説明

雨水貯留構造用部材とこれを用いた雨水貯留構造物

【課題】組み立てた場合に、保守点検が容易であり、しかも個々の構成部材から組立を容易にして、現地での組立を可能にすることにより輸送コストを低減でき、かつ雨水貯留浸透槽の形状に対して柔軟に対応可能な雨水貯留構造用部材とこれを用いた雨水貯留構造物を提供する。
【解決手段】所定長さを有する複数の樹脂製パイプ状縦部材3と、これらパイプ状縦部材3と共に三次元構造体を組み立てる横部材2と、パイプ状縦部材3に横部材2を接続するための接続治具1とを有し、これらパイプ状縦部材3と横部材2とを、接続治具1を介して三次元構造体に組み立てることにより、内部に空間を形成可能にする雨水貯留構造用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は雨水貯留構造用部材とこれを用いた雨水貯留構造物に関し、詳しくは、所定長さを有する複数の樹脂製パイプ状縦部材と、これらパイプ状縦部材を連結可能にする接続部材とを有する雨水貯留構造用部材とこれを用いた雨水貯留構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に都市部で異常降雨や出水、あるいはその逆の異常乾燥といった問題が頻繁に生じており、その原因としてヒートアイランド現象が取り上げられている。かかる現象を緩和するため、雨水を利用する施設の構築が提案されており、雨水貯留構造物あるいは雨水貯留用充填材などの開発が進んでいる。
【0003】
このような雨水貯留構造物として、例えば、地面にピットを堀り、その外表面に遮水シートを敷設して、その上面に複数の容器状部材を縦横および上下に積み上げ、更に最上部に覆土などを施して被覆し、雨水を貯留する構造物の発明がなされている(特許文献1)。
【0004】
あるいは、中空体である複数の着脱自在支柱を、連結部材によって垂直に固定してなる雨水貯留用充填材であって、連結部材が着脱自在の連結桟および縁枠により一体的に連結する等して、運搬中における隅部での支柱の脱落を防止できるようにした発明がなされている(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭63−268823号公報
【特許文献2】特開2004−19205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記実施形態の雨水貯留構造物あるいは雨水貯留用充填材は、容器状部材や着脱自在支柱と連結部材とからなる雨水貯留用充填材を使用しており、点検用の十分な広さの開口部が形成されていないため、保守点検は実質上できず、永年の使用により土砂が蓄積して所定の機能を発揮し得なくなった場合にも、清掃作業は容易でなく、機能を復帰させることはできない。
【0006】
のみならず、上記従来技術の容器状部材や充填材を運搬する場合は、これらが雨水を貯留するための大きな空間を内蔵して嵩張るため、搬送量の割に輸送コストが高くかかるという問題がある。しかも、これらの容器状部材や充填材は形状が固定されているため、雨水貯留浸透槽の形状に対して柔軟に対応できないという問題もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、組み立てた場合に、大きい開口部を確保できて保守点検が容易であり、しかも個々の構成部材から組立を容易にして、現地での組立を可能にすることにより輸送コストを低減でき、かつ雨水貯留浸透槽の形状に対して柔軟に対応可能な雨水貯留構造用部材とこれを用いた雨水貯留構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、請求項記載の発明により達成される。すなわち、本発明に係る雨水貯留構造用部材の特徴構成は、所定長さを有する複数の樹脂製パイプ状縦部材と、これらパイプ状縦部材と共に三次元構造体を組み立てる横部材と、前記パイプ状縦部材に前記横部材を接続するための接続治具とを有し、これらパイプ状縦部材と横部材とを、前記接続治具を介して三次元構造体に組み立てることにより、内部に空間を形成可能にすることにある。
【0009】
この構成によれば、樹脂製パイプ状縦部材と横部材と接続治具との組み合わせで構成されているため、パイプ状縦部材と横部材の長さを選択するだけで、保守点検可能な所定広さの開口部を容易に形成することができ、しかも、施工現場に輸送する際には、樹脂製パイプ状縦部材と横部材と接続治具とを、組み立てた状態にすることなく、夫々の部材として輸送することになるので、従来技術のように、少なくない空間を有する容器状部材や充填材として輸送するものではないため、輸送時の嵩が小さくて済み、効率の良い輸送ができることになり、輸送コストを大幅に低減できる。のみならず、樹脂製パイプ状縦部材および横部材の長さ、径など形状を変更することにより、雨水貯留浸透槽の形状に応じて柔軟に対応でき、従来技術に比べて設計の自由度が格段に向上する。
【0010】
その結果、組み立てた場合に、大きい開口部を確保できて保守点検が容易であり、しかも個々の構成部材から組立を容易にして、現地での組立を可能にすることにより輸送コストを低減でき、かつ雨水貯留浸透槽の形状に対して柔軟に対応可能な雨水貯留構造用部材を提供することができた。
【0011】
前記接続治具は、前記パイプ状縦部材に嵌合して装着されると共に、前記横部材とは係止して連結されることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、接続治具を介してパイプ状縦部材と横部材とを接続するので、別にボルトとナットのような固着具を用意して締め付ける必要がなく、接続作業が容易であり、現地での三次元構造体への組立作業を一層効率良く行うことができる。
【0013】
前記三次元構造体は、少なくとも108kN/m2以上の圧縮強度を有することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、最上部に覆土2m程度を施工したとしても、土圧の3倍以上となる十分な強度を有する。
【0015】
また、本発明に係る雨水貯留構造物の特徴構成は、地面凹部に敷設された遮水材と、この遮水材の上面側に配置された請求項1〜3のいずれか1項に記載の雨水貯留構造用部材から組み立てられた三次元構造体と、この三次元構造体の上面側に配置された被覆層を有することにある。
【0016】
この構成によれば、組み立てた場合に、大きい開口部を確保できて保守点検が容易であり、しかも個々の構成部材から組立を容易にして、現地での組立を可能にすることにより輸送コストを低減でき、かつ雨水貯留浸透槽の形状に対して柔軟に対応可能な雨水貯留構造用部材を用いた雨水貯留構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1〜3は、本実施形態に係る雨水貯留構造用組立部材として使用する接続治具1と横部材2とパイプ状縦部材3とを示す。すなわち、図1(イ)は、接続治具1の平面構造を示し、(ロ)は、I−I断面構造を示す。図2(イ)は横部材2の左側面構造、(ロ)は底面構造、(ハ)はII−II断面構造を示す。図3(イ)は、パイプ状縦部材3の正面構造を示し、(ロ)は、III−III横断面構造を示す。図4,5は、図1〜3に示す接続治具1と横部材2とパイプ状縦部材3とを組み合わせて、三次元構造体であるジャングルジム状の雨水貯留構造用組立物Aを組み立てる手順を示し、図4はその部分正面構造、図5は部分平面構造を示す。
【0018】
接続治具1は樹脂製であり、図1に示すように、縦部材3に外嵌可能な筒状部1aと、外周面の4箇所から突出して横部材2の端部と係合して両者を接続する突出部1bを有していて、突出部1bには、後述する横部材2の端部突起2aを受け入れて係合する貫通孔1cが4箇形成されている。更に、筒状部1a内部にも、やや小径の貫通孔1dが形成されて重量軽減が図られていると共に、雨水を下方に移動させて貯留させるようになっている。
【0019】
横部材2は樹脂製であり、図2に示すように、接続治具1の貫通孔1cに挿入されて係合する端部突起2aを両端部に下向きに形成していると共に、長手方向の途中2箇所に所定間隔を空けて補強用のリブ2bが設けられている。もっとも、補強用のリブ2bの数、位置、形状などは種々に変更可能である。
【0020】
パイプ状縦部材3は樹脂製からなり、図3(イ)、(ロ)に示すように、所定長さを有する円筒形をしており、接続治具1の筒状部1aに内嵌可能になっている。
【0021】
そして、立設された各パイプ状縦部材3の上端に接続治具1を嵌合して装着しておき、2本のパイプ状縦部材3に装着された各接続治具1どうしの内、互いに隣接する2個の接続治具1の貫通孔1cの夫々に、横部材2の端部突起2aを挿入させて係合することにより、パイプ状縦部材3と横部材2とを接続し、これを繰り返えして、図4,5にその一部を示すように、ジャングルジム状に三次元構造体を構成する雨水貯留構造用組立物Aを形成する。
【0022】
つぎに、本実施形態に係る雨水貯留構造用組立部材を組み立てた雨水貯留構造用組立物Aを、雨水貯留構造物に用いる施工例について説明する。
【0023】
図6に示すように、地面に1〜5m程度の凹部(ピット)を掘削・形成すると共に、ピット周囲に側溝7を形成し、ピットの底面に砕石、砂などを敷設・施工し平準化して基礎Bを形成する。その表面に遮水材である遮水シート4を敷設した後、樹脂製の各パイプ状縦部材3と接続治具2とから、図4,5に示すように、ピットの内容積に応じジャングルジム状の雨水貯留構造用組立物Aを構成する。ピットの内容積が大きい場合には、ピット内で雨水貯留構造用組立物Aを組み立ててもよいし、雨水貯留構造用組立物Aをピット外で組み立てた後、ピット内に挿入するようにしてもよい。このようにして組み立てた雨水貯留構造用組立物Aは、樹脂製あるいは金属製などのベルトで締結・固定されることが好ましい。更に、側面外周部には、角形のパネルをパイプ間に嵌め込んで側面外周部での平坦性を確保すると共に、強度を高めるようにしてもよい。
【0024】
ついで、雨水貯留構造用組立物Aの側面部Cには、必要に応じて埋め戻しを行うと共に、側溝7よりピット内に雨水を流し込み可能に連通する配管8を敷設し、更に、上面に遮水シート5を被覆し、その上から0.5〜1m程度の覆土6を施す。これら、上面の遮水シート5、覆土6は、被覆層を形する。もっとも、雨水貯留構造用組立物A上面に遮水シート5を被覆する代わりに、透水性シートを被覆して雨水を浸透させるようにしてもよい。側溝7は、その底部に泥溜9が形成されるように、底部が幾分深くなっている。
【0025】
三次元構造体である雨水貯留構造用組立物Aは、少なくとも108kN/m2以上の圧縮強度を有することが好ましい。このようにすれば、最上部に覆土2m程度(負荷:約36kN/m2 )を施工したとしても、土圧の3倍以上となる十分な強度を有する。具体的には、長さ約50cmのパイプ状部材を使用する場合、4本/m2 で少なくとも27kN/本の圧縮強度を有するものを使用し、長さ約40cmのパイプ状部材を用いる場合には、6.25本/m2 で少なくとも圧縮強度約17.28kN/本を有するパイプ状部材を用いる。
【0026】
このようにすることにより、一旦雨水を貯留して、庭園などへの散水、洗浄水、非常用水など各種用途に利用したり、大量の雨水を徐々に放流できるような調整機能を備えさせたりすることができる。しかも、コンクリートで構成する場合に比べて、養生期間などが不要であることから、雨水貯留構造物の構築速度を格段に早くすることができる。
【実施例】
【0027】
外径約60mm、肉厚約5.5mm、長さ約50mmのポリエチレン製パイプ(積水化学工業製。商品名:エスロンハイパーPE)を用いて、図1に示す接続治具を用いて、図4,5にその一部を示すような、高さ約3m、縦横約3mの雨水貯留構造組立物Aを形成し、深さ約5mの所定内容積を有するピット内に配置し、雨水貯留構造物を構築した。このポリエチレン製パイプは、長さ方向の圧縮強度約27kN/本を有しており、1m2当たり4本を使用すると、圧縮強度108kN/m2が得られ、覆土を2m(負荷:約36kN/m2)とした場合でも、約3倍強の圧縮強度が得られるので、十分に実用的であることがわかる。
【0028】
実際、1m×1m×1mの大きさで雨水貯留構造物を構築し、その上から2mの覆土に相当する重錘を載置して1年以上経過したが、使用上問題となる変形その他のトラブルは一切生じなかった。
〔別実施の形態〕
(1)上記実施形態の場合、樹脂製パイプ状部材の構成材料としてポリエチレン製を例示したが、これに限定されるものではなく、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を使用してもよいし、必要な強度が得られれば、各種の熱可塑性樹脂を使用することができる。
(2)上記実施形態では、パイプ状部材3を接続治具1の筒状部1aに内嵌可能に構成した例を示したが、接続治具1の筒状部1aの外径を小さくして、パイプ状部材3に内嵌させるようにしてもよい。
(3)上記実施形態では、横部材2の端部突起2aを円筒状にし、この端部突起2aを挿入して係合する接続治具1の貫通孔1cを円形とした例を示したが、これに代えて、横部材2の端部突起2aを角状とし、接続治具1の貫通孔1cもこれを挿入可能に角形にしてもよい。このようにすると、横部材2と接続治具1の位置、すなわち、横部材2とパイプ状部材3の位置が固定されるようになって両者が係止され、組立時に扱い易くなると共に外力による変形に抵抗できて好ましい。
(4)パイプ状部材、横部材、接続治具とは、同じ材質の樹脂製としたが、異なる材質の樹脂製であってもよい。
(5)樹脂製パイプ状部材、横部材、接続治具の構成材料に、粉体状の炭酸カルシウム(炭カル)等を混入させるようにしてもよい。このようにすると、構成材料の比重を大きくすることができ、雨水を貯留する際に生じる浮力に抗することができ、浮力対策として特別な施工が不必要となり、小さいスペースでもより大きい貯水量が確保できて好ましい。具体的には、13%程度の炭カルを樹脂に混入させることにより、比重を1.0以上にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る雨水貯留構造物は、雨水を貯留して利用するタンクとしての用途に止まらず、ビオトープ等として利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る雨水貯留構造用部材を構成する接続治具の(イ)平面図、(ロ)正面断面図
【図2】本発明の一実施形態に係る雨水貯留構造用部材を構成する横部材の(イ)左側面図、(ロ)平面図、(ハ)II−II断面図
【図3】本発明の一実施形態に係る雨水貯留構造用部材を構成するパイプ状縦部材の(イ)正面図、(ロ) III−III断面図
【図4】パイプ状部材と接続部材とを用いて雨水貯留構造用組立物Aの組立手順を説明する正面図
【図5】パイプ状部材と接続部材とを用いて雨水貯留構造用組立物Aの組立手順を説明する平面図
【図6】図1の雨水貯留構造用部材を用いた雨水貯留構造物の概略断面図
【符号の説明】
【0031】
1 接続治具
2 横部材
3 パイプ状縦部材
4 遮水材
5,6 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定長さを有する複数の樹脂製パイプ状縦部材と、これらパイプ状縦部材と共に三次元構造体を組み立てる横部材と、前記パイプ状縦部材に前記横部材を接続するための接続治具とを有し、これらパイプ状縦部材と横部材とを、前記接続治具を介して三次元構造体に組み立てることにより、内部に空間を形成可能にする雨水貯留構造用部材。
【請求項2】
前記接続治具は、前記パイプ状縦部材に嵌合して装着されると共に、前記横部材とは係止して連結される請求項1に記載の雨水貯留構造用部材。
【請求項3】
前記三次元構造体は、少なくとも108kN/m2以上の圧縮強度を有する請求項1又は2に記載の雨水貯留構造用部材。
【請求項4】
地面凹部に敷設された遮水材と、この遮水材の上面側に配置された請求項1〜3のいずれか1項に記載の雨水貯留構造用部材から組み立てられた三次元構造体と、この三次元構造体の上面側に配置された被覆層を有する雨水貯留構造物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−104739(P2006−104739A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291698(P2004−291698)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】