説明

電力変換器制御装置

【課題】多重巻線型電動機に接続した複数の電力変換器を制御する電力変換器制御装置において、電力変換器で発生するスイッチング損失を抑え、かつ電力変換器で発生する複数の低次の高調波成分を低減する。
【解決手段】電力変換器制御装置1は、多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置を検出する位置検出器22と、電動機4の巻線群に対応した電圧指令を発生する電圧指令部11、17と、電圧指令から変調率を演算する変調率演算部13、19と、磁極位置信号から電動機4の回転速度を演算する速度演算部14と、変調率と電動機4の回転速度とに基づき、電力変換器2、3のスイッチング素子のスイッチングのパルスパターンを演算するパルスパターン演算部15、20と、電圧指令とパルスパターンと磁極位置信号に基づき、電力変換器2、3を駆動するゲートパルス出力部16、21とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電機子巻線が複数の巻線群として多重化された多重巻線型電動機を駆動する複数の電力変換器を制御する電力変換器制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力変換器は、交流電力系統と直流電力系統との間に接続され、電力を直流−交流変換する装置である。一般に、電動機をパルス幅変調(PWM)制御された電力変換器によって駆動するとき、電流高調波が発生しシステムに悪影響を与える。この電流高調波を低減する方法として、PWM制御するためのスイッチング周波数を高く設定する方法や、スイッチングのパルス位相を、高調波を低減するよう適切に設計する方法などがある。
【0003】
スイッチング周波数を高く設定する方法では、電動機の回転位相とは同期しない非同期のスイッチングタイミングでスイッチング素子をオン・オフし、スイッチング周波数を高く設定する。しかし、スイッチング周波数を高く設定すると電力変換器のスイッチング素子におけるスイッチング損失が増加することになり、電力変換器で発生する損失が増加し発熱量が大きくなる。
【0004】
スイッチングのパルス位相を適切に設計する方法として、スイッチングのタイミングを電動機の回転位相に同期させる同期PWM制御によってスイッチング位相を制御し、スイッチングのオン・オフ位相を適切に設計することにより、特定次数の高調波成分を低減する装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、目標の高次高調波次数の高調波成分を低減するために、各電力変換装置のスイッチング周波数を同期させ、かつ適切な位相差を持たせる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−276747号公報(段落[0016]〜[0022]、図1)
【特許文献2】特開2010−233292号公報(段落[0028]〜[0041]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1開示の装置では、変換用変圧器を用いて高調波を低減し、電力変換器の制御では11次以上の比較的高い次数の高調波成分を低減しており、電力変換器の制御のみで低次の高調波成分を低減するものではないという問題がある。
また、特許文献2開示の方法では、各電力変換器のスイッチング周波数が同じであり、電動機の回転位相とは同期しないスイッチングタイミングで制御され、電力変換器で発生するスイッチング損失が大きくなり、実質的に低減可能な低次数の高調波成分は1種類の周波数成分に限定されるという問題がある。
【0007】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、多重巻線型電動機を駆動するために接続された複数の電力変換器を制御する電力変換器制御装置において、電力変換器で発生するスイッチングに伴う損失を抑え、かつ電力変換器で発生する複数の低次の高調波成分を低減することが可能な電力変換器制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電力変換器制御装置は、複数の巻線群を備えた多重巻線型電動機を駆動するために各巻線群に接続された複数の電力変換器を制御する電力変換器制御装置において、多重巻線型電動機の回転子の磁極位置を検出する位置検出器と、多重巻線型電動機の巻線群に対応した電圧指令を発生する電圧指令部と、電圧指令部で発生した電圧指令から変調率を演算する変調率演算部と、位置検出器からの磁極位置信号から多重巻線型電動機の回転速度を演算する速度演算部と、変調率演算部で演算した変調率と速度演算部で演算した多重巻線型電動機の回転速度とに基づき、電力変換器のスイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンを演算するパルスパターン演算部と、電圧指令とパルスパターン演算部で演算したパルスパターンと磁極位置信号に基づき、電力変換器を駆動するゲートパルス出力部とから構成されるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る電力変換器制御装置は、複数の巻線群を備えた多重巻線型電動機を駆動するために各巻線群に接続された複数の電力変換器を制御する電力変換器制御装置において、多重巻線型電動機の回転子の磁極位置を検出する位置検出器と、多重巻線型電動機の巻線群に対応した電圧指令を発生する電圧指令部と、電圧指令部で発生した電圧指令から変調率を演算する変調率演算部と、位置検出器からの磁極位置信号から多重巻線型電動機の回転速度を演算する速度演算部と、変調率演算部で演算した変調率と速度演算部で演算した多重巻線型電動機の回転速度とに基づき、電力変換器のスイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンを演算するパルスパターン演算部と、電圧指令とパルスパターン演算部で演算したパルスパターンと磁極位置信号に基づき、電力変換器を駆動するゲートパルス出力部とから構成されるものであるため、電力変換器で発生するスイッチングに伴う損失を抑え、かつ電力変換器で発生する複数の低次の高調波成分を低減することを可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1の電力変換器制御装置に係るシステム構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1の電力変換器制御装置に係るスイッチングパルスパターン図である。
【図3】この発明の実施の形態1の電力変換器制御装置に係るスイッチングパルス位相説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1の電力変換器制御装置に係るゲートパルス出力部のブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態1の電力変換器制御装置に係るパルス位相テーブルである。
【図6】この発明の実施の形態2の電力変換器制御装置に係るシステム構成図である。
【図7】この発明の実施の形態2の電力変換器制御装置に係る多重ゲートパルス出力部のブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態3の電力変換器制御装置に係る多重ゲートパルス出力部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
実施の形態1は、多重巻線型電動機を駆動するためにPWM制御によってスイッチング素子をオン・オフ制御する複数の電力変換器を制御する電力変換器制御装置において、電流高調波を低減するよう各スイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するパルスパターンを変調率と回転速度から演算するパルスパターン演算部を備え、低次の高調波成分を低減するよう構成した電力変換器制御装置に関するものである。
以下、本願発明の実施の形態1について、電力変換器制御装置に係るシステム構成図である図1、スイッチングパルスパターン図である図2、スイッチングパルス位相説明図である図3、ゲートパルス出力部のブロック図である図4およびパルス位相テーブルである図5に基づいて説明する。
【0012】
まず、本願発明の実施の形態1に係る電力変換器制御装置を含む全体システム構成について説明する。
図1は、例として2つの巻線群を有する多重巻線型電動機に対応する二重化した電力変換器制御装置のシステム構成を示している
図1において、システム全体は、二重化した電力変換器制御装置1、第1電力変換器2、第2電力変換器3および多重巻線型電動機4から構成される。
多重巻線型電動機4は、電動機を構成する巻線が2つの巻線群として多重化された多重巻線型電動機であり、この多重巻線型電動機4を駆動するため、第1の巻線群に第1電力変換器2が接続され、第2の巻線群に第2電力変換器3が接続されている。
第1電力変換器2は、後で詳細に説明する電力変換器制御装置1の第1制御ブロック12内の第1ゲートパルス出力部から出力されるPWM制御信号で制御される。また、第2電力変換器3は、電力変換器制御装置1の第2制御ブロック18内の第2ゲートパルス出力部21から出力されるPWM制御信号で制御される。
また、多重巻線型電動機4は、電力変換器制御装置1の制御に使用する多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置を検出するための位置検出器22を備えている。
【0013】
次に、電力変換器制御装置1の構成について、説明する。
電力変換器制御装置1は、多重巻線型電動機4の第1の巻線群に対応する第1電力変換器2の制御に関わる第1電圧指令部11と第1制御ブロック12、および多重巻線型電動機4の第2の巻線群に対応する第2電力変換器3の制御に関わる第2電圧指令部17と第2制御ブロック18、さらに位置検出器22と位相補正部23から構成される。
【0014】
第1電力変換器2の制御に関わる第1電圧指令部11と第1制御ブロック12について説明する。
第1電圧指令部11では、図示されていない外部からトルク指令あるいは速度指令が入力され、この指令に基づき、直交二相座標系で表された第1電圧指令を生成し、第1変調率演算部13と第1ゲートパルス出力部16に出力する。第1変調率演算部13では、
第1電圧指令部11からの第1電圧指令に基づき、第1変調率を演算し、第1パルスパターン演算部15に出力する。
多重巻線型電動機4に備えられた位置検出器22で検出された多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号は、速度演算部14に出力されるとともに、第1ゲートパルス出力部16および位相補正部23にも出力される。
速度演算部14では、多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号から多重巻線型電動機4の回転速度を演算し、第1パルスパターン演算部15に出力するとともに、第2制御ブロック18内の第2パルスパターン演算部20に出力する。
第1パルスパターン演算部15では、第1変調率演算部13からの第1変調率および速度演算部14からの多重巻線型電動機4の回転速度に基づき、第1電力変換器2の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンを演算して、第1ゲートパルス出力部16に出力する。
第1ゲートパルス出力部16では、第1電圧指令部11からの第1電圧指令と第1パルスパターン演算部15からのパルスパターンと位置検出器22からの多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号とに基づき、第1電力変換器2をPWM制御する。
【0015】
次に、第2電力変換器3の制御に関わる第2電圧指令部17と第2制御ブロック18について説明する。
ここで、位相補正部23では、位置検出器22からの多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号に対して、多重巻線型電動機4の2つの巻線群の巻線位置の構造的角度差である電動機固有の値で補正を行い、補正した磁極位置信号(以下、補正磁極位置信号という)を第2ゲートパルス出力部21に出力する。
第2電圧指令部17では、第1電圧指令部11に入力される外部からトルク指令あるいは速度指令と同じ指令が入力され、この指令に基づき、直交二相座標系で表された第2電圧指令を生成し、第2変調率演算部19と第2ゲートパルス出力部21に出力する。第2変調率演算部19では、第2電圧指令部17からの第2電圧指令に基づき、第2変調率を演算し、第2パルスパターン演算部20に出力する。
第2パルスパターン演算部20では、第2変調率演算部19からの第2変調率および第1制御ブロック12内の速度演算部14からの多重巻線型電動機4の回転速度に基づき、第2電力変換器3の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンを演算して、第2ゲートパルス出力部21に出力する。
第2ゲートパルス出力部21では、第2電圧指令部17からの第2電圧指令と第2パルスパターン演算部20からのパルスパターンと位相補正部23からの補正磁極位置信号とに基づき、第2電力変換器3をPWM制御する。
【0016】
実施の形態1では、多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置を検出する位置検出器22として、例えば、インクリメンタルエンコーダやレゾルバが用いられる。
本実施の形態1では、回転子の磁極位置を検出するために位置検出器を用いているが、位置検出器の代わりに回転検出器を使用することもできる。
【0017】
次に、本発明の実施の形態1に係る電力変換器制御装置1の動作について、図1〜図5に基づいて説明する。
なお、第1電力変換器2の制御に関わる第1制御ブロック12等と第2電力変換器3の制御に関わる第2制御ブロック18等の動作は基本的に同じであるため、以下の説明では、適時第1電力変換器2の制御に関わる第1制御ブロック12等を代表として説明する。
図1において、第1電圧指令部11では、外部からのトルク指令あるいは回転速度指令に基づき、直交二相座標系で表された第1電圧指令Vda、Vqaが生成される。一般的に直交二相座標系は回転座標系のd−q軸が用いられ、Vdaはd軸上で、Vqaはq軸上で表された第1電力変換器2を制御するための電圧指令である。
一方、第2電圧指令部17では、第2電圧指令Vdb、Vqbが生成される。
第1電圧指令Vda、Vqa、および第2電圧指令Vdb、Vqbは、多重巻線型電動機4の各巻線群に対応した電圧指令である。
【0018】
第1変調率演算部13では、第1電圧指令部11からの第1電圧指令Vda、Vqaに基づき、変調率の演算を行う。第2変調率演算部19においても、第2電圧指令部17からの第2電圧指令Vdb、Vqbに基づき、変調率の演算を行う。
電圧指令をV、Vとすると、変調率mは、
【0019】
【数1】

【0020】
で計算される。
式(1)において、Vdcは、第1電力変換器2および第2電力変換器3に供給される直流電源(図示せず)の電圧である。
速度演算部14は、位置検出器22からの回転子の磁極位置信号(電気角位置信号)θを用いて、回転速度を計算する。電気角回転速度ωは、
【0021】
【数2】

【0022】
により演算される。また、電気角回転速度×極対数により、多重巻線型電動機4の機械角回転速度ωも計算される。
一般的に電動機で発生する損失や騒音は、電動機の回転速度によって変化するため、本発明の実施の形態1においては、多重巻線型電動機4の回転速度を考慮してスイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンの演算を行う。
【0023】
本実施の形態1では、第1電力変換器2および第2電力変換器3の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを多重巻線型電動機4の回転子の回転位相に同期させる同期PWM方式を適用している。
第1パルスパターン演算部15と第2パルスパターン演算部20は、それぞれ第1変調率、第2変調率、および式(2)で演算された電気角回転速度を用いて、第1電力変換器2と第2電力変換器3の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンを演算して、第1ゲートパルス出力部16および第2ゲートパルス出力部21へ出力する。
なお、以下の説明では、「各スイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターン」を適時「パルスパターン」という。
【0024】
本発明の実施の形態1では、制御は同期PWM方式であるため、第1パルスパターン演算部15および第2パルスパターン演算部20が出力するそれぞれのパルスパターンは、多重巻線型電動機4の回転子の回転位相を基準に演算される。このパルスパターンは、第1電力変換器2および第2電力変換器3における電流の特定次数の高調波成分を低減するようなパターンになるように演算される。
本発明の実施の形態1では、多重巻線型電動機4の回転子の回転速度に応じたパルスパターンを演算しており、回転速度における低速度域と高速度域で異なる特性に対応することができる。
【0025】
一般的に、同期PWM制御において電流における低次の高調波成分を消去するときには、基本波の1/2サイクルの中心であるπ/2で対称なパルス位相でスイッチングを行う。1/2サイクルのスイッチング回数をk回(kは、3以上の奇数)とすると、1/4サイクル中には(k−1)/2回のスイッチングを行い、電気角度0度を基準にしてパルスパターンを決定するパルス位相θ〜θを定義し、このパルスパターンのパルス位相θ〜θを適切に演算することにより高調波を低減する。
図2に電圧指令とパルスパターンの関係を示す。電圧指令は点線で表わされ、パルスパターンは実線で表されている。
図2の例は、1/4サイクルに3回のスイッチングを行うケースである。スイッチング素子をスイッチングするためのゲート信号をGPとすると、図2のパルスパターンでは、パルス位相θ〜θと回転位相θの相対関係により
【0026】
【数3】

【0027】
となる。このとき、ゲート信号GPは、πで奇対称な波形となる。この例では、1/4サイクルに3回のスイッチングを行っているが、スイッチング回数が増えても考え方は同じである。
【0028】
次に低次の高調波成分を低減する同期PWM方式におけるパルスパターンの設計方法の一例について説明する。
PWM制御される電力変換器の出力波形におけるn次の高調波成分Eは、1/2サイクルのスイッチング回数kを用いて
【0029】
【数4】

【0030】
と表される。
ここで、位相0と位相πにおいては、必ずスイッチングを行い、位相0におけるスイッチングは、カウントしない。図2に示すような1/4サイクルに3回のスイッチングパターン(1/2サイクルに7回のスイッチングパターン)のケースで、5次および7次高調波を低減するパルスパターンを設計する場合、以下の式(5)を満たすようなパルスパターンのパルス位相θ、θ、θを求めることになる。
【0031】
【数5】

【0032】
式(5)は、PWM制御するゲートパルス波形をフーリエ級数展開し、その基本波成分が変調率mと同じ値とし、5次と7次の項がゼロになる条件を示したものである。式(5)を連立方程式として解き、その解を求めることにより、パルスパターンのパルス位相θ、θ、θを求めることができる。
【0033】
多重巻線型電動機で発生する高調波成分を低減するときにも同様の考え方が可能であるが、多重巻線型電動機に接続された複数の電力変換器の高調波低減方法として、多重巻線型電動機の回転子の回転位相に対して適切なパルス位相で制御する観点と、複数の巻線群に対応する電圧指令の間のパルス位相差の関係で制御する観点がある。
複数の電力変換器を同じスイッチングタイミングで駆動すると高調波が増加することが知られている。そのため、例えば複数の三相巻線群を備える多重巻線型電動機を駆動するときには、各巻線群のU相同士など同じ相の電圧のスイッチングが同時に起こらないように制御することが有効である。多重巻線型電動機では、構造上、各巻線群間に一定の位相差が発生するため、この差を考慮したパルスパターンの設計を行う。
【0034】
図3は、2系統の電圧指令の間に位相差があるときにそれぞれのパルスパターンのパルス位相の関係を示したものである。図3において、2つの電圧指令の正弦波の間に存在している位相差が、多重巻線型電動機の巻線群位置の位相差を表している。
スイッチング回数は、図2の例と同様に、1/4サイクルに3回(1/2サイクルに7回)としており、第1電圧指令に関するパルスパターンのパルス位相をθ1a〜θ3a、第2電圧指令に関するパルスパターンのパルス位相をθ1b〜θ3bとして示している。第1電圧指令と第2電圧指令は、独立に計算するため、電圧位相だけでなく基本波振幅も異なる。
第1の巻線群に対応する第1電圧指令に関するパルスパターンのパルス位相θ1a〜θ3aと、第2の巻線群に対応する第2電圧指令に関するパルスパターンのパルス位相θ1b〜θ3bの設計について説明する。
例として、二重化され1/4サイクルに3回のスイッチングパターンのケースで、5次および7次高調波を低減するパルスパターンのパルス位相を設計する場合、以下の式(6)を満たすパルス位相θ1a、θ2a、θ3a、およびθ1b、θ2b、θ3bを求めることになる。
【0035】
【数6】

【0036】
式(6)は、PWM制御のゲートパルス波形をフーリエ級数展開し、第一の基本波成分が第1変調率mと同じ値で、第二の基本波成分が第2変調率mと同じ値となるようにし、それぞれの5次と7次の項がゼロになる条件を示したものである。式(6)を連立方程式として解き、パルス位相θ1a〜θ3aとパルス位相θ1b〜θ3bを求めることができる。
式(6)において、第1の巻線群に関するパルスパターンのパルス位相と第2の巻線群に関するパルスパターンのパルス位相の差となるΔθ〜Δθを適切に設定することにより、一定のスイッチングタイミングのずれを確保してスイッチングを行うようにすれば高調波成分を低減することが可能である。
なお、Δθ〜Δθは多重巻線型電動機4の各巻線間の位相差等を考慮して決定し、ある一定値の範囲内に収まるようにする。
【0037】
式(6)の例では、5次と7次の高調波成分をゼロにしているが、多重巻線型電動機4の回転速度に応じてそれぞれの高調波成分の周波数が変化するため、あらゆる回転速度において常に5次と7次の成分を低減するのでなく、回転速度によって変えることが有効である。特に多重巻線型電動機4の損失に大きく影響を与える第1電力変換器2および第2電力変換器3の出力電流の高調波成分を低減するよう設定する。
多重巻線型電動機4の回転子の回転速度によってΔθ〜Δθの値を変更してパルス位相θ1a〜θ3aとパルス位相θ1b〜θ3bを演算することで、第1電力変換器2および第2電力変換器3の出力電流の高調波成分の低減効果を大きくすることができる。
また、多重巻線型電動機4が固有の周波数において損失が大きくなる特性を持つ場合は、パルスパターンのパルス位相の設計時に、その周波数近傍の高調波を低減するような設計方法も有効となる。
【0038】
第1ゲートパルス出力部16は、第1電圧指令部11の出力する第1電圧指令Vda、Vqa、第1パルスパターン演算部15が演算し出力するパルスパターンのパルス位相θ1a〜θna、および位置検出器22が検出する磁極位置信号θに基づいて、第1電力変換器2をPWM制御するゲート信号を求める。
同様に、第2ゲートパルス出力部21は、第2電圧指令部17の出力する第2電圧指令Vdb、Vqb、第2パルスパターン演算部20が演算し出力するパルスパターンのパルス位相θ1b〜θnb、および磁極位置信号θが位相補正部23で補正された磁極位置信号θ´に基づいて、第2電力変換器3をPWM制御するゲート信号を求める。
【0039】
第1ゲートパルス出力部16の構成および動作を、図4に基づき説明する。
図4において、第1パルスパターン演算部15からのパルスパターンのパルス位相θ1a〜θnaが入力端子31に入力される。第1電圧指令部11からの直交二相座標系で表された第1電圧指令Vda、Vqaが入力端子32に入力される。多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号θが入力端子33に入力される。
後述する位相角演算部34では、第1電圧指令Vda、Vqaの制御位相角(THV)を演算する。回転子の磁極位置信号θは、位相進み回路35で90°加算される。
位相角演算部34で演算した制御位相角(THV)と磁極位置信号θに対して90°進ませた磁極位置信号は、後述する加算器36で加算され、電圧位相θが出力される。この電圧位相θは、120°位相進み回路37で120°加算され、120°位相遅れ回路38で120°減算される。
U相に関しては、パルス位相θ1a〜θnaと加算器36の出力する電圧位相θのU相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをU相判定回路39で判定される。V相に関しては、パルス位相θ1a〜θnaと120°位相進み回路37の出力する120°進んだ電圧位相θのV相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをV相判定回路40で判定される。W相に関しては、パルス位相θ1a〜θnaと120°位相進遅れ回路38の出力する120°遅れた電圧位相θのW相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをW相判定回路41で判定される。
U相判定回路39の出力に基づき、U相ゲート出力部42は第1電力変換器2を駆動するためのU相電圧信号を増幅し、出力端子45に出力する。V相判定回路40の出力に基づき、V相ゲート出力部43は第1電力変換器2を駆動するためのV相電圧信号を増幅し、出力端子46に出力する。W相判定回路41の出力に基づき、W相ゲート出力部44は第1電力変換器2を駆動するためのW相電圧信号を増幅し、出力端子47に出力する。
【0040】
位相角演算部34では、直交二相座標系の電圧指令V、Vを用いて、
【0041】
【数7】

【0042】
の演算により制御位相角THVを演算する。
また、電圧位相θは、位置センサからの磁極位置信号θまたは補正された磁極位置信号θ´を用いて、
【0043】
【数8】

【0044】
で計算され、加算器36から出力される。
【0045】
第2ゲートパルス出力部21の構成、動作は、先に説明した第1ゲートパルス出力部16と基本的に同じであり、相違点を以下に説明する。
第2パルスパターン演算部20からのパルスパターンのパルス位相θ1b〜θnbが、入力端子31に入力され、第2電圧指令部17からの直交二相座標系で表された第2電圧指令Vdb、Vqbが入力端子32に入力される。多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号θが位相補正部23で補正され、この補正磁極位置信号θ´が入力端子33に入力される。
U相判定回路39の出力に基づき、U相ゲート出力部42は第2電力変換器3を駆動するためU相電圧信号を増幅し、出力端子45に出力する。V相判定回路40の出力に基づき、V相ゲート出力部43は第2電力変換器3を駆動するためV相電圧信号を増幅し、出力端子46に出力する。W相判定回路41の出力に基づき、W相ゲート出力部44は第2電力変換器3を駆動するためW相電圧信号を増幅し、出力端子47に出力する。
【0046】
U相判定回路39、V相判定回路40、およびW相判定回路41では、1/4サイクルに3回のスイッチング(1/2サイクルに7回のスイッチング)のケースでパルス位相θ〜θ(θ1a〜θ3a、θ1b〜θ3b)が入力される場合、式(3)に示した判定を行い、ゲート信号を生成する。1回転周期のスイッチング回数をさらに多くする場合は、パルス位相θ〜θ(θ1a〜θ3a、θ1b〜θ3b)の数が多くなる。
【0047】
第1ゲートパルス出力部16および第2ゲートパルス出力部21により、各々PWM制御された第1電力変換器2および第2電力変換器3が、多重巻線型電動機4のそれぞれの巻線群を駆動する。
【0048】
次に、パルスパターンのパルス位相を演算ではなく、テーブルを参照して求める場合について説明する。
図1において、第1パルスパターン演算部15は、第1変調率と回転速度から第1電力変換器2を制御するパルスパターンのパルス位相を演算し、第2パルスパターン演算部20は、第2変調率と回転速度から第2電力変換器3を制御するパルスパターンのパルス位相を演算して出力する。あらかじめ変調率と回転速度を変数として、パルスパターンのパルス位相を計算した結果をメモリ上のパルス位相テーブルに保存しておき、第1パルスパターン演算部15および第2パルスパターン演算部20でパルスパターンのパルス位相を演算する際に、このパルス位相テーブルを参照することで、パルスパターンのパルス位相を求める。
【0049】
図5は、そのパルス位相テーブルの一例を示したものであり、この例では、回転速度と変調率を変数とした2次元テーブルのそれぞれの欄に第1電力変換器2用と第2電力変換器3用としてn個のパルス位相θ〜θ(θ1a〜θna、θ1b〜θnb)を保存している。
このとき、回転速度は1000[rpm]〜8000[rpm]を1000[rpm]ステップで切り替え、変調率は0.1ステップで切り替えている。
なお、図5において、回転速度1000、2000[rpm]の欄が空欄となっているは、低速度領域では同期PWM制御が難しく、非同期PWM制御を適用する方が適切だからである。
第1パルスパターン演算部15は、図5のパルス位相テーブルから求めたパルス位相θ1a〜θnaを第1ゲートパルス出力部16に出力する。
また、第2パルスパターン演算部20は、図5のパルス位相テーブルから求めたパルス位相θ1b〜θnbを第2ゲートパルス出力部21に出力する。
【0050】
ここで、回転速度および変調率は、連続的に変化する。このため、パルス位相テーブルを参照するときは、回転速度および変調率の値を四捨五入してからパルス位相テーブルのデータを参照するか、パルス位相テーブルのデータを用いて線形外挿して、回転速度および変調率の値に対応したパルス位相の値を求める。
【0051】
上記において、パルスパターンのパルス位相を演算ではなく、パルス位相テーブルを参照して求める場合について説明したが、近似関数を使用して計算することもできる。
例えば、3次関数の式(9)を用いて、近似的にθ〜θを計算することができる。
【0052】
【数9】

【0053】
ここで、a〜a、b〜b、c〜c、あるいはd〜dは、あらかじめ設定された係数である。
したがって、第1パルスパターン演算部15は、あらかじめ設定されたa1a〜a3a、b1a〜b3a、c1a〜c3a、d1a〜d3aを使用して、近似式(9)を用いて、このパルスパターンのパルス位相θ1a〜θ3aを計算し、第1ゲートパルス出力部16に出力する。
また、第2パルスパターン演算部20は、あらかじめ設定されたa1b〜a3b、b1b〜b3b、c1b〜c3b、d1b〜d3bを使用して、近似式(9)を用いて、パルスパターンのパルス位相θ1b〜θ3bを計算して第2ゲートパルス出力部21に出力する。
【0054】
本願発明の実施の形態1では、多重巻線型電動機として2つの巻線群を有する三相交流電動機を例として説明を行ったが、本発明は多群多相電動機を対象としており、特に相数や巻線群の数が限定されるものではない。また対象となる多重巻線型電動機は永久磁石型同期電動機でも誘導電動機でもいずれの電動機でもよい。また、高調波を低減する方法はさまざまな設計方法が考えられるが、本願発明は電力変換器制御装置が用いるパルスパターンのパルス位相の設計方法として、フーリエ級数展開した多項式を使用する方法に限定されるものではない。
【0055】
以上説明したように、実施の形態1に係る電力変換器制御装置1は、多重巻線型電動機の回転子の磁極位置を検出する位置検出器と、多重巻線型電動機の巻線群に対応した電圧指令を発生する電圧指令部と、電圧指令から変調率を演算する変調率演算部と、磁極位置信号から多重巻線型電動機の回転速度を演算する速度演算部と、変調率と電動機の回転速度とに基づき電力変換器のパルスパターンを演算するパルスパターン演算部と、電圧指令とパルスパターンと磁極位置信号に基づき電力変換器を駆動するゲートパルス出力部とから構成されるため、電力変換器で発生するスイッチングに伴う損失を抑え、かつ電力変換器で発生する複数の低次の高調波成分を低減することを可能とする効果がある。
【0056】
また、パルスパターン演算部におけるパルスパターンの演算を、パルス位相データをあらかじめ計算して保存したパルス位相テーブルを参照して行うか、あるいは近似式を用いて行うことでパルスパターン演算部における演算を簡素化することができる。
【0057】
さらに、パルスパターン演算部でのパルスパターンの演算を、電力変換器の出力電流の特定の高調波成分を低減するパルスパターンのパルス位相の演算とすることで、高調波成分の低減効果を大きくすることができる。
【0058】
実施の形態2.
実施の形態2に係る電力変換器制御装置51は、実施の形態1とは異なり、直交二相座標系の電圧指令V、Vを多重巻線型電動機の複数の巻線群に対して共通化し、多重巻線型電動機の各巻線群に対応した各々別のパルスパターンのパルス位相により第1および第2電力変換器をPWM制御する構成としたものである。
以下、本願発明の実施の形態2について、電力変換器制御装置51に係るシステム構成図である図6、多重ゲートパルス出力部のブロック図である図7に基づいて説明する。
【0059】
まず、本願発明の実施の形態2に係る電力変換器制御装置51を含む全体システム構成について説明する。
図6は、実施の形態2に係る電力変換器制御装置51に係るシステム構成図である。図6において、図1と同一あるいは相当部分には、同一の符号を付している。
図6は、実施の形態1と同様、例として2つの巻線群を有する多重巻線型電動機に対応する二重化した電力変換器制御装置のシステム構成を示している。
図6において、システム全体は、二重化した電力変換器制御装置51、第1電力変換器2、第2電力変換器3および多重巻線型電動機4から構成される。
第1電力変換器2および第2電力変換器3は、後で説明する電力変換器制御装置51の制御ブロック53内の多重ゲートパルス出力部から出力されるPWM制御信号で制御される。
また、多重巻線型電動機4は、電力変換器制御装置51の制御に使用する回転子の磁極位置を検出するための位置検出器22を備えている。
【0060】
次に、電力変換器制御装置51の構成について説明する。
電力変換器制御装置51は、多重巻線型電動機4の第1の巻線群に対応する第1電力変換器2およびの多重巻線型電動機4の第2の巻線群に対応する第2電力変換器3の制御に共通に関わる電圧指令部52と制御ブロック53と、さらに位置検出器22から構成される。
【0061】
制御ブロック53について説明する。
電圧指令部52では、図示されていない外部からトルク指令あるいは速度指令が入力され、この指令に基づき、直交二相座標系で表された電圧指令を生成し、変調率演算部54と多重ゲートパルス出力部56に出力する。変調率演算部54では、電圧指令部52からの電圧指令に基づき、変調率を演算し、多重パルスパターン演算部55に出力する。
多重巻線型電動機4に備えられた位置検出器22で検出された多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号は、速度演算部14と多重ゲートパルス出力部56に出力される。
速度演算部14では、多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号から多重巻線型電動機4の回転速度を演算し、多重パルスパターン演算部55に出力する。
多重パルスパターン演算部55では、変調率演算部54からの変調率および速度演算部14からの多重巻線型電動機4の回転子の回転速度に基づき、第1電力変換器2および第2電力変換器3の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンを演算して、多重ゲートパルス出力部56に出力する。
多重ゲートパルス出力部56では、電圧指令部52からの電圧指令と多重パルスパターン演算部55からのパルスパターンと位置検出器22からの多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号とに基づき、第1電力変換器2および第2電力変換器3をPWM制御する。
【0062】
次に、本発明の実施の形態2に係る電力変換器制御装置51の動作について、図6、図7に基づいて実施の形態1に係る電力変換器制御装置1との差異を中心に説明する。
図6において、電圧指令部52では、外部からのトルク指令あるいは速度指令に基づき、直交二相座標系で表された電圧指令V、Vが生成される。この電圧指令は多重巻線型電動機4の各巻線群に共通の電圧指令である。
【0063】
変調率演算部54では、電圧指令部52からの電圧指令V、Vに基づき、変調率mの演算を式(1)で行う。
速度演算部14は、位置検出器22からの回転子の磁極位置信号(電気角位置信号)θから式(2)で電気角回転速度ωを計算し、多重パルスパターン演算部55に出力する。
多重パルスパターン演算部55では、変調率演算部54で演算した変調率mと電気角回転速度ωに基づいて、第1電力変換器2と第2電力変換器3の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを決定する2種類のパルスパターンのパルス位相θ1a〜θnaおよびθ1b〜θnbを演算して、多重ゲートパルス出力部56へ出力する。
多重ゲートパルス出力部56は、電圧指令V、V、多重パルスパターン演算部55が出力するパルス位相θ1a〜θna、θ1b〜θnb、および位置検出器22からの位相情報θからゲート信号を生成し、第1電力変換器2と第2電力変換器3をPWM制御する。
【0064】
多重ゲートパルス出力部56の構成および動作を、図7に基づいて説明する。図7において、図4と同一あるいは相当部分には、同一の符号を付している。
多重パルスパターン演算部55からのパルスパターンのパルス位相θ1a〜θnaが入力端子31に、パルス位相θ1b〜θnbが入力端子57に入力される。電圧指令部52からの直交二相座標系で表された電圧指令V、Vが入力端子32に入力される。多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号θが入力端子33に入力される。
位相角演算部34では、第1電圧指令V、Vの制御位相角(THV)を式(7)で演算する。回転子の磁極位置信号θは、位相進み回路35で90°加算される。
位相角演算部34で演算した制御位相角(THV)と磁極位置信号θに対して90°進ませた磁極位置信号は、式(8)により加算器36で加算され、電圧位相θが出力される。
【0065】
まず、第1電力変換器2をPWM制御するU相〜W相ゲート出力部42〜44関連について説明する。
加算器36の出力である電圧位相θは、120°位相進み回路37で120°加算され、120°位相遅れ回路38で120°減算される。
U相に関しては、パルス位相θ1a〜θnaと加算器36の出力する電圧位相θのU相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをU相判定回路39で判定される。V相、W相も同様に、V相判定回路40、W相判定回路41で判定される。
U相判定回路39の出力に基づき、U相ゲート出力部42は第1電力変換器2を駆動するためのU相電圧信号を増幅し、出力端子45に出力する。V相、W相も同様に、V相ゲート出力部43、W相ゲート出力部44は第1電力変換器2を駆動するためのV相電圧信号、W相電圧信号を増幅し、出力端子46、47に出力する。
【0066】
次に、第2電力変換器3をPWM制御するU相〜W相ゲート出力部64〜66関連について説明する。
位相補正部58では、加算器36の出力である電圧位相θに対して、多重巻線型電動機4の2つの巻線群の巻線位置の構造的角度差である電動機固有の値で補正を行う。この補正された電圧位相θ´(以下、補正電圧位相θ´という)は、120°位相進み回路59で120°加算され、120°位相遅れ回路60で120°減算される。
U相に関しては、パルス位相θ1b〜θnbと位相補正部58が出力する電圧位相θ´のU相との相対関係比較から、スイッチングのオン・オフをU相判定回路61で判定される。V相に関しては、パルス位相θ1b〜θnbと120°位相進み回路59の出力する120°進んだ補正電圧位相θ´のU相との相対関係比較から、スイッチングのオン・オフをV相判定回路62で判定される。W相に関しては、パルス位相θ1b〜θnbと120°位相遅れ回路60の出力する120°遅れた補正電圧位相θ´のW相との相対関係比較から、スイッチングのオン・オフをW相判定回路63で判定される。
U相判定回路61の出力に基づき、U相ゲート出力部64は第2電力変換器3を駆動するためのU相電圧信号を増幅し、出力端子67に出力する。V相判定回路62の出力に基づき、V相ゲート出力部65は第2電力変換器3を駆動するためのV相電圧信号を増幅し、出力端子68に出力する。W相判定回路63の出力に基づき、W相ゲート出力部66は第2電力変換器3を駆動するためのW相電圧信号を増幅し、出力端子69に出力する。
【0067】
以上説明したように、実施の形態2に係る電力変換器制御装置51は、多重巻線型電動機の巻線群に対応した電圧指令を発生する電圧指令部と、電圧指令から変調率を演算する変調率演算部と、変調率と電動機の回転速度とに基づき電力変換器のパルスパターンを演算するパルスパターン演算部と、電圧指令とパルスパターンと磁極位置信号に基づき電力変換器を駆動するゲートパルス出力部とを共通化あるいは統合化した構成としているため、実施の形態1に比較して簡素な構成で、電力変換器で発生するスイッチングに伴う損失を抑え、かつ電力変換器で発生する複数の低次の高調波成分を低減することを可能とする効果がある。
【0068】
さらに、パルスパターン演算部でのパルスパターンの演算を、電力変換器の出力電流の特定の高調波成分を低減するパルスパターンのパルス位相の演算とすることで、高調波成分の低減効果を大きくすることができる。
【0069】
実施の形態3.
実施の形態3の電力変換器制御装置は、実施の形態2に係る電力変換器制御装置51に対して、多重巻線型電動機の巻線群の巻線位置の構造的角度差の補正を行わず多重パルス出力部の共通化を図り、多重巻線型電動機の巻線群に対応した各々別のパルスパターンのパルス位相により第1および第2電力変換器をPWM制御する構成としたものである。
実施の形態3においても、実施の形態1、2と同様、2つの巻線群を有する多重巻線型電動機に対応する二重化した電力変換器制御装置のシステム構成を想定している。
【0070】
以下、実施の形態3の電力変換器制御装置は、実施の形態2の電力変換器制御装置51と異なる点は、多重ゲートパルス出力部の構成のみであるため、多重ゲートパルス出力部の構成および動作を多重ゲートパルス出力部70のブロック図である図8に基づいて説明する。
図8において、図7と同一あるいは相当部分には、同一の符号を付している。
【0071】
多重パルスパターン演算部55からのパルスパターンのパルス位相θ1a〜θnaが入力端子31に、パルス位相θ1b〜θnbが入力端子57に入力される。電圧指令部52からの直交二相座標系で表された電圧指令V、Vが入力端子32に入力される。多重巻線型電動機4の回転子の磁極位置信号θが入力端子33に入力される。
位相角演算部34では、第1電圧指令V、Vの制御位相角(THV)を式(7)で演算する。回転子の磁極位置信号θは、位相進み回路35で90°加算される。
位相角演算部34で演算した制御位相角(THV)と磁極位置信号θに対して90°進ませた磁極位置信号は、式(8)により加算器36で加算され、電圧位相θが出力される。
【0072】
まず、第1電力変換器2をPWM制御するU相〜W相ゲート出力部42〜44関連について説明する。
加算器36の出力である電圧位相θは、120°位相進み回路37で120°加算され、120°位相遅れ回路38で120°減算される。
U相に関しては、パルス位相θ1a〜θnaと加算器36の出力する電圧位相θのU相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをU相判定回路39で判定される。V相、W相も同様に、V相判定回路40、W相判定回路41で判定される。
U相判定回路39の出力に基づき、U相ゲート出力部42は第1電力変換器2を駆動するためのU相電圧信号を増幅し、出力端子45に出力する。V相、W相も同様に、V相ゲート出力部43、W相ゲート出力部44は第1電力変換器2を駆動するためのV相電圧信号、W相電圧信号を増幅し、出力端子46、47に出力する。
【0073】
次に、第2電力変換器3をPWM制御するU相〜W相ゲート出力部74〜76関連について説明する。
実施の形態3では、実施の形態2のように位相補正部を設けていないために、加算器36で計算された電圧位相θを補正せずにそのまま用いる。
U相に関しては、パルス位相θ1b〜θnbと電圧位相θのU相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをU相判定回路71で判定される。V相に関しては、パルス位相θ1b〜θnbと120°位相進み回路37の出力する120°進んだ補正電圧位相θのV相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをV相判定回路72で判定される。W相に関しては、パルス位相θ1b〜θnbと120°位相遅れ回路38の出力する120°遅れた電圧位相θのW相との相対関係比較からスイッチングのオン・オフをW相判定回路73で判定される。
U相判定回路71の出力に基づき、U相ゲート出力部74は第2電力変換器3を駆動するためのU相電圧信号を増幅し、出力端子77に出力する。V相判定回路72の出力に基づき、V相ゲート出力部75は第2電力変換器3を駆動するためのV相電圧信号を増幅し、出力端子78に出力する。W相判定回路73の出力に基づき、W相ゲート出力部76は第2電力変換器3を駆動するためのW相電圧信号を増幅し、出力端子79に出力する。
【0074】
以上説明したように、実施の形態3に係る電力変換器制御装置は、多重巻線型電動機の巻線群に対応した電圧指令を発生する電圧指令部と、電圧指令から変調率を演算する変調率演算部と、変調率と電動機の回転速度とに基づき電力変換器のパルスパターンを演算するパルスパターン演算部と、電圧指令とパルスパターンと磁極位置信号に基づき電力変換器を駆動するゲートパルス出力部とをさらに共通化あるいは統合化した構成としているため、実施の形態2に比較してより簡素な構成で、電力変換器で発生するスイッチングに伴う損失を抑え、かつ電力変換器で発生する複数の低次の高調波成分を低減することを可能とする効果がある。
【0075】
さらに、パルスパターン演算部でのパルスパターンの演算を、電力変換器の出力電流の特定の高調波成分を低減するパルスパターンのパルス位相の演算とすることで、高調波成分の低減効果を大きくすることができる。
【符号の説明】
【0076】
1,51 電力変換器制御装置、2 第1電力変換器、3 第2電力変換器、
4 多重巻線型電動機、11 第1電圧指令部、13 第1変調率演算部、
14 速度演算部、15 第1パルスパターン演算部 、
16 第1ゲートパルス出力部、17 第2電圧指令部、19 第2変調率演算部、
20 第2パルスパターン演算部、21 第2ゲートパルス出力部、
22 位置検出器、23,58 位相補正部、52 電圧指令部、54 変調率演算部、55 多重パルスパターン演算部、56,70 多重ゲートパルス出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線群を備えた多重巻線型電動機を駆動するために各巻線群に接続された複数の電力変換器を制御する電力変換器制御装置において、
前記多重巻線型電動機の回転子の磁極位置を検出する位置検出器と、
前記多重巻線型電動機の前記巻線群に対応した電圧指令を発生する電圧指令部と、
前記電圧指令部で発生した電圧指令から変調率を演算する変調率演算部と、
前記位置検出器からの磁極位置信号から前記多重巻線型電動機の回転速度を演算する速度演算部と、
前記変調率演算部で演算した変調率と前記速度演算部で演算した前記多重巻線型電動機の回転速度とに基づき、前記電力変換器のスイッチング素子のスイッチングタイミングを決定するスイッチングパルスのパルスパターンを演算するパルスパターン演算部と、
前記電圧指令と前記パルスパターン演算部で演算した前記パルスパターンと前記磁極位置信号に基づき、前記電力変換器を駆動するゲートパルス出力部と
から構成される電力変換器制御装置。
【請求項2】
前記パルスパターン演算部でのパルスパターンの演算を、あらかじめ変調率と回転速度を変数として計算した結果を保存したパルス位相テーブルを参照して行う請求項1に記載の電力変換器制御装置。
【請求項3】
前記パルスパターン演算部でのパルスパターンの演算を、近似式を用いて行う請求項1に記載の電力変換器制御装置。
【請求項4】
前記位置検出器からの前記磁極位置信号に基づいて、前記多重巻線型電動機の各巻線群の構造的角度差を補正する位相補正部を備えた請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の電力変換器制御装置。
【請求項5】
前記多重巻線型電動機の複数の巻線群に対して、前記電圧指令部を共通化し、さらに前記パルスパターン演算部と前記ゲートパルス出力部を各々多重パルスパターン演算部および多重ゲートパルス出力部として統合した請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の電力変換器制御装置。
【請求項6】
前記位置検出器からの前記磁極位置信号に基づいて、前記多重巻線型電動機の各巻線群の構造的角度差を補正する位相補正部を備えた請求項5に記載の電力変換器制御装置。
【請求項7】
前記パルスパターン演算部でのパルスパターンの演算は、前記複数の電力変換器の出力電流の特定の高調波成分を低減するパルスパターンのパルス位相の演算である請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の電力変換器制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−5604(P2013−5604A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134751(P2011−134751)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】