説明

電力変換装置

【課題】線間電圧及び線電流の歪みを低減しつつ線電流を検出できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】スイッチング信号生成部31は、所定周期において、交流線Pu,Pv,Pwのうち、1つのみが直流線LH,LLの一方と導通し、2つが他方と導通して互いに異なる第1及び第2のスイッチングパターンを第1及び第2期間に渡ってそれぞれ採用する。線電流取得部32は、第1の期間が所定期間より長くかつ第2の期間が所定期間よりも短いときに、第1の期間に流れる直流電流Idcを直流電流検出部4を用いて検出し、平均値Idc_aveの周期における積分が第1及び第2の期間に流れる直流電流Idcの積分と等しいという関係に基づいて第2の期間に流れる直流電流を算出し、第2の期間に流れる直流電流Idcを、第2のスイッチングパターンに基づいて決定される1つの線電流と推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特に線電流を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には三相インバータが記載されている。かかる三相インバータは、入力された直流電圧を交流電圧に変換する。かかる変換はインバータが有するスイッチング素子の導通/非導通を適宜に切り替えることで実現される。これにより、インバータが出力する電圧のベクトルとして、大きさの有する2つの電圧ベクトルがそれぞれ所定周期に渡って採用されることとなる。
【0003】
また特許文献1では三相インバータの入力側を流れる直流電流を用いて、三相インバータの出力側を流れる電流、即ち3相の線電流を検出する。かかる検出は、インバータの電圧ベクトルに基づいて直流電流と線電流とを対応させることで行われる。例えば所定周期において、それぞれ上述の2つの電圧ベクトルが採用される期間に直流電流を検出し、これらを当該2つの電圧ベクトルに基づいて決定される2相の線電流として検出する。そして、3相の線電流の総和が零であるという関係に基づいて残りの1相の線電流を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2004−304925号公報
【特許文献2】特許2010−288359号公報
【特許文献3】特許2003−189670号公報
【特許文献4】特許2002−119062号公報
【特許文献5】特許平10−155278号公報
【特許文献6】特許平3−230767号公報
【特許文献7】特許2004−64903号公報
【特許文献8】特許2005−45848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、大きさを有する電圧ベクトルが採用される期間が所定値よりも短いときに、この期間を増大させる補正を行っている。これは、直流電流を検出する期間を確保するために行われている。しかしながら、電圧ベクトルが採用される期間が所定値よりも短い場合、当該期間の全てに対してかかる補正を行うとインバータの出力する線間電圧および線電流に生じる歪みが顕著となる。
【0006】
そこで、本発明は、線間電圧及び線電流の歪みを低減しつつ線電流を検出できる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様は、それぞれ線電流(iu,iv,iw)が流れる3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、直流電流(Idc)が流れる第1及び第2の直流線(LH,LL)と、前記交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる下側スイッチング素子(S4〜S6)と、前記上側スイッチング素子および前記下側スイッチング素子へとスイッチング信号を出力して、所定周期において、前記交流線のうち、1つの交流線のみが前記第1及び前記第2の直流線の一方と導通し、2つの交流線が他方と導通する6つのスイッチングパターンのうち、第1のスイッチングパターンを第1の期間に渡って採用し、前記6つのスイッチングパターンのうち前記第1のスイッチングパターンとは異なる第2のスイッチングパターンを第2の期間に渡って採用し、前記交流線の全てが前記第1の直流線もしくは前記第2の直流線と導通する第3のスイッチングパターンを第3の期間に渡って採用するスイッチング信号生成部(31)と、前記直流電流(Idc)を検出する直流電流検出部(4)と、前記直流電流の平均値(Idc_ave)を取得する直流電流平均値取得部(5,33)と、前記第1の期間が所定期間より長くかつ前記第2の期間が前記所定期間よりも短いときに、前記第1の期間に流れる前記直流電流を前記直流電流検出部を用いて検出し、前記直流電流の前記平均値の前記所定の周期における積分が前記第1及び前記第2の期間に流れる前記直流電流の積分と等しいという関係に基づいて、前記第2の期間に流れる直流電流を算出し、前記第1の期間に流れる前記直流電流を、前記第1のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち1つの線電流として推定し、前記第2の期間に流れる前記直流電流を、前記第2のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち他の1つの線電流として推定する、線電流取得部(31)とを備える。
【0008】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様は、第1の態様にかかる電力変換装置であって、前記直流電流平均値取得部(33)は、前記第1及び前記第2の期間のいずれもが前記所定期間より長いときに、前記第1の期間において検出された前記直流電流と前記第1の期間との乗算値と、前記第2の期間において検出された前記直流電流と前記第2の期間との乗算値との和を前記周期で除算して、前記直流電流の前記平均値を算出する。
【0009】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様は、第1又は第2の態様にかかる電力変換装置であって、前記スイッチング信号生成部(31)は、前記第1の期間を補正する補正部(311)を有し、前記第1及び前記第2の期間のいずれもが前記所定期間よりも短いときに、前記スイッチング信号生成部(31)は前記所定期間以上の値に補正された前記第1の期間において前記第1のスイッチングパターンを採用し、前記線電流取得部(32)は、補正された前記第1の期間に流れる前記直流電流を前記直流電流検出部によって検出し、前記直流電流の前記平均値の前記所定の周期における積分が前記第1及び前記第2の期間に流れる前記直流電流の積分と等しいという関係に基づいて、前記第2の期間に流れる直流電流を算出し、前記第1の期間に流れる前記直流電流を、前記第1のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち1つの線電流として推定し、前記第2の期間に流れる前記直流電流を、前記第2のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち他の1つの線電流として推定する。
【0010】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様は、第3の態様にかかる電力変換装置であって、補正前の前記第1の期間は前記第2の期間よりも長い。
【0011】
本発明にかかる電力変換装置の第5の態様は、第3又は第4の態様にかかる電力変換装置であって、前記スイッチング信号生成部(31)は前記第1の期間を増大させた分だけ低減された前記第3の期間において前記第3のスイッチングパターンを採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様によれば、第2の期間が所定期間よりも短いために第2期間における直流電流を適切な精度で検出できない場合であっても、第2の期間を増大する補正を行うことなく、第2の期間における直流電流を推定することができ、ひいては所定周期において流れる2つの線電流を得ることができる。したがって、第2の期間を増大する補正を行う場合に比べて、交流線の線間電圧および線電流の歪みを低減して2つの線電流を検出できる。
【0013】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様によれば、直流電流を平均化する積分回路等が不要となり、製造コストを低減できる。
【0014】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様によれば、第1及び第2の期間の両方を所定期間以上の値に補正する場合に比べて、交流線の線間電圧および線電流の歪みを低減して、2つの線電流を検出できる。
【0015】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様によれば、第1及び第2の期間のうち小さいほうを補正する場合に比して、交流線の線間電圧及び線電流の歪みを低減することができる。
【0016】
本発明にかかる電力変換装置の第5の態様によれば、第2の期間を低減する場合に比べて、交流線の線間電圧および線電流の歪みを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】インバータの概念的な構成の一例を例示する図である。
【図2】インバータの概念的な構成の一例を例示する図である。
【図3】電圧ベクトル図である。
【図4】インバータを流れる電流を示す図である。
【図5】インバータを流れる電流を示す図である。
【図6】インバータを流れる電流を示す図である。
【図7】インバータを流れる電流を示す図である。
【図8】インバータを流れる電流を示す図である。
【図9】インバータを流れる電流を示す図である。
【図10】インバータを流れる電流を示す図である。
【図11】インバータを流れる電流を示す図である。
【図12】スイッチング素子の導通/非導通と、直流電流との模式的な一例を示す図である。
【図13】スイッチング素子の導通/非導通と、直流電流との模式的な一例を示す図である。
【図14】電圧ベクトル図である。
【図15】線電流取得方法の一例を示すフローチャートである。
【図16】期間の補正方法の一例を示すフローチャートである。
【図17】インバータの概念的な構成の一例を例示する図である。
【図18】線電流取得方法の一例を示すフローチャートである。
【図19】インバータの概念的な構成の一例を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の実施の形態.
<構成>
図1に示すように、電力変換装置1は直流線LH,LL及び交流線Pu,Pv,Pwと接続される。電力変換装置1は例えばインバータであって、直流線LH,LLの間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して、当該交流電圧を交流線Pu,Pv,Pwへと出力する。ここでは直流線LLに印加される電位は直流線LHに印加される電位よりも低い。なお電力変換装置1はインバータに限らず、交流線Pu,Pv,Pwに印加される交流電圧を直流電圧に変換して、当該直流電圧を直流線LH,LLに出力するコンバータであってもよい。以下では、代表的に電力変換装置1をインバータとして説明する。
【0019】
インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。スイッチング素子S1〜S3は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LHとの間に設けられる。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼び、スイッチング素子S1〜S3を纏めて上側のスイッチング素子群とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ交流線Pu,Pv,Pwに接続され、ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続される。
【0020】
各スイッチング素子S4〜S6は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LLとの間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼び、スイッチング素子S4〜S6を纏めて下側のスイッチング素子群とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6のアノードは直流線LLに接続され、ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続される。なお、ダイオードD1〜D6はスイッチング素子S1〜S6の寄生ダイオードであってもよい。
【0021】
かかるスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチング信号Sが与えられる。かかるスイッチング信号Sにより各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチング信号Sを与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ1の制御については後に詳述する。
【0022】
インバータ1は例えば誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は交流線Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷2は例えばモータである。インバータ1によって誘導性負荷2に交流電圧が印加されれば、誘導性負荷2に略正弦波状の交流電流が流れる。理想的には交流線Pu,Pv,Pwにはそれぞれ正弦波状の線電流iu,iv,iwが流れる。これによって誘導性負荷2が駆動される。ここでは、インバータ1から誘導性負荷2へと流れる線電流の方向を正、誘導性負荷2からインバータ1へと流れる線電流の方向を負とそれぞれ定義する。
【0023】
直流線LH,LLに流れる直流電流Idcは直流電流検出部4によって検出され、制御部3へと出力される。図1の例示では直流電流検出部4は直流線LLに設けられている。なお直流電流検出部4は直流線LHに設けられても良い。
【0024】
直流電流検出部4は例えばシャント抵抗R41と検出部41とを備えている。図1の例示ではシャント抵抗R41は直流線LLに設けられている。検出部41は例えばシャント抵抗R41に印加される電圧を検出して、シャント抵抗R41の抵抗値と、検出した電圧とに基づいて直流電流Idcを得る。検出部41はかかる直流電流Idcの値(以下、簡単のため値自体をも直流電流Idcとして表す。他の諸量も同様)を制御部3に出力する。なお検出部41がシャント抵抗R41の電圧を検出して制御部3に出力し、制御部3が直流電流Idcを算出しても良い。また直流電流検出部4はシャント抵抗を用いて検出する必要はなく、任意の直流電流検出センサーが採用されえる。例えばホールCTなどの電流センサーを用いても良い。
【0025】
また直流電流Idcの平均値(以下、直流電流平均値と呼ぶ)Idc_aveを取得する直流電流平均値取得部5が設けられる。直流電流平均値取得部5は例えばシャント抵抗R41と検出部51とを備える。検出部51は例えば抵抗及びコンデンサからなる平滑回路などの一次フィルタであって、シャント抵抗R41に流れる直流電流Idcを平均化し、これを直流電流平均値Idc_aveとして制御部3に出力する。なお、検出部51がシャント抵抗R41の電圧を制御部3に出力し、制御部3が直流電流平均値Idc_aveを算出しても良い。
【0026】
なお直流電流平均値取得部5は必ずしもシャント抵抗R41に流れる直流電流Idcを検出してこれを平均化する必要はなく、例えば図2に例示するように検出部41から入力される直流電流Idcを平均化してもよい。
【0027】
制御部3はスイッチング信号生成部31と線電流取得部32とを備えている。線電流取得部32には直流電流Idcと直流電流平均値Idc_aveとスイッチング信号Sとが入力される。線電流取得部32はこれらを用いて3相の線電流iu,iv,iwを取得する。具体的な取得方法は後に詳述する。
【0028】
スイッチング信号生成部31はスイッチング信号Sを生成する。かかるスイッチング信号Sは例えば次のように生成される。即ち、例えば線電流取得部32によって算出された線電流iu,iv,iwに基づいて交流線Pu,Pv,Pwにそれぞれ印加する相電圧Vu,Vv,Vwについての相電圧指令値を生成し、かかる相電圧指令値とキャリア波形との比較によって生成される。線電流iu,iv,iwに基づく相電圧指令値の生成および相電圧指令値とキャリア波形との比較に基づくスイッチング信号Sの生成は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
【0029】
図1の例示では、スイッチング信号生成部31は補正部311を備えている。補正部311の詳細については後述するものの、必須要件ではない。
【0030】
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0031】
<インバータ1の制御>
インバータ1はスイッチング信号Sによって以下で述べるように制御される。まず、同じ交流線に接続される上側のスイッチング素子および下側のスイッチング素子は相互に排他的に導通する。即ち、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、直流線LH,LLが短絡して各スイッチング素子S1〜S6に大電流が流れることを防止するためである。
【0032】
したがって、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンとして8種類のパターンが存在する。上側および下側のスイッチング素子が導通することをそれぞれ「1」「0」で示し、各相のスイッチングパターンを並べて表すと、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンは次の8種類である。即ち、スイッチングパターンは、(000)(001)(010)(011)(100)(101)(110)(111)である。例えば下側のスイッチング素子S4,S5が導通し、上側のスイッチング素子S3が導通するときにはスイッチングパターン(001)が採用される。
【0033】
また、これらのスイッチングパターンが採用されるときにインバータ1が出力する電圧(交流線Pu,Pv,Pwに印加される電圧)についてのベクトルを、上記数字の並びを2進数の数字と把握し、これを10進数で表して、それぞれ電圧ベクトルV0〜V7と表す。
【0034】
図3は電圧ベクトルV0〜V7の位置関係を示す電圧ベクトル図である。各電圧ベクトルV1〜V6はこれらの始点を中心点に一致させそれらの終点を放射状に外側に向けて配置される。各電圧ベクトルV1〜V6の終点同士を結ぶと正六角形を構成する。電圧ベクトルV0,V7に対応するスイッチングパターンでは交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡されるので、電圧ベクトルV0,V7は大きさを有さない。よって電圧ベクトルV0,V7は中心点に配置される。以下では電圧ベクトルV0,V7を零電圧ベクトルとも呼び、電圧ベクトルV1〜V6を非零電圧ベクトルとも呼ぶ。なお、上述の説明から理解できるように、非零電圧ベクトルV1〜V6においては、交流線Pu,Pv,Pwのうち、1つの交流線が直流線LH,LLの一方と導通し、2つの交流線が他方と導通する。また零電圧ベクトルV0,V7においては、交流線Pu,Pv,Pwの全てが直流線LHまたは直流線LLと導通する。以下では、図3に例示するように、非零電圧ベクトルのうち周方向で隣り合う二者の間の領域を領域R1〜R6と呼ぶ。
【0035】
さて制御部3は、各領域R1〜R6を構成する2つの非零電圧ベクトルVi,Vj(i,j=1〜6,i≠j)と零電圧ベクトルV0(或いは電圧ベクトルV7)とを所定周期Tにおいて適宜に採用する。換言すれば、6つのスイッチングパターン(001)(010)(011)(100)(101)(110)のうち互いに異なる2つのスイッチングパターンと、スイッチングパターン(000)(或いはスイッチングパターン(100))が所定周期において採用される。所定周期Tにおける平均的な電圧ベクトルVは各電圧ベクトルの合成で表される。よって以下では電圧ベクトルVを合成電圧ベクトルと呼ぶ。例えば所定周期Tにおいて領域R1を構成する電圧ベクトルV0,V4,V6がそれぞれ期間t0,t4,t6(t0,t4,t6≧0,T=t0+t4+t6)に渡って採用される。言い換えれば、期間t0,t4,t6においてそれぞれスイッチングパターン(000)(100)(110)が採用される。このときの合成電圧ベクトルVは次式で表される。
【0036】
V=(t0・V0+t4・V4+t6・V6)/T ・・・(1)
【0037】
制御部3は所定周期T毎に期間t0,t4,t6を適宜に調整して電圧ベクトルV0,V4,V6を採用することで、電圧ベクトルVをその大きさを一定に保ちつつも、領域R1内において中心点を中心として電圧ベクトルVの方向を回転させることができる。同様にして、制御部3が領域R2内において電圧ベクトルV0(V7),V2,V6を適宜に採用する。領域R3〜R6内においても同様である。これによって合成電圧ベクトルVを、その大きさを一定に保ちつつも、その方向を回転させることができる。よって交流線Pu,Pv,Pwには三相交流電圧が出力されることになる。なお、合成電圧ベクトルVの大きさが交流線Pu,Pv,Pwから出力される三相交流電圧の振幅に相当し、角速度の逆数が三相交流電圧の周期に相当する。よって大きさも角速度も一定であれば当該三相交流電圧は対称三相交流電圧となる。
【0038】
以上のように、制御部3は所定周期T毎に互いに異なる非零電圧ベクトルVi,Vjと零電圧ベクトルとをそれぞれ期間ti(≧0),tj(≧0),t0(或いはt7、或いはt0+t7)に渡って採用する。言い換えれば、上側および下側のスイッチング素子群の一方に属するスイッチング素子の2つと他方に属するスイッチング素子の一つとが導通するスイッチングパターン(001)(010)(011)(100)(101)(110)のうち、互いに異なる2つのスイッチングパターンがそれぞれ期間ti,tjに渡って採用され、上側および下側のスイッチング素子群の一方のみに属する3つのスイッチング素子を導通させるスイッチパターン(000)(100)のうち少なくともいずれか一つがそれぞれ少なくとも期間t0,t7に渡って採用される。
【0039】
<線電流の算出方法>
上述の各スイッチングパターンが採用されているときにインバータ1に流れる電流について考察する。なお上述の通りスイッチングパターンは電圧ベクトルと対応するので、以下では電圧ベクトルを用いて説明する。図4〜図11はそれぞれ電圧ベクトルV0〜V7が採用されたときのインバータ1に流れる電流を示している。図4,11に示すように零電圧ベクトルV0,V7が採用されている場合は、交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡するので、直流線LH,LLには直流電流Idcが流れない。
【0040】
図5に示すように非零電圧ベクトルV1が採用されるときには上側のスイッチング素子S3と下側のスイッチング素子S4,S5とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcはスイッチング素子S3を経由して線電流iwとして交流線Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iwは誘導性負荷2において分岐する。分岐された2つの電流は線電流iu,ivとしてそれぞれ交流線Pu,Pvを負の方向に流れる。線電流iu,ivはそれぞれスイッチング素子S4,S5を経由して直流線LLにおいて合流し、直流電流Idcとして流れる。したがって、非零電圧ベクトルV1が採用されているときには直流電流Idcは線電流iwと等しい。
【0041】
また図7に示すように非零電圧ベクトルV3が採用されるときには、上側のスイッチング素子S2,S3と下側のスイッチング素子S4とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcは分岐してそれぞれスイッチング素子S2,S3を経由して線電流iv,iwとして交流線Pv,Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iv,iwは誘導性負荷2において合流して線電流iuとして交流線Puを負の方向に流れる。線電流iuはスイッチング素子S4を経由して直流電流Idcとして直流線LLを流れる。したがって、非零電圧ベクトルV3が採用されているときには直流電流Idcは負の線電流iuと等しい。以下では、負の線電流を表現すべく、その符号にマイナスを付与する。
【0042】
図6、図8〜図10に示すように、他の非零電圧ベクトルV2,V4〜V6が採用されるときにも直流電流Idcと線電流とが対応付けられる。図3には各非零電圧ベクトルに対応する線電流が符号と共に付記されている。
【0043】
図3に示されるように、非零電圧ベクトルV1〜V6が採用されているときには直流電流Idcは線電流iu,iv,iwのいずれかと対応する。したがって、直流電流Idcを、非零電圧ベクトルに基づいて決定される相の線電流として推定することができる。例えば非零電圧ベクトルV4が採用される期間において直流電流Idcを線電流iuとして検出する(図8も参照)。
【0044】
またインバータ1の制御について上述したように、所定周期T毎に非零電圧ベクトルVi,Vjがそれぞれ期間ti,tjに渡って採用される。しかも図3から理解できるように、各領域R1〜R6で採用される非零電圧ベクトルVi,Vjについて、直流電流Idcと一致する線電流の相は互いに異なる。例えば領域R1で採用される非零電圧ベクトルV4,V6について考慮すると、非零電圧ベクトルV4が採用される期間t4では直流電流Idcはu相の線電流と対応し、非零電圧ベクトルV6が採用される期間t6直流電流Idcはw相の線電流−iwと対応する。したがって所定周期T内の期間ti,tjにおいて直流電流Idcをそれぞれ異なる2相の線電流として検出することができる。3相の線電流iu,iv,iwの総和は零であるので、検出した2相の線電流から残りの1相の線電流を算出することができる。よって所定周期T毎に3相の線電流が算出される。
【0045】
しかしながら実際には期間ti,tjの少なくともいずれか一方が直流電流Idcを検出するために必要な期間よりも短い場合が生じ、その期間において適切に直流電流Idcを検出できない。この点について以下に説明する。
【0046】
図12は所定周期Tにおけるスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通と直流電流Idcの一例を示している。図12の例示では、期間t0,t4,t6,t7に渡ってそれぞれ電圧ベクトルV0,V4,V6,V7が採用されている。即ち、図12は領域R1における一例を示している。さて図12の例示では所定周期Tの始期においてスイッチング素子S1〜S3は非導通である。そして、所定周期Tの始期から期間t0が経過したときにスイッチング素子S1が導通し、スイッチング素子S1が導通を開始した時点から期間t4が経過したときにスイッチング素子S2が導通し、スイッチング素子S2が導通を開始した時点から期間t6が経過したときにスイッチング素子S3が導通している。
【0047】
そして図12に例示するように、直流電流Idcはスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通の切り替えによって過渡的には脈動する。かかる過渡的な脈動は期間の経過と共に低減して直流電流Idcは安定する。なお図12の例示では脈動から安定までの期間が期間t11で表されている。一般的には、このような期間t11を避けて直流電流Idcが検出される。
【0048】
しかしながら図13に例示するように期間t6が期間t11よりも短ければ、適切な精度で期間t6における直流電流Idcを検出できない。
【0049】
また検出した直流電流Idcの値をアナログからデジタルに変換する場合であれば、かかる変換にも期間t13を要する。したがって、たとえ過渡的な脈動が非常に小さく期間t11が無視できる程度に小さいとしても、期間t6が期間t13よりも短いときにはその期間t6において直流電流Idcを検出できない。
【0050】
一方、図13の例示では期間t4は直流電流Idcの検出に必要な期間tref(図13の例示では期間t11,t13の和)よりも長い。よって、期間t4のうち最初の期間t11と最後の期間t13を除いた期間t12において直流電流Idcの検出することで、適切な精度で直流電流Idcを検出できる。よって図13の例示では所定周期Tにおいて1相の線電流iuの値を取得することができるものの、他の2相の線電流iv,iwを適切な精度で取得できない。また例えば所定周期Tにおいて期間ti,tjの両方が期間trefよりも短いときには、所定周期Tにおいて1相の線電流すら適切な精度で検出できない。
【0051】
なお特許文献1ではこのような事態を回避すべく、期間ti,tjが期間trefよりも短いときにはその期間を増大させる補正を行っている。
【0052】
さて期間ti,tjが期間trefよりも短いという事象は、例えば合成電圧ベクトルVが各非零電圧ベクトルV1〜V6の近傍に位置する、若しくは零電圧ベクトルV0の近傍に位置するときに生じる。例えば図14を参照して、合成電圧ベクトルVが領域R1に位置して非零電圧ベクトルV4の近傍に位置する場合、期間t6が期間trefよりも短い。図14では、期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短い領域を斜線のハッチングで示し、期間ti,tjの両方が期間trefよりも短い領域を砂地のハッチングで示している。
【0053】
図15は本実施の形態にかかる線電流取得方法のフローチャートの一例を示している。図15のフローチャートは例えば所定周期T毎に繰り返し実行される。ここでは所定周期Tを有して連続する期間の各々として期間T[k](kは自然数)を定義して説明する。ステップST1にて、線電流取得部32は、ある期間T[k−1]において、例えば次の期間T[k]において期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短いかどうかを推定する。かかる推定は例えば次のようにして行われる。即ち、例えば期間T[k]において出力されるスイッチング信号Sが、期間T[k−1]においてスイッチング信号生成部31から線電流取得部32へと入力される。線電流取得部32はスイッチング信号Sに基づいて次の期間T[k]における期間ti,tjを求め、期間ti,tjの各々と期間trefとを比較して推定する。
【0054】
なお、図15の例示では、ステップST1にて、線電流取得部32は、期間ti,tjの両方が期間trefよりも小さいかどうかの第1推定と、期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短いかどうかの第2推定と、期間ti,tjの両方が期間trefよりも長いかどうかの第3推定とを実行している。換言すれば、線電流取得部32は、期間ti,tjの両方が期間trefよりも小さい場合aと、期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短い場合bと、期間ti,tjの両方が期間trefよりも長い場合cとに場合分けしている。ただし、本実施の形態における最上位概念では第2推定において肯定的な推定がなされた場合の動作が行われれば良い。
【0055】
さて、ステップST1の第2推定において肯定的な推定がなされれば、ステップST2にて線電流検出部32は次のようにして1相の線電流を検出する。まず線電流検出部32は、期間T[k]内における期間ti,tjのうち期間trefよりも長い期間において、直流電流検出部4を用いて直流電流Idcを検出する。ここでは期間tiが期間trefよりも長いと仮定して説明する。よってステップST2において期間tiにおける直流電流Idcが検出される。図13の例示では期間t4において直流電流Idcが検出される。そして、線電流検出部32は検出された直流電流Idcを、非零電圧ベクトルViに基づいて決定される相の線電流と推定する。図13の例示では直流電流Idcをu相の線電流iuと推定する。
【0056】
次に、ステップST3にて線電流取得部32は次の関係に着目して他の1相の線電流を検出する。即ち直流電流平均値Idc_aveの所定周期Tにおける積分は、期間tiにおける直流電流Idcの積分と期間tjにおける直流電流Idcの積分との和と等しい、という関係を着目する。これに基づいて次式が成立する。
【0057】
T・Idc_ave=ti・Idci+tj・Idcj ・・・(2)
【0058】
ここでIdciは期間tiにおける直流電流Idcを示し、Idcjは期間tjにおける直流電流Idcを示す。式(2)を直流電流Idcjについて整理すると次式が導かれる。
【0059】
Idcj=(T・Idc_ave−ti・Idci)/tj ・・・(3)
【0060】
線電流取得部32は式(3)に基づいて直流電流Idcjを算出する。なおここで採用する直流電流平均値Idc_aveは、期間T[k−1]以前の所定期間における平均値であることが望ましい。そして、線電流取得部32は、算出した直流電流Idcjを非零電圧ベクトルVjに基づいて決定される相の線電流と推定する。例えば図13の例示では、算出された直流電流Idcがw相の線電流−iwと推定される。このとき線電流iwの値としては算出した直流電流Idcの符号を負にした値が採用される。これによって、2相の線電流が取得される。そして、3相の線電流の和が零であるという関係に基づいて2相の線電流から残りの1相の線電流を求めることができる。
【0061】
なお、図15の例示では、ステップST2において1相の線電流、ステップST3において他の1相の線電流をそれぞれ取得しているが、ステップST2,ST3において直流電流Idci,Idcjを得た後に、それぞれ直流電流Idci,Idcjから2相の線電流を推定しても良い。この点は後述する説明においても同様である。
【0062】
以上のように、たとえ期間tjが期間trefを下回っていたとしても、この期間tjを期間tref以上の値まで増大させる補正を行うことなく、所定周期Tにおいて線電流iu,iv,iwを得ることができる。一方、例えば特許文献1のように期間tjを増大させれば、期間tjに対応してインバータ1が出力する線間電圧に歪みが生じる。例えば期間t6においてはスイッチングパターン(110)が採用されるので、相電圧Vu,Vvは高電位を採り、相電圧Vwは低電位を採る。よって期間t6において線間電圧Vuv(=Vu−Vv)は零を採り、線間電圧Vvw(=Vv−Vw)は直流電圧Vdc(直流線LH,LLの間の電圧)を採り、線間電圧Vvw(=Vv−Vw)は直流電圧Vdcを負にした値を採る。期間t6が増大されると、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuが上記の値を採る期間が延びて線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの波形が歪む。ひいては線電流に歪みが生じる。他方、本線電流取得方法によればかかる歪みを抑制して線電流iu,iv,iwを取得することができる。これを図14の電圧ベクトル図に対応させて説明すると、斜線で示された領域において期間ti,tjの補正を行う必要がなく、この領域における相電圧および線電流をゆがみが低減される。
【0063】
なお、線電流の検出精度という観点では、期間T[k−1]以前の直流電流平均値Idc_aveと期間T[k]における直流電流平均値Idc_aveとの差異は小さいことが望ましい。上述の線電流取得方法では、期間T[k]の直流電流平均値Idc_aveを期間T[k−1]以前の直流電流平均値Idc_aveと見なしているからである。当該差異を小さくすることは、例えばモータを略一定速度で運転することで実現できる。他方、この場合には必ずしも期間T[k−1]以前の直流電流平均値Idc_aveが採用される必要はなく、例えば平均化回路によって検出された、ステップST3が実行される時点より前の直流電流平均値Idc_aveが、採用されてもよい。
【0064】
また上述のように図15の例示では、ステップST1にて線電流取得部32は期間ti,tjの両方が期間trefよりも短いかどうかの第1推定を実行している。ステップST1の第1推定において肯定的な推定がなされると、ステップST4にて補正部311は期間ti,tjのいずれか一方のみを期間tref以上の値に補正する。かかる補正は公知の任意の方法によって実現される。例えば相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*とキャリアとの比較によってスイッチング信号Sを生成する場合は、期間tiが増大するように指令値Vu*,Vv*,Vw*を補正すればよい。これによってスイッチング信号生成部31は補正後の期間において対応する電圧ベクトルを採用することになる。
【0065】
次に上述したステップST2を実行して1相の線電流を取得する。ステップST2においては、線電流取得部32は、期間ti,ijのうちステップST4にて補正された期間に流れる直流電流を、直流電流検出部4を用いて検出して1相の線電流を取得する。そして、ステップST3にて、残りの期間における直流電流を算出して他の1相の線電流を取得する。これによって、例えば特許文献1のように期間ti,tjの両方を期間tref以上の値に補正する場合に比べて、インバータ1が出力する線間電圧および線電流の歪みを低減して3相の線電流を得ることができる。これを図14の電圧ベクトル図に対応させて説明すると、砂地の領域において期間ti,tjのいずれか一方のみを補正すればよく、期間ti,tjの両方を補正する場合に比べて、この領域における線間電圧および線電流の歪みを低減できる。
【0066】
なおステップST4にて、補正部311は期間ti,tjのうちより大きい方の期間を期間tref以上の値まで増大させる補正を行うことが望ましい。例えば図16に例示するように、ステップST11にて、補正部311は期間ti,tjの大小関係を比較する。ステップST11にて期間tiが期間tjよりも長いときには、ステップST12にて補正部311は期間tiを所定期間tref以上に補正する。ステップST11にて期間tjが期間tiよりも長いときには、ステップST13にて期間tjを所定期間tref以上に補正する。なお、期間ti,tjが互いに等しいときにはステップST12,ST13のいずれが実行されてもよい。これによって、インバータ1が出力する線間電圧および線電流の歪みを抑制することができる。
【0067】
また期間ti,tjのいずれか一方を増大させた分だけ、零電圧ベクトルが採用される期間を低減させることが望ましい。これは、大きさを有さない零電圧ベクトルの期間を低減する方が、大きさを有する非零電圧ベクトルが採用される期間が低減される場合に比べて線間電圧および線電流の歪みが小さいからである。
【0068】
また図15の例示では、上述したようにステップST1にて、線電流取得部32は期間ti,tjの両方が期間trefよりも長いかどうかの第3推定を実行している。ステップST1の第3推定において肯定的な推定がなされると、ステップST5にて期間ti,tjにおいて検出された直流電流Idcを、それぞれ非零電圧ベクトルVi,Vjに基づいて決定される相の線電流として推定する。そして、これらの2相の線電流から残りの一相の線電流を算出する。これによって、3相の線電流を得ることができる。なお、ステップST5において必ずしも期間ti,tjの両方で直流電流Idcを検出する必要はない。期間ti,tjのいずれか一方で直流電流Idcを検出し、他方における直流電流Idcを式(3)に基づいて算出しても良い。
【0069】
第2の実施の形態.
図17の例示では、図1の例示と比較して、制御部3が直流電流平均値取得部33を備えている。直流電流平均値取得部33には直流電流検出部4からの直流電流Idcとスイッチング信号生成部31からのスイッチング信号Sとが入力されて、これらに基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出する。具体的な算出方法は後に詳述する。
【0070】
図18は本実施の形態にかかる線電流取得方法のフローチャートの一例を示している。図15のフローチャートと相違する点として、ステップST5の次にステップST6が実行される。即ち、ステップST6は期間ti,tjのいずれもが期間trefよりも長いときに実行される。
【0071】
ステップST6においては、直流電流平均値取得部33は式(2)に基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出する。式(2)を直流電流平均値Idc_aveについて整理すると次式が導かれる。
【0072】
Idc_ave=(ti・Idci+tj・Idcj)/T ・・・(4)
【0073】
直流電流平均値取得部33は式(4)に基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出する。ここで、期間ti,tjおよび直流電流Idci,Idcjの取得は、図15を参照して説明したステップST1,ST5と同様の動作を直流電流平均値取得部33が行うことによって実現される。一方で線電流取得部32はステップST5にて期間ti,tjおよび直流電流Idci,Idcjを取得しているので、これらを直流電流平均値取得部33へと与えても良い。これによって線電流取得部32と直流電流平均値取得部33とで重複した演算を省略できる。
【0074】
また式(4)に基づく直流電流平均値Idc_aveの算出(ステップST6)と、非零電圧ベクトルVi,Vjに基づいて決定される相の線電流の推定(ステップST5)とのいずれを先に実行しても構わない。
【0075】
このような電力変換装置によれば、直流電流平均値Idc_aveが制御部3の演算機能によって算出される。したがって第1の実施の形態のように、例えば一次フィルタによって構成される直流電流取得部5を設ける必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0076】
図19に例示では、図17の例示と比較して直流電圧検出部6が更に設けられている。直流電圧検出部6は直流線LH,LLの間の直流電圧Vdcを検出する。また図19の例示では、直流線LH,LLの間に平滑コンデンサC1が設けられている。直流電圧検出部6は例えば平滑コンデンサC1の両端電圧を検出する。
【0077】
かかる電力変換装置においても、図18のステップST6において、直流電流平均値Idc_aveが算出される。より詳細には、ステップST6にて直流電流平均値取得部33は次の関係に着目して直流電流平均値Idc_aveを算出する。インバータ1の入力側の電力と出力側の電力とが等しいという関係に着目する。出力側の電力をPoutとすれば、直流電流平均値Idc_aveは次式で表される。
【0078】
Idc_ave=Pout/Vdc ・・・(5)
【0079】
直流電圧Vdcは直流電圧検出部6によって検出されるので既知である。一方、出力側の電力Poutは以下の3つの式で表すことができる。
【0080】
Pout=Vα・iα+Vβ・iβ ・・・(6)
Pout=Vd・id+Vq・iq ・・・(7)
Pout=3Vrms・Irms・cosθ ・・・(8)
【0081】
ここで、Vα,Vβは固定座標系の二軸、いわゆるα軸とβ軸の電圧をそれぞれ表し、iα,iβはα軸の電流とβ軸の電流とをそれぞれ表している。Vd,Vqは回転座標系の二軸、いわゆるd軸とq軸の電圧をそれぞれ表し、id,iqはd軸の電流とq軸の電流とをそれぞれ表している。Vrms,Irmsはそれぞれ相電圧Vu,Vv,Vw及び線電流iu,iv,iwの実効値を表し、θは相電圧と線電流の位相差を表す。
【0082】
さて、電圧Vα,Vβ,Vd,Vq及び電流iα,iβ,id,iqは相電圧Vu,Vv,Vwおよび線電流iu,iv,iwに対して公知の変換(例えば絶対変換)を適用することによって求めることができる。また相電圧Vu,Vv,Vwは既知であると把握できる。なぜなら、例えば相電圧Vu,Vv,Vwの指令値を、相電圧Vu,Vv,Vw自身の近似値として把握し、これを採用すれば既知であり、或いは相電圧Vu,Vv,Vwを検出する検出部を設けることで既知となる。よって実効値Vrmsと相電圧の位相は既知である。一方、線電流iu,iv,iwはステップST5において取得できるので、その実効値Irmsおよび電流位相も既知である。よって実効値Vrms,Irmsは既知であり、位相差θも算出できる。
【0083】
以上のように、式(6)〜(8)の右辺で用いられる変数はいずれもステップST6の時点で取得可能である。したがって、直流電流平均値取得部33は、式(6)〜(8)のいずれかを式(5)に代入して得られる式に基づいて、直流電流平均値Idc_aveを算出する。このように制御部3の演算機能によって直流電流平均値Idc_aveを算出することができる。
【0084】
ただし図17と図19との比較から理解できるように、式(4)を用いた直流電流平均値Idc_aveの算出においては直流電圧検出部6が不要であり、製造コストが低い。
【符号の説明】
【0085】
1 インバータ
4 直流電流検出部
5,33 直流電流平均値取得部
31 スイッチング信号生成部
32 線電流取得部
LH,LL 入力線
Pu,Pv,Pw 交流線
S1〜S6 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ線電流(iu,iv,iw)が流れる3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、
直流電流(Idc)が流れる第1及び第2の直流線(LH,LL)と、
前記交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる上側スイッチング素子(S1〜S3)と、
前記交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる下側スイッチング素子(S4〜S6)と、
前記上側スイッチング素子および前記下側スイッチング素子へとスイッチング信号を出力して、所定周期において、前記交流線のうち、1つの交流線のみが前記第1及び前記第2の直流線の一方と導通し、2つの交流線が他方と導通する6つのスイッチングパターンのうち、第1のスイッチングパターンを第1の期間に渡って採用し、前記6つのスイッチングパターンのうち前記第1のスイッチングパターンとは異なる第2のスイッチングパターンを第2の期間に渡って採用し、前記交流線の全てが前記第1の直流線もしくは前記第2の直流線と導通する第3のスイッチングパターンを第3の期間に渡って採用するスイッチング信号生成部(31)と、
前記直流電流(Idc)を検出する直流電流検出部(4)と、
前記直流電流の平均値(Idc_ave)を取得する直流電流平均値取得部(5,33)と、
前記第1の期間が所定期間より長くかつ前記第2の期間が前記所定期間よりも短いときに、前記第1の期間に流れる前記直流電流を前記直流電流検出部を用いて検出し、前記直流電流の前記平均値の前記所定の周期における積分が前記第1及び前記第2の期間に流れる前記直流電流の積分と等しいという関係に基づいて、前記第2の期間に流れる直流電流を算出し、前記第1の期間に流れる前記直流電流を、前記第1のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち1つの線電流として推定し、前記第2の期間に流れる前記直流電流を、前記第2のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち他の1つの線電流として推定する、線電流取得部(31)と
を備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記直流電流平均値取得部(33)は、前記第1及び前記第2の期間のいずれもが前記所定期間より長いときに、前記第1の期間において検出された前記直流電流と前記第1の期間との乗算値と、前記第2の期間において検出された前記直流電流と前記第2の期間との乗算値との和を前記周期で除算して、前記直流電流の前記平均値を算出する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記スイッチング信号生成部(31)は、前記第1の期間を補正する補正部(311)を有し、
前記第1及び前記第2の期間のいずれもが前記所定期間よりも短いときに、前記スイッチング信号生成部(31)は前記所定期間以上の値に補正された前記第1の期間において前記第1のスイッチングパターンを採用し、
前記線電流取得部(32)は、補正された前記第1の期間に流れる前記直流電流を前記直流電流検出部によって検出し、前記直流電流の前記平均値の前記所定の周期における積分が前記第1及び前記第2の期間に流れる前記直流電流の積分と等しいという関係に基づいて、前記第2の期間に流れる直流電流を算出し、前記第1の期間に流れる前記直流電流を、前記第1のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち1つの線電流として推定し、前記第2の期間に流れる前記直流電流を、前記第2のスイッチングパターンに基づいて決定される前記線電流のうち他の1つの線電流として推定する、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
補正前の前記第1の期間は前記第2の期間よりも長い、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記スイッチング信号生成部(31)は前記第1の期間を増大させた分だけ低減された前記第3の期間において前記第3のスイッチングパターンを採用する、請求項3又は4に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−31312(P2013−31312A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166381(P2011−166381)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】