説明

電力変換装置および電源システム

【課題】コストを抑えながらも正負の直流成分に対応可能であり、電流の流れる経路に回路素子を追加せずにトランスの偏磁を抑止(低減を含む)できる電力変換装置および電源システムを提供する。
【解決手段】電源システム10に含まれる電力変換装置20は、トランスTr1の二次端子から出力される二次電圧Vs1,Vs2(交流電力)を整流するダイオードD11,D12と、ダイオードD11,D12(二以上の整流部)によって整流される直流電圧(直流電力)を個別かつ経時的に積分して求められる電圧時間積を出力する積分部22,23と、二以上の電圧時間積にかかる偏差量ΔTPを検出する偏差量検出部24と、偏差量検出部24によって検出される偏差量ΔTPに基づいて、当該偏差量ΔTPがゼロになるように操作信号を変化させる制御を行う操作信号制御部21とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子やトランスを少なくとも含む電力変換装置と、当該電力変換装置を含む電源システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、変圧器に空隙を設ける必要がなく回路の制御技術により偏磁現象を防止することを目的とした偏磁防止回路に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。この偏磁防止回路は、インバータ回路の出力に変換素子(S1〜S4)の特性に起因する正の直流成分が生じたとき、インバータ回路の交流出力が負となる反周期毎に変換素子(S1〜S4)を作動させるパルス信号の時間幅を上記正の直流成分の大きさに応じて大きくする(同文献の段落0033を参照)。
【0003】
また、簡単安価な構成で偏磁による飽和現象を抑制することを目的とした高周波変圧器の偏磁防止回路に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献2を参照)。この高周波変圧器の偏磁防止回路は、可変抵抗(32)とコンデンサ(33)とからなるCR回路およびAND回路(34)を備えるTd作成回路(31)である。Td作成回路(31)は、CR回路がゲート信号に対して遅れ時間要素として働くので、U相とY相がオンするタイミングの遅れ時間(Td1)と、負の電圧を発生するV相とX相がオンするタイミングの遅れ時間(Td2)とを個別に調整することで正負のオン時間幅の差(Δt)が零となるようにあらかじめ調整しておく(同文献の段落0020−0022を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−098559号公報
【特許文献2】特許第3501548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術を適用して、変換素子(S1〜S4)の特性に起因する負の直流成分が生じる場合には、変圧器の偏磁を抑止できない。すなわち、特許文献1の図1に示す回路構成では、変換素子(S1〜S4)を作動させるパルス信号の時間幅を当該負の直流成分の大きさに応じて大きくできないためである。変換素子(S1〜S4)の特性に起因する正と負の直流成分にそれぞれ対応することも可能であるが、正と負の各直流成分に応じた偏磁防止回路が必要になるのでコスト高になる。
【0006】
また、特許文献2の技術では、第1の電流センサ(10)によって変圧器(4)の二次側回路を流れる電流(I)を検出している(特許文献2の図4を参照)。このように一の電流センサからの直流偏差信号を用いる場合には、コスト・体格面で抑制することができる。その反面、パルス駆動タイミングとの連携による電流センサ信号の分離が必要であり、回路構成の複雑化を招きやすい。一般的に、電流は電圧に比べて測定回路が複雑になり易いという傾向がある。そのため、特許文献2の技術を絶縁型の電力変換装置に適用しようとすると、電流を絶縁して測定する必要があるため、電流の測定が煩雑になり易い。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、コストを抑えながらも正負の直流成分に対応可能であり、電流の流れる経路に回路素子を追加せずにトランスの偏磁を抑止(低減を含む)できる電力変換装置および電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、操作信号に基づいてスイッチングを行うスイッチング素子と、前記スイッチング素子を一次端子に電気的に接続するトランスとを少なくとも含む電力変換装置において、前記トランスの二次端子から出力される交流電力を整流する二以上の整流部と、前記二以上の整流部によって整流される直流電力を個別かつ経時的に積分して求められる電力時間積を出力する積分部と、前記二以上の電力時間積にかかる偏差量を検出する偏差量検出部と、前記偏差量検出部によって検出される偏差量に基づいて、当該偏差量がゼロになるように前記操作信号を変化させる制御を行う操作信号制御部とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、整流部ごとに整流される各直流電力の電力時間積を個々に積分部が求め、当該電力時間積の偏差量(すなわち差分量)を偏差量検出部が検出する。こうして検出される偏差量に基づいて、操作信号制御部は偏差量がゼロになるように操作信号を変化させる制御を行う。偏差量がゼロになれば、直流電力の電力時間積が等しくなり、トランスの偏磁を抑止(低減を含む)することができる。個々の整流部を正負の直流電力に対応させることで、正負にかかわらずトランスの偏磁を抑止することができる。電流の流れる経路に回路素子を追加することなく、トランスの二次端子から出力される交流電力の正負に対応した整流部を備えるだけでよいので、装置全体のコストを抑えることができる。
【0010】
なお「スイッチング素子」は、上下アームで直列接続される二のスイッチング素子を含み、スイッチング動作が可能な任意の半導体素子を適用できる。例えば、FET(具体的にはMOSFET,JFET,MESFET等)、IGBT、GTO、パワートランジスタなどが該当する。「電力」には、電圧制御による電力と、電流制御による電力とを含む。よって、「電力時間積」には電圧時間積と電流時間積とを含む。「整流部」は整流回路や整流器等によって構成され、半波整流と全波整流とを含む。「操作信号」は、スイッチング素子のスイッチング動作を可能な信号であれば種類を問わず任意である。スイッチング素子をオンにするオン信号と、スイッチング素子をオフにするオフ信号とを含む。例えば、パルス信号のほか、アナログ信号やデジタル信号等が該当する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記操作信号制御部は、前記スイッチング素子をオン/オフする期間の比を示すデューティ比を変化させることを特徴とする。この構成によれば、電力時間積の偏差量がゼロになるように、操作信号のデューティ比を変化させて操作信号をスイッチング素子に伝達すればよい。既存の制御方法を利用できるので、装置全体のコストを抑えることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、二以上の前記スイッチング素子を有し、前記操作信号制御部は、一の前記スイッチング素子にかかる前記デューティ比が所定比値に達すると、他の前記スイッチング素子にかかる前記デューティ比を変化させることを特徴とする。「所定比値」は、デューティ比にかかる制御可能な最大値や最小値等を含み、電力変換装置の構成(例えばスイッチング素子の種類や、制御する電圧や電流等)に応じて適切な数値を設定するのが望ましい。スイッチング素子のスイッチング動作が不安定になる点を考慮すると、デューティ比を変化させることができる範囲は限定される。この構成によれば、出力しようとする操作信号に含まれるデューティ比が所定比値に達すると、一のスイッチング素子にかかるデューティ比のほか、他のスイッチング素子にかかるデューティ比も変化させる。所定比値を超えない範囲で複数のスイッチング素子にかかるデューティ比を変化させるので、複数のスイッチング素子を安定的に動作させ、しかもトランスの偏磁を抑止することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、二以上の前記スイッチング素子を有し、前記操作信号制御部は、連携して操作する対象となる二の前記スイッチング素子に対して、一の前記スイッチング素子にオフ信号を与えてから他の前記スイッチング素子にオン信号を与えるまで第1デッドタイムの長さを変化させることを特徴とする。この構成によれば、電力時間積の偏差量がゼロになるように、連携して操作する対象となる一のスイッチング素子から他のスイッチング素子に連携する第1デッドタイムの長さを変化させて操作信号をスイッチング素子に伝達すればよい。既存の制御方法を利用できるので、装置全体のコストを抑えることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記操作信号制御部は、前記第1デッドタイムの長さが所定長値に達すると、連携して操作する対象となる二の前記スイッチング素子とは別個の二の前記スイッチング素子に対して、一の前記スイッチング素子にオフ信号を与えてから他の前記スイッチング素子にオン信号を与えるまで第2デッドタイムの長さを変化させることを特徴とする。この構成によれば、出力しようとする操作信号に含まれる第1デッドタイムが所定長値に達すると、第1デッドタイムのほかに第2デッドタイムも変化させる。所定長値を超えない範囲で複数のスイッチング素子にかかる第1デッドタイムや第2デッドタイムを変化させるので、複数のスイッチング素子を安定的に動作させ、しかもトランスの偏磁を抑止することができる。
【0015】
なお「連携して操作する対象となる二の前記スイッチング素子」は、直列接続されるスイッチング素子を意味する。「所定長値」は、デッドタイムの長さについて制御可能な最大値や最小値等を含み、電力変換装置の構成(例えばスイッチング素子の種類や、制御する電圧や電流等)に応じて適切な数値を設定するのが望ましい。スイッチング素子のスイッチング動作が不安定になる点を考慮すると、デッドタイムの長さを変化させることができる範囲は限定される。
【0016】
請求項6に記載の発明は、電源システムにおいて、請求項1から5のいずれか一項に記載の電力変換装置を有し、前記二以上の整流部の出力端子を電気的に接続する接続部と、前記接続部における直流電力の交流成分を低減するフィルタ部とを有することを特徴とする。この構成によれば、コストを抑えながらも正負の直流成分に対応可能であり、電流の流れる経路に回路素子を追加することなくトランスの偏磁を抑止できる電源システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電力変換装置を含む電源システムの第1構成例を示す模式図である。
【図2】操作信号処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】トランスの偏磁を抑止する第1制御例を示すタイムチャートである。
【図4】トランスの偏磁を抑止する第2制御例を示すタイムチャートである。
【図5】トランスの偏磁を抑止する第3制御例を示すタイムチャートである。
【図6】トランスの偏磁を抑止する第4制御例を示すタイムチャートである。
【図7】トランスの偏磁を抑止する第5制御例を示すタイムチャートである。
【図8】電力変換装置を含む電源システムの第2構成例を示す模式図である。
【図9】スイッチング部の他の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、特に明示しない限り、「接続する」という場合には電気的な接続を意味する。各図は、本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示してはいない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。連続符号は記号「〜」を用いて簡略表記する。例えば「スイッチング素子Q1〜Q4」は、「スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4」を意味する。
【0019】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は、電圧制御による電力に基づいて、トランスの偏磁を抑止する例であって、図1〜図7を参照しながら説明する。まず、図1には電力変換装置を含む電源システムの第1構成例を模式図で示す。なお、模式図に含まれる回路は本発明を実現するために必要な主要部を示す(後述する図8でも同様である)。
【0020】
図1に示す電源システム10は、いわゆる「DC−DCコンバータ」であって、電力源Edc(例えばバッテリや燃料電池等)から供給される直流電圧(例えば300[V]等)を目的の電圧(例えば12[V]等)に変換して出力機器30に出力する機能を担う。この電源システム10は、電力変換装置20を含むとともに、チョークコイルL10、コンデンサC10,C11、ダイオードD11,D12、フィルタ部12などを有する。
【0021】
直流電圧(「直流電力」に相当する)を供給する電力源Edcには、例えばバッテリや燃料電池が用いられる。電力源Edcのプラス端子とマイナス端子とは、チョークコイルL10やコンデンサC10を経て、電力変換装置20に接続される。チョークコイルL10は入力フィルタとして機能する。コンデンサC10は、直流電圧の充放電を繰り返し行う。残りのダイオードD11,D12、コンデンサC11およびフィルタ部12等を説明する前に、説明の都合上、電力変換装置20の構成や作用等について以下に説明する。
【0022】
電力変換装置20は、いわゆる「インバータ」であって、電力源Edcから供給される直流電圧を交流電圧(「交流電力」に相当する)に変換して出力する機能を担う。この電力変換装置20は、スイッチング素子Q1〜Q4、ダイオードD1〜D4、トランスTr1、ダイオードD21,D22、操作信号制御部21、積分部22,23、偏差量検出部24などを有する。
【0023】
スイッチング素子Q1〜Q4は、後述する操作信号制御部21から個別に伝達される操作信号に従ってオン/オフが駆動される。本形態のスイッチング素子Q1〜Q4には、例えばそれぞれNチャネルMOSFETを用いる。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q3とは上下アームで直列接続され、スイッチング素子Q2とスイッチング素子Q4とは上下アームで直列接続される。スイッチング素子Q1,Q3の組と、スイッチング素子Q2,Q4の組とは並列接続される。スイッチング素子Q1(ソース端子)とスイッチング素子Q3(ドレイン端子)との接続点は、トランスTr1の一次端子(一端側)に接続される。同様に、スイッチング素子Q2(ソース端子)とスイッチング素子Q4(ドレイン端子)との接続点は、トランスTr1の一次端子(他端側)に接続される。
【0024】
ダイオードD1〜D4は、スイッチング素子Q1〜Q4にそれぞれ対応して並列接続され、フリーホイールダイオードとして機能すればよい。そのため、スイッチング素子Q1〜Q4に内蔵されたものでもよく、外付けしたものでもよい。
【0025】
トランスTr1には、例えば上記一次端子のほかに二次端子として少なくとも三端子を有し、中間端子(中間タップ)の電位を基準として二相の電圧を出力するタイプのものを用いる。この中間端子の電位を基準として、一方側の二次端子には正の二次電圧Vs1が出力され、他方側の二次端子には負の二次電圧Vs2が出力される。各電圧を絶対値で見るとき、|Vs1|=|Vs2|が望ましいが、|Vs1|≠|Vs2|でもよい。二次電圧Vs1,Vs2はそれぞれ「交流電力」に相当する。
【0026】
二次電圧Vs1が生じる一方側の二次端子は、偏差量検出部24のマイナス端子との間に、ダイオードD22と積分部23が直列接続される。二次電圧Vs2が生じる他方側の二次端子は、偏差量検出部24のプラス端子との間に、ダイオードD21と積分部22が直列接続される。
【0027】
積分部22,23は、それぞれダイオードD21,D22で整流された直流電圧を積分して積分値を個別に出力する機能を担う。この積分値は、二次電圧Vs1,Vs2が印加される時間に応じて変化する値であるので、以下では「電圧時間積」と呼ぶ。本形態の積分部22,23は、いずれもコストを低く抑えるために、抵抗器とコンデンサとで構成する。この構成では、時定数が大きくなるように抵抗値や容量値を調整するのが望ましい。図示するように、コンデンサの一端側を抵抗器に接続し、同じく他端側をグラウンドNに接続する。なお、グラウンドNの電位は必ずしも0[V]とは限らない。
【0028】
偏差量検出部24は、二次電圧Vs1に基づく電圧時間積と、二次電圧Vs2に基づく電圧時間積との偏差量ΔTP(すなわち差分値)を検出して出力する。本形態の偏差量検出部24には、例えば差動増幅器(例えばオペアンプを用いた差動増幅回路など)を用いる。具体的には、二次電圧Vs1に基づく電圧時間積をマイナス端子に入力し、二次電圧Vs2に基づく電圧時間積をプラス端子に入力する。増幅率を「1」と仮定した場合には、差分値(Vs2−Vs1)を偏差量ΔTPとして出力する。
【0029】
操作信号制御部21は、ドライブ回路21aや制御回路21bなどを有する。この操作信号制御部21は、上述した偏差量ΔTPに基づいて、当該偏差量ΔTPがゼロになるように操作信号を変化させる制御を行う。操作信号は、スイッチング素子Q1〜Q4に対して個別に伝達してオン/オフさせる信号である。本形態の操作信号には、例えばパルス信号を用いる。制御回路21bは、電力変換装置20の全体の動作を司る。本発明を実現するにあたり、制御回路21bは偏差量検出部24から伝達される偏差量ΔTPがゼロになるようにドライブ回路21aを駆動する指令信号Vc*を出力する。ドライブ回路21aは、制御回路21bから伝達される指令信号Vc*に基づいて、上述した操作信号(パルス信号)を生成してスイッチング素子Q1〜Q4に個別に出力する。
【0030】
上述のように構成された電力変換装置20は、トランスTr1から中間端子の電位を基準とする二相の二次電圧Vs1,Vs2を出力する。電源システム10では、トランスTr1の中間端子をグラウンドNに接続する。二相全波整流を行うため、二次電圧Vs1をダイオードD11で整流し、二次電圧Vs2をダイオードD12で整流し、双方の整流後に接続部Jで接続(直結)する。ダイオードD11,D12はそれぞれ「整流部」に相当する。接続部Jでは整流された直流電圧が合成されるに過ぎないので、コンデンサC11によって平滑化し、フィルタ部12によって非直流成分(例えば高周波成分や脈動等)を除去する。フィルタ部12は、リアクトルL12(コイル)やコンデンサC12などを有する。こうして安定化された直流電圧は、出力機器30に出力される。出力機器30には、所定の直流電圧を必要とする任意の機器を適用できる。
【0031】
上述した電源システム10に含まれるトランスTr1に偏磁が生じる場合において、当該偏磁を抑止(低減を含む)ための制御例について、図2を参照しながら説明する。図2には、操作信号処理の一例をフローチャートで示す。この操作信号処理は、図1に示す制御回路21bが行う制御処理の一つであり、当該制御回路21bが作動する間において繰り返し実行される。なお、制御回路21bはスイッチング素子Q1〜Q4のスイッチングを行うために指令信号Vc*を出力するので、現時点でどのスイッチング素子をオン/オフさせている状態や、スイッチング素子ごとの周期などを当然に把握している。
【0032】
図2に示す操作信号処理では、偏差量ΔTPを入力するタイミングに達していない場合には(ステップS10でNO)、操作信号処理をリターンする。一方、偏差量ΔTPを入力するタイミングに達すると(ステップS10でYES)、偏差量検出部24から偏差量ΔTPを入力する〔ステップS11〕。「偏差量ΔTPを入力するタイミング」は任意に設定可能であり、例えばスイッチング素子Q1〜Q4のうちで特定のスイッチング素子にかかる1周期ごとなどが該当する。
【0033】
もしステップS11で入力した偏差量ΔTPがゼロならば(ステップS12でYES)、トランスTr1には偏磁が生じていないので、操作信号処理をリターンする。一方、入力した偏差量ΔTPがゼロでなければ(ステップS12でNO)、当該偏差量ΔTPがゼロになるように操作信号を変化させる〔ステップS13〕。具体的には、一のスイッチング素子に対して、(a)スイッチング素子間のデッドタイムの長さを変化させたり、(b)パルス信号のデューティ比を変化させる。これらの変化の具体例については、後述する操作信号制御例1〜4で説明する(図3〜図6を参照)。
【0034】
ステップS13で操作信号を変化させる場合において、操作信号の変化が限界値を超えなければ(ステップS14でNO)、操作信号処理をリターンする。フローチャート上の「限界値」は、デッドタイムの長さについて「所定長値」に相当し、パルス信号のデューティ比について「所定比値」に相当する。所定長値や所定比値には、電力変換装置20にかかる適切な数値を設定する。
【0035】
一方、操作信号の変化が限界値を超える場合には(ステップS14でYES)、ステップS13で対象となるスイッチング素子に加えて、他のスイッチング素子についても操作信号を変化させたうえで〔ステップS15〕、操作信号処理をリターンする。すなわちステップS15では、スイッチング素子Q1〜Q4のうちで二以上のスイッチング素子について操作信号を変化させることで、偏差量ΔTPがゼロになるようにする。
【0036】
「操作信号の変化が限界値を超える場合」について、直列接続されるスイッチング素子Q1,Q3を例に説明する。スイッチング素子Q1,Q3が同時にオンすると、電力源Edcを短絡することになるので回避する必要がある。よって、デッドタイムの長さやデューティ比を変化させることにより、スイッチング素子Q1,Q3が同時にオンするような事態となる場合が「操作信号の変化が限界値を超える場合」に該当する。また、操作信号制御部21からスイッチング素子Q1〜Q4に操作信号を伝達しても、信号伝達を受けたスイッチング素子にかかるオン/オフの状態が実際に変化するまでにはタイムラグが少なからず存在する。このタイムラグに伴ってスイッチング素子Q1,Q3が同時にオンするような事態となる場合もまた「操作信号の変化が限界値を超える場合」に該当する。これらの制限は、同様に直列接続されるスイッチング素子Q2,Q4についても当てはまる。
【0037】
図2に示す操作信号処理を実行し、スイッチング素子Q1〜Q4に伝達する操作信号を変化させて、トランスTr1の偏磁を抑止するための操作信号制御例1〜5について、図3〜図7を参照しながら説明する。説明を簡単にするために、操作信号制御例1〜5ではスイッチング素子Q1の周期を基準とする制御を説明する。図3〜図7では、パルス信号と区別するために、電圧時間積VTを斜線ハッチで示す。
【0038】
(操作信号制御例1)
操作信号制御例1は、スイッチング素子Q1にかかるデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる例であって、図3を参照しながら説明する。図3には、上から順番にスイッチング素子Q1,Q3,Q2,Q4、二次電圧Vs1,Vs2について各々の経時的変化を示す(図4〜図7についても同様である)。ただし、電圧時間積VTは各周期における積算値を示すために記載しており、経時的な変化を示すのではない。
【0039】
図3に示すスイッチング素子Q1の1周期は、周期Cy11(時刻t11から時刻t16までの期間)、周期Cy12(時刻t16から時刻t1dまでの期間)、周期Cy13(時刻t1d以降の期間)である。周期Cy11でトランスTr1に偏磁が発生し、周期Cy12以降で当該偏磁を抑止するように制御する。
【0040】
周期Cy11では、時刻t11から時刻t12までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンするため、二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT1が積算される。図1に示すように二次電圧Vs1は偏差量検出部24のマイナス端子に入力されるので、図3では電圧時間積VT1を負値として示す(図4〜図7についても同様である)。一方、時刻t13から時刻t14までスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンするため、二次電圧Vs2が生じ、電圧時間積VT2が積算される。制御回路21bはスイッチング素子Q3がオフになる時刻t15以降のタイミングで(図2のステップS10でYES)、偏差量ΔTP(=|VT2|−|VT1|)を入力し、偏差量ΔTPがゼロでないのでデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる(図2のステップS11〜S13)。
【0041】
まず、デッドタイムの長さを変化させる例について説明する。周期Cy11のスイッチング素子Q1,Q3はデッドタイムDt11(時刻t10から時刻t11までの期間)であった。制御回路21bは偏差量ΔTPをゼロにするために、スイッチング素子Q3がオフになる時刻t15以降(周期Cy12以降)はデッドタイムDt12(Dt12<Dt11;時刻t15から時刻t16までの期間や、時刻t1cから時刻t1dまでの期間など)にする。デッドタイムの長さを変化させるに伴って、結果的にスイッチング素子Q1の1周期は「Cy11<Cy12,Cy13,…」となる。
【0042】
デッドタイムの長さをDt11からDt12に短くすることで、スイッチング素子Q1がオンするタイミングを時刻t17から時刻t16に早める(矢印D1を参照)。こうして周期Cy12では、時刻t16から時刻t18までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンして二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT2が積算される。一方、時刻t16から時刻t18までスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンして、二次電圧Vs2が生じ、同じく電圧時間積VT2が積算される。周期Cy13以降でも同様である。こうして二次電圧Vs1,Vs2にかかる電圧時間積が等しくなるので、トランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。なおデッドタイムの長さを短くする観点で、スイッチング素子Q1がオフする時刻t19のタイミングを遅らせても、スイッチング素子Q4がオフなので無意味である。
【0043】
次に、デューティ比を変化させる例について説明する。上述したように、時刻t15の時点で偏差量ΔTPがゼロでなく、トランスTr1が偏磁していることが分かる。そこで、周期Cy12以降ではスイッチング素子Q1のデューティ比を変化させる。周期Cy11ではデューティ比Dr11であるのに対して、周期Cy12以降ではスイッチング素子Q1をオフからオンにするタイミングを早めてデューティ比Dr12(Dr11<Dr12)でパルス信号を制御する。したがって、上述したデッドタイムの長さを変化させる制御と同様に、デューティ比を変化させる制御でも、周期Cy12以降においてトランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0044】
(操作信号制御例2)
操作信号制御例2は、スイッチング素子Q1と直列接続されるスイッチング素子Q3にかかるデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる例であって、図4を参照しながら説明する。図4に示すスイッチング素子Q1の1周期は、周期Cy21(時刻t20から時刻t26までの期間)、周期Cy22(時刻t26から時刻t2dまでの期間)、周期Cy23(時刻t2d以降の期間)である。周期Cy21でトランスTr1に偏磁が発生し、周期Cy22以降で当該偏磁を抑止するように制御する。
【0045】
周期Cy21では、時刻t20から時刻t21までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンするため、二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT3が積算される。一方、時刻t23から時刻t24までスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンするため、二次電圧Vs2が生じ、電圧時間積VT4が積算される。制御回路21bはスイッチング素子Q3がオフになる時刻t25以降のタイミングで(図2のステップS10でYES)、偏差量ΔTP(=|VT4|−|VT3|)を入力し、偏差量ΔTPがゼロでないのでデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる(図2のステップS11〜S13)。
【0046】
まず、デッドタイムの長さを変化させる例について説明する。周期Cy21のスイッチング素子Q1,Q3はデッドタイムDt21(時刻t22から時刻t23までの期間)であった。制御回路21bは偏差量ΔTPをゼロにするために、スイッチング素子Q1がオフになる時刻t28以降(周期Cy22以降)はデッドタイムDt22(Dt22>Dt21;時刻t28から時刻t2aまでの期間など)にする。なお、スイッチング素子Q1の1周期は「Cy21=Cy22=Cy23=…」で変わらない。
【0047】
デッドタイムの長さをDt21からDt22に長くすることで、スイッチング素子Q3がオンするタイミングを時刻t29から時刻t2aに遅くする(矢印D2を参照)。こうして周期Cy22では、時刻t26から時刻t28までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンして二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT3が積算される。一方、時刻t2aから時刻t2bまでスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンして、二次電圧Vs2が生じ、同じく電圧時間積VT3が積算される。周期Cy23以降でも同様である。こうして二次電圧Vs1,Vs2にかかる電圧時間積が等しくなるので、トランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0048】
次に、デューティ比を変化させる例について説明する。上述したように、時刻t25の時点で偏差量ΔTPがゼロでなく、トランスTr1が偏磁していることが分かる。そこで、周期Cy22以降ではスイッチング素子Q3のデューティ比を変化させる。周期Cy21ではデューティ比Dr21であるのに対して、周期Cy22以降ではスイッチング素子Q3をオンからオフにするタイミングを遅くしてデューティ比Dr22(Dr21>Dr22)でパルス信号を制御する。したがって、上述したデッドタイムの長さを変化させる制御と同様に、デューティ比を変化させる制御でも、周期Cy22以降においてトランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0049】
(操作信号制御例3)
操作信号制御例3は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2にかかるデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる例であって、図5を参照しながら説明する。図5に示すスイッチング素子Q1の1周期は、周期Cy31(時刻t31から時刻t35までの期間)、周期Cy32(時刻t35から時刻t3bまでの期間)、周期Cy33(時刻t3b以降の期間)である。周期Cy31でトランスTr1に偏磁が発生し、周期Cy32以降で当該偏磁を抑止するように制御する。
【0050】
周期Cy31では、時刻t30から時刻t31までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンするため、二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT5が積算される。一方、時刻t33から時刻t34までスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンするため、二次電圧Vs2が生じ、電圧時間積VT6が積算される。制御回路21bは時刻t34から時刻t35までのタイミングで(図2のステップS10でYES)、偏差量ΔTP(=|VT6|−|VT5|)を入力し、偏差量ΔTPがゼロでないのでデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる(図2のステップS11〜S13)。
【0051】
まず、デッドタイムの長さを変化させる例について説明する。周期Cy31のスイッチング素子Q2,Q4はデッドタイムDt31(時刻t33から時刻t34までの期間)であった。制御回路21bは偏差量ΔTPをゼロにするために、スイッチング素子Q1がオンになる時刻t35以降(周期Cy32以降)はデッドタイムDt32(Dt32>Dt31;時刻t38から時刻t3aまでの期間など)にする。なお、スイッチング素子Q1の1周期は「Cy31=Cy32=Cy33=…」で変わらない。
【0052】
デッドタイムの長さをDt31からDt32に長くすることで、スイッチング素子Q2がオフするタイミングを時刻t39から時刻t38に早める(矢印D3を参照)。こうして周期Cy32では、時刻t36から時刻t38までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンして二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT5が積算される。一方、時刻t3aから時刻t3bまでスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンして、二次電圧Vs2が生じ、同じく電圧時間積VT5が積算される。周期Cy33以降でも同様である。こうして二次電圧Vs1,Vs2にかかる電圧時間積が等しくなるので、トランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0053】
次に、デューティ比を変化させる例について説明する。上述したように、時刻t35の時点で偏差量ΔTPがゼロでなく、トランスTr1が偏磁していることが分かる。そこで、周期Cy32以降ではスイッチング素子Q2のデューティ比を変化させる。周期Cy31ではデューティ比Dr31であるのに対して、周期Cy32以降ではスイッチング素子Q4をオンからオフにするタイミングを早めにしてデューティ比Dr32(Dr31>Dr32)でパルス信号を制御する。したがって、上述したデッドタイムの長さを変化させる制御と同様に、デューティ比を変化させる制御でも、周期Cy32以降においてトランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0054】
(操作信号制御例4)
操作信号制御例4は、スイッチング素子Q1とともに制御されるスイッチング素子Q4にかかるデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる例であって、図6を参照しながら説明する。図6に示すスイッチング素子Q1の1周期は、周期Cy41(時刻t40から時刻t46までの期間)、周期Cy42(時刻t46から時刻t4eまでの期間)、周期Cy43(時刻t4e以降の期間)である。周期Cy41でトランスTr1に偏磁が発生し、周期Cy42以降で当該偏磁を抑止するように制御する。
【0055】
周期Cy41では、時刻t40から時刻t41までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンするため、二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT7が積算される。一方、時刻t43から時刻t44までスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンするため、二次電圧Vs2が生じ、電圧時間積VT8が積算される。制御回路21bはスイッチング素子Q2がオフになる時刻t44以降のタイミングで(図2のステップS10でYES)、偏差量ΔTP(=|VT8|−|VT7|)を入力し、偏差量ΔTPがゼロでないのでデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる(図2のステップS11〜S13)。
【0056】
まず、デッドタイムの長さを変化させる例について説明する。周期Cy41のスイッチング素子Q2,Q4はデッドタイムDt41(時刻t41から時刻t42までの期間)であった。制御回路21bは偏差量ΔTPをゼロにするために、スイッチング素子Q4がオンになる時刻t45以降(周期Cy42以降)はデッドタイムDt42(Dt42<Dt41;時刻t48から時刻t49までの期間や、時刻t4fから時刻t4gまでの期間など)にする。なお、スイッチング素子Q1の1周期は「Cy41=Cy42=Cy43=…」で変わらない。
【0057】
デッドタイムの長さをDt41からDt42に短くすることで、スイッチング素子Q4がオフするタイミングを時刻t47から時刻t48に遅くする(矢印D4を参照)。こうして周期Cy42では、時刻t46から時刻t48までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンして二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT8が積算される。一方、時刻t4aから時刻t4bまでスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンして、二次電圧Vs2が生じ、同じく電圧時間積VT8が積算される。周期Cy43以降でも同様である。こうして二次電圧Vs1,Vs2にかかる電圧時間積が等しくなるので、トランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0058】
次に、デューティ比を変化させる例について説明する。上述したように、時刻t45の時点で偏差量ΔTPがゼロでなく、トランスTr1が偏磁していることが分かる。そこで、周期Cy42以降ではスイッチング素子Q4のデューティ比を変化させる。周期Cy41ではデューティ比Dr41であるのに対して、周期Cy42以降ではスイッチング素子Q4をオンからオフにするタイミングを遅くしてデューティ比Dr42(Dr41<Dr42)でパルス信号を制御する。したがって、上述したデッドタイムの長さを変化させる制御と同様に、デューティ比を変化させる制御でも、周期Cy42以降においてトランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0059】
(操作信号制御例5)
操作信号制御例5は、一のスイッチング素子にかかるデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる操作信号制御例1〜4とは異なり、複数のスイッチング素子にかかるデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる例である。具体的には、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q4との双方にかかるデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる例であって、図7を参照しながら説明する。
【0060】
図7に示すスイッチング素子Q1の1周期は、周期Cy51(時刻t51から時刻t57までの期間)、周期Cy52(時刻t57から時刻t5fまでの期間)、周期Cy53(時刻t5f以降の期間)である。周期Cy51でトランスTr1に偏磁が発生し、周期Cy52以降で当該偏磁を抑止するように制御する。
【0061】
周期Cy51では、時刻t51から時刻t52までスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンするため、二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VT9が積算される。一方、時刻t54から時刻t55までスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンするため、二次電圧Vs2が生じ、電圧時間積VTaが積算される。制御回路21bはスイッチング素子Q3がオフになる時刻t56以降のタイミングで(図2のステップS10でYES)、偏差量ΔTP(=|VTa|−|VT1|)を入力し、偏差量ΔTPがゼロでないのでデッドタイムの長さやデューティ比を変化させる(図2のステップS11〜S13)。
【0062】
ところが、一のスイッチング素子(本例ではスイッチング素子Q1)にかかるデッドタイムの長さを変化させようとしても、操作信号を変化させることができる限界値を超える場合がある。例えば、スイッチング素子Q1をオフからオンにするタイミングについて、偏差量ΔTPをゼロにするために時刻t58から時刻t56に早める制御を検討する。この時刻t56はスイッチング素子Q3がオンからオフになるタイミングでもあるので、上述したタイムラグ等を考慮するとスイッチング素子Q1,Q3が一時的でも同時にオンする可能性がある。言い換えれば、電力源Edcを短絡する可能性がある。
【0063】
このように上記限界値を超える場合には(図2のステップS14でYES)、他のスイッチング素子(本例ではスイッチング素子Q4)にかかるデッドタイムの長さやデューティ比も変化させる(図2のステップS15)。なお、複数のスイッチング素子にかかるデッドタイムの長さやデューティ比について、どのような比率で変化させるかは任意に設定可能である。本例では分かり易くするために、スイッチング素子Q1,Q4の双方についてデッドタイムの長さやデューティ比を同じように変化させる。
【0064】
まず、スイッチング素子Q1,Q3にかかるデッドタイムの長さと、スイッチング素子Q2,Q4にかかるデッドタイムの長さとの双方を変化させる例について説明する。周期Cy51のスイッチング素子Q1,Q3はデッドタイムDt51(時刻t50から時刻t51までの期間)であり、同周期のスイッチング素子Q2,Q4はデッドタイムDt52(時刻t52から時刻t53までの期間)であった。
【0065】
スイッチング素子Q1がオンになる時刻t57以降(周期Cy52以降)では、スイッチング素子Q1,Q3についてデッドタイムDt53(Dt53<Dt51;時刻t56から時刻t57までの期間や、時刻t5eから時刻t5fまでの期間など)にし、スイッチング素子Q2,Q4についてデッドタイムDt54(Dt54<Dt52;時刻t5aから時刻t5bまでの期間や、時刻t5gから時刻t5hまでの期間など)にする。
【0066】
周期Cy52では、デッドタイムの長さをDt51からDt52に短くすることで、スイッチング素子Q1がオンするタイミングを時刻t58から時刻t57に早める(矢印D5aを参照)。また、デッドタイムの長さをDt53からDt54に短くすることで、スイッチング素子Q4がオフするタイミングを時刻t59から時刻t5aに遅くする(矢印D5bを参照)。これらの変化により、時刻t57から時刻t5aまでスイッチング素子Q1,Q4が同時にオンして二次電圧Vs1が生じ、電圧時間積VTaが積算される。一方、時刻t5cから時刻t5dまでスイッチング素子Q2,Q3が同時にオンして、二次電圧Vs2が生じ、同じく電圧時間積VTaが積算される。周期Cy53以降でも同様である。こうして二次電圧Vs1,Vs2にかかる電圧時間積が等しくなるので、トランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0067】
次に、デューティ比を変化させる例について説明する。上述したように、時刻t56の時点で偏差量ΔTPがゼロでなく、トランスTr1が偏磁していることが分かる。偏差量ΔTPをゼロにしようと一のスイッチング素子(本例ではスイッチング素子Q1)にかかるデューティ比を変化させようとしても、操作信号を変化させることができる所定比値を超える場合がある。このことは、上述したようにデッドタイムの長さを変化させる場合と同様である。
【0068】
そこで、周期Cy52以降では複数のスイッチング素子Q1,Q4について、それぞれデューティ比を変化させる。スイッチング素子Q1については、周期Cy51ではデューティ比Dr51であるのに対して、周期Cy52以降ではオフからオンにするタイミングを早めてデューティ比Dr52(Dr52>Dr51)でパルス信号を制御する。同様にスイッチング素子Q4については、周期Cy51ではデューティ比Dr53であるのに対して、周期Cy52以降ではオフからオンにするタイミングを遅くしてデューティ比Dr54(Dr53>Dr54)でパルス信号を制御する。したがって、上述したデッドタイムの長さを変化させる制御と同様に、デューティ比を変化させる制御でも、周期Cy52以降においてトランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0069】
なお上述した操作信号制御例5では、スイッチング素子Q1,Q4による電圧時間積VT9を電圧時間積VTaにするように制御した。この制御例に代えて、スイッチング素子Q2,Q3にかかる電圧時間積VTについて、偏磁が発生する周期Cy51における電圧時間積VTaを周期Cy52以降には電圧時間積VT9になるように制御してもよい。この制御を行う場合には上記限界値を超えないので、操作信号制御例2に示すようにスイッチング素子Q3をオフからオンにするタイミングを遅くしたり(矢印D2を参照)、操作信号制御例3に示すようにスイッチング素子Q2をオンからオフにするタイミングを早めたりすればよい(矢印D3を参照)。この制御を行う場合も上述した操作信号制御例5と同様に、二次電圧Vs1,Vs2にかかる電圧時間積が等しくなるので、トランスTr1で偏磁の発生を抑止することができる。
【0070】
また操作信号制御例5では、「一のスイッチング素子」にスイッチング素子Q1を適用し、「他のスイッチング素子」にスイッチング素子Q4を適用した。この形態に代えて、「一のスイッチング素子」にスイッチング素子Q4を適用し、「他のスイッチング素子」にスイッチング素子Q1を適用してもよい。同様に、「一のスイッチング素子」にスイッチング素子Q2,Q3を適用し、「他のスイッチング素子」にスイッチング素子Q3,Q24を適用してもよい。スイッチング素子Q1〜4に伝達する操作信号(パルス信号)がオン/オフするタイミングに応じて、適用可能なスイッチング素子が変わる。
【0071】
上述した実施の形態1によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、電力変換装置20において、トランスTr1の二次端子から出力される二次電圧Vs1,Vs2(交流電力)を整流するダイオードD11,D12と、ダイオードD11,D12(二以上の整流部)によって整流される直流電圧(直流電力)を個別かつ経時的に積分して求められる電圧時間積を出力する積分部22,23と、二以上の電圧時間積にかかる偏差量ΔTPを検出する偏差量検出部24と、偏差量検出部24によって検出される偏差量ΔTPに基づいて、当該偏差量ΔTPがゼロになるように操作信号を変化させる制御を行う操作信号制御部21とを有する構成とした(図1を参照)。この構成によれば、偏差量検出部24によって検出される偏差量ΔTPに基づいて、操作信号制御部21は偏差量ΔTPがゼロになるように操作信号を変化させる制御を行う。偏差量ΔTPがゼロになれば、直流電圧の電圧時間積が等しくなり、トランスTr1の偏磁を抑止(低減を含む)することができる。個々のダイオードD11,D12を正負の直流電圧に対応させることで、正負にかかわらずトランスTr1の偏磁を抑止することができる。電流の流れる経路に回路素子を追加することなく、トランスTr1の二次端子から出力される二次電圧Vs1,Vs2の正負に対応したダイオードD11,D12を備えるだけでよいので、装置全体のコストを抑えることができる。
【0072】
請求項2に対応し、操作信号制御部21は、スイッチング素子Q1〜Q4をオン/オフする期間の比を示すデューティ比Dr11,Dr21,Dr31,Dr41,Dr51,Dr53を変化させる構成とした(操作信号制御例1〜5;図3〜図7を参照)。この構成によれば、電圧時間積の偏差量ΔTPがゼロになるように、操作信号のデューティ比Dr11,Dr21,Dr31,Dr41,Dr51,Dr53を各々変化させて操作信号をスイッチング素子Q1〜Q4に伝達すればよい。既存の制御方法を利用できるので、装置全体のコストを抑えることができる。
【0073】
請求項3に対応し、複数(二以上)のスイッチング素子Q1〜Q4を有し、操作信号制御部21は、一のスイッチング素子Q1にかかるデューティ比Dr51が所定比値に達すると、他のスイッチング素子Q4にかかるデューティ比Dr52を変化させる構成とした(操作信号制御例5;図7を参照)。この構成によれば、一のスイッチング素子Q1にかかるデューティ比Dr51が所定比値に達すると、当該デューティ比Dr51のほか、他のスイッチング素子Q4にかかるデューティ比Dr52も変化させる。所定比値を超えない範囲で複数のスイッチング素子Q1,Q4にかかるデューティ比Dr51,Dr52を各々変化させるので、複数のスイッチング素子Q1〜Q4を安定的に動作させ、しかもトランスTr1の偏磁を抑止することができる。
【0074】
請求項4に対応し、複数(二以上)のスイッチング素子Q1〜Q4を有し、連携して操作する対象となる二のスイッチング素子(スイッチング素子Q1,Q3またはスイッチング素子Q2,Q4)に対して、操作信号制御部21は、一方のスイッチング素子の状態を変えてから他方のスイッチング素子の状態を変えるまでのデッドタイムDt11,Dt21,Dt31,Dt41(第1デッドタイム)の長さを変化させる構成とした(操作信号制御例1〜4;図3〜図6を参照)。この構成によれば、一方のスイッチング素子から他方のスイッチング素子に連携するデッドタイムDt11,Dt21,Dt31,Dt41の長さを各々変化させて操作信号をスイッチング素子Q1〜Q4に伝達すればよい。既存の制御方法を利用できるので、装置全体のコストを抑えることができる。
【0075】
請求項5に対応し、操作信号制御部21は、連携して操作する対象となるスイッチング素子Q1,Q3にかかるデッドタイムDt51(第1デッドタイム)の長さが所定長値に達すると、スイッチング素子Q1,Q3とは別個のスイッチング素子Q2,Q4に対して、一方のスイッチング素子Q4の状態をオンからオフに変えてから他方のスイッチング素子Q2の状態をオフからオン変えるまでデッドタイムDt52(第2デッドタイム)の長さを変化させる構成とした(操作信号制御例5;図7を参照)。この構成によれば、出力しようとする操作信号に含まれるデッドタイムDt51が所定長値に達すると、当該デッドタイムDt51のほかにデッドタイムDt52も変化させる。所定長値を超えない範囲で複数のスイッチング素子Q1〜Q4にかかるデッドタイムDt51,Dt52を各々変化させてデッドタイムDt53,Dt54にするので、複数のスイッチング素子Q1〜Q4を安定的に動作させ、しかもトランスTr1の偏磁を抑止することができる。
【0076】
図示しないが、操作信号制御例5(図7)に示すパルス信号のパターンがスイッチング素子Q1,Q3とスイッチング素子Q2,Q4とで入れ替わる場合でも、同様の制御を行えばよい。この場合でも、単に連携して操作する対象となるスイッチング素子が相違するに過ぎないので、トランスTr1の偏磁を抑止することができる。
【0077】
請求項6に対応し、電力変換装置20を有する電源システム10は、ダイオードD11,D12(整流部)の出力端子を電気的に接続する接続部Jと、接続部Jにおける直流電圧の交流成分を低減するフィルタ部12とを有する構成とした(図1を参照)。この構成によれば、コストを抑えながらも正負の直流成分に対応可能であり、電流の流れる経路に回路素子を追加することなくトランスTr1の偏磁を抑止することができる。
【0078】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、上述した実施の形態1と同様に、電圧制御による電力に基づいてトランスの偏磁を抑止する例であって、図8を参照しながら説明する。電力変換装置20を含む電源システム10の構成は、一部の構成が実施の形態1と同様である。そのため実施の形態2では、実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、上述した実施の形態1と相違する内容を説明する。
【0079】
実施の形態2は、実施の形態1のトランスTr1(図1を参照)に代えて、トランスTr2を用いる点が大きく異なる。トランスTr1は、一次端子とともに、二次端子として少なくとも三端子を有するタイプを用いた。これに対して、トランスTr2は一次端子と二次端子が同一のタイプであり、トランスTr1のような中間端子を有しない。なお、トランスTr1と同様に中間端子を有するタイプのトランスを用いても構わないが、中間端子を使用しないで構成する。
【0080】
上記トランスTr2を用いるのに伴い、整流部Db1,Db2や、スイッチSW1,SW2などを新たに加える。整流部Db1,Db2、入力側をトランスTr2の二次端子に並列接続される。整流部Db1は「接続部J」の機能をも担い、電源システム10に備えられる。整流部Db1の一方側端子をコンデンサC11およびフィルタ部12に接続し、同じく他方側端子をグラウンドNに接続する。整流部Db2は電力変換装置20に備えられる。整流部Db2の一方側端子を積分部22,23に接続し、同じく他方側端子をグラウンドNに接続する。これらの整流部Db1,Db2はダイオード等で構成され、トランスTr2の二次端子に出力される二次電圧Vs3(交流電力)を直流電圧(直流電力)に整流する機能を担い、半波整流回路であると全波整流回路であるとを問わない。
【0081】
スイッチSW1,SW2は、いずれも制御回路21bによって個々にオン/オフが制御される。スイッチSW1は、積分部22の出力(すなわち二次電圧Vs2に相当する二次電圧Vs3の電圧時間積VT)を偏差量検出部24に伝達するか否かを切り替えられる。スイッチSW2は、積分部23の出力(すなわち二次電圧Vs1に相当する二次電圧Vs3の電圧時間積VT)を偏差量検出部24に伝達するか否かを切り替えられる。
【0082】
例えば、スイッチSW2は図3〜図7に示すスイッチング素子Q1と同様のタイミングでオン/オフが制御され、スイッチSW1はスイッチSW2とは逆にオン/オフが制御される。すなわち、実施の形態1における二次電圧Vs1に相当する二次電圧Vs3を検出するときはスイッチSW1がオンになる。同じく実施の形態1における二次電圧Vs2に相当する二次電圧Vs3を検出するときはスイッチSW2がオンになる。こうしてスイッチSW1,SW2を制御することによって、実施の形態1で説明した操作信号制御例1〜5(図3〜図7を参照)を実現することができる。
【0083】
上述した実施の形態2によれば、実施の形態1で説明した操作信号制御例1〜5(図3〜図7を参照)を実現できるので、請求項1〜5にそれぞれ対応する実施の形態1と同様の作用効果が得られる。すなわちトランスTr2の偏磁を抑止することができる。
【0084】
また請求項6にも対応し、電力変換装置20を有する電源システム10は、接続部Jの機能を含む整流部Db1と、整流部Db1から出力される直流電圧の交流成分を低減するフィルタ部12とを有する構成とした(図8を参照)。この構成によれば、コストを抑えながらも正負の直流成分に対応可能であり、電流の流れる経路に回路素子を追加することなくトランスTr2の偏磁を抑止することができる。
【0085】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について実施の形態1,2に従って説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0086】
上述した実施の形態1,2では、電力変換装置20のうち、直流電圧(直流電力)を交流電圧(交流電力)に変換する電力変換部には、スイッチング素子Q1〜Q4を用いてフルブリッジで構成した(図1,図8を参照)。この形態に代えて、スイッチング素子の数を少なくする電力変換部を構成してもよい。例えば、図9(A)に示すハーフブリッジで構成してもよく、図9(B)に示すプッシュプルで構成してもよい。図9(A)に示すハーフブリッジ構成では、スイッチング素子Q2に代えてコンデンサC2を用い、スイッチング素子Q4に代えてコンデンサC4を用いる。図示しないが、シングルフォワード方式やフライバック方式などを複数(例えば2つや4つ等)用い、トランスTr1,Tr2の一次端子側に接続する構成としてもよい。トランスTr1,Tr2の一次端子側に接続する電力変換部の構成が相違するに過ぎないので、上述した実施の形態1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0087】
上述した実施の形態1,2では、スイッチング素子Q1の操作信号を基準とし、スイッチング素子Q1〜Q4の各操作信号を変化させる構成とした(操作信号制御例1〜4;図3〜図6を参照)。この形態に代えて、スイッチング素子Q1以外のスイッチング素子(すなわちスイッチング素子Q2〜Q4のいずれか)の操作信号を基準とし、スイッチング素子Q1〜Q4の各操作信号を変化させる構成としてもよい。基準となる操作信号が相違するに過ぎないので、上述した実施の形態1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0088】
上述した実施の形態1,2では、積分部22,23として抵抗器とコンデンサとからなり、時定数を大きく確保したRC回路を適用した(図1,図8を参照)。この形態に代えて、例えばオペアンプを用いた積分回路などを用いてもよい。また、時定数が小さなRC回路や積分回路を適用してもよく、この場合には図1や図8において二点鎖線で示すようにピークホールド回路PH1,PH2を接続するのが望ましい。このピークホールド回路PHは、所定の時期(図3の例では時刻t15や時刻t1c等)まで、二次電圧Vs1,Vs2(これらに相当する二次電圧Vs3)にかかる電圧時間積VTをそれぞれ個別に保持する機能を担う。いずれの構成にせよ、電圧時間積VTを積算することができるので、上述した実施の形態1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0089】
上述した実施の形態1,2では、フィルタ部12(ローパスフィルタ)としてリアクトルL12とコンデンサC12とからなるLC回路を適用した(図1,図8を参照)。この形態に代えて(あるいは加えて)、直流電圧(直流電力)の高周波成分を除去可能な他の構成からなるフィルタ部を適用してもよい。例えば、抵抗器とコンデンサとからなるRC回路や、オペアンプを用いたアクティブローパスフィルタなどを用いてもよい。これらのようなアナログフィルタに限らず、ディジタルフィルタを用いてもよい。いずれのフィルタ部にせよ直流電圧(直流電力)の高周波成分を除去できるので、上述した実施の形態1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0090】
上述した実施の形態1,2などでは、スイッチング素子Q1〜Q4にNチャネルMOSFETを用いる構成とした(図1,図8,図9を参照)。この形態に代えて、他のスイッチング素子を用いる構成としてもよい。他のスイッチング素子には、例えばFET(具体的にはPチャネルMOSFET,JFET,MESFET等)、IGBT、GTO、パワートランジスタなどが該当する。いずれのスイッチング素子にせよ、直流電圧(直流電力)を交流電圧(交流電力)に変換する電力変換部を構成できるので、上述した実施の形態1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0091】
上述した実施の形態1,2では、電力源Edcから供給される直流電圧(直流電力)に基づいて、二次電圧Vs1,Vs2や二次電圧Vs3の各電圧時間積VTを求め、一周期内に偏差量ΔTPが0でないときにスイッチング素子Q1〜Q4を操作する操作信号を変化させる構成とした(図1〜図8を参照)。すなわち、電圧制御による電力について適用した。この形態に代えて、電流制御による電力に適用することもできる。この場合における電力変換装置20は、電力源Edcから直流電流(直流電力)が供給され、交流電流(交流電力)に変換して出力する。定電圧源にかかる回路構成を定電流源にかかる回路構成に変換する方法は周知であるので、図1や図8の回路構成も同様に変換できる。ただし、トランスTr1,Tr2によって位相遅れが発生するので、当該位相遅れを考慮してスイッチング素子Q1〜Q4を制御する必要がある。よって電流制御による電力についても、上述した実施の形態1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0092】
上述した実施の形態1,2では、偏差量ΔTPが0である場合に限って、スイッチング素子Q1〜Q4を操作する操作信号を変化させた(図2のステップS12,S13を参照)。この形態に代えて、トランスTr1,Tr2に偏磁が生じても出力に影響がほとんど無いような許容範囲(ΔTP≦α)である場合には、操作信号を変化させない構成としてもよい(図2のステップS12に示す括弧内の「ΔTP≦α?」)。逆に言えば、トランスTr1,Tr2に生じる偏磁が許容範囲外(ΔTP>α)になったとき、操作信号を変化させる。αには、電力変換装置20の構成(例えばスイッチング素子の種類や、制御する電圧や電流等)に応じて適切な数値を設定する。この制御を行う場合には、トランスTr1,Tr2の偏磁を許容範囲内に抑えることができる。
【符号の説明】
【0093】
10 電源システム
12 フィルタ部
20 電力変換装置
21 操作信号制御部
21a ドライブ回路
21b 制御回路
22,23 積分部
24 偏差量検出部
30 出力機器
VT1,VT2,VT3 電圧時間積
Q1,Q2,Q3,Q4 スイッチング素子
Tr1,Tr2 トランス
Dt11,Dt12,… デッドタイム
Dr11,Dr12,… デューティ比
ΔTP 偏差量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作信号に基づいてスイッチングを行うスイッチング素子と、前記スイッチング素子を一次端子に電気的に接続するトランスとを少なくとも含む電力変換装置において、
前記トランスの二次端子から出力される交流電力を整流する二以上の整流部と、
前記二以上の整流部によって整流される直流電力を個別かつ経時的に積分して求められる電力時間積を出力する積分部と、
前記二以上の電力時間積にかかる偏差量を検出する偏差量検出部と、
前記偏差量検出部によって検出される偏差量に基づいて、当該偏差量がゼロになるように前記操作信号を変化させる制御を行う操作信号制御部と、
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記操作信号制御部は、前記スイッチング素子をオン/オフする期間の比を示すデューティ比を変化させることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
二以上の前記スイッチング素子を有し、
前記操作信号制御部は、一の前記スイッチング素子にかかる前記デューティ比が所定比値に達すると、他の前記スイッチング素子にかかる前記デューティ比を変化させることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
二以上の前記スイッチング素子を有し、
前記操作信号制御部は、連携して操作する対象となる二の前記スイッチング素子に対して、一方の前記スイッチング素子の状態を変えてから他方の前記スイッチング素子の状態を変えるまで第1デッドタイムの長さを変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記操作信号制御部は、前記第1デッドタイムの長さが所定長値に達すると、連携して操作する対象となる二の前記スイッチング素子とは別個の二の前記スイッチング素子に対して、一方の前記スイッチング素子の状態を変えてから他方の前記スイッチング素子の状態を変えるまで第2デッドタイムの長さを変化させることを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の電力変換装置を有し、
前記二以上の整流部の出力端子を電気的に接続する接続部と、
前記接続部における直流電力の交流成分を低減するフィルタ部と、
を有することを特徴とする電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−55858(P2013−55858A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194103(P2011−194103)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】