説明

電力変換装置

【課題】半導体電力変換装置を氷点下に下がるような寒冷地に設置すると、水冷の電力変換システムでは、冷却水が凍結して冷却水を流せなくなり、半導体を冷却できなくなる可能性がある。また、風冷の電力変換システムでも冷却フィンが結露して凍結するとそれが障害となり、風の流れが設計時の想定と変わってしまい、そのまま運転すると十分な冷却効果を得られない可能性がある。本発明は交流系統への影響を最小限にして冷却フィンに付着した凍結物を安全に溶解することを目的とする。
【解決手段】双方向チョッパ回路などで構成された単位セルをカスケードに接続した構成を有するカスケード変換器システムにおいて、U相,V相,W相をデルタ結線に接続されたカスケード変換器システムであり、かつ、デルタ結線されたカスケードアームに零相循環電流を通流することにより、接続された系統に影響を与えることなく、冷却フィンの水を溶かして冷却性能を回復できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換システムに関する。具体的には、変圧器を介して交流系統と連系する電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、オン・オフ制御が可能なスイッチング素子(Insulated-gate bipolar transistor:IGBTなど)を使用し、該スイッチング素子の耐圧を超える高電圧を出力できる電力変換装置の一方式として、カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を提案している。
【0003】
CMCは、直流コンデンサに接続された双方向チョッパ回路やフルブリッジ回路を単位セルとして、その入出力端子をカスケードに接続した変換器である。CMCは、単位セルのPWM制御用搬送波の位相を単位セル毎にずらすことにより、出力電圧高調波を抑制できるという特徴を持つ。前記CMCは無効電力出力装置や有効電力貯蔵装置等の系統連系電圧型変換器として使用できることが知られている。
【0004】
CMCなどの半導体電力変換装置は半導体などに電流が通流すると該半導体が発熱する。通常は水冷や風冷の冷却フィンにIGBTを搭載して、該半導体から発生する熱を放散させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体電力変換装置を氷点下に下がるような寒冷地に設置すると、水冷の電力変換システムでは、冷却水が凍結して冷却水を流せなくなり、半導体を冷却できなくなる可能性がある。また、風冷の電力変換システムでも冷却フィンが結露して凍結するとそれが障害となり、風の流れが設計時の想定と変わってしまい、そのまま運転すると、十分な冷却効果を得られず、半導体が故障する可能性がある。
【0006】
本発明は、交流系統への影響を最小限にして、冷却フィンに付着した凍結物を安全に溶解することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
双方向チョッパ回路などで構成された単位セルをカスケードに接続した構成を有するカスケード変換器システムにおいて、U相,V相,W相をデルタ結線に接続されたカスケード変換器システムであり、かつ、デルタ結線されたカスケードアームに零相循環電流を通流することにより、接続された系統に影響を与えることなく、冷却フィンの水を溶かすことができる。
【発明の効果】
【0008】
氷点下以下に設置する電力変換器において、系統に影響を与えることなく、凍結した水を溶かし、設計通りの冷却性能を実現する電力変換器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の電力変換システムの実施形態を示す回路図。
【図2】本発明の実施形態の一部を示す回路図。
【図3】本発明の実施形態の一部を示す回路図。
【図4】本発明の電力変換システムの実施形態を示す実装図。
【図5】本発明の電力変換システムの実施形態を示す実装図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明を実施する第1の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態を表した回路図である。まず、図1を用いて、本発明の電力変換器システム101の構成を説明する。
【0013】
本発明の電力変換器システム101は、電力変換器105,連系リアクトル201(201U〜201W),遮断機202等の開閉器で構成される。連系リアクトル201は連系インピーダンスとして機能し、連系トランスで代用しても良い。また、後述するアームリアクトル291UV,291VW,291WUが零相インピーダンスのみではなく、正相インピーダンスと逆相インピーダンスをも有するときは、連系リアクトル201は省略してもよい。
【0014】
電力変換器105は3個のカスケードアーム113(113UV,113VW,113WU)とアームリアクトル291UV,291VW,291WUで構成される。
【0015】
また、図2も本発明の実施形態を表した回路図である。
【0016】
カスケードアーム113は、単位セル120がカスケードに接続された構造であり、該単位セル120は、図3のようなフルブリッジ120Fで構成される。該単位セル120は図2のようなチョッパ回路120Cで構成されてもよいが、フルブリッジ回路の方が制御の自由度が高いので、以下、単位セル120がフルブリッジ回路構成の電力変換システムを例にとり、説明する。
【0017】
該フルブリッジ回路120FはIGBTレッグ411(411L,411R)を2並列にして、直流コンデンサ406と接続した構成である。各IGBTレッグ411は、IGBT並列体402(402P,402N)を直列に接続した構成である。IGBT並列体402PとIGBT並列体402Nの接続部に入出力端子400(400L,400R)を設け、原則、各単位セルの入出力端子400同士がカスケード接続される。
【0018】
より、詳細に記載すると、カスケードアーム113(113U,113V,113W)の両端の端子(602U〜W,603U〜W)以外の各単位セル120の出力端子400Nは他の単位セルの出力端子400Pに、各単位セルの出力端子400Pは他の単位セルの出力端子400Nに接続される。
【0019】
各カスケードアーム113(113U,113V,113W)の一方の端子は他のカスケードアーム113に接続され、もう一方の端子はアームリアクトル291UV,291VW,291WUに接続される。
【0020】
該電力変換器105は、遮断機202などを介して三相電力系統100と接続される。
【0021】
次に、本発明の電力変換器システム101の動作について説明する。
【0022】
なお各カスケードアーム113(113UV,113VW,113WU)の端子間の電圧を内側カスケード電圧V113(V113U,V113V,V113W)と定義する。
【0023】
本電力変換器システム101と三相電力系統100間の融通電力は、該電力変換器システム101の内側カスケード電圧V113(V113U,V113V,V113W)の振幅と位相を系統電圧を基準に調整することにより制御できる。
【0024】
一方、内側カスケード電圧V113は次のように制御できる。
【0025】
内側カスケード電圧V113(V113U,V113V,V113W)は、各カスケードアーム113U,113V,113Wを構成する各単位セル120の出力電圧の合成電圧である。したがって、内側カスケード電圧V113U,V113V,V113Wは各カスケードアームの各単位セル120の出力電圧により制御できる。
【0026】
単位セル120の出力電圧は各IGBTレッグ411をPWM制御することにより制御するので、各単位セルの直流コンデンサ406を所定の電圧に制御する必要がある。
【0027】
次に、単位セルの各IGBT並列体402P,402Nの冷却について説明する。各IGBT並列体は402P,402Nは図4や図5に示すような冷却フィン71(71F,71W)に搭載される。図5は水冷フィン71Wの一例である。銅やアルミなどの高熱伝導性物質のブロック内に水路が形成され、該水路に冷却水991を通流することによりIGBT並列体402P,402Nなどの半導体から発生する熱が冷却水991に移動して、運搬除去されることにより該半導体を冷却する。この水路の一部が凍結して凍結体999が形成されると冷却水が流れなくなる。凍結体999が存在する箇所については、半導体から発生した熱が凍結体999に吸収されるので冷却できるが、他の部分は水が通流しないので、半導体で発生した熱を処理できず、IGBT並列体402Pや402Nが故障する可能性がある。
【0028】
図4は風冷冷却フィンの一例を示す。風冷冷却フィン71F内を風990が通ることにより、IGBT並列体402P,402Nなどの半導体から発生する熱が風に移動して運搬除去されることにより該半導体を冷却する。冷却フィン71Fの一部に結露,凍結して凍結体999が形成されると風路が変わり、凍結体999の裏には風が通らず、半導体で発生した熱を処理できず、IGBT並列体402Pや402Nが故障する可能性がある。
【0029】
図1の電力変換システムのような、カスケード型の電力変換器をデルタ結線に、零相電流のみを通流させる機能を付加させると、理想的には三相電力系統100へ電流を通流することなく、零相循環電流のみを適度な大きさに調整しながら、IGBT並列体402Pや402Nを適度に発熱させて、凍結体999を溶かすことができる。凍結体999が溶解すれば、冷却フィン71は冷却性能を回復できる。零相電流を通流させるためには、各内側カスケード電圧V113U,V113V,V113Wは同じ電圧を出力し、電力変換器105は零相電圧を出力する。三相電力系統100と電力変換器105の間には零相パスがないので、三相電力系統100に電流は流れない。すなわち、三相電力系統100に電流を流すことなく、IGBT並列体402P,402Nなどが故障しないように、零相電流を適度な大きさに調整して、凍結体999を溶解することができる。但し、現実には零相電流通流によって発生した損失を補償するエネルギーを三相電力系統100から供給するためにごくわずかな電流を通流する必要がある。
【0030】
また、図1の電力変換システムのようなカスケード型のデルタ結線電力変換システムに、零相電流のみを通流させる機能を付加させると、系統から供給される電力を最小にして、定格電流もしくは過負荷電流相当の零相電流を通流させて、IGBT451などの発熱試験に用いることもできる。この場合、三相電力系統100から供給される電力は、大略零相循環電流通流によって発生する損失分を補償する電力でよい。本電力変換システムを検査する機関に、高出力電源がなくても定格電流を通流する試験を実施できる。
【符号の説明】
【0031】
71F 風冷冷却フィン
71W 水冷冷却フィン
100 三相電力系統
101 電力変換器システム
102 連系変圧器
102C 可変電圧変圧器
105 電力変換器
113Up,113Vp,113Wp,113Un,113Vn,113Wn カスケードレッグ
120 単位セル
121C 双方向チョッパ
121F フルブリッジ回路
201 連系リアクトル
202 遮断機
250 可変直流電圧源
251 コンタクタ
252 初充電回路
291UV,291VW,291WU アームリアクトル
400P,400N,400L,400R 単位セル出力端子
402P,402N IGBT並列体
406 直流コンデンサ
411,411L,411R IGBTレッグ
451 IGBT
452 ダイオード
600U カスケードレッグ113Upの高圧側端子
600V カスケードレッグ113Vpの高圧側端子
600W カスケードレッグ113Wpの高圧側端子
602U カスケードレッグ113Upの低圧側端子
602V カスケードレッグ113Vpの低圧側端子
602W カスケードレッグ113Wpの低圧側端子
603U カスケードレッグ113Unの高圧側端子
603V カスケードレッグ113Vnの高圧側端子
603W カスケードレッグ113Wnの高圧側端子
604U カスケードレッグ113Unの低圧側端子
604V カスケードレッグ113Vnの低圧側端子
604W カスケードレッグ113Wnの低圧側端子
650U,650V,650W 電力変換器105のU相入出力端子
990 風
991 冷却水
999 凍結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位セルをカスケードに接続した構成を有する電力変換システムにおいて、該電力変換システムはデルタ結線に接続された電力変換システムであって、該電力変換システムは、零相循環電流のみを通流する機能を有することを特徴とした電力変換システム。
【請求項2】
単位セルをカスケードに接続した構成を有する電力変換システムにおいて、該電力変換システムはデルタ結線に接続された電力変換システムであって、該電力変換システムは交流系統などの3相交流電圧源に接続されており、且つ、該電力変換システムは、該交流電圧源から供給される電流よりも大きな零相循環電流を通流する機能を有することを特徴とした電力変換システム。
【請求項3】
単位セルをカスケードに接続した構成を有する電力変換システムにおいて、該電力変換システムはデルタ結線に接続された電力変換システムであって、該電力変換システムは交流系統などの3相交流電圧源に接続されており、且つ、該電力変換システムは、該交流電圧源からは零相電流に必要な電力の供給のみで、零相循環電流を通流する機能を有することを特徴とした電力変換システム。
【請求項4】
単位セルをカスケードに接続した構成を有する電力変換システムの運用方法において、該電力変換システムはデルタ結線に接続された電力変換システムであって、該電力変換システムは交流系統などの3相交流電圧源に接続されており、大略零相循環電流のみを通流させることを特徴とする電力変換システムの運用方法。
【請求項5】
単位セルをカスケードに接続した構成を有する電力変換システムの運用方法において、該電力変換システムはデルタ結線に接続された電力変換システムであって、該電力変換システムは交流系統などの3相交流電圧源に接続されており、大略零相循環電流のみを通流して、単位セルを構成するIGBTの発熱試験をすることを特徴とする電力変換システムの運用方法。
【請求項6】
単位セルをカスケードに接続した構成を有する電力変換システムの運用方法において、該電力変換システムはデルタ結線に接続された電力変換システムであって、該電力変換システムは交流系統などの3相交流電圧源に接続されており、大略零相循環電流のみを通流して、冷却フィンの凍結部を溶解することを特徴とする電力変換システムの運用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−223760(P2011−223760A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91049(P2010−91049)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】