説明

電力線通信システム

【課題】新たに電力線通信用モデムが電力線に接続された場合に、通信が可能となるまでの処理を簡略化し、その要する時間を短縮すること。
【解決手段】新たなモデムEを電力線に接続すると、モデムEは、電力線上の既存のモデムA、Bに、自モデムEの加入を知らせる情報を送信する。モデムEに近いモデムBは、最初にモデムEからの加入の報告を受信し、モデムEに応答を返すと共に、自モデムが持つリンクアドレステーブルを送信する。モデムEは、モデムBから送信されてきたリンクアドレステーブルにより、電力線上にモデムAが存在することを認識すると共に、モデムA、Bのリンクアドレスとは異なるリンクアドレスを自身のモデムEに割り当てて、リンクアドレステーブルを新規に作成し、モデムA、Bに、自モデムのリンクアドレスを送信する。モデムA、Bは、このアドレスを、自身のリンクアドレステーブルに格納して更新し、その後、全てのモデムが通信待ちの状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電力線通信用モデムが電力線に接続されて構成される電力線通信(PLC:Power Line Communication)システムに係り、特に、新たな電力線通信用モデムが電力線に接続され場合に、新たな電力線通信用モデムが通信可能となるまでの処理の簡素化と処理時間の短縮とを図った電力線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭内等において、各種の家電製品等の家庭内機器に電力線通信機能を持たせ、PC等により構成される親機からそれらの家庭内機器を監視、制御すると共に、外部から公衆通信網を介して前述の親機にアクセスし、外部から家庭内機器を監視、制御することを可能にしたシステムが提案されている。また、より高速な信号を電力線通信により取り扱うことを可能にし、インターネットを含む公衆通信網等を介したISP(Internet Service Provider)からの映像情報、音声情報等のマルチメディア情報をリアルタイムにPC等の表示装置に表示させることを可能にしたシステムも提案されている。
【0003】
前述したように電力線通信により各種の信号の授受を行うためには、信号の授受を行う機器と電力線との間のインタフェースとして、電力線通信用モデムが利用される。この電力線通信用モデムは、一般には、電源コンセントを介して電力の供給を受ける電子機器等の内部に設けられ、電子機器からの信号を、自身の電源回路を経由して電力線に重畳し、また、電力線からの信号を分離して自モデムを介して電子機器に渡す機能を備えている。
【0004】
図2は従来技術による電力線通信システムの構成例を示すブロック図である。図2において、11〜15は電力線通信用モデム(以下、単に、モデムという)A〜E、16は電力線(ACライン)、111、121、131、141、151は各モデムが持つリンク(LINK)アドレステーブルである。
【0005】
従来技術による電力線通信システムは、複数のモデムA11〜E15がネットワークとしての電力線16に接続されて構成されている。そして、複数のモデムA11〜E15のそれぞれは、モデム毎に固有のMACアドレスを有すると共に、電力線通信システム内での相互間の通信を行うために任意に設定されたリンクアドレスを有している。また、複数のモデムA11〜E15のそれぞれは、通信可能な相手モデムのリンクアドレスを登録したリンクアドレステーブル111、121、131、141、151を有している。
【0006】
図2に示す電力線通信システムの例では、複数のモデムA11〜E15のそれぞれは、MACアドレスとして、「xx.xx.xx.00.00.01」 、「xx.xx.xx.00.00.02」 、「xx.xx.xx.00.00.03」 、「xx.xx.xx.00.00.04」 、「xx.xx.xx.00.00.05」 を有し、リンクアドレスとして、「000A」、「000B」、「0010」、「0011」、「0020」を有しているものとする。
【0007】
前述したように構成される電力線通信システムにおいて、いま、モデムA11〜D14の4つのモデムだけがネットワークとしての電力線16に接続されていて、相互に通信可能な状態にあるものとする。この場合、モデムA11〜D14のそれぞれが持つリンクアドレステーブル111、121、131、141には、通信の相手となる自モデム以外のモデムのリンクアドレスが登録されている。
【0008】
このリンクアドレステーブルへの相手モデムのリンクアドレスの登録は、新たなモデムが電力線16に接続されたとき、そのモデムからブロードキャストによりその旨の報告とそのモデムのリンクアドレスが電力線16に送信されるので、その報告とリンクアドレスとを受信することができたモデムが自モデム内のリンクアドレステーブルに受信した新たなモデムのリンクアドレスを登録することにより行われる。このとき、新たなモデムからのリンクアドレスを受領したモデムは、その応答として、新たに電力線に接続されたモデムに対して自モデムのリンクアドレスを送信して、相手モデムのリンクアドレステーブルに自モデムのリンクアドレスを登録させる。
【0009】
前述したようなリンクアドレスの登録の処理により、モデムA11〜D14のそれぞれが持つリンクアドレステーブル111、121、131、141及び新たなモデムのリンクアドレステーブルには、通信の相手となる自モデム以外のモデムのリンクアドレスが登録されて相互に通信可能な状態になり、各モデムは、相手のリンクアドレスを使用して相互に通信を行うことが可能となる。但し、このリンクアドレスの登録を行うまでの間、モデム相互間の通信は、行うことができない。
【0010】
図3は従来技術による電力線通信システムにおいて、新たな電力線通信用モデムが電力線に接続され場合に、新たな電力線通信用モデムが通信可能となるまでの処理動作を説明するシーケンスチャートであり、次に、従来技術での新たな電力線通信用モデムが通信可能となるまでの処理を説明する。なお、図3に示す例は、前述したように4つのモデムA11〜D14が電力線16に接続されて電力線通信システムが構築されている状態で、もう1つのモデムとして、MACアドレス「xx.xx.xx.00.00.05」 、リンクアドレス「0020」を持つモデムE15を電力線16に接続しようとする場合の例であるが、説明の簡略化のため、モデムE15を電力線16に接続した場合の、既存のモデムA11、B12とE15との間での処理シーケンスだけを示しているが、既存のモデムC13、D14とE15との間での処理も同様に行われる。
【0011】
(1)新たなモデムE15を電力線16に追加して接続すると、新たなモデムE15は、電力線16上の既存のモデム、図3に示す例では、モデムA11、B12に対して、自モデムE15がネットワークに加入したことを知らせるため、その旨をブロードキャストにより送信する(シーケンス301)。
【0012】
(2)モデムA11、B12は、ブロードキャストにより送信されてきたモデムE15からの新規加入の報告を受信すると、モデムE15に対して応答を返す(シーケンス303、302)。
【0013】
(3)モデムE15は、シーケンス303、302の処理でのモデムA11、B12からの応答を受け取った後、モデムA11、B12に対して、それらのモデムA11、B12が使用しているリンクアドレスを送信するように「リンクアドレス要求」を送信する(シーケンス304)。
【0014】
(4)モデムA11、B12は、シーケンス304の処理での「リンクアドレス要求」を受信すると、それぞれのモデムに割り当てられて使用しているリンクアドレスをモデムE15に返送する。なお、図3に示す例では、モデムB12からの「リンクアドレス応答」が先にモデムE15に到達しているように示しているが、これは、モデムB12がモデムE15に距離的に近いと仮定しているためであり、モデムE15からの「リンクアドレス要求」を先に受信し、「リンクアドレス応答」を送信しているためである(シーケンス306、305)。
【0015】
(5)モデムE15は、シーケンス306、305の処理で、モデムA11、B12から返送されてきたモデムA11、B12のリンクアドレスを受信すると、モデムA11、B12に割り当てられているリンクアドレスとは異なるリンクアドレスを自身のモデムE15に割り当てて、リンクアドレステーブルを新規に作成する(シーケンス307)。
【0016】
(6)その後、モデムE15は、自身に割り当てたリンクアドレスをモデムA11、B12に送信する(シーケンス308)。
【0017】
(7)モデムA11、B12のそれぞれは、シーケンス308の処理で、モデムE15から送信されてきたモデムE15のリンクアドレスを受け取ると、そのリンクアドレスを自身のリンクアドレステーブルに格納してリンクアドレステーブルを更新する(シーケンス310、309)。
【0018】
(8)その後、モデムA11、B12のそれぞれは、自モデムにおけるリンクアドレステーブルが正常に更新されたことをモデムE15に通知すると共に、モデムE15に対して、「リンク完了通知要求」を送信する(シーケンス312、311、315、313)。
【0019】
(9)モデムE15は、シーケンス315、313の処理で送信されてきたモデムA11、B12からの「リンク完了通知要求」のそれぞれに対して、「リンク完了通知応答」を送信する(シーケンス316、314)。
【0020】
(10)前述までのシーケンスによる処理の終了後、モデムA11、B12、E15のそれぞれは、「リンク確立完了」の状態となり、「通信待ち」の状態となって、相互間の通信が可能となる(シーケンス317〜319、320〜322)。
【0021】
なお、電力線を利用してデータの授受を行う電力線通信システムに関する従来技術として、例えば、特許文献1等に記載された技術が知られている。
【特許文献1】特開2004−7497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前述した従来技術による電力線通信システムは、新たに電力線通信用モデムが電力線に接続された場合、図3により説明したシーケンスによる処理を行って新たなモデムも含めてリンク確立完了の状態になるまでに、煩雑な処理を行う必要があり、また、多くの時間を要することとなり、その間におけるモデム相互間の通信を行うことができなくなるという問題点を有している。
【0023】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点を解決し、新たに電力線通信用モデムが電力線に接続された場合に、通信が可能となるまでの処理を簡略化し、かつ、通信が可能となるまでに要する時間を短縮することができるようにした電力線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明によれば前記目的は、複数の電力線通信用モデムを電力線に接続して構成される電力線通信システムにおいて、前記複数の電力線通信用モデムのそれぞれは、他の電力線通信用モデムのアドレスを識別可能に格納したリンクアドレステーブルを有しており、前記電力線に新たな電力線通信用モデムが接続され、該新たな電力線通信用モデムからのブロードキャストによる新規加入の連絡を受信すると、前記電力線に接続されていた複数の電力線通信用モデムの1つが、前記新たな電力線通信用モデムに対して、前記ブロードキャストに対する応答と自モデムが持つリンクアドレステーブルとを送信することにより達成される。
【0025】
また、前記目的は、前述において、前記新たな電力線通信用モデムは、前記複数の電力線通信用モデムの1つからの応答に含まれるそのモデムのリンクアドレスとそのモデムが持つリンクアドレステーブルの内容により、自モデムのリンクアドレステーブルを作成すると共に、自モデムのリンクアドレスを生成し、生成した自モデムのリンクアドレスを前記複数の電力線通信用モデムに送信することにより達成される。
【0026】
また、前記目的は、前述において、前記複数の電力線通信用モデムの1つは、前記新たな電力線通信用モデムに距離的に近いモデムであることにより達成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、新たに電力線通信用モデムが電力線に接続された場合にも、通信が可能となるまでの処理を簡略化して、通信が可能となるまでに要する時間を短縮することができるので、短時間のうちに、システムを構成する電力線通信用モデム相互間の通信を開始することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明による電力線通信システムの実施形態を図面により詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の一実施形態による電力線通信システムにおいて、新たな電力線通信用モデムが電力線に接続され場合に、新たな電力線通信用モデムが通信可能となるまでの処理動作を説明するシーケンスチャートであり、次に、本発明の一実施形態での新たな電力線通信用モデムが通信可能となるまでの処理を説明する。なお、本発明の一実施形態による電力線通信システム自体の構成は、図2により説明した従来技術の場合と同様であってよい。従って、以下に説明するシーケンスの処理の条件も、図3に示す処理の場合と同一であるものとする。
【0030】
(1)新たなモデムE15を電力線16に追加して接続すると、新たなモデムE15は、電力線16上の既存のモデム、図3に示す例では、モデムA11、B12に対して、自モデムE15がネットワークに加入したことを知らせるため、その旨をブロードキャストにより送信する(シーケンス101)。
【0031】
(2)電力線16上の全てのモデムがブロードキャストにより送信されてきたモデムE15からの新規加入の報告を受信するが、モデムE15に距離的に近いモデム、例えば、モデムB12が最初にモデムE15からの新規加入の報告を受信する。そして、モデムB12は、モデムE15からの新規加入の報告を受信すると、モデムE15に対して応答を返すと共に、自モデムが持つリンクアドレステーブルを送信する。このとき、モデムA11は、モデムB12がモデムE15に対して応答とリンクアドレステーブルとを送信しているので何のデータも送信しない(シーケンス102)。
【0032】
(3)モデムE15は、モデムB12から送信されてきたリンクアドレステーブルにより、ネットワーク上にモデムA11が存在することを認識すると共に、リンクアドレステーブルの内容と、応答に含まれるモデムB12のアドレスとにより、リンクアドレステーブルを新規に作成し、また、モデムA11、B12に割り当てられているリンクアドレスとは異なるリンクアドレスを自身のモデムE15に割り当てる(シーケンス103)。
【0033】
(4)モデムE15は、モデムA11、モデムB12のそれぞれに対して、自モデムE15に割り当てたリンクアドレスを送信する(シーケンス104)。
【0034】
(5)モデムA11、B12のそれぞれは、シーケンス104の処理で、モデムE15から送信されてきたモデムE15のリンクアドレスを受け取ると、そのリンクアドレスを自身のリンクアドレステーブルに格納して自モデムのリンクアドレステーブルを更新する(シーケンス106、105)。
【0035】
(6)その後、モデムA11、B12のそれぞれは、自モデムにおけるリンクアドレステーブルが正常に更新されたことを、「リンクアドレステーブル更新完了」を送信することによりモデムE15に通知すると共に、モデムE15に対して、「リンク完了通知」を送信する(シーケンス109、107)。
【0036】
(7)モデムE15は、シーケンス109、107の処理で送信されてきたモデムA11、B12からの「リンクアドレステーブル更新完了」と「リンク完了通知」のそれぞれに対して、「リンク完了通知応答」を送信する(シーケンス110、108)。
【0037】
(8)前述までのシーケンスによる処理の終了後、モデムA11、B12、E15のそれぞれは、「リンク確立完了」の状態となり、「通信待ち」の状態となって、相互間の通信が可能となる(シーケンス111〜113、114〜116)。
【0038】
前述したようなシーケンスによる処理を行う本発明の実施形態によれば、新規なモデムが電力線によるネットワークに接続された場合に、その新規なモデムを含む全てのモデムがリンク確立を行うための処理のステップ数を従来技術に比較して少ないステップ数に簡素化することができ、これにより、リンク確立までの時間、すなわち、モデム相互間での本来の通信が不可能となる時間を短縮することができる。
【0039】
前述した本発明の実施形態におけるシーケンスでの処理は、電力線通信用モデムに備えられるメモリ内に設けた処理プログラムをマイクロプロセッサにより実行させることにより実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態による電力線通信システムにおいて、新たな電力線通信用モデムが電力線に接続され場合に、新たな電力線通信用モデムが通信可能となるまでの処理動作を説明するシーケンスチャートである。
【図2】従来技術による電力線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【図3】従来技術による電力線通信システムにおいて、新たな電力線通信用モデムが電力線に接続され場合に、新たな電力線通信用モデムが通信可能となるまでの処理動作を説明するシーケンスチャートである。
【符号の説明】
【0041】
11〜15 電力線通信用モデムA〜E
16 電力線(ACライン)
111、121、131、141、151 リンク(LINK)アドレステーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力線通信用モデムを電力線に接続して構成される電力線通信システムにおいて、前記複数の電力線通信用モデムのそれぞれは、他の電力線通信用モデムのアドレスを識別可能に格納したリンクアドレステーブルを有しており、前記電力線に新たな電力線通信用モデムが接続され、該新たな電力線通信用モデムからのブロードキャストによる新規加入の連絡を受信すると、前記電力線に接続されていた複数の電力線通信用モデムの1つが、前記新たな電力線通信用モデムに対して、前記ブロードキャストに対する応答と自モデムが持つリンクアドレステーブルとを送信することを特徴とする電力線通信システム。
【請求項2】
前記新たな電力線通信用モデムは、前記複数の電力線通信用モデムの1つからの応答に含まれるそのモデムのリンクアドレスとそのモデムが持つリンクアドレステーブルの内容とにより、自モデムのリンクアドレステーブルを作成すると共に、自モデムのリンクアドレスを生成し、生成した自モデムのリンクアドレスを前記複数の電力線通信用モデムに送信することを特徴とする請求項1記載の電力線通信システム。
【請求項3】
前記複数の電力線通信用モデムの1つは、前記新たな電力線通信用モデムに距離的に近いモデムであることを特徴とする請求項1または2記載の電力線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−319860(P2006−319860A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142602(P2005−142602)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】