説明

電動モータ及び電動モータの製造方法

【課題】磁石を安価に形成できるとともに、スムーズな回転を担保して効率や静粛性においても優れた性能を有する電動モータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】N極、S極が交互に配置された磁石6を有する電動モータ100において、磁石形状にアンバランス部分を残したまま、前記磁石6の周縁部の少なくとも一部に無着磁領域Anを形成し、周方向に隣接する一対のN極及びS極を合わせた着磁領域Amの形状が、他の一対のN極及びS極を合わせた着磁領域Amの形状と略等しくなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動ラジアルギャップモータ又は電動アキシャルギャップモータに関し、特に安価で騒音低減が可能なものに関するものである
【背景技術】
【0002】
一般的に磁石は、磁石材料を焼結した後、その全体に着磁を施して完成される。したがって、従来、電動モータに組み込まれる磁石のように、各磁石の性能に均一性が要求される場合は、焼結後、各磁石に研磨加工を施して均等な形状とし、磁石間の性能のばらつきを抑えるようにしている。
【0003】
ところが、研磨加工は、場合によっては多くの工数を発生し、モータ全体の価格に大きな影響を与える。例えば、特許文献1に示すようなアキシャルギャップモータでは、磁石の回転軸方向の厚みが薄く割れやすいため、その内周縁部及び外周縁部を回転軸方向から視て円弧状に研磨しようとすると、研磨に大きなコストがかかり、磁石が高価となって、モータの価格が増大する。
【0004】
かといって、磁石の内周縁部及び外周縁部を研磨加工しないと、その磁束分布が、磁石の形状誤差の影響を受けて歪を持った分布となり、トルクのアンバランスや効率低下、騒音の増大等を招く要因となる。
【0005】
そこで、特許文献2に記載のように、安価な磁石を使用しながらも静粛性を保つことのできるモータが提案されている。このアキシャルギャップモータは、分割された磁石において、磁石の内周面と外周面を、回転軸方向から視て略直線状に構成することで磁石の加工を簡易化するとともに、磁石を円周状に配置した際に、径方向に長さの長い磁石間部を磁極の中央になるように着磁をすることで磁束分布を正弦波状に近づけて低騒音化を図っている。
【特許文献1】特開2008−245363
【特許文献2】特開2008−48571
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、確かに特許文献2記載の磁石は、円弧状に加工した磁石と比較すると安価なものとなるが、その構成上、モータの磁極の数に相当する磁石片が必要となる。そうすると、多極化されたモータにおいては、磁石数の増大に伴う加工工数が、結局膨大なものとなって、価格面での問題が残る。
【0007】
本発明はかかる問題点を鑑みてなされたものであって、その主たる所期課題は、磁石を安価に形成できるとともに、スムーズな回転を担保して効率や静粛性においても優れた性能を有する電動モータ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る電動モータは、N極、S極が交互に配置された磁石を有する電動モータにおいて、磁石形状にアンバランス部分を残したまま、前記磁石の周縁部の少なくとも一部に無着磁領域を形成し、周方向に隣接する一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状が、他の一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状と略等しくなるように構成していることを特徴とする。なお、アンバランス部分とは、複数の磁石であれば、他とは異なる形状部分のことであり、1個の磁石であれば、回転対称形から外れた部分のことである。
【0009】
このようなものであれば、磁石の形状が異なっても着磁領域形状が等しいので、磁束分布として回転軸に対する回転対称性を保つことができる。したがって、トルクのアンバランスを生じることがない。また、実質的な研磨加工をすることなく、焼結したままの形状の磁石を用いることができるため、磁石の製造コストを大幅に削減できる。
【0010】
一方、磁石の形状にアンバランス部分があると、重量的なアンバランスが生じ、これが回転脈動や騒音の原因にもなりかねない。この問題を簡単な構成で解決するには、ロータ回転軸に対するロータの重量アンバランスを修正するアンバランス修正部を、磁石を支持する構造体に設けておくことが好ましい。アンバランス修正部は、構造体の一部を切削するか、または重量の付加によって簡単に形成することができるからである。
【0011】
本発明に係る電動モータの製造方法としては、磁石材料を焼結する焼結ステップと、実質的な研磨をすることなく磁石形状にアンバランス部分が存在した状態で、焼結した磁石材料の周縁の少なくとも一部を残して着磁し、周方向に隣接する一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状が、他の一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状と略等しくなる磁石を生成する部分着磁ステップとを有するものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成した本発明によれば、着磁領域を制御して各磁石の性能を均一化できるため、トルクバランスが保たれた高効率、低騒音の電動モータを提供できる。また、形状的に言えば、実質的な研磨加工をすることなく、焼結したままの形状の磁石を用いることができるため、低コスト化を大幅に促進できる。特にアキシャルギャップ型の電動モータでは、磁石が薄く、研磨加工に大きなコストがかかるため、研磨加工を省略できるという本発明の効果は極めて顕著なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るアキシャルギャップ型の電動モータ100の内部構造の一部を示す部分斜視図である。
アキシャルギャップ型電動モータ100とは、ステータ1とロータ2が回転軸の軸方向に所定のエアーギャップをもって配置されたものである。この実施形態でのステータ1は、図1に示すように、リング板状をなすヨーク3と、該ヨーク3の表面から回転軸方向に立設した複数のティース4と、該ティース4に巻回したコイル5とを具備している。一方、ロータ2は、前記ティース4の先端に面板部を対向配置した扇形板状をなす複数の永久磁石6(以下、単に磁石6とも言う)と、これら磁石6を支持する円板状のフレーム7(請求項における構造体)とを具備している。
【0015】
図2は、このアキシャルギャップ型電動モータ100における永久磁石6を回転軸方向から視た模式図である。なお、この図2では、特徴部分をわかりやすく説明するために、永久磁石6の数を前記図1のものとは異ならせてある。
【0016】
ところで、永久磁石を製造する場合は、まず、磁石材料を型枠に嵌めて焼結し、扇形薄板状のものを形成する。この状態での磁石材料は、個々の形状にかなりのばらつきがあり、形状的なアンバランス、つまり形状差異部分が生じている。
【0017】
しかしてこの実施形態では、その焼結した磁石材料に実質的な研磨を施すことなく、着磁機で磁場を与え、着磁する。ところで、実質的な研磨とは、磁石材料をその面板部と垂直な方向から視た場合の、周縁部、特に外周縁部及び内周縁部についての研磨のことである。外周縁部及び内周縁部の研磨は、磁石材料が薄いうえに、円弧状に研磨しなければならないことから、難しく、多大なコストがかかる。一方、磁石材料の面板部は、厚みを揃えるために研磨加工してよいし、その場合はそれほど多大なコストがかかるわけではない。
【0018】
着磁においては、焼結した磁石材料の内周縁部又は外周縁部の少なくとも一部を残して着磁し、各磁石6に形成された磁極N極及びS極に着磁された各着磁領域Amの形状が互いに略等しくなるようにする。図2中、符号Anは無着磁領域を示している。ここでは、例えば磁石6毎にN極又はS極を1つだけ着磁し、かつ各磁極領域Amの形状がN極、S極を問わず、互いに等しくなるようにする。
【0019】
そして、各磁極領域Amが回転対称となり、かつ交互にN極及びS極が現れるように、前記フレーム7の面板部に各磁石6を取り付ける。
【0020】
一方、このようにフレーム7に各磁石6を取り付けた状態では、確かに磁極形状は回転対称となっているが、磁石6の形状は、研磨が施されていないのであるからアンバランス部分が存在しており、そのために、ロータ回転軸を中心とした重量的なアンバランスが生じている。
【0021】
そこでこの実施形態では、前記フレーム7に重量的なアンバランスを解消するためのアンバランス修正部7aを設けている。より具体的には、図3に示すように、フレーム7の外周縁部を磁石6よりも外側に張り出すように構成し、磁石6の形状の大きい部分に対応する部位について、フレーム7の張り出した外周縁部を一部切削してアンバランス修正部7aとしている。その他に、磁石6の形状の小さい部分についてフレーム7の外周縁部に重りを付加するなどしてアンバランス修正部としても構わないし、外周縁部のみならず、フレーム7を部分的に薄肉にしたり厚肉にしたりしてアンバランス修正部としてもよい。
【0022】
次に、磁石6の形状のバラツキに対する磁束分布の歪みについて、磁界解析を用いて確認を行ったので、その結果につき説明する。
【0023】
解析に使用したモデルの概略は表1に示す仕様で、解析は、図4に示すように、モータ全体の1/12の部分モデルで解析を行った。より具体的には、図4中の寸法変更磁石6のみの寸法を変更し、その時磁束分布に含まれる高調波成分を求めた。モデル1〜モデル4は、寸法変更磁石6の寸法、すなわち着磁領域Amの寸法を表している。なお、解析では3相モータを用いている。
【0024】
モデル1は、寸法変更磁石6が他の磁石6と形状が同じ、つまり着磁領域Amが同じであり、本実施形態に係る着磁手法を適用した場合のものである。一方、モデル2〜モデル4の寸法変更磁石6は、他の磁石6と寸法が異なり、着磁領域Amのアンバランスが生じている場合である。
【表1】

【0025】
モデル1とモデル3のU相巻線に流れる磁束の解析結果を図5に示す。モデル3は形状の異なる磁石6を含んでいる影響を受けて0.5次の高調波成分を含んでいることが確認できる。モデル1からモデル4のU相巻線に流れる磁束の1次成分に対する0.5次高調波成分の含有率を図6に示す。図6に示す様に、本実施形態に係る着磁手段を適応しない場合は磁束分布に高調波成分を含んでしまい、騒音悪化の要因となるが、本実施形態に係る着磁手段を適用することで磁石6の軸方向周面の加工形状による磁束分布の高調波成分を除去可能となり、騒音悪化を招かないモータが実現可能となる。また、本着磁方法を適応することで、軸方向周面の研磨加工を施さない磁石6を使用することが可能となり、安価なモータが提供可能となる。
【0026】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、図7はスキュー着磁を施したモータの例である。図8は台形型の着磁をした例である。着磁波形(スキュー、台形型、楕円型)に関係なく、本着磁方法は有効なものである。
【0027】
図9は8極のロータ2を4個の磁石6で構成した例である。モータの極数、磁石6の分割数に関係なく、本着磁方法は有効なものである。
図10はラジアルギャップ型でインナーロータ2型のモータの例である。本着磁方法はモータの構造(アキシャルヤップ、ラジアルギャップ(SPM,IPM))に関係なく有効なものである。
【0028】
更に言えば、前記実施形態のように、各磁極の着磁領域形状を全て等しくする必要は必ずしもなく、周方向に隣接する一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状を、他の一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状と略等しくなるようにしても、前記実施形態同様の効果を奏し得る。この態様としては、例えば、隣接するN極及びS極の着磁領域形状を隣接線を中心とした線対称形状にするなどが考えられる。
【0029】
その他、本発明は、前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態における電動モータの内部構造を示す部分斜視図。
【図2】同実施形態の電動モータにおいて、回転軸方向から永久磁石とその着磁領域を視た模式図。
【図3】同実施形態の電動モータにおいて、回転軸方向から永久磁石とフレームを視た模式図。
【図4】同実施形態における解析モデルを示す部分斜視図。
【図5】前記解析モデルの解析結果を示すグラフ。
【図6】前記解析モデルの解析結果を示すグラフ。
【図7】本発明の他の実施形態の電動モータにおいて、回転軸方向から永久磁石とその着磁領域を視た模式図。
【図8】本発明の他の実施形態の電動モータにおいて、回転軸方向から永久磁石とその着磁領域を視た模式図。
【図9】本発明の他の実施形態の電動モータにおいて、回転軸方向から永久磁石とその着磁領域を視た模式図。
【図10】本発明の他の実施形態の電動モータにおいて、永久磁石とその着磁領域を示す模式的斜視図。
【符号の説明】
【0031】
100・・・電動モータ
6・・・磁石
An・・・無着磁領域
Am・・・着磁領域
7・・・構造体
7a・・・アンバランス修正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N極、S極が交互に配置された磁石を有する電動モータにおいて、磁石形状にアンバランス部分を残したまま、前記磁石の周縁部の少なくとも一部に無着磁領域を形成し、周方向に隣接する一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状が、他の一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状と略等しくなるように構成していることを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
前記磁石が該磁石を支持する構造体とともにロータを構成している電動モータにおいて、ロータ回転軸に対するロータの重量アンバランスを修正するアンバランス修正部が、前記構造体に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動モータ。
【請求項3】
N極、S極が交互に配置された磁石を有する電動モータの製造方法において、
磁石材料を焼結する焼結ステップと、
磁石形状にアンバランス部分が存在した状態で、焼結した磁石材料の周縁の少なくとも一部を残して着磁し、周方向に隣接する一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状が、他の一対のN極及びS極を合わせた着磁領域形状と略等しくなる磁石を生成する部分着磁ステップとを有することを特徴とする電動モータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−124670(P2010−124670A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298707(P2008−298707)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】