説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ベルトの張力を増大調整する際の作業性を向上させること。
【解決手段】電動パワーステアリング装置100では、電動モータの回転軸21と同軸上に結合した駆動プーリ31の回転力を、ステアリング装置の回転部材と同軸上に結合した従動プーリ32に、ベルト33を介して伝達することによって、操舵アシストを行うように構成されている。電動パワーステアリング装置100には、ベルト33の張力を調整するベルト張力調整機構Aが設けられている。ベルト張力調整機構Aは、ステアリング装置のハウジング14に設けられた円形の支持部14aと、電動モータのケーシング22に回転軸21に対して偏心して設けられて支持部14aに対して回転可能に組付けられる連結部22aを備えるとともに、支持部14aに対する連結部22aの相対回転をベルト33の張力が増大する回転方向に許容し逆回転を規制する回転方向規制手段A1を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置、特に、電動モータの回転軸と同軸上に結合した駆動プーリの回転力を、ステアリング装置の回転部材と同軸上に結合した従動プーリに、ベルトを介して伝達することによって、操舵アシストを行うように構成した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動パワーステアリング装置は、例えば、下記特許文献1に示されている。下記特許文献1に記載されている電動パワーステアリング装置においては、ステアリング装置のハウジング(ギヤハウジング)と電動モータのケーシング(モータハウジング)間に介装した調整カラー(これは、モータハウジングを回転不能に支持し、駆動プーリを回転可能に支持していて、ギヤハウジングに設けられて駆動プーリの回転中心に対して偏心した取付孔に回転可能に組付けられている)を回転させることにより、ベルトの張力を調整するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−324708号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載されている電動パワーステアリング装置では、調整カラーを回転させて、ベルトの張力を調整しながら、調整カラーに組付けられている電動モータのケーシングを、ステアリング装置のハウジングに対して組付ける(調整後の位置で固定する)必要があり、その際に、両者の回転位相を固定する治具が必要であって作業性が悪い。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、
電動モータの回転軸と同軸上に結合した駆動プーリの回転力を、ステアリング装置の回転部材と同軸上に結合した従動プーリに、ベルトを介して伝達することによって、操舵アシストを行うように構成した電動パワーステアリング装置において、
前記ベルトの張力を調整するベルト張力調整機構が設けられていて、同ベルト張力調整機構は、前記ステアリング装置のハウジングに設けられた円形の支持部と、前記電動モータのケーシングに前記回転軸に対して偏心して設けられて前記支持部に対して回転可能に組付けられる連結部を備えるとともに、前記支持部に対する前記連結部の相対回転を前記ベルトの張力が増大する回転方向に許容し逆回転を規制する回転方向規制手段を備えていることに特徴がある。
【0006】
本発明による電動パワーステアリング装置おいては、ベルト張力調整機構が、上記したハウジングの支持部とケーシングの連結部を備えるとともに、前記支持部に対する前記連結部の相対回転を前記ベルトの張力が増大する回転方向に許容し逆回転を規制する回転方向規制手段を備えている。このため、ベルトの張力が増大する回転方向にケーシングの連結部をハウジングの支持部に対して回転させることで、ベルトの張力を増大調整することができる。しかも、ベルトの張力を増大調整した状態では、ベルト張力調整機構の回転方向規制手段によって連結部の支持部に対する逆回転が規制される。なお、ベルトの張力が増大調整された後には、ハウジングとケーシングがボルト等の固定手段にて連結固定されて、ベルトの張力が維持されることも可能である。
【0007】
したがって、本発明では、ベルトの張力を増大調整する際に、ハウジングとケーシングの回転位相を固定する治具が不要であって、作業性を向上させることが可能である。また、本発明では、仮に、ボルト等の固定手段によるハウジングとケーシングの連結固定が緩んだ際にも、ベルト張力調整機構の回転方向規制手段が連結部の支持部に対する逆回転を規制する。このため、両者の回転位相ズレが防止されて、この回転位相ズレに伴うベルト張力の低下が防止される。
【0008】
上記した本発明の実施に際して、前記回転方向規制手段が、ラチェットとポールを備えたラチェット機構であって、前記ラチェットの歯ピッチは、ベルト個体差(ばらつき)の上限(ベルトの張力が大きくなる場合の上限)におけるベルト張力の目標張力範囲に収まる角度調整範囲より小さく設定されていることも可能である。この場合には、ベルト個体差の上限においても、ベルト張力調整作業時において最後に実行されるラチェットの1歯分の角度調整により、ベルト張力の目標張力範囲に収まる角度調整範囲内にて、ポールがラチェットの歯に係合して逆回転を規制する。したがって、上記した1歯分の角度調整にて、角度調整範囲以上に調整されること(ベルトの張力が過剰に増大調整されること)がなくて、ベルトの張力調整を的確に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施形態を概略的に示した縦断正面図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】図2に示したステアリング装置のハウジングと電動モータのケーシングの関係を示した断面図である。
【図4】図3に示したハウジングに対するケーシングの回転角度とベルト張力との関係を示した線図である。
【図5】本発明に係る電動パワーステアリング装置の他の実施形態を概略的に示した図2相当の断面図である。
【図6】図5に示したステアリング装置のハウジングと電動モータのケーシングの関係を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施形態を概略的に示していて、この電動パワーステアリング装置100では、車幅方向に配置されるラック軸11(ボールねじ軸)に対して電動モータ20が並列的に配置されている。電動パワーステアリング装置100は、ラック式のステアリング装置10と電動モータ20を備えていて、電動モータ20の回転軸21と同軸上にトルク伝達可能に結合した駆動プーリ31の回転力(電動モータ20の回転力)を、ステアリング装置10の回転部材であるボールナット12と同軸上にトルク伝達可能に結合した従動プーリ32に、歯付のベルト33を介して伝達することによって、操舵アシストを行うように構成されている。
【0011】
ラック式のステアリング装置10は、それ自体公知のものであり、ステアリングホイール(図示省略)にピニオンシャフト(図示省略)とステアリングシャフト(図示省略)等を介して連結されているラック軸11が、ハウジング14に車幅方向にて移動可能に支持されている。また、このステアリング装置10では、ボールナット12が、軸受13を介してステアリング装置10のハウジング14に回転自在に組付けられている。また、ボールナット12と軸受13が、ボールナット12に組付けた固定ナット15と、ハウジング14に組付けた固定ナット16によって位置決め固定されている。
【0012】
電動モータ20は、ステアリングホイールからステアリングシャフトに伝達される操舵トルクに応じて駆動されるように構成されている。このため、回転軸21の回転が、駆動プーリ31、ベルト33、従動プーリ32を介してボールナット12に伝達されて、ラック軸11の軸方向駆動力(アシスト力)とされて、操舵アシストが行なわれる。なお、回転軸21は、電動モータ20のケーシング22に回転自在に組付けられている。
【0013】
ところで、この実施形態においては、ステアリング装置10のハウジング14と電動モータ20のケーシング22間に、図2および図3に示したように、ベルト33の張力を調整するためのベルト張力調整機構Aが設けられている。ベルト張力調整機構Aは、ステアリング装置10のハウジング14に設けられた円形の支持部(孔部)14aと、電動モータ20のケーシング22に回転軸21に対して偏心して設けられて支持部14aに対して回転可能に組付けられる連結部(軸部)22aを備えるとともに、支持部14aに対する連結部22aの相対回転をベルト33の張力が増大する回転方向(図3の矢印方向、すなわち、反時計回転方向)に許容し逆回転を規制する回転方向規制手段A1を備えている。
【0014】
回転方向規制手段A1は、連結部22aに設けた円弧状のラチェット41(爪歯車)と、このラチェット41の各爪歯41aに係合可能なポール42(爪)を備えたラチェット機構であって、ラチェット41の歯ピッチαは、ベルト個体差(ばらつき)の上限におけるベルト張力の目標張力範囲に収まる角度調整範囲Δθ1(図4参照)より小さく設定(α<Δθ1)されている。なお、ベルト個体差(ばらつき)の下限におけるベルト張力の目標張力範囲に収まる角度調整範囲Δθ2は、上記した上限の角度調整範囲Δθ1より大きくなっていて、ラチェット41の歯ピッチαより大きく(α<Δθ2)なっている。
【0015】
この実施形態では、ラチェット41が連結部22aの全周に設けられておらず、1/3周程度(必要量)の長さで設けられている。また、この実施形態では、ポール42が支持部14aに設けた凹部14a1に設けられていて、ビス43を用いてステアリング装置10のハウジング14に組付けられている。なお、この実施形態では、図2に示したように、ハウジング14の左右分割部にシールリングS1が介装され、ハウジング14とケーシング22のフランジ部22b間にシールリングS2が介装されている。
【0016】
上記のように構成したこの実施形態の電動パワーステアリング装置においては、ベルト張力調整機構Aが、ハウジング14の支持部14aとケーシング22の連結部22aを備えるとともに、支持部14aに対する連結部22aの相対回転をベルト33の張力が増大する回転方向に許容し逆回転を規制する回転方向規制手段A1を備えている。このため、ベルト33の張力が増大する回転方向にケーシング22の連結部22aをハウジング14の支持部14aに対して回転させることで、ベルト33の張力を増大調整することができる。しかも、ベルト33の張力を増大調整した状態では、ベルト張力調整機構Aの回転方向規制手段A1によって逆回転が規制される。なお、ベルト33の張力が調整された後には、ケーシング22のフランジ部22bに設けた円弧状長孔(図示省略)に挿通されてハウジング14に螺着される複数個のボルト51にて、ハウジング14とケーシング22が一体的に連結固定されて、ベルト33の張力が維持されるように構成されている。
【0017】
したがって、この実施形態では、ベルト33の張力を増大調整する際に、ハウジング14とケーシング22の回転位相を固定する治具が不要であって、作業性を向上させることが可能である。また、この実施形態では、仮に、ボルト51によるハウジング14とケーシング22の連結固定が緩んだ際にも、ベルト張力調整機構Aの回転方向規制手段A1が連結部22aの支持部14aに対する逆回転を規制する。このため、両者の回転位相ズレが防止されて、この回転位相ズレに伴うベルト張力の低下が防止される。
【0018】
また、この実施形態では、回転方向規制手段A1が、ラチェット41とポール42を備えたラチェット機構であって、ラチェット41の歯ピッチαは、ベルト個体差の上限におけるベルト張力の目標張力範囲に収まる角度調整範囲Δθ1より小さく設定されている。このため、ベルト個体差の上限においても、ベルト張力調整作業時において最後に実行されるラチェット41の1歯分の角度調整(α)により、ベルト張力の目標張力範囲に収まる角度調整範囲(Δθ1)内にて、ポール42がラチェット41の歯41aに係合して逆回転を規制する。したがって、上記した1歯分の角度調整にて、角度調整範囲(Δθ1)以上に調整されること(ベルト33の張力が過剰に増大調整されること)がなくて、ベルト33の張力調整を的確に行うことが可能である。
【0019】
上記した実施形態においては、図2および図3に示したように、ハウジング14の支持部14aに対して回転可能に組付けられるケーシング22の連結部22aにラチェット41を設けるように構成して実施したが、図5および図6に示したように、ハウジング14に対して回転可能に組付けられるケーシング22のフランジ部22bにラチェット141を設けるように構成して実施することも可能である。
【0020】
図5および図6に示した実施形態では、ケーシング22のフランジ部22bに対向する部位のハウジング14に凹部14bを設けて、この凹部14bにポール142を設けてビス143で固定し、ポール142をラチェット141に係合させて、支持部14aに対する連結部22aの相対回転をベルト33の張力が増大する回転方向に許容し逆回転を規制する回転方向規制手段A2を構成する。なお、図5および図6に示した実施形態では、ハウジング14の左右分割部にシールリングS1が介装され、ハウジング14の円形支持部14aとケーシング22の円形連結部22a間にシールリングS3が介装されている。
【0021】
図5および図6に示した実施形態のその他の構成は、上記した実施形態と実質的に同じであるため、その説明は省略する。このため、この実施形態においても、上記した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0022】
また、上記した各実施形態では、ハウジングに凹部とポールを設け、ケーシングにラチェットを設けて実施したが、本発明の実施に際しては、ハウジングにラチェットを設け、ケーシングに凹部とポールを設けて実施することも可能である。また、上記した各実施形態では、ハウジングに支持部(孔部)を設け、ケーシングに連結部(軸部)を設けて実施したが、本発明の実施に際しては、ハウジングに支持部(軸部)を設け、ケーシングに連結部(孔部)を設けて実施することも可能である。
【0023】
また、上記した各実施形態では、車幅方向に配置されるラック軸11に対して電動モータ20が並列的に配置されている電動パワーステアリング装置100に本発明を適用したが、これに限らず、本発明は、種々の電動パワーステアリング装置(例えば、車両前後方向に配置されるステアリングシャフトに対して電動モータが並列的に配置されている電動パワーステアリング装置)にも、同様にまたは適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0024】
10…ステアリング装置、11…ラック軸(ボールねじ軸)、12…ボールナット(回転部材)、13…軸受、14…ハウジング、14a…円形の支持部(孔部)、14a1…凹部、20…電動モータ、21…回転軸、22…ケーシング、22a…連結部(軸部)、22b…フランジ部、31…駆動プーリ、32…従動プーリ、33…ベルト、41…ラチェット、41a…各爪歯、42…ポール、43…ビス、51…ボルト、100…電動パワーステアリング装置、A…ベルト張力調整機構、A1…回転方向規制手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの回転軸と同軸上に結合した駆動プーリの回転力を、ステアリング装置の回転部材と同軸上に結合した従動プーリに、ベルトを介して伝達することによって、操舵アシストを行うように構成した電動パワーステアリング装置において、
前記ベルトの張力を調整するベルト張力調整機構が設けられていて、同ベルト張力調整機構は、前記ステアリング装置のハウジングに設けられた円形の支持部と、前記電動モータのケーシングに前記回転軸に対して偏心して設けられて前記支持部に対して回転可能に組付けられる連結部を備えるとともに、前記支持部に対する前記連結部の相対回転を前記ベルトの張力が増大する回転方向に許容し逆回転を規制する回転方向規制手段を備えていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記回転方向規制手段は、ラチェットとポールを備えたラチェット機構であって、前記ラチェットの歯ピッチは、ベルト個体差の上限におけるベルト張力の目標範囲に収まる角度調整範囲より小さく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95395(P2013−95395A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243147(P2011−243147)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】