説明

電力用半導体装置

【課題】この発明は熱伝導性が安定して確保されかつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性絶縁樹脂層を有する電力用半導体装置を提供するものである。
【解決手段】半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、金属配線部材の少なくとも1面が表面に露出するようモールド樹脂で覆われて構成されたパワーモジュールと、金属
配線部材の露出面側のパワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、パワーモジュールとヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、パワーモジュールおよびヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部近傍に設けられた絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば発熱体から放熱部材へ熱を伝達させるために用いる熱伝導性絶縁部材を用いた電力用半導体装置に関し、特に電力用半導体素子等の発熱体からの熱を放熱部材に伝達させ、かつ絶縁層としても機能する熱伝導性樹脂層を形成するための電力用半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子機器の発熱部から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導性樹脂層には、高熱伝導性、絶縁性、接着性の要求から、熱硬化性樹脂に無機充填材を添加した熱伝導性樹脂組成物が用いられている。
【0003】
電力用半導体装置においては、電力用半導体素子を搭載したパワーモジュールの金属電極の裏面と放熱部となるヒートシンクとの間に設ける熱伝導性樹脂層として、無機充填材を含有した熱硬化性樹脂シートや塗布膜が用いられている。
【0004】
このとき、ヒートシンクの固着面の少なくとも一部に凹凸部を形成することにより、熱伝導性絶縁樹脂シートとの接触面の表面積が増大するので、パワーモジュールとヒートシンクとの固着強度が高くなり、接続の信頼性の向上を図るようにしている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−243877号公報
【特許文献2】特開2004−165281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した電力用半導体装置においての熱伝導性絶縁樹脂シートは、高耐圧特性が要求され、熱伝導性絶縁樹脂シート中のボイドが耐圧を低下させる要因となっている。
【0007】
この対策として、例えば、トランスファーモールド型パワーモジュールの熱伝導性絶縁樹脂シートの生成工程においては、未硬化状態の熱伝導性樹脂を加熱して硬化させる際に、10MPaにも及ぶ圧力を印加して熱伝導性絶縁樹脂シート内に内在するボイドを潰すことにより耐圧を向上させている。(特許文献2参照)
【0008】
すなわち、所謂パッショエンの法則に示されているように、絶縁層中の気泡サイズと、放電電圧の相関関係があるため、ボイドサイズを小さくすることが放電が起きる電圧を高めることにつながるためである。このためにはボイドを小さく潰しこむ工程を経ることが有効である。また、熱伝導性絶縁樹脂シートが硬化するまえの軟化しているタイミングでの加圧が有効である。
【0009】
また、高放熱性も要求され、放熱性能は熱伝導性絶縁樹脂シートの熱伝導率と厚みでほぼ決定されることから、この両パラメータの管理も重要な要素となる。
【0010】
パワーモジュールとヒートシンクとの間における熱伝導性絶縁樹脂シートによる接着工程においても、ボイドによる耐圧低下防止のため熱伝導性絶縁樹脂シートを加熱しながら
加圧する必要がある。
【0011】
この時、パワーモジュール及びヒートシンクは変形することが想定されるが、この変形に対して熱伝導絶縁樹脂シートが体積的に吸収しながらパワーモジュールの金属電極の裏面及びヒートシンクの表面と接着し、更に硬化後のシート形状を規定しなければならないという問題がある。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱伝導性が安定して確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性絶縁樹脂層を有する電力用半導体装を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係わる電力用半導体装置は、半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が表面に露出するようモールド樹脂で覆われて構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部近傍に設けられた絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを設けたものである。
【0014】
また、この発明に係わる電力用半導体装置は、半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が表面に露出するようモールド樹脂で覆われ
て構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部に設けられ、前記ヒートシンクの被接着面に対して平行方向に伸展され、その高さが前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みと同等以下である絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを設けたものである。
【0015】
また、この発明に係わる電力用半導体装置は、半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が表面に露出するようモールド樹脂で覆われ
て構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部に設けられ、前記ヒートシンクの被接着面に対して垂直方向に伸展され、前記パワーモジュールの側面に接着された絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを設けたものである。
【0016】
また、この発明に係わる電力用半導体装置は、半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が表面に露出するようモールド樹脂で覆われ
て構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記パワーモジュールの側面に位置する前記ヒートシンクの被接着面に形成されたヒートシンク凹部と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部に設けられ、前記ヒートシンクに形成されたヒートシンク凹部に一方側が挿着され、他方側が前記ヒートシ
ンクの被接着面に対して垂直方向に伸展され、前記パワーモジュールの側面に接着された絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを設けたものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係わる電力用半導体装置によれば、熱伝導性が安定して確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性絶縁樹脂層を有する電力用半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態3に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態4に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【図7】この発明の実施の形態5に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【図8】この発明の実施の形態6に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図1ないし図3に基づいて説明するが、各図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。図1はこの発明の実施の形態1に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。図2はこの発明の実施の形態1に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。図3はこの発明の実施の形態1に係わる電力用半導体装置を示す断面図である。
【0020】
これら各図において、半導体素子1は例えばインバータやコンバータ等を構成するIGBT素子のような発熱性の電力用素子からなる構成されている。半導体素子1の上面と主端子2aは半田3によりはんだ付けされており、半導体素子1の下面と金属配線部材4とは半田5によりはんだ付けされている。また、主端子2bと金属配線部材4もはんだ付けされている。
【0021】
これら半導体素子1、主端子2a,2b、金属配線部材4をモールド樹脂6に覆ってパワーモジュール7を形成している。なお、金属配線部材4の反半導体素子側の面はパワーモジュール7より露出しており、主端子2a,2bの他端部はパワーモジュール7の外部、すなわち、モールド樹脂6より外側へ突出されている。
【0022】
金属配線部材4は、電極としての役割と、ヒートスプレッダとしての役割とを有する。すなわち、上述のように半田5にて金属配線部材4に接合された半導体素子1にて発生した熱は、半田5を介して金属配線部材4の全体に広がり、金属配線部材4は放熱性を向上させる。
【0023】
また、この金属配線部材4に主端子2aを電気的に接続することによって、半導体素子1に通電が行われる。このような2つの役割から、金属配線部材4の材料としては、熱伝導性及び電気伝導性の良いものが好ましく、例えば銅や、半田付け可能なようにニッケルメッキされたアルミニウム等を用いることができる。もちろん、これらの材料に限らず、熱及び電気を伝える材料であれば、他の材料を用いてもよい。なお、金属配線部材4には半導体素子1の動作中に電位が発生する構成となっている。
【0024】
一方、金属配線部材4の露出面側のパワーモジュール7面と相対して配置されたヒート
シンク8は、例えばアルミニウムや銅など導電性の金属で構成されており、更に、ヒートシンク8内を流れる導電性溶液を通じて例えばラジエターなど周辺部品とも接続されている状態で冷却を行うのが水冷方式の通例である。
【0025】
ここで、ヒートシンク8の金属面に電位が発生し電流が流れると、上述の通り周辺部品とも導通し、最悪の場合、アースと短絡故障する可能性があるため、ヒートシンク8はパワーモジュール7と絶縁する必要がある。
【0026】
そこで、パワーモジュール7とヒートシンク8との間に熱伝導性絶縁樹脂シート9を設けている。この熱伝導性絶縁樹脂シート9は、パワーモジュール7とヒートシンク8のいずれかの面に設置され、図示しない真空式ヒータープレス装置などで減圧下において加熱しながら加圧し、樹脂を完全に硬化させる。
【0027】
真空式ヒータープレス装置を用いる理由としては、熱伝導性絶縁樹脂シート9を加熱して、軟化させた期間に加圧力を加え、ボイドを潰しこみながら接着するためである。また、真空式ヒータープレス装置を用いる理由としては、減圧化で圧力を加えることで、熱伝導性絶縁樹脂シート9とヒートシンク8や、熱伝導性絶縁樹脂シート9とパワーモジュール7の間に空気層の挟みこみを防止できるためである。
【0028】
パワーモジュール7およびヒートシンク8の少なくとも一方側に熱伝導性絶縁樹脂シート9の厚みを規定するシート厚み規定部材10が設けられている。図は一例として、パワーモジュール7の裏面に一体的に設けられた場合を示している。なお、シート厚み規定部材10はパワーモジュール7と相対するヒートシンク8の面に設けてもよいことは勿論のことである。
【0029】
熱伝導性絶縁樹脂シート9の周縁部近傍に絶縁性を有するシート体積増減吸収部11が設けられている。図1においては、熱伝導性絶縁樹脂シート9の周縁部がパワーモジュール7の側部に位置し、シート体積増減吸収部11がパワーモジュール7の側部に位置する熱伝導性絶縁樹脂シート9の周縁部に配置されている。すなわち、パワーモジュール7の側部の外側でヒートシンク8の被接着面に対して平行方向に伸展された場合を示している。また、シート体積増減吸収部11は絶縁性を有する熱伝導樹脂シートで構成された場合を示している。
【0030】
熱伝導性絶縁樹脂シート9は、所定のシート厚みに応じた例えばパワーモジュール7の裏面に少なくとも3ヶ所に設けたシート厚み規定凸部10の高さでシート厚みを規定し、硬化プロセス中に発生するパワーモジュール7、またはヒートシンク8の面内分布によるシート厚みの増減を、加熱加圧中にシート体積増減吸収部11側へ滲み出すことによりその増減分を吸収することで、所定のシート厚み範囲内に収めながら接着面の全面に熱伝導性絶縁樹脂シート9が充填され、垂直方向の絶縁性も確保出来るようにしている。
【0031】
この時、熱伝導性絶縁樹脂シート9が軟化して加圧によりパワーモジュール7の周囲にはみ出す程度の加圧力を加えることで、熱伝導性絶縁樹脂シート9はボイドの潰しこみ作用が発揮され、絶縁性が飛躍的に高まるが、反面厚みが薄くなっていき、結果的に貫通方向の絶縁距離が小さくなり、より短い期間や低い電圧で絶縁破壊するような絶縁状態しか得られなくなっては問題外である。この防止のためには、この発明のように、少なくともシート厚み規定凸部10の高さでシート厚みを規定するなど、熱伝導性絶縁樹脂シート9の潰れすぎを防止することが必要である。
【0032】
ここで、シート体積増減吸収部11の高さは接着面のシート厚みと同等または小さくし、水平方向の距離を熱伝導性絶縁樹脂シート9の増減分の最悪想定値で設定することで、
滲み出し量がシート体積増減吸収部11で収まるように設定する。なお、シート体積増減吸収部11とは、例えばパワーモジュール7の底面に周囲に設けた段差であり、例えばシート厚み規定凸部10と同じか若干低い壁のような領域を設けることで構成される。
【0033】
このようなシート体積増減吸収部11を設ける理由としては、パワーモジュール7の底面から熱伝導性絶縁樹脂シート9がはみ出すほどにまで変形すると、圧力が開放されてしまい、ボイド低減効果がないことが挙げられる。
【0034】
すなわち、軟化した絶縁樹脂はパワーモジュール7の底面の外に出て行き続けることで、パワーモジュール7の底面の下にとどまる樹脂の重量は減ってしまい、結果として熱伝導性絶縁樹脂シート9にかかる圧力が抜けてしまい、ボイドを潰しこむ作用が不十分となってしまう。
【0035】
これに対して、シート体積増減吸収部11を設けた場合、シート体積増減吸収部11を絶縁樹脂が満たし、その外側へはみ出すまでの期間は、パワーモジュール7の底面に接した部分の絶縁樹脂には加圧力が十分かかり、圧力抜けが防止できる。
【0036】
そして、シート厚み規定凸部10により規定される隙間量およびシート体積増減吸収部11により規定される空間の体積が、熱伝導性絶縁樹脂シート9のもともとの体積と同等程度にしておくことで、そのようなシート体積増減吸収部11を超えた時の熱伝導性絶縁樹脂シート9の大量流出を防止することができる。
【0037】
ここで、シート体積増減吸収部11はモールド樹脂6で形成するか、絶縁性樹脂枠12のように別部材の枠を構成するほうが、絶縁距離の損がなく有利であるが、シート体積増減吸収部11は、図2に示すように、モールド樹脂6底面を突出させてパワーモジュール裏面凸部13を形成してもよいし、図3に示すように、ヒートシンク8の一部を突出させてヒートシンク凸部14を形成してもよい。
【0038】
熱伝導性絶縁樹脂シート9の材料としては、例えばエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂のような熱硬化性の樹脂が好ましい。熱伝導性絶縁樹脂シート9にはフィラーを含浸させることで、熱伝導率を格段に向上させることができるが、そのような材料としては、アルミナ、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化アルミなどがある。フィラーの含有率としては、体積%で50%〜80%程度が良好であった。
【0039】
すなわち、50%以下であると熱伝導率が低い。80%以上、特に90%以上では、ボロボロと脆い物質となり、容易に成形できなかった。80%以上では、適切なフィラー粒径分布の配合比を選択しないと、十分な混ぜ込みができず、ボイドが残りやすかった。熱伝導性絶縁樹脂シート9の厚みとしては、およそ100μmから500μm程度が好ましかった。
【0040】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2を図4に基づいて説明するが、図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。図4はこの発明の実施の形態2に係る電力用半導体装置を示す断面図である。
【0041】
この実施の形態2の電力用半導体装置によれば、シート体積増減吸収部11とパワーモジュール7の側面、およびシート体積増減吸収部11とヒートシンク8のとの交差部を完全に覆い、その外形が変曲点をもたない滑らかな面の応力緩和樹脂層15を設けている。
【0042】
この応力緩和樹脂層15を設けることにより、パワーモジュール7の角部と熱伝導性絶
縁樹脂シート9界面の角部がほぼ90°で接着しており、形状変化が急峻なことによる熱応力集中を緩和でき、接着界面の信頼性が向上する。ここでの応力緩和樹脂層15の材料としては、ポリイミド系樹脂などが好ましい。
【0043】
このような応力緩和樹脂層15は、熱伝導性絶縁樹脂シート9を接着後に、パワーモジュール7の周囲に例えばディスペンスなどで供給し、キュアを行う。工程簡略化のために熱伝導性絶縁樹脂シート9と応力緩和樹脂層15のキュアを同時に行うなどしてもよい。
【0044】
熱伝導性絶縁樹脂シート9の端部がパワーモジュール7の端部と同じか内側に入り込んでいるときが、熱応力が高い状態であるが、熱伝導性絶縁樹脂シート9がパワーモジュール7の底面からはみ出していると、熱伝導性絶縁樹脂シート9に与える圧力を低減させることにもなるため、熱伝導性絶縁樹脂シート9の端部には熱応力の集中する部分が形成される。ところで、応力緩和樹脂層15を設けることにより、そのような熱伝導性絶縁樹脂シート9の端部の応力集中を緩和させることができる。
【0045】
すなわち、ここで問題としているのは、パワーモジュール7とヒートシンク8の線膨張係数の差により生じる熱応力によって、熱伝導性絶縁樹脂シート9が剥離する現象である。その防止のためには熱応力の低減が必要であり、そのような作用を実現するために、応力緩和樹脂層15の追加が有効である。この場合、熱伝導性絶縁樹脂シート9の剥離代を追加しなくても所定のサイクル数の耐久性を実現できるため、電力用半導体装置を小型化することができる。
【0046】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3を図5に基づいて説明するが、図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。図5はこの発明の実施の形態2に係る電力用半導体装置を示す断面図である。
【0047】
この実施の形態3の電力用半導体装置によれば、シート体積増減吸収部11はパワーモジュール7の側面に沿って厚み方向の高さをシート増減分のパラメータと置き換えることで吸収する構造としている。
【0048】
その利点は以下の2点のような理由による。第1は、電力用半導体装置で自動車のモー
ター駆動用途などの場合には、小型化、軽量化が自動車の基本性能である燃費に直結するため重要な要素となってくる。通常、半導体素子1が2個または4個搭載されているパワーモジュール7は、複数台を並べて3相モーター駆動用とすることで成立しているため、各パワーモジュール7間の距離は可能な限り近付けることが必須となるためである。
【0049】
第2は、シート部への熱応力に対する信頼性、絶縁性に関与する。パワーモジュール7とヒートシンク8は必ずしも同材料の構成とはならず、例えばパワーモジュール7内の金属配線部材4が銅の場合は、モールド樹脂6も銅の線膨張率に合わせることでパワーモジュール7内の半田3,5の信頼性を確保することが一般的であるため、パワーモジュール7としてはほぼ銅の線膨張率(16*10^-6/℃)と等価なのに対し、ヒートシンク8がアルミニウム(23*10^-6/℃)であった場合にはその間に挟まれる熱伝導性絶縁樹脂シート9がその線膨張率差を吸収する必要がある。
【0050】
この時、上述した実施の形態1におけるシート体積増減吸収部11とモールド樹脂6の端部から剥離が進展し、電位の発生する金属配線部材4まで到達した場合、金属配線部材4とヒートシンク8間は沿面距離次第で放電する可能性がある。
【0051】
ここで、この沿面距離確保のために、この実施の形態3においては、熱伝導性絶縁樹脂
シート9の周縁部に設けられ、ヒートシンク8の被接着面に対して垂直方向に伸展され、パワーモジュール7の側面に接着された絶縁性を有するシート体積増減吸収部16としている。なお、シート体積増減吸収部16は絶縁性を有する熱伝導樹脂シートで構成された場合を示している。また、シート体積増減吸収部16には絶縁性樹脂枠17が設けられている。
【0052】
このように、シート体積増減吸収部16をヒートシンク8の被接着面に対して垂直方向に配置することにより、シート体積増減吸収部16の水平方向への距離を抑えながら沿面距離の確保が可能になる。以上の理由より、シート体積増減吸収部16のパワーモジュール7の水平方向へのサイズ拡大を抑えることで、商品力の向上に繋がる。
【0053】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4を図6に基づいて説明するが、図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。図6はこの発明の実施の形態2に係る電力用半導体装置を示す断面図である。
【0054】
この実施の形態4の電力用半導体装置によれば、シート体積増減吸収部16とパワーモジュール7の側面、およびシート体積増減吸収部16とヒートシンク8のとの交差部を完全に覆い、その外形が変曲点をもたない滑らかな面の応力緩和樹脂層18を設けている。
【0055】
この応力緩和樹脂層18を設けることにより、パワーモジュール7の角部と熱伝導性絶縁樹脂シート9界面の角部がほぼ90°で接着しており、形状変化が急峻なことによる熱応力集中を緩和でき、接着界面の信頼性が向上する。ここでの応力緩和樹脂層18の材料としては、ポリイミド系樹脂などが好ましい。
【0056】
実施の形態5.
この発明の実施の形態5を図7に基づいて説明するが、図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。図7はこの発明の実施の形態2に係る電力用半導体装置を示す断面図である。
【0057】
この実施の形態5の電力用半導体装置によれば、パワーモジュール7の側面に位置するヒートシンク8の被接着面にヒートシンク凹部19が形成されている。シート体積増減吸収部16の一方側が挿着され、他方側がヒートシンク8の被接着面に対して垂直方向に伸展されている。
【0058】
ヒートシンク8の被接着面に形成されたヒートシンク凹部19にシート体積増減吸収部16の垂直方向下部の一方側が挿着されることにより、シート体積増減吸収部16とモールド樹脂6の端部から剥離が進展し、電位の発生する金属配線部材4まで到達した場合に、ヒートシンク8のシート被着面と垂直方向分の沿面距離を確保出来るため、ヒートシンク8のシート被着面の水平方向距離を更に縮めることが可能となり、シート体積増減吸収部16の水平方向への必要なサイズを最小限に抑えながら沿面距離を確保出来る。
【0059】
実施の形態6.
この発明の実施の形態6を図8に基づいて説明するが、図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。図8はこの発明の実施の形態2に係る電力用半導体装置を示す断面図である。
【0060】
この実施の形態6の電力用半導体装置によれば、シート体積増減吸収部16とパワーモジュール7の側面、およびシート体積増減吸収部16とヒートシンク8のとの交差部を完全に覆い、その外形が変曲点をもたない滑らかな面の応力緩和樹脂層18を設けている。
【0061】
この応力緩和樹脂層18を設けることにより、パワーモジュール7の角部と熱伝導性絶縁樹脂シート9界面の角部がほぼ90°で接着しており、形状変化が急峻なことによる熱応力集中を緩和でき、接着界面の信頼性が向上する。ここでの応力緩和樹脂層18の材料としては、ポリイミド系樹脂などが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
この発明は、熱伝導性が安定して確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性絶縁樹脂層を有する電力用半導体装置の実現に好適である。
【符号の説明】
【0063】
1 半導体素子
4 金属配線部材
6 モールド樹脂
7 パワーモジュール
8 ヒートシンク
9 熱伝導性絶縁樹脂シート
10 シート厚み規定部材
11 シート体積増減吸収部
15 応力緩和樹脂層
16 シート体積増減吸収部
18 応力緩和樹脂層
19 ヒートシンク凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が
表面に露出するようモールド樹脂で覆われて構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部近傍に設けられた絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを備えたことを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項2】
半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が
表面に露出するようモールド樹脂で覆われて構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部に設けられ、前記ヒートシンクの被接着面に対して平行方向に伸展され、その高さが前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みと同等以下である絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを備えたことを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項3】
前記シート体積増減吸収部と前記パワーモジュールの側面、および前記シート体積増減吸収部と前記ヒートシンクの交差部を覆う応力緩和樹脂層を設けたことを特徴とする請求項2に記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が
表面に露出するようモールド樹脂で覆われて構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部に設けられ、前記ヒートシンクの被接着面に対して垂直方向に伸展され、前記パワーモジュールの側面に接着された絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを備えたことを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項5】
前記シート体積増減吸収部と前記パワーモジュールの側面、および前記シート体積増減吸収部と前記ヒートシンクの交差部を覆う応力緩和樹脂層を設けたことを特徴とする請求項4に記載の電力用半導体装置。
【請求項6】
半導体素子と金属配線部材とがはんだ接合され、前記金属配線部材の少なくとも1面が
表面に露出するようモールド樹脂で覆われて構成されたパワーモジュールと、前記金属配線部材の露出面側の前記パワーモジュール面と相対して配置されたヒートシンクと、前記パワーモジュールと前記ヒートシンクとの間に設けられた熱伝導性絶縁樹脂シートと、前記パワーモジュールおよび前記ヒートシンクの少なくとも一方側に設けられ、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの厚みを規定するシート厚み規定部材と、前記パワーモジュールの側面に位置する前記ヒートシンクの被接着面に形成されたヒートシンク凹部と、前記熱伝導性絶縁樹脂シートの周縁部に設けられ、前記ヒートシンクに形成されたヒートシンク凹部に一方側が挿着され、他方側が前記ヒートシンクの被接着面に対して垂直方向に伸展され、前記パワーモジュールの側面に接着された絶縁性を有するシート体積増減吸収部とを備えたことを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項7】
前記シート体積増減吸収部と前記パワーモジュールの側面、および前記シート体積増減吸収部と前記ヒートシンクの交差部を覆う応力緩和樹脂層を設けたことを特徴とする請求項6に記載の電力用半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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