説明

電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法及びその装置

【課題】複数箇所の部分放電の発生位置を正確に標定可能とする。
【解決手段】S1においてCVケーブルのA端で部分放電信号が時刻t1で検出され、B端で時刻t2で検出されると、S2では、|t2−t1|≦L/C(L:ケーブル長さ、C:伝搬速度)の条件を満たすか否かを判別する。次にS4において、A端で次の信号が時刻t3で検出され、B端で時刻t4で検出されると、S5では、|t4−t3|≦L/Cの条件を満たすか否かを判別する。そして、各条件を満たす場合、S7では、(t3−t1)>L/C及び(t4−t2)>L/Cの双方を満たすか否かを判別し、双方を満たさない場合は位置標定を行わず(S8)、満たす場合はS9において位置標定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルに発生する水トリー劣化等に起因する部分放電の発生位置を標定するための方法と、その方法を実施するための装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブルとして、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(以下「CVケーブル」という。)が地中送電用として実用化されている。しかし、このCVケーブルにおいては、水が溜まった管路等の湿潤下で長期使用すると、絶縁体中の微小な異物・ボイド(微小空隙)等に交流電界が加わることで、「水トリー」(水が充填される樹枝状の亀裂)と呼ばれる絶縁劣化現象が発生することが知られている。この水トリーが発生・成長すると、絶縁性能の低下を引き起こし、やがて電気トリーと称される絶縁破壊を生じさせるおそれがあるため、このような水トリー劣化の有無を管路等に布設された埋設状態で診断する必要がある。
一方、埋設前のCVケーブルにおいても、外傷等が存在すると絶縁劣化を引き起こすおそれがあるため、これらを事前に発見するための品質試験が行われる。
【0003】
図9は、CVケーブル20の水トリー劣化診断方法の一例である直流漏れ電流法の測定回路を示すものである。24は直流電源で、負極側が保護抵抗25を介してCVケーブル20の心線導体21に接続される一方、正極側の一方が、CVケーブル20の絶縁体22に外装されたガード電極26に接続されて、正極側の他方は、CVケーブル20の遮蔽層23に接続された接地線に、電流検出用抵抗27及び電流計28を介して接続されている。29は記録計である。
この測定回路では、CVケーブル20を電力系統から切り離した後、心線導体21側に所定の直流高電圧を課電する。このとき、絶縁体22に絶縁体22の内周面と外周面の間を橋絡する水トリーが存在すると、接地線側に直流電流が流れる。この電流は、図10に示すように、水トリー劣化が進むと増加する傾向を示し、さらに劣化状態が悪化すると、電流の急激な変化(キック現象)が観測されるようになる(図10のK部)。
【0004】
しかし、この直流漏れ電流法では、水トリー劣化の有無は診断できるが、その位置の特定まではできず、水トリー劣化が確認された場合はCVケーブル全体を交換する必要があった。
一方、特許文献1〜4には、CVケーブルの両端にセンサを配置してケーブルの導体に直流高電圧を印加し、発生した部分放電信号を各センサが検出した時間を測定して、その時間差に基づいて部分放電が発生した位置を検出する方法が開示されている。直流漏れ電流測定時の電流の増加傾向やキック現象は、水トリー内部における部分放電に起因することが知られていることから、この部分放電の発生地点を特定すれば、水トリー劣化位置が標定できることになる。
【0005】
【特許文献1】特開平6−294839号公報
【特許文献2】特開平4−320977号公報
【特許文献3】特開2001−183410号公報
【特許文献4】特開平2−10274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記部分放電の発生地点を検出する方法においては、部分放電がケーブルの一箇所のみで発生している場合はその発生地点の検出が可能となるが、複数箇所の水トリー劣化位置等から同時に部分放電が発生している場合は夫々の発生位置の標定が困難で、結局ケーブル全体を交換する必要が生じている。
また、このような検出装置においては、ノイズシールドが十分に施されていないケーブル両端の検出端からノイズが侵入しやすく、ノイズが侵入すると部分放電信号との区別ができず、標定精度が低下する問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、複数箇所の部分放電の発生位置も正確に標定できる電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法と、その方法を実施するための装置とを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電力ケーブルに直流電圧を課電して、電力ケーブル内で発生した部分放電信号を電力ケーブルの両端で検出し、部分放電信号が電力ケーブルの両検出端に夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、部分放電信号の発生位置を標定する電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法であって、電力ケーブルの両検出端において、部分放電信号を繰り返して検出し、両検出端での部分放電信号の検出時間差が、電力ケーブルの全長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、電力ケーブルの全長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電して、電力ケーブル内で発生した部分放電信号を両電力ケーブルの他端側で夫々検出し、部分放電信号が両電力ケーブルの検出端に夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、部分放電信号の発生位置を標定する電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法であって、電力ケーブルの両検出端において、部分放電信号を繰り返して検出し、両検出端での部分放電信号の検出時間差が、2本の電力ケーブルの合計長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、2本の電力ケーブルの合計長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電して、電力ケーブル内で発生した部分放電信号を両電力ケーブルの他端側で夫々検出し、部分放電信号が両電力ケーブルの検出端に夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、部分放電信号の発生位置を標定する電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法であって、2本の電力ケーブルの間に増幅器を接続して折り返し側の電力ケーブルを伝搬する部分放電信号を増幅し、電力ケーブルの両検出端において、部分放電信号を繰り返して検出して、増幅により発生する遅れ時間をΔt、電力ケーブルの長さをL、部分放電信号の伝搬速度をCとして、両検出端での部分放電信号の検出時間差が、Δt以上Δt+2L/C以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、2本の電力ケーブルの合計長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの目的に加えて、より精度の高い部分放電発生位置の標定を行うために、部分放電信号の発生位置の標定は、100kHz〜10MHzの帯域における部分放電信号の伝搬時間の時間差に基づいて行う構成としたものである。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、電力ケーブルに直流電圧を課電する課電手段と、課電により電力ケーブル内で発生した部分放電信号を電力ケーブルの両端で夫々検出する検出手段と、各検出手段に部分放電信号が夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、部分放電信号の発生位置を標定する標定手段とを備える電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置であって、検出手段は、部分放電信号を繰り返して検出し、標定手段は、両検出端での部分放電信号の検出時間差が、電力ケーブルの全長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、電力ケーブルの全長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電する課電手段と、その課電により電力ケーブル内で発生した部分放電信号を両電力ケーブルの他端側で夫々検出する検出手段と、その検出手段に部分放電信号が夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、部分放電信号の発生位置を標定する標定手段とを備える電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置であって、検出手段は、部分放電信号を繰り返して検出し、標定手段は、両検出端での部分放電信号の検出時間差が、2本の電力ケーブルの合計長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、2本の電力ケーブルの合計長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電する課電手段と、その課電により電力ケーブル内で発生した部分放電信号を両電力ケーブルの他端側で夫々検出する検出手段と、その検出手段に部分放電信号が夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、部分放電信号の発生位置を標定する標定手段とを備える電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置であって、2本の電力ケーブルの間に増幅器を接続して折り返し側の電力ケーブルを伝搬する部分放電信号を増幅し、検出手段は、電力ケーブルの両検出端において部分放電信号を繰り返して検出して、標定手段は、増幅により発生する遅れ時間をΔt、電力ケーブルの長さをL、部分放電信号の伝搬速度をCとして、両検出端での部分放電信号の検出時間差が、Δt以上Δt+2L/C以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、2本の電力ケーブルの合計長を部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明は、請求項5乃至7の何れかの目的に加えて、より精度の高い部分放電発生位置の標定を行うために、部分放電信号の発生位置の標定は、100kHz〜10MHzの帯域における部分放電信号の伝搬時間の時間差に基づいて行う構成としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、直流電圧課電時にCVケーブルの絶縁体内で発生する部分放電を繰り返して検出することにより、複数箇所の水トリー劣化位置等から部分放電が発生していた場合でも、全ての部分放電の発生位置を正確に標定することができる。従って、従来のようなある区間のケーブル全長の交換から、ある区間の部分的なケーブル交換とすることができ、交換に要するコストの低減を図ることができる。
また、請求項3及び7の発明によれば、上記効果に加えて、部分放電信号の到達時間差がΔt以上Δt+2L/C以下となる場合のみ発生位置の標定を行うようにしたことで、部分放電信号とノイズとの判別が可能となる。よって、標定精度の向上が期待できる。
さらに、請求項4及び8に記載の発明によれば、特定の帯域における部分放電信号の伝搬時間の時間差に基づいて行うようにしたことで、より精度の高い発生位置の標定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、本発明の部分放電発生位置標定装置(以下単に「標定装置」という。)の一例を示す説明図である。図において、1は測定対象となるCVケーブルで、心線導体を絶縁体、遮蔽層、絶縁シースの順で被覆した周知の構成である。このCVケーブル1の心線導体の検出端(以下「A端」及び「B端」として区別する。)のうち、A端には、保護抵抗2を介して課電手段となる直流電源3が接続され、その接地側には、電流検出用の抵抗4及び電流計5が直列に接続されている。6はペンレコーダである。また、CVケーブル1の両端の遮蔽層は、結合コンデンサ7及び検出手段となる信号検出用インピーダンス8を介して接地され、各信号検出用インピーダンス8,8から検出された部分放電信号(以下単に「信号」という。)が、夫々標定手段としてのデジタルオシロスコープ9へ入力可能となっている。
【0012】
この標定装置において、CVケーブル1の心線導体に直流高電圧を課電すると、CVケーブル1に水トリー劣化等の欠陥がある場合、その箇所で発生した信号がCVケーブル1内を伝搬してAB端に夫々到達し、信号検出用インピーダンス8,8で検出されて夫々CH1,2を介してデジタルオシロスコープ9に入力される。デジタルオシロスコープ9では、信号検出用インピーダンス8,8で検出された信号の伝搬時間差を測定し、その時間差及びCVケーブルの長さ、伝搬速度に基づいた周知の演算によって部分放電が発生した位置を算出する。
【0013】
具体例を挙げると、20年間使用されたCVケーブルを10m撤去し、図1の標定装置を用いて部分放電測定を行ったところ、直流漏れ電流の増加とともに1秒間に数回以上の頻度で部分放電が検出された。図2は検出された部分放電波形(PD部)を示す。この部分放電波形の周波数スペクトルを調べた結果、図3のように100MHz以上まで拡がっていることが分かった。さらには、キック現象が発生したときは、直流漏れ電流の増加時よりも部分放電が高い発生頻度で検出された。この試験結果より、直流漏れ電流測定時の直流漏れ電流の増加傾向やキック現象は、水トリー内部における部分放電に起因することが確認できた。
また、300mのCVケーブルの中央部に、人工的に欠陥を製作し、図1の標定装置を用いて直流高電圧を課電し部分放電を発生させた。このとき、CVケーブルの両端位置において、100kHz〜10MHzの帯域における信号の伝搬時間差を測定して部分放電の発生している欠陥の位置を標定したところ、ケーブル長さに対して1%の誤差で標定可能であった。
【0014】
これらの試験結果より、直流高電圧課電時に検出される直流漏れ電流の増加とキック現象に起因する100kHz〜10MHzの帯域における信号の伝搬時間差を測定することにより、精度よく水トリー劣化の発生位置を標定可能なことが判明した。
【0015】
次に、上記標定装置において実施される部分放電発生位置標定方法(以下単に「標定方法」という。)について、図4のフローチャートに基づいて説明する。
まず、部分放電が発生している際には、部分放電1回ごとにA端からの信号波形及びB端からの信号波形をデジタイズ(取り込み)してメモリに記録する。ここでS1においてA端で信号が時刻t1で検出され、B端で信号が時刻t2で検出されると、S2では、ケーブル長をL、ケーブル内の100kHz〜10MHzの帯域における信号の速度をCとしたとき、|t2−t1|≦L/Cの条件を満たすか否かを判別する。この条件を満たさない場合は同じ位置からの信号でないとして、位置標定を行わない(S3)。
【0016】
また、この条件を満たす場合、S4において、A端で次の信号が時刻t3で検出され(t3>t1)、B端で次の信号が時刻t4で検出されると(t4>t2)、S5では、S2と同様に、|t4−t3|≦L/Cの条件を満たすか否かを判別する。この条件を満たさない場合は同じ位置からの信号でないとして、位置標定を行わない(S6)。
そして、S7では、(t3−t1)>L/C及び(t4−t2)>L/Cの双方を満たすか否かを判別する。ここで両条件を満たさない場合は位置標定を行わず(S8)、両条件を満たす場合は、異なる位置X1,X2で部分放電が発生しているものとして、S9において以下の式1,2によって位置標定を行う。
なお、A端又はB端で次の信号が検出されない場合は、S9の式1のみによって位置標定を行い標定を終了する。
【0017】
位置X1=(L−C×|t2−t1|)/2 ・・式1
位置X2=(L−C×|t4−t3|)/2 ・・式2
なお、S10の判別で継続して標定を行う場合は、S11においてt3→t1及びt4→t2としてS4に戻り、同じ処理を繰り返すことになる。
【0018】
上記S7において、AB端夫々で信号が検出された時間差をL/Cと比較して位置標定が可能かどうかを判別し、可能と判定されたものについてのみ位置標定を行うようにしたのは、以下の理由による。
例えば、A端からの距離X1(0≦X1≦L)で最初に部分放電が生じたとすると、X1からA端とB端に伝搬するときの伝搬距離の差は、│L−2X1│であるから、到達時間差は、│L−2X1|/Cとなる。到達時間差が最も大きくなるのは、A,B端近傍で部分放電が発生した場合であり、その値はL/Cに近くなる。
次にA端からの距離X2(X1<X2)において別の部分放電が発生したとする。X1で部分放電が発生した後にX2で部分放電が発生するまでの時間遅れtが、(X2−X1)/Cよりも短い場合には、B端で最初に測定される波形はX2での放電波形となり、波頭同士の時間差を基に部分放電点を計算すると正しい位置標定ができない。従って、(X2−X1)/Cの最大値であるL/Cよりも部分放電遅れ時間tが小さくなるときは、誤標定の可能性があるとして除外したものである。
なお、このような誤標定のケースが頻繁に出ないようにするために、課電する電圧はケーブル全長に亘る部分放電発生頻度がL/Cに比べて十分低くなるように調整されるべきである。
【0019】
こうして得た位置標定結果を、図5のように標定位置を横軸、累積部分放電発生数を縦軸にとってプロットすると、ケーブル長手方向の放電発生状況を把握することができる。図5の例では、イ点、ロ点及びハ点とそれらの近傍において累積部分放電発生数が急激に増加していることから、イ点、ロ点及びハ点付近に生じているであろう水トリーより部分放電が発生していると判定される。
【0020】
このように、上記形態1の標定方法及び標定装置によれば、直流電圧課電時にCVケーブル1の絶縁体内で発生する部分放電を繰り返して検出し、AB各端での信号の検出時間差が、CVケーブルの全長を信号が伝搬するのに要する時間L/C以下となり、且つAB各端での繰り返し検出時間間隔が時間L/Cよりも大きい信号についてAB端での伝搬時間の到達時間差による発生位置の標定を行うようにしたことで、複数箇所の水トリー劣化位置から部分放電が発生していた場合でも、全ての部分放電の発生位置を正確に標定することができる。従って、従来のようなある区間のケーブル全長の交換から、ある区間の部分的なケーブル交換とすることができ、交換に要するコストの低減を図ることができる。
【0021】
[形態2]
次に、本発明の他の形態について説明する。なお、先の形態1と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明は省略する。
数kmにも亘るような実際のCVケーブルでは、片端で検出された信号を測定端であるもう一方の端部まで送り返すため、図6に示す標定装置で測定を行う。すなわち、B端側の信号検出用インピーダンス8には、増幅器10を介して信号送り返し用ケーブル(3相ケーブルのうちの残り2相のどちらか)11の心線導体のC端が接続されており、検出端となるD端が標定手段としての測定器12に接続されるものである。
よって、B端側の信号検出用インピーダンス8で検出された信号は、増幅器10により増幅される。なお、ケーブル内を伝搬した信号は高周波側の方がより減衰されるため、増幅器10は、図6の下側に示すように高周波側の方がより大きく増幅されるものを使用する。増幅器10を通過した信号は、信号送り返し用ケーブル11を伝搬してD端に送り返される。よって、測定器12では、A端とD端とに到達した信号の時間差により、図7のフローチャートに従って部分放電発生位置(水トリー劣化位置)の位置標定を行うことになる。
【0022】
但し、図6の標定装置においては、B端から信号送り返し用ケーブル11のD端へ送り返された信号は、A端で得られた信号よりも必ず遅れて測定器に到達する。この遅れ時間の中には、B端で得られた信号を増幅器10で増幅することにより発生する遅れ時間Δtを含む。D端へ送り返された信号のA端で得られた信号に対する遅れ時間は、B端近傍で部分放電が発生したときに最小となり、B端側の信号検出用インピーダンス8と増幅器10とを接続する線や増幅器10と信号送り返し用ケーブル11とを接続するための線による時間遅れを無視すると、Δtとなる。
また、D端へ送り返された信号のA端で得られた信号に対する遅れ時間は、A端近傍で部分放電が発生したときに最大となり、ケーブル長をL、ケーブル内の100kHz〜10MHzの帯域における信号の伝搬速度をCとすると、Δt+2L/Cとなる。この関係を図8の(1)に示す。つまり、D端で得られた信号をA端で得られた信号と比較すると、必ずΔt以上Δt+2L/C以下の遅れ時間を持つこととなる。
【0023】
一方、この標定装置は、測定対象のCVケーブル1及び信号送り返し用ケーブル11の端部(検出インピーダンス部を含む)を除けば、全て同軸構造でシールドされているため、外部からのノイズは殆ど侵入できない。つまり、外部ノイズは主にケーブル端部のシールドが十分に施されていない箇所(図6内点線及び二点鎖線で囲まれた箇所)からA端とD端又はB端とC端で同時に侵入することとなるため、測定器12のCH1とCH2とで得られた信号には図8の(2)に示すように殆ど時間差が存在しない。このことから、信号とノイズとは判別可能であることがわかる。ここで、仮に増幅器10が存在しないとすると、B端近傍で発生した信号のA端とD端への到達時間差は0となり、ノイズとの判別は不可能となる。
【0024】
ここで、増幅器10の時間遅れΔtは、以下のようにして得ることができる。
まず位置標定の実施前に既知の放電パルスをA端から注入することにより、測定回路の校正を行う。すなわち、A端から放電パルスを注入すると、B端において反射波と透過波が生じる。A端で反射波の到達時間Δt1を測定することにより、ケーブル内の100kHz〜10MHzの帯域における信号の速度Cは、ケーブル長をLとすると、C=2L/Δt1で求めることができる。また、増幅器10の時間遅れΔtは、信号送り返し用ケーブル11のD端で検出された信号の到達時間をΔt2とすると、Δt=Δt2−Δt1より求めることができる。
【0025】
従って、図7のフローチャートでは、まずS21において、A端において時刻t1で、D端において時刻t2で夫々信号が検出されると、S22では、D端で検出された信号の到達時刻t2から、Δt+Δt1/2(=Δt+L/C)を差し引いて、増幅器10による時間遅れΔt及び信号送り返し用ケーブル11の伝搬時間L/Cを考慮して校正した時刻t2’を得るようにしている。よって、S23では、t2’とt1との時間差をL/Cと比較して、L/Cを越えている場合にはS24で位置標定から排除されることになる。又、S23の式|t2’−t1|≦L/CにS22の式t2’=t2−(Δt+L/C)を代入して変形すると、Δt≦t2−t1≦Δt+2L/Cとなって図8(1)の信号の関係を満足するため、ここでノイズとの判別ができることになる。
【0026】
そして、S25で、A端において時刻t3で、D端において時刻t4で夫々次の信号が検出されると、S26では、D端で検出された信号の到達時刻t4から、Δt+Δt1/2(=Δt+L/C)を差し引いて、増幅器10による時間遅れΔt及び信号送り返し用ケーブル11の伝搬時間L/Cを考慮して校正した時刻t4’が求められ、S27でこの時刻t4’とt3との時間差がL/Cと比較されて、L/Cを越えている場合にはS28で位置標定から排除される。又、S27の式|t4’−t3|≦L/CにS26の式t4’=t4−(Δt+L/C)を代入して変形すると、Δt≦t4−t3≦Δt+2L/Cとなって図8(1)の信号の関係を満足するため、ここでノイズとの判別ができることになる。
後のS29〜S33の処理は図4で説明したS7〜S11の処理と同様であるが、ここでは上記S22,26で夫々校正された時刻t2’,t4’が、夫々時刻t2、t4に代えて用いられることになる。
【0027】
このように、上記形態2の標定方法及び標定装置においても、複数箇所の水トリー劣化位置等から部分放電が発生していた場合でも、全ての部分放電の発生位置を正確に標定することができる。従って、従来のようなある区間のケーブル全長の交換から、ある区間の部分的なケーブル交換とすることができ、交換に要するコストの低減を図ることができる。
特にここでは、信号の到達時間差が、Δt以上Δt+2L/C以下となるもののみ発生位置の標定を行うようにしているので、信号とノイズとを判別して標定でき、標定精度の向上が期待できる。
【0028】
なお、標定装置の具体的な構成は上記形態1,2に限らない。例えば上記形態では直流漏れ電流測定と併せて部分放電発生位置の標定を行っているが、部分放電発生位置の標定のみを行っても良いことは当然で、この場合電流計やペンレコーダ等は省略できる。
また、形態2では増幅器によって折り返し側のCVケーブルを伝搬する信号を増幅しているが、増幅器の省略も可能である。
【実施例】
【0029】
20年間使用されている全長1.2kmの電力用11kVCVケーブル線路を用いて、直流漏れ電流測定を行いながら、部分放電測定による水トリー劣化の発生位置の標定を行った。直流電圧16kV課電時に、直流漏れ電流の増加傾向が観測されるとともに、課電時間の7分間に10回のキック現象が検出された。また、直流電圧16kV課電時には、1秒間に数回以上の頻度で10〜20mV程度の大きさの100kHz〜10MHzの帯域における信号が、線路の両端で検出され、キック現象発生時には、10〜20mV程度の大きさの100kHz〜10MHzの帯域における信号が1秒間に数10回以上の頻度で検出された。
検出された信号を、課電時間7分間の間に最大300パルス分だけコンピュータに取り込み、取り込まれたパルスから部分放電発生位置を図4のフローチャートに従って伝搬時間差から計算して、ケーブル長を10mごとに区分した部分放電の発生位置の頻度分布を求めたところ、直流電圧課電を行ったケーブル端側から560mの位置を最大とした540mから570mの範囲の分布と、1070mの位置を最大とした1060mから1100mの範囲の分布が存在した。キック現象発生時に検出された信号は、10回とも直流電圧課電を行ったケーブル端側から550〜570mの位置を部分放電の発生位置として標定した。
【0030】
直流高電圧を課電して、試験に供したCVケーブルの絶縁破壊試験を行った。絶縁破壊した位置を調査したところ、直流漏れ電流測定時に直流電圧課電を行ったケーブル端側から556mの位置で破壊が生じていた。
また、破壊点近傍長手方向50mmのCVケーブルの絶縁体について、水トリーの発生状況を確認したところ、8個の絶縁体を橋絡した水トリーが発見された。
さらに、試験に供したCVケーブル線路のうち、直流電圧課電を行ったケーブル端側から1060mから1100mの範囲のケーブルを撤去して、前駆遮断試験(部分放電コンパレータを用いて絶縁破壊の前兆である部分放電を監視し、破壊寸前で電源を遮断する試験。)を行ったところ、前駆遮断点は1066mの位置となった。
【0031】
そして、前駆遮断点近傍長手方向50mmのCVケーブルの絶縁体について、水トリーの発生状況を確認したところ、5個の絶縁体を橋絡した水トリーが発見された。その内の1つは水トリー内部から絶縁破壊の前駆現象である電気トリーが発生していた。直流漏れ電流測定時に観測された部分放電は、この電気トリーの進展時に発生していたものである。
【0032】
なお、上記形態や実施例では、CVケーブルに発生した水トリー劣化位置の標定に本発明を適用しているが、水トリー劣化に限らず、他の内的要因(機械的ストレスや熱収縮、不純物の混入)や外傷等であっても部分放電発生位置の標定によって発見することができる。従って、地下等に埋設したケーブルに限らず、埋設前の工場での品質試験等においても本発明の適用は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】形態1の標定装置の説明図である。
【図2】直流漏れ電流測定の漏れ電流増加時に測定された部分放電波形の一例である。
【図3】直流漏れ電流測定の漏れ電流増加時に測定された部分放電波形の周波数スペクトルである。
【図4】標定方法のフローチャートである。
【図5】CVケーブル長手方向の放電発生状況を示すグラフである。
【図6】形態2の標定装置の説明図である。
【図7】標定方法のフローチャートである。
【図8】標定装置に入力される信号の入力時間の関係を示す。
【図9】直流漏れ電流の測定回路例を示す説明図である。
【図10】橋絡水トリーが存在する高圧電力ケーブルで測定した直流漏れ電流波形の一例である。
【符号の説明】
【0034】
1・・CVケーブル、2・・保護抵抗、3・・直流電源、8・・信号検出用インピーダンス、9・・デジタルオシロスコープ、10・・増幅器、11・・信号送り返し用ケーブル、12・・測定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルに直流電圧を課電して、前記電力ケーブル内で発生した部分放電信号を前記電力ケーブルの両端で検出し、前記部分放電信号が前記電力ケーブルの両検出端に夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、前記部分放電信号の発生位置を標定する電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法であって、
前記電力ケーブルの両検出端において、前記部分放電信号を繰り返して検出し、前記両検出端での前記部分放電信号の検出時間差が、前記電力ケーブルの全長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、前記電力ケーブルの全長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とする電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法。
【請求項2】
一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電して、前記電力ケーブル内で発生した部分放電信号を前記両電力ケーブルの他端側で夫々検出し、前記部分放電信号が前記両電力ケーブルの検出端に夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、前記部分放電信号の発生位置を標定する電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法であって、
前記電力ケーブルの両検出端において、前記部分放電信号を繰り返して検出し、前記両検出端での前記部分放電信号の検出時間差が、前記2本の電力ケーブルの合計長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、前記2本の電力ケーブルの合計長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とする電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法。
【請求項3】
一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電して、前記電力ケーブル内で発生した部分放電信号を前記両電力ケーブルの他端側で夫々検出し、前記部分放電信号が前記両電力ケーブルの検出端に夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、前記部分放電信号の発生位置を標定する電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法であって、
前記2本の電力ケーブルの間に増幅器を接続して折り返し側の電力ケーブルを伝搬する部分放電信号を増幅し、前記電力ケーブルの両検出端において、前記部分放電信号を繰り返して検出して、前記増幅により発生する遅れ時間をΔt、前記電力ケーブルの長さをL、前記部分放電信号の伝搬速度をCとして、前記両検出端での前記部分放電信号の検出時間差が、Δt以上Δt+2L/C以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、前記2本の電力ケーブルの合計長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とする電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法。
【請求項4】
部分放電信号の発生位置の標定は、100kHz〜10MHzの帯域における部分放電信号の伝搬時間の時間差に基づいて行うようにしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電力ケーブルの部分放電発生位置標定方法。
【請求項5】
電力ケーブルに直流電圧を課電する課電手段と、前記課電により前記電力ケーブル内で発生した部分放電信号を前記電力ケーブルの両端で夫々検出する検出手段と、前記各検出手段に前記部分放電信号が夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、前記部分放電信号の発生位置を標定する標定手段とを備える電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置であって、
前記検出手段は、前記部分放電信号を繰り返して検出し、前記標定手段は、前記両検出端での前記部分放電信号の検出時間差が、前記電力ケーブルの全長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、前記電力ケーブルの全長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とする電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置。
【請求項6】
一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電する課電手段と、その課電により前記電力ケーブル内で発生した部分放電信号を前記両電力ケーブルの他端側で夫々検出する検出手段と、その検出手段に前記部分放電信号が夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、前記部分放電信号の発生位置を標定する標定手段とを備える電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置であって、
前記検出手段は、前記部分放電信号を繰り返して検出し、前記標定手段は、前記両検出端での前記部分放電信号の検出時間差が、前記2本の電力ケーブルの合計長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、前記2本の電力ケーブルの合計長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とする電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置。
【請求項7】
一端同士を接続して折り返した2本の電力ケーブルに直流電圧を課電する課電手段と、その課電により前記電力ケーブル内で発生した部分放電信号を前記両電力ケーブルの他端側で夫々検出する検出手段と、その検出手段に前記部分放電信号が夫々到達する伝搬時間の時間差に基づいて、前記部分放電信号の発生位置を標定する標定手段とを備える電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置であって、
前記2本の電力ケーブルの間に増幅器を接続して折り返し側の電力ケーブルを伝搬する部分放電信号を増幅し、前記検出手段は、前記電力ケーブルの両検出端において前記部分放電信号を繰り返して検出して、前記標定手段は、前記増幅により発生する遅れ時間をΔt、前記電力ケーブルの長さをL、前記部分放電信号の伝搬速度をCとして、前記両検出端での前記部分放電信号の検出時間差が、Δt以上Δt+2L/C以下となり、且つ各検出端での繰り返し検出時間間隔が、前記2本の電力ケーブルの合計長を前記部分放電信号が伝搬するのに要する時間よりも大きい部分放電信号について発生位置の標定を行うことを特徴とする電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置。
【請求項8】
部分放電信号の発生位置の標定は、100kHz〜10MHzの帯域における部分放電信号の伝搬時間の時間差に基づいて行うようにしたことを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載の電力ケーブルの部分放電発生位置標定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−216141(P2008−216141A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56123(P2007−56123)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】