説明

電動パワーステアリング装置

【課題】電動モータの回転を伝えるウォームホイールの歯を潤滑室に配置してなる電動パワーステアリング装置において、潤滑室の封止の簡易を図ること。
【解決手段】電動パワーステアリング装置において、ウォームホイール60の歯64をハウジング20により区画した潤滑室70内に配置し、ウォームホイール60の歯64の両側のそれぞれに、潤滑室70の潤滑剤を該潤滑室70内に封止する封止手段80、90を設け、ウォームホイール60の歯64の少なくとも一側に設けられる封止手段80が、ハウジング20の壁面とウォームホイール60の側面の一方に固定され、他方に摺接するシールリング81からなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置として、特許文献1に記載の如く、操舵ハンドルが接続される入力軸と、車輪側に接続される出力軸と、入力軸と出力軸の間に設けられるトーションバーと、操舵ハンドルから入力される操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの検出トルクに応じて駆動される電動モータと、電動モータの回転を出力軸に伝えるように該出力軸に設けたウォームホイールとを、ハウジングに設けてなるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-51354
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、ウォームホイールの歯をハウジングにより区画した潤滑室内に配置し、ウォームホイールの歯の両側のそれぞれに、潤滑室の潤滑剤を該潤滑室内に封止する封止手段を設けている。両側の封止手段により潤滑室のグリース等の潤滑剤を封止し、ウォームホイールの他の潤滑不良を回避する他、潤滑剤がトルクセンサの側に侵入して樹脂部品を膨潤化したり、電気的ショートを引き起こすおそれを回避するものである。
【0005】
しかしながら、従来技術では、ウォームホイールの歯の両側の係止手段を、出力軸を支持するシール付軸受により構成している。両側の2つの軸受を共にシール付とする必要があり、高コストになる。
【0006】
本発明の課題は、電動モータの回転を伝えるウォームホイールの歯を潤滑室に配置してなる電動パワーステアリング装置において、潤滑室の封止の簡易を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、操舵ハンドルが接続される入力軸と、車輪側に接続される出力軸と、入力軸と出力軸の間に設けられるトーションバーと、操舵ハンドルから入力される操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの検出トルクに応じて駆動される電動モータと、電動モータの回転を出力軸に伝えるように該出力軸に設けたウォームホイールとを、ハウジングに設けてなる電動パワーステアリング装置において、ウォームホイールの歯をハウジングにより区画した潤滑室内に配置し、ウォームホイールの歯の両側のそれぞれに、潤滑室の潤滑剤を該潤滑室内に封止する封止手段を設け、ウォームホイールの歯の少なくとも一側に設けられる封止手段が、ハウジングの壁面とウォームホイールの側面の一方に固定され、他方に摺接するシールリングからなるようにしたものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、操舵ハンドルが接続される入力軸と、車輪側に接続される出力軸と、入力軸と出力軸の間に設けられるトーションバーと、操舵ハンドルから入力される操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの検出トルクに応じて駆動される電動モータと、電動モータの回転を出力軸に伝えるように該出力軸に設けたウォームホイールとを、ハウジングに設けてなる電動パワーステアリング装置において、ウォームホイールの歯をハウジングにより区画した潤滑室内に配置し、ウォームホイールの歯の両側のそれぞれに、潤滑室の潤滑剤を該潤滑室内に封止する封止手段を設け、ウォームホイールの歯の少なくとも一側に設けられる封止手段が、ハウジングの壁面とウォームホイールの側面との間に形成したラビリンスシールからなるようにしたものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記ウォームホイールを設けた出力軸が唯1個の軸受によりハウジングに支持され、該軸受がウォームホイールの歯の他側に設けられるシール付軸受とされ、このシール付軸受がウォームホイールの歯の他側に設けられる封止手段を構成するようにしたものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において更に、前記軸受が出力軸の外周に嵌合したウォームホイールのボスの外周に嵌合される状態で、ハウジングに支持され、ウォームホイールの軸方向で、ボスの軸受が嵌合される外周の少なくとも一部が該ウォームホイールの歯の歯巾の範囲内に配置されるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1)
(a)ウォームホイールの歯の少なくとも一側に設けられる封止手段が、ハウジングの壁面とウォームホイールの側面の一方に固定され、他方に摺接するシールリングからなるものとすることにより、潤滑室を簡易に封止できる。潤滑室のグリース等の潤滑剤を封止し、ウォームホイールの他の潤滑不良を回避する他、潤滑剤がトルクセンサの側に侵入して樹脂部品を膨潤化したり、電気的ショートを引き起こすおそれを回避することができる。
【0012】
(b)上述(a)のシールリングが、他の軸受等を介することなく、潤滑室に直接的に臨んで接するように設けられるとき、該シールリングの摺接部を潤滑剤により常に十分確実に潤滑し、該シールリングのシール性能を向上し、その寿命を簡易に確保できる。
【0013】
(請求項2)
(c)ウォームホイールの歯の少なくとも一側に設けられる封止手段が、ハウジングの壁面とウォームホイールの側面との間に形成したラビリンスシールからなるものとすることにより、潤滑室を簡易に封止できる。潤滑室のグリース等の潤滑剤を封止し、ウォームホイールの他の潤滑不良を回避する他、潤滑剤がトルクセンサの側に侵入して樹脂部品を膨潤化したり、電気的ショートを引き起こすおそれを回避することができる。
【0014】
(d)上述(c)のラビリンスシールは非接触式シールであり、その寿命を簡易に確保できる。
【0015】
(請求項3)
(e)ウォームホイールを設けた出力軸が唯1個の軸受によりハウジングに支持され、該軸受がウォームホイールの歯の他側に設けられるシール付軸受とされ、このシール付軸受がウォームホイールの歯の他側に設けられる封止手段を構成するものとする。ウォームホイールの歯の一側に設けられる封止手段を上述のシールリング又はラビリンスシールにより簡易に構成するとともに、出力軸を支持する軸受を唯1個にして簡素化しながら、この軸受をシール付としてウォームホイールの歯の他側に設けられる封止手段に兼用するものになる。ウォームホイールを設けた出力軸の支持構造を簡素化するとともに、ウォームホイールの歯の潤滑室の簡易に封止できる。
【0016】
(請求項4)
(f)上述(e)の軸受が出力軸の外周に嵌合したウォームホイールのボスの外周に嵌合される状態で、ハウジングに支持され、ウォームホイールの軸方向で、ボスの軸受が嵌合される外周の少なくとも一部が該ウォームホイールの歯の歯巾の範囲内に配置される。これにより、出力軸上におけるウォームホイールの歯のセンターと、軸受のセンターとを、出力軸の軸方向で合致又は近接配置できる。ウォームホイールに作用する噛合い荷重を、ウォームホイールの上記ボスに嵌合した上記軸受だけで安定的に支持できるものになり、ウォームホイールを設けた出力軸を唯1個の軸受で安定的にハウジングに支持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は電動パワーステアリング装置の全体を示す断面図である。
【図2】図2は図1の一部を示す断面図である。
【図3】図3は図2の要部拡大断面図である。
【図4】図4は電動パワーステアリング装置の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図5】図5は電動パワーステアリング装置の変形例を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
電動パワーステアリング装置10は、図1、図2に示す如く、図外操舵ハンドルがアッパーシャフト11に連結され、このアッパーシャフト11に入力軸12がセレーション結合される。また、車輪側の図外ステアリングギヤに、ユニバーサルジョイントのヨーク等の車輪側接続部材13を介して出力軸14が接続される。即ち、電動パワーステアリング装置10は、操舵ハンドルに接続される入力軸12と、車輪側に接続される出力軸14と、入力軸12と出力軸14の間に設けられるトーションバー15を有し、車両の運転者が操舵ハンドルに加える操舵トルクを、入力軸12、トーションバー15、出力軸14、車輪側接続部材13、ステアリングギヤを介して車輪にその舵角が変化するように伝える。ステアリングギヤは、例えば操舵トルクにより回転するピニオンに噛合うラックの変位をタイロッド、ナックルアーム等を介して車輪に伝えるラックアンドピニオン式ステアリングギヤを採用できる。
【0019】
電動パワーステアリング装置10は、入力軸12、出力軸14、トーションバー15をハウジング20に内蔵している。ハウジング20は、操舵ハンドル側の第1ハウジング21に、第2ハウジング22をOリング23を介して液密に嵌合し、それらハウジング21、22を図外ボルトにより連結して構成され、第1ハウジング21に筒状のコラム24を圧入により取付けている。アッパーシャフト11がボールベアリング等の軸受25によりコラム24に枢支され、入力軸12がボールベアリング等の軸受26により第1ハウジング21に枢支され、出力軸14がボールベアリング等の軸受27により第2ハウジング22に後述する如くに枢支される。
【0020】
入力軸12と出力軸14の同軸をなす中心孔に弾性棒材からなるトーションバー15が挿入される。トーションバー15の一端は入力軸12にピン15Aにより連結され、トーションバー15の他端係合部15Bが出力軸14に係合される。入力軸12と出力軸14は操舵トルクに応じて中心軸まわりに弾性的に相対回転する。
【0021】
電動パワーステアリング装置10は、ハウジング20(21、22)に、トルクセンサ30と電動モータ40とウォームギヤ50とウォームホイール60を設けている。
【0022】
トルクセンサ30は、第1ハウジング21の内部で、入力軸12及び出力軸14まわりに配置される。トルクセンサ30は、操舵ハンドルから入力軸12に入力された操舵トルクが、トーションバー15を弾性ねじり変形させた結果、入力軸12と出力軸14の間に生ずる回転方向の相対変位に基づいてその操舵トルクを検出する。第1ハウジング21の外面にはトルクセンサ30の一部を構成する検出回路基板31が取付けられている。
【0023】
電動モータ40は、第1ハウジング21の外面に取付けられ、トルクセンサ30の検出トルクに応じて駆動される。電動モータ40の回転軸に取付けられるウォームギヤ50と、出力軸14の外周に後述する如くに取付けられるウォームホイール60が、ハウジング20(21、22)の内部に配置され、互いに噛合いされる。これにより、トルクセンサ30の検出トルクに応じて駆動される電動モータ40の回転により生ずる操舵アシスト力が、ウォームギヤ50、ウォームホイール60の噛合いにより減速されて出力軸14に伝えられる。出力軸14に伝えられた操舵アシスト力は、車輪側接続部材13、ステアリングギヤを介して車輪に伝えられる。
【0024】
電動パワーステアリング装置10は、ウォームホイール60の歯64を、ウォームギヤ50の歯とともに、ハウジング20(21、22)に区画した潤滑室70内に収容するように配置している。潤滑室70内で、ウォームホイール60の歯64にグリースが塗布されるものになる。
【0025】
尚、ウォームホイール60は、図3に示す如く、出力軸14の外周に嵌合されるボス61と、ボス61から外方に延びるディスク62(ボス61から放射状に延びる複数本のアームでも可)と、ディスク62の外縁に設けたリム63とを有し、リム63の外周に歯64を備えている。ボス61とディスク62を芯金により形成して強度を確保し、歯64を備えるリム63を樹脂により形成してウォームギヤ50との噛合い音の静粛を図っている。
【0026】
以下、電動パワーステアリング装置10において、(A)出力軸14及びウォームホイール60の支持構造、(B)潤滑室70の封止構造について詳述する。
【0027】
(A)出力軸14及びウォームホイール60の支持構造(図3)
出力軸14の外周を、車輪側接続部材13のヨーク環状部13Aが嵌合する大径部14Aと、ウォームホイール60のボス61が嵌合する中径部14Bと、入力軸12の孔内に挿入される小径部14Cとする。
【0028】
そして、出力軸14の中径部14Bの外周にウォームホイール60のボス61を嵌合し、このボス61の外周に嵌合した軸受27を第2ハウジング22の中央筒部22Aの内周に挿着して支持する。
【0029】
このとき、ウォームホイール60の軸方向で、ボス61の軸受27が嵌合する外周の少なくとも一部(ボス61のヨーク環状部13A寄り端面〜ボス61のディスク62が立上る立上り面61A)がウォームホイール60の歯64の歯巾の範囲内に配置される。本実施例では、立上り面61Aが歯64の中心線に合致している。
【0030】
また、軸受27の位置決めは以下によりなされる。
(1)軸受27の内輪は、軸方向で、出力軸14の外周に嵌合されているウォームホイール60のボス61からの立上り面61Aと、出力軸14の外周に取着される車輪側接続部材13のヨーク環状部13Aの端面とにより挟持されて固定される。
【0031】
軸受27の外輪は、車輪側接続部材13のヨーク環状部13A側で、第2ハウジング22の中央筒部22Aの内周に係着した止め輪28により係止される。
【0032】
(2)出力軸14の外周に嵌合されたウォームホイール60のボス61は、出力軸14の中径部14Bに圧入されて位置決めされ、又は出力軸14の中径部14Bに設けた止め輪65に係止して位置決めされる。止め輪65を加締めることにより、ウォームホイール60のボス61を車輪側接続部材13のヨーク環状部13Aの端面との間で隙間なく固定できる。
【0033】
(3)出力軸14の外周に取着された車輪側接続部材13のヨーク環状部13Aは、出力軸14の大径部14Aに圧入されて位置決めされ、又は出力軸14の大径部14Aに設けた止め輪66に係止して位置決めされる。
【0034】
本実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)出力軸14の外周にウォームホイール60のボス61が嵌合され、このボス61の外周に嵌合した軸受27がハウジング20(22)に支持される。従って、ウォームホイール60のボス61と軸受27を出力軸14の径方向に積み重ねる如くに配置するものになり、ハウジング20(22)内で出力軸14を支持する軸方向スペースを小さくできる。
【0035】
(b)ウォームホイール60の軸方向で、ボス61の軸受27が嵌合される外周の少なくとも一部が該ウォームホイール60の歯64の歯巾の範囲内に配置される。これにより、出力軸14上におけるウォームホイール60の歯64のセンターと、軸受27のセンターとを、出力軸14の軸方向で合致又は近接配置できる。ウォームホイール60に作用する噛合い荷重を、ウォームホイール60の上記ボス61に嵌合した上記軸受27だけで安定的に支持できるものになり、ウォームホイール60を設けた出力軸14を唯1個の軸受27で安定的にハウジング20(22)に支持できる。
【0036】
(c)軸受27が軸方向で、出力軸14の外周に嵌合されているウォームホイール60のボス61からの立上り面61Aと、出力軸14の外周に取着される車輪側接続部材13の端面とにより挟持されて固定される。出力軸14上での軸受27の位置決め構造に、ウォームホイール60自体と車輪側接続部材13とを用いることで、出力軸14の外周に環状突起やナット等の位置決め専用構造を付加する必要がない。これによっても、ハウジング20(22)内における出力軸14の支持スペースを小さくできる。
【0037】
(d)ウォームホイール60のボス61は、出力軸14に圧入されて位置決めされ、又は該出力軸14の一側に設けた止め輪65に係止して位置決めされる。
【0038】
(e)車輪側接続部材13は、出力軸14に圧入されて位置決めされ、又は該出力軸14の他側に設けた止め輪66に係止して位置決めされる。
【0039】
(B)潤滑室70の封止構造(図3)
ウォームホイール60の歯64の両側のそれぞれに、潤滑室70の潤滑剤(例えばグリース)を該潤滑室70内に封止する第1と第2の封止手段80、90を設ける。
【0040】
ウォームホイール60の歯64の一側(ハウジング20(21)内でトルクセンサ30が設けられるトルクセンサ室32の側)に設けられる第1の封止手段80を、第1ハウジング21の潤滑室70とトルクセンサ室32とを区画する隔壁21Aの壁面と、ウォームホイール60の樹脂リム63(ディスク62でも可)の側面の一方に固定され、他方に摺接するシールリング81からなるものにする。本実施例では、第1ハウジング21の隔壁21Aのウォームホイール60に臨む壁面における出力軸14の中心軸まわりに設けた環状溝21Bの溝底側にバックアップ用Oリング82を装填し、その溝内におけるOリング82上にテフロン(登録商標)等からなるシールリング81を装填した。Oリング82により環状溝21Bの外方に向けて弾発的に加圧されるシールリング81がウォームホイール60のリム63の側面に摺接するものになる。
【0041】
ウォームホイール60を設けた出力軸14が唯1個の軸受27によりハウジング20(22)に支持され、軸受27がウォームホイール60の歯64の他側に設けられるシール付軸受とされ、このシール付軸受27をウォームホイール60の歯64の他側に設けられる第2の封止手段90とする。
【0042】
このとき、軸受27は、前述の如く、出力軸14の外周に嵌合したウォームホイール60のボス61の外周に嵌合される状態で、第2ハウジング22の中央筒部22Aに支持される。そして、ウォームホイール60の軸方向で、ボス61の軸受27が嵌合する外周の少なくとも一部(ボス61のヨーク環状部13A寄り端面〜ボス61のディスク62が立上る立上り面61A)がウォームホイール60の歯64の歯巾の範囲内に配置される。
【0043】
尚、ウォームホイール60を設けた出力軸14を、該ウォームホイール60を両側から挟む2個の軸受によりハウジング20(21、22)に支持するものにしても良い。ウォームホイール60の歯64の一側に上述の例えばシールリング81からなる第1の封止手段80とシールなし軸受を配置し(第1の封止手段80をシールなし軸受よりも半径方向の潤滑室70寄りに配置し、第1の封止手段80がシールなし軸受を介することなく、直接的に潤滑室70に臨んで接することが好ましい)、ウォームホイール60の歯64の他側に上述の例えば軸受27からなる第2の封止手段90となるシール付軸受を配置する。
【0044】
本実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)ウォームホイール60の歯64の少なくとも一側に設けられる封止手段80が、ハウジング20(21)の壁面とウォームホイール60の側面の一方に固定され、他方に摺接するシールリング81からなるものとすることにより、潤滑室70を簡易に封止できる。潤滑室70のグリース等の潤滑剤を封止し、ウォームホイール60の他の潤滑不良を回避する他、潤滑剤がトルクセンサ30の側に侵入して樹脂部品を膨潤化したり、電気的ショートを引き起こすおそれを回避することができる。
【0045】
(b)上述(a)のシールリング81が、他の軸受等を介することなく、潤滑室70に直接的に臨んで接するように設けられるとき、該シールリング81の摺接部を潤滑剤により常に十分確実に潤滑し、該シールリング81のシール性能を向上し、その寿命を簡易に確保できる。
【0046】
(c)ウォームホイール60を設けた出力軸14が唯1個の軸受27によりハウジング20(22)に支持され、該軸受27がウォームホイール60の歯64の他側に設けられるシール付軸受27とされ、このシール付軸受27がウォームホイール60の歯64の他側に設けられる封止手段90を構成するものとする。ウォームホイール60の歯64の一側に設けられる封止手段80を上述のシールリング81により簡易に構成するとともに、出力軸14を支持する軸受27を唯1個にして簡素化しながら、この軸受27をシール付としてウォームホイール60の歯64の他側に設けられる封止手段90に兼用するものになる。ウォームホイール60を設けた出力軸14の支持構造を簡素化するとともに、ウォームホイール60の歯64の潤滑室70の簡易に封止できる。
【0047】
(d)上述(c)の軸受27が出力軸14の外周に嵌合したウォームホイール60のボス61の外周に嵌合される状態で、ハウジング20(22)に支持され、ウォームホイール60の軸方向で、ボス61の軸受27が嵌合される外周の少なくとも一部が該ウォームホイール60の歯64の歯巾の範囲内に配置される。これにより、出力軸14上におけるウォームホイール60の歯64のセンターと、軸受27のセンターとを、出力軸14の軸方向で合致又は近接配置できる。ウォームホイール60に作用する噛合荷重を、ウォームホイール60の上記ボス61に嵌合した上記軸受27だけで安定的に支持できるものになり、ウォームホイール60を設けた出力軸14を唯1個の軸受27で安定的にハウジング20(22)に支持できる。
【0048】
図4は潤滑室70の封止構造の変形例を示す。この変形例が前記図1〜図3の実施例と異なる点は、第1の封止手段80を、第1ハウジング21の隔壁21Aに設けた環状溝21Bに装填され、ウォームホイール60の樹脂リム63(ディスク62でも可)の側面に摺接するOリング83によって構成したことにある。図4の変形例によれば、図1〜図3の実施例における(a)〜(d)と同様の作用効果を奏する。
【0049】
図5は潤滑室70の封止構造の変形例を示す。この変形例が前記図1〜図3の実施例と異なる点は、ウォームホイール60の歯64の一側(ハウジング20(21)内でトルクセンサ30が設けられるトルクセンサ室32の側)に設けられる第1の封止手段80を、第1ハウジング21の潤滑室70とトルクセンサ室32とを区画する隔壁21Aの壁面と、ウォームホイール60の樹脂リム63(ディスク62でも可)の側面との間に形成したラビリンスシール84からなるものとしたことにある。ラビリンスシール84は、図5(B)に示す如く、第1ハウジング21の隔壁21Aをウォームホイール60に臨む壁面における出力軸14の中心軸まわりに設けた複数の環状突起85A、及び相隣る環状突起85Aの間の環状溝85B(本実施例では3個の環状突起85Aと2個の環状溝85B)と、ウォームホイール60のリム63の側面における出力軸14の中心軸まわりに設けた複数の環状突起86Aであって、それらの先端が相対する環状溝85Bの溝内に入り込む環状突起86Aとから構成される。
【0050】
図5の変形例によれば、図1〜図3の実施例における(c)、(d)と同様の作用効果に加え、以下の作用効果を奏する。
【0051】
(a)ウォームホイール60の歯64の少なくとも一側に設けられる封止手段80が、ハウジング20(21)の壁面とウォームホイール60の側面との間に形成したラビリンスシール84からなるものとすることにより、潤滑室70を簡易に封止できる。潤滑室70のグリース等の潤滑剤を封止し、ウォームホイール60の他の潤滑不良を回避する他、潤滑剤がトルクセンサ30の側に侵入して樹脂部品を膨潤化したり、電気的ショートを引き起こすおそれを回避することができる。
【0052】
(b)上述(a)のラビリンスシール84は非接触式シールであり、その寿命を簡易に確保できる。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、操舵ハンドルが接続される入力軸と、車輪側に接続される出力軸と、入力軸と出力軸の間に設けられるトーションバーと、操舵ハンドルから入力される操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの検出トルクに応じて駆動される電動モータと、電動モータの回転を出力軸に伝えるように該出力軸に設けたウォームホイールとを、ハウジングに設けてなる電動パワーステアリング装置において、ウォームホイールの歯をハウジングにより区画した潤滑室内に配置し、ウォームホイールの歯の両側のそれぞれに、潤滑室の潤滑剤を該潤滑室内に封止する封止手段を設け、ウォームホイールの歯の少なくとも一側に設けられる封止手段が、ハウジングの壁面とウォームホイールの側面の一方に固定され、他方に摺接するシールリングからなるものにした。これにより、電動モータの回転を伝えるウォームホイールの歯を潤滑室に配置してなる電動パワーステアリング装置において、潤滑室の封止の簡易を図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
10 電動パワーステアリング装置
12 入力軸
14 出力軸
15 トーションバー
20、21、22 ハウジング
27 軸受
30 トルクセンサ
40 電動モータ
60 ウォームホイール
61 ボス
64 歯
70 潤滑室
80 第1の封止手段
81 シールリング
80 第2の封止手段
83 Oリング(シールリング)
84 ラビリンスシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵ハンドルが接続される入力軸と、車輪側に接続される出力軸と、入力軸と出力軸の間に設けられるトーションバーと、操舵ハンドルから入力される操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの検出トルクに応じて駆動される電動モータと、電動モータの回転を出力軸に伝えるように該出力軸に設けたウォームホイールとを、ハウジングに設けてなる電動パワーステアリング装置において、
ウォームホイールの歯をハウジングにより区画した潤滑室内に配置し、
ウォームホイールの歯の両側のそれぞれに、潤滑室の潤滑剤を該潤滑室内に封止する封止手段を設け、
ウォームホイールの歯の少なくとも一側に設けられる封止手段が、ハウジングの壁面とウォームホイールの側面の一方に固定され、他方に摺接するシールリングからなることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
操舵ハンドルが接続される入力軸と、車輪側に接続される出力軸と、入力軸と出力軸の間に設けられるトーションバーと、操舵ハンドルから入力される操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの検出トルクに応じて駆動される電動モータと、電動モータの回転を出力軸に伝えるように該出力軸に設けたウォームホイールとを、ハウジングに設けてなる電動パワーステアリング装置において、
ウォームホイールの歯をハウジングにより区画した潤滑室内に配置し、
ウォームホイールの歯の両側のそれぞれに、潤滑室の潤滑剤を該潤滑室内に封止する封止手段を設け、
ウォームホイールの歯の少なくとも一側に設けられる封止手段が、ハウジングの壁面とウォームホイールの側面との間に形成したラビリンスシールからなることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記ウォームホイールを設けた出力軸が唯1個の軸受によりハウジングに支持され、該軸受がウォームホイールの歯の他側に設けられるシール付軸受とされ、このシール付軸受がウォームホイールの歯の他側に設けられる封止手段を構成する請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記軸受が出力軸の外周に嵌合したウォームホイールのボスの外周に嵌合される状態で、ハウジングに支持され、
ウォームホイールの軸方向で、ボスの軸受が嵌合される外周の少なくとも一部が該ウォームホイールの歯の歯巾の範囲内に配置される請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40981(P2012−40981A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184956(P2010−184956)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】