電力用ヒューズ
【課題】遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えながらも、I2t値の低減、コスト低減、小型化を図ることができる電力用ヒューズを提供する。
【解決手段】セラミック基板20上に導電膜22が形成されて構成され、導電膜22による複数の放熱部24と複数の遮断部26とが一体的に連続形成されたヒューズエレメント18を有する電力用ヒューズ10において、導電膜22は、セラミック基板20の表面に対する1回以上の印刷による印刷層32にて構成され、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が、遮断部26を構成する印刷層32の積層数以上である。
【解決手段】セラミック基板20上に導電膜22が形成されて構成され、導電膜22による複数の放熱部24と複数の遮断部26とが一体的に連続形成されたヒューズエレメント18を有する電力用ヒューズ10において、導電膜22は、セラミック基板20の表面に対する1回以上の印刷による印刷層32にて構成され、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が、遮断部26を構成する印刷層32の積層数以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に導電膜が形成されて構成され、導電膜による放熱部と遮断部とが一体的に連続形成された電力用ヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GTO(ゲートターンオフ)サイリスタやIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体スイッチングデバイスを保護するための電力用ヒューズは、主に速断特性が要求される。
【0003】
このような電力用ヒューズは、ヒューズエレメントを有し、該ヒューズエレメントがヒューズ筒中に消弧剤に埋められて収納されて構成されている。この種のヒューズエレメントとしてはプレス加工によるものと、エッチングによるものが知られている(特許文献1及び2参照)。プレス加工によるヒューズエレメントは、金属製のリボン、例えば銀(Ag)のリボンをプレス金型によって打ち抜くことによって、断面積が小とされた多数の狭小部が配列されて構成される。エッチングによるヒューズエレメントは、セラミック基板の上面に導電性薄膜(銅箔や銀箔等)が形成されて構成されている。導電性薄膜は、エッチングによるパターニングによって、断面積が小とされた多数の狭小部が配列された形態とされる。プレス加工によるヒューズエレメントは、導電性薄膜の厚み150μm、線幅150μmが限界であり、I2t値の低減、小型化に限界がある。これに対して、エッチングによるヒューズエレメントは、厚み及び線幅をより小さくすることができ、プレス加工によるヒューズエレメントよりも、I2t値の低減、小型化で期待できるが、コスト、量産時の製造ばらつき等の課題がある。ここで、I2t値は、遮断性能を示す代表値であり、遮断電流Iの二乗値(I2dt)を遮断時間0〜t(t:全遮断時間)で積分した値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−73331号公報
【特許文献2】特開2009−193723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エッチングによるヒューズエレメントの作製は、セラミック基板上に成膜された導電性薄膜の一部を、目的とする金属等を腐食溶解する性質を持つ液体の薬品を使って除去することで、所望の導体パターンを形成するようにしている。ヒューズエレメントに必要とされる導体パターンは、放熱部において厚さが100μm程度、遮断部において幅65〜100μm、厚さ25μm程度と高アスペクト比のパターンとなる。
【0006】
エッチングによるヒューズエレメントの作製は、以下のような問題がある。
(a) エッチング深さが深いとエッチマスクの真下にも腐食が進む(アンダーカット)ため、精度の高い微細加工が難しい。
(b) 薬品の温度や攪拌速度によってエッチングレートが変化するため、エッチングの再現性(導体パターンの再現性)に乏しい。
【0007】
結果的に、遮断部の導体パターンがセラミック基板上の位置によりばらつく、あるいはセラミック基板毎にもばらつきが発生する。
【0008】
これにより、各遮断部のパターン導体量のばらつき、さらにヒューズエレメント全体の抵抗値のばらつきが問題となり、I2t値がばらつく問題、定格電流のばらつき等の問題がある。
【0009】
上述の遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えるには、遮断部の幅の縮小化に限界が生じ、I2t値の低減、コスト低減、小型化を十分に図ることができないという問題がある。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えながらも、I2t値の低減、コスト低減、小型化を図ることができる電力用ヒューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1] 本発明に係る電力用ヒューズは、基体上に導電膜が形成されて構成され、前記導電膜による複数の放熱部と複数の遮断部とが一体的に連続形成されたヒューズエレメントを有する電力用ヒューズにおいて、前記導電膜は、前記基体の表面に対する1回以上の印刷による印刷層にて構成され、前記放熱部を構成する印刷層の積層数が、前記遮断部を構成する印刷層の積層数以上であることを特徴とする。
【0012】
これにより、狭小部の膜厚における遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えることができ、I2t値のばらつきも低減することができる。また、印刷方式を採用しているため、放熱部と遮断部とを別々に作ることができ、遮断部を構成する狭小部の厚みを、放熱部の厚みに依存することなく、任意にコントロールすることができる。これは、I2t値の低減につながる。しかも、コスト低減、小型化を図ることができる。
【0013】
[2] 本発明において、前記遮断部は、複数の狭小部が並列に並べられて構成され、複数の前記遮断部が直列に配置されて前記ヒューズエレメントが構成されていてもよい。
【0014】
[3] この場合、同じ形状の前記狭小部が並列に並べられて構成された前記遮断部を第1遮断部とし、複数の前記第1遮断部が直列に配置されて構成された第1ヒューズ部と、電流−溶断時間特性が前記第1ヒューズ部と異なる第2ヒューズ部とが同一の前記基体上において連続的に接続されて構成されていてもよい。これにより、例えば高電流の領域における電流に対する時間の傾きが、低電流の領域における電流に対する時間の傾きよりも大きい特性を得ることができる。
【0015】
[4] また、前記第2ヒューズ部は、前記第1ヒューズ部の前記第1遮断部とは、狭小部の形状、狭小部の幅、並列に並ぶ狭小部の数、印刷層の積層数のうち、少なくとも1つが異なる複数の第2遮断部が直列に配置されて構成されていてもよい。
【0016】
[5] また、前記第1ヒューズ部における前記第1遮断部の印刷層を構成する金属材料と、前記第2ヒューズ部における前記第2遮断部の印刷層を構成する金属材料とが異種のものとしてもよい。
【0017】
[6] 本発明において、少なくとも前記遮断部の表面に酸化防止膜が形成されていてもよい。これにより、少なくとも遮断部の酸化を防止することができ、長期の信頼性を維持させることができる。
【0018】
[7] 本発明において、少なくとも前記遮断部上にペースト状の消弧剤が印刷形成されていてもよい。これにより、消弧剤を収容するための内部空間を小さくすることができ、電力用ヒューズの大幅なる小型化に有効となる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る電力用ヒューズによれば、以下のような効果を奏する。
(1) 狭小部の膜厚における遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えることができ、I2t値のばらつきも低減することができる。
(2) 印刷方式を採用しているため、放熱部と遮断部とを別々に作ることができ、遮断部を構成する狭小部の厚みを、放熱部の厚みに依存することなく、任意にコントロールすることができる。これは、I2t値の低減につながる。
(3) (1)及び(2)により、コスト低減、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係る電力用ヒューズを示す断面図である。
【図2】電力用ヒューズに設けられるヒューズエレメントの導体パターンの一例を一部省略して示す平面図である。
【図3】ヒューズエレメントを一部省略して示す断面図である。
【図4】図4Aは消弧剤を溶剤によりペースト状にしたもの(以下、消弧剤ペーストという)を遮断部上に印刷形成した状態を一部省略して示す断面図であり、図4Bは消弧剤ペーストを遮断部及び放熱部上に印刷形成した状態を一部省略して示す断面図である。
【図5】第1の変形例に係るヒューズエレメント(第1ヒューズエレメント)〜第6の変形例に係るヒューズエレメント(第6ヒューズエレメント)の概略構成を示す平面図である。
【図6】図6Aは第1ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図6Bは第1ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図7】図7Aは第2ヒューズエレメントの第1ヒューズ部を一部省略して示す断面図であり、図7Bは第2ヒューズエレメントの第2ヒューズ部を一部省略して示す断面図である。
【図8】図8Aは第3ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図8Bは第3ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図9】図9Aは第4ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図9Bは第4ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図10】図10Aは第5ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図10Bは第5ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図11】図11Aは第6ヒューズエレメントの第1ヒューズ部を一部省略して示す断面図であり、図11Bは第6ヒューズエレメントの第2ヒューズ部を一部省略して示す断面図である。
【図12】第6ヒューズエレメントを用いた電力用ヒューズの溶断特性の一例を示すグラフである。
【図13】実施例1(図2及び図3参照)、比較例1及び2における動作特性(定格電流−動作I2t値特性)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る電力用ヒューズの実施の形態例を図1〜図13を参照しながら説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0022】
本実施の形態に係る電力用ヒューズ10は、図1に示すように、円筒状、角筒状等を有する例えば樹脂製の筐体12と、該筐体12の両側に設けられた金属製の第1端子部14a及び第2端子部14bと、筐体12内にけい砂等の消弧剤16と共に収容されたヒューズエレメント18とを有する。
【0023】
ヒューズエレメント18は、図2及び図3に示すように、アルミナ等の厚みが例えば1mm等のセラミック基板20と、該セラミック基板20上に形成された導電膜22とを有する。すなわち、ヒューズエレメント18は、セラミック基板20上に導電膜22が形成され、導電膜22による複数の放熱部24と複数の遮断部26とが一体的に連続形成されて構成されている。複数の放熱部24のうち、両側に位置する放熱部24は、それぞれ対応する端子部(図1に示す第1端子部14a及び第2端子部14b)に金属製の接続板28(図1参照)を介して電気的に接続される。従って、両側に位置する放熱部24を、第1端子接続部24a及び第2端子接続部24bと記す場合がある。また、第1端子接続部24aから第2端子接続部24bに向かう方向(又は第2端子接続部24bから第1端子接続部24aに向かう方向)を長さ方向(x方向)と記し、導電膜22上の長さ方向と直交する方向を幅方向(y方向)と記す。
【0024】
遮断部26は、図2に示すように、複数の狭小部30が並列(y方向)に並べられて構成され、複数の遮断部26が直列にx方向に配置されてヒューズエレメント18が構成されている。図2の例では、1つの遮断部26に対して32個の狭小部30が並列(y方向)に設けられ、複数の遮断部26がそれぞれ放熱部24を間に挟むようにして直列(x方向)に配置された例を示す。狭小部30の形状、特に、上面から見た側壁の形状はほぼ直線状とされている。
【0025】
導電膜22は、図2に示すように、セラミック基板20の表面に対する1回以上の印刷による印刷層にて構成され、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が、遮断部26を構成する印刷層32の積層数以上となっている。印刷層32としては、例えば銅ペーストや銀ペースト等のインクが用いられる。図2の例では、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が2、遮断部26を構成する印刷層32の積層数が1となっている。もちろん、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が、遮断部26を構成する印刷層32の積層数以上であれば、どのような組み合わせでも構わない。また、1層目の印刷層32aの厚みと2層目の印刷層32bの厚みを同じにしてもよいし、異ならせてもよい。図3の例では、セラミック基板20上に、第1回のスクリーン印刷によって、厚みが例えば20〜30μmの1層目の印刷層32aを形成し、その上に、第2回のスクリーン印刷によって、厚みが例えば75〜100μmの2層目の印刷層32bを形成した例を示す。1層目の印刷層32aの印刷形成時に、遮断部26を構成する複数の狭小部30も同時に形成される。従来のエッチングによる形成方法では、遮断部の厚みに相当するめっき層の形成を行った後、めっき層を選択的にエッチングして遮断部を形成し、その後、遮断部をマスキングして、放熱部となる部分に追加のめっき処理を行って放熱部を形成するようにしている。つまり、従来のエッチングによる形成方法では、めっき処理、エッチング処理という異なる処理を繰り返さなければならず、工程が煩雑であり、精度も悪いという問題がある。
【0026】
本実施の形態では、セラミック基板20上に、スクリーン印刷によって、放熱部24と遮断部26とを有する導電膜22を形成するようにしたので、上述したエッチングによる形成方法と異なり、容易に導電膜22を形成することができる。しかも、狭小部30及び放熱部24の上部が腐食することがないため、上述した所望のパターンを作製するにあたって、遮断部26間(又は放熱部24間)でのパターン形状(厚み等)のばらつきやヒューズエレメント18間でのパターン形状(厚み等)のばらつきを抑えることができ、高精度に導電膜22による導体パターンを作製することができる。
【0027】
つまり、狭小部30の膜厚における遮断部26間のばらつきやヒューズエレメント18間のばらつきを抑えることができ、I2t値のばらつきも低減することとなる。また、印刷方式を採用しているため、放熱部24と遮断部26とを別々に作ることができ、遮断部26を構成する狭小部30の厚みを、放熱部24の厚みに依存することなく任意にコントロールすることができる。これは、I2t値の低減につながる。これらのことから、電力用ヒューズ10のコスト低減、小型化を図ることができる。
【0028】
そして、上述したヒューズエレメント18において、その他の好ましい態様としては、少なくとも遮断部26の表面に酸化防止膜(CuO等)を形成することが挙げられる。この場合、例えば遮断部26の上面のみに対してCuO等のペーストをスクリーン印刷することによって、厚み数μm程度の酸化防止膜を形成する等の方法が好ましく採用される。これにより、少なくとも遮断部26の酸化を防止することができ、長期の信頼性を維持させることができる。
【0029】
また、好ましい態様としては、消弧剤16をペースト化してヒューズエレメント18の表面に印刷することが挙げられる。具体的には、図4Aに示すように、消弧剤(SiO2等)を溶剤によりペースト状(消弧剤ペースト34)にして、遮断部26上に印刷形成する。あるいは図4Bに示すように、消弧剤ペースト34を遮断部26及び放熱部24上に印刷形成する。一般に、電力用ヒューズ10の内部空間の大部分は消弧剤16によって占められている。実際に、消弧時に必要な部分は遮断部26の面に近接した部分のみであることから、上述のように、少なくとも遮断部26上に消弧剤ペースト34を印刷形成することで、消弧剤16を収容するための内部空間を小さくすることができ、電力用ヒューズ10の大幅なる小型化に有効となる。
【0030】
次に、ヒューズエレメント18のいくつかの変形例について図5〜図9Cを参照しながら説明する。
【0031】
第1の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第1ヒューズエレメント18aと記す)は、図5に示すように、第1端子接続部24aと第2端子接続部24bとの間に、第1ヒューズ部36Aと第2ヒューズ26Bとが中央の放熱部24cを介して連続的に接続(直列接続)されて構成されている。
【0032】
第1ヒューズ部36Aは、図6Aに一部省略して示すように、例えば32個の狭小部30が並列に設けられた複数の第1遮断部26Aが直列にx方向に配置された形態を有する(図2参照)。第2ヒューズ部36Bは、図6Bに一部省略して示すように、例えば32個の狭小部30が並列に設けられた複数の第2遮断部26Bが直列にx方向に配置された形態を有する。この場合、第1遮断部26Aの狭小部30の幅(y方向の長さ)daと第2遮断部26Bの狭小部30の幅dbが異なる。図6A及び図6Bの例では、第2遮断部26Bの狭小部30の幅dbが第1遮断部26Aの狭小部30の幅daよりも大とされている。
【0033】
第2の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第2ヒューズエレメント18bと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0034】
すなわち、図7A及び図7Bに示すように、第1遮断部26Aを構成する印刷層32の積層数と第2遮断部26Bを構成する印刷層32の積層数が異なる。図7A及び図7Bの例では、第1遮断部26Aを構成する印刷層32の積層数が1で、第2遮断部26Bを構成する印刷層32の積層数が2である場合を示している。
【0035】
第3の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第3ヒューズエレメント18cと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0036】
すなわち、図8A及び図8Bに示すように、第1遮断部26Aを構成する狭小部30の幅をda、該狭小部30の配列ピッチをPaとし、第2遮断部26Bを構成する狭小部30の幅をdb、該狭小部30の配列ピッチをPbとしたとき、
da=db
Pa<Pb
の関係を有する。
【0037】
第4の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第4ヒューズエレメント18dと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0038】
すなわち、図9A及び図9Bに示すように、第2遮断部26Bを構成する狭小部30の幅db及び配列ピッチが、第1遮断部26Aを構成する狭小部30の幅da及び配列ピッチよりも大きい。
【0039】
第5の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第5ヒューズエレメント18eと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0040】
すなわち、第1遮断部26Aの狭小部30の形状と第2遮断部26Bの狭小部30の形状とが異なる。図10A及び図10Bの例では、上面から見た狭小部30の側壁の形状は、第1遮断部26Aがほぼ直線状とされているのに対して、第2遮断部26Bは湾曲状とされている。なお、第1遮断部26Aの狭小部30の幅da(y方向の長さ)と第2遮断部26Bの狭小部30の最小幅dbは異なってもよいし、同じでもよい。
【0041】
第6の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第6ヒューズエレメント18fと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0042】
すなわち、図11A及び図11Bに示すように、第1遮断部26A及び第2遮断部26Bは共に印刷層32の積層数は同じであるが、第1遮断部26Aの印刷層32を構成する金属材料と、第2遮断部26Bの印刷層32を構成する金属材料とが異種のものとなっている。例えば第1遮断部26Aを銀ペーストによる印刷層32で構成し、第2遮断部26Bを銅ペーストによる印刷層32で構成すること等である。もちろん、第1遮断部26Aの印刷層32を構成する金属材料と、第2遮断部26Bの印刷層32を構成する金属材料とが異なればよく、ヒューズとして一般に使用される低融点の金属材料を組み合わせて使用することができる。
【0043】
上述の第1ヒューズエレメント18a〜第6ヒューズエレメント18bにおける第1遮断部26Aと第2遮断部26Bとを任意に組み合わせて新たなヒューズエレメントを作製してもよい。
【0044】
これら第1ヒューズエレメント18a〜第6ヒューズエレメント18fにおいては、第1ヒューズ部36Aと第2ヒューズ部36Bの溶断特性(電流−溶断時間特性)を変えることができる。特に、第6ヒューズエレメント18fにおいては、図12に示すように、第1電流値A1から第2電流値A2にかけての電流−溶断時間特性において、第2ヒューズ部36Bの電流に対する溶断時間の変化を、第1ヒューズ部36Aの場合よりも急峻にすることができる。
【0045】
その結果、第6ヒューズエレメント18fの全体的な電流−溶断時間特性として、図12の実線で示すように、高電流の領域における電流に対する時間の変化が、低電流の領域における電流に対する時間の変化よりも急峻な特性を得ることができる。
【実施例】
【0046】
次に、比較例1、2、実施例1について、動作特性(定格電流−動作I2t値特性)を確認した。実施例1、比較例1及び2における動作特性(定格電流−動作I2t値特性)を図13に示す。図13において、●のプロットで示す特性が実施例1であり、▲のプロットで示す特性が比較例1であり、○のプロットで示す特性が比較例2である。
【0047】
図13に示す比較例1の特性は、特許文献1の図3で示すパターンと同等のパターンをエッチングにて形成した市販品のデータである。
【0048】
図13に示す比較例2の特性は、銀のリボンのプレス加工にて製造された市販品のデータである。
【0049】
実施例1は、上述した本実施の形態に係る電力用ヒューズ10と同様の構成を有する電力用ヒューズのデータである。ヒューズエレメント18は、以下のようにして作製した。先ず、図3に示すように、セラミック基板20として、板厚が1mmのアルミナ基板を用い、このアルミナ基板上に、厚みが25μmの1層目の印刷層32a(銅ペーストによる印刷層)をスクリーン印刷にて形成した。このとき、図2に示すパターンにて印刷形成した。その後、1層目の印刷層32a上に、第2回のスクリーン印刷によって、厚みが75μmの2層目の印刷層32b(銅ペーストによる印刷層)を形成した。このとき、それぞれ放熱部24となる部分のみに2層目の印刷層32bを印刷形成した。
【0050】
図13の結果からもわかるように、実施例1は、比較例1及び2よりも動作特性が良好となっている。すなわち、実施例1に係る電力用ヒューズは、遮断部26間のばらつきやヒューズエレメント18間のばらつきを抑えながらも、I2t値の低減を図ることができ、並びにコスト低減、小型化を図ることができることがわかる。
【0051】
なお、本発明に係る電力用ヒューズは、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
10…電力用ヒューズ 12…筐体
16…消弧剤 18…ヒューズエレメント
18a〜18f…第1ヒューズエレメント〜第6ヒューズエレメント
20…セラミック基板 22…導電膜
24…放熱部 26…遮断部
26A…第1遮断部 26B…第2遮断部
30…狭小部 32…印刷層
34…消弧剤ペースト 36A…第1ヒューズ部
36B…第2ヒューズ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に導電膜が形成されて構成され、導電膜による放熱部と遮断部とが一体的に連続形成された電力用ヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GTO(ゲートターンオフ)サイリスタやIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体スイッチングデバイスを保護するための電力用ヒューズは、主に速断特性が要求される。
【0003】
このような電力用ヒューズは、ヒューズエレメントを有し、該ヒューズエレメントがヒューズ筒中に消弧剤に埋められて収納されて構成されている。この種のヒューズエレメントとしてはプレス加工によるものと、エッチングによるものが知られている(特許文献1及び2参照)。プレス加工によるヒューズエレメントは、金属製のリボン、例えば銀(Ag)のリボンをプレス金型によって打ち抜くことによって、断面積が小とされた多数の狭小部が配列されて構成される。エッチングによるヒューズエレメントは、セラミック基板の上面に導電性薄膜(銅箔や銀箔等)が形成されて構成されている。導電性薄膜は、エッチングによるパターニングによって、断面積が小とされた多数の狭小部が配列された形態とされる。プレス加工によるヒューズエレメントは、導電性薄膜の厚み150μm、線幅150μmが限界であり、I2t値の低減、小型化に限界がある。これに対して、エッチングによるヒューズエレメントは、厚み及び線幅をより小さくすることができ、プレス加工によるヒューズエレメントよりも、I2t値の低減、小型化で期待できるが、コスト、量産時の製造ばらつき等の課題がある。ここで、I2t値は、遮断性能を示す代表値であり、遮断電流Iの二乗値(I2dt)を遮断時間0〜t(t:全遮断時間)で積分した値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−73331号公報
【特許文献2】特開2009−193723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エッチングによるヒューズエレメントの作製は、セラミック基板上に成膜された導電性薄膜の一部を、目的とする金属等を腐食溶解する性質を持つ液体の薬品を使って除去することで、所望の導体パターンを形成するようにしている。ヒューズエレメントに必要とされる導体パターンは、放熱部において厚さが100μm程度、遮断部において幅65〜100μm、厚さ25μm程度と高アスペクト比のパターンとなる。
【0006】
エッチングによるヒューズエレメントの作製は、以下のような問題がある。
(a) エッチング深さが深いとエッチマスクの真下にも腐食が進む(アンダーカット)ため、精度の高い微細加工が難しい。
(b) 薬品の温度や攪拌速度によってエッチングレートが変化するため、エッチングの再現性(導体パターンの再現性)に乏しい。
【0007】
結果的に、遮断部の導体パターンがセラミック基板上の位置によりばらつく、あるいはセラミック基板毎にもばらつきが発生する。
【0008】
これにより、各遮断部のパターン導体量のばらつき、さらにヒューズエレメント全体の抵抗値のばらつきが問題となり、I2t値がばらつく問題、定格電流のばらつき等の問題がある。
【0009】
上述の遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えるには、遮断部の幅の縮小化に限界が生じ、I2t値の低減、コスト低減、小型化を十分に図ることができないという問題がある。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えながらも、I2t値の低減、コスト低減、小型化を図ることができる電力用ヒューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1] 本発明に係る電力用ヒューズは、基体上に導電膜が形成されて構成され、前記導電膜による複数の放熱部と複数の遮断部とが一体的に連続形成されたヒューズエレメントを有する電力用ヒューズにおいて、前記導電膜は、前記基体の表面に対する1回以上の印刷による印刷層にて構成され、前記放熱部を構成する印刷層の積層数が、前記遮断部を構成する印刷層の積層数以上であることを特徴とする。
【0012】
これにより、狭小部の膜厚における遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えることができ、I2t値のばらつきも低減することができる。また、印刷方式を採用しているため、放熱部と遮断部とを別々に作ることができ、遮断部を構成する狭小部の厚みを、放熱部の厚みに依存することなく、任意にコントロールすることができる。これは、I2t値の低減につながる。しかも、コスト低減、小型化を図ることができる。
【0013】
[2] 本発明において、前記遮断部は、複数の狭小部が並列に並べられて構成され、複数の前記遮断部が直列に配置されて前記ヒューズエレメントが構成されていてもよい。
【0014】
[3] この場合、同じ形状の前記狭小部が並列に並べられて構成された前記遮断部を第1遮断部とし、複数の前記第1遮断部が直列に配置されて構成された第1ヒューズ部と、電流−溶断時間特性が前記第1ヒューズ部と異なる第2ヒューズ部とが同一の前記基体上において連続的に接続されて構成されていてもよい。これにより、例えば高電流の領域における電流に対する時間の傾きが、低電流の領域における電流に対する時間の傾きよりも大きい特性を得ることができる。
【0015】
[4] また、前記第2ヒューズ部は、前記第1ヒューズ部の前記第1遮断部とは、狭小部の形状、狭小部の幅、並列に並ぶ狭小部の数、印刷層の積層数のうち、少なくとも1つが異なる複数の第2遮断部が直列に配置されて構成されていてもよい。
【0016】
[5] また、前記第1ヒューズ部における前記第1遮断部の印刷層を構成する金属材料と、前記第2ヒューズ部における前記第2遮断部の印刷層を構成する金属材料とが異種のものとしてもよい。
【0017】
[6] 本発明において、少なくとも前記遮断部の表面に酸化防止膜が形成されていてもよい。これにより、少なくとも遮断部の酸化を防止することができ、長期の信頼性を維持させることができる。
【0018】
[7] 本発明において、少なくとも前記遮断部上にペースト状の消弧剤が印刷形成されていてもよい。これにより、消弧剤を収容するための内部空間を小さくすることができ、電力用ヒューズの大幅なる小型化に有効となる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る電力用ヒューズによれば、以下のような効果を奏する。
(1) 狭小部の膜厚における遮断部間のばらつきやヒューズエレメント間のばらつきを抑えることができ、I2t値のばらつきも低減することができる。
(2) 印刷方式を採用しているため、放熱部と遮断部とを別々に作ることができ、遮断部を構成する狭小部の厚みを、放熱部の厚みに依存することなく、任意にコントロールすることができる。これは、I2t値の低減につながる。
(3) (1)及び(2)により、コスト低減、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係る電力用ヒューズを示す断面図である。
【図2】電力用ヒューズに設けられるヒューズエレメントの導体パターンの一例を一部省略して示す平面図である。
【図3】ヒューズエレメントを一部省略して示す断面図である。
【図4】図4Aは消弧剤を溶剤によりペースト状にしたもの(以下、消弧剤ペーストという)を遮断部上に印刷形成した状態を一部省略して示す断面図であり、図4Bは消弧剤ペーストを遮断部及び放熱部上に印刷形成した状態を一部省略して示す断面図である。
【図5】第1の変形例に係るヒューズエレメント(第1ヒューズエレメント)〜第6の変形例に係るヒューズエレメント(第6ヒューズエレメント)の概略構成を示す平面図である。
【図6】図6Aは第1ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図6Bは第1ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図7】図7Aは第2ヒューズエレメントの第1ヒューズ部を一部省略して示す断面図であり、図7Bは第2ヒューズエレメントの第2ヒューズ部を一部省略して示す断面図である。
【図8】図8Aは第3ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図8Bは第3ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図9】図9Aは第4ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図9Bは第4ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図10】図10Aは第5ヒューズエレメントの第1ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図であり、図10Bは第5ヒューズエレメントの第2ヒューズ部における導体パターンを一部省略して示す平面図である。
【図11】図11Aは第6ヒューズエレメントの第1ヒューズ部を一部省略して示す断面図であり、図11Bは第6ヒューズエレメントの第2ヒューズ部を一部省略して示す断面図である。
【図12】第6ヒューズエレメントを用いた電力用ヒューズの溶断特性の一例を示すグラフである。
【図13】実施例1(図2及び図3参照)、比較例1及び2における動作特性(定格電流−動作I2t値特性)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る電力用ヒューズの実施の形態例を図1〜図13を参照しながら説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0022】
本実施の形態に係る電力用ヒューズ10は、図1に示すように、円筒状、角筒状等を有する例えば樹脂製の筐体12と、該筐体12の両側に設けられた金属製の第1端子部14a及び第2端子部14bと、筐体12内にけい砂等の消弧剤16と共に収容されたヒューズエレメント18とを有する。
【0023】
ヒューズエレメント18は、図2及び図3に示すように、アルミナ等の厚みが例えば1mm等のセラミック基板20と、該セラミック基板20上に形成された導電膜22とを有する。すなわち、ヒューズエレメント18は、セラミック基板20上に導電膜22が形成され、導電膜22による複数の放熱部24と複数の遮断部26とが一体的に連続形成されて構成されている。複数の放熱部24のうち、両側に位置する放熱部24は、それぞれ対応する端子部(図1に示す第1端子部14a及び第2端子部14b)に金属製の接続板28(図1参照)を介して電気的に接続される。従って、両側に位置する放熱部24を、第1端子接続部24a及び第2端子接続部24bと記す場合がある。また、第1端子接続部24aから第2端子接続部24bに向かう方向(又は第2端子接続部24bから第1端子接続部24aに向かう方向)を長さ方向(x方向)と記し、導電膜22上の長さ方向と直交する方向を幅方向(y方向)と記す。
【0024】
遮断部26は、図2に示すように、複数の狭小部30が並列(y方向)に並べられて構成され、複数の遮断部26が直列にx方向に配置されてヒューズエレメント18が構成されている。図2の例では、1つの遮断部26に対して32個の狭小部30が並列(y方向)に設けられ、複数の遮断部26がそれぞれ放熱部24を間に挟むようにして直列(x方向)に配置された例を示す。狭小部30の形状、特に、上面から見た側壁の形状はほぼ直線状とされている。
【0025】
導電膜22は、図2に示すように、セラミック基板20の表面に対する1回以上の印刷による印刷層にて構成され、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が、遮断部26を構成する印刷層32の積層数以上となっている。印刷層32としては、例えば銅ペーストや銀ペースト等のインクが用いられる。図2の例では、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が2、遮断部26を構成する印刷層32の積層数が1となっている。もちろん、放熱部24を構成する印刷層32の積層数が、遮断部26を構成する印刷層32の積層数以上であれば、どのような組み合わせでも構わない。また、1層目の印刷層32aの厚みと2層目の印刷層32bの厚みを同じにしてもよいし、異ならせてもよい。図3の例では、セラミック基板20上に、第1回のスクリーン印刷によって、厚みが例えば20〜30μmの1層目の印刷層32aを形成し、その上に、第2回のスクリーン印刷によって、厚みが例えば75〜100μmの2層目の印刷層32bを形成した例を示す。1層目の印刷層32aの印刷形成時に、遮断部26を構成する複数の狭小部30も同時に形成される。従来のエッチングによる形成方法では、遮断部の厚みに相当するめっき層の形成を行った後、めっき層を選択的にエッチングして遮断部を形成し、その後、遮断部をマスキングして、放熱部となる部分に追加のめっき処理を行って放熱部を形成するようにしている。つまり、従来のエッチングによる形成方法では、めっき処理、エッチング処理という異なる処理を繰り返さなければならず、工程が煩雑であり、精度も悪いという問題がある。
【0026】
本実施の形態では、セラミック基板20上に、スクリーン印刷によって、放熱部24と遮断部26とを有する導電膜22を形成するようにしたので、上述したエッチングによる形成方法と異なり、容易に導電膜22を形成することができる。しかも、狭小部30及び放熱部24の上部が腐食することがないため、上述した所望のパターンを作製するにあたって、遮断部26間(又は放熱部24間)でのパターン形状(厚み等)のばらつきやヒューズエレメント18間でのパターン形状(厚み等)のばらつきを抑えることができ、高精度に導電膜22による導体パターンを作製することができる。
【0027】
つまり、狭小部30の膜厚における遮断部26間のばらつきやヒューズエレメント18間のばらつきを抑えることができ、I2t値のばらつきも低減することとなる。また、印刷方式を採用しているため、放熱部24と遮断部26とを別々に作ることができ、遮断部26を構成する狭小部30の厚みを、放熱部24の厚みに依存することなく任意にコントロールすることができる。これは、I2t値の低減につながる。これらのことから、電力用ヒューズ10のコスト低減、小型化を図ることができる。
【0028】
そして、上述したヒューズエレメント18において、その他の好ましい態様としては、少なくとも遮断部26の表面に酸化防止膜(CuO等)を形成することが挙げられる。この場合、例えば遮断部26の上面のみに対してCuO等のペーストをスクリーン印刷することによって、厚み数μm程度の酸化防止膜を形成する等の方法が好ましく採用される。これにより、少なくとも遮断部26の酸化を防止することができ、長期の信頼性を維持させることができる。
【0029】
また、好ましい態様としては、消弧剤16をペースト化してヒューズエレメント18の表面に印刷することが挙げられる。具体的には、図4Aに示すように、消弧剤(SiO2等)を溶剤によりペースト状(消弧剤ペースト34)にして、遮断部26上に印刷形成する。あるいは図4Bに示すように、消弧剤ペースト34を遮断部26及び放熱部24上に印刷形成する。一般に、電力用ヒューズ10の内部空間の大部分は消弧剤16によって占められている。実際に、消弧時に必要な部分は遮断部26の面に近接した部分のみであることから、上述のように、少なくとも遮断部26上に消弧剤ペースト34を印刷形成することで、消弧剤16を収容するための内部空間を小さくすることができ、電力用ヒューズ10の大幅なる小型化に有効となる。
【0030】
次に、ヒューズエレメント18のいくつかの変形例について図5〜図9Cを参照しながら説明する。
【0031】
第1の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第1ヒューズエレメント18aと記す)は、図5に示すように、第1端子接続部24aと第2端子接続部24bとの間に、第1ヒューズ部36Aと第2ヒューズ26Bとが中央の放熱部24cを介して連続的に接続(直列接続)されて構成されている。
【0032】
第1ヒューズ部36Aは、図6Aに一部省略して示すように、例えば32個の狭小部30が並列に設けられた複数の第1遮断部26Aが直列にx方向に配置された形態を有する(図2参照)。第2ヒューズ部36Bは、図6Bに一部省略して示すように、例えば32個の狭小部30が並列に設けられた複数の第2遮断部26Bが直列にx方向に配置された形態を有する。この場合、第1遮断部26Aの狭小部30の幅(y方向の長さ)daと第2遮断部26Bの狭小部30の幅dbが異なる。図6A及び図6Bの例では、第2遮断部26Bの狭小部30の幅dbが第1遮断部26Aの狭小部30の幅daよりも大とされている。
【0033】
第2の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第2ヒューズエレメント18bと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0034】
すなわち、図7A及び図7Bに示すように、第1遮断部26Aを構成する印刷層32の積層数と第2遮断部26Bを構成する印刷層32の積層数が異なる。図7A及び図7Bの例では、第1遮断部26Aを構成する印刷層32の積層数が1で、第2遮断部26Bを構成する印刷層32の積層数が2である場合を示している。
【0035】
第3の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第3ヒューズエレメント18cと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0036】
すなわち、図8A及び図8Bに示すように、第1遮断部26Aを構成する狭小部30の幅をda、該狭小部30の配列ピッチをPaとし、第2遮断部26Bを構成する狭小部30の幅をdb、該狭小部30の配列ピッチをPbとしたとき、
da=db
Pa<Pb
の関係を有する。
【0037】
第4の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第4ヒューズエレメント18dと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0038】
すなわち、図9A及び図9Bに示すように、第2遮断部26Bを構成する狭小部30の幅db及び配列ピッチが、第1遮断部26Aを構成する狭小部30の幅da及び配列ピッチよりも大きい。
【0039】
第5の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第5ヒューズエレメント18eと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0040】
すなわち、第1遮断部26Aの狭小部30の形状と第2遮断部26Bの狭小部30の形状とが異なる。図10A及び図10Bの例では、上面から見た狭小部30の側壁の形状は、第1遮断部26Aがほぼ直線状とされているのに対して、第2遮断部26Bは湾曲状とされている。なお、第1遮断部26Aの狭小部30の幅da(y方向の長さ)と第2遮断部26Bの狭小部30の最小幅dbは異なってもよいし、同じでもよい。
【0041】
第6の変形例に係るヒューズエレメント(以下、第6ヒューズエレメント18fと記す)は、上述した第1ヒューズエレメント18aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0042】
すなわち、図11A及び図11Bに示すように、第1遮断部26A及び第2遮断部26Bは共に印刷層32の積層数は同じであるが、第1遮断部26Aの印刷層32を構成する金属材料と、第2遮断部26Bの印刷層32を構成する金属材料とが異種のものとなっている。例えば第1遮断部26Aを銀ペーストによる印刷層32で構成し、第2遮断部26Bを銅ペーストによる印刷層32で構成すること等である。もちろん、第1遮断部26Aの印刷層32を構成する金属材料と、第2遮断部26Bの印刷層32を構成する金属材料とが異なればよく、ヒューズとして一般に使用される低融点の金属材料を組み合わせて使用することができる。
【0043】
上述の第1ヒューズエレメント18a〜第6ヒューズエレメント18bにおける第1遮断部26Aと第2遮断部26Bとを任意に組み合わせて新たなヒューズエレメントを作製してもよい。
【0044】
これら第1ヒューズエレメント18a〜第6ヒューズエレメント18fにおいては、第1ヒューズ部36Aと第2ヒューズ部36Bの溶断特性(電流−溶断時間特性)を変えることができる。特に、第6ヒューズエレメント18fにおいては、図12に示すように、第1電流値A1から第2電流値A2にかけての電流−溶断時間特性において、第2ヒューズ部36Bの電流に対する溶断時間の変化を、第1ヒューズ部36Aの場合よりも急峻にすることができる。
【0045】
その結果、第6ヒューズエレメント18fの全体的な電流−溶断時間特性として、図12の実線で示すように、高電流の領域における電流に対する時間の変化が、低電流の領域における電流に対する時間の変化よりも急峻な特性を得ることができる。
【実施例】
【0046】
次に、比較例1、2、実施例1について、動作特性(定格電流−動作I2t値特性)を確認した。実施例1、比較例1及び2における動作特性(定格電流−動作I2t値特性)を図13に示す。図13において、●のプロットで示す特性が実施例1であり、▲のプロットで示す特性が比較例1であり、○のプロットで示す特性が比較例2である。
【0047】
図13に示す比較例1の特性は、特許文献1の図3で示すパターンと同等のパターンをエッチングにて形成した市販品のデータである。
【0048】
図13に示す比較例2の特性は、銀のリボンのプレス加工にて製造された市販品のデータである。
【0049】
実施例1は、上述した本実施の形態に係る電力用ヒューズ10と同様の構成を有する電力用ヒューズのデータである。ヒューズエレメント18は、以下のようにして作製した。先ず、図3に示すように、セラミック基板20として、板厚が1mmのアルミナ基板を用い、このアルミナ基板上に、厚みが25μmの1層目の印刷層32a(銅ペーストによる印刷層)をスクリーン印刷にて形成した。このとき、図2に示すパターンにて印刷形成した。その後、1層目の印刷層32a上に、第2回のスクリーン印刷によって、厚みが75μmの2層目の印刷層32b(銅ペーストによる印刷層)を形成した。このとき、それぞれ放熱部24となる部分のみに2層目の印刷層32bを印刷形成した。
【0050】
図13の結果からもわかるように、実施例1は、比較例1及び2よりも動作特性が良好となっている。すなわち、実施例1に係る電力用ヒューズは、遮断部26間のばらつきやヒューズエレメント18間のばらつきを抑えながらも、I2t値の低減を図ることができ、並びにコスト低減、小型化を図ることができることがわかる。
【0051】
なお、本発明に係る電力用ヒューズは、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
10…電力用ヒューズ 12…筐体
16…消弧剤 18…ヒューズエレメント
18a〜18f…第1ヒューズエレメント〜第6ヒューズエレメント
20…セラミック基板 22…導電膜
24…放熱部 26…遮断部
26A…第1遮断部 26B…第2遮断部
30…狭小部 32…印刷層
34…消弧剤ペースト 36A…第1ヒューズ部
36B…第2ヒューズ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に導電膜が形成されて構成され、前記導電膜による複数の放熱部と複数の遮断部とが一体的に連続形成されたヒューズエレメントを有する電力用ヒューズにおいて、
前記導電膜は、前記基体の表面に対する1回以上の印刷による印刷層にて構成され、
前記放熱部を構成する印刷層の積層数が、前記遮断部を構成する印刷層の積層数以上であることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項2】
請求項1記載の電力用ヒューズにおいて、
前記遮断部は、複数の狭小部が並列に並べられて構成され、
複数の前記遮断部が直列に配置されて前記ヒューズエレメントが構成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項3】
請求項2記載の電力用ヒューズにおいて、
同じ形状の前記狭小部が並列に並べられて構成された前記遮断部を第1遮断部とし、
複数の前記第1遮断部が直列に配置されて構成された第1ヒューズ部と、
電流−溶断時間特性が前記第1ヒューズ部と異なる第2ヒューズ部とが同一の前記基体上において連続的に接続されて構成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項4】
請求項3記載の電力用ヒューズにおいて、
前記第2ヒューズ部は、前記第1ヒューズ部の前記第1遮断部とは、狭小部の形状、狭小部の幅、並列に並ぶ狭小部の数、印刷層の積層数のうち、少なくとも1つが異なる複数の第2遮断部が直列に配置されて構成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項5】
請求項3又は4記載の電力用ヒューズにおいて、
前記第1ヒューズ部における前記第1遮断部の印刷層を構成する金属材料と、前記第2ヒューズ部における前記第2遮断部の印刷層を構成する金属材料とが異種のものであることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力用ヒューズにおいて、
少なくとも前記遮断部の表面に酸化防止膜が形成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電力用ヒューズにおいて、
少なくとも前記遮断部上にペースト状の消弧剤が印刷形成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項1】
基体上に導電膜が形成されて構成され、前記導電膜による複数の放熱部と複数の遮断部とが一体的に連続形成されたヒューズエレメントを有する電力用ヒューズにおいて、
前記導電膜は、前記基体の表面に対する1回以上の印刷による印刷層にて構成され、
前記放熱部を構成する印刷層の積層数が、前記遮断部を構成する印刷層の積層数以上であることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項2】
請求項1記載の電力用ヒューズにおいて、
前記遮断部は、複数の狭小部が並列に並べられて構成され、
複数の前記遮断部が直列に配置されて前記ヒューズエレメントが構成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項3】
請求項2記載の電力用ヒューズにおいて、
同じ形状の前記狭小部が並列に並べられて構成された前記遮断部を第1遮断部とし、
複数の前記第1遮断部が直列に配置されて構成された第1ヒューズ部と、
電流−溶断時間特性が前記第1ヒューズ部と異なる第2ヒューズ部とが同一の前記基体上において連続的に接続されて構成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項4】
請求項3記載の電力用ヒューズにおいて、
前記第2ヒューズ部は、前記第1ヒューズ部の前記第1遮断部とは、狭小部の形状、狭小部の幅、並列に並ぶ狭小部の数、印刷層の積層数のうち、少なくとも1つが異なる複数の第2遮断部が直列に配置されて構成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項5】
請求項3又は4記載の電力用ヒューズにおいて、
前記第1ヒューズ部における前記第1遮断部の印刷層を構成する金属材料と、前記第2ヒューズ部における前記第2遮断部の印刷層を構成する金属材料とが異種のものであることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力用ヒューズにおいて、
少なくとも前記遮断部の表面に酸化防止膜が形成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電力用ヒューズにおいて、
少なくとも前記遮断部上にペースト状の消弧剤が印刷形成されていることを特徴とする電力用ヒューズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−227077(P2012−227077A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95733(P2011−95733)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000201777)双信電機株式会社 (54)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000201777)双信電機株式会社 (54)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
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