説明

電動オイルポンプ

【課題】作動音を低減することができ、要求流量に見合った最適なギヤ仕様及び回転数を用いることにより、高効率な電動オイルポンプを得る。
【解決手段】外周に外歯を備えたインナギヤ1、このインナギヤと噛合うように内周に内歯を備えたアウタギヤ2、前記両ギヤを収容するギヤ収納部を備えたケース3、及び前記両ギヤの対向空間である容積室10に連通する吸入口及び吐出口が設けられ、ギヤ収納部の一側を塞ぐプレートを備えたものにおいて、インナギヤとアウタギヤとは偏心した状態で噛合うようになされ、前記両ギヤの中心間距離が下式にて表される歯形から決まる偏心量、偏心量=(インナギヤ歯先径(最大径)−インナギヤ歯底径(最小径))/4、より小さくし、前記両ギヤで形成されるシール点の隙間がインナギヤ及びアウタギヤの歯形から決まるシール点の隙間より小さくなるように両ギヤを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インナギヤと、インナギヤと互いに偏心した状態で噛合するアウタギヤとを有してオイルを吸入・吐出する内接ギヤ式ポンプと、ポンプを駆動する電動モータとを備えてなる電動オイルポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの燃費向上や排出ガス規制が強化される中、比較的簡便で燃費向上及び排出ガス低減効果が大きい技術として、自動車の一時停止時、あるいは低速走行時にエンジンを停止させ、再発進時にエンジンを再始動させるアイドルストップシステムの採用が増加している。アイドルストップ技術では、エンジン再始動直後の発進ショックを軽減させるために、アイドルストップ時に電動オイルポンプを駆動してトランスミッション内に圧力を発生させておくか、あるいはトランスミッション内をオイルで満たしておく必要があり、発進ショック低減を実現しながらアイドルストップ時の電動オイルポンプの作動音低減が求められている。
【0003】
特許文献1にもあるように、電動オイルポンプの作動音を抑制するための手段として、電動オイルポンプのギヤ仕様を、1回転当たりの吐出流量がなるべく大きいギヤを採用し、ポンプに要求される流量を確保しつつ、搭載車輌から要求される作動音の閾値以下となるように、モータ回転数を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−115718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明では、1回転あたりの吐出流量がなるべく大きいギヤ仕様を採用し、モータ回転数を抑えていることから、ポンプの容積効率が低くなり、モータ出力に対するポンプの実仕事が低下し、ポンプ効率が悪化するという問題があった。さらに、ギヤ仕様が大きくなることにより、ポンプ部の負荷が大きくなり、モータ部の電流が増加することにより、発熱が増加するという問題があった。また、この問題を解決するためには、モータ出力増加が必要であり、これは、モータサイズ大型化に繋がるため、電動オイルポンプの小型化を図ることが困難であった。
【0006】
この発明は、このような問題を解決するためになされたもので、1回転当たりの吐出流量がなるべく大きいギヤ仕様を採用し、回転数を下げることなく、作動音を低減することができ、要求流量に見合った最適なギヤ仕様及び回転数を用いることにより、高効率な電動オイルポンプを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る電動オイルポンプは、ポンプを駆動するモータ部、該モータ部のシャフトと結合され、両端が軸支持されたポンプ部シャフト、前記ポンプ部シャフトに嵌入され、外周に外歯を備えたインナギヤ、該インナギヤと噛合うように内周に内歯を備えたアウタギヤ、前記両ギヤを収容するギヤ収納部を備えたケース、及び前記両ギヤの対向空間である容積室に連通する吸入口及び吐出口が設けられ、前記ギヤ収納部の一側を塞ぐプレートを備え、偏心した状態で噛合うようになされた前記両ギヤの中心間距離を下式にて表される歯形から決まる偏心量、
偏心量=(インナギヤ歯先径(最大径)−インナギヤ歯底径(最小径))/4
より小さくし、前記両ギヤで形成されるシール点の隙間が前記インナギヤ及び前記アウタギヤの歯形から決まるシール点の隙間より小さくなるように両ギヤを配置する構成としたものである。
【0008】
また、この発明に係る電動オイルポンプは、ポンプを駆動するモータ部、該モータ部のシャフトの一端に挿入され、外周に外歯を備えたインナギヤ、該インナギヤと噛合うように内周に内歯を備えたアウタギヤ、前記両ギヤを収納するギヤ収納部を備えたケース、及び前記両ギヤの対向空間である容積室に連通する吸入口及び吐出口が設けられ、前記ギヤ収納部の一側を塞ぐプレートを備え、偏心した状態で噛合うようになされた前記両ギヤの中心間距離を下式にて表される歯形から決まる偏心量、
偏心量=(インナギヤ歯先径(最大径)−インナギヤ歯底径(最小径))/4
より小さくし、前記両ギヤで形成されるシール点の隙間が前記インナギヤ及び前記アウタギヤの歯形から決まるシール点の隙間より小さくなるように両ギヤを配置する構成としたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、両ギヤの中心間距離を歯形から決まる偏心量より小さくなるように両ギヤを配置し、シール点を接近させることにより、シール点におけるギヤ間クリアランスが小さくなり、吐出圧変動によるギヤ振動時の振幅を低減でき、ギヤの当接音を低減できるため、ギヤ仕様を流量が大きいサイズに変更し、回転数を低減することなく、電動オイルポンプの作動音を低減することができる。
【0010】
また、ギヤ振動時の振幅を抑制できることより、ギヤ当接時の衝撃を低減することができ、ギヤ歯面の耐久性向上が期待できる。
【0011】
また、両ギヤの中心位置をギヤ歯形から決まる偏心量より小さくなるようにずらした構成にすることにより、シール点付近のクリアランスが小さくなり、シール点付近での吐出側から吸入側へのオイルの漏れを低減でき、ポンプ性能を向上させることができる。
【0012】
さらに、ギヤ仕様を大きくし、回転数を低減することなく、作動音を低減できることより、要求流量に見合った最適なギヤ仕様及び最適な回転数を使用することが出来るため、電動オイルポンプの高効率化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電動オイルポンプの構造を示す断面図である。
【図2】図1のa―a線における断面を矢印方向に見た図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る電動オイルポンプの構造を示す断面図である。
【図4】一般的な電動オイルポンプのインナギヤ及びアウタギヤの配置説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1、図2はこの発明の実施の形態1に係る電動オイルポンプの構造を示す図である。
内接ギヤ式の電動オイルポンプは、外周に外歯を備えたインナギヤ1と、インナギヤ1と噛合い点Aにて噛合うように一定の偏心量を設けて配置された、内周に内歯を備えたアウタギヤ2を、ケース3に設けられたギヤ収納部3a内に挿入し、吸入ポート4a及び吐出ポート4bを備えたプレート4にて、ギヤ収納部3aの一側を塞ぐことにより、ポンプ部
が構成されている。吸入ポート4a及び吐出ポート4bは、それぞれ、吸入開口部4d及び吐出開口部4eを介してインナギヤ1とアウタギヤ2との対向空間である容積室10に連通している。
【0015】
インナギヤ1は、ケース3に設けられた軸受6及びプレート4に設けられた軸受7にて両端が支持されたポンプ部シャフト5に、Hカット等にて嵌入されている。また、本オイルポンプを駆動するモータ部8には、ブラシレスモータ等を用い、ポンプ部シャフト5とモータ部シャフト9とはHカット等にて嵌合することにより、電動オイルポンプを構成している。なお、ギヤ両端面と対向するギヤ収納部上面3c、及びプレート上面4cには、吸入開口部3d、4d及び吐出開口部3e、4eが設けられている。また、ケース3、プレート4、モータ8は図示しないネジ止め等にて固定されている。
【0016】
ここで先ず、図4に示す一般的な内接ギヤ式の電動オイルポンプについて説明する。なお、図4に示す一般的な内接ギヤ式の電動オイルポンプの各構成要素には図1と同一の符号を付すことにより、各要素の説明は省略する。ここで、インナギヤ1の回転中心をOi、アウタギヤ2の回転中心をOoとする。インナギヤ1とアウタギヤ2は、インナギヤ1とアウタギヤ2が噛合うように下式で表されるように一定の偏心量C(OiとOoとの距離)、
偏心量C=(インナギヤ歯先径(最大径)−インナギヤ歯底径(最小径))/4
を設けて配置され、インナギヤ1とアウタギヤ2は噛合い点Aで噛合い、噛合い点Aの反対側にあるシール点Bにて、吸入部と吐出部をシールしており、シール点Bでは、微小なクリアランスD(例えば80μm程度)が設けられている。クリアランスDはインナギヤ
1とアウタギヤ2の歯形から決まるもので、
クリアランスD=(アウタギヤ歯先径(最小径)+アウタギヤ歯底径(最大径))/2−インナギヤ歯先径(最大径)
ただし、D>0
で表される値である。
【0017】
一般的な内接ギヤ式ポンプの作動原理を図4により説明する。ポンプ駆動源であるモータ部8に電圧を印加することにより、モータ部シャフト9、及びポンプ部シャフト5を介してインナギヤ1が回転し、噛合い点Aにてインナギヤ1と噛合うアウタギヤ2が噛合い、両ギヤが回転する。このとき、インナギヤ1とアウタギヤ2で構成される複数の容積室10の容積を変化させ、オイルを吸入・吐出する。
【0018】
吸入行程では、回転に伴って、容積室10の容積が増加することにより、吸入ポート4a及び吸入開口部4dを介して容積室10にオイルが充填され、吐出行程では、回転に伴って、容積室10の容積が減少することで、容積室10に充填されたオイルが押出され、吐出開口部4e及び吐出ポート4bを介してオイルを吐出する。
【0019】
このとき、インナギヤ1及びアウタギヤ2には吸入部と吐出部の差圧により、図4の二重矢印F方向に荷重が発生する。またこの荷重はポンプの圧力脈動により変化する。このことから、ポンプ作動中において、インナギヤ1とアウタギヤ2は、シール点BのクリアランスDの幅で振動し、これが作動音増加の原因になると考えられる。
【0020】
これに対して、この発明の実施の形態1では、ギヤ収納部3aの中心を図2のように両ギヤ中心間距離が、歯形から決まる偏心量Cより小さくなる方向、例えばOoとOiを結ぶ線に対して45度の方向に微小量E(例えば50μm)ずらし、アウタギヤ2の中心が、インナギヤ1及びアウタギヤ2の歯形から決まるアウタギヤ中心OoからOo’となるように配置し、シール点Bのクリアランスが小さくなるように構成している。なお、上述の、アウタギヤ中心Oo’の位置は、両ギヤの中心間距離Oi〜Oo’<偏心量C(Oi〜Oo間距離)となる位置であり、OoとOiを結ぶ線に対して45度の方向に限るものではない。従って、シール点Bにおけるクリアランスは(D−E)となる。なお、図2(b)は図2(a)の中心部を拡大して示す図である。
【0021】
本実施の形態1では、上記構造をとることから、シール点Bのクリアランスが(D−E)となり、一般的な内接式ギヤポンプに対して、シール点Bのクリアランスを40%程度に設定することになり、ポンプ作動によるギヤ振動時の振幅を抑えることができ、同圧力で同流量のポンプ特性を確保する際に、作動音を3〜5dBA程度低減することが可能となることが実験により検証されている。
【0022】
また、一般的に、微小隙間からの流体の漏れ量は、隙間の3乗に比例することが知られているが、上記構造では、シール点Bのクリアランスを40%程度にしていることから、シール点からのオイル漏れ量が、一般的な内接ギヤ式ポンプに対して6%程度に減少することから、ポンプ効率の向上を図ることが可能となる。
【0023】
実施の形態2.
実施の形態2の構成を図4にて説明する。この発明の実施の形態2では、ポンプを駆動するための駆動源であるモータ部8、モータ部シャフト11の一端に嵌入された外周に外歯を備えたインナギヤ1、インナギヤ1と噛合い点Aで噛合うように一定の偏心量Cを設けて配置される、内周に内歯を備えたアウタギヤ2を、ケース3に設けられたギヤ収納部3aに挿入し、吸入ポート4a及び吐出ポート4bを備えたプレート4にて、挟み込み、モータ部8、ケース3、プレート4をネジ止め等にて固定している。このとき、実施の形態1同様、両ギヤ中心間距離が前記偏心量Cより小さくなる方向に、ギヤ収納部3aの中心をずらし、アウタギヤ中心をインナギヤ1とアウタギヤ2からなるシール点Bのクリアランスが小さくなる構成としている。
【0024】
本実施の形態2では、実施の形態1同様に作動音の低減およびポンプ効率の向上が図られると共に、ポンプ部シャフトとモータ部シャフトを嵌合する箇所が不要となることから、小型化が可能となる。
【0025】
なお、上記実施の形態1、2において、アウタギヤ2の外周とギヤ収納部3aとの隙間(片側)は、一般的に50〜75μmの設定となっているが、30〜55μmと小さく設定することにより、アウタギヤ2の振幅をさらに低減することができるため、作動音のさらなる低減が可能となる。また、このときの隙間の設定下限値は、オイル中に含まれる微小な異物に対する耐性等を考慮すると、30μmは確保しておく必要があることが実験にて確
認されている。
【符号の説明】
【0026】
1 インナギヤ、 2 アウタギヤ、
3 ケース、 3a ギヤ収納部、
3c ギヤ収納部上面、 3d 吸入開口部、
3e 吐出開口部、 4 プレート、
4a 吸入ポート、 4b 吐出ポート、
4c プレート上面、 4d 吸入開口部、
4e 吐出開口部、 5 ポンプ部シャフト、
6 軸受、 7 軸受、
8 モータ部、 9 モータ部シャフト、
10 容積室、 11 モータ部シャフト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプを駆動するモータ部、該モータ部のシャフトと嵌合され、両端が軸支持されたポンプ部シャフト、前記ポンプ部シャフトに嵌入され、外周に外歯を備えたインナギヤ、該インナギヤと噛合うように内周に内歯を備えたアウタギヤ、前記両ギヤを収容するギヤ収納部を備えたケース、及び前記両ギヤの対向空間である容積室に連通する吸入口及び吐出口が設けられ、前記ギヤ収納部の一側を塞ぐプレートを備え、前記インナギヤと前記アウタギヤとは偏心した状態で噛合うように配置される電動オイルポンプにおいて、前記両ギヤの中心間距離を下式にて表される歯形から決まる偏心量、
偏心量=(インナギヤ歯先径(最大径)−インナギヤ歯底径(最小径))/4
より小さくし、前記両ギヤで形成されるシール点の隙間が小さくなるように前記両ギヤを配置する構成としたことを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項2】
ポンプを駆動するモータ部、該モータ部のシャフトの一端に挿入され、外周に外歯を備えたインナギヤ、該インナギヤと噛合うように内周に内歯を備えたアウタギヤ、前記両ギヤを収納するギヤ収納部を備えたケース、及び前記両ギヤの対向空間である容積室に連通する吸入口及び吐出口が設けられ、前記ギヤ収納部の一側を塞ぐプレートを備え、前記インナギヤと前記アウタギヤとは偏心した状態で噛合うように配置される電動オイルポンプにおいて、前記両ギヤの中心間距離を下式にて表される歯形から決まる偏心量、
偏心量=(インナギヤ歯先径(最大径)−インナギヤ歯底径(最小径))/4
より小さくし、前記両ギヤで形成されるシール点の隙間が小さくなるように前記両ギヤを配置する構成としたことを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項3】
前記アウタギヤの外周と前記ギヤ収納部の隙間を30〜55μmに設定した請求項1ま
たは請求項2に記載の電動オイルポンプ。
【請求項4】
前記インナギヤ及び前記アウタギヤの歯形から決まるシール点の隙間(クリアランス)Dは、
クリアランスD=(アウタギヤ歯先径(最小径)+アウタギヤ歯底径(最大径))/2−インナギヤ歯先径(最大径)
ただし、D>0
で表されるものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電動オイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15111(P2013−15111A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149763(P2011−149763)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】