説明

電動倍力装置

【課題】電動倍力装置において、ブレーキ液の漏洩による電動モータ及びボール−ネジ機構の侵食を防止する。
【解決手段】 ブレーキペダルを操作して、入力ロッド27によって入力ピストン26を前進させると、その入力に応じて電動モータ38を作動させ、ボール−ネジ機構37によってプライマリピストン8を前進させ、マスタシリンダ本体2のプライマリ及びセカンダリ圧力室10、11を加圧して倍力制御を行う。プライマリピストン8と入力ピストン26との間のシール部に第1シール56及び第2シール57を設け、これらの間を排出通路58、24を介して外部へ開放する。第1シール56から漏れたブレーキ液は、第2シール57によってシールされ、排出通路58、24によって外部に排出されるので、電動モータ38及びボール−ネジ機構37を侵食することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の液圧式ブレーキ装置に装着されて電動モータによって倍力制御を行う電動倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、自動車の液圧式ブレーキ装置において、運転者によるブレーキ操作等の入力に対して、電動モータを作動させてサーボ力を付与することにより、マスタシリンダで発生する液圧を倍力制御する電動倍力装置が知られている。
【特許文献1】特開平10−138909号公報
【0003】
上記特許文献1に記載された電動倍力装置は、ブレーキペダルに連結された入力ピストン(受圧面積小)と、内周部に入力ピストンが嵌合されて外周部がマスタシリンダに嵌合する円筒状のブースタピストン(受圧面積大)と、ブースタピストンにボール−ネジ機構(回転−直動変換機構)を介して連結された電動モータと、ブレーキペダルへの入力及びマスタシリンダの出力等の制御パラメータを検出する各種センサと、これらのセンサの検出に基づいて電動モータの作動を制御するコントローラとを備えている。そして、運転者のブレーキペダル等の操作に応じて、電動モータを作動させてブースタピストンに推力(サーボ力)を付与してマスタシリンダを加圧する。このとき、加圧されたマスタシリンダの液圧の一部を入力ピストンを介してブレーキペダルにフィードバックする。
【0004】
また、上記特許文献1に記載された電動倍力装置では、電動モータ及びボール−ネジ機構をマスタシリンダの外周部に重ねて配置することによって小型化及び省スペース化を図っている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された電動倍力装置では、次のような問題がある。一般的にブレーキ液は、潤滑剤や合成樹脂等に対して侵食性を有しているため、万一、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシールが失陥した場合、マスタシリンダから漏れたブレーキ液がボール−ネジ機構に流入して潤滑剤を劣化させて潤滑性を損ねたり、電動モータの内部に侵入してコイルの被覆を損傷したりする虞がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ブレーキ液の漏洩による侵食を防止することができる電動倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、マスタシリンダの圧力室を加圧する円筒状のブースタピストンと、該ブースタピストン内に摺動可能かつ液密的にシール部を挟んで挿入され、ブレーキペダルの操作によって前記マスタシリンダの圧力室を加圧する入力ピストンと、電動モータと、該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ブースタピストンに推力を付与する回転−直動変換機構とを備え、前記入力ピストンへの入力に応じて前記電動モータの作動を制御して前記ブースタピストンの推力を調整する電動倍力装置において、
前記ブースタピストンと前記入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液をブレーキ液によって侵食される部分に侵入しないように排出する排出通路を設けたことを特徴とする。
請求項2の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項1の構成において、前記シール部は、第1シールからなり、前記ブースタピストンの軸方向で前記圧力室から離れる方向に前記第1シールに対して間隔をもって第2シールが設けられ、前記ブースタピストンと該ブースタピストンの外周部を案内する案内部との間には、2つのシール手段が軸方向に間隔をもって設けられており、前記排出通路は、前記第1シールと第2シールとの間に連通し、かつ、前記2つのシール手段の間の空間を介して外部へ延ばされていることを特徴とする。
請求項3の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項2の構成において、前記第1及び第2シールは、前記ブースタピストンに形成された2つの内周溝内にそれぞれ配置され、該2つの内周溝は、前記ブースタピストンの内周面をリング状部材によって分割することによって形成されていることを特徴とする。
請求項4の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項2の構成において、前記第1及び第2シールの少なくとも一方は、前記ブースタピストンの前記入力ピストンの挿通部の端部に当接する当接部材に設けられていることを特徴とする。
請求項5の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項2の構成において、前記ブースタピストンは、その軸方向に分割された構造で、前記排出通路は、その分割面に沿って形成されていることを特徴とする。
請求項6の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項1の構成において、前記ブースタピストンは、前記回転−直動変換機構の直動部材に挿入され、前記直動部材と該直動部材の外周を覆うケース部との間をシールするシール部材が設けられ、前記排出通路は、前記シール部から漏れたブレーキ液を前記シール部材の外周側を通して外部へ排出するように設けられていることを特徴とする。
請求項7の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項6の構成において、前記ブースタピストンの端部には、前記直動部材との連結部を超えて延びる円筒状の延出部が設けられ、前記排出通路は、前記シール部から漏れたブレーキ液を前記延出部を介して前記シール部材の外周側に導くようになっていることを特徴とする。
請求項8の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項1乃至7のいずれかの構成において、前記排出通路の出口は車両のエンジンルーム内に配置されていることを特徴とする。
請求項9に係る発明は、マスタシリンダの圧力室を加圧する円筒状のブースタピストンと、該ブースタピストン内に摺動可能かつ液密的にシール部を挟んで挿入され、ブレーキペダルの操作によって前記マスタシリンダの圧力室を加圧する入力ピストンと、電動モータと、該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ブースタピストンに推力を付与する回転−直動変換機構とを備え、前記入力ピストンへの入力に応じて前記電動モータの作動を制御して前記ブースタピストンの推力を調整する電動倍力装置において、
前記ブースタピストンには、前記ブースタピストンと前記入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液を貯留してブレーキ液によって侵食される部分に侵入しないようにする貯留手段が設けられていることを特徴とする。
請求項10の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項9の構成において、前記貯留手段は、前記ブースタピストンの開口部を覆う弾性部材であることを特徴とする。
請求項11の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項9の構成において、前記貯留手段は、ブレーキ液を吸収して貯留する吸収体であることを特徴とする。
請求項12の発明に係る電動倍力装置は、上記請求項項1乃至11のいずれかの構成において、前記マスタシリンダにブレーキ液を授受するリザーバにブレーキ液量を監視する監視手段が設けられ、該監視手段の監視によって前記シール部の失陥を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明に係る電動倍力装置によれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液は、排出通路を通して排出されてブレーキ液によって侵食される部分に侵入しないので、信頼性を高めることができる。
請求項2の発明に係る電動倍力装置によれば、第1シールから漏れたブレーキ液は、第2シールによってシールされ、排出通路によって2つのシール手段の間の空間を介して外部に排出される。
請求項3の発明に係る電動倍力装置によれば、2つの内周溝を容易に形成することができ、第1及び第2シールを容易に組付けることができる。
請求項4の発明に係る電動倍力装置によれば、第1及び第2シールを容易に組付けることができる。
請求項5の発明に係る電動倍力装置によれば、第1及び第2シールを容易に組付けることができ、排出通路を容易に形成することができる。
請求項6の発明に係る電動倍力装置によれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液は、シール部材によって直動部材とケース部との間への侵入が防止され、排出通路を通して外部へ排出される。
請求項7の発明に係る電動倍力装置によれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液は、ブースタピストンの内部から延長部を通って外部に排出される。
請求項8の発明に係る電動倍力装置によれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液は、エンジンルーム内に排出されるので、車室内を汚す虞がない。
請求項9の発明に係る電動倍力装置によれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液は、貯留手段によって貯留されてブレーキ液によって侵食される部分に侵入しないので、信頼性を高めることができる。
請求項10の発明に係る電動倍力装置によれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液は、弾性部材によって貯留される。
請求項11の発明に係る電動倍力装置によれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液は、吸収体によって貯留される。
請求項12の発明に係る電動倍力装置によれば、監視手段によってシール部の失陥を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る電動倍力装置1は、タンデム型マスタシリンダに組込まれるものであって、略有底円筒状のマスタシリンダ本体2(マスタシリンダ)の開口端に結合されるハウジング3を備えている。ハウジング3は、底部に開口部を有する略有底円筒状のハウジング本体4と、マスタシリンダ本体2の開口端に連結される略円筒状の案内部材5(案内部)と、案内部材5をハウジング本体4の底部の開口部に取付けるフロントカバー6と、ハウジング本体4の開口端部に取付けられるリヤカバー7とで構成されている。
【0010】
マスタシリンダ本体2は、ハウジング3の案内部材5と結合して1つのシリンダボアを形成し、このシリンダボアには、直列に配置された略有底円筒状のプライマリピストン8(ブースタピストン)及びセカンダリピストン9が摺動可能に嵌装され、これらの間にプライマリ圧力室10(圧力室)が形成され、セカンダリピストン9とマスタシリンダ本体2の底部との間にセカンダリ圧力室11(圧力室)が形成されている。マスタシリンダ本体2の側壁には、プライマリ圧力室11に連通するプライマリポート12及びセカンダリ圧力室11に連通するセカンダリポート13が設けられており、プライマリ及びセカンダリポート12、13には、それぞれ各車輪に設けられたブレーキ装置を作動させるホイールシリンダ(図示せず)が接続される。
【0011】
マスタシリンダ本体2のシリンダボアとプライマリピストン8との間は、軸方向に間隔をもって配置された一対のピストンシール14、15によってシールされ、これらのピストンシール14、15の間にプライマリリリーフポート16が開口されている。同様に、マスタシリンダ本体2のシリンダボアとセカンダリピストン9との間は、軸方向に間隔をもって配置された一対のピストンシール17、18によってシールされ、これらの間にセカンダリリリーフポート19が開口されている。プライマリ及びセカンダリリリーフポート16、19には,ブレーキ液を貯留するリザーバ20が接続されている。そして、プライマリピストン8が原位置(非制動位置)にあるとき、その側壁に設けられたピストンポート21及びプライマリリリーフポート16によってプライマリ圧力室10がリザーバ20に接続され、プライマリピストン8が前進すると、その側壁によってプライマリリリーフポート16とピストンポート21との間が遮断されてプライマリ圧力室10が加圧される。同様に、セカンダリピストン9が原位置(非制動位置)にあるとき、その側壁に設けられたピストンポート22及びセカンダリリリーフポート19によってセカンダリ圧力室11がリザーバ20に接続され、セカンダリピストン9が前進すると、その側壁によってセカンダリリリーフポート19とピストンポート22との間が遮断されてセカンダリ圧力室11が加圧される。
【0012】
案内部材5には、一方のピストンシール15(シール手段)との間に軸方向に間隔をもって設けられてプライマリピストン8との間をシールするシール部材23(シール手段)が設けられている。そして、ピストンシール15とシール部材23との間の空間Sは、マスタシリンダ本体2と案内部材5との間に形成された排出通路24を介してフロントカバー6の前方の外部に開放されている。
【0013】
プライマリピストン8の底部及びプライマリピストン8の内部に嵌合されたガイド部材25には、入力ピストン26が摺動可能かつ液密的に挿入されている。入力ピストン26は、プライマリ圧力室10に対するの受圧面積がプライマリピストン8に対して充分小さくなるように充分小径となっている。プライマリピストン8から突出された入力ピストン26の後端部には、入力ロッド27の先端部が連結されており、入力ロッド27の基端側は、リヤカバー7に形成された円筒状のケース部28に挿通されて外部へ延出され、その基端部にはブレーキペダル(図示せず)が連結されるようになっている。
【0014】
プライマリピストン8の後端部は、円筒状の延長部材29が連結されてリヤカバー7のケース部28の内部まで延ばされている。延長部材29の後端部には、外側フランジ30が形成されている。セカンダリピストン9は、マスタシリンダ本体2の底部との間に設けられた戻しばね31によって付勢され、プライマリピストン8は、セカンダリピストン9との間に設けられた戻しバネ32及び案内部材5の後端部と延長部材29の外側フランジ部30との間に設けられた戻しバネ33によって原位置へ付勢されている。また、入力ピストン26は、プライマリピストン8の底部との間に設けられたバネ34及び延長部材29のバネ受35との間に設けられたバネ36によってプライマリピストン8に対して軸方向に弾性的に保持されている。
【0015】
ハウジング3内には、ボール−ネジ機構37(回転−直動変換機構)と、電動モータ38と、レゾルバ39とが設けられている。ボール−ネジ機構37は、リヤカバー7のケース部28内に挿入されて軸方向に移動可能に案内され、内部にプライマリピストン8の後部及び延長部材29が挿入された円筒状の直動部材40と、直動部材40に外嵌された円筒状の回転部材41と、これらの間に形成された螺旋状のボール溝40a、41aに装填された複数のボール43とを備えている。ボール溝40a、41a及びボール43には潤滑剤としてグリスが塗布されている。直動部材40は、後端部がリヤカバー7のケース部28から外部に延出されており、延出部44に形成されたスリット45に、ケース部28の端部に形成された爪部46が嵌合することにより、軸方向の移動を可能にすると共にその回転を規制している。直動部材40の内周部には、プライマリピストン8に連結された延長部材29の外側フランジ部30に当接する内側フランジ部47が形成されている。爪部46は、直動部材40及び入力ロッド27の後退位置を規定している。リヤカバー7のケース部28と入力ロッド27の後端部との間には、蛇腹状のダストカバー48が装着されて、ハウジング3内を密封して異物の侵入を防止している。
【0016】
電動モータ38は、ハウジング3に固定されたステータ49と、ハウジング3に軸受50、51によって回転可能に支持されたロータ52とを備え、ロータ52は、ボール−ネジ機構37の回転部材41に連結されている。そして、ステータ49のコイル53への通電によってロータ52を回転させ、ボール−ネジ機構37の回転部材41を回転させることにより、ボール43がボール溝内を転動して直動部材40が軸方向に沿って直線運動する。このとき、レゾレバ39によって電動モータ38の回転変位(位置)を検出する。直動部材40が前進すると、直動部材40の内側フランジ47が延長部材29の外側フランジ30を押圧してプライマリピストン8を前進させる。
【0017】
次に、プライマリピストン8と入力ピストン26との間のシール構造について図2を参照して説明する。入力ピストン26が挿通されたプライマリピストン8の底部の開口部には2つの内周溝54、55が軸方向に間隔をもって設けられている。一方の内周溝54は、プライマリピストン8内に嵌合されたガイド部材25の端面によって形成されている。内周溝54、55には、それぞれ第1及び第2シール56、57(Oリング)が装着されてプライマリピストン8と入力ピストン26との間をシールしている。プライマリピストン8の底部には、これらの内周溝54(第1シール56)と内周溝55(第2シール57)との間をピストンシール15とシール部材23との間の空間Sに連通させる排出通路58が設けられている。
【0018】
そして、電動倍力装置1は、ハウジング3のリヤカバー7に立設されたスタットボルト59によって、車両のエンジンルームと車室との隔壁であるダッシュパネルWのエンジンルーム側に取付けられ、リヤカバーのケース部28がダッシュパネルWに挿通されて車室側へ延ばされ、入力ロッド27にブレーキペダル(図示せず)が連結される。そして、入力ロッド27の変位を検出する変位センサ、プライマリ及びセカンダリ圧力室10、11の圧力を検出する圧力センサ等の各種センサ(図示せず)、並びに、これらのセンサ及びレゾルバ39の検出に基づいて電動モータ38の回転を制御するコントローラ(図示せず)が設けられる。
【0019】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
ブレーキペダル(入力ロッド27)の操作によって入力ピストン26を前進させると、コントローラからの制御電流によって電動モータ38が回転し、ボール−ネジ機構37を介してプライマリピストン8を前進させて入力ピストン26に追従させ、プライマリ及びセカンダリ圧力室10、11を加圧する。これにより、ブレーキペダルの操作に応じて電動モータ38によってサーボ力を付与して倍力制御を行う。このとき、プライマリ圧力室10の圧力が入力ピストン26(受圧面積小)を介して入力ロッド27(ブレーキペダル)にフィードバックされる。また、各種センサの検出に基づいて、コントローラによって電動モータ38の回転を適宜制御することにより、ブレーキアシスト制御、回生協調制御、車両追従制御等のブレーキ制御を実行することができる。
【0020】
プライマリピストン8と入力ピストン26との間の第1シール56に漏れが生じた場合、第1シール56から漏れたブレーキ液は、第2シール57によってプライマリピストン8の後方への流出が防止され、排出通路58、ピストンシール15とシール部材23との間の空間S及び排出通路24を通ってフロントカバー6の前方のエンジンルーム内へ排出される。これにより、侵食性を有するブレーキ液がプライマリピストン8の後方のボール−ネジ機構37及び電動モータ38に侵入するのを防止することができ、電動倍力装置の信頼性を高めることができる。
【0021】
次に、上記第1実施形態の変形例について、図3乃至図5を参照して説明する。なお、以下の説明において上記第1実施形態に対して同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0022】
図3に示す変形例では、第1及び第2シール56、57を装着する2つの内周溝54、55は、プライマリピストン8に形成された1つの溝をリング部材59によって分割することによって形成されている。これにより、内周溝54、55の加工性及び第1、第2シール56、57の組付性を向上させることができる。上記リング部材59には、複数の径方向孔59aが設けられているが、これに限ることなく、リング部材59の側面にリング部材59の内外周を連通する溝を設けるようにしてもよい。
【0023】
図4に示す変形例では、プライマリピストン8とバネ34との間に、プライマリピストン8の底部に当接する段付のリング状のバネ受60(当接部材)を介装し、このバネ受60の内周面に形成された溝部とプライマリピストン8の底部の端面によって第2シール57が装着される内周溝55が形成されている。これにより、内周溝54、55の加工性及び第1、第2シール56、57の組付性を向上させることができる。なお、ガイド部材25に内周溝を形成して、この内周溝に第1シール56を装着するようにしてもよく、これらの第1、第2シール56、57の装着は、いずれか一方を実施してもよいし、両方を実施してもよい。
【0024】
図5に示す変形例では、プライマリピストン8は、その底部で軸方向前後に2分割されており、第1シール56の内周溝54が前方のプライマリピストン8Aに形成され、第2シール57の内周溝が後方のプライマリピストン8Bに形成され、排出通路58が前後のプライマリピストン8の間の分割面に沿って形成されている。これにより、排出通路を容易に形成することができる。
【0025】
次に、本発明の第2実施形態について、図6を参照して説明する。なお、以下の説明において上記第1実施形態に対して同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0026】
図6に示すように、本実施形態では、プライマリピストン8の後部に連結された延長部材29の後端部に、ボール−ネジ機構37の直動部材40の内側フランジ47の内周に挿入されるように延出される円筒状の延出部61が形成されている。リヤカバー7のケース部28の側壁の下部に、軸方向に貫通する排出通路62が形成されている。また、リヤカバー7の側壁の下部に、ダッシュパネルWに取付けられる底部の内面に沿って外部に解放する排出通路63が設けられている。そして、直動部材40のボール溝の後方とリヤカバー7のケース部28との間をシールするシール部材64が設けられている。
【0027】
このように構成したことにより、プライマリピストン8と入力ピストン26との間にブレーキ液の漏れが生じた場合、漏れたブレーキ液は、プライマリピストン8の内部から延長部材29の内部を流れ、直動部材40の後端部のスリット45を通ってケース部28の後方へ流れる。このとき、延出部61及びシール部材64によってブレーキ液がボール−ネジ機構37の内部へ侵入するのを防止し、ダストカバー48によってブレーキ液が車室内へ侵入するのを防止する。そして、ケース部28の後方へ流れたブレーキ液は、ケース部28の端面からシール部材64の外周側の排出通路62、63を介して外部(エンジンルーム内)に排出される。このようにして、侵食性を有するブレーキ液がボール−ネジ機構37、電動モータ38及び車室内に侵入するのを防止することができ、電動倍力装置の信頼性を高めることができる。
【0028】
次に、上記第2実施形態の変形例について、図7及び図10を参照して説明する。以下の説明において、上記第2実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0029】
図7及び図10に示す変形例では、排出通路62の代わりに、ケース部28と直動部材40との間に円筒状のスリーブ65が回転可能に設けられており、スリーブ65と直動部材40との間がシール部材64によってシールされている。スリーブ65の外周部には、先端部がケース部28の内周面に摺接する螺旋状のリップ部材66が突出されている。また、スリーブ65は、基端のフランジ部が回転部材41の端部に連結されている。そして、スリーブ65は、回転部材41と共に回転して、リップ部材66でケース部28の後方に溜まったブレーキ液を掻き取って排出通路63から排出する。これにより、侵食性を有するブレーキ液がボール−ネジ機構37、電動モータ38及び車室内に侵入するのを防止することができ、電動倍力装置1の信頼性を高めることができる。
【0030】
本発明の第3実施形態について、図8を参照して説明する。なお、以下の説明において上記第1実施形態に対して同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0031】
図8に示すように、本実施形態では、プライマリピストン8の後部に連結された延長部材29のバネ受35と入力ロッド27との間に膜状の弾性部材からなるシールカバー67が設けられて、プライマリピストン8の後部の開口部がシールカバー67によって密封されている。これにより、プライマリピストン8と入力ピストン26との間にブレーキ液の漏れが生じた場合、漏れたブレーキ液をプライマリピストン8の内部に貯留することができ、侵食性を有するブレーキ液がボール−ネジ機構37、電動モータ38及び車室内に侵入するのを防止することができ、電動倍力装置1の信頼性を高めることができる。
【0032】
次に、上記第3実施形態の変形例について、図9を参照して説明する。以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0033】
図9に示す変形例では、直動部材40の後端部に、ブレーキ液を吸収貯留する高分子吸収体からなる環状の吸収材68が取付けられ、吸収材68に入力ロッド27が挿通されている。これにより、プライマリピストン8と入力ピストン26との間にブレーキ液の漏れが生じた場合、漏れたブレーキ液を吸収材68によって吸収貯留することができ、侵食性を有するブレーキ液がボール−ネジ機構37、電動モータ38及び車室内に侵入するのを防止することができ、電動倍力装置1の信頼性を高めることができる。
【0034】
上記第1乃至第3実施形態及びその変形例において、リザーバの液量を検出する液量センサ(監視手段)(図示せず)を設け、リザーバの液量の減少を監視することにより、第1及び第2シール56、57の失陥を検出することができる。
【0035】
また、上記第1乃至第3実施形態では、回転−直動変換機構としてボール−ネジ機構37を用いているが、そのほかの公知の回転−直動変換機構を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す電動倍力装置の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図3】図1に示す電動倍力装置の第1変形例の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図1に示す電動倍力装置の第2変形例の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】図1に示す電動倍力装置の第3変形例の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電動倍力装置の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図7】図6に示す電動倍力装置の変形例の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図9】図8に示す電動倍力装置の変形例の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図10】図7に示す電動倍力装置のスリーブ部材を拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 電動倍力装置、2 マスタシリンダ本体(マスタシリンダ)、8 プライマリピストン(ブースタピストン)、10 プライマリ圧力室(圧力室)、11 セカンダリ圧力室(圧力室)、24 排出通路、26 入力ピストン、37 ボール−ネジ機構(回転−直動変換機構)、38 電動モータ、58 排出通路、56 第1シール、57 第2シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダの圧力室を加圧する円筒状のブースタピストンと、該ブースタピストン内に摺動可能かつ液密的にシール部を挟んで挿入され、ブレーキペダルの操作によって前記マスタシリンダの圧力室を加圧する入力ピストンと、電動モータと、該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ブースタピストンに推力を付与する回転−直動変換機構とを備え、前記入力ピストンへの入力に応じて前記電動モータの作動を制御して前記ブースタピストンの推力を調整する電動倍力装置において、
前記ブースタピストンと前記入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液をブレーキ液によって侵食される部分に侵入しないように排出する排出通路を設けたことを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
前記シール部は、第1シールからなり、前記ブースタピストンの軸方向で前記圧力室から離れる方向に前記第1シールに対して間隔をもって第2シールが設けられ、前記ブースタピストンと該ブースタピストンの外周部を案内する案内部との間には、2つのシール手段が軸方向に間隔をもって設けられており、前記排出通路は、前記第1シールと第2シールとの間に連通し、かつ、前記2つのシール手段の間の空間を介して外部へ延ばされていることを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項3】
前記第1及び第2シールは、前記ブースタピストンに形成された2つの内周溝内にそれぞれ配置され、該2つの内周溝は、前記ブースタピストンの内周面をリング状部材によって分割することによって形成されていることを特徴とする請求項2に記載の電動倍力装置。
【請求項4】
前記第1及び第2シールの少なくとも一方は、前記ブースタピストンの前記入力ピストンの挿通部の端部に当接する当接部材に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電動倍力装置。
【請求項5】
前記ブースタピストンは、その軸方向に分割された構造で、前記排出通路は、その分割面に沿って形成されていることを特徴とする請求項2に記載の電動倍力装置。
【請求項6】
前記ブースタピストンは、前記回転−直動変換機構の直動部材に挿入され、前記直動部材と該直動部材の外周を覆うケース部との間をシールするシール部材が設けられ、前記排出通路は、前記シール部から漏れたブレーキ液を前記シール部材の外周側を通して外部へ排出するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項7】
前記ブースタピストンの端部には、前記直動部材との連結部を超えて延びる円筒状の延出部が設けられ、前記排出通路は、前記シール部から漏れたブレーキ液を前記延出部を介して前記シール部材の外周側に導くようになっていることを特徴とする請求項6に記載の電動倍力装置。
【請求項8】
前記排出通路の出口は車両のエンジンルーム内に配置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電動倍力装置。
【請求項9】
マスタシリンダの圧力室を加圧する円筒状のブースタピストンと、該ブースタピストン内に摺動可能かつ液密的にシール部を挟んで挿入され、ブレーキペダルの操作によって前記マスタシリンダの圧力室を加圧する入力ピストンと、電動モータと、該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ブースタピストンに推力を付与する回転−直動変換機構とを備え、前記入力ピストンへの入力に応じて前記電動モータの作動を制御して前記ブースタピストンの推力を調整する電動倍力装置において、
前記ブースタピストンには、前記ブースタピストンと前記入力ピストンとの間のシール部から漏れたブレーキ液を貯留してブレーキ液によって侵食される部分に侵入しないようにする貯留手段が設けられていることを特徴とする電動倍力装置。
【請求項10】
前記貯留手段は、前記ブースタピストンの開口部を覆う弾性部材であることを特徴とする請求項9に記載の電動倍力装置。
【請求項11】
前記貯留手段は、ブレーキ液を吸収して貯留する吸収体であることを特徴とする請求項9に記載の電動倍力装置。
【請求項12】
前記マスタシリンダにブレーキ液を授受するリザーバにブレーキ液量を監視する監視手段が設けられ、該監視手段の監視によって前記シール部の失陥を検出することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の電動倍力装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−296782(P2008−296782A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146029(P2007−146029)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】