を有している化合物である。
【0022】
このような化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシC7−C9アルキルエステル、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、2’,3−ビス[[3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]]プロピオノヒドラジドなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。
【0023】
上記特定の酸化防止剤の含有量は、特に限定されるものではない。通常使用する範囲内であれば良い。好ましくは、マトリックスポリマー100質量部に対して、0.1〜5質量部の範囲内である。より好ましくは、0.2〜4質量部の範囲内である。
【0024】
上記難燃剤中の金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上含有されていても良い。より好ましくは水酸化マグネシウムである。水酸化マグネシウムは、結晶水の放出温度が比較的高いため、難燃性組成物の調製時の高温状況下において、水分放出が発生しにくく、難燃性組成物の発泡現象が抑えられやすい。
【0025】
水酸化マグネシウムとしては、天然鉱物を原料とするもの(天然鉱物の粉砕品)が好ましい。天然鉱物を原料とするものは比較的安価である。また、空気中の水分および二酸化炭素との反応によるマグネシウムの炭酸化が起こりにくい。なお、水酸化マグネシウムとしては、海水中のマグネシウムを原料とするものであっても良い。
【0026】
上記難燃剤(粗金属水酸化物)中には、原料や製造方法などによって、金属水酸化物以外の不純物が含有されている。例えば金属水酸化物が水酸化マグネシウムである場合には、不純物としては、鉄、アルミニウム、ケイ素、カルシウムなどがある。また、例えば、金属水酸化物が水酸化アルミニウムである場合には、不純物としては、鉄、ケイ素などがある。また、例えば、金属水酸化物が水酸化カルシウムである場合には、不純物としては、鉄、ケイ素などがある。また、その不純物濃度も原料や製造方法などによって異なる。
【0027】
これらの不純物のうち、鉄以外の不純物が難燃剤に含有されていても、上記特定の酸化防止剤やその他の添加剤と難燃剤とを併用したときに、難燃性組成物が着色することは確認していない。また、これらの不純物のうち、鉄分が難燃剤に含有されていても、上記特定の酸化防止剤以外の添加剤と難燃剤とを併用したときには、難燃性組成物が着色することは確認していない。鉄分が難燃剤に含有されている場合で、上記特定の酸化防止剤と難燃剤とを併用したときに、難燃性組成物が着色する場合があることを確認している。
【0028】
したがって、本発明においては、これらの不純物のうち、上記特定の酸化防止剤との関係から、鉄分の含有量を少なくする。鉄分が多いと、上記特定の酸化防止剤とともに用いたときに、難燃性組成物が赤色に着色するからである。そして、例えば天然鉱物中などには、鉄は酸化物の状態で存在する。そのため、酸化鉄(Fe)の含有量を特定の範囲内に制限する。すなわち、難燃剤中の酸化鉄濃度を、1000ppm以下にする。酸化鉄濃度を上記範囲内に調整するには、例えば、公知の除鉄装置や、公知の抽出法などにより、所望の濃度以下になるまで、金属水酸化物から鉄分を除去、抽出すれば良い。
【0029】
金属水酸化物中の鉄分の量を測定する方法としては、例えば、ICP発光分析、蛍光X線分析などの方法がある。好ましくは、より定量性に優れるなどの観点から、ICP発光分析で行なうと良い。これらの際、鉄分の濃度を測定し、測定された鉄分の濃度から、酸化鉄濃度に換算する。
【0030】
難燃剤中の酸化鉄濃度としては、より好ましくは、950ppm以下である。さらに好ましくは、900ppm以下である。例えば、マトリックスポリマーとして、エンジニアリングプラスチックなどの高融解温度のポリマーを使用する場合には、難燃性組成物のコンパウンド時や成形時などには、混練温度がさらに高くなり、着色しやすくなる。すなわち、酸化鉄濃度を、より好ましい範囲内、または、さらに好ましい範囲内にすることにより、高融解温度のポリマーを用いる場合にも、難燃性組成物の着色を抑えることができる。
【0031】
金属水酸化物の平均粒径は、好ましくは0.1〜20μmの範囲内であり、より好ましくは0.2〜10μmの範囲内であり、さらに好ましくは、0.5〜5μmの範囲内である。平均粒径が0.1μm未満では、二次凝集が起こりやすく、難燃性組成物の耐摩耗性等の機械特性が低下しやすい。一方、平均粒径が20μmを超えると、難燃性組成物を電線被覆材に用いたときに外観不良になる傾向がある。
【0032】
金属水酸化物の含有量は、マトリックスポリマー100質量部に対して、好ましくは30〜250質量部の範囲内、より好ましくは50〜200質量部の範囲内、さらに好ましくは60〜180質量部の範囲内である。金属水酸化物の含有量が30質量部未満では、マトリックスポリマーに難燃性を付与する効果が低下しやすい。一方、金属水酸化物の含有量が250質量部を超えると、難燃性組成物の機械特性が低下しやすい。
【0033】
上記金属水酸化物は、マトリックスポリマーとの相溶性向上などの観点から、表面処理されていても良い。表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、脂肪酸、脂肪酸誘導体、高級アルコール、ワックスなどの一般的な表面処理剤であっても良いし、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンの単独重合体あるいは相互共重合体であっても良い。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0034】
上記表面処理剤には、官能基が導入されていても良い。官能基の導入に用いる化合物としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体が挙げられる。具体的には、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸などが挙げられる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、無水マレイン酸、マレイン酸が好ましい。
【0035】
上記表面処理剤に官能基を導入する方法としては、グラフト法や直接法(共重合法)がある。また、導入量としては、好ましくは、0.1〜20質量%の範囲内、より好ましくは、0.2〜10質量%の範囲内、さらに好ましくは、0.2〜5質量%の範囲内である。
【0036】
表面処理剤は、金属水酸化物100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜3質量部の範囲内である。表面処理量が0.1質量部未満では、表面処理効果が小さく、マトリックスポリマーとの相溶性向上などの効果が低下しやすい。一方、表面処理量が10質量部を超えると、過剰に添加されたものが不純物として残存しやすくなり、難燃性組成物の物性を低下させやすい。
【0037】
金属水酸化物の表面処理方法としては、特に限定されるものではない。例えば、金属水酸化物として天然鉱物の粉砕物を用いる場合には、あらかじめ粉砕したものに表面処理しても良いし、粉砕と同時に表面処理しても良い。また、溶媒を用いた湿式であっても良いし、溶媒を用いない乾式であっても良い。湿式の場合、好適な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素溶媒や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒などを用いることができる。さらには、難燃性組成物の調製時に、表面処理されていない金属水酸化物(難燃剤)と、マトリックスポリマーとを混練する際に、表面処理剤を配合して、同時に混練することにより表面処理しても良い。
【0038】
マトリックスポリマーとしては、例えば、樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどのα−オレフィンの(共)重合体、エチレン−アクリル酸メチル(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル(EBA)、エチレン−メタクリル酸メチル(EMMA)、エチレン−酢酸ビニル(EVA)等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、ポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックなどを例示することができる。
【0039】
また、エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー(TPO)、スチレン系エラストマー(SEBS等)、アミド系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アイオノマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエンやトランス−1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。また、ゴムとしては、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)などを例示することができる。マトリックスポリマーとして使用可能な上記ポリマーは、1種または2種以上併用することができる。
【0040】
本発明においては、本発明の特性を阻害しない範囲で、一般的に難燃性組成物に使用される添加剤を配合しても良い。このような添加剤としては、フィラー、酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、難燃剤、難燃助剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)、着色用顔料などを例示することができる。
【0041】
本発明に係る難燃性組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、マトリックスポリマーと、上記特定の酸化防止剤と、上記難燃剤と、必要に応じて、その他の添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0042】
混練時の温度は、難燃剤等が組成物中に分散されやすくなる程度に、有機高分子の粘度が低下する温度にすると良い。具体的には、100〜300℃の範囲にあることが好ましい。混練時、有機高分子がせん断されることにより発熱が起きる場合には、発熱による温度上昇を考慮して、最適温度になるように温度調整すれば良い。
【0043】
混練した後は、混練機から取り出して当該組成物を得る。その際、ペレタイザーなどで当該組成物をペレット状に成形すると良い。
【0044】
以上により説明した本発明に係る高分子組成物の用途は、特に限定されるものではない。例えば、自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線として用いられる被覆電線の被覆材や、電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材、コネクタハウジングなどのコネクタ部品、医療器具、人工臓器、高分子塗料、建築材料などの難燃剤が添加される材料を例示することができる。
【0045】
次に、本発明に係る被覆電線およびワイヤーハーネスについて説明する。
【0046】
本発明に係る被覆電線は、上述する難燃性組成物を被覆材の材料として用いたものである。被覆電線の構成としては、導体の外周に直接この被覆材が被覆されていても良いし、導体とこの被覆材との間に、他の中間部材、例えば、他の絶縁体やシールド導体などが介在されていても良い。被覆材が複数層形成されていても良い。
【0047】
導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0048】
上記被覆電線は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて混練した本発明に係る難燃性組成物を、通常の押出成形機などを用いて導体の外周に押出被覆するなどして製造することができる。また、一軸押出機や二軸押出機などで難燃性組成物を混練形成しつつ、導体の外周に押出被覆する方法でも良い。
【0049】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する難燃性組成物を用いたものである。本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する難燃性組成物を被覆材の材料として用いた本発明に係る被覆電線を含んでなるものであっても良いし、上述する難燃性組成物を、複数本の被覆電線よりなる電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材の材料として用いたものであっても良い。ワイヤーハーネス保護材の材料として用いるときの電線束には、本発明に係る被覆電線を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0050】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の被覆電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系難燃性組成物が好ましい。
【0051】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0053】
(供試材料および製造元など)
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
【0054】
・ポリプロピレン(PP)[日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテックPP EC7」]
・水酸化マグネシウム[ファイマテック(株)製、商品名「ジュンマグC」]
・フェノール系酸化防止剤<1>[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
・フェノール系酸化防止剤<2>[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1035」]
・フェノール系酸化防止剤<3>[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1076」]
・フェノール系酸化防止剤<4>[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1098」]
・フェノール系酸化防止剤<5>[(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブAO20」]
・フェノール系酸化防止剤<6>[(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブAO50」]
【0055】
(水酸化マグネシウムの調製)
表1に記載の各水酸化マグネシウムは、上記ファイマテック(株)製の「ジュンマグC」を除鉄することにより、表1に記載の各濃度に酸化鉄濃度を調整したものを用いた。除鉄は、セイシン企業社製の除鉄装置「ロータリーキャッチャー」を用い、粉体の状態で磁石棒の上から落下させることにより行なった。各水酸化マグネシウムについて、ICP発光分析法により鉄分の濃度を測定し、それを酸化鉄濃度に換算して示した。なお、除鉄前は、ICP発光分析法により測定した結果、鉄濃度は10000ppmであった。
【0056】
(難燃性組成物の調製)
表1に示す各成分を二軸混練機に投入し、200℃で混練した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して、実施例および比較例に係る各難燃性組成物を調製した。なお、表1に示される各成分の配合量は、質量部で示している。
【0057】
(被覆電線の作製)
各難燃性組成物を、φ50mmの押出成形機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.5mm)の外周に0.20mm厚で押出被覆し、実施例および比較例に係る各被覆電線を作製した。
【0058】
(着色の有無)
各被覆電線の絶縁被覆を目視で観察することにより、着色の有無を確認した。すなわち、絶縁被覆の色が白色である場合を着色「無」とし、絶縁被覆の色が赤色である場合を着色「有」とした。
【0059】
【表1】

【0060】
表1によれば、難燃性組成物が、水酸基の2,6位にtert−ブチル基を有するフェノール系酸化防止剤を含有する場合、ともに用いる水酸化マグネシウム中の酸化鉄濃度が高いときに赤色に着色することが分かった。そして、このとき、酸化鉄濃度を1000ppm以下にすることにより、着色が抑えられることが確認できた。
【0061】
なお、実施例および比較例では、天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムについて検討しているが、天然鉱物を原料としない水酸化マグネシウムや、水酸化アルミニウム等の他の金属水酸化物においても、不純物として含有される酸化鉄濃度を1000ppm以下に抑えることにより、同様の結果が得られることは容易に推測される。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスポリマーと、
水酸基の2,6位にtert−ブチル基を有するフェノール系酸化防止剤と、
金属水酸化物を主成分とする難燃剤とを少なくとも含有し、
前記難燃剤中の酸化鉄濃度が1000ppm以下であることを特徴とする難燃性組成物。
【請求項2】
前記難燃剤は、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性組成物。
【請求項3】
前記マトリックスポリマーは、オレフィン系樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の難燃性組成物を被覆材に用いた被覆電線。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の難燃性組成物を用いたワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2010−6975(P2010−6975A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168821(P2008−168821)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】